日本看護科学会誌
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資料
看護学生における患者への関心に関する質的研究
―エキスパート看護師との比較から―
田辺 幸子水田 真由美岩根 直美坂本 由希子
著者情報
キーワード: 看護学生, 患者, 関心
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2026 年 46 巻 p. 125-135

詳細
Abstract

目的看護学生(以下学生とする)およびエキスパート看護師の患者への関心を明らかにする.そして両者を比較することで学生への教育的支援の示唆を得る.

方法:学生10名,エキスパート看護師3名にフォーカス・グループインタビューを実施しテーマ的コード化により分析した.

結果:患者への関心として,学生,エキスパート看護師で類似のテーマは〈患者を理解しようとする心構え〉〈患者の心奥の望みを理解したい思い〉〈患者の生活を尊重する心構え〉,相違として学生では〈コミュニケーション時の患者への気配り〉〈患者の病状への注目〉〈患者の安楽の重視〉〈患者の気遣いや承認から生じる専心〉のテーマを見出した.

結論:教育的支援として,患者の生活や病気体験が理解できる支援,患者とうまくコミュニケーションを取れる支援,患者に苦痛のないケアを行える支援,ケアを通して患者からの良い反応を受け取れる支援が必要との示唆を得た.

Translated Abstract

Purpose: This study aims to clarify the interest and concern for patients in nursing students (hereafter referred to as “Students”) and expert nurses. Then, by comparing them, we will obtain suggestions for educational support for the students.

Methods: Focus group interviews were conducted with ten Students and three expert nurses, and the data were analyzed through thematic coding.

Results: Similar themes regarding interest and concern in patients were found both in Students and expert nurses: “Attitude towards understanding the patient”, “Desire to understand the patient’s innermost desires”, and “Attitude of respecting the patient’s life”. As a difference, themes were found in Students: “Attention to the patient during communication”, “Focus on the patient’s medical condition”, “Emphasis on the patient’s comfort”, and “Dedication arising from the patient’s concern and approval”.

Conclusion: The results suggest that educational support should be provided to help Students understand patient’s life and illness experience, to communicate well with patients, to provide painless care to patients, and to receive positive feedback from patients through their care.

Ⅰ. 緒言

日本の若者の特徴として,人間関係を形成する力の低下の傾向や,特定の仲間の集団の中では濃密な人間関係を持つが集団の外の人に対しては無関心となることが指摘されてきた(文部科学省,2009).さらに,近年は核家族化し両親との関係においてすら情報の共有は希薄化している(長谷川,2019).人との関わりが苦手な若者が多く(中田,2015),特定の仲間以外の人と関わる機会の減少によって,多様な集団との人間関係の形成が困難になっていると考える.さらに,友人との対面コミュニケーションにおいても,関係悪化を恐れ自身の気持ちを伝えることを避ける傾向が強く,自分が傷つくことを恐れる学生が多く存在することも報告されている(中田,2015).

看護学生(以下学生とする)も同様に,仲間以外との人間関係構築に難しさがあり,友人であっても傷つくことを恐れ,関係悪化を回避する付き合い方をする特徴があると言える.このような現在の学生が患者に看護を行うには,今まで無関心であった対象に関心を向ける必要がある.患者が求める看護を実践するためには,学生自身が関係性を恐れず患者に関心を向け,その関心を高めていくことが求められる.

関心について,広辞苑第7版(新村,2018)では,「心にかかること,気がかり.特定の事象に興味を持って注意を払うこと.ある対象に向けられている積極的・選択的な心構え,または感情」と示されている.看護においてNightingale(1893/1974)は「病人の看護と健康を守る看護」において,症例に対する理性的な関心,病人に対する心のこもった関心,病人の世話と治療についての技術的(実践的)な関心の三重の関心を示し,三重に関心を向けることが質の良い看護に繋がる(見城,2014)と考えられている.この関心は「interest」を訳したものである.そして,この心のこもった関心は,母親の慈愛や人の喜びや苦しみを共に感じる隣人愛を個別の患者に向けることであり,意思のあるひとりの人間としての患者の立場になって看ることである(見城,2014).これは,患者を尊重し患者の立場になるという患者に向けられた心構えと愛などの感情であるといえる.一方,Benner & Wrubel(1989/1999)は,「人が何らかの出来事や物事,あるいは他者を大事に思い,そのことを通じて自らのあり方を本質的に規定され,特定の活動へと動機づけられるのは,人間に関心というものがあるからである」「関心とは人間が自らの世界に巻き込まれ関与していることを言い表す概念である」と述べている.つまり,患者を大事に思うことで患者のことが心にかかり,そうした患者のことが気がかりであるという看護師自身の世界に巻き込まれ患者に関与していくと考えられる.この関心は「concern」を訳したものである.さらに,木村ら(2012)は優れた看護師の力の一つに「患者への関心」を挙げ,看護実践の土台であるとした.以上のように日本においての関心は「interest」と「concern」両側面があるといえる.

そして,Nightingale(1893/1974)が示している三重の関心を患者に向けることで本来の看護ができる(見城,2014)ことや,関心というこの立場に立たぬ限り看護師は患者のことを解釈も理解もできず,その後の看護活動はそうした関心によって導かれる(Benner & Wrubel, 1989/1999)ことから,看護において患者に関心を向けることは重要である.そのため,現代の若者の特徴を持つ学生が患者に関心を向け,その関心を高める教育的支援が必要である.

