日本看護科学会誌
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資料
抑うつ傾向が高い褥婦に対して経験年数5年以上の助産師が行う看護援助
大西 玲奈土岐 弘美
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2025 年 45 巻 p. 845-853

詳細
Abstract

目的:抑うつ傾向が高い褥婦に対して経験年数5年以上の助産師が気づきをもとに行う看護援助を明らかにすること.

方法:助産師6名に半構成的インタビューを実施し質的記述的に分析した.

結果:助産師は【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極め(る)】【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】ことに努め【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】中で【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝え(る)】【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育(む)】み育児技術の習得より【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整(する)】していた.さらに【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成(する)】し【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】努力をしていた.

結論:明らかになった援助の実践は実践能力や抑うつ傾向が高い褥婦への援助の質の向上に貢献できる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the nursing care provided by midwives with over five years of experience to postpartum women with a high tendency toward depression.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with six midwives, and the data were analyzed using qualitative descriptive methods.

Results: Midwives made efforts to identify depressive tendencies by connecting nonverbal cues, physical conditions, behaviors, and information from family members. They built supportive relationships to promote psychological stability and continued child-rearing. Through empathetic listening and stepwise support, they helped postpartum women find meaning in their actions and fostered successful parenting experiences. Care was adjusted to prioritize rest and physical support over technical instruction. Midwives also worked to establish support systems within daily life and continuously improved the quality of care through reflection and learning in clinical practice.

Conclusion: The identified care practices contribute to enhancing midwives’ practical competencies and improving the quality of support for postpartum women with depressive tendencies.

Ⅰ. 緒言

近年メンタルヘルスにおけるケアの重要性が示され妊娠期からのメンタルヘルスへの介入が重要視されている.日本における褥婦のうち約27.4%が抑うつ傾向を示すと報告されており,エジンバラ産後うつ病質問票でも25.6%が抑うつ傾向ありとされ,産後の精神的健康問題は決して少数ではないとされている(金城ら,2011).産後では,産後の抑うつに関わる研究が多く,母親の抑うつ傾向が高いことは育児肯定感に影響を及ぼすこと(川崎ら,2019)など抑うつによる育児への影響も報告されていた.抑うつ傾向が高い褥婦は育児への不安や自責感(羽入田ら,2025)周囲に助けを求めることができないという心理的傾向にあり(斉藤ら,2024)ストレス対処能力の弱さが抑うつ傾向と強く関連している(斎藤ら,2017).さらに,産後の抑うつの介入は,継続した心理的支援が不安・抑うつに及ぼす効果があること(佐藤・佐藤,2010内野ら,2019),母親に対する癒しケアが心理的影響を及ぼすこと(伊藤ら,2017中島,2011村上ら,2008古賀ら,2008),電話訪問や助産師外来の利用による抑うつの変化があること(河下ら,2021),産後うつ予防の保健指導の効果(寺坂・岡山,2015)などがあった.これらのことから,抑うつと診断された褥婦や予防的介入に関する研究は進んでいるが,診断を受けていない抑うつ傾向が高い褥婦のメンタルヘルスにおいて,何か気になるといった微細な兆候を助産師はどのように察知し,援助につなげているのかについてはまだ十分に明らかになっていない.

また,妊産婦と接する多くの助産師,看護師にとっては妊婦の精神的問題への対応は経験が少なく,対応の質が危惧されている現状がある(日本産婦人科医会,2021).表面的には大丈夫と言う褥婦に対して実際の心理状態の把握に助産師は困難感を抱いている(斉藤ら,2024).そのため,診断を受けていない抑うつ傾向が高い褥婦に対して,助産師の何か気になるという気づきをきっかけに,その状態をどのように捉え看護援助を展開しているのかを明らかにすることは,抑うつ傾向が高い褥婦へのメンタルヘルス支援の手がかりとなる.また助産師は褥婦の最も近くにいる支援者であり,抑うつ傾向の早期発見と支援のキーパーソンであるため,看護援助が明確化されることで褥婦の抑うつ傾向に対する早期介入や継続的支援が可能となり,母子の健康維持に貢献できる.そして,明らかになった援助を実践することは助産師の実践能力の向上,援助の質の向上に貢献できること,抑うつ傾向が高い褥婦と関わる際に助産師が感じる困難さの軽減につながると考える.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,診断を受けていない抑うつ傾向が高い褥婦に対して経験年数5年以上の助産師が何か気になるという気づきをもとに行う看護援助を明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は研究者が立つ理論的視点は解釈主義的視点であり,質的記述的研究とする.

