日本看護科学会誌
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原著
精神疾患をもつ親の成人した子どもにおけるベネフィット・ファインディング:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ
廣田 美里千葉 理恵林 佑太坂東 純怜早川 友菜三宅 美里
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2025 年 45 巻 p. 821-832

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Abstract

目的:精神疾患をもつ親の成人した子どもにおけるベネフィット・ファインディングを明らかにする.

方法:対象は当事者グループに参加経験のある11名で,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより質的記述的に分析した.

結果:対象者は小児期から家庭内の困難を経験し【ピアや身近な人による受容】や【精神疾患に対する理解の深化】を通して《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》を重ねていた.その結果【人の支えとつながりの実感】や【自分の中にある強さへの気づき】など肯定的側面を見出していた.一方【回想や内省により引き起こされる苦しみ】もあり,意味づけには複雑な感情に対処し自己を保つための側面も含まれていた.

結論:ベネフィット・ファインディングは一直線的なものではなく葛藤や苦悩を含みながら形成されるものであり,ピアとの出会いや安心できる環境がその過程を支える重要な要素であると示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to explore benefit finding among adult children of parents with mental illness.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 11 individuals who had participated in peer support groups. Data were analyzed qualitatively using the Modified Grounded Theory Approach.

Results: Participants reported experiencing various hardships in their childhood home environments. Through “acceptance from peers and trusted individuals” and “deeper understanding of mental illness,” they underwent “experiences of inner transformation accompanied by a reduction in loneliness.” Consequently, they developed positive reinterpretations such as “a sense of connection and support from others” and “awareness of inner strength.” However, participants also experienced “pain triggered by reflection and recollection,” indicating that their benefit finding included aspects of managing complex emotions to maintain a coherent sense of self.

Conclusion: Benefit finding in this population is not a linear process; rather, it is shaped through both positive and painful experiences. Encounters with peers, safety, and accepting environments were found to be essential in supporting this meaning-making process.

Ⅰ. 緒言

精神疾患を有する患者数は年々増加傾向にあり,2023年度の患者調査によれば600万人を超えている(厚生労働省,2025).精神保健医療では入院中心の医療から地域生活への移行が進み,患者本人の生活支援が促進される一方で,家族に求められるケアの役割や責任は多様化・長期化している.

家族の中でも精神疾患をもつ親のもとで育つ子どもへの支援の重要性が近年強調されている(Cudjoe & Chiu, 2020Puchol-Martínez et al., 2023).多くの子どもは親の病気について十分な説明を受けておらず,曖昧な理解の中で混乱や不安,自責感を抱き(Cudjoe & Chiu, 2020Yamamoto & Keogh, 2018),親子関係では役割の逆転や感情抑制が生じることも知られている(Gladstone et al., 2011).国内の研究でも,幼児期や学童期から,親の疾患に対する理解の困難,精神症状の影響,情緒的なケアや家事労働の代替,経済的困窮,学業への支障,対人関係の困難など,多面的な生活上の困難があったことが明らかになっている(羽尾・蔭山,2019蔭山ら,2021田野中,2019).そして,成人期に生きづらさやトラウマ体験が持続する場合があることが国内外で報告されている(Shestiperov et al., 2024髙坂・蔭山,2022).

一方で,これまでの精神疾患をもつ親の子どもについての研究は困難に焦点が当たりやすく,経験の肯定的側面に関する知見は限定的である.McCormack et al.(2017)は,困難な体験からの心理的適応について,共感性の発達や自己認識の肯定的な変化を報告しているが,肯定的にとらえていく過程については,「成人することで」「時間をかけて」といった記述にとどまり十分に明らかにされていない.

本研究では,精神疾患をもつ親の子どもが,様々な境遇を経て,どのように肯定的側面を見出すのかについて,ベネフィット・ファインディング(Benefit Finding:以下,BF)の概念を手がかりに検討を行う.BFとは,逆境に直面した人が,つらい経験のなかに何らかのベネフィット(得られたものや学んだこと,ポジティブな変化)があったと感じるプロセスを指す(千葉,2016Tennen & Affleck, 2002).BFは心理的安定や身体的健康にポジティブな影響を及ぼすことが多くの縦断研究で示されている(Tennen & Affleck, 2002).例えば,慢性疾患患者における抑うつの軽減やQOLの向上(Helgeson et al., 2006),子宮頸がん患者における健康行動の見直しや人生への前向きな姿勢(Sun et al., 2022),また,家族介護者では,脳卒中生存者家族における家族関係の再構築(Mei et al., 2020),障害をもつ児の親では他者理解や自己成長(Jamir Singh et al., 2023)など,多様な立場から報告されている.しかし,精神疾患をもつ親の子どもにおけるBFを明らかにした研究は,著者らの知る限り報告されていない.Drost et al.(2016)は,子どもが体験から肯定的意味づけや強みを形成し得る可能性を示し,支援においてもその視点を生かす重要性を提言している.子どもの立場にいる人がどのような経験や出会いを契機に肯定的側面を見出すのかを明らかにすることは,支援の時機や環境を含めた方法論を検討する基礎資料となり,本人の人生やWell-beingを尊重した支援の構築に意義をもつ.そこで本研究は,精神疾患をもつ親の成人した子どもにおけるBF,すなわち小児期からの様々な境遇を経て,どのような肯定的側面が見出されるのか,そしてその過程を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 用語の定義

・「ベネフィット・ファインディング(BF)」は,逆境に直面した人がつらい経験の中に何らかの肯定的な意味や価値(ベネフィット)を見出すことを指す概念である.その捉え方には,肯定的側面という「結果」に焦点を当てる視点と,それを見出す「過程」に注目する視点があるとされている(Kritikos et al., 2021Tennen & Affleck, 2002).本研究におけるBFは「小児期からの体験から見出された肯定的側面の内容(結果)」と「それを見出す経緯や心理的変容(過程)」の双方を含める.また,対象者にとって体験を成長や恩恵と意味づけることには,複雑な感情や抵抗感が伴うことが想定されるため,本研究では葛藤や未解決の語りも含めBFを分析する.