これまでの学生および看護師における患者への関心についての研究を包括的にレビューした結果(田辺・水田,2025)では,学生における患者への関心として,実習体験における関心事象(大庭ら,2009野口ら,2012)や学び(鎌田,2016),実習におけるコミュニケーションに関する関心(林・井村,2012工藤ら,2015),患者に気持ちが向いていくプロセス(谷村ら,2011),多様な文化的,民族的,言語的背景を持つ患者をケアする際の学生の関心(Markey et al., 2018),患者の関心事への関心やケアに関する関心(Zolkefli & Chandler, 2024)が報告されている.

看護師における患者への関心については,優れた看護師が備えている力の一つに患者への関心が示され(木村ら,2012),その他,看護師が看護を行う上での関心事が中心となった報告(平山・北村,2018竹中ら,2019上岡ら,2020Kenward & Hodgetts, 2002Oyesanya et al., 2018)がなされている.

これらの文献から学生及び看護師の患者への関心として,患者の尊厳,わずかな兆候,患者のニーズ,患者への個別的なケアがある事が示唆され,さらに,学生には患者との関係,患者に関心を向ける困難さが,看護師には患者の生活が患者への関心としてあることが示唆された(田辺・水田,2025).しかし,患者への関心を直接調査し明らかにした報告ではなかった.そこで,学生および看護師に患者への関心についてインタビューを行い,具体的な関心内容を明らかにする必要がある.Benner & Wrubel(1989/1999)によるとエキスパート看護師(以下エキスパートとする)は患者への関心がよりどころとなり,その関心によって柔軟で多様な働きかけが可能になっているといわれている.本研究ではエキスパートの「患者への関心」と初心者である学生の「患者への関心」を具体的に比較することで,学生が関心を向けられていない事象や心構えが明らかとなり,学生への教育的支援の示唆を得られると考える.また,看護師へのインタビューはエキスパートとすることで,学生との違いをより明確に捉えることができると考える.

Ⅱ. 目的

学生およびエキスパートの患者への関心を明らかにする.そして両者を比較することで学生への教育的支援の示唆を得る.

Ⅲ. 用語の定義

関心について広辞苑第7版(新村,2018)の定義では「心にかかること,気がかり.特定の事象に興味を持って注意を払うこと.ある対象に向けられている積極的・選択的な心構え,または感情.」とされている.これを用いて本研究では「患者への関心」を以下のように定義する.

患者への関心:患者に対して心にかかることや気がかり,患者の事象に興味を持って注意を払うこと,患者に向けられている積極的・選択的な心構えまたは感情.

Oxford English Dictionary Online(2000a, 2000b)の定義によるとConcernは,名詞4.c.の定義「A feeling of interest, solicitous regard, or anxiety; worry」(Oxford English Dictionary Online, 2000a)とされ,Interestは,名詞I.6.a.の定義「A feeling of particular concern for or curiosity about a person or thing」(Oxford English Dictionary Online, 2000b)とされることから,本研究における関心の英語表記は2つの概念を用いた.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 研究参加者

学生は,看護専門学校と看護系大学の学生数が2023年の国家試験受験者数ではほぼ同数である(厚生労働省,2023)ことから両方を対象とした.そして,看護を実践した経験が多いと考えられる最終学年の看護専門学校(3年課程)3年生と看護系大学4年生を対象とし,患者への看護を実践した経験のないものは除外した.また,学生との相違性を検討するために臨床経験6年以上で認定資格を持ち,医療機関に勤務しているエキスパートも対象とした.Benner(1984/2005)によると,経験年数3~5年が中堅レベルであるため,エキスパートは経験年数を6年以上とし,本研究ではすべての看護師が達人になれるわけではない(Benner, 1984/2005)ことから認定資格を持つ者とし,日本看護協会が資格認定する専門看護師及び認定看護師とした.

学生は,協力の得られる看護専門学校の学校長と看護系大学の学部長に研究の概要を説明し,参加募集のチラシを掲示してもらい参加者を募り,研究参加の同意があった学生とした.エキスパートは大学教員より紹介してもらい,雪だるま式対象選択で紹介されたエキスパートは次のエキスパートを紹介するというように順にほかのエキスパートを紹介してもらい,研究参加の同意があったエキスパートとした.

3. 調査時期

2023年4月~2023年5月

4. データ収集方法

看護専門学校3年生と看護系大学4年生,エキスパートそれぞれ同じ属性を1グループとしてフォーカス・グループインタビューを行った.フォーカス・グループインタビューを選択した理由は,普段個人が意識していない患者への関心を言語化するために,より豊富な発言を引き出せると考えたからである.フォーカス・グループインタビューでは,参加者間で相互作用が行われることにより参加者は考えを刺激され,自分自身の考えや感情に気付いたり,お互いの意見に応えることでインタビュー前には考えなかった新しい発想を生み出すなど,個人面接よりも多くのデータを生み出すことができる(Holloway & Wheeler, 2002/2006).

インタビューを開始する際,研究参加者の自己紹介をしてもらい,次に「患者に対して心にかかることや気がかりはどのようなことか」「患者のどのようなことに興味を持って注意を払っているか」を主な質問としたインタビューを行った.インタビューの司会進行は研究者が務め,研究参加者の非言語的な動きを察知して声をかけるなど参加者間での自由な討論を促した.インタビュー内容は参加者から同意を得てICレコーダーに録音した.

5. 分析方法

録音データをもとに逐語録を作成後はテーマ的コード化(Flick, 2007/2011)により分析を行った.テーマ的コード化は複数のグループを対象に用いられ,グループ間の共通点や違いを明確化・分析する手法である.本研究では学生とエキスパート間の類似性と相違性を検討した.