2. 用語の定義

抑うつ傾向が高い褥婦:本研究では,メンタルヘルスの不調に対して助産師の何か気になるという気づきをもとに抑うつ傾向が高いと判断した出産直後から出産後1か月程度までの褥婦を対象とした.このように助産師の主観的判断に基づいているため,医療機関を受診しても診断に至らなかった人,受診していないが診断される可能性のある人も区別せずに含めている.抑うつ傾向とは表情が乏しい,口数が少なくなる,涙を流す,食事・睡眠などのセルフケア行動がとれない,意欲の低下,他者との関わりを避けるなどがみられることをさす(武井,2019).

助産師が行う看護援助:出産後1か月程度までの対象者に,助産師の気づきや理解に基づいた行動の意図,その気づきや判断に基づいた行動と道徳的なかかわりを踏まえて実践する行為のこと(Watoson, 1988/1992植木ら,2020).

3. 研究対象者

A県内の医療機関であり,分娩を取り扱っている産科病棟と助産師外来がある病院とした.協力施設の施設長または看護部長に研究概要を説明し研究の承認を得た後,産科病棟,助産師外来で勤務する経験年数5年以上の助産師の推薦を依頼した.5年以上とした理由は「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)CLoCMiP」(日本看護協会)により産前産後のメンタルヘルスケアを自律して実践できるレベルIIIの段階とされているためである.

4. データ収集期間とデータ収集方法

データ収集期間は,2023年4月~9月であった.

褥婦を対象とした産後の抑うつに関連した看護援助について文献レビューを行い,半構成的インタビューガイドを作成した.インタビューでは出産後から1か月程度の抑うつ傾向が高い褥婦との関わりの中で何かおかしい,気がかりだ,戸惑いがあった事例の中で一番印象に残っている1事例について自由に語って頂いた.その語りの内容をもとに,半構成的インタビューガイドに沿ってより深い理解を得るための質問を展開した.内容は,対象者の基本情報と診断を受けていない抑うつ傾向が高い褥婦と出会った時の状況,抑うつ傾向が高い褥婦の背景・状態,「抑うつ傾向がみられると判断したきっかけは何であったか」「看護援助を行う際に工夫したこと気を付けたことなどはあるか」などについて助産師の気づきや理解,判断といった思考,展開した看護援助について質問した.また,看護援助実施後の抑うつ状態の変化や多職種・地域との連携について質問した.

5. 分析方法

分析手順として,まず逐語録を作成し抑うつ傾向をキャッチするための助産師の気づきや判断といった思考,抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行った関わりや働きかけといった行動の部分の語りを抽出した.そして語りからコードを抽出し,類似性,相違性を検討した上で,サブカテゴリーを生成した.さらにサブカテゴリー間の関係性や意味内容の解釈を進め抽象度を上げながらカテゴリーを生成した(グレッグら,2017).その後,カテゴリーを用い,助産師の気づきや判断から展開した援助として時系列的な流れを意識し看護援助の実態を記述した.分析の妥当性及び信頼性の確保のために,助産学領域に精通している教員,質的研究に精通している教員にスーパーバイズを受けながら進めた.

6. 倫理的配慮

香川県立保健医療大学倫理審査委員会の承認(承認番号:376)を得て実施した.研究対象者には文章および口頭にて,研究の主旨,研究協力の任意性と撤回の自由,研究に関する情報の提示,プライバシーの保護,研究成果の公表等について説明し,同意書への署名をもって同意とみなした.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の概要

対象施設はA県内の3施設の医療機関であり,病棟助産師が外来業務も兼任しており,精神科・心療内科を有していなかった.対象者は6名で平均年齢は41.7歳(34~49歳),経験年数は平均16.3年(12~23年)であった.面接はそれぞれ1回ずつ面接時間は平均39.2分(31~56分)であった.

2. 抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助

抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助は8個のカテゴリー,22個のサブカテゴリーが抽出された(表1).以下にカテゴリー,サブカテゴリーの詳細について述べる.なお,【 】はカテゴリー,『 』はサブカテゴリー,「 」は語りを示す.

