日本看護科学会誌
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原著
急性期病院における注射薬調製時の看護師によるチェック方法の実態と効果的なチェック行動を阻害する特性の認識
飯田 恵清水 佐知子松村 由美
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2025 年 45 巻 p. 877-888

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Abstract

目的:急性期病院における注射薬調製時の看護師によるチェック方法の実態と効果的なチェック行動を阻害する特性に対する病棟看護師と医療安全管理者の認識を明らかする.

方法:全国126病院の病棟看護師と医療安全管理者に質問紙調査を実施した.

結果:病棟看護師1,190名,医療安全管理者100名から回答を得た.病棟での調製時のチェック方法は14種類以上であり,2人チェックは調製時の照合場面で64.4%(独立型33.5%,依存型30.9%)であり,計算場面で95.2%(独立型30.1%,依存型65.1%)であった.種々のチェック方法により責任感の欠如,チェック所要時間の増大,作業中断等の阻害特性の認識に違いがあり,病棟看護師と医療安全管理者の認識にも違いがあった.

結論:効果的なチェック行動を阻害する特性を低減するチェック方法で確認することによりエラー防止につながる可能性があることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify current practices in checking methods used by nurses during injection drug preparation in acute care hospitals and to examine the perceptions of ward nurses and medical safety managers regarding characteristics that hinder effective checking behavior.

Methods: A nationwide questionnaire survey was conducted among ward nurses and medical safety managers at 126 hospitals.

Results: Responses were received from 1,190 ward nurses and 100 medical safety managers. Over 14 different checking methods for drug preparation were reported. Two-person checking was used in 64.4% of verification procedures (33.5% independent and 30.9% dependent) and in 95.2% of calculation procedures (30.1% independent and 65.1% dependent). Perceptions of inhibiting characteristics including lack of accountability, increased time requirements, and workflow interruptions—varied by checking method and differed between ward nurses and medical safety managers.

Conclusion: Robust error prevention requires adopting checking methods that minimize characteristics inhibiting effective checking behavior.

Ⅰ. 緒言

投薬エラーの低減は,世界的な課題である.世界保健機関(2023)によると,世界では患者の20人に1人が医療現場で本来防ぐことができた薬の被害を経験しており,そのうちの4人に1人は重篤または生命を脅かす状態に陥っているとされている.日本では報告された医療事故6,070件のうち,投薬エラーは492件(全体の8.1%)を占め,投薬エラーのうちの343件(69.7%)は,確認を怠ったことが関連していると報告されている(日本医療機能評価機構,2024).投薬エラーを防ぐためには薬剤の確認を確実に行い,その効果を高めることが重要である.

安全確認の重要性が指摘される一方で,日本医療機能評価機構(2022)は日本において薬剤のチェック方法が標準化されていないと指摘している.すなわち,チェック方法の定義や具体的な実施方法は施設により異なり,その実態は十分に把握されていない.このため,日本でどのような薬剤のチェック方法が用いられているかを明らかにすることが,安全で効率的なチェック方法を検討する前提として重要であると言える.

チェック方法には,それぞれに利点と限界があり,効果的な投薬エラー防止行動を阻害する人間特性や業務特性(以下,阻害特性と略す)を内在している.シングルチェックは人間がもつ注意の容量の限界からエラー発生の危険性を高める一方,看護師としての責任感を高め,時間効率的であるとの報告がある(Cross et al., 2015).ダブルチェックは,1人の個人から生じる内在的エラーを最小限に抑え,外部要因(例えば,読みにくさ)から生じる外在的エラーを独立して確認を行うことで減少させる(Koyama et al., 2020)と述べられている.しかし一方で,ダブルチェックは権威への服従や責任感の低下,自動処理化,時間の不足につながるとの指摘や(Armitage, 2008),形骸化や頻繁な中断作業をもたらし(Schwappach et al., 2018),業務量の増加(Kruse et al., 1992)をもたらすとの指摘がある.このようにシングルチェックやダブルチェックの種々のチェック方法には阻害特性が存在することから,それらの特性について看護師がどのように認識しているかを把握することは重要である.

以上の背景を受け,今回,血管内に直接投与されるためエラーのリスクが高く,早急な対策が求められる注射薬に注目した.そして調製時の指示と注射ラベル,注射薬との照合場面や1アンプルのうちの一部を使用する計算が必要な確認場面においてエラーが起こった場合に早期に気づくことができない注射薬調製時のチェック方法について検討することとした.本研究では日本の急性期病院における注射薬調製時の看護師のチェック方法の実態を明らかにするとともに,それらの方法に内在する阻害特性に対する病棟看護師と医療安全管理に関わる専従(専任,兼任)看護師(以下,医療安全管理者とする)の認識を明らかにすることを目的とする.病棟看護師は実務者として目の前の投薬業務を安全で効率的に行う責任を負う主観的視点をもち,医療安全管理者は組織の安全を多面的にとらえ効果的な仕組みを作る責任を負う管理者としての客観的視点をもつため,両者の認識に違いがあると考えられる.役割と視点の違いによる認識の相違を明らかにすることは,実効性のある対策や教育的アプローチの検討に資すると期待される.

