2026 年 46 巻 p. 136-144
目的:本研究は,性機能障害を有する産後女性の助産師への相談行動意図に関連する要因を計画的行動理論に基づいて明らかにすることを目的とした.
方法:Web調査により回答が得られた産後女性500名のうち,産後3年未満,かつ性機能障害を有すると認められた女性383名(76.6%)を分析対象とした.計画的行動理論の構成要因である「行動への態度」「主観的規範」「行動統制感」を説明変数,助産師への相談行動意図を目的変数とするロジスティック回帰分析を実施した.
結果:性機能障害について助産師に相談した経験がある者は全体の35人(9.1%)にとどまった.ロジスティック回帰分析の結果,行動への態度及び主観的規範が相談行動意図と有意に関連していた.一方,行動統制感との関連は認められなかった.
結論:産後女性の助産師への相談行動意図は,行動への態度と主観的規範によって促進されることが示唆された.
Aim: This study aimed to identify factors associated with the intention to seek help from midwives among postpartum women experiencing sexual dysfunction.
Methods: Responses were collected from 500 postpartum women through an online survey. Of these, 383 women (76.6%) who were within three years postpartum and identified as experiencing sexual dysfunction were included in the analysis. Logistic regression analysis was conducted with the Theory of Planned Behavior (TPB) components—attitude, subjective norms, and perceived behavioral control—as explanatory variables, and intention to seek help from midwives as the dependent variable. Control variables included age, psychological distress, prior help-seeking experience from midwives, among others.
Results: Only 9.1% of participants had ever consulted a midwife regarding sexual dysfunction. Logistic regression analysis revealed that, more positive attitudes toward help-seeking and stronger subjective norms were significantly associated with a higher intention to seek help. In contrast, perceived behavioral control was not significantly related to intention.
Conclusion: These findings suggest that postpartum women’s intention to seek help from midwives is associated with positive attitudes and perceived social norms. Promoting help-seeking may require fostering openness and supportive norms.
近年,出産後の女性が直面する性機能の変化に対する関心が高まっている.産後女性は,膣乾燥,性交痛,性欲低下といった性機能障害を経験することが多いことが知られている(Abrams et al., 2023).アイルランドの調査によれば,出産後6か月の時点で性欲低下を訴える女性は46.3%,膣乾燥は43.0%,性交痛は37.5%に達することが報告されている(O’Malley et al., 2018).こうした症状は一過性の身体的な違和感にとどまらず,産後女性の自己肯定感の低下(Woolhouse et al., 2012),精神的健康の悪化(Chang et al., 2018)など,深刻な影響をもたらす可能性がある.
それにもかかわらず,産後女性が性機能障害やそれに伴う問題について医療専門職に相談する例は少ない(Kelley et al., 2023).イランの研究では,妊娠前と比較して性的欲求が減退したと感じたが,医療専門家に相談した者は2.4%にとどまっていた(Shirvani et al., 2010).アイルランドの研究では,産後3か月時点で性交痛や膣乾燥を経験した女性のうち,医師に相談したのはそれぞれ2.9%,3.6%にすぎなかった(O’Malley et al., 2022).日本の研究では,性生活に関する悩みを「助産師に相談したい」と考える女性は一定数存在するが,実際に助産師へ性生活の悩みや不安の相談をしたことのある褥婦は15.9%にとどまっていた(今村ら,2016).この背景には,性に関する話題を「恥ずかしい」と捉える価値観(Kelley et al., 2023),問題を「自然に改善するもの」とみなす認識(McDonald et al., 2015),さらには医療者が十分に対応してくれないのではないかという不安(O’Malley et al., 2022)などが指摘されている.