表1 抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助

カテゴリー サブカテゴリー ケース
非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める 表情や身体的変化,言動,パートナーや家族の情報を抑うつのアセスメントを行う材料として活用する A,B,C,D,E,F
抑うつの指標を活用する D,F
セルフケアに影響を与えていないかアセスメントする A,F
自殺や自傷行為などのリスクがないか褥婦の非言語的部分の変化を察知する C
抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む 抑うつの程度に合わせて焦らず育児技術の習得を目指す A,C,D
自分で児の泣きの対処や授乳ができることを実感できるよう支える B,D,F
褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える 褥婦自身が今行っている育児を肯定し認める D,E
メンタルヘルスの不調により定期健診以外で受診したことをねぎらい認める A
抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する 育児技術の習得より休息や痛みのコントロールに関する身体的援助を実施する B,F
抑うつ状態であると判断した際は必要時母子同室の時間やタイミングを調整する B
褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う 思いを自由に語れるように個別で話を聞く時間を設ける A,B,C,D,E,F
助産師自身の体験や思いと照らし合わせることで褥婦の思いを把握しながら共感を示す B
豊かな治療的コミュニケーション技術を適切に選択し活用する A,B,C,D
褥婦のニーズを予測しながら援助を実施する A,B,C,D,E,F
専門的な機関への受診の必要性を判断し動機付けを行う A
褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する 援助者として安心して援助を任せてもらえる関係性を意図的につくる A,B,C,D,F
分娩の経過や母乳育児に対する価値観を踏まえたうえで育児に関する相談を受ける A,B,D
暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する 助産師自身が地域への橋渡し役となり褥婦を取り巻く専門職種や家族のサポート体制を整える A,B,C,D,E,F
パートナーや家族との家庭内役割の調整をサポートする B,C,E,F
臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める 限られた環境の中で助産師として今できる最適な援助を熟考し実施する A,D
助産師同士の情報共有を行うことで援助の質を高める A,C,E,F
褥婦の変化を読み取り実施した援助を振り返る A,B,D,E,F

1) 【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める】

【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める】とは,抑うつのアセスメントの材料となる褥婦の表情や視線などの非言語的部分や身体的変化,言動,パートナー・家族からの情報,抑うつの指標,セルフケアの状態など様々な気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極めることである.

「来られた時の表情もほんとに表情がないし,入院中のその人の様子と比べたらなんか頬がこけてやせてるなっていう印象と,お友達が支えるようにして歩かれていて.」…A

と『表情や身体的変化,言動,パートナーや家族の情報を抑うつのアセスメントを行う材料として活用(する)』していた.

「決定的なのはやっぱりエジンバラが16点.で,ボンディングが10点.エジンバラまあまあ高い人おるんですけど,ボンディング10点って結構高い.」…F

と『抑うつの指標を活用(する)』することで,抑うつのアセスメントを行う材料として活用していた.

「本人は全然ご飯を欲しいと思わない状況だったけど,家族の方がちょっと促してパン少しだったり焼きそば少しを食べている状況で,本人は寝れてるとおっしゃっているけど,ソファーに横になって朝を迎える感じであったり,(中略)本人はほぼほぼ横になっている状態だったんで.」…A

と抑うつの程度を判断するため育児だけでなく『セルフケアに影響を与えていないかアセスメント(する)』していた.

「とにかく患者さんの言動やったり視線やったり,非言語的な部分を見落とさんように気を付けて.(中略)自分を傷つけるとか(中略)逐一様子は気にはしよったのと.」…C

と褥婦の発言などの言語的部分だけでなく,『自殺や自傷行為などのリスクがないか褥婦の非言語的部分の変化を察知(する)』していた.

以上より,助産師は褥婦の『表情や身体的変化,言動,パートナーや家族の情報を抑うつのアセスメントを行う材料として活用(する)』していた.また『抑うつの指標を活用する』ことで褥婦の精神状態を把握し,加えて『セルフケアに影響を与えていないかアセスメントする』ことや『自殺や自傷行為などのリスクがないか褥婦の非言語的部分の変化を察知(する)』していた.これらの看護援助は,【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める】実践であった.

2) 【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】

【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】とは,褥婦が成功体験を得られるよう抑うつの程度に合わせて焦らず育児の習得をサポートすることである.