Ⅱ. チェック方法の定義と分類

本研究におけるチェック方法の分類とその定義を表1に示す.一般的に医療の文脈では,ダブルチェックを2名の医療者が確認すること(日本医療安全学会,医療の質・安全学会,2023)とされているため人数による分類を採用し,看護師1名で確認する方法を「1人チェック」,看護師2名で確認する方法を「2人チェック」とした.また2人チェックは実施の独立性によって「独立型」と「依存型」に分類した.Westbrook et al.(2021)を参考に,2人の看護師が情報を共有することなく別々にチェックを行う「独立型」と情報を共有する「依存型」に分類した.さらに,伊地知ら(2012)のチェックの構成要素に基づき,チェック回数(1回,2回),視点,チェックの方向(同方向・双方向)・チェックの時間(連続,時間差),チェックのタイミング(同時,別),役割交替(交替する,交替しない),機械照合の有無を加味して分類した.本分類は,実施人数,確認者間の関与様式,チェック構成要素,および技術支援の有無を含み,投薬時に用いられる主要なチェック方法を網羅的に捉えていることを,臨床経験と医療安全に関する研究実績を有する複数の研究者による専門家間の合意形成を通じて確認した.

表1  注射薬調製時の照合場面のチェック方法

Ⅲ. 研究方法

1. 対象

厚生労働省施設概要表(厚生労働省,2021)に基づき,全国1,752 DPC(診療群分類包括評価病院)参加病院を8 地域に区分し,さらに病床規模別に10区分に分類した上で,地域別および病床規模別に層化抽出を行い,504病院に研究協力を依頼した.DPC参加病院を選定した理由は,これらの病院が急性期治療を担っているため,投薬件数が多いことに加え,入院基本料の施設基準に医療安全管理体制の確保が含まれており,専従または専任の医療安全管理者が配置されている可能性が高いと考えたためである.

承諾の得られた126病院(承諾率25.0%)に対し,病棟看護師20名と医療安全管理者1名を対象として質問票の配布を依頼した.病棟看護師については,看護師経験1年目と看護師長(課長)は除き,可能な範囲で病棟や年齢に偏りがないように協力を依頼した.医療安全管理者のみの協力が2病院,病棟看護師と医療安全管理者各1名のみの協力が1病院あり,結果として病棟看護師2,461名と医療安全管理者126名を対象とした.調査期間は2024年7月から9月であった.

2. 質問項目

本研究の質問項目は4領域で構成し,医療安全管理者対象41項目,病棟看護師対象43項目とした.領域は,1)施設属性(病床数,病院の類型,所在都道府県,看護職員配置状況),2)個人属性(病棟看護師:年齢,臨床経験年数,現在の配属部署,職位/医療安全管理者:医療安全管理者としての経験年数),3)チェック方法(注射薬調製時の指示と注射ラベル,注射薬のチェック方法,1アンプルの一部使用など計算を伴う場合のチェック方法),4)阻害特性に関する認識である.

阻害特性に関する認識についての質問項目は以下のとおり作成した.まず,先行文献(河野,2025重森,2022Cross et al., 2015Armitage, 2008Schwappach et al., 2018Kruse et al., 1992)および医療安全管理者と病棟看護師へのヒアリングを基に質問項目原案を作成した.原案は,基礎看護学修士課程の学生8名,医療安全管理者3名,病棟看護師3名による表面妥当性と内容妥当性の初期検討を経て修正した.さらに,看護学教員7名,医療安全管理学分野の教員2名,看護管理者2名を対象に内容妥当性の詳細な検討を実施した.看護学教員4名と,投薬を実施している副看護師長2名を対象に内容妥当性指数(Content Validity Index: CVI)を算出した.その結果,全項目でI-CVIが0.80以上,S-CVIは0.95であったため,Polit, Beck, & Owen(2007)の基準に従い,全項目を採用した.

最終的に,阻害特性は人間特性として14特性(「相手への依存」「相手への過信」「責任感の欠如」「自律心の欠如」「注意力の欠如」「集中力の欠如」「錯視」「思い込み」「平静心の欠如」「形骸化」「自動化」「時間がない時の判断の欠如」「社会的手抜き」「権威勾配」)と,業務特性6特性(「チェックに必要な時間の欠如」「チェック所要時間の増大」「チェック時間の集中」「適時性の欠如」「自分の作業中断」「他者の作業中断」)から構成され,質問項目は,「責任感の欠如」として3つの質問項目があり,「注意力の欠如」として2つの質問項目があるため,合計23項目となった.

病棟看護師には自身が最も頻繁に実施しているチェック方法について,医療安全管理者には自院で最も頻繁に実施しているチェック方法について問うた.そして最も頻繁に実施しているチェック方法が,それぞれの阻害特性として,どの程度当てはまるかを6件法(1:全くそう思わない~6:大変そう思う)で尋ねた.

3. 分析方法

各質問項目の記述統計量を算出した.病棟看護師と医療安全管理者それぞれの結果から,チェック方法別にみた阻害特性の認識の違いをクラスカル・ウォリス検定と多重比較で比較した.クラスカル・ウォリス検定を用いたのは,正規性の検定結果,正規性が確認されなかったためである.またnが6未満の場合,ノンパラメトリック検定を用いることができないとされることから(水本,2010),回答者数が6名以上のチェック方法について分析を行った.効果量はη2を算出し,効果量がCohenの基準である0.06程度以上の中程度から大きい水準であることを確認した.有意水準は5%とした.分析は統計ソフトIBM SPSS Statistics バージョン30を用いた.なお,分析にあたっては,阻害特性に対する認識の程度が大きいほど点数が高くなるように質問内容により点数を逆転させた.