・「小児期」は,出生から18歳未満までの発達段階を指す.本研究における子ども時代の体験の起点は,対象者の自伝的記憶によるものであり,また,親の発症時期や対象者が親の精神症状を認識した時期により異なる.実際の語りには,幼児期,学童期,青年期にわたる内容が含まれていた.したがって,本研究では,出生から18歳未満までの発達段階を広く指す場合に「小児期」と操作的に定義する.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は質的帰納的研究デザインを用いた.

2. 研究対象者

研究対象者(以下,対象者)の選定基準を子どもの当事者グループや家族会に参加経験があり,小児期に精神疾患をもつ親と暮らした経験のある人とし,親の診断名(主病名)が知的発達症または認知症である者は除外した.研究協力の依頼は,子どもの当事者グループや家族会の代表者を介して行った.代表者から選定基準に合致する人に本研究が紹介された.参加協力の意思を示した者に対して,研究者が研究説明文書を郵送し,後日オンラインで研究の趣旨を説明し同意を得た上で対象者とした.

3. データ収集方法

対象者の希望に沿い,対面,あるいはオンライン会議システムのZoomを使用し個別の半構造化インタビューを1回行った.インタビューガイドは,精神疾患をもつ人の家族へのインタビュー経験のある研究者(廣田,千葉)を含む,すべての著者で作成した.また,すべてのインタビューは,看護師資格を有し,精神保健医療の知識と個別インタビューの経験を有する研究者(廣田,千葉,林)いずれか1名が主導で行い,研究者(坂東,早川,三宅)も参加した.面接内容は対象者の了承を得て録音した.面接時間は約45~120分であった.インタビューの実施にあたり,フェイスシートに回答を依頼し,対象者の基本的属性(性別,年齢,職業),親が精神疾患を発症した時の年齢,親の精神疾患について説明を受けた経験,小児期に担っていた家庭内での役割を選択肢形式で尋ね,精神疾患をもつ親の性別,年齢,診断名,精神疾患の治療状況についても尋ねた.インタビューでは,最初にフェイスシートの回答を一問ずつ確認した.次に当事者グループに参加するようになったきっかけと,当時の思いや対象者および親の状況について語ってもらった.その際,小児期から現在に至るまでの体験を自由に想起して語ることを尊重し,各時期の状況や思い,対処について尋ねた.次に,体験を通じて得られたものや学びと感じられること,およびそのように感じるようになったきっかけについて尋ねた.

4. データ分析方法

データの分析には,木下(2020)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach:以下,M-GTA)を用いた.M-GTAは,人間の行動と予測の説明に優れた理論構築を特徴とし,社会的相互作用性とプロセス性のある現象の分析に適している(木下,2020).精神疾患の親をもつ成人した子どもの経験は,様々な人との相互作用と時間的なプロセス性があることが想定されたためM-GTAが適していると考えた.

M-GTAの手順に基づき,分析焦点者を「精神疾患をもつ親と小児期に暮らし,現在成人している人」とし,分析テーマを「小児期から様々な境遇を経て,自己や経験と向き合い対処する中で肯定的側面を見出していく過程」と設定した.逐語録を熟読し,分析焦点者と分析テーマに照らして着目した箇所を具体例(ヴァリエーション)として抽出し,他事例にも適用可能な概念を生成した.各概念について,概念名,定義,具体例,理論的メモを記入した分析ワークシートを作成した(表1).抽出作業は1名の逐語録につき2名の研究者が独立して行い,その後2名で検討を重ねながらワークシートに入力した.11名のデータを逐次追加しつつ概念名や定義を精査し,最終的に研究者全員の合意を得てワークシートを完成させた.生成した概念は類似例と対極例を比較し概念間の関係を検討した.そして共通性をもとにサブカテゴリー,さらにカテゴリーを生成した.カテゴリーとサブカテゴリーの関係を分析し,結果図とストーリーラインを作成した.

表1 分析ワークシートの例

概念名 自分だけではないことに気づいた
定義 同じような境遇を生きてきた仲間と出会い,自分と同じような人がいたことに驚いたり,孤独感が和らいだりした経験
具体例
(ヴァリエーション)
・同じ年の男の子が,同じようなお母さん,感情障害を抱えてるお母さんの話をみんなの前で2,30分してくれたんです,体験発表で.そのときに,うわ,すごい,僕と同じ人いるんだって思った.(Aさん)
・代表の方とかも話を聞いていたりする中で,自分だけじゃなかったとか,この仕事しててよかったんだとか,いろんなことをほんとに感じて.(Bさん)
・意外とみんな,そういう苦労をしてきた人がいるんだなというのに,すごい救われ.まだ,そんな話せなくてもいいかなというか.笑って,結構みんな,躁転いつ…ですごい盛り上がったりするのが,すごい私は助けになった.(Eさん)
(以下略)
理論的メモ ・ずっと孤独だったり,同じような経験をしている人がいるとは思っていなかったりした中で,ようやく巡り会えた仲間.そして,その仲間たちに自分のことを話したり,共感し合えたりしたという大きな経験の1つである.
・Hさんは,同じ立場の仲間と共感し合う体験をしたと語っているが,「ずっと隠してきてたので,話したりしたときに結構思い出しちゃって,寝られなかったりということもあったりしたんですけど…」の発言から,良い面だけでなくつらさを伴うものでもあったと考えられる.