学生とエキスパートをそれぞれ1グループとし,まずグループごとの分析を実施した.分析は,対象に対して心にかかることや気がかり,対象の事象に興味を持って注意を払うこと,対象に向けられている心構えや感情が語られた内容を抽出しコード化した.そして,コードの類似性に基づいて学生とエキスパートそれぞれの患者への関心に関するテーマを見出した.学生については,看護専門学校,看護系大学をそれぞれ分析した結果,同様のテーマとなり差がなかったため学生としてまとめて分析した.

研究の真実性については,研究参加者にテーマ,コードについてデータの解釈が適切であるかを確認するためメンバーチェックを行った.学生については協力が得られた代表者2名,エキスパートについては全員に対して行った.また,すべての分析過程において共同研究者間で合意が得られるまで検討した.

Ⅴ. 倫理的配慮

本研究は和歌山県立医科大学倫理審査委員会の承認(承認番号3794)を得て実施した.対象者には研究趣旨,個人情報保護,自由参加,参加可否による不利益,成績への影響はないことを文書と口頭で説明し同意を得た.また,研究参加に同意した後の参加中断が可能であること,データの利用の同意撤回が可能であることを保証し,中断や同意の撤回による不利益を受けないことも説明した.特に学生においては,研究の説明は学生の成績に影響しない者が担当し,決して参加,不参加により成績に影響しないことを説明し,研究参加は学生が自主的に参加募集のチラシを見て連絡できるようにした.

Ⅵ. 結果

1. 研究参加者の概要

学生は,専門学校生6名,大学生4名で,エキスパートは3名が参加した(表1).インタビューの所要時間は平均43分であった.

表1 参加者の概要

フォーカス
グループ
人数 学校の種類 学年 性別 実習経験科目
学生 1 6名 専門学校 3 基礎,成人(慢性期),母性
専門学校 3 基礎,老年,母性
専門学校 3 基礎,成人(慢性期),成人(回復期),在宅
専門学校 3 基礎,成人(回復期),母性
専門学校 3 基礎,成人(慢性期),母性,在宅
専門学校 3 基礎,成人(慢性期),成人(回復期)
2 4名 大学 4 基礎,成人(急性期),精神,老年,小児,母性
大学 4 基礎,成人(急性期),老年,小児,在宅
大学 4 基礎,成人(慢性期),老年,小児,在宅
大学 4 基礎,成人(慢性期),老年,小児,在宅
所属施設の種類 経験年数 性別 資格
エキスパート
看護師
3 3名 訪問看護ステーション 21年 がん看護専門看護師
病院 27年 がん看護専門看護師
病院 24年 皮膚排泄ケア認定看護師

2. 学生・エキスパートにおける患者への関心

患者への関心として,学生では7つ,エキスパートでは5つのテーマを見出した.以下,テーマを【 】,コードを《 》,語りの内容を「斜体」で示し,それぞれのテーマについて述べる(表2表3).