4. 倫理的配慮

本研究は武庫川女子大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号23-74).質問票には,対象者が同一の病院に所属していることが分かるように番号を付与したが,この番号と病院名とは紐づけされておらず,病院名の特定は不可能であること,個人の特定はされないことを説明文書に明記した.

Ⅳ. 結果

病棟看護師1,190名より回答を得た(回収率48.4%).同意チェック欄に記載のない153名と看護師長や外来看護師等の対象外の回答29名を除外し,有効回答は1,008名(有効回答率41.0%)であった.医療安全管理者は100名より回答を得た(回収率79.4%).このうち,同意チェック欄に記載のない3名を除外し,有効回答は97名(有効回答率77.0%)であった.

1. 対象病院の属性

病棟看護師と医療安全管理者を対象とした結果を合わせると,病棟看護師,医療安全管理者ともに回答のなかった1病院を除き,125病院から回答が得られた.地域別の内訳では,北海道地方が8病院(6.4%),東北地方が10病院(8.0%),関東地方が31病院(24.8%),中部地方24病院(19.2%),近畿地方20病院(16.0%),中国地方が11病院(8.8%),四国地方が4病院(3.2%),九州地方が17病院(13.6%)であった.病床数の内訳は500床以上が22病院(17.6%),300床以上~500床未満が43病院(34.4%),100床以上~300床未満が53病院(42.4%),100床未満が7病院(5.6%)であった.

2. 対象者の属性

対象者の属性を表2に示す.病棟看護師の平均年齢は37.4 ± 10.3歳であり,看護師経験年数は14.1 ± 9.6年であった.配属部署の内訳は外科系病棟246名(24.4%),内科系病棟224名(22.2%),外科内科混合病棟205名(20.3%),集中治療室93名(9.2%),小児病棟26名(2.6%),精神科病棟13名(1.3%)であった.職位は副看護師長(主任等)が213名(21.1%),職位を有さないスタッフが776名(77.0%)であった.

表2 対象者の属性

度数(%) 平均値 標準偏差 範囲
病棟看護師
n = 1008)
年齢(歳) 37.4 10.3 21~65
看護師経験年数 14.1 9.6 1~40
配属部署 外科系病棟 246(24.4)
内科系病棟 224(22.2)
外科内科混合病棟 205(20.3)
集中治療室(ICU・CCU・NICU等) 93(9.2)
小児病棟 26(2.6)
精神科病棟 13(1.3)
その他 200(19.9)
無回答 1(0.1)
職位 副看護師長(主任等) 213(21.1)
スタッフ 776(77.0)
その他 15(1.5)
無回答 4(0.4)
医療安全管理者
n = 97)
医療安全管理者経験年数 3.2 3.3 0~20

医療安全管理者の医療安全管理者としての平均経験年数は3.2 ± 3.3年であり,経験年数3年未満が52.1%を占めていた.

3. 注射薬調製時のチェック方法の実態

1) 注射薬調製時の照合場面のチェック方法(表3

指示と注射ラベル,注射薬のチェック方法について,日勤帯に関する病棟看護師の回答では1人チェック(1人機械照合型を含む)が304名(30.2%),2人チェックが649名(64.4%)であり,そのうち,独立型が338名(33.5%),依存型が311名(30.9%)であった.医療安全管理者の回答では1人チェック(1人機械照合型を含む)が29名(29.8%),2人チェックが65名(67.1%)であり,そのうち,独立型が31名(32.0%),依存型が34名(35.1%)であった.ハイリスク薬については,日勤帯における病棟看護師の回答で1人チェック(1人機械照合型を含む)が84名(8.4%),2人チェックが854名(84.8%)であり,そのうち独立型が337名(33.5%),依存型が517名(51.3%)であった.医療安全管理者の回答では1人チェック(1人機械照合型を含む)が11名(11.2%),2人チェックが80名(82.6%)であり,そのうち独立型が36名(37.2%),依存型が44名(45.4%)であった.病棟看護師,医療安全管理者ともに日勤帯と夜勤帯の差は3.1%未満であった.