理論的飽和化の判断は,木下(2020)が提案する概念生成の完成度を示す分析ワークシートと結果図のストーリーラインの作成に基づき行った.対象者の属性,精神疾患の親の続柄や疾患名は多様であり,これ以上新たなカテゴリーが生成される可能性は低いと判断し,分析完了とした.

5. 厳密性の確保

質的研究において,厳密性の高い研究とは,公正かつ倫理的に実施され,その知見が対象者の経験をできる限り正確に表している研究とされている(Liamputtong, 2020/2022).本研究では厳密性の確保のため,メンバーチェッキングを行った.対象者11名に対してメンバーチェッキングの依頼を行い,協力の意思を示した9名に対して,結果図とストーリーライン,分析の結果の概要を記載した文書を送付した.8名から,内容について同意する意見の他に,違和感を覚えた表現などの意見があり,再度検討を行い一部のカテゴリー名やストーリーラインの表現の修正を行った.

6. 倫理的配慮

研究の実施にあたり,神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た(承認番号第1115号).対象者に,研究目的,方法,個人情報保護,データ管理方法,参加・不参加・中断の自由,研究参加の有無による不利益は生じないこと等を口頭と文書で説明し,同意を得た.過去の体験を話すことによる精神的負担を考慮し,当事者グループや家族会などで,すでに自身の体験を語ったことのある人を対象とした.インタビュー開始時に,休憩や中断が可能であること,話したくないことは無理に話さなくてよいことを改めて説明した.対面で実施する場合は,プライバシーが保たれる個室で行い,オンラインの場合は個別にZoomのIDとパスコードを設定し,待機室機能を用いて研究者と対象者のみが参加できるようにし,研究者は個室にてインタビューを実施した.インタビュー中は対象者の表情や言動に常に注意を払い,定期的に継続可否や休憩の希望を確認し,精神的負担が最小限となるよう配慮した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の属性

対象者ならびに精神疾患をもつ親の属性を表2に示す.対象者は男性3名,女性8名の計11名で,年齢は20代から50代であった.表中の対人援助職とは,医療や福祉分野の専門職に就いている者を指し,該当する対象者は7名であった.その他の職業,学生,無職が合計4名であった.

表2 対象者ならびに精神疾患をもつ親の属性

対象者について 親について
ID 性別 年齢 対人援助職かどうか 親発病時の年齢 親の精神疾患に関する説明
(有無・時期・説明者)
小児期から家庭内で担っていた役割 続柄 年齢(歳) 診断名
A 男性 30歳代 はい 14歳頃 有・高校2年生頃・母 ⑥,⑦ 50歳代 うつ病,パニック障害
B 女性 30歳代 はい 3歳頃 有・小学校高学年・母 ⑥,⑦,⑧ 両親 父:70歳代
母:70歳代
統合失調症
C 男性 50歳代 いいえ 出生頃 有・不明・父と姉 ①,⑥ 死去 統合失調症
D 女性 40歳代 いいえ 8歳頃 ①,⑤,⑥ 70歳代 うつ病
E 女性 20歳代 はい 11歳頃 ④,⑥,⑦,⑨ 50歳代 双極性障害
F 女性 20歳代 はい 15歳頃 有・18歳頃・母と主治医 ①,⑤,⑥ 50歳代 双極性障害
G 男性 40歳代 はい 父:出生前
母:不明
父:有・小学生・母と母方祖母
母:無
①,④,⑤,⑥,⑦
⑧,⑨,⑩,⑪
両親 父:60歳代
母:60歳代
父:てんかん性精神病
母:未治療
H 女性 20歳代 いいえ 出生前 有・中高生の頃・母 50歳代 うつ病
I 女性 30歳代 いいえ 父:13歳頃
母:0歳6か月頃
父:有・13~14歳頃・親戚
母:有・12~13歳頃・父
①,④,⑥,⑦,⑩,⑪ 両親 父:60歳代
母:60歳代
父:うつ病
母:統合失調症
J 女性 20歳代 はい 出生前 有・18~19歳頃・父 ①,④,⑤,⑥,⑧ 60歳代 うつ病
強迫性障害
K 女性 30歳代 はい 出生前 有・大学生・母 ⑥,⑦ 60歳代 うつ病

「小児期から家庭内で担っていた役割」の番号は,下記の通りである.

①家事,②きょうだいの世話や保育所等への送迎など,③身体的な介護,④外出の付き添い,⑤通院の付き添い,⑥感情面のサポート(困りごとをきく,話し相手になるなど),⑦見守り,⑧金銭管理,⑨薬の管理,⑩家計を助ける(働く),⑪その他

親の発病時における対象者の年齢は,出生前が4名,0~3歳時が2名,小学生の頃が2名,中学生の頃が4名,発症時期不明が1名であった.親の疾患に関する説明については,精神疾患をもつ親本人から直接聞いた者が4名,他の家族員から説明を受けた者が6名,説明を受けなかった者が2名であった(重複あり).小児期から大人に代わって家庭内で担っていた役割では,感情面のサポートは全員(11名)が担っていたと回答した.

精神疾患をもつ親の続柄は,父親が3名,母親が5名,両親が3名であった.親の診断名(対象者の申告に基づく)は,うつ病6名,統合失調症3名,双極性障害2名,パニック障害1名,てんかん性精神病1名,強迫性障害1名,未治療1名であった(重複あり).精神疾患をもつ親は,未治療の1名を除き,対象者が小児期にある時から精神科の治療を受けていた.