表2 学生における患者への関心についてのテーマ的コード化

テーマ コード 語り
患者を理解しようとする心構え 患者を知ろうとする気持ち ・患者さんのことを知ろうと興味を持つこと,知ろうとする意欲
患者への祈りや思いが伝わる姿勢 ・元気になってほしい,何かしら力になりたいということを患者に伝えられるようにすることを大切にして患者に向き合っています
患者に関心を向けるために必要な知識 ・知識とかがないと患者に向ける必要がある関心がわからないと思う
自身の価値観で判断しない姿勢 ・自分だったら別に平気だが,患者さんにとっては,それはすごい辛いことかもしれない.人には自分と考えに差があるということをきちんと分かった上で,話すことが大事と思っている
コミュニケーション時の患者への気配り 患者のプライバシーを保護した環境への気配り ・個室でない場合,周りの人にも個人情報が聞かれてしまう.話すときの環境,周りにあまり人がいないところ
患者に向き合える時間の重視 ・自分が次にしないといけないことがあるとか,自分が焦ってるときに,患者に大切な話を聞きに行ったら,もしかしたら喋ってくれてる途中で終わらないといけないかもしれないから,時間も大切にしている
患者が話しやすいコミュニケーションへの気配り ・言葉遣いとか,態度とか,同じ高さの目線,なんでもいいから話してもらえるように関わっている,関係性を築きながら,その人の深い部分に迫っていくようにはしている
患者を尊重したコミュニケーションへの気配り ・患者の発言を遮らないように,先に患者の言葉を受け止めて,その後で,話の流れにも応じて,必要な欲しいなと思う,聞きたいようなことを聞きます
患者の病状への注目 事前のカルテからの情報への注目 ・私たちは看護学生で,入院の途中とか,過去の情報がある地点で持たせていただくことが多いので,患者と会う前にカルテに載っていることを見ることができる.その段階でどう対応しようかと考えることが実際に会ったときの患者との関わりに影響している
患者自身の疾患に対する理解度への注目 ・患者さんが自分の病気をどう理解しているか,患者がどう考えているかをまず理解して,今の病状をきちんと正しく理解してもらえるかを考えて話を聞いている.
患者の身体状態の変化への注目 ・症状では見た目は普通,正常だけど,何か患者さんの中に異変が起きていないか考えていくことが関心
・身体的な症状とかは,医療的な面で大切だから関心を向けている
家族から得られる患者の情報への注目 ・お母さんへの情報を聞き出すことも必要
患者の心奥の望みを理解したい思い 治療や現状に対する患者の心の奥の思いへの注目 ・治療をするときの患者さんが,その治療に対してほんとにどう思っているか.看護を提供する上で,質の向上というか,より良いものにするためには,表面上のことだけじゃなく,患者の心の奥の事を聞く必要があり,それがより良いものにつながる
患者のニードへの注目 ・患者にとって,必要なケアだけをするのではなく,その患者が求めていることは何か,必要なこと以外も行うことが関心
・患者さんはもう治すとかじゃなくて,残りの人生をという感じだったので,ちょっとでも楽しく,苦痛を減らすことを考えて,その患者さんが最後どうなりたいか
患者の安楽の重視 身体的苦痛への注目 ・手術とかの後の身体的侵襲とか,痛みとか大きい
患者の精神的状態への注目 ・不安や心配が多かったら治療にも影響が出ると思うので,入院の目的として,治療を効率的に円滑に進めることも大切だと思うので,精神的にも良好な状態に近づけるように関心を向けている
患者に苦痛を与えない気配り ・患者さんの入院は,病気を治す治療のためであり,その治療に苦痛があったら,二次的に治療を阻害する.だから苦痛を与えないように,治療に専念していけるように,否定せずに,関わる
・会話が患者にとって負担にならないようにしたい
良好な精神状態を保つ入院生活への配慮 ・入院するというだけでも,患者さんにとってはストレスになっている.入院生活中で,自分達が除けるストレスを少しでも除いて,気持ち的には入院前と変わらない生活を送れるように,その辺に気を向けている
社会的苦痛の緩和への気配り ・家の事とかにも不安を持っていたりするし,仕事とか,いろいろな葛藤があると思う.話してもらうことで,患者の中でも整理できたらいいなと思っている
心身両面の患者の安楽への配慮 ・精神的にも身体的にも,ちょっとでも患者さんが楽になるようにケアしていくこと
患者の生活を尊重する心構え その人の背景や人物像への注目 ・その人の生活背景,生活習慣,仕事,家の中での立ち位置,趣味,人柄,性格,健康管理の方法,その人の生活背景があるからこそ,今出てくる症状もあると思う
入院前の生活を考慮する心構え ・入院前にしていた生活で病院でできることがないか,入院前の生活と同じ状態に戻る帰れるように,少しでもでも近づけるように
退院後の生活を考慮する心構え ・入院の生活だけじゃなくて,その後の退院後の生活も患者さんはあるわけで,そこへどうつなげていくか
発達段階を考慮する心構え ・自立に向かっていく中にあると思うので,手伝いすぎるんじゃなくて,発達を支えられるように,できるところはやれるようにしないといけない
家族の疲労を考慮する心構え ・朝訪室したときに,(家族が)やっぱり昨日は全然寝れなかったと言っていたのと,その表情からも,すごい疲れている感じがよくわかったので,休息が必要だと思った
患者を尊重したより良い療養生活への配慮 ・患者のことを第一に考えて,チーム医療などでも患者が中心ということもあると思うので,患者を尊重しながら,治療にもつなげることができるように,そのことを考えられるように関心を持つことが大切
患者の気遣いや承認から生じる専心 患者に対する感謝の念 ・(知りたいと思う理由として)受け持たせてもらっている事への感謝
自分が実践したケアに対する患者の反応への注意 ・患者さんに必要な訓練等を考え,その説明を患者に行い,自分がその姿勢を見せたら,患者さんが「そう言ってくれてるから頑張るわ」って,患者さん自身でも空いてる時間に取り入れてくれたり
患者からの承認による意欲の高まり ・自分がやったことに対してありがとうと笑顔で返してくれたら,もっと頑張らないとと感謝の気持ちはもともとあるけど,それがあることによって,またもっと感謝の気持ちが加わる
患者の気遣いへの返報の念 ・自分たちが受け持たせてもらっている分,患者さんは自分達に,時間を割いてくれたり,気を遣ってくれている.その分の価値を提供しないといけない
表3 エキスパート看護師における患者への関心についてのテーマ的コード化

