2025 年 45 巻 p. 81-89
目的:スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度との関連について,経験年数別に検証した.
方法:東北地方のA県ならびに政令指定都市B市内の12病院に勤務する看護師1,053名を対象に,ワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントについて質問紙調査を行った.そのうちスタッフ看護師を対象に,階層的重回帰分析を行った.
結果:スタッフ看護師397名から回答を得た.スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントには構造的エンパワメントの下位尺度のうち,経験年数3年以下では情報と支援,4~9年では機会,10年以上では資源とインフォーマルな権限が有意に関連していた.
結論:スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントの向上に寄与する構造的エンパワメントの下位尺度は経験年数別で異なるため,経験年数に応じた方策が求められる.
Purpose: In this study, we aimed to examine the relationship between work engagement and subscales of structural empowerment among non-managerial nurses, by years of experience.
Method: A questionnaire survey was conducted on work engagement and structural empowerment among 1,053 nurses working at 12 hospitals in Prefecture A and ordinance-designated city B in the Tohoku region of Japan. A hierarchical multiple regression analysis was conducted on the non-managerial nurses.
Results: The study included 397 non-managerial nurses. Among the subscales of structural empowerment, “Information” and “Support” were significantly related to work engagement among nurses with less than three years of experience, “Opportunity” was significantly related to work engagement among nurses with four to nine years of experience, and “Resources” and “Informal Power” were significantly related to work engagement among nurses with more than ten years of experience.
Discussion: The subscales of structural empowerment that contribute to improving the work engagement of non-managerial nurses differ depending on the number of years of experience. Therefore, measures tailored to the number of years of experience are required.
本邦の看護師における2023年の正規雇用看護職員の離職率は,常勤11.8%,新卒10.2%(前年常勤11.6%,新卒10.3%)で推移している.また,2023年度に傷病による7日間以上の連続休暇を取得した正規雇用看護職員がいたと回答した病院の割合は85.7%で,そのうちメンタルヘルス不調者がいたと回答した病院の割合は74.3%と報告されており(日本看護協会,2024),看護師のメンタルヘルスに対する方略は喫緊の課題といえる.厚生労働省は,看護師のメンタルヘルス対策として,仕事の質と量,職場の人間関係および職場の組織,人事労務管理体制といった職場環境を評価して問題点を把握するとともに,その改善を図る必要性を示している(厚生労働省,2013).
従来の職場環境の改善は,精神的健康を阻害する職場のストレス要因を同定し低減することで精神的不調の予防を図ろうとするものであったが,近年の職場のメンタルヘルス活動では,精神的健康のよりポジティブな側面の向上を図ることが潮流となっている(島津,2016).
ここで,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態を示す概念のひとつに,ワーク・エンゲイジメントがある.ワーク・エンゲイジメントは,活力,熱意,没頭によって特徴づけられ,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知(Schaufeli et al., 2002)と定義され,ワーク・エンゲイジメントが高い看護師ほど,身体症状やうつ症状が少ない(Laschinger, 2005)ことが知られている.また,仕事の要求度とコントロールのバランスがとれていない場合,従業員は仕事にストレスを感じるとともに,上司・同僚のサポートや仕事の裁量権,パフォーマンスのフィードバックといった仕事の資源も活用できなくなり,ワーク・エンゲイジメントを低下させる.その一方で,仕事の資源が豊富にある場合は,仕事の要求度の高さに関わらず,ワーク・エンゲイジメントが高まることが指摘されており(Bakker et al., 2007),職場環境といった仕事の資源が重要視されている.