2. 結果図・ストーリーライン

図1は「精神疾患をもつ親のもとで育った子どもが,小児期からさまざまな境遇を経て,自己や経験と向き合い対処する中で肯定的側面を見出していく過程」の結果図を示す.以下では,コアカテゴリーを《 》,カテゴリーを【 】で表記し,ストーリーラインを記述する.

図1  結果図

精神疾患の親をもつ成人した子ども(以下,対象者)は,小学生の頃から親の精神症状に伴う家庭内の困難を経験し,親を心理的に支えるなど【見えない負担を抱え生きた学齢期】を過ごした.高校生年代へと成長するにつれ,自己と向き合い【感情への気づきと対処法の模索】を試みるようになる.親の精神疾患について調べ,対象者の中には専門学校や大学,大学院で心理学や福祉学を学ぶ過程で【精神疾患に対する理解の深化】が進み,教員の紹介や偶然得た情報から当事者グループの存在を知る.【ピアや身近な人による受容】は,孤独感を和らげ,自己と向き合うことを後押しする.【感情への気づきと対処法の模索】【精神疾患に対する理解の深化】【ピアや身近な人による受容】が相互に作用することで,《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》が深まっていく.この内面の変容は【経験を活かした他者貢献】と【人の支えとつながりの実感】に展開し,両者は互いに影響し合う.他方で,仕事や当事者グループ活動を通して【見えない負担を抱え生きた学齢期】での親との生活体験が【人のつらさへの共感】を育み【経験を活かした他者貢献】の基盤になっていることに気づく.

《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》は,やがて【自分の中にある強さへの気づき】や【人生の価値の発見】へと展開する場合もある.一方で,【見えない負担を抱え生きた学齢期】は【回想や内省により引き起こされる苦しみ】をもたらす.この【回想や内省により引き起こされる苦しみ】と《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》は両方向の関係をもち,過去の回想や内省に伴う苦しみが感情への対処やピアとのつながりを促し肯定的側面を見出す契機となる一方,自己理解や精神疾患への理解が進むほど新たな苦悩や自責感を深めることもある.

3. 各カテゴリー,コアカテゴリー

分析の結果,47の概念,13のサブカテゴリー,10のカテゴリー,1つのコアカテゴリーが生成された.語りの例を含めたカテゴリー一覧を表34に示す.以下では,各カテゴリーおよびコアカテゴリーについて説明する.『 』は対象者の語りを示し,〔 〕は研究者による補足説明である.

