目的:本研究は,日本の医療機関における日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮を明らかにすることを目的とした.
方法:外国人患者への看護経験が豊富な看護職8名に対し,その看護実践上の配慮について半構成的インタビューを行い,質的記述的に分析した.
結果:日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮は【患者の日本語能力に合わせて伝わる言葉を駆使する】【機械翻訳を活用し制約の少ない互いの母語での会話を促進する】【異なった文化や言語による不安が和らぐように環境を整える】【文化や言語の違いも個別性の一つとして捉え,個として向き合う】【文化的背景の情報共有と支援体制をチームで整える】などの8カテゴリに集約された.
結論:本研究で明らかになった看護実践は,言語的障壁をふまえ多様な手段で意思疎通を図り,個別性を尊重し,組織的支援も含め展開されることが示された.
Purpose: This study aimed to elucidate the nursing practice considerations required when caring for patients whose mother tongue is not Japanese in Japanese healthcare settings.
Methods: Semistructured interviews were conducted with eight nurses who had extensive experience in caring for foreign patients, and the data were analyzed qualitatively using a descriptive approach.
Results: Nursing practice considerations were organized into eight themes: using wording tailored to each patient’s Japanese proficiency to ensure comprehension; engaging in relationship-building interactions that deepen mutual understanding beyond verbal language; utilizing machine translation to promote less-restricted, mutual mother-tongue conversation; using pretranslated documents for Japanese expressions typical in medical settings; employing medical interpreters in situations where misunderstanding must be avoided to support patient decision-making; arranging a care environment to ease anxiety arising from linguistic and cultural differences; viewing cultural and linguistic differences as part of the patient’s individuality and engaging with them as a person; and sharing cultural background information within the team to create supportive systems at the organizational level.
Conclusion: These findings suggest that nursing practices for patients with limited Japanese proficiency are developed through multilayered approaches—addressing linguistic barriers through multiple communication strategies, respecting individual uniqueness, and mobilizing organizational support structures.
日本で生活する外国人は年々増加し,2023年末には約376万人と2012年末の約1.85倍に達した(法務省出入国在留管理庁,2025).このうち約4割は3年以上滞在する中長期在留者であり,地域に定住する「生活者」としての存在が大きくなっている.この変化は医療現場にも影響しており,令和5年度実態調査(厚生労働省 医政局 総務課 医療国際展開推進室,2024a)では,回答した5,184病院の約半数が外国人患者を受け入れていると報告されている.
国際的にも,患者と医療者の使用言語が一致しない場合に言語的障壁が生じることが指摘され,多言語資料・視覚的支援・医療通訳などの取り組みが推奨されている(Ali & Watson, 2018;Gerchow et al., 2021).行政機関もこうした課題に対応しており,米国では医療通訳サービスの制度化が進み,欧州では移民患者へのガイドライン整備が進展している(U.S. Department of Health and Human Services, Office of Minority Health, 2013;World Health Organization, 2018).
日本国内においても,厚生労働省は外国人患者の受入体制の整備を進めており,2012年には外国人患者受入れ医療機関認証制度(Japan Medical Services Accreditation for International Patients: JMIP)が創設され(日本医療教育財団,2021),2019年には「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」が発行された(厚生労働省,2019).さらに,電話・ビデオ通訳の導入や「やさしい日本語」研修なども実施され,言語支援体制の構築が図られている(厚生労働省,2021;医療×「やさしい日本語」研究会,2025).しかし,通訳支援や多言語ツールの整備には施設・地域間で大きな差があり,常時医療通訳を確保する医療機関は6.2%にとどまり,英語以外の翻訳資料の整備率も低い(厚生労働省 医政局 総務課 医療国際展開推進室,2024a).これらは言語支援体制の強化と格差是正の必要性を示している.
外国人患者の増加に伴い,看護職は言語的障壁や文化的価値観の違いから,情報収集の困難,ケアの誤解,不安表出への対応など,多様な課題に直面している(三枝・井川,2022;Asakawa et al., 2023).その背景には,日本が歴史的に異文化との接触が限られていたことや,「単一文化・単一言語」を前提とした社会構造が長く続いてきた点が挙げられる(岡本,2009;岡本,2011).こうした文化的基盤は,外国人患者との意思疎通を難しくし,医療安全上のリスクや看護ケアの質の低下につながる可能性が指摘されている(Kume et al., 2023;野中・樋口,2010).
異文化・異言語の壁を越え質の高い看護を提供することは,看護専門職の根幹をなす課題である.しかし,日本語を母語としない外国人患者への看護において,看護職の具体的な配慮は十分に明らかにされていない.制度整備が進む今,現場に蓄積された実践知を明確化することが求められる.