このように,明らかなニーズを有しながらも,相談という行動に至らない,至れない現象を理解するには,行動に至るまでの意思決定過程に焦点を当て,その構造を理論的に捉える必要がある.本研究では,このような相談行動の意思決定過程を捉える理論的枠組みとして,Ajzen(1991)によって提唱された計画的行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)に注目した.TPBは,特定の行動(本研究では「助産師への相談」)を実行するかどうかは,その行動への態度(行動の結果に対する個人の評価),主観的規範(他者からの期待や社会的圧力の認知),知覚された行動統制感(自らその行動を実行可能と感じるか)という3つの心理的要因によって規定されるとする理論である(Ajzen, 1991).この理論は産後女性の相談行動の研究にも適用されており,例えばJones & Duong(2024)は米国の産後女性を対象に,うつ症状に関する実際の受診行動を検討し,相談行動に対する態度が行動の予測因子であることを報告している.また,Huang et al.(2023)は中国の周産期女性を対象に,抑うつに関する相談行動意図を分析し,相談行動に対する態度が強く意図を規定することを報告している.これらの知見は,TPBが単なる行動の有無を捉えるのではなく,行動に至るまでの意思決定の背景にある心理的要因を体系的に把握する枠組みとして有用であることを示唆している.
しかしながら,TPBを用いた既存の研究の多くは産後うつを対象としており,性機能障害を抱える産後女性の相談行動を理論的に検討したものは,国内外を問わず見当たらない.また,相談先は医師や看護師,助産師,臨床心理士など多岐にわたるが,助産師に限定した研究はない.助産師は,女性にとって心身の悩みやプライベートな問題を打ち明けやすい存在であり,必要に応じて医師や他の専門職へ適切に連携・紹介する役割も担う(International Confederation of Midwives, 2024).このような特性を踏まえると,助産師は性機能障害を抱える産後女性にとって,相談先として最も適した専門職の一つであると考えられる.
本研究の目的は,TPBに基づき,性機能障害を有する産後女性が助産師に相談する行動の要因を明らかにすることとした.本研究の成果は,産後ケアにおける助産師の支援体制の構築や,産後女性の相談行動を促進するための支援方策の検討に資することが期待される.
本研究では,性機能障害を有する産後女性の助産師への相談行動意図に関連する要因を,TPBに基づき検討する.本研究では,助産師への相談行動の実行は相談行動意図により規定されると仮定した上で,相談行動意図に関連する要因を以下のように定義する.すなわち,行動への態度は「助産師に相談することを肯定的に評価する程度」,主観的規範は「家族や友人など周囲の人々が助産師への相談を期待していると認知する程度」,行動統制感は「実際に助産師に相談できると感じる程度」と捉え,これらの要因と相談行動意図との関連を明らかにする.
2. 用語の定義 1) 性機能障害出産後の女性に認められる性的機能に関する持続的な困難を指し,性欲,性的興奮,膣潤滑,オルガズム,性交痛,満足感の6領域における機能低下や不快感を含むものとする.
2) 助産師への相談行動出産後の性機能に関する不調や悩みについて,助産師という医療専門職に対して自発的に情報提供を求めたり,助言・支援を受けたりする一連の行為を指す.
本研究の対象者は,初産からの経過月数が3年未満であり,かつ性機能障害を有する18~49歳の女性とした.調査は2025年2月,アイブリッジ株式会社が提供するセルフ型WebアンケートツールFreeasyを用いて実施した.本調査に先立ち,初産からの経過月数を尋ねるスクリーニング調査を実施し,産後3年未満と回答した女性1,375名を条件該当者として抽出した.続いて,この1,375名の中から上限を500名に設定し,先着順で本調査への協力を依頼した.その結果,500名から回答が得られた.このうち,産後3年以上と回答した者34名,および後述するFSFI-6により性機能障害がないと判定された者83名を除外し,最終的に383名を分析対象とした.なお,Webアンケート形式を採用した理由は,産後の育児や家事で多忙な女性であっても時間や場所に制約されずに参加できること,さらにデリケートな性に関する話題についてもプライバシーを確保し,安心して回答できる環境を提供できると考えられたからである.
2. 調査内容 1) 基本属性対象者の年齢,最終学歴,世帯収入といった基本属性に加え,妊娠週数,産後の経過月数,出産方法,周産期合併症の有無について尋ねた.