そこで,仕事への前向きさを促進する職場環境の概念のひとつに,構造的エンパワメントがある.構造的エンパワメントは,個人の先天的な性格的素因よりも,職場における社会的構造が働く人の態度や行動に大きく影響を及ぼすというKanter(1993/1995)の主張を基にLaschinger(1996)が提唱した概念で,働く人に機会と権限を与えて,潜在する活力や能力を引き出す職場環境と定義される.また,構造的エンパワメントは機会,支援,情報,資源,フォーマルな権限,インフォーマルな権限の6つの下位尺度で構成されており,それぞれを得点化することができるため,従業員の本来持つ力を引き出す職場環境を構成する具体的な要素の指標を得ることが可能である.この構造的エンパワメントは,看護師のワーク・エンゲイジメントを高めることが知られており(Hassona, 2013),とりわけ構造的エンパワメントのうち,機会とフォーマルな権限,インフォーマルな権限を有することが,看護師のワーク・エンゲイジメントを高めることがわかっている(新宮・安保,2019).
このように,構造的エンパワメントと看護師のワーク・エンゲイジメントは緊密な関係にあるが,前掲の先行研究(新宮・安保,2019)では,看護師の職位を管理職とスタッフ看護師に分けて調査を行っていない.管理職とスタッフ看護師との看護師のワーク・エンゲイジメントを比較した研究では,療養病床を対象とした研究において,ワーク・エンゲイジメントを媒介因子としたプロセスは管理職とスタッフ看護師で異なるという結果(木内ら,2020)が示されている.加えて,スタッフ看護師よりも役職を有する看護師の方がワーク・エンゲイジメントは高いという知見が複数の研究から得られている(中村・吉岡,2016;須藤・石井,2017;安保・髙谷,2019).これらのことから,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントの向上をもたらす職場環境の要因を明らかにすることは,重要といえる.
併せて,経験年数と看護師のワーク・エンゲイジメントには関連があること(佐藤・三木,2014)が明らかとなっているが,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度との関連を,経験年数別に示した研究は見当たらなかった.以上のことから,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントの向上をもたらす構造的エンパワメントの要因を,具体的に,かつ経験年数別に示すことは,キャリア形成の各段階に応じた方策を実務的に明らかにできるため有用である.
したがって本研究では,看護師のワーク・エンゲイジメントの関係および構造的エンパワメントと経験年数とがスタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントに及ぼす影響について検証することとした.
すなわち本研究の仮説は,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントに影響を及ぼす構造的エンパワメントの下位尺度は,経験年数毎に異なる,である.
本研究では,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントに影響を及ぼす構造的エンパワメントの下位尺度を,経験年数毎に示すことを目的とし,検証を行った.目的を達成することでの本研究の意義は,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントを高める具体的な要因を,経験年数で区分されるキャリア形成の段階毎に示すことができることである.
本研究では,保健師・助産師・看護師・准看護師免許を有し,かつ職務にあたっている看護職員を総称して看護師と表記する.職位は,看護部長や総看護師長,看護副部長,看護師長を管理者,看護副師長や看護主任を役職者,その他スタッフ看護師をスタッフに分類して表記する.
2. 対象者と調査方法,調査期間東北地方のA県ならびに政令指定都市B市の病院に勤務する看護師を対象者とした.調査は,対象者自身が調査票に回答後,研究者に直接郵送するよう書面で依頼し,回収した.調査期間は2018年2月から2018年6月までとした.なお本研究は,DOI: 10.5630/jans.39.270にて使用したデータを再分析したものである.
3. 調査項目 1) 構造的エンパワメント看護師の活力や能力を引き出す職場環境である構造的エンパワメントの測定には,Laschinger(Laschinger et al., 2001)が開発し,金井(金井,2014)が日本語訳したConditions for Work Effectiveness Questionnaire-II(以下CWEQ-II)を使用した(詳しくは付録を参照のこと).これは「機会」3項目,「情報」3項目,「支援」3項目,「資源」3項目,「フォーマルな権限」3項目,「インフォーマルな権限」4項目の計6下位尺度,全19項目の質問で構成される.回答は各々「全くない(1点)」から「たくさんある(5点)」までの5件法で,得点が高いほど,構造的エンパワメントが高いことを示す(範囲:6~30).