そこで,本研究は,日本の医療機関において,日本語を母語としない外国人患者への看護実践における配慮を,看護職の語りを通して明らかにすることを目的とする.異文化・異言語背景を持つ患者への看護に関する実践的知見を得ることで,外国人患者への対応に不慣れな看護職にとって,臨床現場における実践の糸口となり得る.また,得られた知見は,看護職教育に活用し得る基礎資料となるとともに,外国人患者への安全で円滑なケア提供を支える組織体制の整備にも資する.
本研究の目的は,日本の医療機関における日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮を明らかにすることである.
外国人患者:本研究における「外国人患者」とは,日本国内の医療機関を受診する患者のうち,日本語を母語としない在留または訪日外国人であり,日本語による意思疎通に困難を抱える者(Limited Japanese Proficiency: LJP)と定義する.
看護実践上の配慮:本研究における「看護実践上の配慮」とは,看護実践の過程で,対象の特性や状況を踏まえて意図的に行う調整・工夫・働きかけと定義する.
日本語を母語としない外国人患者への看護実践における配慮は,看護職の思考や感情,行動を含む現象である.そのため,事実や参加者の語りを日常の言葉で包括的に要約し,明確に伝えることを目的とする質的記述的研究デザインを採用した(Sandelowski, 2000/2013).
2. 対象者本研究は,日本語を母語とし,外国人患者への看護経験を持つ看護職を対象とした.また,具体的に配慮の内容を語れる対象として,外国人入院患者の看護経験が1年以内にある看護職で,個別性をふまえた看護実践が可能な日本看護協会が定めるクリニカルラダーレベルIII以上の看護職を選定基準とした.
3. データ収集期間本研究は,2024年9月から同年12月にかけて実施した.
4. データ収集方法と内容厚生労働省 医政局 総務課 医療国際展開推進室(2024b)の「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」に掲載された入院設備を有する医療機関の看護部長に研究協力を依頼した.承諾を得た後,本研究で定めた選定基準に合致する看護職の推薦を依頼した.研究者は対象候補者に文書で研究内容を説明し内諾を得た上で,インタビュー時に口頭説明を行い,書面による同意を取得した.半構成的インタビューを対面またはWebにて実施した.インタビューガイドは,外国人患者に対する具体的な看護実践の語りと,その背景にある意図や振り返りが得られるよう構成し,研究者間で内容を検討したうえで予備的インタビューを実施して本調査に用いた.
インタビューでは,研究目的を改めて説明した後,外国人患者への看護実践上の配慮,日本人患者とのケアの違いなどについて,具体的な事例に基づく語りを得た.また,対象者の年齢,性別,看護職経験年数,病院内での役割や資格の有無,所属施設における外国人患者対応の専門部署やコーディネーター,医療通訳の有無,遠隔通訳や機械翻訳の使用状況などについて聴き取った.すべてのインタビューは,対象者の同意を得た上でICレコーダーを用いて録音した.データ収集と分析は逐次的に行い,インタビュー終了ごとに分析を進めた.新たな知見が得られなくなった時点でデータが飽和したとみなし収集を終了した.
5. データ分析方法本研究は,参加者の語りをできるだけ忠実に記述する質的記述的研究とした(Sandelowski, 2000/2013).インタビューの録音内容を逐語録とし,逐語録を精読して全体像をとらえた.その後,看護師の語りから,「母語が日本語ではないこと」を踏まえて意図的に行った調整,工夫,働きかけに関する記述を抽出した.抽出した文章を文脈が損なわないよう要約し,一つの意味内容をもつ単位としてコード化した.コーディングはNVivo 15を用いて実施した.意味内容の共通性・相違性を基準にコード同士を比較検討し,類似したコードをまとめてサブカテゴリを構成した.さらに,サブカテゴリ間の関連性を検討しながら帰納的に統合し,カテゴリとして集約した.各カテゴリおよびサブカテゴリの名称は,含まれる語りの意味内容を反映するよう命名した.データ分析の過程では,共著者間でコードおよびカテゴリの解釈を都度確認し,データに即した分析となっているかを検討した.データ分析は逐次的に行い,1人のインタビューを終えるごとにコーディングを実施した.
6. 倫理的配慮本研究は,研究者の所属する武庫川女子大学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:24-31).対象者には,匿名性の保持,個人情報の保護,インタビュー時のプライバシーへの配慮,協力の任意性と撤回等について,文書を用いて口頭で説明を行い,書面により同意を得た.対象者の参加の有無は紹介者である看護部長には伝わらないよう配慮し,自由意思により研究参加の有無を決定できるよう配慮した.