表3 ベネフィット・ファインディングに至る過程に関するカテゴリー

カテゴリー サブカテゴリー 概念 語りの例
見えない負担を抱え生きた学齢期 常に不安と緊張感があった 親の顔色や物音に敏感になっていた お父さん怖いな,お母さん泣いてるしな,どうしよう.いい子でいなきゃみたいな.
落ち着かない家庭環境で過ごした 父が海外に単身赴任してたときに,母が躁鬱になって,自殺未遂を何回もしたり,躁転したり.
親を支えていた 子どもながらに家庭の役割を担った 朝ごはんを作るでしょう,お弁当を作るでしょう,それで学校行くでしょう.クラブ活動が終わったら,スーパーに行って買物して帰ってくる.
日常的に親の話につき合っていた お母さんの話を聞いて,寄り添って,寝る時間が短くても学校はちゃんと行ってとかやってた.
子どもらしいことをさせてもらえなかった 小学校のとき,学校へ行こうとしたときに,何か引きとめられるんです.行っちゃ駄目だと.
一人で何とかするしかなかった 親が精神疾患であることを周囲に言えなかった 学校とかに,誰にも知られたくないから絶対隠すし.
誰も自分を見てくれなかった みんな父親のことばっかり.みんなが父親を好きなんやなって,誰も自分のことなんか見てない.
親を支えることに対する周囲からの期待が苦しかった 「あんた,お父さん助けたらなあかんやないの」って言って怒られたんですよね.
大変という自覚がなかった 自分の人生って自分しか知らないから,自分が基本というか,基本であって,そんなに大変だという感覚があんまりない.
親を頼りたくても頼れなかった 本当は甘えたかったりとか,こういうところでお母さんに頼りたかったとか,こういう話をもっとお母さんとしたかった.
自分をおさえこんでいた 感情を自然とおさえつけていた 悲しいって言ったら,誰かが何かしてくれるわけではないので,気持ちとかを考えてられなかったかなと.
精神的不調をきたした 結構高校の頃とか,すごい気分落ち込んでたんです.不登校になっちゃったんですよ,高校ぐらいから.
自分がわからなくなった 何よりも,自分って何者なんだろうみたいな状態が長かったんです.お母さんを基準に考えて人生を進んで行った若い頃があって.
感情への気づきと対処法の模索 親から距離をとった 親との距離をとった 1年間,語学留学もさせてもらって,一人でアパートで住んでたんですけど.でも,今から思えば,家から出られるのも大きなメリットではありましたよね.
自分なりの方法で,大変な状況に対処した 本当に名言集とかを見て,つらくなったらその本屋さんに行って,自分を奮い立たせていた感じですね.
自分のやりたいことを見つけた 将来海外で働くんだと,そういう夢を持ってて,英語を一生懸命勉強してね.…そういう夢があったから頑張れた.
自分と向き合い感情に気づいていった 自分の気持ちを表現しにくいことに気づいた カウンセリングとかで,ロールプレイで練習して相手の気持ち聞くけど,自分は自分の気持ちとかを話せないなと,すごく感じていて.
自分の気持ちや感情と向き合った もっと自分の感情,考えとか,何を思ってたのかとか振り返ったら出てくるんじゃないかなと思って.
自分の経験や人生を客観的にとらえるようにした 授業,聴講生とらせてもらったりとか,肩に背負っていた責任を分けて考えられるようになったりしたのが,結構大きかった.
後から自分の感情に気づいていった お母さんへの対応よかれと思ってやってたけど,苦しかったんだなって自分でも感じることができた.
精神疾患に対する理解の深化 親に対する見方や関わり方が変わった 病気のせいなのだと見方が変わった やりたくて怒鳴ってたわけでもないし,父親本人も病気に振り回された被害者なのかなと,すごく感じている.
親の疾患を理解し,関わり方が変わった お薬は,症状が激しいときは絶対に飲まないと自分も多分後々つらくなるし,周りもつらいんだよと一緒に考えていけるようになった.
親の精神疾患に関する知識を得ようとした 精神科を,というか,精神障害についてもっと勉強したら,お母さんの力にもっとなれるんじゃないかと思って.
成人後も親をサポートし続ける 今,個人的に一緒に暮らしたいなって思ったので,また実家に戻って一緒に暮らしています.
自分の境遇を社会的な問題としてとらえる 自身の境遇を社会的な問題であるととらえる 家族や病院に精神疾患のある人を抱え込ませなければいけなくさせている社会のほうが問題だなと感じてる.
ピアや身近な人による受容 孤独ではないと感じた 自分だけではないことに気づいた 子どもの立場の人たちといろいろ話してみて,自分一人じゃないんだなって思ったっていうのが一番大きかった.同じような経験をしている人がいたんだなって気づいたっていうのが.
仲間ならわかってくれると感じた 僕は孤独やと思ってたけど,僕だけじゃなかった,仲間がいる.結構みんなは分かってくれないけど,あの中に行ったら,みんなは分かってくれるだろうって.
気にかけてくれる人がいた 自分を気遣ってくれる言葉に支えられた 大学の友達は大きかったね.「無理してない?」みたいなのを言ってくれる人で.
信頼できる人に話を聴いてもらった なぜかその子には言っても平気なんじゃないかというのがあったので,言ったら「え,めっちゃ頑張ってきたじゃん」と言ってくれて.
回想や内省により引き起こされる苦しみ 小児期からの経験が記憶に残る 過去の衝撃的な出来事が今も心に残る 母親の本体ともう一人別の人がいて,1人しゃべってて,それがやっぱり怖かったし,気持ちが悪かった.
成人後も生きづらさを感じる 感覚として,乗り越えられないというか,ともに生き続けるものなのだろうなと,私もちょっと思ってます.常にしんどいというか.
体験を口にするのはつらい 幼少期からの体験を言葉にすることでつらくなる ずっと隠してきてたので,話したりしたときに結構思い出しちゃって,寝られなかったりということもあったりしたんですけど.
親を理解する上での葛藤 大人になってから罪悪感にかられる 何てことをしてしまったんだろうみたいな感じで,大人になってからでしたね.私が,強い罪悪感というかに,責任感とか申し訳なさとか,そういうものにかられたのは.
自問し続けることでつらくなる こうやって人のことを考えているから,福祉とか障害とか,何かそういうことを考え続けてるから,すごくしんどくなっているのかもしれないなとか.
表4 ベネフィット・ファインディングにおける肯定的側面の内容に関するカテゴリー

カテゴリー 概念 語りの例
人のつらさへの共感 理解を得にくいような境遇にいる人たちの気持ちがわかる 私,受刑者の人たちとか悪い人とは思えない,自分も絶対なってたと思うので,ぐれて.
困っている人がいると手を差し伸べる 困ってる人がおって,その人を助ける.全力を持って困ってる人がおったらサポートする,それしかないんやと思いますけど.
精神疾患をもつ人に寄り添う 幻覚とか妄想とかの人たちと会っても,怖いと思う人もいるんだけど,自分はそんなに思わなかったというか,優しいから相手の分も責任を背負っちゃうんだなみたいに捉えていたので,それとか父とか母を見てきたのがあると思うのですけど.
経験を活かした他者貢献 仕事・役割の中で自身の経験が活かされる ヤングケアラーで,例えば家庭とかもろもろのこととか,また情緒的なケアを担ってきたことが,逆に今の仕事に生きてる.
自分の経験が報われる 僕が生きていて,何か発信することによって誰かにいい影響をもたらす.そんなことが,僕は何か得たものかなって思ってます.
人の支えとつながりの実感 日頃から人に感謝の気持ちをもつ 割と他者に感謝するところはあるかもしれないです.支えられて生きてるな,生かされてるなと.
家庭外の人から支えられていたと感じる 友達のお母さんとかも,母と仲良くしてくれていて,母の状況も知ってくれていたので,たまにおいでみたいな感じで,泊まらせてもらったりという感じの,周りのサポートはすごくあったのかなとは思うんです.
この経験をしなければ出会えなかった人に出会えた お世話になった大学の先生だとか,家族会もそうですね.このことをきっかけに支えてくださった方々と出会えたのは,こういう経験があったからだなとも思うので.
家族で一緒に乗り越えてきた 母が病気になったことで,今でも仲がよくというか,何か変ですけど.一緒に乗り越えてきたみたいな.
自分の中にある強さへの気づき 勤勉性が養われる やっぱり勤勉になりますよね.勤勉,真面目で勉強家に.
精神的に強くなったと感じる すごい単純に言えば,自分のメンタルは強くなったかなともすごい思ったり.
苦労してきた体験を糧に自分に深まりができた 一般の人ができないような苦労してきた体験を糧に自分の人生が豊かになったりとか,自分に深まりができたり.
人生の価値の発見 自分の人生が価値あるものと感じられる 涙を流すのを見て,いや,驚いた.涙に値する人生なのかと,喜ぶ以前に.