原版の信頼性と妥当性(Laschinger et al., 2000, 2001),日本語版の信頼性(金井,2014)が確認されている.
2) ワーク・エンゲイジメント仕事への前向きな心理状態であるワーク・エンゲイジメントの測定には,Schaufeli(Schaufeli et al., 2002)が開発し,Shimazu(Shimazu et al., 2008)が日本語訳した日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(The Japanese short version of the Utrecht Work Engagement Scale:以下UWES-J)を使用した.これは「熱意」3項目,「没頭」3項目,「活力」3項目の計3下位尺度,全9項目の質問で構成される.回答は各々「全くない(0点)」から「いつも感じる(6点)」までの7件法で,得点が高いほど,ワーク・エンゲイジメントが高いことを示す(範囲:0~6).ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度は確証的因子分析の結果,17項目より9項目である短縮版の方が良好な適合度を有するため(Schaufeli et al., 2006),本研究では短縮版を使用した.原版と日本語版で,それぞれ信頼性と妥当性が確認されている(Schaufeli et al., 2002;Shimazu et al., 2008).
3) 個人属性対象者の性別,年齢,主に従事する職種,経験年数,在籍年数,最終学歴,転職の有無とその回数,勤務する病床の区分,職位の計9項目を質問した.
4. 分析方法分析はまず記述統計を行い,CWEQ-IIとUWES-Jの2つの尺度の内的整合性を確認し,正規性の検定(Jarque-Bera検定)を行った.次にワーク・エンゲイジメントと病床の区分(一般病床,精神病床,療養病床,病棟以外の部署)および職位(管理者,役職者,スタッフ)との関係を,それぞれ1元配置分散分析で比較した.また,本研究のデータは,個人レベル(看護師)と病院レベル(看護師が所属する病院)の階層を持つデータであり,質問への回答に集団内類似性が生じる可能性が考えられるため,級内相関係数およびDesign effectを算出し,ワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度についてマルチレベル相関分析を行った.続いて役職を持たないスタッフに関して,経験年数によるワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度の関係を,先行研究(佐藤・三木,2014;石塚・三木,2016)に倣い,経験年数を3年以下,4~9年,10年以上の3群に分け,それぞれの群間におけるワーク・エンゲイジメントの得点を1元配置分散分析で比較した.次に,目的変数にはワーク・エンゲイジメントを,説明変数には,まず年齢と経験年数を投入した後に,構造的エンパワメントの下位尺度を投入,経験年数はスタッフ全体の他,上記の3群毎に分けて階層的重回帰分析を行った.多重共線性の有無はVIF(Variance Inflation Factor)を算出して確認した.データの集計および分析にはHAD17.30を使用した.統計学的検討における検定の有意水準は,すべて両側検定で5%とした.
5. 倫理的配慮本研究は,山形県立保健医療大学倫理審査委員会の承認(承認番号1711-20 承認年月日2017年11月21日)を得て実施した.調査票には研究の目的や方法,研究協力の任意性,個人や病院が特定されないように処理すること,調査票の返送をもって研究協力の同意とすることを明記した.また,問い合わせに対応できるよう研究者の連絡先も明記した.
12病院,1,053名に調査票を配布し,594名から回答があり,回答率は56.4%であった.調査票の質問項目中,経験年数と職位に欠損がある者の回答を削除した576名(有効回答率54.7%)のうち,スタッフ397名を分析対象とした.Cronbachのα係数はCWEQ-IIが0.85,UWES-Jは0.94であった.UEWS-Jの平均点は2.66 ± 1.13(範囲:0~6),CWEQ-IIの平均点は16.3 ± 3.1(範囲:6~30)であった.なお,Jarque-Bera検定により正規性の有無を確認したところ,UWES-JとCWEQ-IIはいずれも正規分布に従っていた(UWES-J:p = 0.849,CWEQ-II:p = 0.063).