研究参加者へのインタビューが7名に達した時点で,分析を進めても新たな視点や意味内容の追加が認められず,次のインタビューデータも同様であったことから,データは飽和に達したと判断し,調査を終了した.最終的に,計8名の研究参加者の語りを分析対象とした.抽出された内容には,言語や文化の違いにかかわらず共通してみられる看護実践上の配慮が含まれており,本研究の目的に照らしてデータは十分であると判断した.面接時間は,平均71.9分(標準偏差21.3)で,最短50分,最長102分であった.
研究参加者の属性および所属施設の概要を表1に示す.性別は女性7名,男性1名で,平均年齢は43.8歳(標準偏差7.8)であった.看護職経験年数は8~32年にわたり,平均18.4年(標準偏差8.1)であった.また,3名が日本国際看護職(Nippon International Nursing Administrator: NiNA)の資格を有していた.さらに,部署管理者2名,副主任2名,実地指導者1名,実習指導者1名が含まれ,ほか2名も日常的に後輩指導や部署内教育を担っており,全ての参加者が複数人の外国人患者の看護実践経験を有していた.
| 属性/参加者 | A氏 | B氏 | C氏 | D氏 | E氏 | F氏 | G氏 | H氏 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 年齢 | 30歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 40歳代 | 30歳代 | 50歳代 | 40歳代 |
| 経験年数 | 5~10年未満 | 10~20年未満 | 10~20年未満 | 30年以上 | 10~20年未満 | 5~10年未満 | 30年以上 | 20~30年未満 |
| 性別 | 女性 | 女性 | 女性 | 女性 | 女性 | 男性 | 女性 | 女性 |
| NiNA資格注1) | ― | ― | ○ | ○ | ○ | ― | ― | ― |
| 施設種別 | 公的病院 | 民間病院 | 国公立病院 | 国公立病院 | 民間病院 | 民間病院 | 国公立病院 | 民間病院 |
| 病床数 | 500床以上 | 200~499床 | 500床以上 | 200~499床 | 200~499床 | 200~499床 | 200~499床 | 200~499床 |
| JMIP注2) | ○ | ― | ― | ○ | ― | ○ | ― | ○ |
| JIH注3) | ― | ― | ○ | ― | ― | ― | ― | ○ |
| 外国人患者対応専門部署 | ○ | ― | ○ | ○ | ― | ○ | ― | ○ |
| 医療コーディネーター | ○ | ― | ○ | ○ | ― | ○ | ― | ○ |
| 医療通訳者 | ― | ― | ― | ○ | ― | ○ | ― | ○ |
| 遠隔通訳 | ○ | ― | ○ | ○ | ― | ○ | ― | ― |
注1)NiNA:Nippon International Nursing Administrator(日本国際看護師)
注2)JMIP:Japan Medical Services Accreditation for International Patients(外国人患者受入れ医療機関認証制度)
注3)JIH:Japan International Hospitals(外国人患者受入れ対応病院)
注4)○は「該当あり」「実施している」,―は「該当なし」または「不明」を示す.
研究参加者が勤務する医療機関は,国公立病院,公的病院,民間病院に区分した.いずれも病床数200床以上の中規模以上の施設であった.JMIPや外国人患者受け入れ対応病院(Japan International Hospitals: JIH)の認証を取得している施設は併せて5施設であった.すべての施設において機械翻訳ツールが導入されており,5施設では医療通訳や遠隔通訳が整備されていた.
2. 分析結果日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮について,51のコードが抽出され,27サブカテゴリおよび8カテゴリに集約された(表2).カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で表記し,インタビューで得られた語りの一部は斜体の「 」で示す.