1) 【見えない負担を抱え生きた学齢期】

対象者は,小学生,中学生,高校生年代(総称して学齢期とする)に親の精神症状に伴う家庭内での困難や家族関係の不和などを経験しながら成長していた.親の表情や言動,物音に敏感になり,日々不安や緊張の中で過ごしていた様子が語られた.『〔親の〕もう死にたい,という話まで全部聞いた』と振り返り,親を心理的に支える役割を担うこともあった.一方で,『自分の人生って自分しか知らないから,自分が基本であって大変という感覚があまりない』と述べるように,自身の置かれた状況を当たり前と受け入れ,過酷さを自覚しにくい側面もみられた.さらに,周囲に助けを求めることができなかった.『学校とかに,誰にも知られたくないから絶対隠す』と語るように,周囲に知られることで自分や家族が否定的にみられるかもしれないという強い恐れと孤独感があった.このように,本人にも自覚しづらく,周囲からも気づかれにくい,見えない負担を抱えながら学齢期を過ごしていた.

2) 《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》

このコアカテゴリーは,【感情への気づきと対処法の模索】【精神疾患に対する理解の深化】【ピアや身近な人による受容】の3カテゴリーから構成される.これらが相互に作用することで,後述する肯定的側面が見出されると考え,コアカテゴリーとして位置づけた.

【感情への気づきと対処法の模索】では,学齢期に心身の負荷を抱えてきた対象者が,不登校やうつ状態など精神的不調を来したのを契機に,あるいは高校生から大学生年代にかけて,自己と向き合うようになった.『どういう感情だったんですかって〔大学生当時〕聞かれたときに,何も答えられなかった』『自然に押さえつけちゃってるんだろうなと思う』と振り返る語りには,長年抑圧されてきた感情への気づきが表れていた.また,進学や就職により物理的・心理的距離をとることで,親子関係のあり方を見直していく者もいた.

【精神疾患に対する理解の深化】では,心理学や福祉学を学んだり,自ら情報を集めたりする中で,親の捉え方や自己理解に変化が生じていた.『親のことを,病気だから仕方ないと思えるようになった』という語りからは,責任感や罪悪感から少しずつ距離を置き,より客観的に状況をとらえられるようになった過程がうかがえた.

さらに,【ピアや身近な人による受容】では,当事者グループや家族会への参加を通じて,同じ境遇をもつピアと経験を共有する機会を得た.『自分だけじゃなかったんだ』と気づいた時,それまで抱えていた孤独感が和らぎ『友人や先生,親戚の人も気にかけてくれていた』と,過去にあった支えにも目を向けられるようになった.このように,対象者は感情への気づき,精神疾患への理解,他者からの受容といった経験を積み重ねることで,《孤独感が和らぐとともに内面が変容していく経験》を形成していた.

3) 【人のつらさへの共感】

対象者は,精神疾患の有無にかかわらず,困難を抱える他者への自然な共感性を育んでいた.『自分だけがよければ,それでいいとは思えない.誰かのために何かをしたいというのが心から思えるようになってるのは,今までそういう家族と過ごしたからかなと思う』と語った.この言葉からは,家族の苦悩を間近で見続けた体験が,他者への思いやりや利他性につながっていることがうかがえる.また,別の対象者も『幻覚とか妄想とかがある人たちと会っても,怖いと思う人もいるんだろうけど,自分はそんなに思わなかったというか,優しいから相手の分も責任を背負っちゃうんだなみたいに捉えていた』と述べた.これは『見えない負担』を抱えてきた自身の体験と重なり,他者の言動の背景に目を向け理解しようとする感性が育まれたことを示している.そして,こうした共感性は対象者が他者支援に向かう基盤にもつながっていた.

4) 【経験を活かした他者貢献】

対象者は,自身の困難な経験を糧として,他者に貢献したいという思いを抱くようになっていた.この意思は,職業選択や社会活動など,具体的な行動に結びついていた.ある対象者は『情緒的なケアを担ってきたことが,逆に今の仕事に活きてる』と語り,親を気遣ってきた体験が対人支援職に自然と活かされているという自己認識がみられた.また,別の対象者は『僕が生きていて,何か発信することによって誰かにいい影響をもたらす.そんなことが,僕は何か得たものかなって思っている』と述べ,自身の経験や存在が,自分と同じように悩む人の力になるかもしれないという前向きな意味づけが込められていた.このように,対象者は過去の痛みをもとに,他者支援や社会貢献へとつなげていこうとする姿勢を育んでいた.

5) 【人の支えとつながりの実感】

対象者は成人期以降に過去を振り返りながら,今の自分があるのは人の支えとつながりがあったからと認識するようになっていた.ある対象者は『友達のお母さんとかも,母と仲良くしてくれていて,たまにおいでみたいな感じで泊まらせてもらったりした』と語り,当時は意識していなかったものの,周囲からの温かな支えが日常の中に存在していたことに,改めて気づいた様子がうかがえた.また,別の対象者は『このこと〔精神疾患をもつ親と生活してきたこと〕をきっかけに支えてくださった方々と出会えた』と述べ,『割と他者に感謝するところはあるかもしれない.支えられて生きているな,生かされているなと思う』と語った.これらの語りからは,他者との関係性を見直し,支え合いの感覚を再認識する過程が読み取れた.このように,対象者は振り返りを通じて,孤立していたという自己像を修正し,人とのつながりの中で生きてきた自己へと再構成していた.

