日本看護科学会誌
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原著
特定機能病院の一般病棟で認知症高齢者をケアする3年目以上の看護師の困難感とその背景要因に関する実態調査
上野山 恵子樋上 容子久保田 正和
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電子付録

2025 年 45 巻 p. 962-973

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Abstract

目的:特定機能病院の一般病棟において認知症高齢者をケアする看護師の困難感とその背景要因を明らかにし,認知症対応力を高めるための基礎的資料を得る.

方法:認知症ケア加算2を取得している特定機能病院の一般病棟に勤務する3年目以上の看護師272名を対象に質問紙調査を行い,困難感の得点を従属変数,認知症者に対する態度等を独立変数として重回帰分析を行った.

結果:困難感の高さに関連した要因は,認知症者に対する否定的な態度(β = –.397),経験年数が短いこと(β = –.213),認知症者の数が多いこと(β = .182),高齢者イメージがネガティブであること(β = –.150),認知症に関する知識が多いこと(β = .129)であった.最も困難感を高めていた要因は,否定的な態度であった.

結論:看護師の経験年数を鑑み,正しい知識を基に肯定的に認知症を捉えることが求められる.

Translated Abstract

Objective: To clarify the perceived difficulty and circumstances of nurses caring for older patients with dementia in general ward of a specialized hospital and to obtain basic data that will enable us to examine countermeasures to improve nurses’ ability to cope with dementia.

Methods: A questionnaire survey was administered to 272 nurses with 3 years or more experience working at general ward of a specialized hospital that had obtained Dementia Care Addition 2. Multiple regression analysis was conducted using the total score for perceived difficulty as the dependent variable and attitude toward people with dementia, years of experience, and job position as independent variables.

Results: Factors associated with higher levels of perceived difficulty were negative attitudes toward people with dementia (β = –.397), shorter years of experience (β = –.213), a higher number of patients with dementia (β = .182), negative images of older people (β = –.150), and greater knowledge of dementia (β = .129). The factor that increased the sense of difficulty the most was a negative attitude toward people with dementia.

Conclusion: To improve nurses’ ability to cope with dementia, they should be educated to perceive dementia positively based on a correct understanding of dementia, considering their years of experience.

Ⅰ. 緒言

我が国の救急医療における現場の状況は,入院患者の約5割以上が高齢者であり(太田,2011),救急医療を担う病院に入院してくる認知症高齢者も増加していると考えられる.このような背景から厚生労働省は,認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定した(厚生労働省,2017).新オレンジプランの中では,行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:以下BPSD)や身体疾患に対応する一般病院の医療従事者の認知症への対応力向上が取り上げられている.しかしながら,急性期医療を担う病院では,身体疾患や外傷の急性期治療を優先して行うため治療環境が引き金となり,認知症高齢者の徘徊や暴言などのBPSDが生じやすい環境にある(佐久間・渕田,2019佐藤ら,2020).BPSDは,認知症患者の記憶障害や見当識障害などの中核症状に付随する症状であり,中核症状と違って必ずしも出現するものではなく(河野,2019),認知症に関する専門的な知識やケア不足が誘因となり出現することがある.BPSDの出現や悪化は,看護師の認知症ケアに対する困難さを助長するという悪循環を生んでいる(川村ら,2018日本老年看護学会,2016).

湯浅ら(1997)は,大学病院等高度先進医療を行う病院において高齢者をケアする上での困難感として,大学病院等は急性期の患者の対応に時間がかかることや,高齢者には不適切な施設・設備であることを指摘している.また,Cowdell(2010)は急性期病院の認知症ケアの研究において,スタッフと患者とのやり取りは最小限であり,認知症患者はニーズを表明する努力をしているが,スタッフは主に身体的ケアに焦点を当てており,患者の個々のニーズを満たすよりも病棟のルーチンが優先されていると指摘している.

特定機能病院は,一般医療機関では実施することが難しい手術や先進的な医療を高度な医療機器が整備された施設の中で行うことができる病院である.近年では特定機能病院においても認知症高齢者の入院が増加していると考えられ,治療に特化した環境の違いなどから認知症高齢者の療養生活への影響がより大きいと考えられる.先行研究において,一般病院や中規模病院における認知症高齢者をケアする看護師の困難感として,認知症に関連した専門的知識が少ないこと(鈴木ら,2013),看護師は大学生や看護学生と比較して認知症高齢者に対し共感的でないこと,認知症高齢者特有のアセスメントの難しさなどによって否定的な感情や苦手という認識をしていることが明らかになったとしている(小田・川島,2016).また,小山ら(2013b)は,せん妄ケア,認知症,BPSDへのケアについて困難感を感じていると述べている.しかしながら,特定機能病院を対象とした先行研究は少なく,特定機能病院における認知症高齢者の治療や療養生活の実態,認知症ケアを行う看護師の困難感とその背景は明らかになっていない.そこで本研究では,特定機能病院において認知症高齢者をケアする看護師の困難感と困難感の背景として考えられる要因との関連を実態調査で明らかにし,認知症高齢者が特定機能病院で安心して療養生活を過ごせる環境づくりや認知症への対応力を高めるための対策を検討できる基礎的資料を得ることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

本研究は認知症ケア加算2を取得しているA特定機能病院に勤務する3年目以上の看護師を対象とした自記式質問紙調査による横断観察研究である.調査期間は2021年7月~9月.