| カテゴリ | サブカテゴリ |
|---|---|
| 患者の日本語能力に合わせて伝わる言葉を駆使する | 患者の日本語理解度を確認し敬語を避け簡単な単語で話す |
| 患者が理解できるように短くゆっくりと話す | |
| 患者が返答しやすいよう選択肢を示すなど聞き方を工夫する | |
| 言語に頼らず互いの理解が深まり心の通う関わりをする | 患者の表情や行動から理解度を読み取り,伝える内容や伝え方を調整する |
| アイコンタクトやジェスチャー,表情などの非言語的手段を用いて情報や感情を伝えあう | |
| 看護職の実演や患者自身が体験することで理解を促すかかわりを行う | |
| 機械翻訳を活用し制約の少ない互いの母語での会話を促進する | 機械翻訳の特性を理解し表現を工夫し適切に活用するスキルを身につける |
| 翻訳内容に意図が正しく反映されているか逆翻訳機能で確認する | |
| 識字が困難な患者には機械翻訳の音声機能を活用して意思疎通を図る | |
| 医療場面に典型的な日本語は前もって翻訳された文書を活用する | 日常的なやり取りには多言語指差しシートを用いて円滑なコミュニケーションを図る |
| 同意書や検査説明書などの定型文書は,多言語説明資料を用いて情報を提供する | |
| 誤解があってはならない場面では医療通訳を活用し患者の意思決定を支える | 病状や治療方針などの説明は医療通訳を用いて確実な情報伝達を図り意思決定を支援する |
| 医療通訳を通して患者・家族の理解や思いを医療者と共有する | |
| 医療通訳が必要な場面では事前に調整し依頼する | |
| 異なった文化や言語による不安が和らぐように環境を整える | 異文化環境による患者の不安が和らぐよう関わりを重ね安心できる雰囲気をつくる |
| 異言語環境であることを考慮して説明や対話の時間を十分に確保する | |
| 患者の馴染みのある言葉を積極的に用いて声をかける | |
| 文化的な差異があることをふまえ,日本の医療や看護に関して一つ一つ丁寧に説明し理解を促す | |
| 文化や言語の違いも個別性の一つとして捉え個として向き合う | 「外国人」など属性に基づく先入観を排し一人の個人として向き合う姿勢でかかわる |
| 同じ国籍や宗教でも慣習や解釈には個人差があるため一人ひとりに確認を行う | |
| 宗教的理由がその人にとって重要であることをふまえ可能な限りの調整を行う | |
| 経済的・生活的制約を踏まえた情報提供と意思決定を支援する | |
| 文化的背景の情報共有と支援体制をチームで整える | 患者が使える言語で継続的に関わることができるよう部署での担当者を調整する |
| 院内の通訳や看護職などの医療資源や家族などの協力を得て患者の思いを捉える | |
| 日本語能力の評価や宗教的・文化的な要望をチームで共有し対応する | |
| 退院後の生活を支えるため外部支援につなげる | |
| 院内の多言語対応可能な看護職一覧表をもとに応援を依頼する |
【患者の日本語能力に合わせて伝わる言葉を駆使する】
このカテゴリは,外国人患者の日本語能力を把握し,それに合わせて語彙や話し方を工夫してかかわる言語的コミュニケーションにおける配慮を示す.〈患者の日本語理解度を確認し敬語を避け簡単な単語で話す〉〈患者が理解できるように短くゆっくりと話す〉〈患者が返答しやすいよう選択肢を示すなど聞き方を工夫する〉の3つのサブカテゴリから構成された.
「初めて患者さんにお会いした時は,基本的には日本語で話しかけます.やさしい日本語を使って簡単な言葉で話しかけます.そうすると日本語が分かる人なら日本語で返答があるし,そうでない場合は(患者さんが)使える言葉で話されます.その時の様子から(日本語レベルを)判断して会話を進めていきます」「外国人患者とのコミュニケーションの工夫として敬語は使わず,分かりやすい表現で話します」
【言語に頼らず互いの理解が深まり心の通う関わりをする】
このカテゴリは,言語による意思疎通が困難な状況において,看護職が表情やジェスチャーなど非言語的手段を駆使して,患者と相互理解や感情の共有を図ろうとする非言語的コミュニケーションにおける配慮を示す.〈患者の表情や行動から理解度を読み取り,伝える内容や伝え方を調整する〉〈アイコンタクトやジェスチャー,表情などの非言語的手段を用いて情報や感情を伝えあう〉〈看護職の実演や患者自身が体験することで理解を促すかかわりを行う〉の3つのサブカテゴリから構成された.
「細かなニュアンスはなかなか伝わり難いので,赤ちゃんの抱き方,授乳の仕方,そういうのはやっぱりジェスチャーが多いと思います.一緒に実際やってみて,私たちは人形を持って,お母さんは赤ちゃんを抱えてもらってといった感じです」
【機械翻訳を活用し制約の少ない互いの母語での会話を促進する】
このカテゴリは,外国人患者とのコミュニケーションにおいて,機械翻訳の特性を理解し用語や表現を選択・調整しながら活用する情報伝達への配慮を示す.〈機械翻訳の特性を理解し表現を工夫し適切に活用するスキルを身につける〉〈翻訳内容に意図が正しく反映されているか逆翻訳機能で確認する〉〈識字が困難な患者には機械翻訳の音声機能を活用して意思疎通を図る〉の3つのサブカテゴリから構成された.看護職は,機械翻訳がすべての表現を正確に翻訳するわけではないという特性を理解し,言葉を選びながら,簡潔でわかりやすい文節に分けることや逆翻訳機能を使って翻訳内容を確認するなどが行われていた.