6) 【自分の中にある強さへの気づき】

対象者の中には,精神疾患をもつ親との生活を通して,自らの中にある強さを実感している者もいた.困難な環境下での努力や忍耐力が,現在の自己形成に影響していると語る対象者もいた.ある対象者は『母親の病状が悪化して,父親と仲悪くなってから,一生懸命勉強するようになった.今のままの自分じゃ駄目だという意識で』と語り,不安や絶望の中で自己を高めようとする意識が芽生えていた.また,『あの時よりはつらくないなと思う』と語った対象者は,過去の体験が現在の忍耐力や心理的柔軟性に寄与していると感じていた.さらに『他の人ができないような体験を糧に,自分の人生が豊かになった』と述べた対象者もおり,困難な体験を内面的な成長につなげて捉える姿がうかがえた.このように,すべての対象者ではないものの,体験を通じて自らの中に強さを見出す過程がみられた.

7) 【人生の価値の発見】

一部の対象者は,自らの体験を語ることを通じて,人生に新たな価値を見出していた.他者からの反応を受け取る中で,自己の存在意義に気づく経験が語られた.ある対象者は,『人が自分の話に涙するのを見て驚いた』と振り返った.自身の体験を語ることが,聴き手の心を動かすのを目の当たりにし,語ることや体験に意味と価値を見出していた.このように,一部の対象者ではあるが,体験を他者と共有する中で,人生に対する見方を変え,価値を再発見していく過程がみられた.

8) 【回想や内省により引き起こされる苦しみ】

対象者の語りからは,現在においても苦悩が完全には消えていない様子がうかがえた.肯定的側面を見出そうとしつつも,過去の体験や自己に対する否定的感情が生じるようであった.ある対象者は,『〔肯定的側面は〕いろいろあるんですけど,でも,ちょっと先にお伝えしときたいのは,なるべくこういう経験はしないほうがいいとは思う』『常にしんどいというか,感覚として,乗り越えられないというか,共に生き続けるものなのだろうなと思う』と語った.また,『ずっと隠してきてたので,話したりした時に結構思い出しちゃって,寝られなかったりということもあった』と述べた対象者もいた.語る行為は気づきを得たり,意味づけを促進したりする側面だけではなく,苦しみを再び引き起こすこともあった.

さらに,『まだ乗り越えれてないのが,患者さんだったら,ずっと同じ話してても全然聞けるんですけど,家族の不調は,今でも自分の中でひどい言い方してしまったり,許せなかったり.…自分も傷つくんです.分かってるのに,またしたって』『本を読んでたら,そこでぱっと気づきを得られて,のめり込むように調べていったら,何かとんでもないことしてしまったなみたいな』といった語りからは,精神疾患への理解を深める中で,自己を否定的にみることがうかがえた.肯定的意味と消えない苦悩が複雑に交錯し,体験そのものを肯定することの難しさが表出された.

Ⅴ. 考察

本研究では,精神疾患をもつ親の成人した子どものBFを明らかにした.その結果,対象者は,過去の体験を振り返りながら,【人のつらさへの共感】【経験を活かした他者貢献】【人の支えとつながりの実感】【自分の中にある強さへの気づき】【人生の価値の発見】という肯定的側面を見出していた.一方で,これらを見出す過程には,過去の苦しみが消えずに残り続けているという側面もみられた.

本研究で明らかになった肯定的側面は,BFの先行研究で明らかにされている,「共感」「個人的な強さ」「感謝」「人生の意味」といった要素と一致していた(Chiba et al., 2025Kritikos et al., 2021Tennen & Affleck, 2002).このことは,精神疾患をもつ親の子どもにおいてBFが成立しうることを示唆している.また,BFと同様に肯定的な変化として報告されるPTG(Posttraumatic growth)の「自己認識の肯定的な再評価」「対人関係の強化」「人生の価値観と信念の変化」とも親和性がみられた(Tedeschi & Calhoun, 2004).さらに,精神疾患をもつ親の子どもにおける経験の肯定的側面について述べたMcCormack et al.(2017)の結果とも一致し,精神疾患をもつ人の家族介護者の研究で報告されている,「思いやりの深化」「寛容さ」「他者貢献」「レジリエンス」「人生の視点の変化」などと共通点がみられた(Bauer et al., 2012Dijkxhoorn et al., 2023Drost et al., 2016Reynolds et al., 2022).

一方で,本研究の対象者が小児期以降の体験から肯定的側面を見出す過程においては「信念や世界観を揺るがすような破壊的な出来事」が前提条件となるPTGとは異なる特徴がみられた.本研究の対象者の多くは小児期には生活体験や状況を,当たり前として受け止め,困難ととらえず,青年期以降に徐々に意味づけが進行していく過程が確認された.子どもは,日常的かつ慢性的な心理的負担を抱えるが(Gladstone et al., 2011羽尾・蔭山,2019),本人が気づかないうちに,心理的適応力や共感性が育まれ,意味づけの過程でこうした内面的資源が発見されることが推察される.この「後から振り返る形での気づき」は,子どもの立場にいる人に特有の意味づけの様相を示している可能性がある.

また,本研究の結果から,精神疾患の親をもつ子どもがBFに至るには,感情への気づきと対処法の模索という自発的な行動,ピアとの関わりによる心理的支え,そして知的理解の深化といった複数の要素が,時間をかけて相互に作用することによって可能になると考えられた.対象者は,感情と状況に対処する過程で,ピアや身近な人に体験を語り自己理解を深め,かつ他者の経験を聴くことで自らの経験を客観的に捉え直す視点を獲得していた.Reynolds et al.(2022)が「経験の類似性という文脈における真の理解は,計り知れないほど貴重である」と指摘するように,ピアにより体験が受けとめられることは,心理的安全性と意味づけの促進において重要な資源であると考えられる.