2. ワーク・エンゲイジメントと職位別による1元配置分散分析の結果対象者全体のワーク・エンゲイジメントと職位(管理者,役職者,スタッフ)の関係について1元配置分散分析で比較したところ,管理者と役職者,管理者とスタッフ間には有意な差を認めたが,役職者とスタッフ間では有意な差を認めなかった.分析対象者の概要と1元配置分散分析の結果を表1に示す.

(n = 576)
UWES-Jおよび構造的エンパワメントの下位尺度の級内相関係数は有意ではなかったものの,構造的エンパワメントの下位尺度の機会,資源,フォーマルな権限のDesign effectの値が2以上を示し,データの集団内類似性の判断基準(清水,2014)に基づき,本研究のデータが階層性のあるデータであると判断した.ワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度についてマルチレベル相関分析を行ったところ,個人レベルでは情報と資源間を除いたすべての項目において有意な正の相関を認めたが,病院レベルではすべての項目において有意な相関を認めなかった(表2).
(n = 397,病院数12)
| 級内相関係数(ICC) | Design effect | UWES-J | 構造的エンパワメントの下位尺度 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 機会 | 情報 | 支援 | 資源 | フォーマルな権限 | インフォーマルな権限 | ||||
| UWES-J | .028 | 1.90 | ― | .194** | .249** | .333** | .252** | .343** | .307** |
| 機会 | .066 | 3.10 | .635 | ― | .191** | .493** | .178** | .334** | .180** |
| 情報 | .015 | 1.47 | .632 | 1.236 | ― | .370** | .089 | .349** | .355** |
| 支援 | .014 | 1.44 | –.120 | .482 | .858 | ― | .378** | .512** | .318** |
| 資源 | .049 | 2.56 | .218 | .056 | .564 | –.372 | ― | .421** | .115* |
| フォーマルな権限 | .039 | 2.26 | –.164 | .619 | .990 | .865 | .751 | ― | .341** |
| インフォーマルな権限 | .027 | 1.87 | .894 | .130 | –.060 | –.527 | .046 | –.576 | ― |
** p < .01,* p < .05
※マルチレベル相関分析の結果の上三角行列は個人レベル相関,下三角行列は病院レベル相関を表す
※級内相関係数が小さい場合,病院レベルの相関は1.0を越えることがある
対象者は12病院に所属し,病院あたりの回答数は最小で20人,最大で118人となっている
スタッフの経験年数を3年以下,4~9年,10年以上の3群に分け,3群間のワーク・エンゲイジメントの得点を1元配置分散分析で比較したところ,いずれも有意な差を認めなかった(UWES-J:3年以下=2.76 ± 1.05,4~9年=2.48 ± 1.09,10年以上=2.49 ± 1.17).
次いで,目的変数をワーク・エンゲイジメント,説明変数にまず年齢と経験年数を投入した後に,構造的エンパワメントの下位尺度を投入,経験年数はスタッフ全体の他,上記の3群毎に分けて階層的重回帰分析を行ったところ,スタッフ全体では,ワーク・エンゲイジメントと年齢に正の有意な差(β = 0.40,p < 0.001)を認め,年齢が高くなるほどワーク・エンゲイジメントも高くなる結果がみられた.また,ワーク・エンゲイジメントと経験年数には負の有意な差(β = –0.27,p = 0.003)を認め,経験年数が高くなるほどワーク・エンゲイジメントは低くなる結果がみられた.次に,経験年数を3年以下,4~9年,10年以上の3群に分けて分析したところ,ワーク・エンゲイジメントと年齢が有意な差を認めなかったのは,経験年数10年以上のスタッフであった(経験年数3年以下:β = 0.47;p < 0.001,経験年数4~9年:β = 0.25;p = 0.013,経験年数10年以上:β = 0.23;p = 0.080).ワーク・エンゲイジメントと経験年数については,いずれの群でも有意な差を認めなかった(経験年数3年以下:β = 0.19;p = 0.101,経験年数4~9年:β = 0.09;p = 0.376,経験年数10年以上:β = –0.11;p = 0.401).スタッフ全体におけるワーク・エンゲイジメントと有意な差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度は,資源とフォーマルな権限,インフォーマルな権限であった(資源:β = 0.12;p = 0.028,フォーマルな権限:β = 0.12;p = 0.045,インフォーマルな権限:β = 0.21;p < 0.001).経験年数3年以下のスタッフのワーク・エンゲイジメントと有意な差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度は,情報と支援(情報:β = 0.28;p = 0.025,支援:β = 0.40;p = 0.003)で,経験年数4~9年のスタッフのワーク・エンゲイジメントと有意な差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度は,機会(機会:β = 0.36;p = 0.001)で,経験年数10年以上のスタッフのワーク・エンゲイジメントと有意な差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度は,資源とインフォーマルな権限(資源:β = 0.23;p = 0.003,インフォーマルな権限:β = 0.26;p < 0.001)であった(表3).