「結構日本人って主語を話さないので,それで上手くボイストラ(翻訳機)が拾ってくれなかったり,反対に,患者さんの訛りがひどくて,拾ってくれなかったりとかあります」「この前,機械翻訳に『眠れてますか』と日本語を入力したら,変換が『呪文を唱えてますか』と翻訳されたんですよ.うまく言葉を変換ができないなというのがありました」
【医療場面に典型的な日本語は前もって翻訳された文書を活用する】
このカテゴリは,食事摂取量や排泄状況などの日常的な確認や,検査・治療の説明場面で,多言語に翻訳された指差しシートや説明資料を活用し,言葉の壁による負担を軽減し円滑なやり取りを可能にする情報提供における配慮を示す.〈日常的なやり取りには多言語指差しシートを用いて円滑なコミュニケーションを図る〉〈同意書や検査説明書などの定型文書は,多言語説明資料を用いて情報を提供する〉の2つのサブカテゴリから構成された.
「『便が出ましたか』『ご飯はどのくらい食べれましたか』といった日常会話でよく使うものについては,(多言語)指差しシートがあります.5か国語に対応できるもので,英語,中国語,タガログ語,スペイン語,ベトナム語だったと思います」
「造影剤に関する説明ってすごく難しいじゃないですか,それに汎用性もあるので,翻訳したもの(多言語説明資料)を準備しています.」
【誤解があってはならない場面では医療通訳を活用し患者の意思決定を支える】
このカテゴリは,治療方針の説明や手術同意,病状・予後説明など重大な意思決定を伴う場面において,医療通訳を必要に応じて手配・調整し活用することで正確な情報を保障する意思決定支援における配慮を示す.〈病状や治療方針などの説明は医療通訳を用いて確実な情報伝達を図り意思決定を支援する〉〈医療通訳を通して患者・家族の理解や思いを医療者と共有する〉〈医療通訳が必要な場面では事前に調整し依頼する〉の3つのサブカテゴリから構成された.
「(ICの時)家族通訳の場合,家族の判断で伝える内容が左右されることがあったので,必ず医療通訳を使うように推奨しています」「医療者向けの言語支援サービスを導入しています.タブレットでビデオ通訳や音声通訳が使えます.例えば,長い説明の時は電話通訳を使ったり,IC の時はビデオ通訳を使ったりみたいな感じで使い分けができます.(中略)プライバシーをしっかりしないといけない時は,音声だけにしています」
【異なった文化や言語による不安が和らぐように環境を整える】
このカテゴリは,文化や言語の違いによって不安を抱えやすい外国人患者に対し,看護職が声かけや説明の時間確保,馴染みのある言葉の使用などを通して安心して過ごせるよう支える配慮を示す.〈異文化環境による患者の不安が和らぐよう関わりを重ね安心できる雰囲気をつくる〉〈異言語環境であることを考慮して説明や対話の時間を十分に確保する〉〈患者の馴染みのある言葉を積極的に用いて声をかける〉〈文化的な差異があることをふまえ,日本の医療や看護に関して一つ一つ丁寧に説明し理解を促す〉の4つのサブカテゴリから構成された.慣れない医療環境に加え,言語や文化の違いに直面している患者に対し,積極的な声かけと話しかけやすい雰囲気づくり,丁寧な説明による理解の促進へのかかわりが語られた.
「結構,遠慮されて,しゃべれないし通じないから『もういいや』みたいな感じで伝えない方もすごい多いなって思います.その方こそ多分困ってることとか多いと思うので,そんな時こそ,表情をちょっとよく見るとか,ちょっと一言「大丈夫?」って声かけるとか大事なのかなと思います」「廊下ですれ違う時は,笑顔で患者が分かる言葉で声をかけるようにしています.まー単語なんですけど」
【言語や文化の違いも個別性の一つと捉え個として向き合う】
このカテゴリは,患者一人ひとりの文化や価値観,生活習慣,経済的事情を尊重し,一人ひとりの状況に応じて対応を調整する個別性への配慮を示す.〈「外国人」などの属性に基づく先入観を排し一人の個人として向き合う姿勢でかかわる〉〈同じ国籍や宗教でも慣習や解釈には個人差があるため一人ひとりに確認を行う〉〈宗教的理由がその人にとって重要であることをふまえ可能な限りの調整を行う〉〈経済的・生活的制約を踏まえた情報提供と意思決定を支援する〉の4つのサブカテゴリから構成された.ハラールなどの食事制限や男性医療者を望まない希望,入浴や育児に関する生活習慣の違いに応じてケア内容や時間を調整するなど,患者の宗教上の必要性や,母国の生活習慣に基づくニーズに沿って可能な範囲で調整し,必要に応じて折衷案を提示する実践が語られた.看護職は,外国人患者を一括りに捉えるのではなく,それぞれの個別性を考慮し,ニーズに即したテーラーメイドな配慮を行っていた.