「精神的に支えなくちゃいけないし,育児全然できないまま帰るわけにもいかんしっていう.赤ちゃんをセットで考えつつお母さんが自律してやっていけるっていうところですかね.」…A

と『抑うつの程度に合わせて焦らず育児技術の習得を目指(す)』していた.

「この人は,やっぱり赤ちゃんが泣いてる泣き声にすごくストレスを感じてたんで,(中略)ちょっと一緒に練習してみて.それで泣き止むんやっていうのが分かったらおうちでも実践できるし.」…F

と『自分で児の泣きの対処や授乳ができることを実感できるよう支え(る)』ていた.

以上より,助産師は褥婦に『抑うつの程度に合わせて焦らず育児技術の習得を目指(す)』し,『自分で児の泣きの対処や授乳ができることを実感できるよう支え(る)』ていた.これらの看護援助は【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】実践であった.

3) 【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】

【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】とは,褥婦が自ら実施している育児やメンタルヘルスの不調に対する行動を認め保証することである.

「今やっていることが間違っては絶対にないと思うし,それが褥婦さんの対応が悪かったけんとかそういうわけでは絶対ないと思うから,否定したりとか,そういう必要はないと思うし逆に認めてあげたり.」…D

と『褥婦自身が今行っている育児を肯定し認め(る)』ていた.

「先生も私もソーシャルワーカーさんとかも他の看護師もみんながやっぱり,打ち合わせをしたわけじゃないけど,ほんまによう来たね今日って言って.」…A

と『メンタルヘルスの不調により定期健診以外で受診したことをねぎらい認め(る)』ていた.

以上より,助産師は『褥婦自身が今行っている育児を肯定し認め(る)』,『メンタルヘルスの不調により定期健診以外で受診したことをねぎらい認め(る)』ていた.これらの看護援助は,【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】実践であった.

4) 【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する】

【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する】とは,必要時母子同室を調整しながら育児技術の習得より褥婦の休息や痛みなどの基本的欲求を満たす身体的援助を優先して行うことである.

「やっぱり寝たら元気になるんですよ.イライラもちょっと忘れる.だけんその眠れる環境をつくる.」…F

と『育児技術の習得より休息や痛みのコントロールに関する身体的援助を実施(する)』していた.

「昼間の間の母子同室を少し長めにやるところからして,夜は預かるようにしたり.ただずっと退院まで預かると,夜の授乳ができなくなるから(中略)お母さんの希望と体調を見ながらやっていった感じ.」…B

と『抑うつ状態であると判断した際は必要時母子同室の時間やタイミングを調整する』ことで褥婦の体調と育児の調整を行っていた.

以上より,助産師は『抑うつ状態であると判断した際は必要時母子同室の時間やタイミングを調整(する)』し,『育児技術の習得より休息や痛みのコントロールに関する身体的援助を実施(する)』していた.これらの看護援助は,【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する】実践であった.

5) 【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】

【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】とは,褥婦の語りに対して治療的コミュニケーションを活用することで抑うつ改善を目指すと同時に抑うつ改善のための援助を語りの中から得た情報を基に見極め実施することである.

「まずはたぶんアドバイスというよりは話を聞いてあげたりとかその思いを引き出すというのができたらいい.」…D

と『思いを自由に語れるように個別で話を聞く時間を設ける』ことで思いの表出を促していた.

「そんなことあるよね,分かるわという共感する気持ち.私も育児とかしているともう嫌になることとか,思いどおりにいかないことなんて山ほどあるから.」…B

と褥婦が抑うつ状態にあることを掴みながらも,精神科や心療内科への受診をすすめることを優先するのではなく,まずは『助産師自身の体験や思いと照らし合わせることで褥婦の思いを把握しながら共感を示(す)』していた.本研究では受診の必要性が高い対象者はいなかった.

「私自身の声の大きさが大きかったらしんどいかなって思ったので,声のトーンだったり早口で話しても多分伝わらないだろうから話すスピードをゆっくりしたりだとか.」…A

と助産師の持つ『豊かな治療的コミュニケーション技術を適切に選択し活用(する)』していた.

「いや,今思ってもこの人が求めていたものは分からないですね.いろいろ予測はして関わりました.」…C

と語りの中で抑うつの状態にある褥婦に対する自己の判断に不確かさを持ちながらも『褥婦のニーズを予測しながら援助を実施(する)』していた.