2) 産後女性の性機能障害産後女性の性機能障害の評価には,Female Sexual Function Index(FSFI)6項目短縮版を用いた(Isidori et al., 2010).日本語版は見当たらなかったため,各項目の日本語訳には高橋(2011)による訳を用いた.FSFI 6項目短縮版は,性的関心・欲求,性的興奮,膣の潤滑,オルガズムの頻度,性交痛,性生活に対する満足度の6つの項目から構成されており,女性の性機能障害を包括的に評価できる尺度である.各項目は5件法または6件法で回答を求める形式となっており,選択肢の表現及び配点は項目によって異なる.たとえば「性的興奮」は「5点:とても強かった」から「1点:とても弱いあるいはまったくなかった」までの5件法で評価されるが,「膣の潤滑」については「0点:性行為がなかった」から「5点:ほぼ常にあるいは常に潤った」までの6件法で評価される.合計点は2点から30点の範囲で算出され,得点が低いほど性機能障害の可能性が高いと解釈される.また,カットオフ値は19点以下とされており(Isidori et al., 2010),本研究でもこの基準を用いて性機能障害ありと定義した.なお,このカットオフ値を用いた場合の敏感度は96.1%,特異度は90.9%と報告されており(Isidori et al., 2010),性機能障害の有無を判定する基準として妥当と考えられている.
3) 抑うつ傾向抑うつ傾向はTPBおよび助産師への相談行動意図に関連する可能性がある.そこで,本研究ではTPBの構成要因と相談行動意図の関連性を明らかにするため,抑うつ傾向を統制変数として評価した.抑うつ傾向を評価するためにK6(Kessler Psychological Distress Scale, 6項目版)を用いた.K6はKessler et al.(2002)によって開発された尺度であり,過去30日間に経験した心理的苦痛の程度を6項目で尋ねる自己記入式質問票である.各項目に対し,「4点:いつも」,「3点:たいてい」「2点:ときどき」「1点:少しだけ」「0点:まったくない」の5件法で回答する形式をとる.総得点は0~24点であり,高得点であるほど心理的苦痛が強いことを示す.K6は国際的に広く用いられており,うつ病や不安障害などの重度精神疾患のスクリーニングにおいて高い信頼性と妥当性を有することが報告されている.日本においても,Sakurai et al.(2011)がその妥当性を検討し,13点以上をカットオフ値とすることで気分障害や不安障害の有無を適切に判別できることが示されている.本研究においても,K6の合計得点が13点以上の者を「抑うつ傾向あり」,13点未満の者を「抑うつ傾向なし」と分類した.
4) 助産師への相談行動及び相談行動意図助産師への相談行動については,ここ3か月の間に性機能障害に関する悩みを助産師にどの程度相談したかを尋ねた.回答は「まったく相談しなかった(0回)」「少し相談した(1~2回)」「ひんぱんに相談した(3回以上)」の3段階で求めた.一方,助産師への相談行動意図については,今後も性機能障害に関する悩みを抱えるとしたら,助産師にどの程度相談すると思うかを尋ねた.回答は「まったく相談しないと思う」「ほとんど相談しないと思う」「少し相談すると思う」「かなり相談すると思う」「非常にひんぱんに相談すると思う」の5段階で求めた.
5) 助産師への相談行動意図に関連する要因本研究ではTPBに基づき,「行動への態度」「主観的規範」「行動統制感」の3領域に関する独自尺度を作成した.尺度の作成にあたっては,Ajzen(1991)の理論的枠組みに基づく項目作成の手順を参照した.各項目に対する回答は,それぞれ6件法(「1:まったくそう思わない」~「6:非常にそう思う」)により回答を求めた.
「行動への態度」は4項目で構成されており,助産師に相談するという行動に対する有効性や肯定的評価に関する認知を測定する.具体的には,「助産師に相談することで適切なアドバイスが得られると思う」「助産師への相談によって不安や悩みが軽減すると思う」「専門家が問題点や解決策を的確に指摘してくれると思う」「助産師との相談で性機能に関する知識や対処法を学べると思う」といった内容から構成されている.