テーマ コード 語り
専門職として患者を尊重し理解しようとする心構え 自然と患者を理解したい思い ・相手への興味とか,その人のことを知りたいという思いであるとか,理解したいという,自分からの湧き出てくるような思いというか,人に言われて持つようなものでもなく,自然に知りたいなとか,どう思っているんだろうという時に持つ思い,というふうに思っている
専門職の責務を果たす患者理解への思い ・私は専門職として一通りの知識や技術はあるけれど,何がそこで起こってるのかというのは患者さんしか知りえないので,それをやっぱり知らないと自分のミッションは果たせない.だからそこに興味があるのは当然だし,それがないと始まらない
自身の価値観で判断しない姿勢 ・自分の押し付け,自分の価値観で,歪めないじゃないけど,こっちで勝手に解釈しないように,なるべく真っ白で感じたままを聞いて,先入観を入れないであったりとか,自分の価値観で支配しない
患者を理解してしまったと思わない姿勢 ・理解したって思ってしまったらもう終わりですよね.理解してしまったというのは関心の真逆にあるというか,それだったら,もうそれ以上知ろうとしないですもんね
人として対等に共に歩む姿勢 ・患者さんとは医療者だからっていうことではなく,人として対等であるというところと,パートナーシップという視点で,一緒にゴール,目標目指して歩んでいくっていう,隣に居れる対象であるような人でないといけない.そういう姿勢は忘れずに,してます
患者の人生への注目 患者を取り巻く生活環境への注目 ・広く地域であったりとか,その人の関わるもの,やっぱり全体に関心は必要
治療が患者の生活に及ぼす影響への注目 ・ストーマ造設されたときに,その人の大事にしてることにどう影響を及ぼすかっていうところは,その人にとってでしかないので,その人の体験しているような世界というか,そういうものが,ストーマ造設ということで,どのように影響を及ぼしているかっていうことを,わかりやすく言うと,仕事をしている人としていない人,それで,ストーマ造設の意味が変わってくるので,その人にとって,そういうふうな種類の困り事とというものが何か存在しているのかというところに,向けて聞いてると思います
家族を含めた患者の人生の重視 ・仕事のこととかももちろん大事ですし,私たち,生活者として,その人がどういうふうに生きていくかなども踏まえて,一人の人を理解しようって思いますかね.一つの部分だけじゃなくって,その人生を送っていく一人の人としての理解というところなのかなぁと思ったりもします.この人が,今までどう生きてきて,家族とどうかかわって,どんな人生だったのか,これからどう生きたいと思っているのか
患者の心奥の望みの重視 治療や今後の生き方に対する患者の心奥の思いの重視 ・これからどう生きたいと思っているか,今病気であればこの治療をどう思っているのか,どんな判断をしてきたのか.生きていきたいと思っているその先,家族も踏まえてその辺全部知っておきたい.それがないとその人にとっての治療の意味も,どういう関わりができるかも全然違ってくる.
患者の真のニードの重視 ・その患者さんの裁量は患者さんにしかないと思うので,私からは分からないので,患者さんが一番何を望む形なのかっていうのは,患者さんはそれは意識的にあるものと,無自覚であるものとがあるので,私たちは,専門的な知識を持って,それを想像しながら聞いて,患者さんの本当に望みっていうのを患者さんから得ないと,その患者さんに一番いい成果はありえないと思う
患者の価値観の重視 ・患者さんの価値であるとか,どういうふうに頑張りたいかという本質のところを知ることで,私たちは,その人に合ったケアを考えていく,一番ほんとに言われたみたいに基本的なところになるのかな,大事なところ.それをなくして,その人のための看護っていうのは,ちょっと考えにくいかなぁと思います
体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮 失敗および成功体験から予測される患者のニーズへの注目 ・失敗した体験っていうのも,けっこう印象強くって,それで,あの時,あんなふうにしておいた方が良かったんだな,次からそうしようっていうところですごい関心がいく.これをやって,すっごい喜んでくれたみたいな,成功体験というか,それで,あっ,意外とこれやったら患者さんってすごい助かるんだ,みたいな体験で,じゃ次からそれも聞いてみようって,そこに関心がいく
学習から得た患者への新たな注目 ・経験だけでなくって,勉強したことによって色々見え方を知るとまた,あっ,こう見えたら,こう繋がるんだみたいなことで,ここに関心を寄せる価値があるっていうか,そういうのを感じることができて,そこに関心を持つようになったり
自身の患者・家族体験に基づく患者・家族の苦痛への配慮 ・一番看護師になろうと思ったその自分の経験,家族を亡くした経験っていうのはもう,おそらく根本的なものはずっと変わらない.そんなことにならない,後悔する人を作らない,っていうのと,そういう家族を作らないとか,苦しむ人を出さない,っていう経験がベースにあって看護師になって,そういうところはまず,なんか関心に影響してきて,今の自分のミッションにも影響してる
・関心の向かっていく先とかも少し幅も広がるのかな
その人らしい生活を尊重する心構え 患者を尊重した生活様式への配慮 ・患者さんの人生,患者さんが主体よね,やっぱり.その人の生き方を支える
治療を受けながらのその人らしい生活への配慮 ・生活とか,その人らしく過ごしていただくとか,その人の治療とか,その人が向かっていこうとしてる方向性で,私たちが支援しなければいけないことに関心を向けて,情報をとったりとか,知っていくということ

1) 学生における患者への関心についてのテーマ的コード化

 (1)【患者を理解しようとする心構え】

《患者を知ろうとする気持ち》や「元気になってほしい,何かしら力になりたいということを患者に伝えられるように」のような《患者への祈りや思いが伝わる姿勢》を患者に向けていた.また,《患者に関心を向けるために必要な知識》を持ち,《自身の価値観で判断しない姿勢》で【患者を理解しようとする心構え】を患者に向けていた.以上から【患者を理解しようとする心構え】が見出された.

 (2)【コミュニケーション時の患者への気配り】

《患者のプライバシーを保護した環境への気配り》をし,「自分が焦ってるときに患者に大切な話を聞きに行ったら途中で終わらないといけないかもしれないから時間も大切にしている」のように《患者に向き合える時間の重視》をして《患者が話しやすいコミュニケーションへの気配り》を行い,「先に患者の言葉を受け止めて」のように《患者を尊重したコミュニケーションへの気配り》をし,【コミュニケーション時の患者への気配り】をしていた.以上から【コミュニケーション時の患者への気配り】が見出された.

 (3)【患者の病状への注目】

《事前のカルテからの情報への注目》をし《患者自身の疾患に対する理解度への注目》また,「見た目は普通,正常だけど何か患者さんの中に異変が起きていないか」のように《患者の身体状態の変化への注目》をしていた.さらに,《家族から得られる患者の情報への注目》もし,【患者の病状への注目】をしていた.以上から【患者の病状への注目】が見出された.