表3 注射薬調製時の照合場面のチェック方法

分類 病棟看護師 n = 1008) 医療安全管理者 n = 97)
日勤帯 夜勤帯 ハイリスク薬
日勤帯
ハイリスク薬
夜勤帯
日勤帯 夜勤帯 ハイリスク薬
日勤帯
ハイリスク薬
夜勤帯
度数(%) 度数(%) 度数(%) 度数(%) 度数(%) 度数(%) 度数(%) 度数(%)
1人チェック a 1人シングル型 126(12.5) 127(12.6) 18(1.8) 19(1.9) 9(9.3) 9(9.3) 1(1.0) 1(1.0)
b 1人連続同方向型 28(2.8) 26(2.6) 12(1.2) 12(1.2) 1(1.0) 2(2.1) 1(1.0) 1(1.0)
c 1人連続双方向型 21(2.1) 20(2.0) 5(0.5) 6(0.6) 4(4.1) 6(6.2) 1(1.0) 1(1.0)
d 1人時間差同方向型 13(1.3) 16(1.6) 2(0.2) 3(0.3) 1(1.0) 1(1.0) 0(0.0) 0(0.0)
e 1人時間差双方向型 5(0.5) 4(0.4) 0(0.0) 0(0.0) 1(1.0) 1(1.0) 1(1.0) 1(1.0)
f 1人機械照合型 111(11.0) 113(11.2) 47(4.7) 47(4.7) 13(13.4) 13(13.4) 7(7.2) 6(6.2)
2人チェック(独立型) g 2人連続同方向型 221(21.9) 203(20.1) 261(25.9) 251(24.9) 16(16.5) 14(14.4) 25(25.8) 22(22.7)
h 2人連続双方向型 12(1.2) 13(1.3) 16(1.6) 16(1.6) 3(3.1) 1(1.0) 6(6.2) 5(5.2)
i 2人時間差同方向型 101(10.0) 115(11.4) 56(5.6) 60(6.0) 12(12.4) 10(10.3) 5(5.2) 6(6.2)
j 2人時間差双方向型 4(0.4) 6(0.6) 4(0.4) 5(0.5) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
2人チェック(依存型) k 2人同時型 100(9.9) 100(9.9) 273(27.1) 274(27.2) 11(11.3) 11(11.3) 18(18.6) 20(20.6)
l 2人シングル型 142(14.1) 139(13.8) 132(13.1) 131(13.0) 18(18.6) 20(20.6) 17(17.5) 17(17.5)
m 2人同時同方向役割交代型 40(4.0) 40(4.0) 65(6.4) 65(6.4) 3(3.1) 5(5.2) 6(6.2) 8(8.2)
n 2人同時双方向役割交代型 29(2.9) 28(2.8) 47(4.7) 46(4.6) 2(2.1) 1(1.0) 3(3.1) 3(3.1)
その他 45(4.5) 49(4.9) 58(5.8) 62(6.2) 3(3.1) 3(3.1) 6(6.2) 6(6.2)
無回答 10(1.0) 9(0.9) 12(1.2) 11(1.1) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)

2) 注射薬調製時の計算場面のチェック方法(表4

1アンプルのうちの一部を使用するような計算が必要な場面のチェック方法について,複数回答形式で尋ねた結果を表4に示す.病棟看護師では,1人チェックが17名(1.6%)であり,2人チェックが1,025人(95.2%)であった.2人チェックについて,独立型の「2人が別々に計算する」は324名(30.1%)であり,依存型の「2人が一緒に声を出して計算する」は255名(23.7%),「1人目が計算し,その計算結果を知った上で,2人目がチェックする」は446名(41.4%)であった.一方,医療安全管理者では,1人チェックが5名(4.9%)であり,2人チェックが90名(88.3%)であった.2人チェックについて独立型の「2人が別々に計算する」は21名(20.6%)であり,依存型の「2人が一緒に声を出して計算する」は16名(15.7%),「1人目が計算し,その計算結果を知った上で2人目がチェックする」は53名(52.0%)であった.

表4 注射薬調製時の計算場面のチェック方法

分類 チェック方法 病棟看護師(n = 1,008) 医療安全管理者(n = 97)
1人チェック 1人で1回計算する 17(1.6) 5(4.9)
2人チェック(独立型) 2人が別々に計算する 324(30.1) 21(20.6)
2人チェック(依存型) 2人が一緒に声を出して計算する 255(23.7) 16(15.7)
1人目が計算し,その計算結果を知った上で,2人目がチェックする 446(41.4) 53(52.0)
その他 35(3.2) 7(6.9)

注)重複回答項目で,%は回答総数に対する割合である

4. チェック方法別にみた阻害特性の認識の違い

1) 病棟看護師の認識(表5

人間特性に関する17項目のうち,チェック方法別の阻害特性の認識に有意な差があり,かつ効果量が中程度から大きい効果量であったものは「責任感の欠如」「注意力の欠如(注意深さの欠如)」「注意力の欠如(確認項目の見落とし)」「錯視」「時間がない時の判断の欠如」の5項目であった.多重比較の結果,それら5項目について,1人シングル型は他のチェック方法に比べて有意に点数が高く,2人同時双方向役割交代型は有意に点数が低かった.また2人同時同方向役割交代型は「注意力の欠如(注意深さの欠如)」「注意力の欠如(確認項目の見落とし)」「錯視」「時間がない時の判断の欠如」について有意に点数が低かった.さらに,1人機械照合型は「責任感の欠如」について有意に点数が低かった.2人連続双方向型は「注意力の欠如(確認項目の見落とし)」について有意に点数が低かった.2人同時型は「注意力の欠如(注意深さの欠如)」「注意力の欠如(確認項目の見落とし)」について有意に点数が低かった.加えて,2人シングル型は「責任感の欠如」「注意力の欠如(注意深さの欠如)」「注意力の欠如(確認項目の見落とし)」「錯視」「時間がない時の判断の欠如」について有意に点数が高かった.