「主観的規範」は4項目で構成され,助産師への相談行動に対する家族や友人,医療従事者などの重要な他者の期待や評価に関する認識を評価する.「周囲の人は,私が助産師に相談することを望んでいると思う」「家族や友人から,相談するように勧められると思う」「助産師に相談することは一般的に良い行動だと考えられていると思う」「大切な人は,助産師に相談することを支持してくれると思う」といった項目を含む.
「行動統制感」は3項目で構成され,助産師への相談を自身の意思と能力によって実行可能であると認識している程度を測定する.「助産師に相談することは簡単だと感じる」「相談の機会が整っていれば,相談できると思う」「相談するかどうかは自分の意思で決められる」といった内容が含まれる.
3. 分析方法まず,対象者の特性に関する分布を対象者全体および助産師への相談行動意図の有無別に確認した.群間比較では,連続変数についてはt検定を用い,カテゴリカル変数についてはカイ2乗検定を行った.なお,期待度数が5未満のセルを含む場合にはFisherの正確確率検定を用いた.有意水準は両側検定で5%未満とした.その後,TPBの構成要因である「行動への態度」「主観的規範」「行動統制感」を説明変数,助産師への相談行動意図を目的変数として,ロジスティック回帰分析を実施した.本分析では,TPB(Ajzen, 1991)や先行研究(Huang et al., 2023)においてTPBの構成要因や相談行動意図と関連することが示唆されている変数を統制変数として階層的に投入した3つのモデルを構築した.モデル1ではTPBの構成要因のみを投入し,モデル2では年齢,学歴,世帯収入を追加で投入し,モデル3では産後経過月数,性機能障害,うつ傾向,助産師への相談経験を追加で投入した.なお,結果の解釈を容易にするため,行動への態度,主観的規範,行動統制感の各変数については,得点分布の四分位数に基づき,第1四分位数未満を「低位群」,第1~第3四分位数未満を「中位群」,第3四分位数以上を「高位群」として分類した.
以上の統計解析は,R(R Core Team, 2024)およびEZR(Kanda, 2013)を用いて行った.
4. 倫理的配慮本研究は,対象者の人権およびプライバシーに十分配慮し,研究倫理に基づいて実施した.調査の実施に先立ち,新見公立大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:329)を得た.調査の実施にあたっては,調査画面上で研究の趣旨や方法を提示し,回答をもって同意が得られたものとみなした.また,回答はすべて調査会社内で匿名化・非識別化の処理が施されたうえで,研究者に電子データとして提供された.
調査の結果,初産からの経過月数が3年未満の女性500名から有効回答を得た.このうち,産後3年以上と回答した者ならびに,FSFI-6により性機能障害がないと判定された者を除外し,最終的に383名(76.6%)を分析対象とした.なお,すべての調査項目の回答を必須としたため,欠損値はなかった.
対象者の特性に関する分布を表1に示した.対象者の平均年齢は33.1 ± 5.6歳であり,最終学歴では大学・大学院卒が最も多く全体の約半数を占め,次いで短大・専門学校卒,中学・高校卒の順であった.産後経過月数の平均は17.1 ± 9.7か月であり,産後12か月未満が30.5%,12か月以上24か月未満が37.9%,24か月以上36か月未満が31.6%であった.出産方法は自然分娩が約6割を占め,帝王切開が約2割であった.抑うつ傾向(K6 ≧ 13)は全体の29.2%に認められた.