1. 用語の定義

認知症高齢者をケアする看護師の困難感とは,川村ら(2020b)の先行研究を参考に「特定機能病院において高度な医療ケアを要する患者の看護を行っていくうえで,患者が認知症または認知機能低下を有するがゆえに解決しがたいと感じる辛さ,不安,恐怖,負担,葛藤といった感情」と定義した.

2. 研究対象者

1) 選定基準は下記の(1)~(3)の条件を満たす看護師

(1)A特定機能病院の一般病棟に勤務する看護師

(2)主病が認知症以外で入院した高齢患者のベッドサイドケアを実施している看護師

(3)研究対象病棟の責任者が認知症ケアの経験があるとみなした臨床経験年数3年目以上の看護師とした.ベナー(2021)は3年目以上を一人前看護師とし,3年目以上は一通りの経験をしており,A特定機能病院においても認知症ケアリンクナース会議に参加するなど自立して実践している看護師が3年目以上のためである.

2) 除外基準

(1)A特定機能病院の手術室・ICU(Intensive Care Unit)・NICU(Neonatal Intensive Care Unit)・GCU(Growing Care Unit)・小児科病棟・産科病棟・精神神経科病棟で勤務する看護師は除く

(2)認知症看護認定看護師が所属する病棟は除く.認知症看護認定看護師が配属されている病棟においては,認知症看護認定看護師から直接認知症ケアについての助言がもらえることなどが考えられ,困難感の内容に差が生じると考え除外とした.

3. データ収集方法

研究対象者の匿名性を保持し,対面では得られにくいありのままのデータを得るために,留置法による自記式無記名質問紙調査を実施した.研究協力の得られたA特定機能病院の看護管理者に研究対象者の人数分の依頼書,質問紙と回収用封筒を渡し,研究対象者には,回答した質問紙を厳封後に所定の場所に提出するように求めた.2週間程度の留置き式とし,看護管理者に対して研究対象者への配布と回収を依頼した.

4. 調査項目

特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感と困難感の背景要因として考えられる対象者の属性,高齢者イメージ,認知症に関する知識,認知症の人に対する態度,認知症に関するケア知識とした.病棟名については匿名性が損なわれるため,調査項目には含めず,外科系病棟,内科系病棟,外科/内科系以外の区分とした.

1) 特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感

川村ら(2020b)が開発した「急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感尺度(Nurses’ difficulties dementia care:以下NDDC尺度)」を使用した.総合得点は16~96点の範囲を取り,得点が高いほど困難感が高いことを表す.

2) 対象者の属性

所属,職位,看護師経験年数,認知症についての関心の有無,高齢者看護学習経験について,認知症看護学習経験について,認知症の人との同居経験,病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数について質問した.

3) 高齢者イメージ

金・黒田(2011)が開発した「高齢者のイメージ尺度」を使用した.合計得点は12~60点の範囲を取り,点数が高いほどポジティブなイメージを表す.

4) 認知症に関する知識

金・黒田(2011)が開発した「認知症に関する知識尺度」を使用した.15点満点で表す.

5) 認知症の人に対する態度

金・黒田(2011)が開発した「認知症の人に対する態度尺度」を使用した.合計得点は15~60点の範囲を取り,得点が高いほど肯定的であることを表す.

6) 認知症に関するケア知識

適した尺度がなかったため,先行研究(平岡・山内,2001岩原,2020鈴木ら,2013)と参考書(日本看護協会,2019日本老年看護学会,2016)等をもとに15項目で構成し,3件法で「正当」を1点,「誤答」と「わからない」を0点とし,15点満点で表す.質問項目の内容の妥当性は高齢者看護,認知症看護の専門家よりスーパーバイズを受け作成した.

5. 分析方法

個人属性と各尺度の項目ごとの回答分布,特定機能病院での認知症ケアの現状については単純集計を行った.各尺度のCronbachのα係数を算出し信頼性を確認した.

個人属性と特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感,高齢者イメージ,認知症に関する知識,認知症の人に対する態度,認知症に関するケア知識との関連は,まずShapiro-Wilk検定を行い各標本が正規分布に従うかを検証した.正規分布に従う場合(p ≧ 0.05)は,Leven検定を行い等分散の検証をした.正規分布に従い等分散の場合(p ≧ 0.05)は,パラメトリック検定法であるt検定及び一元配置分散分析を行った.正規分布に従うが等分散しない場合は,Welchの検定を行った.正規分布に従わない場合(p < 0.05)は,ノンパラメトリック検定であるMann-Whitney検定及びKruskal-Wallis検定を行った.また,一元配置分散分析とKruskal-Wallis検定実施時に有意差が認められた場合は,その後多重比較検定としてTukey法により検証した.