表5 チェック方法別にみた阻害特性の認識の違い(病棟看護師)

人間特性 業務特性
チェック方法 責任感の欠如 注意力の欠如
(注意深さの欠如)
注意力の欠如
(確認項目の見落とし)
錯視 時間がない時の判断の欠如 チェック所要時間の増大 自分の作業中断 他者の作業中断
n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較
1人チェック a 1人シングル型 123 3.0
(2.0~4.0)
125 3.0
(2.0~4.0)
125 4.0
(3.0~4.0)
125 4.0
(3.0~4.0)
125 4.0
(3.0~5.0)
124 3.0
(2.0~3.0)
giklmn 124 3.0
(2.0~4.0)
bghiklmn 125 3.0
(2.0~4.0)
bghiklmn
b 1人連続同方向型 27 2.0
(2.0~3.0)
26 3.0
(2.0~3.0)
27 3.0
(3.0~4.0)
27 3.0
(3.0~4.0)
27 4.0
(3.0~4.0)
27 3.0
(3.0~3.0)
mn 27 3.0
(3.0~4.0)
27 3.0
(2.0~4.0)
c 1人連続双方向型 21 3.0
(2.0~3.0)
a 21 2.0
(2.0~3.0)
a 21 3.0
(2.0~3.0)
a 21 3.0
(3.0~4.0)
a 21 4.0
(3.0~4.0)
a 21 3.0
(3.0~3.0)
mn 21 2.0
(2.0~3.0)
bdghiklmn 21 2.0
(2.0~3.0)
bdghiklmn
d 1人時間差同方向型 13 3.0
(2.0~3.0)
13 3.0
(2.0~3.0)
13 3.0
(3.0~4.0)
13 3.0
(3.0~4.0)
13 4.0
(3.0~5.0)
13 3.0
(3.0~4.0)
n 13 3.0
(3.0~4.0)
13 4.0
(3.0~4.0)
f 1人機械照合型 112 2.0
(2.0~3.0)
abdil 112 2.0
(2.0~3.0)
al 109 3.0
(2.0~4.0)
ab 111 3.0
(2.0~4.0)
al 111 3.0
(3.0~4.0)
abd 111 3.0
(2.0~3.0)
gimn 111 3.0
(2.0~4.0)
bgiklmn 110 3.0
(2.0~4.0)
bgiklmn
2人チェック(独立型) g 2人連続同方向型 216 2.0
(2.0~3.0)
al 215 2.0
(2.0~3.0)
abl 215 3.0
(2.0~4.0)
ab 213 3.0
(2.0~3.0)
al 217 3.0
(3.0~4.0)
abd 215 3.0
(3.0~4.0)
mn 216 4.0
(3.0~4.0)
215 4.0
(3.0~4.0)
h 2人連続双方向型 12 2.0
(2.0~2.0)
a 12 2.0
(2.0~2.5)
a 12 2.5
(2.0~3.0)
abdfil 12 3.0
(2.0~3.0)
a 12 3.0
(2.5~4.0)
a 12 3.0
(2.0~3.5)
mn 12 4.0
(3.5~5.0)
12 4.0
(4.0~5.0)
i 2人時間差同方向型 100 2.0
(2.0~3.0)
a 99 3.0
(2.0~3.0)
a 99 3.0
(3.0~4.0)
a 98 3.0
(3.0~3.0)
a 99 3.5
(3.0~4.0)
a 99 3.0
(3.0~4.0)
mn 99 3.0
(3.0~4.0)
ghkmn 99 3.0
(3.0~4.0)
ghkmn
2人チェック(依存型) k 2人同時型 99 2.0
(2.0~3.0)
al 99 2.0
(2.0~3.0)
abil 99 3.0
(2.0~3.0)
acdl 99 3.0
(2.0~4.0)
a 99 3.0
(3.0~4.0)
abd 99 3.0
(2.0~4.0)
mn 98 4.0
(3.0~5.0)
99 4.0
(3.0~5.0)
l 2人シングル型 142 3.0
(2.0~3.0)
a 143 3.0
(2.0~3.0)
a 142 3.0
(2.0~4.0)
a 143 3.0
(3.0~4.0)
a 143 3.0
(3.0~4.0)
a 143 3.0
(2.0~3.0)
gmn 143 3.0
(2.0~4.0)
ghkm 143 4.0
(3.0~4.0)
ghkm
m 2人同時同方向役割交代型 40 2.0
(2.0~2.5)
al 40 2.0
(2.0~3.0)
adgl 40 2.0
(2.0~3.0)
abcdfgikl 40 3.0
(2.0~3.0)
agikl 39 3.0
(2.0~4.0)
abdl 39 4.0
(3.0~4.5)
39 4.0
(3.0~5.0)
39 4.0
(3.0~5.0)
n 2人同時双方向役割交代型 28 2.0
(2.0~2.0)
abcdfgikl 28 2.0
(1.0~2.0)
abcdfgiklm 28 2.0
(1.5~3.0)
abdfgilk 28 2.0
(2.0~3.0)
abcdfgikl 28 3.0
(2.0~3.0)
abcdfgikl 27 4.0
(3.0~5.0)
28 4.0
(3.0~5.0)
28 4.0
(3.5~5.0)
η2 0.089 0.081 0.077 0.074 0.066 0.056 0.107 0.125
p <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001

注1):クラスカル・ウォリス検定と多重比較

注2):p値はクラスカル・ウォリス検定の値を示す

注3):多重比較の欄には,チェック方法間で5%水準で統計的有意差があったものを記載している

注4):阻害特性に対する認識の程度が大きいほど点数が高くなるように質問内容により点数を逆転させている

業務特性に関する6項目のうち,チェック方法別の阻害特性の認識に有意な差があり,かつ効果量が中程度から大きい効果量であったものは,「チェック所要時間の増大」「自分の作業中断」,「他者の作業中断」の3項目であった.多重比較の結果,1人シングル型と1人機械照合型が「チェック所要時間の増大」「自分の作業中断」「他者の作業中断」について他のチェック方法に比べて有意に点数が低く,2人同時同方向役割交代型と2人同時双方向役割交代型は有意に点数が高かった.また2人シングル型は,他の2人チェックに比べて有意に点数が低かった.そして 1人連続双方向型と2人時間差同方向型は「自分の作業中断」「他者の作業中断」について他に比べて有意に点数が低かった.