| 変数 | カテゴリ | 対象者全体 | 助産師への相談行動意図 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| (n = 383) | なし(n = 292) | あり(n = 91) | p | |||
| 年齢 | 平均(SD) | 33.1(5.6) | 33.2(5.5) | 32.9(5.9) | .683 | |
| 最終学歴(%) | 中学・高校 | 85(22.2) | 62(21.2) | 23(25.3) | .596 | |
| 短大・専門学校 | 97(25.3) | 77(26.4) | 20(22.0) | |||
| 大学・大学院 | 201(52.5) | 153(52.4) | 48(52.7) | |||
| 妊娠週数 | 37週未満(早産) | 27(7.0) | 19(6.5) | 8(8.8) | .094 | |
| 37~38週 | 104(27.2) | 89(30.5) | 15(16.5) | |||
| 39~40週(正期産) | 190(49.6) | 140(47.9) | 50(54.9) | |||
| 41週以上 | 45(11.7) | 32(11.0) | 13(14.3) | |||
| わからない | 17(4.4) | 12(4.1) | 5(5.5) | |||
| 産後経過月数 | (平均,SD) | 17.1(9.7) | 17.2(9.8) | 16.8(9.3) | .741 | |
| 出産方法(%) | 自然分娩 | 240(62.7) | 177(60.6) | 63(69.2) | .148 | |
| 吸引分娩 | 41(10.7) | 33(11.3) | 8(8.8) | |||
| 鉗子分娩 | 22(5.7) | 14(4.8) | 8(8.8) | |||
| 帝王切開 | 77(20.1) | 65(22.3) | 12(13.2) | |||
| その他 | 3(0.8) | 3(1.0) | 0(0) | |||
| 周産期合併症 | あり | 93(24.3) | 64(21.9) | 29(31.9) | .068 | |
| 妊娠糖尿病(%) | あり | 26(6.8) | 20(6.8) | 6(6.6) | 1.000 | |
| 妊娠高血圧症候群(%) | あり | 27(7.0) | 18(6.2) | 9(9.9) | .243 | |
| 抑うつ傾向(K6) | 中央値(Q1~Q3) | 5(1~10) | 4(1~10) | 10(1~10) | <.001 | |
| 抑うつ傾向(K6 ≧ 13) | あり | 112(29.2) | 63(21.6) | 49(53.8) | <.001 | |
Q1:第1四分位数,Q3:第3四分位数
助産師への相談行動意図の有無で群間比較したところ,年齢,学歴,妊娠週数,産後経過月数,出産方法,周産期合併症の有無については有意差はみられなかった.一方で,抑うつ傾向は相談行動意図あり群で53.8%と半数を超え,なし群の21.6%と比較して有意に高かった(p < .001).
2. 助産師への相談経験と相談行動意図助産師への相談経験に関する回答分布は,「まったく相談しなかった(0回)」348名(90.9%)に対し,「1~2回相談した」27名(7.0%),「3回以上相談した」8名(2.1%)であった.したがって,助産師への相談経験が1回以上ある者は35名(9.1%, 95%CI: 6.4~12.4)であった.
一方,助産師への相談行動意図の分布は,「まったく相談しないと思う」212名(55.3%),「ほとんど相談しないと思う」80名(20.9%),「少し相談すると思う」68名(17.8%),「かなり相談すると思う」20名(5.2%),「非常にひんぱんに相談すると思う」3名(0.8%)であった.「少し/かなり/非常にひんぱんに相談すると思う」と回答した者,すなわち助産師への相談行動意図がある者は91名(23.8%, 95%CI: 19.6~28.3)であった.
本研究の分析に先立ち,本研究で収集したデータ(n = 383)を用いて,作成した尺度の構造的妥当性を確認的因子分析により検討した.本分析では,TPBに基づき,「行動への態度」「主観的規範」「行動統制感」の3因子からなる測定モデルを仮定し図1に示した.その結果,当初モデルにおける適合度指標は,CFI = 0.933,TLI = 0.907,RMSEA = 0.107,SRMR = 0.055と,いくつかの指標が統計的に許容される基準を下回っていた.一般に,モデル適合度の評価基準として,CFIおよびTLIは0.90以上,RMSEAは0.08以下(0.10未満で許容範囲),SRMRは0.08以下が望ましいとされている(Hu & Bentler, 1999).そこで,修正指標に基づき,理論的整合性を損なわない範囲で誤差共分散を追加するなどの修正を加えたところ,最終モデルにおいてはCFI = 0.963,TLI = 0.948,RMSEA = 0.080,SRMR = 0.050と,いずれの指標も概ね許容水準に達し,良好なモデル適合が確認された.また,各因子の因子負荷量は0.589~0.878の範囲にあり,すべて統計的に有意であった(p < .001).さらに,本研究で使用した各尺度の得点の記述統計量と信頼性係数を表2に示した.行動への態度の平均値(SD)は12.7(4.6),主観的規範は12.3(4.1),行動統制感は9.7(3.2)であった.信頼性係数は,行動への態度においてCronbach’s α = 0.91,McDonald’s ω = 0.91,主観的規範においてα = 0.83,ω = 0.83といずれも十分に高い内的一貫性が確認された.一方,行動統制感はα = 0.69,ω = 0.73であり,許容範囲内ではあるがやや低い値を示した.これらの結果から,本尺度は一定の妥当性および信頼性を有していると判断された.