特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感と高齢者イメージ,認知症に関する知識,認知症の人に対する態度,認知症に関するケア知識との関連は単回帰分析を行った.単変量解析,単回帰分析で得られた特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感と関連のみられた項目と先行研究で認知症高齢者ケアをする看護師の困難に関連がある項目同士の多重共線性(VIF < 10)を確認したのち独立変数として投入し,特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感との関連を重回帰分析にて検証した.なお,所属は,外科系病棟,外科系以外の病棟(内科系病棟・内科系/外科系以外の病棟),認知症高齢者の病棟での患者数は,5人以下,6人以上に分け質問紙の項目区分から最も半数に近い値で分け投入した.統計解析には,IBM SPSS 28. For Windowsを使用した.なお,有意水準は全て5%未満とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,大阪医科薬科大学研究倫理委員会の承認(2020-234)を得て実施した.研究協力施設病院の看護管理者に研究の趣旨と方法について文書を用いて口頭で説明を行い,看護管理者の署名にて実施許可を得た.研究協力の依頼書や質問紙には,研究の趣旨と内容,研究協力や途中辞退は自由意思であること,協力を拒否した場合や途中辞退した場合にも不利益を被らないことを保証すること,研究データは厳重に保管すること,研究結果の公表と研究対象者の匿名性を確保することについて明記した.質問紙の回収をもって,研究協力が得られたと判断した.

Ⅲ. 結果

1. 回収率・有効回答率

A特定機能病院の一般病棟で勤務する看護師343名に調査票を配布し283名(回収率82.5%)から回答が得られた.個人属性の記載のない者と経験年数3年目未満と記載があったものは記載間違いもしくは調査票の配布間違いとして除外し,272名(有効回答率79.3%)を分析の対象とした.

2. 対象者の特性

対象者の特性を表1に示した.

表1 対象者の特性

項目 内訳 人数(名) 比率(%) 平均値 標準偏差
272 100
所属 外科系病棟 152 55.9
外科系病棟以外 120 44.1
職位 役職者 44 16.2
スタッフ 228 83.8
経験年数 9.3 7.6
3~5年未満 80 29.4
5~10年未満 99 36.4
10~20年未満 66 24.3
20年以上 27 9.9
認知症についての関心 ない 6 2.2
どちらかといえばない 37 13.6
どちらかといえばある 171 62.9
ある 56 20.6
回答なし 2 .7
高齢者看護学習経験 看護学生授業経験 受講経験なし 24 8.8
受講経験あり 248 91.2
院内研修受講経験 受講経験なし 128 47.1
受講経験あり 143 52.6
回答なし 1 .3
院外研修受講経験 受講経験なし 176 64.7
受講経験あり 96 35.3
認知症看護学習経験 看護学生授業経験 受講経験なし 53 19.5
受講経験あり 218 80.1
回答なし 1 .4
院内研修受講経験 受講経験なし 96 35.3
受講経験あり 175 64.3
回答なし 1 .4
院外研修受講経験 受講経験なし 172 63.2
受講経験あり 99 36.4
回答なし 1 .4
認知症の人との同居経験 現在同居中 4 1.5
過去に同居経験あり 36 13.2
同居経験なし 232 85.3
認知症高齢者の現病棟での患者数(1カ月の入院患者のうち) 0~2人 73 26.8
3~5人 121 44.5
6~8人 41 15.1
9~11人 15 5.5
12人以上 20 7.4
回答なし 2 .7
各尺度の得点 困難感尺度の得点 総合得点 272 57.95 13.324
高齢者のイメージ得点 合計点 272 36.43 4.543
認知症に関する知識 合計点 272 12.74 1.852
認知症の人に対する態度 合計点 272 42.69 5.089
認知症に関するケア知識 合計点 272 13.54 1.408

職位は,役職者44名(16.2%),スタッフが228名(83.8%)であった.経験年数は,平均9.3 ± 7.6年であり,10年目未満が65%以上を占めた.病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数は,0~2人が73名(26.8%),3~5人が121名(44.5%)であり,70%以上が5人以下であった.また,各尺度の平均得点は,NDDC尺度が57.95点,高齢者イメージの得点が36.43点,認知症に関する知識の得点が12.74点,認知症の人に対する態度の得点が42.69点,認知症に関するケア知識の得点が13.54点であった.

3. 各尺度の特徴とNDDC尺度得点との関連

1) NDDC尺度(表2,付録1,2)

認知症ケアをする困難感が『いつもある』と回答した人数が多い項目として,「限られた職員で患者の生活行動を見守るのは困難である」68名(25.0%),「不穏患者が大声を出すと周囲の患者に迷惑がかかるので困る」60名(22.1%)であり,『しばしばある』と回答した人数も含めると50%以上の看護師が困難感があると回答していた.また,「訴えられない患者の全身状態をアセスメントすることは難しい」で,『まれにある』『たまにある』『ときどきある』『しばしばある』『いつもある』を合わせると97.8%であった.