2) 医療安全管理者の認識(表6

人間特性の質問17項目のうち,チェック方法別の阻害特性の認識に有意な差があり,かつ効果量が中程度から大きい効果量であったものは「責任感の欠如」「自律心の欠如」「形骸化」であった.多重比較の結果,1人機械照合型は「責任感の欠如」について他のチェック方法に比べて有意に点数が低かった.2人同時型は「自律心の欠如」「形骸化」について,他のチェック方法に比べて有意に点数が高かった.

表6 チェック方法別にみた阻害特性の認識の違い(医療安全管理者)

人間特性 業務特性
チェック方法 責任感の欠如 自律心の欠如 形骸化 チェック所要時間の増大 適時性の欠如 自分の作業中断 他者の作業中断
n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較 n 中央値
(四分位範囲)
多重比較
1人チェック a 1人シングル型 11 3.0
(3.0~3.5)
11 3.0
(2.0~3.5)
k 11 4.0
(2.0~4.0)
k 11 2.0
(2.0~2.5)
fgil 11 3.0
(2.0~4.0)
k 11 3.0
(2.0~3.0)
gkl 11 3.0
(1.5~3.0)
gkl
f 1人機械照合型 11 2.0
(2.0~2.0)
agikl 11 3.0
(2.0~3.5)
gk 11 4.0
(3.5~5.0)
11 3.0
(3.0~3.0)
11 2.0
(2.0~3.0)
gkl 11 3.0
(2.0~3.5)
gk 11 3.0
(2.0~3.5)
gk
2人チェック
(独立型)
g 2人連続同方向型 17 3.0
(2.0~3.0)
17 4.0
(3.0~4.0)
17 4.0
(4.0~4.0)
17 4.0
(3.0~4.0)
17 4.0
(3.0~4.0)
17 4.0
(4.0~5.0)
17 4.0
(4.0~5.0)
i 2人時間差同方向型 10 3.0
(2.0~3.0)
10 3.5
(2.0~4.0)
k 10 3.5
(3.0~4.0)
k 10 3.5
(3.0~4.0)
10 3.0
(2.0~4.0)
k 10 3.5
(3.0~4.0)
10 3.5
(3.0~4.0)
2人チェック
(依存型)
k 2人同時型 11 4.0
(2.5~5.0)
11 4.0
(4.0~5.0)
11 5.0
(4.0~5.0)
11 2.0
(2.0~3.0)
g 11 5.0
(4.0~5.0)
11 4.0
(3.5~5.0)
11 4.0
(3.5~5.0)
l 2人シングル型 18 3.0
(2.0~4.0)
18 4.0
(3.0~4.0)
18 4.0
(3.0~4.0)
k 18 3.0
(2.0~3.0)
18 4.0
(2.0~4.0)
k 18 4.0
(3.0~4.0)
18 4.0
(3.0~4.0)
η2 0.166 0.113 0.101 0.187 0.183 0.175 0.204
p 0.005 0.022 0.031 0.002 0.003 0.003 0.001

注1):クラスカル・ウォリス検定と多重比較

注2):p値はクラスカル・ウォリス検定の値を示す

注3):多重比較の欄には,チェック方法間で5%水準で統計的有意差があったものを記載している

注4):阻害特性に対する認識の程度が大きいほど点数が高くなるように質問内容により点数を逆転させている

業務特性の質問6項目のうち,チェック方法別の阻害特性の認識に有意な差があり,かつ効果量が中程度から大きい効果量であったものは「チェック所要時間の増大」「適時性の欠如」「自分の作業中断」「他者の作業中断」であった.多重比較の結果,1人シングル型は「チェック所要時間の増大」「自分の作業中断」「他者の作業中断」について他のチェック方法に比べて有意に点数が低かった.1人機械照合型は「適時性の欠如」「自分の作業中断」「他者の作業中断」について2人連続同方向型や2人同時型に比べて有意に点数が低かった.また2人チェックの中で,2人同時型が「適時性の欠如」について,2人時間差同方向型や2人シングル型に比べて有意に点数が高かった.

Ⅴ. 考察

回収率は病棟看護師で48.4%,医療安全管理者で79.4%であり,いずれも一般的な郵送調査における回収率の目安とされる30%を上回っていた.特に医療安全管理者の高い回収率は,多くの病院で不十分な薬剤確認によるエラーの発生を課題と感じていることが考えられる.

地域別,病床規模別の回収は,母集団となる1,752のDPC参加病院の割合と比較して,地方区分では,「近畿地方」が16.0%であり,母集団(19.3%)に比べ3.3%下回っていた.その他の地方区分における差もいずれも3.3%未満であり,全体として全国分布との顕著な差異はなかった.病床区分では,100床以上300床未満の病院が45.7%であり,母集団(42.4%)に比べ3.3%上回っていた.その他の病床数区分における差もいずれも3.3%未満であり,全体として全国分布との顕著な乖離はなかった.以上より本研究の対象病院群は,全国分布と概ね同様の構成を有しており,全国分布を反映していると考えられる.