推定にはロバスト最尤法を用いた.なお,すべてのパス係数および誤差間の共分散は有意であった(p < .001).
| 尺度 | 項目数 | 平均値(SD) | Cronbach’s α | McDonald’s ω | |
|---|---|---|---|---|---|
| 行動への態度 | 4 | 12.7 | (4.6) | 0.91 | 0.91 |
| 主観的規範 | 4 | 12.3 | (4.1) | 0.83 | 0.83 |
| 行動統制感 | 3 | 9.7 | (3.2) | 0.69 | 0.73 |
ロジスティック回帰分析の結果を表3に示す.モデル1では,TPBの構成要因のうち「行動への態度」と「主観的規範」が助産師への相談行動意図と有意な関連を示した.モデル2およびモデル3においても,これらの要因は一貫して有意な関連を示した.モデル3において,「行動への態度」については,低位群と比較して中位群(OR = 12.60, 95%CI: 2.67~59.70, p < .001),高位群(OR = 10.90, 95%CI: 2.11~56.70, p =.004)ともに有意にオッズ比が高かった.「主観的規範」も同様に,低位群と比較して高位群で有意な関連が認められた(OR = 3.63, 95%CI: 1.09~12.10, p = .036).一方,「行動統制感」はすべてのモデルにおいて有意な関連を示さなかった.統制変数では,うつ傾向(K6得点)(OR = 1.12, 95%CI: 1.06~1.18, p < .001)および助産師への相談経験(OR = 17.3, 95%CI: 5.68~52.7, p < .001)が,相談行動意図と有意に関連していた.また,すべての変数で分散拡大係数(VIF)は1.0~1.9の範囲に収まり,多重共線性の問題は認められなかった.
| 変数 | 水準 | 参照 | モデル1 | モデル2 | モデル3 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| オッズ比[95%CI] | p | オッズ比[95%CI] | p | オッズ比[95%CI] | p | |||||
| 行動への態度 | 低位群 | 参照 | 1.00 | 1.00 | ― | 1.00 | ― | |||
| 中位群 | 6.52[1.78~23.80] | .004 | 6.58[1.74~24.80] | .005 | 12.60[2.67~59.70] | <.001 | ||||
| 高位群 | 4.38[1.13~17.10] | .033 | 4.18[1.03~16.90] | .045 | 10.90[2.11~56.70] | .004 | ||||
| 主観的規範 | 低位群 | 参照 | 1.00 | 1.00 | ― | 1.00 | ― | |||
| 中位群 | 1.25[0.49~3.18] | .646 | 1.26[0.48~3.32] | .645 | 1.28[0.42~3.95] | .662 | ||||
| 高位群 | 2.77[1.01~7.57] | .047 | 3.03[1.06~8.62] | .038 | 3.63[1.09~12.10] | .036 | ||||
| 行動統制感 | 低位群 | 参照 | 1.00 | 1.00 | ― | 1.00 | ― | |||
| 中位群 | 1.40[0.56~3.51] | .474 | 1.44[0.56~3.69] | .454 | 1.05[0.37~2.97] | .926 | ||||
| 高位群 | 1.94[0.71~5.30] | .196 | 1.85[0.65~5.25] | .246 | 1.41[0.44~4.53] | .561 | ||||
95%CI:95%信頼区間
目的変数:助産師への相談行動意図(0=なし,1=あり)
説明変数:モデル1:行動への態度,主観的規範,行動統制感を投入した.なお,各変数はそれぞれの得点分布に基づき,低位群(第1四分位数未満),中位群(第1四分位数以上第3四分位数未満),高位群(第3四分位数以上)にカテゴリ化し,ダミー変数化した.