| 説明変数 | 全体(n = 397) | 3年以下(n = 76) | 4~9年(n = 84) | 10年以上(n = 237) | |||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| B | SE B | β | B | SE B | β | B | SE B | β | B | SE B | β | ||||
| 属性 | |||||||||||||||
| 年齢 | .04 | .01 | .40** | .06 | .01 | .47** | .04 | .02 | .25* | .03 | .02 | .23 | |||
| 経験年数 | –.03 | .01 | –.27** | .17 | .10 | .19 | .06 | .06 | .09 | –.01 | .02 | –.11 | |||
| 構造的エンパワメントの下位尺度 | |||||||||||||||
| 機会 | .08 | .08 | .05 | .01 | .14 | .01 | .62 | .18 | .35** | –.08 | .12 | –.05 | |||
| 情報 | .02 | .08 | .01 | .35 | .15 | .28* | .20 | .15 | .14 | –.14 | .11 | –.09 | |||
| 支援 | .16 | .09 | .11 | .52 | .17 | .40** | –.03 | .17 | –.02 | .10 | .12 | .07 | |||
| 資源 | .15 | .07 | .12* | .04 | .08 | .05 | .35 | .19 | .21 | .39 | .13 | .23** | |||
| フォーマルな権限 | .22 | .11 | .12* | –.05 | .21 | –.03 | .08 | .21 | .05 | .23 | .15 | .12 | |||
| インフォーマルな権限 | .38 | .09 | .21** | –.06 | .19 | –.04 | .38 | .21 | .20 | .46 | .12 | .26** | |||
| R2 | .22** | .44** | .47** | .20** | |||||||||||
B=偏回帰係数,SE B=偏回帰係数の標準誤差,β=標準偏回帰係数,R2=決定係数
** p < .01,* p < .05
本研究で使用したCWEQ-IIとUEWS-JのCronbachのα係数はいずれも0.7以上を示しており,一定の内的整合性を有すると判断した.また,本研究でのCWEQ-IIの得点は16.3 ± 3.1で,先行研究(金井,2014)での得点は16.6,本研究でのUEWS-Jの得点は2.66 ± 1.13で,先行研究(安保・髙谷,2019)での得点は2.44 ± 1.11であることから,本研究の対象者は本邦の一般的な看護師と同程度の得点を有するものと考えられる.
2. ワーク・エンゲイジメントと職位別による1元配置分散分析の結果管理者と役職者,管理者とスタッフ間といった職位別で,看護師のワーク・エンゲイジメントには有意な差を認めた.このことから,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントに着目する意義があると考えられる.
3. スタッフにおけるワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度との級内相関係数およびマルチレベル相関の結果スタッフのワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度は,個人レベルでは情報と資源間を除いたすべての項目に有意な正の相関を認めた一方で,病院レベルではすべての項目に有意な相関を認めなかった.この結果から,スタッフのワーク・エンゲイジメントを高めるためには,病院単位よりも,看護師個人に対する個別的な方略が有効である可能性が示唆された.個人レベルにおける看護師のワーク・エンゲイジメントと看護師長および同僚からのソーシャルサポートについて検証した先行研究(髙谷・安保,2022)では,ソーシャルサポートのなかでも,看護師長からの情緒的サポートや裁量権に関するサポート,同僚の職務へのポジティブな態度などがワーク・エンゲイジメントの向上には有益であることが明らかとなっており,部署単位での人的資源を拡充する有効性が示されたと考えられる.
4. スタッフの経験年数別におけるワーク・エンゲイジメントの関係と構造的エンパワメントの下位尺度との階層的重回帰分析の結果 1) スタッフの年齢および経験年数とワーク・エンゲイジメントの関係本研究では,スタッフのワーク・エンゲイジメントと年齢には正の関係が,経験年数とは負の関係がみられた.年齢の高い看護師は,看護師経験を積み,仕事の要求度に対応する能力を有するようになるためにワーク・エンゲイジメントが高いという報告があり(小澤ら,2022),本研究と一致する結果であった.一方で,看護師の経験年数とワーク・エンゲイジメントには,全体的として正の関係があることが知られている(安保・髙谷,2019;渡邉ら,2020)が,本研究においては異なる結果が示された.このことは,本研究の新しい知見としてみられる.中高年層のスタッフ看護師は仕事における裁量権や決定権が得られず,ワーク・エンゲイジメントが高まりづらくなっている(櫻間ら,2021)という指摘があり,本研究の結果を具体的に示したものである.さらに,患者の求める役割を果たせないことや自分の思うように看護が展開できない葛藤は,経験年数が長いほど感じる(佐藤・三木,2014)ことも要因のひとつといえる.本研究の結果を深めるために,コホート調査などによるさらなる研究の実施が必要である.
2) 経験年数3年以下のスタッフのワーク・エンゲイジメントに影響する構造的エンパワメントの下位尺度経験年数3年以下のスタッフにおいてワーク・エンゲイジメントの向上に有効な構造的エンパワメントの下位尺度は,情報と支援であった.情報は,看護部長の価値観や目標など,組織の方針や意思決定の理解を有するかを問う質問で構成される.仕事の資源のひとつである組織と個人との価値の一致は,ワーク・エンゲイジメントと正の関連(Koyuncu et al., 2006)があることはすでに知られているが,特に新人期にあたる看護師が,病院や管理者と目指すビジョンを共有することの重要性が示された.
支援は,看護師への業務に関連した具体的な情報やコメント,アドバイスといった支援をどの程度有するかを問う質問で構成される.新人期にあたる1~3年のキャリアの看護師のワーク・エンゲイジメントには,看護管理者が支援的に関わることが重要とされ(石塚・三木,2016),また,上司からの支援とワーク・エンゲイジメントには正の関連があることが報告されている(小畑・森下,2011;佐藤・三木,2014;髙谷・安保,2022).これら先行研究の知見は本研究の結果を支持するものであり,所属組織で効果的に働くために必要な知識を得ることや,職務を遂行する上で同僚や役職者,管理者から助言や正のフィードバックを受けるといった支援が,経験の浅い若手看護師には有益と考えられる.
3) 経験年数4~9年のスタッフのワーク・エンゲイジメントに影響する構造的エンパワメントの下位尺度経験年数4~9年のスタッフにおいてワーク・エンゲイジメントの向上に有効な構造的エンパワメントの下位尺度は,機会であった.機会は,仕事に関する新しい技術や知識を得る機会,自身が持つ技術や知識の全てを使用する職務を有するかなど,成長の可能性,知識や技術を習得する機会をどの程度有するかを問う質問で構成される.知識や技術習得による成長の機会があることは,ワーク・エンゲイジメントと正の相関があり(伊藤ら,2018),成長する可能性を期待でき,習得した知識や技術を発揮する機会を保有することは,ワーク・エンゲイジメントを向上させるという証左を示すものである.また,経験年数4~9年の中堅期にあたるジェネラリスト看護師のキャリア・プラトーに対しては,仕事を通じて刺激を感じられるような機会を確保する体制づくりの重要性が示されており(川口・鳩野,2024),この時期にあたるスタッフにとって機会を有することは,ワーク・エンゲイジメントの向上に寄与する一因になるものと考えられる.