「病院に行きましょって言うんじゃなくて,病院に行ってよくなったら次こういったことができるよっていうようなところを伝えていけたからかな.」…A

と褥婦の抑うつの状態に応じては『専門的な機関への受診の必要性を判断し動機付けを行う』ことでより専門的機関へつなげていた.

以上より,助産師は『思いを自由に語れるように個別で話を聞く時間を設け(る)』,『助産師自身の体験や思いと照らし合わせることで褥婦の思いを把握しながら共感を示(す)』し,『豊かな治療的コミュニケーション技術を適切に選択し活用(する)』していた.さらに,『褥婦のニーズを予測しながら援助を実施(する)』し,必要に応じ『専門的な機関への受診の必要性を判断し動機付けを行(う)』っていた.これらの看護援助は,【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】実践であった.

6) 【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】

【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】とは,育児継続に対して有効な援助を実施するため褥婦の価値観の把握を踏まえ関係性を意図的に構築することである.

「取りあえず私は敵じゃないぞというところから.やっぱり一番産後のしんどいときに,この人に話してもあんまり役に立たなかったら話すんもったいない.」…F

と安心できる人や話しやすい空間を作ったりすることで,『援助者として安心して援助を任せてもらえる関係性を意図的につく(る)』っていた.

「お産の経過だったりそれまで関わっとった人だったら,より自分の中で分かってくれているという気持ちにつなげられやすいんかなと思うし,育児面とか相談できる.こういうことを助産師だったら聞いてもいいかなということにつながってくれていたら.」…D

と『分娩の経過や母乳育児に対する価値観を踏まえたうえで育児に関する相談を受ける』ことで褥婦の価値観を把握していた.

以上より,助産師は『分娩の経過や母乳育児に対する価値観を踏まえたうえで育児に関する相談を受け(る)』,『援助者として安心して援助を任せてもらえる関係性を意図的につく(る)』っていた.これらの看護援助は,【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】実践であった.

7) 【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する】

【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する】とは,助産師自身が地域への橋渡し役となり専門職種や家族など褥婦を取り巻く援助者を増やすことで暮らしの中で支援を継続できる体制を作ることである.

「産婦人科の医師,精神科の医師,外来助産師,ソーシャルワーカーさん,それから退院支援の担当看護師,地域連携室にいる退院支援.あと家族,パートナー,旦那さん.」…A

と『助産師自身が地域への橋渡し役となり褥婦を取り巻く専門職種や家族のサポート体制を整える』ことで支援を継続できる体制を作っていた.

「退院後の生活もちょっと見据えて話さしてもろたり,旦那さんも一緒に話を聞いてもらって.義理のお母さんに退院指導を一緒に聞いてもらって.」…E

と『パートナーや家族との家庭内役割の調整をサポートする』ことで暮らしの中で抑うつの改善を促していた.

以上より,助産師は『助産師自身が地域への橋渡し役となり褥婦を取り巻く専門職種や家族のサポート体制を整え(る)』,加えて『パートナーや家族との家庭内役割の調整をサポート(する)』していた.これらの看護援助は,【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する】実践であった.

8) 【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】

【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】とは,助産師として最適な援助を熟考し情報共有を行いながら援助を実施したのちに振り返りを行うというサイクルにより援助の質を高めることである.

「場所が外来だったっていうこともあるので,身体的援助としてできることってすごい少ないかなと思ったので.逆に言ったら精神的援助以外にできることがあんまりないのかなって.入院中とかだったら休んでもらうとかいろいろできるけど.」…A

と『限られた環境の中で助産師として今できる最適な援助を熟考し実施する』ことで常に考えを巡らせていた.

「問題のある人.それをまとめて資料にして対応してる.だけんあの人やっていうのは分かる.外来の人がちょいちょい来てくれる病棟に.」…E

と『助産師同士の情報共有を行うことで援助の質を高め(る)』ていた.

「ちょっと表情がいいかなと.うん.表情がすごいよかった.」…E

と『褥婦の変化を読み取り実施した援助を振り返る』ことで援助の評価をしていた.

以上より,助産師は『限られた環境の中で助産師として今できる最適な援助を熟考し実施(する)』し,『助産師同士の情報共有を行うことで援助の質を高め(る)』ていた.そして『褥婦の変化を読み取り実施した援助を振り返(る)』っていた.これらの看護援助は,【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】実践であった.