モデル2:モデル1の説明変数に加え,年齢(実数),学歴(中学・高校卒,専門学校・短期大学卒,大学卒以上),世帯収入(300万円未満,300~600万円,600万円以上)を投入した.学歴および世帯収入はカテゴリカル変数としてダミー変数化した.
モデル3:モデル2の説明変数に加え,産後経過月数(実数),性機能障害(FSFI-6得点),助産師への相談行動経験(0=なし,1=あり),うつ傾向(K6得点)を投入した.
回答者500名のうち,383名(76.6%)に性機能障害が認められた.その内容は,性的関心の低下,性的興奮やオルガズムの困難,膣の潤い不足,性交時の不快感・疼痛,性生活への不満など,多岐にわたっていた.McDonald et al.(2015)は,性欲低下(51%)や性交痛(30%)は12か月後まで持続していたと報告している.本研究の対象者は産後平均17.1か月と依然として高率に性機能障害が確認されたことから,産後の性機能障害は一過性の現象ではなく,自然回復を待つだけでは十分ではないことが示唆される.また,性機能障害は産後長期にわたり女性の心身や生活に影響を及ぼす可能性があり,支援もまた長期的な視点で検討する必要がある.
また,本研究では,性機能障害を抱える産後女性のうち,助産師に相談した経験がある者はわずか35名(9.1%)であった.この傾向は先行研究とも一致しており,国外でも医療専門職に性の悩みを相談する割合は10~20%にとどまると報告されている(Abrams et al., 2023).また,アイルランドの調査では性交痛を経験した女性のうち家庭医に相談した割合は3%前後に過ぎず,多くが誰にも相談していなかったとされており(O’Malley et al., 2022),日本においても同様に相談率の低さが存在することを示している.これらの結果は,産後女性の性機能障害が高頻度であるにもかかわらず,支援へと結びついていない現状を浮き彫りにしている.助産師は妊娠・出産期を通じて女性と継続的に関わる存在であり,本来であれば性に関する問題の相談窓口として適した医療専門職である.しかし現実には,相談が十分に行われていないことが明らかであり,潜在的ニーズに対して支援体制が応えられていない可能性がある.特に「3回以上相談した」と回答した女性が8名(2.1%)にとどまった点は,女性が継続的に相談できる環境が整備されていないことを示唆している.したがって,産後女性が安心して性に関する問題を相談できるような支援体制を構築する必要性が改めて示唆されたといえる.
2. 助産師への相談行動意図に関連する要因本研究では,行動への態度が助産師への相談行動意図と有意な関連を示した.性に関する問題は羞恥心やスティグマの影響を受けやすく,相談行動が抑制されやすいことが先行研究により指摘されている(Kelley et al., 2023).そのような背景において,助産師に相談することを「安心できる」「役に立つ」と肯定的に捉える態度の形成が,相談行動意図を促進する重要な要因になると考えられる.TPBによれば,ある行動の意図は,その行動への態度,その行動に対して周囲がどのようにとらえているかという主観的規範,そしてその行動を実行できるかという行動統制感によって規定され,行動はその行動意図および行動統制感の影響を受けるとされている(木村,2017).実際に,Huang et al.(2023)は中国の周産期女性を対象に,援助要請に前向きな態度がうつ病に対する支援要請意図を高めることを示しており,Jones & Duong(2024)も米国の産後女性において同様の関連を報告している.本研究では,相談先を助産師に,相談内容を産後性機能障害に限定したが,先行研究と同様に,行動への態度が相談行動意図と有意に関連していたことは,TPBが性機能障害をもつ産後女性の助産師への相談行動意図を説明するモデルとして有用であることを示している.したがって,助産師への相談行動に対して肯定的な態度を形成するためには,相談によって得られる具体的な利点,たとえば,悩みの軽減,安心感の獲得,身体的・心理的不調の早期解消などに対する信念を高め,それらの結果に価値を感じられるような支援が重要である.