 (4)【患者の心奥の望みを理解したい思い】

患者さんがその治療に対してほんとにどう思っているか.~中略~表面上のことだけじゃなく,患者の心の奥の事を聞く必要があり」のように《治療や現状に対する患者の心の奥の思いへの注目》をし,《患者のニードへの注目》をすることで【患者の心奥の望みを理解したい思い】を患者に向け,より良いケアにつなげようとしていた.以上から【患者の心奥の望みを理解したい思い】が見出された.

 (5)【患者の安楽の重視】

患者の《身体的苦痛への注目》をし「治療に苦痛があったら二次的に治療を阻害する.だから苦痛を与えないように」や「会話が患者にとって負担にならないように」のように《患者に苦痛を与えない気配り》を患者に向けていた.また,《患者の精神的状態への注目》をし《良好な精神状態を保つ入院生活への配慮》をすることや《社会的苦痛の緩和への気配り》,《心身両面の患者の安楽ヘの配慮》をし【患者の安楽の重視】をしていた.以上から【患者の安楽の重視】が見出された.

 (6)【患者の生活を尊重する心構え】

その人の生活背景があるからこそ,今出てくる症状もあると思う」のように《その人の背景や人物像への注目》をし,《入院前の生活を考慮する心構え》や《退院後の生活を考慮する心構え》,《発達段階を考慮する心構え》を患者に向けていた.さらに《家族の疲労を考慮する心構え》も向け,「患者を尊重しながら治療にも繋げることができるように」のように《患者を尊重したより良い療養生活への配慮》をし,【患者の生活を尊重する心構え】を患者に向けていた.以上から【患者の生活を尊重する心構え】が見出された.

 (7)【患者の気遣いや承認から生じる専心】

《患者に対する感謝の念》を患者に向け,《自分が実践したケアに対する患者の反応への注意》をし,「自分がやったことに対してありがとうと笑顔で返してくれたらもっと頑張らないと」のように《患者からの承認による意欲の高まり》や《患者の気遣いへの返報の念》という感情を患者に向けることで【患者の気遣いや承認から生じる専心】に繋がっていた.以上から【患者の気遣いや承認から生じる専心】が見出された.

2) エキスパートにおける患者への関心についてのテーマ的コード化

 (1)【専門職として患者を尊重し理解しようとする心構え】

《自然と患者を理解したい思い》を患者に向けており,さらに「何がそこで起こっているのかは患者さんしか知りえないので,それを知らないと自分のミッションは果たせない」のように《専門職の責務を果たす患者理解への思い》を向けていた.そして《自身の価値観で判断しない姿勢》や《患者を理解してしまったと思わない姿勢》,《人として対等に共に歩む姿勢》という【専門職として患者を尊重し理解しようとする心構え】を患者に向けていた.以上から【専門職として患者を尊重し理解しようとする心構え】が見出された.

 (2)【患者の人生への注目】

広く地域であったり,その人の関わるもの,やっぱり全体に関心は必要」のように《患者を取り巻く生活環境への注目》をし,《治療が患者の生活に及ぼす影響への注目》,さらに《家族を含めた患者の人生の重視》をすることで【患者の人生への注目】をしていた.以上から【患者の人生への注目】が見出された.

 (3)【患者の心奥の望みの重視】

《治療や今後の生き方に対する患者の心奥の思いの重視》をし,さらに「専門的な知識を持って想像しながら聞いて患者さんの本当に望みというのを患者さんから得ないと」のように専門的な知識をもって《患者の真のニードの重視》を行い《患者の価値観の重視》をすることで【患者の心奥の望みの重視】をし,患者により良い看護,ケアを提供できるようにしていた.以上から【患者の心奥の望みの重視】が見出された.

 (4)【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】

失敗した体験というのも印象強くて~中略~次からそうしようと関心がいく.すごく喜んでくれたみたいな成功体験~中略~次からそれも聞いてみようと関心がいく」のように《失敗および成功体験から予測される患者のニーズへの注目》や《学習から得た患者への新たな注目》をし,また《自身の患者・家族体験に基づく患者・家族の苦痛への配慮》により【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】を行っていた.以上から【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】が見出された.

 (5)【その人らしい生活を尊重する心構え】

《患者を尊重した生活様式への配慮》や《治療を受けながらのその人らしい生活への配慮》など【その人らしい生活を尊重する心構え】を患者に向けていた.以上から【その人らしい生活を尊重する心構え】が見出された.

Ⅶ. 考察

1. 学生における患者への関心

学生における患者への関心として【患者を理解しようとする心構え】を認めた.野口ら(2012)は,学生の実習体験から患者への関心として理解的態度で患者に関わり続けることの重要性を報告している.本研究でも同様に学生は《患者を知ろうとする気持ち》で患者に関心を向けている.さらに,工藤ら(2015)が「学生は患者に対して何かしてあげたい願望を持つ傾向がある」と述べているように本研究でも「患者に元気になってもらいたい,力になりたい」という《患者への祈りや思いが伝わる姿勢》を患者に向けている.これらは看護の初心者である学生が抱く患者への根源的な姿勢であると考える.この姿勢は,患者を理解するために知識を習得しようとする心構えへと繋がると考える.これは,未熟ながらも患者により良い看護を提供したい想いの現れであり,これが患者に関心を向ける第一歩としての基盤を形成していると考える.この根源的な姿勢は【コミュニケーション時の患者への気配り】という形で具体的に表れる.本研究ではこの気配りがエキスパートとは異なる学生に特徴的な関心として認めた.学生は実習時のコミュニケーションにおいて,患者と会話しなくてはならない焦りや拒絶される恐怖心を感じやすく(工藤ら,2015),コミュニケーションに対する不安を抱えている.このような状況の中で,学生は自身の未熟なコミュニケーションが患者に与える影響を自覚し,「会話が患者にとって負担にならないようにしたい」という内省的な配慮へと繋がっていると推察される.この気配りは患者との良好な関係性を築く上で重要な役割を果たすと考える.