表2 NDDC(Nurses’ difficulties dementia care)尺度得点と各尺度得点との関連

総合得点(16項目) 第1因子1)(10項目) 第2因子2)(3項目) 第3因子3)(3項目)
β p β p β p β p
イメージ合計得点 –.211 <.001 –.237 <.001 –.016 .787 –.127 .037
イメージ 情緒的側面 –.135 .026 –.150 .013 .019 .750 –.117 .053
イメージ 活動的側面 –.151 .013 –.175 .004 –.012 .844 –.069 .254
イメージ 評価的側面 –.197 .001 –.218 <.001 –.055 .364 –.089 .143
知識合計得点 .066 .278 .080 .190 .000 .996 .024 .695
態度合計得点 –.405 <.001 –.366 <.001 –.349 <.001 –.246 <.001
態度 肯定的 –.287 <.001 –.294 <.001 –.193 .001 –.095 .117
態度 否定的 –.370 <.001 –.302 <.001 –.366 <.001 –.294 <.001
ケア知識合計得点 .011 .861 –.005 .932 –.011 .853 .085 .165

1)第1因子:認知症高齢者のBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)への対応及び周囲の患者との調整困難感

2)第2因子:認知症看護の知識・経験不足による困難感

3)第3因子:医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感

2) 高齢者イメージ尺度(表2,付録3,4)

ポジティブなイメージとして5点及び4点の分布が多かった項目は,「話しやすい」148名(54.4%),「温かい」110名(40.2%)であった.一方,ネガティブなイメージとして1点及び2点の分布が多かった項目は,「頑固な」141名(51.9%),「不活発な」125名(46%)であった.

NDDC尺度と高齢者イメージとの関連について,NDDC尺度の「総合得点」においては,高齢者イメージの「合計得点」(p < .001)と高齢者イメージの3つの因子である「情緒的側面」(p = .026),「活動的側面」(p = .013),「評価的側面」(p = .001)の全てに有意差がみられた.

3) 認知症に関する知識尺度(表2,付録5,6)

誤答及びわからないと回答した人数が多かった項目として,「認知症の人のうつ状態は,自信を失いやすい状態にあることを表している」103名(37.9%),「認知症の物盗られ妄想の相手は,身近にいる人が対象となることが多い」86名(31.6%)であった.

NDDC尺度と認知症に関する知識には有意差がみられなかった.

4) 認知症の人に対する態度尺度(表2,付録7,8)

否定的な態度の項目を『そう思う』『ややそう思う』と回答した人数の多い項目として,「認知症の人はいつ何をするかわからない」202名(74.3%),「認知症の人は周りに人を困らせることが多い」200名(73.5%)であった.

NDDC尺度と認知症の人に対する態度との関連については,NDDC尺度の第3因子である「医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感」と「肯定的態度」のみ有意差がみられなかった.

5) 認知症に関するケア知識尺度(表2,付録9,10)

誤答及びわからないと回答した人数が多かった項目として,「日時や名前を毎日確認して覚えているかを確認されることで自尊心を損ねられる体験をしていることがある」106名(39%),「不安や混乱の避けるために慣れ親しんだスタッフが関わるようにする」101名(37.1%)であった.

NDDC尺度と認知症に関するケア知識には有意差がみられなかった.

4. 特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関連する要因

NDDC尺度の総合得点およびNDDC尺度の3因子をそれぞれ従属変数とし,関連要因である所属,職位,看護師経験年数,認知症についての関心の有無,高齢者看護の看護学生授業経験及び院外研修受講経験,認知症看護の院外研修受講経験,病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数,高齢者のイメージ合計得点,認知症に関する知識合計得点,認知症の人に対する態度合計得点,認知症に関するケア知識合計得点を独立変数として投入し重回帰分析を行った(表3).また,高齢者イメージの3因子である「情緒的側面」「活動的側面」「評価的側面」,認知症の人に対する態度の2因子である「肯定的態度」「否定的態度」のうちどのような因子が特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関連しているのかも明らかにするため,高齢者イメージと認知症の人に対する態度のそれぞれの因子も順番に独立変数に投入し重回帰分析を行った結果を表45に示した.独立変数間のVIF値は4.0未満であり,多重共線性がないことを確認した.

表3 特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関連する要因

n = 272

総合得点(16項目) 第1因子9)(10項目) 第2因子10)(3項目) 第3因子11)(3項目)
β p β p β p β p
所属1) .026 .642 .013 .814 .035 .555 .041 .501
職位2) –.127 .129 –.095 .262 –.093 .291 –.168 .064
看護師経験年数3) –.213 .012 –.204 .017 –.233 .009 –.029 .754
認知症についての関心の有無4) –.001 .986 –.038 .496 .122 .038 .010 .864
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.057 .308 –.026 .646 –.095 .107 –.082 .177
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .038 .627 .048 .540 .008 .924 –.004 .958
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) –.010 .904 .010 .907 –.092 .294 .011 .899
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .182 .001 .200 <.001 .023 .691 .113 .061
高齢者イメージ 合計得点 –.150 .008 –.187 .001 .040 .501 –.075 .219
認知症に関する知識 合計得点 .129 .038 .147 .020 .081 .213 –.006 .925
認知症の人に対する態度 合計得点 –.397 <.001 –.338 <.001 –.371 <.001 –.283 <.001
認知症に関するケア知識 合計得点 .044 .488 .019 .765 .004 .950 .140 .043
R2 .272*** .255*** .197*** .144***

*** p < 0.001

1)所属(参照値:外科系病棟):外科系病棟=1 外科系病棟以外(内科系病棟・内科系/外科系以外の病棟)=2

2)職位(参照値:役職者):役職者(主任・副師長・師長)=1 スタッフ=2 

3)看護師経験年数:実際の経験年数

4)認知症についての関心有(参照値:無):関心なし=0 関心あり=1

5)高齢者看護学習経験:看護学生授業経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

6)高齢者看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

7)認知症看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

8)1カ月の入院患者のうち認知症高齢者の現病棟での患者数:0~5人=0 6人以上=1

9)第1因子:認知症高齢者のBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)への対応及び周囲の患者との調整困難感