4) 経験年数10年以上のスタッフのワーク・エンゲイジメントに影響する構造的エンパワメントの下位尺度経験年数10年以上のスタッフにおいてワーク・エンゲイジメントの向上に有効な構造的エンパワメントの下位尺度は,資源とインフォーマルな権限であった.資源は,書類仕事や任務遂行のための時間が確保されていることや,必要時に一時的な助けを得ることといった職務を達成するために必要な時間を有するかを問う質問で構成される.資源に含まれる質問項目には,部署内外の職員との関係構築や支援に必要な時間があるかといった内容が含まれている.良好な関係を維持するために時間や手段を用いることができることが,看護師の働きがいを高めるために必要と考えられる.
次に,インフォーマルな権限は,医師と患者ケアを協働すること,問題をかかえた同僚や上司から助けを求められること,医師以外の専門職からアイデアを求められることといった,同僚や上司とのつながりや多職種連携の活動の機会を有するかを問う質問で構成される.看護師に医師との協働関係があることは,ワーク・エンゲイジメントと正の関連があり(石塚・三木,2016),職場内において仕事上のトラブルを抱えている同僚を進んで手助けする,といった対人的援助が高い人ほどソーシャルサポートは高くなる(堀田・大塚,2014)といった知見がある.すなわち,看護師自身が上司や同僚を支援することで,自身も積極的な支援を受ける双方向の関係性が生じ,ワーク・エンゲイジメントが高まるものと考えられる.加えて,総合病院での調査において多職種との積極的なコミュニケーションの機会を設けることが,チーム医療の最適化には重要(杉田・黒田,2006)とも指摘されており,職種内外でのコミュニケーションの存在はワーク・エンゲイジメントの規定要因に留まらず,アウトカムにとっても重要な要因となることが予測される.経験豊富なベテラン看護師は,多職種と連携する力やリーダーシップ力といった多職種やチームとして協働,連携する能力に秀でる(八重樫・福井,2022)という特性と相まって,インフォーマルな権限とワーク・エンゲイジメントには正の関連があると考えられる.
5. 看護への示唆と本研究の限界,今後の展望本研究は,スタッフ看護師のワーク・エンゲイジメントを向上させる職場環境の要素を,経験年数別に示したものである.これらは,権限を有さず,組織において被支配的な立場にある看護師の仕事への前向きさを高めるための具体的な方策として有用な知見と考える.
ワーク・エンゲイジメントの向上には,職場の雰囲気や組織風土などが影響すると類推されるが,本研究ではこれらの項目については質問していない.今後,職場の人間関係の良否や生産性の高い組織の特徴といった,職場が有する特色とワーク・エンゲイジメントとの関連を調査することで,望ましい職場環境についての知見がより豊かなものとなるであろう.
付記:本研究の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会(2019)にて発表している.また,本研究は日本看護科学会誌に投稿した論文(新宮・安保,2019)に用いたデータを再解析したもので,調査票は重複しているが,調査の目的および分析の視点は異なるものである.
謝辞:本研究に快く承諾し,ご協力いただきました看護師の皆様ならびに病院の皆様に,心より御礼を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HSは研究の着想および研究の実施と分析,主要な執筆を行った.HAは尺度の選定および研究過程全般に有力な案を与えるなどの助言,考察の分担執筆を行った.STは研究の分析手法の助言およびその結果の解釈に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.