【コミュニケーション時の患者への気配り】を通じて患者との接点を持った学生は,【患者の病状への注目】へと関心を深める.このテーマも学生に特徴的であり,Benner(1984/2005)が初心者はまず客観的属性から状況を学ぶと述べているように,学生はカルテからの情報や身体状態の変化に注目し,患者の病状理解に努めていると考える.Benner & Wrubel(1989/1999)によると,関心がなければ状況の弁別的特徴を知ることも病状の変化の徴候を察知することもできないといわれており,臨床経験が不足している学生は患者を大事に思うことで患者の病状が気にかかり注目するという関心を向けることで病状を理解し,患者への看護につなげようとしていると考える.学生は患者個々のニーズや内面へ目を向け【患者の心奥の望みを理解したい思い】が生じる.Benner & Wrubel(1989/1999)は「看護師は自らの関心に導かれて患者の関心を理解できるようになる」と述べている.患者の関心とは患者自身が大事に思う何らかのことによって起こるものである.本研究における学生のこの思いは,治療や現状に対する患者の心の奥の思いやニードを患者の関心の内容から深く理解しようとしていると解釈できる.Zolkefli & Chandler(2024)の報告において,学生は,患者への最善のケアを提供するためには,患者の関心事に対する理解を深め患者のニードを認識することが重要であることを示しており,学生がこの思いを患者に向けることで患者の心の奥の望みを理解し,より個別性のあるより良い看護の提供に繋がる基盤を築いていると考える.

また,学生は【患者の安楽の重視】をしており,患者の身体的,精神的,社会的苦痛への関心に加え,会話が患者の負担になっていないか,学生が提供するケアが苦痛でないかという《患者に苦痛を与えない気配り》をしている.精神的サポートや身体的ケアで苦痛を軽減することに関心が認められる(Milton, 1984)が,《患者に苦痛を与えない気配り》をしていることは今回明らかになった点である.学生は自己の未熟さに気付いている(大庭ら,2009)がゆえに,患者の苦痛を緩和したい思いと同時に,学生が関わることで意図せず患者に新たな苦痛を与えてしまう可能性を自覚し,それを避けようと内省的に配慮していることを示唆している.

このように,学生は苦痛緩和だけでなく自身のケアが患者に与える影響まで見据え,患者の希望を叶え,その人らしく過ごすことに繋がる安楽の提供を目指していると考える.

【患者の安楽の重視】を通じて患者の現在の苦痛やニーズに寄り添い【患者の生活を尊重する心構え】を患者に向けていた.生活とは「生存して活動すること・世の中で暮らしてゆくこと」(新村,2018)であり,人生を生きていく中で次第に自らのあり方を定義されてゆくのが人間である(Benner & Wrubel, 1989/1999)ことから,人間は社会の中で暮らしていくという生活に影響を受け,あり方を定義されてゆくといえる.そのため生活を尊重するということはその患者の個性や価値観,人生そのものを尊重することに繋がり,個別的な患者への質の高いケアを提供するために不可欠な視点となると考える.

患者への関心において,学生は【患者の気遣いや承認から生じる専心】という本研究で新たに明らかになった特徴的な関心を抱いている.学生は,患者に対して受け持ちを承諾してくれたことや学生が行う看護の受容に対する感謝の念を抱いている.学生は自身の未熟さを感じている(大庭ら,2009)がゆえに,患者からの承認を未熟な看護を受け入れてくれる患者の気遣いと捉えている.この患者の気遣いに応えたいという思いが患者をより深く理解したいという動機付けとなり,さらなる患者への関心を深めるという相乗効果を生み出していると考える.この「専心」は,学生が患者との関係性の中で自己を成長させ,看護の専門職としての基盤を形成していく上で重要な要素であると考える.

2. 類似性と相違性から考える教育への示唆

学生と看護師における類似性のあるテーマとして【患者を理解しようとする心構え】と【専門職として患者を尊重し理解しようとする心構え】,【患者の心奥の望みを理解したい思い】と【患者の心奥の望みの重視】,【患者の生活を尊重する心構え】と【その人らしい生活を尊重する心構え】を認めた.相違性のあるテーマとして,学生には【コミュニケーション時の患者への気配り】【患者の病状への注目】【患者の安楽の重視】,【患者の気遣いや承認から生じる専心】を認め,エキスパートには【患者の人生への注目】【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】を認めた.

【患者を理解しようとする心構え】では,それぞれの立場で患者を理解しようとする類似がみられた.患者自身の解釈を尊重し,患者の解釈を基盤にして対策を積み上げていくことが患者の病気と回復を支援するうえで重要(Benner, 1984/2005)であり,共に自身の価値観で判断しない姿勢を向けているが,エキスパートは《人として対等に歩む姿勢》を患者に向けており,患者との関係を大切にしようとする姿勢がうかがえる.これはWatson(1988/1992)が提唱しているトランスパーソナルな関係構築のための姿勢であると考える.これに対し,学生は看護の初心者であるからこそ患者に関心を向けるための知識が必要と感じており,必要な知識を身に付け,専門職としての責任感を高めていく必要がある.患者の生活について,エキスパートは,【その人らしい生活を尊重する心構え】や【患者の人生への注目】において,患者を取り巻く生活だけでなく,その人らしさや人生にも注目しているのに対し,学生は【患者の生活を尊重する心構え】において,入院前後の生活や療養生活などに関心が向いており,生活をより広い視野でとらえる必要がある.近年は世代や姻戚関係を超えた共同作業がほとんど消え,家族は核家族化している(長谷川,2019)ことから人々の生活をイメージすることが困難であると考えられ,世代間交流や仲間以外の人との交流の機会の提供は,患者の生活を理解し尊重することに繋がると考える.