10)第2因子:認知症看護の知識・経験不足による困難感

11)第3因子:医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感

表4 特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関連する要因:イメージの因子ごと

n = 272

総合得点(16項目) 第1因子9)(10項目) 第2因子10)(3項目) 第3因子11)(3項目)
β p β p β p β p
高齢者のイメージ 情緒的側面 –.090 .111 –.110 .056 .045 .441 –.077 .202
所属1) .036 .525 .025 .656 .031 .596 .047 .436
職位2) –.126 .137 –.093 .277 –.094 .284 –.166 .068
看護師経験年数3) –.202 .018 –.190 .028 –.234 .008 –.027 .771
認知症についての関心の有無4) –.002 .966 –.041 .480 .120 .043 .014 .820
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.059 .298 –.028 .626 –.094 .110 –.084 .170
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .040 .611 .051 .524 .006 .937 –.002 .979
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) –.020 .810 –.003 .973 –.089 .304 .007 .937
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .177 .002 .195 .001 .024 .678 .111 .065
認知症に関する知識総合得点 .135 .032 .155 .016 .079 .227 –.002 .975
認知症の人に対する態度総合得点 –.414 <.001 –.359 <.001 –.370 <.001 –.286 <.001
認知症に関するケア知識総合得点 .034 .593 .007 .915 .007 .921 .135 .049
R2 .259*** .234*** .198*** .144***
高齢者のイメージ 活動的側面 –.114 .042 –.147 .010 .026 .655 –.032 .592
所属1) .026 .643 .013 .818 .034 .558 .042 .489
職位2) –.127 .131 –.095 .265 –.093 .292 –.169 .064
看護師経験年数3) –.210 .014 –.201 .020 –.235 .008 –.023 .802
認知症についての関心の有無4) –.017 .759 –.059 .300 .126 .031 .003 .962
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.056 .318 –.025 .663 –.095 .107 –.082 .179
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .031 .689 .040 .616 .009 .910 –.006 .940
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) –.005 .953 .017 .841 –.092 .292 .010 .911
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .175 .002 .192 .001 .025 .669 .110 .068
認知症に関する知識総合得点 .123 .050 .139 .029 .083 .207 –.007 .913
認知症の人に対する態度総合得点 –.414 <.001 –.359 <.001 –.365 <.001 –.294 <.001
認知症に関するケア知識総合得点 .046 .472 .022 .731 .004 .951 .138 .046
R2 .263*** .243*** .197*** .139***
高齢者のイメージ 評価的側面 –.133 .018 –.164 .004 .011 .853 –.046 .443
所属1) .017 .759 .003 .964 .034 .561 .039 .527
職位2) –.135 .108 –.105 .219 –.092 .297 –.171 .060
看護師経験年数3) –.199 .018 –.187 .029 –.239 .007 –.020 .823
認知症についての関心の有無4) –.006 .917 –.045 .431 .125 .034 .007 .913
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.055 .326 –.024 .678 –.095 .107 –.082 .181
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .039 .618 .049 .531 .008 .924 –.004 .961
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) –.019 .824 –.001 .993 –.089 .309 .007 .942
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .188 .001 .208 <.001 .023 .686 .114 .059
認知症に関する知識総合得点 .129 .040 .147 .021 .081 .216 –.006 .928
認知症の人に対する態度総合得点 –.405 <.001 –.348 <.001 –.364 <.001 –.290 <.001
認知症に関するケア知識総合得点 .041 .514 .016 .804 .006 .925 .137 .047
R2 .268*** .248*** .196*** .140***

*** p < 0.001

1)所属(参照値:外科系病棟):外科系病棟=1 外科系病棟以外(内科系病棟・内科系/外科系以外の病棟)=2

2)職位(参照値:役職者):役職者(主任・副師長・師長)=1 スタッフ=2 

3)看護師経験年数:実際の経験年数

4)認知症についての関心有(参照値:無):関心なし=0 関心あり=1 

5)高齢者看護学習経験:看護学生授業経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

6)高齢者看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

7)認知症看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

8)1カ月の入院患者のうち認知症高齢者の現病棟での患者数:0~5人=0 6人以上=1

9)第1因子:認知症高齢者のBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)への対応及び周囲の患者との調整困難感