「文化的背景も患者さんの個性のひとつとして捉えています」「同じ宗教でも同じことを望んでいる訳ではないので,患者さん一人一人に確認するようにしています」「患者さんの文化的な希望に対応が難しい時は,互いの考えを尊重して納得できる折衷案を提案したりしています」
【文化的背景の情報共有と支援体制をチームで整える】
このカテゴリは,言語や文化的背景の異なる患者に対して,看護職が多職種と情報を共有し,院内資源を活用した支援体制を整える組織的な配慮を示す.〈患者が使える言語で継続的に関わることができるよう部署での担当者を調整する〉〈院内の通訳や看護職などの医療資源や家族などの協力を得て患者の思いを捉える〉〈日本語能力の評価や宗教的・文化的な要望をチームで共有し対応する〉〈退院後の生活を支えるため外部支援につなげる〉〈院内の多言語対応可能な看護職一覧表をもとに応援を依頼する〉の5つのサブカテゴリから構成された.
「ママがワンオペで育児となると日本に来て間もない方だと孤立することが多くて.(中略)周りに支援を頼める人がいないようだったら,保健師の方に介入してもらうように連絡しています」「看護部では,多言語を話せる看護職の応援体制を整えていて,支援が必要な時には対応できるようにしています」
日本の医療現場における,日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮は,8カテゴリ・27サブカテゴリに集約された.これらのカテゴリは「異言語環境におけるコミュニケーションへの配慮」と「異言語・異文化背景を個別性として捉えた配慮」,そして,「異文化看護を支える家族・医療チーム・地域の連携といった組織的な配慮」という,主に3つの要素によるものと考えられた.以下,それぞれにおける看護実践上の配慮について考察する.
1. 異言語環境におけるコミュニケーションへの配慮母語が日本語ではない外国人患者に対する看護職の実践上の配慮として得られた8つのカテゴリのうち【患者の日本語能力に合わせて伝わる言葉を駆使する】【言語に頼らず互いの理解が深まり心の通う関わりをする】【機械翻訳を活用し制約の少ない互いの母語での会話を促進する】【医療場面に典型的な日本語は前もって翻訳された文書を活用する】【誤解があってはならない場面では医療通訳を活用し患者の意思決定を支える】【異なった文化や言語による不安が和らぐように環境を整える】の6つはコミュニケーションに関するカテゴリであった.言語的障壁が外国人患者の医療における最も大きな課題の一つであり,その克服が看護実践において欠かせない要素であることを意味している.
日本の医療機関では,医療は原則として日本語で行われ,相手が外国人であってもまずは日本語でのやりとりが試みられる.これは日本語が事実上の公用語であることに加え,多くの医療者が外国語での対応が困難であることも影響している(Koh et al., 2025).また,外国人患者の母語は多岐にわたり,医療者が即時に対応可能な言語とは限らない.さらに,日本国内での生活経験を通じて一定程度の日本語を理解している患者も少なくないことから,初期対応において「やさしい日本語」を用いることは,意思疎通を円滑にする契機となり得る.このような背景のもと,看護職は患者の理解可能性を逐次判断しながら,他言語資源の必要性を見極め臨機応変な言語選択を行っていると考えられる.
一方で,日本語に熟達した外国人は少なく,日常会話が可能でも医療に関する説明には困難を伴うことが多い(武田ら,2020).先行研究でも,医療現場における言語的障壁の存在が指摘されており(安藤ら,2023),言語的障壁は医療の質と安全,患者理解に影響するため,効果的なコミュニケーションは看護実践の前提であるとされている(Schwei et al., 2016).こうした背景から,看護職は言語的障壁に対応するためのコミュニケーション上の工夫を多数語っていたと考えられる.
近年,機械翻訳ツールは,医療現場でも導入が進み,看護における多言語コミュニケーションを支援する有用な手段として活用されつつある.音声入力や自動翻訳機能があり,文字の読み書きが困難な患者との意思疎通を図る手段となり得る.しかし,翻訳精度は言語によって差があり誤訳も生じ得るため,主語や所有格の明示,短文での表現,略語や慣用表現の回避などの工夫が必要である(杉浦ら,2023).これらの課題は国外の研究においても同様に指摘されており(Mehandru et al., 2022;Hudelson & Chappuis, 2024),機械翻訳の限界を前提とした慎重な活用が重要となる.本研究においても,看護師が簡潔で明瞭な語彙選択や,逆翻訳による意味の確認を行う実践が語られており,こうした対応は,機械翻訳の特性を理解し,内容の正確性を確保しようとする翻訳リテラシーの具体的な表れであると考えられる.