次に,【コミュニケーション時の患者への気配り】や【患者の病状への注目】【患者の安楽の重視】,【患者の気遣いや承認から生じる専心】は,学生に特徴的な関心であり,エキスパートとの相違がみられた.コミュニケーションについて,近年,学生のコミュニケーションスキルの低下が指摘されており(高橋,2021),患者と上手くコミュニケーションを取れるような支援が必要である.コミュニケーションスキルを育成する支援として模擬患者参加型コミュニケーション演習(坂本ら,2019)やリフレクションツールを活用したコミュニケーション演習(齋藤ら,2016)など学内での演習を通してスキルを高め,実習においては指導者や教員が患者とのコミュニケーションの導入を支援することが必要と考える.また,学生は患者の病状に注目しているが,病状だけでなく患者の経験を文化的背景,環境,病歴,家族との関係などの脈絡の中でとらえなければならない(Benner et al., 2010/2011).病気のナラティブを収集し解釈するスキルを学ぶことができるようになる課題は,他者の世界を理解するための学生の能力を向上させる(Benner et al., 1996/2015)といわれており,学内の教育に取り入れることで患者から病気体験のストーリーを聴き,背景にある意味を考え患者を広い視野で理解することに繋がると考える.さらに,学内で患者から病気の体験を語ってもらう機会を作ることも視野の拡がりに繋がる可能性がある.

そして,【患者の安楽の重視】では,《患者に苦痛を与えない気配り》をしており,学生自らが提供するケアやコミュニケーションが患者の安楽にどう影響するかという内省的な配慮をしていると考える.しかし,初心者はその状況に適切な対応をするための実践経験がない(Benner, 1984/2005)ため,様々な臨床状況において患者の反応を捉え,自身の行動が与える影響を判断し,最適な関わりを選択する熟練度には至っていない.そのため実際のケアの場面で安全・安楽な実践をするための自信やスキルは発展途上にあると推察する.このことから,学内において様々な状況設定をしたシミュレーション演習を行い経験を積むことで,学生が自信を持って実習に臨めるような支援が求められる.また,学生が提供するケアやコミュニケーションが患者に与える影響について,患者の非言語的サインや具体的なフィードバックを通じて深く考察する機会を提供することも課題である.さらに実習では指導者または教員が学生と共にケアを行い安全で安楽なケアの提供が行えるような支援が必要と考える.次いで,【患者の気遣いや承認から生じる専心】では学生の未熟な看護を受け入れてくれる患者の気遣いに応えたい思いがあるため,前述の安楽なケアを提供できる支援を行い,ケアを通して患者からの良い反応を受け取れるような支援を行うことでさらに関心を高めることに繋がると考える.

【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】はエキスパートに特徴的な関心である.エキスパートは膨大な経験を積んでいるため,ひとつの状況を直感的に把握して正確な問題領域に的を絞る(Benner, 1984/2005)ことができるようになると考える.しかし看護の初心者である学生は,経験が浅く教科書で習ったばかりの用語の状況的な意味をほとんど分かっていないため,状況を把握することが困難であると考える.そのため臨床現場での支援が必要となる(Benner, 1984/2005).したがって実習において指導者および教員が状況の局面を助言することで,患者の重要なニーズに気付く支援が求められる.

学生の特徴を考慮した支援を行い,学生の患者への関心を育む教育が必要との示唆を得た.

Ⅷ. 結論

1.患者への関心として,学生,エキスパートで類似のテーマは【患者を理解しようとする心構え】【患者の心奥の望みを理解したい思い】【患者の生活を尊重する心構え】,相違として学生では【コミュニケーション時の患者への気配り】【患者の病状への注目】【患者の安楽の重視】【患者の気遣いや承認から生じる専心】,エキスパートでは【患者の人生への注目】【体験や学習から予測される患者のニーズへの配慮】が明らかとなった.

2.教育的支援として,学生自身が知識を身に付け専門職としての責任感を高め,世代間交流や仲間以外の人との交流の機会を提供し患者の生活を理解できるような支援をする.また,学生が患者とうまくコミュニケーションを取れる,患者の病気体験を理解できる,学生が患者に苦痛のないケアを行える,ケアを通して患者からの良い反応を受け取れる,臨床現場での状況を理解できる,このような支援が必要との示唆を得た.

Ⅸ. 研究の限界と今後の課題

本研究は,看護専門学校,看護系大学それぞれ1校および,エキスパートは3名から得られたデータ内での分析であり,学生では教育環境が影響している可能性があり,エキスパートでは専門分野に偏りがあった.今後は学生およびエキスパートのケースを増やし得られた結果を検証していくとともに,効果的な教育プログラムの開発が課題となる.

謝辞:本研究にあたり,ご協力いただきました,看護学生とエキスパート看護師の皆様に心より感謝を申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:田辺幸子は研究の着想からデザイン,データ収集,分析の実施および原稿の作成;水田真由美は原稿への示唆および研究プロセス全体への助言;岩根直美および坂本由希子は研究の着想およびデザインに貢献.著者全員が最終原稿を読み,承認した.

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