10)第2因子:認知症看護の知識・経験不足による困難感

11)第3因子:医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感

表5 特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関連する要因:態度の因子ごと

n = 272

総合得点(16項目) 第1因子9)(10項目) 第2因子10)(3項目) 第3因子11)(3項目)
β p β p β p β p
認知症の人に対する態度 肯定的態度 –.263 <.001 –.260 <.001 –.201 .002 –.095 .154
所属1) .047 .423 .029 .615 .056 .357 .061 .331
職位2) –.129 .143 –.105 .228 –.085 .359 –.149 .115
看護師経験年数3) –.242 .006 –.233 .008 –.256 .006 –.039 .678
認知症についての関心の有無4) –.015 .795 –.045 .437 .102 .098 –.014 .827
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.056 .344 –.020 .737 –.101 .107 –.095 .135
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .006 .945 .026 .746 –.028 .738 –.040 .642
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) –.006 .947 .009 .915 –.083 .366 .025 .790
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .185 .002 .199 .001 .030 .621 .123 .047
高齢者イメージ 合計得点 –.179 .003 –.205 .001 .005 .932 –.112 .076
認知症に関する知識 合計得点 .104 .111 .129 .047 .054 .426 –.031 .651
認知症に関するケア知識 合計得点 .033 .624 .016 .810 –.014 .841 .116 .104
R2 .200*** .217*** .119*** .086*
認知症の人に対する態度 否定的態度 –.342 <.001 –.262 <.001 –.355 <.001 –.316 <.001
所属1) .031 .583 .020 .726 .036 .535 .038 .524
職位2) –.077 .362 –.052 .547 –.047 .591 –.134 .131
看護師経験年数3) –.180 .036 –.179 .040 –.199 .025 .002 .981
認知症についての関心の有無4) –.029 .607 –.065 .260 .099 .091 –.004 .945
高齢者看護学習経験:看護学生授業経験5) –.089 .116 –.054 .351 –.125 .034 –.104 .082
高齢者看護学習経験:院外研修受講経験6) .017 .825 .026 .739 –.006 .939 –.008 .918
認知症看護学習経験:院外研修受講経験7) .013 .876 .030 .722 –.071 .413 .026 .773
認知症高齢者の現病棟での患者数8) .201 <.001 .218 <.001 .040 .486 .125 .035
高齢者イメージ 合計得点 –.179 .002 –.216 <.001 .017 .771 –.086 .148
認知症に関する知識 合計得点 .121 .056 .137 .034 .077 .236 –.004 .947
認知症に関するケア知識 合計得点 .010 .871 –.011 .861 –.025 .706 .121 .073
R2 .249*** .224*** .199*** .168***

*** p < 0.001 * p < 0.05

1)所属(参照値:外科系病棟):外科系病棟=1 外科系病棟以外(内科系病棟・内科系/外科系以外の病棟)=2

2)職位(参照値:役職者):役職者(主任・副師長・師長)=1 スタッフ=2 

3)看護師経験年数:実際の経験年数

4)認知症についての関心有(参照値:無):関心なし=0 関心あり=1

5)高齢者看護学習経験:看護学生授業経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

6)高齢者看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

7)認知症看護学習経験:院外研修受講経験:受講経験なし=0 受講経験あり=1

8)1カ月の入院患者のうち認知症高齢者の現病棟での患者数:0~5人=0 6人以上=1

9)第1因子:認知症高齢者のBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)への対応及び周囲の患者との調整困難感

10)第2因子:認知症看護の知識・経験不足による困難感

11)第3因子:医師や同僚との共通理解及び多職種チーム連携の困難感

NDDC尺度の「総合得点」を従属変数とした重回帰分析では,分散分析の結果,p < .001で有意であった.有意な関連を示したのは,看護師経験年数(β = –.213, p = .012),病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数(β = .182, p = .001),高齢者のイメージ合計得点(β = –.150, p = .008),認知症に関する知識合計得点(β = .129, p = .038),認知症の人に対する態度合計得点(β = –.397, p < 0.001)であった.高齢者イメージの3因子それぞれを独立変数として順番に投入した結果では,「活動的側面」(β = –.114, p = .042)と「評価的側面」(β = –.133, p = .018)が有意な関連を示した.また,認知症の人に対する態度の2因子では,「肯定的態度」(β = –.263, p < 0.001)「否定的態度」(β = –.342, p < 0.001)ともに有意な関連を示した.

Ⅳ. 考察

認知症ケア加算2を取得しているA特定機能病院の一般病棟で認知症高齢者をケアする3年目以上の看護師の困難感に関連した要因は,認知症の人に対する態度,経験年数,職位,病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数,高齢者イメージ,認知症に関する知識であった.

1. 認知症の人に対する態度

特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に最も関連していた要因は,認知症の人に対する態度であった.認知症高齢者に対する否定的な態度が困難感を高めていることが示唆された.金・黒田(2011)は,認知症高齢者への態度を寛容にする要因として,認知症についての関心が影響することを報告している.本研究の結果においても,認知症について関心がない看護師は,認知症の人に対する態度尺度の平均値が低く,関心のある看護師より否定的態度を示すデータであった.否定的態度を変容するには,認知症高齢者へ関心を示し,認知症高齢者に対する正しい知識を有することが必要(田中ら,2007)とされている.しかし,認知症高齢者の肯定的な部分に視点を向け正しい知識を有する過程において,潜在的に存在する認知症高齢者に対するスティグマやエイジズムが先行し,高齢者に対する否定的なイメージを払拭できていない(日本老年看護学会,2016吉田ら,2017)ことが否定的態度に影響していると考えられる.本研究のデータからも「認知症の人はいつ何をするかわからない」「認知症の人は周りの人を困らせることが多い」の項目において,70%以上が『そう思う』『ややそう思う』と回答しており,認知症に対するスティグマの影響ではないかと考えられる.そのため,看護師自身が認知症高齢者に対する自己の内面を認識し,否定的な感情に支配されることを防ぎ,自己を客観視することで,認知症看護に対する否定的な捉え方が改善され(村上ら,2015),認知症高齢者に対する態度の変容につながる可能性がある.行動変容とは「経験によって生じる比較的永続的な行動の変化」(津田・石橋,2019)とされており,経験によって行動が変化する.そのため,認知症高齢者に対する行動すなわち態度を肯定的に変容させるためには,認知症高齢者に対する正しい知識を有するだけではなく,その知識を実践に生かすこと(小松ら,2017)ができる経験が必要である.認知症高齢者の行動の意味を正しく理解することや認知症高齢者に関わる中で感じた感情などを,認知症の専門職チームなどと共に振り返り,認知症高齢者を肯定的に捉えるための機会をつくる必要がある.