また,主観的規範も助産師への相談行動意図と有意な関連を示した.主観的規範は,ある行動について,周囲の重要な他者がそれを望んでいるかどうかという認識と,それに従いたいという動機づけから構成される(Ajzen, 1991).特に,性に関する悩みは,羞恥心やスティグマの影響を受けやすく,本人の意思のみでは相談に踏み切りにくい傾向があるため,身近な他者の理解や支援が行動意図の形成において大きな影響を持つと考えられる.実際に,Daehn et al.(2022)による系統的レビューでは,周産期女性を対象とした研究の中で,家族やパートナーからの支援や励ましが援助要請の意図や行動の促進因子であることが報告されている.また,他者からの理解や励ましがあることで,「相談してもよい」「相談すべきである」といった社会的期待を内在化しやすくなり,それが主観的規範の肯定的な形成に寄与していることが示唆されている.これらの知見は本研究の結果と整合しており,周囲の肯定的な評価や支援が助産師への相談行動意図を高める上で,重要な役割を果たしていることが示唆される.したがって,助産師への相談行動を促進するためには,対象者本人への働きかけだけでなく,パートナーや家族といった心理的に近しい他者に対しても,性に関する健康課題への理解を深める教育的介入が有効であると考えられる.また,「性に関する相談は恥ずかしいことではなく,自身の健康を守るために必要な行動である」という社会的規範を醸成することも,主観的規範の肯定的形成を通じて,相談行動意図の強化につながると考えられる.
一方,本研究では,行動統制感は相談行動意図との間に有意な関連を示さなかった.計画的行動理論(TPB)における行動統制感は,「自分にその行動が実行できるかどうか」という認知を指し,行動上の障壁,利用可能な資源,必要なスキルに対する自己評価が含まれる概念である(Ajzen, 1991).大学生を対象とした先行研究において,行動統制感の類似概念である自己効力感は受診行動の容易さを介して精神科医療機関への受診行動意図を促進する可能性があることが報告されている(小池・伊藤,2015).しかしながら,本研究では,行動統制感と相談行動意図の間に有意な関連は見られず,行動への態度と主観的規範が相談行動意図と有意に関連していた.特に,性機能障害のようなセンシティブな相談内容においては,「本当に相談してよいのか」「他者にどう思われるか」といった羞恥心や社会的評価への懸念が,実行可能性に関する自己認知以上に相談行動意図を抑制する要因となりうる可能性がある.この点は,木村(2017)が大学生を対象とした援助要請行動の研究において,自己効力感よりも規範的要因や心理的要因が相談行動の障壁となっていたとする報告とも一致する.さらに,本研究で用いた行動統制感の尺度は,他の下位尺度と比較して信頼性がやや低く,測定上の限界が影響していた可能性も否定できない.実際に,行動への態度および主観的規範の信頼性係数はいずれも高値であったが,行動統制感はやや低い値であった.したがって,今後はこうした特性を踏まえた上で,より信頼性の高い尺度を用いた再検討が求められる.
3. 本研究の限界と課題本研究にはいくつかの限界が存在する.第一に,調査対象者はインターネットを通じてリクルートされており,相対的に学歴や収入が高い層に偏っている可能性がある.そのため,本研究の結果をすべての産後女性に一般化することには限界がある.第二に,本研究で用いた変数は自己申告による相談行動意図であり,実際の相談行動を直接測定したものではない.そのため,意図が必ずしも行動に結びつくとは限らない点に留意する必要がある.今後は,実際の相談行動を追跡可能な縦断的研究の実施が望まれる.第三に,行動統制感の尺度は信頼性がやや低く,そのことが結果に影響を与えた可能性は否定できない.今後は,より信頼性の高い指標を用いた検討が求められる.
1.産後性機能障害を有する女性のうち,助産師に実際に相談した者は1割弱にとどまり,多くは相談に至っていなかった.
2.計画的行動理論に基づく分析の結果,相談行動意図には行動への態度と主観的規範が有意に関連していた.
謝辞:本研究の実施にあたり,調査にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YY(第一著者)は研究の構想,データ収集・分析,原稿執筆,YSは研究プロセス,データ分析への助言,YYは研究の設計と全体的な指導,および原稿の加筆修正を行った.3名全員が最終原稿を確認し,内容を承認した.