3. 抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助の実態

助産師は,抑うつの診断を受けていない褥婦に対し,自ら【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める】ことで抑うつに関するアセスメントをしていた.多様な情報から抑うつであると判断した際には,有効な援助を実施するため【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】ことに努めていた.そして,【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】ことをしていた.【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】こと,育児技術の習得に関しては【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】ことを意識しており,褥婦自身の健康状態が整っていない場合には育児技術の習得より【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する】ことを意識していた.さらに,援助実施後も【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する】ことで支援が途切れないようにサポートしていた.これらの実践の中で助産師は常に【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】努力をしていた.

Ⅴ. 考察

1. 抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助

抑うつの診断を受けていない抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助においては,まず助産師が自ら【非言語・身体・言動・家族から得た情報の気づきをつなぎ抑うつ傾向を見極める】ことで抑うつに関するアセスメントをしていた.実際に助産師は,エジンバラ産後うつ病質問票などの抑うつの指標を活用することに加え表情や,言動,パートナーや家族の情報など幅広い情報をキャッチしており,助産師自身の“何か気になる”という気づきを得ていた.抑うつの程度によっては,出産前の早期からケースカンファレンスが行われることも多く,適切な時期に援助が受けられるよう意識的な関わりが行われている(名和,2020).そのため,明らかな抑うつ状態の褥婦の場合は抑うつという目線で現在の病状をアセスメントしていくが,抑うつ傾向が高い褥婦に対しては多様な情報をキャッチし助産師の“何か気になる”という気づきから抑うつ傾向が高い褥婦であると判断するため助産師自身の気づきがより重要であるといえる.これは抑うつの程度によって展開している看護援助の相違点であると考える.

多様な情報から抑うつ傾向が高いと判断した際には【褥婦の育児継続に向けた心理的安定を支える関係性を構築する】ことに努めていた.助産師は精神疾患をもつ褥婦との関係性の構築に困難感を感じている(谷郷ら,2018).しかし,実際は困難さを感じながらも援助実施前に関係性を構築することを意識していた.一方で,援助者としての立場を自覚し安心して援助を任せてもらえる関係性の構築につなげていた.

そして関係性を構築しながら援助実施の際には【褥婦の語りに深く耳を傾け共感的な関わりと必要な援助を段階的に行う】ことをしていた.思いを自由に語れる場を提供することで,共感を示したり治療的コミュニケーションを活用したりすることで抑うつの改善を目指していた.周産期における精神療法においては,傾聴と共感を基本とした支持的関わりを行うことが最も重要であるとされている(蛭﨑,2018).実際に助産師は,思いを自由に語れる場を提供しており会話の中で支持的関わりを行っていた.

【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】ことは褥婦が行っている育児の仕方や努力していることに対して認めることで抑うつの改善を促すものであった.軽度の抑うつや不安がある場合には,支持的な関わりで改善する可能性が高いとされており(蛭﨑,2018),これは抑うつの改善を目指すためのケアとしての軸を持ちつつ助産師と褥婦の関係性にも影響を与えるものであった.育児技術の習得に関しては【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】ことを意識していた.入院中と1か月時の悩みに関しては授乳に関することが多くを占めており,授乳のトラブルと褥婦の抑うつには大きな関連があるといわれている(梅﨑・大井,2015).そのため,授乳を踏まえた母子に詳しい助産師だからこそ抑うつ改善のために専門的な知識や技術を活用した指導を行っていた.しかし,褥婦自身の健康状態が整っていない場合には育児技術の習得より【抑うつの状態に配慮し休息や身体的援助を中心に援助を調整する】ことを実施していた.産後は不十分な痛みのコントロールや夜間の睡眠不足などにより褥婦の体調がすぐれない場合も多く,母子同室の時間やタイミングを調整しながら身体的援助を優先して実施していた.褥婦自身の身体的健康度はうつの症状に有意に影響しており休息のなさに対するストレス認知も有意な影響力もっているとされており(玉木,2007),抑うつの診断を受けている褥婦に対してはより身体的援助が優先されている.本研究結果において,抑うつ傾向が高い褥婦に対しては【褥婦が自ら行った育児や受診などの行動を意味あるものとして伝える】【抑うつの兆しに配慮しつつ育児の成功体験を育む】ことを意識し精神面に対して肯定的に捉えられるような援助を積極的に展開していた.産後の抑うつには自尊感情と母親役割に対する自己評価が最も強く影響しているといわれており,自己評価を高めることの重要性が示唆されている(玉木,2007).これは,抑うつの程度によって展開している看護援助の相違点であると考える.