対象者の属性は病棟看護師が平均年齢は37.4歳であり,看護職員実態調査(日本看護協会,2022)の41.3歳に比べて下回っていた.この差異は本研究が急性期病院を対象とし,夜勤をしない看護師を除外したことに起因すると考えられる.

1. 日本における注射薬調製時のチェック方法の実態

注射薬調製時の照合場面におけるチェック方法は14種類以上であり,日本において統一されていない実態が明らかになった.そしてハイリスク薬以外においても2人チェックが行われており,2人チェックの中でも依存型が多く行われていた.依存型で多く行われていた方法は2人同時型と2人シングル型であった.2人同時型は同じタイミングで指示と注射ラベルと注射薬を確認する方法である.ISMP(2015)は2人が一緒に作業をすることや2人目のチェック者へ確認すべきものを提案する方法は2人とも同じ道をたどってエラーに至る可能性があるとしており,2人同時型が安全な方法であるかを検証していく必要がある.また2人シングル型は同じタイミングでAが指示を読み,Bが注射ラベルと注射薬を確認する方法である.この方法では,1名は指示を見ているが注射ラベルと注射薬は見ておらず,2名で行っているが回数としては1回のチェックであり,人手を必要とし中断作業を誘発するが,1回しかチェックできていないという点から効率的ではない可能性がある.

計算場面でのチェック方法においても多くは依存型であった.Athanasakis(2015)はリスクの高い薬剤に対して,各ステップ(処方箋の確認と計算の実行の2回)で独立したダブルチェックを行うことが重要であるとしている.しかし現状として指示と薬剤の照合場面と計算場面において依存型が多く行われている実態が明らかとなり,今後は独立性の高い効果的なチェック方法を検討していく必要がある.効果的なチェックとして薬剤師との協働も考える必要がある.榎本ら(2023)は医療安全や衛生環境の観点から,注射薬の混合調製を薬剤部に集約化し,無菌調製したことにより,医療安全に寄与する可能性があったと述べている.薬剤に対する高度な知識を持つ薬剤師の関与は適正な投薬や配合変化の回避につながる.またチェックには多様性が求められており,その点からも薬剤師の関与は効果的である.抗がん剤や中心静脈栄養の注射薬は薬剤師が調製する病院は多いが,病棟で行われている複雑な計算を必要とする調製においても薬剤師との協働が期待される.

夜勤帯で看護師人数は減少しても日勤帯とチェック方法を変更していない病院が多かった.各病院は,夜勤帯も日勤帯と同様の注射投薬数のある病棟においては,夜勤帯での 1 人チェック方法をより安全なものに検討することや病棟において看護師が不足していないかの夜間リソース配置を検討することが患者安全,ワークエンゲージメントを維持する上で重要であると考える.

2. 注射薬照合場面のチェック方法別にみた阻害特性の認識の違い

1) 病棟看護師の認識

病棟看護師の阻害特性の認識では,種々のチェック方法によって人間特性と業務特性に違いがあることが明らかになった.人間特性として,1人シングル型は他のチェック方法に比べて責任感や注意力の欠如,錯視,時間がない時の判断の欠如の点数が高かった.これは病棟看護師が1人シングル型は効果的なチェック行動を阻害する人間特性を多く持ち,エラーを起こしやすいチェック方法だと感じていることによると考えられる.これはSchwappach et al.(2018)が,看護師はダブルチェックの有効性と有用性を強く信じているとする報告と一致する.2人チェックでは2人同時双方向役割交代型や2人同時同方向役割交代型は阻害特性の点数が低いことから,この2つのチェック方法は病棟看護師が阻害特性の小さいエラーの起こりにくい安全なチェック方法であると認識していると考えられる.しかし,この2つのチェック方法は依存型である.先行文献では2人チェックが有効に機能するためには独立型チェックを行うことが重要であるとされており,推奨されているチェック方法と病棟看護師が安全であると考えているチェック方法が異なる結果となった.日本で行われている注射薬照合場面の2人連続型等の独立型チェックは,1人目がチェックしたことが記載されており,2人目のチェック者にチェックが済んでいることが分かるという点で,完全な独立型とは言えない.そのため責任感や注意力の欠如につながると感じた可能性がある.また2人連続双方向役割交代型は他に比べて有意に点数が低かった.小松原(2017)は健全なダブルチェックとして最初の人が右からチェックしたら,次の人は左からチェックするといったチェックの多様性が求められるとしている.2人同時双方向役割交代型も阻害特性の点数が低いことから双方向型のチェックは阻害特性の小さい安全なチェック方法である可能性がある.また2人シングル型が,阻害特性の認識が高かったことは,2名で確認はしているが回数としては1回の確認であり,安全性の低いチェック方法であると感じていると考えられる.以上より2人チェックでは,2人連続型等の独立型チェックと2人同時双方向役割交代型等の依存型チェックのどちらが阻害特性を低減する安全なチェック方法であるかを今後検証していく必要がある.