2. 経験年数

看護師経験が浅いスタッフの方が困難感を高めていることが示唆された.経験が長い看護師は,認知症高齢者との関わりを重ね,個別性の理解がより求められる認知症高齢者への対応能力を獲得し(川村ら,2020b),認知症ケアを向上させたのではないかと考えられる.鈴木ら(2016)は,経験を重ねることによって独自性のあるケアの工夫ができるようになると示しており,本研究対象者においても経験年数が浅い看護師は認知症高齢者のケアに対し困難感が高いのではないかと考えられる.

3. 病棟ごとの認知症高齢者の1カ月の入院患者数

認知症高齢者の人数が多いほど看護師の困難感を高めていることが示唆された.本研究において「訴えられない患者の全身状態をアセスメントすることは難しい」では,『まれにある』『たまにある』『ときどきある』『しばしばある』『いつもある』を合わせると97.8%であり,認知症高齢者の行動の理解や訴えていることが不明といったコミュニケーション障害(乙村・徳川,2012千田・水野,2014)などがあるため,認知症高齢者のアセスメントが難しいと捉えられている.また,「限られた職員で患者の生活行動を見守るのは困難である」「不穏患者が大声を出すと周囲の患者に迷惑がかかるので困る」では『まれにある』『たまにある』『ときどきある』『しばしばある』『いつもある』を合わせると99%以上の結果であった.急性期治療を担う病院は,認知症高齢者に十分関わるには人手も構造も不十分(小山ら,2013a)であり,このような環境下にアセスメントすることが難しい認知症高齢者が入院することで人手や時間がかかるため拒否的な傾向になり,認知症高齢者の人数が多いほど困難を強く感じるのではないだろうか.しかし,今後の認知症高齢者の推定有病率は2025年には18.5~20.0%と高まることが推測されており(内閣府,2017),特定機能病院に入院する認知症高齢者の人数は増加傾向にある.そのため,特定機能病院に認知症ケアが求められていることを認識し,認知症高齢者が安心して入院できる環境を整えることが重要である.

認知症ケア加算2の算定要件としては,認知症看護認定看護師等が年1回以上の研修や事例検討会を実施することが定められている.しかしながら,急性期一般病棟の看護師は重症患者と認知症患者を同時に多く受け持つことに対する困難感を抱いており,急性期一般病棟における重症患者と認知症高齢者の看護に適した教育プログラムの構築をすることが必要と考えられている(川村ら,2020a).研修や事例検討会を企画する際は,より一層現場の状況を反映させた研修の実施やスタッフへの直接的助言が必要と考えられる.

4. 高齢者イメージ

ネガティブな高齢者イメージが看護師の困難感を高めていることが示唆された.また,高齢者イメージの下位尺度である「活動的側面」と「評価的側面」におけるネガティブなイメージも困難感を高めていることが示唆された.高齢者イメージの下位尺度である「活動的側面」の「暗い」,「不幸な」,「消極的」,「不活発な」と「評価的側面」の「頑固な」,「不自由な」,「劣った」はネガティブなイメージに結びつく形容詞であり,高齢者に対するステレオタイプやエイジズムを連想させる言葉である(金・黒田,2011).低下する身体的機能や介護負担など,健康障害の否定的な側面に意識が向けられることでエイジズムが強くなり(茅野,2020),高齢者とのコミュニケーションを阻害し,高齢者との関わりには時間を要する,アセスメントが難しい(湯浅ら,1997)などのネガティブなイメージが困難感を高めているのではないかと考えられる.

看護師の認知症高齢者イメージの形成は,認知症高齢者に対する先行イメージにより形成されているため,認知症高齢者に対する否定的感情あるいは否定的イメージは,認知症ケアの質に影響を与える(村上ら,2016).そのため,認知症高齢者をポジティブに捉えることができれば困難感が軽減し,認知症ケアにも良い結果をもたらすと考えられる.看護師は周囲の人間の認知症に対する肯定的・否定的な言動に影響を受けやすく,職場内での認知症高齢者に対する否定的な発言や行動は職場全体の認知症高齢者のイメージを否定的に変化させる(村上ら,2016).認知症看護の成功体験や認知症高齢者のポジティブな面に視点を当てた現場教育により,認知症高齢者に対するイメージを変化させることができるとされている(村上ら,2016).認知症や高齢者に関する知識だけではなく高齢者の肯定的な側面を知る機会を実際に持つことで,イメージを肯定的に変化させることが重要(西山ら,2018奥村・久世,2008)である.看護師一人ひとりが認知症高齢者を肯定的に捉えられるよう,専門家と共に関わることでネガティブなイメージを払拭させることが必要であると考える.