さらに,これらの援助を実施すると同時に【暮らしの中で褥婦の心理的安定と育児継続を支える支援体制を形成する】ことで支援が途切れないようにサポートしていた.メンタルヘルスケアが必要な妊産褥婦の場合は多職種の連携の下で見守る必要があるとされている(日本産婦人科医会,2017).加えて,パートナーからの情緒的サポートや手段的サポートが多いほど抑うつレベルが低いといわれており(玉木,2007),助産師は退院後の生活についての理解を促すことで家族内役割の調整をサポートしていた.抑うつの診断を受けている場合は妊娠期から地域に情報共有を行い社会的ハイリスク妊婦として保健・福祉の介入が行われるとされている(名和,2020).そのため,抑うつの診断を受けていないからこそ見落とされ発見が遅くなる可能性もあり,抑うつ傾向が高い褥婦に対してより支援を継続できる体制を作ることは重要であるといえる.

以上に述べた実践の中で助産師は常に【臨床現場で思考と内省を重ね学び続けることで援助の質を高める】努力をしていた.褥婦自身が親身になって考えてくれていると実感できる関わりは褥婦の安心感に大きな影響を与えるといわれている(斉藤・岡永,2023).また,チームとして専門性を発揮できる環境の構成要素として普段から円滑な連携を持つことが重要であるといわれており(林田,2023),実際に助産師は病棟の枠を超えた情報共有,援助後の評価を常に行っていた.

2. 抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助への示唆

本研究から抑うつ傾向が高い褥婦と関わる際に,今後の精神状態の回復や育児適応に対する不安を抱きながら援助を行っている様子も明らかになった.抑うつ傾向が高い褥婦に対する援助は意思疎通も上手くできない場合があり援助に時間を有することから助産師は援助に対して困難さを抱いている(森川・八木,2016).そのような中でも今回明らかになった看護援助を展開し丁寧な関わりを実施しようと意識していた.さらにどの助産師も援助を行う際に褥婦のニーズを予測しながら関わっていた.このような看護援助の状況を経験豊かな助産師の語りから可視化できたことは助産師自身が現在も実践しているメンタルヘルスに関する看護援助を意識化でき,今後の援助方法の検討のきっかけにもなると考えられる.

また,本研究の対象者は「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)CLoCMiP」(日本看護協会)により産前産後のメンタルヘルスケアを自律して実践できるレベルIIIの段階である経験年数5年以上の助産師とされている.そのため,明らかになった援助を実践することで助産師の実践能力の向上にもつながり,看護援助のレベルアップにより抑うつ傾向が高い褥婦への援助の質の向上に貢献できること,助産師が感じる困難さの軽減につながると考える.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,3施設6名の助産師による一事例を対象とし精神科・心療内科を有する施設は含まれていなかった.そのため特定の施設背景に基づく実践に限られ,他職種との協働による実践の在り方については検討が及ばなかった.また対象となった褥婦には抑うつの程度に幅があり,得られた結果は一部に限られる可能性がある.研究目的に照らして一定の示唆は得られたものの,概念の充足度は限定的である.一方で,連携が困難な環境における助産師の実践を明らかにした点は本研究の意義といえる.今後は,体制の異なる施設からのデータ収集を通じてより包括的な看護援助の在り方を検討する必要がある.

Ⅵ. 結論

抑うつ傾向が高い褥婦に対して助産師が行う看護援助は8個のカテゴリーが抽出された.明らかになった抑うつ傾向が高い褥婦への援助を活用することは助産師の実践能力の向上にもつながり質の向上に貢献できること,助産師が感じる困難さの軽減につながると考える.

付記:本論文の内容の一部は第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.また,本研究は香川県立保健医療大学大学院保健医療学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究を行うにあたり,インタビューに快くお答えくださった助産師の皆様に深く感謝申し上げます.また,研究にご協力くださいました施設の看護部長様,病棟師長様をはじめ関係者の皆様に心より御礼を申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:大西は研究の着想,インタビューの実施及び分析,草稿の作成,土岐は研究の着想,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言,両著者は最終原稿を読み承諾した.

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