しかし,翻訳を介した会話では感情や微妙な意図が伝わりにくいという限界が指摘されている(谷本ら,2020).本研究でも,患者の表情や反応から感情の変化を読み取ろうとする実践が語られており,単に翻訳機能を操作するだけでは担えない側面が示唆される.そのため,機械翻訳の操作スキルに加え,非言語情報を丁寧に読み取る観察力や患者の情緒に寄り添う感受性といった看護本来の力が不可欠であり,状況に応じて適切な伝達方法を選択する看護師の判断力が重要になると考えられる.
日常的なやり取りでは,多言語指差しシートや説明資料といった視覚的支援が活用されていた.こうした翻訳資料は,患者の理解を補い不安を軽減する手段となり得ることが報告されており(Ali & Watson, 2018;岩田・堀込,2021),本研究においても,現場で即応的に活用される“使いやすい支援手段”として機能していたと考えられる.
一方で,誤解が許されない説明場面では,医療通訳の活用が不可欠であり(厚生労働省,2019),患者が医療行為の内容やリスクを十分に理解したうえで意思決定できる環境整備が求められる.しかし,日本における医療通訳体制の整備は依然として十分ではなく,米国のように言語アクセスが法的に義務づけられた状況とは対照的である(Schiaffino et al., 2016).このことから,日本の医療通訳体制の遅れは,看護実践に影響を及ぼすだけでなく,日本の医療全体における課題であると考えられる.
異言語環境では,日本語に不安を抱える患者が話しかけることをためらい,気持ちの伝え方に戸惑うことが多い.加えて,日本の医療現場では「暗黙の了解」や「行間を読む」といった高文脈的なやり取りが理解の障壁となる(寺岡・村中,2017).こうした状況に対し,看護師は患者が安心して語れる雰囲気を整え,自らの態度や環境に配慮するとともに,暗黙的表現を避けて明確に伝えるよう努めていた.このような姿勢は,患者に安心感や信頼感を与え,心理的安全性を支える基盤となると考えられる.さらに,患者が「話してもよい」「受け入れられている」と感じる土台を築くことは,信頼関係の形成につながり,患者の語りを引き出すことに寄与すると考えられる.したがって,場面に応じてコミュニケーション手段を選択し,理解を補いながらかかわることは,相互理解を支える不可欠な看護実践上の配慮であると考えられる.
2. 異言語・異文化背景を個別性として捉えた配慮異言語・異文化背景を個別性として捉えた配慮には,【言語や文化の違いも個別性の一つと捉え個として向き合う】カテゴリが属する.これらの実践は,外国人という属性に基づく画一的な対応ではなく,患者の価値観や文化的背景を“個性”として捉え,患者を「唯一無二の存在」として,その人が大切にする文化的価値や生活背景に寄り添う姿勢が基盤にあった.
看護職は,属性に基づく先入観を排し,それぞれの患者に応じた支援や調整を柔軟に行っており,このようなかかわりは,文化的背景を「特別なもの」として区別するのではなく,患者を構成する特徴として受け止めて尊重する姿勢に基づいていたと考えられる.こうした姿勢は,患者の文化をケアの中心的要素として理解し尊重するトランスカルチュラル・ナーシング理論(Leininger, 1995/1995)や,文化への敬意と自己認識を伴う継続的プロセスを提唱した文化的能力モデル(Campinha-Bacote, 2002)と整合している.
本研究で示された宗教的な配慮を要する食事や異性との身体接触,入浴・育児に関する生活習慣の相違は,ケアを調整する際の判断材料となっていた.患者の文化的希望に応じることが難しい場合は,看護職と患者が互いの考えを尊重しながら折衷案を提案し,互いが納得できる形を模索していた.Stubbe(2020)は,文化の違いを前提に,患者との対話を通じて相互理解と尊重に基づく関係を築く重要性を指摘しており,本研究で見られた看護職の実践もこれと一致していた.
このように,患者との対話や相互理解を重ねながら文化的背景を尊重する実践は,患者を疾病の担い手ではなく一人の人間として個別化したケアにアプローチする患者中心のケアPCC(Person-Centered Care: PCC)の理念に通じている(Morgan & Yoder, 2012).そして,その基盤にあるのは,看護職の文化的謙虚さ(Cultural Humility)の姿勢であると考えられる.文化的謙虚さは,自分自身の限界や文化的偏見に気づき,他者の文化に敬意を払いながら関係性の中で学び続けることを重視する態度であり(Tervalon & Murray-García, 1998),個別性を尊重する看護実践を支える根幹となる姿勢であるといえる.