5. 認知症に関する知識

認知症に関する知識を有しているほど特定機能病院で認知症ケアを行う看護師の困難感を高めていることが示唆された.認知症に関する知識があると,ケアの場面での困難さや認知症高齢者のアセスメントの難しさなどの否定的イメージ(中澤ら,2007西山ら,2018)につながる知識も有しており,認知症高齢者の対応に負担感や困難感を抱きやすいと考えられる.認知症に関する知識を有しているだけでは,認知症高齢者に対する苦手意識が強くなるだけであり,認知症高齢者への対応方法も同時に習得し(西山ら,2018),知識を実践に生かせるようにする必要がある.

福崎・谷原(2016)は,看護師は研修で得た知識などを現場で活用しようと努力するが,その効果が見えないために,自身のもつ技能に不安を抱き,自信を喪失し,専門職としての知識を現場で活かしきれていない現状に無力感を感じ,自己効力感が低下しやすいとしている.習得した知識に対する具体的な対応方法を認知症高齢者との関わりの中で習得し,認知症ケアに対する自己効力感が高まるように看護師を支援する必要があると考えられる.

Ⅴ. 研究の限界と課題

本研究では,認知症看護認定看護師が配属されている病棟を除外したが,直接認知症ケアについての助言がもらえることなどが想定され,困難感の内容に差が生じる可能性が考えられたためである.したがって,研究対象者が一施設の特定機能病院の認知症看護認定看護師が配属されていない一般病棟で認知症高齢者をケアする3年目以上の看護師であり対象が限られていた.そのため,本結果について,認知症ケア加算を算定していない特定機能病院の一般病棟で勤務する3年目以上の看護師では,認知症ケアに関してさらなる困難感を抱えている可能性があるため一般化するには限界がある.

特定機能病院ごとに背景や認知症ケアの取り組みに独自のものがあると考えられるが,特定機能病院の半数以上は認知症ケア加算を取得しているため(厚生労働省,2019),特定機能病院としての機能や役割,リソースの存在等は同等であり,今回の結果は他の特定機能病院でも応用可能ではないかと考える.また,対象者への全数調査を行うことでサンプリングバイアスを最小限とした.今回の調査では病棟の特殊性別ではなく,一般病棟全体として調査することが目的であったため,病棟名を調査項目には含んでおらず,病棟特性が考慮されていない.

また,本研究では残差の正規性を確認できておらず,線形回帰分析の仮定を満たせていないため,本研究の結果の推定においてはαエラーのリスクが増加している可能性がある.

今後は他の特定機能病院や1,2年目の看護師も含めた全看護師を対象とした調査や,認知症看護認定看護師などスペシャリストの在籍する病棟とそれ以外の病棟との認知症ケアや認知症高齢者への態度の違いなどを調査し,さらなる看護師の困難感との関連要因や教育の方向性を明らかにしていくことが課題である.

Ⅵ. 実践への示唆

本研究の結果から,特定機能病院で認知症高齢者をケアする看護師は,治療優先の環境の中で認知症ケアに対する困難感や葛藤を抱いていると考える.認知症ケアをする看護師は,その困難さから自己効力感が低下しやすく,バーンアウトしやすい(福崎・谷原,2016)ことが報告されている.認知症に関する知識を有しているほど認知症ケアへの困難感が高いことが示唆され,認知症に関する否定的な側面に関する知識が困難感に影響していることが考えられる.そのため,正しい知識を学び実践に生かすことが必要と考える.単なる研修では具体的な実践方法がイメージできないなど限界がある(鈴木ら,2015)ため,モデリングとなるような看護師が効果的に介入(松田ら,2006)し,認知症ケアの具体的な実践を共に行うことで,認知症ケアの成功体験につなげ自己効力感を高めバーンアウトを予防することが求められる.老人看護専門看護師や認知症看護認定看護師などの専門家による支援体制(片井・長田,2014川村ら,2020a)を整え,共に実践し,看護師が認知症高齢者を正しく理解し,正しい知識と対応法を身に着け認知症高齢者を肯定的に捉える必要がある.

Ⅶ. 結論

特定機能病院の一般病棟で認知症高齢者をケアする3年目以上の看護師の困難感は,否定的な態度,経験年数が浅いこと,病棟ごとの認知症高齢者が多いこと,ネガティブな高齢者イメージ,認知症に関する知識を有していることが関連していると示唆された.経験年数が浅い看護師においても認知症高齢者に対する正しい知識と対応方法を身につけることができるよう支援体制を整えていく必要がある.

付記:本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.また,本研究は,大阪医科薬科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に快くご協力してくださった研究対象者の皆様,心より感謝申し上げます.また,ご多忙の中,ご協力いただきました施設の看護部長・教育担当副部長,研究対象者の選定をしていただきました各部署の責任者の皆様に心よりお礼を申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:上野山恵子は研究の着想,デザイン,データの収集,データ解析,論文の執筆に貢献,樋上容子はデータ解析,論文執筆のアドバイス,久保田正和は研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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