そして,BFの時間的側面とプロセス性に着目することも重要である.先行研究でも子どもにおける意味づけや自己理解には長期的な時間を要することが報告されている(Abraham & Stein, 2015McCormack et al., 2017).本研究の対象者においても,まず苦しみや悲しみといった感情への気づきが生じ,それが他者に受け止められることにより,より深い感情の自覚へとつながっていくという,段階的な変容のプロセスがうかがえた.つまり,心理的安全性と知的理解が土台となり,自己と経験を相対化し再構築していく過程といえる.

一方,意味づけの過程が一部の対象者において新たな苦悩や罪悪感を喚起すること,また語ることによって再体験することについては,慎重に検討すべき課題と考えられる.例えば,精神疾患への理解が深まる一方で,『〔わかっていても〕家族にひどい言い方をしてしまい,自分も傷つく』と語る対象者もいた.これは,土田・宮越(2017)が述べた,親の疾患に関する説明への抵抗感や,松岡ら(2024)が指摘する,子どもの潜在的な責任感と同様に,自己の態度が親に与える影響を思い罪悪感を抱く心情がうかがえる.さらに,『なるべくこういう経験はしない方がいい』といった語りからは,自らの経験を単純には肯定できない葛藤の存在が示されていた.これらの結果から,意味づけが必ずしも肯定的な方向へと進行するわけではなく,見失いそうになる自己を保つために体験を肯定的にとらえようとする側面があることが示唆される.Helgeson et al.(2006)は,ストレスフルな出来事に対する意味づけが困難なままであると,反芻や苦痛に近い心理的反応を引き起こす可能性を指摘しており,意味づけの停滞や未整理な体験に伴う長期的な影響に留意が必要である.

したがって,支援者には,子どもの意味づけのプロセスに寄り添いながら,その時々の心理的状態に応じた柔軟な関わりが求められる.子どもにとって感情や体験を語ることは決して容易ではなく(Drost et al., 2016羽尾・蔭山,2019),その存在に気づき声をかけること(髙坂・蔭山,2022),さらに小児期から成人期以降も,安心して自己を表現できる場の継続的な確保(Gladstone et al., 2011)が重要である.ピアとの接点や情報へのアクセスを保障しつつ,安心して語れる場を整えるための後方支援の構築も今後の重要な課題である.

Ⅵ. 本研究の限界と課題

本研究は,当事者グループや家族会に参加経験のある人々を対象としており,グループにアクセスしていない人々の経験を含んでいない.さらに,成人期以降の親との同居の有無が体験の意味づけに影響する可能性が考えられるが,選定基準には含めなかった.加えて,対象者11名中7名が医療や福祉分野の専門職であったことから,知見には職業的背景による偏りがある可能性がある.これらは結果の一般化に一定の制約をもたらしている.また,本研究は,家庭内や生活における困難な経験を前提とし,それをどのように意味づけているかに焦点を当てた.しかし,対象者たちは困難だけに限定されない多様な経験を有しており,本研究で取り上げたのはその一部にとどまる.親との関係性は,葛藤のみならず,愛情や感謝といった複雑な感情が併存していることがうかがえたが,これらの側面を十分に扱うには至らなかった.また,小児期の体験は自伝的記憶に基づくものであり,記憶の不確実性や回想の過程で認識が変化する可能性を含むが,本研究では対象者が現在の視点から小児期をどのように意味づけ,語っているのかに焦点を当てて分析した.以上より,今後は感情の多層性や揺らぎを含めて理解するために,愛着理論や親子関係の精神病理に関する理論的枠組みを踏まえた仮説的視点の導入と,質的・量的双方の手法による検討が求められる.複雑な感情が交錯する親子の関係性と発達段階をふまえながら,BFのダイナミクスを捉えることは,当事者理解と支援のあり方を検討するうえで重要な課題である.

一方,先行研究では,小児期から成人期に語られる困難や心理社会的影響に焦点をあてた質的研究は一定数存在するが,本研究は体験のなかで見出される肯定的側面とその過程に焦点を当てた点で,独自の貢献を果たしており,特に子どもの立場にいる人の文脈から新たな知見を加えた意義は大きいと考える.今後は,より多様な背景をもつ対象者を含め,BFをより深く検討していくことが求められる.

Ⅶ. 結論

本研究は,精神疾患をもつ親の成人した子どものBFを明らかにすることを目的とした.その結果,対象者たちは,小児期からの体験から,人のつらさへの共感や自分の中にある強さへの気づきなどの肯定的側面を見出していた.一方で,こうした肯定的意味づけは直線的に進んだものではなく,葛藤や苦悩をもち続けながら形成される,動的で複雑な過程であることも明らかとなった.また,ピアによる受容などの安心できる環境の存在が,こうした過程を支える重要な要素であることが示唆された.今後は,より多様な背景を持つ対象者へのアプローチや,意味づけの心理的過程のさらなる解明が求められる.

付記:本論文の内容の一部は,27th East Asian Forum of Nursing Scholarsにおいて発表した.

謝辞:インタビューにご協力をいただいた対象者の皆様に心より感謝を申し上げます.本研究はJSPS科研費19K11216,23K09929の助成を受けたものです.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:廣田は研究の構想,デザイン,実施,執筆を行い,千葉および林はデータ収集,分析,原稿への示唆および研究全体への助言,坂東および早川は研究の構想,データ収集,分析,解釈,三宅はデータ収集,分析,解釈に貢献した.全ての著者は最終原稿を読み承認した.

文献
 
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