患者の経済的・生活的制約といった状況への配慮も欠かせない視点である.特に,医療制度への理解不足や仕事・家庭事情による通院困難など,生活基盤に起因する課題や(森田ら,2021),公的医療保険の未加入は医療アクセスの脆弱性と関連している(Higuchi et al., 2021).看護職は,こうした状況を理解したうえで,必要に応じて情報提供の工夫や意思決定支援を行っており,それは現実的で価値観を尊重した看護として機能していた.このようなかかわりは,異文化背景をもつ患者の信頼関係の構築を支えるだけでなく,安心感や満足感を高め,心理的安全性やケアの質の向上にもつながる配慮であるといえる.
3. 異文化看護を支える家族・医療チーム・地域の連携といった組織的な配慮異文化看護を支える家族・医療チーム・地域の連携といった組織的な配慮は,【文化的背景の情報共有と支援体制をチームで整える】カテゴリが属する.これらの実践は,外国人患者への看護を看護職個人の努力やスキルに依存させるのではなく,組織全体で支える支援体制が示された.
近年,外国人患者への対応に向けた体制整備が,医療現場の中で少しずつ進められてきている.本研究の参加者が所属する施設においても,機械翻訳機器の設置や通訳体制の確保,多言語対応マニュアルの整備など,組織として費用や人材を投入した取り組みが行われていた.また,医療チームが患者の日本語レベルや文化的背景に応じた配慮に関する情報を共有し,それを実践に反映する取り組みが語られていた.異文化背景をもつ患者に対する継続的かつ一貫性のある支援を実現するためには,多職種間での情報共有や役割分担の明確化といった「連携・協働の体制」が不可欠であり,看護職は,その“つなぎ手”として重要な役割を担っていた.
このような連携を通じて,患者の理解しやすい言語での情報提供や,文化的ニーズに沿ったケアの提供が可能となり,看護職個人の力量に過度に依存しない組織的な配慮としての対応が実現されていた.外国人患者対応の困難を,個々のスキルや裁量に還元するのではなく,制度・組織・社会的条件に埋め込まれた構造の課題として捉える視点が重要である(Metzl & Hansen, 2014).この視点(structural competency)は,院内外の連携・協働体制を計画・強化するための理論的基盤となり得る.
したがって,看護職の外国人患者への対応を継続的で質の高い看護を提供するためには,人的配置,多職種間の情報共有,マニュアル整備といった仕組みの充実に加え,異文化看護に必要な知識や態度を育成する教育体制の整備が求められる.
支援体制が整い,「多文化対応」を他人ごとではなく自分ごととして捉える組織的な仕組みが構築されれば,看護職はより安心して外国人患者と向き合い,継続的で質の高いケアを提供することが可能になると考えられる.
本研究は,日本語を母語としない外国人患者への看護実践上の配慮に焦点化し,看護職の語りを質的に分析してその具体像を明らかにした.我が国における文化的・言語的多様性への対応という観点から,臨床現場の知見に基づく実践的示唆を得られた点に意義があるが,実践知の記述にとどまっている.そのため,今後は,本研究で抽出された看護実践上の配慮について,専門家の意見を踏まえて臨床で活用しやすい形へ整理を進める必要がある.また,患者の経験を主軸とした研究および患者アウトカムに及ぼす影響や効果について検証し,その妥当性を多角的に明らかにしていく必要がある.
本研究では,日本語を母語としない外国人患者への対応経験を有する看護職の語りから,看護実践上の配慮を構成する8つのカテゴリを抽出した.これらのカテゴリには,言語的・非言語的なコミュニケーションの工夫,文化的背景の尊重,患者の心理的配慮,医療チームによる連携などが含まれ,多様な手段と視点を用いて外国人患者と関わる実践の実態が明らかとなった.さらに,看護職が適切な手段を選択しながら患者との意思疎通を図り,文化的背景を尊重しつつ,組織全体で支援体制を構築しようとする姿勢が確認され,外国人患者への看護実践上の配慮は,多層的かつ協働的に展開される実践であることが示唆された.
謝辞:本研究に貴重なご指導とご助言を賜りました武庫川女子大学大学院看護学研究科 布谷麻耶先生,松井菜摘先生に心より感謝申し上げます.また,本研究にご協力いただきました看護職の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.
著者資格:すべての著者は,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.