業務特性として,1人シングル型と1人機械照合型が「チェック所要時間の増大」「自分の作業中断」「他者の作業中断」について他に比べて,有意に点数が低く,2人同時同方向役割交代型と2人同時双方向役割交代型は他に比べて有意に点数が高かった.これはダブルチェックが業務量の増加(Kruse et al., 1992)や頻繁な中断(Schwappach et al., 2018)をもたらすという結果と一致し,1人チェックが業務負担の少ないチェック方法であると病棟看護師が認識していると考えられる.また「自分の作業中断」「他者の作業中断」について1人連続双方向型と2人時間差同方向型は他に比べて有意に点数が低かった.これらは作業中断が少ないと認識されている点で業務負担の少ない効率的なチェック方法である可能性がある.

2) 医療安全管理者の認識

医療安全管理者においても,阻害特性の認識が,種々のチェック方法によって人間特性と業務特性に違いがあることが明らかになった.人間特性として,1人機械照合型は病棟看護師と同様に「責任感の欠如」について他に比べて有意に点数が低かった.1人機械照合型はチェック相手が機械であり,チェックの多様性という点で阻害特性の小さい安全性の高いチェック方法であると感じている可能性がある.2人同時型は「自律心の欠如」「形骸化」について他のチェック方法に比べて有意に点数が高かった.これは病棟看護師が2人同時型は「注意力の欠如」「時間がない時の判断の欠如」について,他に比べて有意に点数が低く,阻害特性が小さいチェック方法であるという認識と異なっていた.2人同時型は依存型であり,医療安全管理者は2人同時型が依存型であり,独立性が担保されていないと理解していることから病棟看護師とは認識が異なっているのではないかと考える.

業務特性として,1人シングル型と1人機械照合型が2人チェックに比べて有意に点数が低く,阻害特性が小さいと感じていることは病棟看護師の認識と同じであった.医療安全管理者においても2人チェックが業務負担につながり,阻害特性が大きいと感じていることが推察された.

3) 効果的なチェック方法を検討する必要性

種々のチェック方法の違いにより阻害特性の認識の程度に差が見られた.この結果は効果的なチェック行動を阻害する特性を低減するチェック方法で確認することによってエラー防止につながる可能性があることを示唆している.また病棟看護師と医療安全管理者の認識の違いとして2点あげられた.1点目は病棟看護師が1人シングル型に対し,人間特性の阻害特性が大きいととらえていたが,医療安全管理者において差は見られなかった点である.2点目は2人同時型に対し病棟看護師は人間特性の阻害特性が小さいととらえていたが,医療安全管理者は阻害特性が大きいと感じていた点である.これは実務者と管理者の間でチェック方法に対する認識に乖離があることを示している.この理由として医療安全管理者は病棟看護師に比べ,2人チェック,特に依存型チェックの効果について日頃より疑問を感じていることが考えられる.それぞれの病院で効果的な統一したチェック方法を明確に定め,教育を実施することで,この乖離を減らし,より実効性のある確認行動へとつなげることができると考えられる.

3. 本研究の限界と今後の課題

本調査では,医療安全管理者対象の質問紙票に年間の注射薬関連インシデント報告数や患者への有害事象発生数を入れていなかったが,インシデント報告数等を加えることによりチェック方法とエラー発生率の関連性の検討ができる可能性がある.またチェック方法により回答数が少なく検定できないものもあったことから,全てのチェック方法について検定ができるような調査が必要である.本研究では,種々のチェック方法が持つ効果的なチェック行動を阻害する特性の違いについて病棟看護師と医療安全管理者の認識より検証したが,質問紙調査では,より具体的な阻害要因を理解する上では限界がある.個人の経験や感情,行動の背景にある意味や理由を探索するためのインタビュー調査による質的研究や種々のチェック方法のエラー率や注意力,所要時間を客観的に測定する実験研究を行い,種々のチェック方法が持つ特性を明らかにしていくことが求められる.そして今後の貢献として,本質問票ではチェック方法が持つ特性を明らかにするため,疲労や加齢等の生理的特性は含めなかったが,それらを加えることにより効果的なチェック行動を阻害する要因を分析するツールともなりうると考える.

Ⅵ. 結論

日本の急性期病院において,注射薬調製時のチェック方法は14種類以上と多様であり統一されていなかった.多くの病院でハイリスク薬以外の薬剤においても2人チェックが行われ,依存型チェックが多く行われていた.種々のチェック方法別の阻害特性の認識には違いがあった.また病棟看護師と医療安全管理者において認識が異なっていた.本研究により阻害特性を低減するチェック方法で確認することによって,効果的なチェック行動につながり投薬エラー防止につながる可能性があることが示唆された.

謝辞:本研究へ貴重なご指導とご助言を下さいました武庫川女子大学大学院看護学研究科教授・片山恵先生,教授・藤田優一先生に心より感謝申し上げます.また本調査にご協力いただきました全国の看護師の皆様,医療安全管理者をはじめ看護部責任者の皆様に深く御礼申し上げます.そして本研究へのご助言を下さいました武庫川女子大学大学院看護学研究科の先生方,大学院生の皆様,京都大学医学部附属病院の医療安全管理部,看護部の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MIは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,結果,考察,論文作成を担当した.SSは研究プロセス全体の総括,および論文作成に対する指導,助言を行い,論文の加筆,修正を行った.YMは研究の着想,デザイン,論文作成の助言を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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