日本看護科学会誌
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原著
小児訪問看護師における医療関連機器褥瘡予防の知識,技術および実践の実態と困難感:経験年数に着目した混合研究
永野 英美田中 奈美津田 彰
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2026 年 46 巻 p. 156-167

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Abstract

目的:小児訪問看護師の経験年数(5年未満/5年以上)別に,医療関連機器褥瘡(MDRPU)予防の知識,技術および実践と関連要因,ケアの困難感を明らかにすること.

方法:A県の訪問看護師を対象にMDRPU予防に関する無記名質問紙調査を実施した.量的データは統計解析,質的データはテキストマイニングを用いる混合研究デザインとした.

結果:有効回答219名(5年未満群121名,5年以上群98名)であった.量的分析では,5年以上群は5年未満群と比較し,特に「子ども・家族への教育」の実践が有意に高かった.質的分析では,困難感の質が経験年数で異なり,5年未満群は知識不足による『内的な不確実性』を5年以上群は他者・環境との相互作用から生じる『関係性・構造的課題』を認識していた.

結論:量的・質的結果の統合から,MDRPU予防能力の育成には,経験年数に応じた段階的な教育,支援体制の構築が重要と示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the factors associated with knowledge, skills, and practice regarding medical device-related pressure ulcer (MDRPU) prevention, as well as the challenges in care, among pediatric home-visit nurses, based on their years of experience (<5 years vs. ≥5 years).

Methods: A mixed-methods, cross-sectional survey was conducted with nurses visiting children with medical complexity from home-visit nursing stations in Prefecture A, Japan. An anonymous questionnaire assessed their knowledge, skills, practice, and challenges regarding MDRPU prevention. For a two-group comparison based on years of experience, quantitative data were analyzed statistically, while qualitative data from free-text descriptions were analyzed using text mining.

Results: A total of 219 valid responses were analyzed (n = 121 in the <5 years experience group; n = 98 in the ≥5 years experience group). Quantitative analysis demonstrated that the ≥5 years group had significantly higher practice levels, particularly in “educating the child or family,” compared to the <5 years group. Meanwhile, qualitative analysis revealed that the nature of challenges differed by experience: the <5 years group faced “internal uncertainty” stemming from a lack of knowledge and experience, while the ≥5 years group confronted “relational and structural challenges” arising from interactions with others and the environment.

Conclusion: By integrating the quantitative findings on practice-level differences with the qualitative findings on the transformation of challenges, this study suggests that developing the MDRPU prevention competence of pediatric home-visit nurses requires a staged educational and support system tailored to the qualitative changes in the challenges they face at different career stages.

Ⅰ. 緒言

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律において,医療的ケア児は「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童」と定義される.我が国では在宅で過ごすこのような医療的ケア児の増加に伴い,訪問看護師の役割は増大している(厚生労働省,2023).生命維持に不可欠な医療関連機器を持続的に装着する医療的ケア児は,生理学的に脆弱な皮膚特性も相まって,医療関連機器褥瘡(Medical Device Related Pressure Ulcer,以下MDRPU)のハイリスク群である.患児におけるMDRPUの有病率を調査した近年のシステマティックレビューでは,その統合有病率が7.0%に達すると報告されており(Şimşek et al., 2023),小児ケアにおけるMDRPUが重要な課題であることが示される.特に新生児集中治療室を対象とした研究では,発生率が35.3%にものぼる報告もあり(Yarkıner et al., 2024),生命維持に不可欠な医療関連機器を長期にわたり装着し続ける点では在宅療養環境も同様であり,潜在的なリスクが懸念される.MDRPUは医療的ケア児の苦痛やQOL低下,二次感染の原因となりうることから(Schlüer et al., 2012),その予防は小児在宅医療の喫緊の課題である.

この課題の解決には,MDRPU予防に関する看護師の役割は大きいが,在宅で医療的ケア児のケアを担う看護師は病院と異なる複雑な困難に直面する(Geyer et al., 2025).国内のMDRPU研究は病院での実態調査が中心で(小栁・奥田,2022),在宅の小児訪問看護師の実践に焦点を当てた研究は少ない.さらに,看護師の実践能力が経験に応じて発達することは広く知られており,国際的にも在宅ケアの文脈で熟練看護師の持つ卓越した実践知や感性(Bergdahl et al., 2007),および新人看護師の教育的支援の必要性が明らかにされている(Mori et al., 2023).国内においても,訪問看護師に求められる実践能力の全体像がレビューされ(片平・植村,2021),熟練看護師の持つ高度な臨床判断や(岩野・塚本,2021),経験の浅い看護師が抱える教育ニーズなどが報告されてきた(杣木・中村,2021).

しかしながら,訪問看護師はキャリア背景が多様であるため画一的な役割を担うことが難しく,各地で訪問看護の場に即したキャリアラダーが開発されている段階にある(大木・浅海,2022).これらの研究の多くは,特定の経験段階における能力や課題を個別に取り上げるに留まっている.小児訪問看護という専門領域において,経験年数という軸に沿って困難感がどのように質的に変容していくのか,そのプロセスを実践レベルの量的データと統合し,構造的に解明しようと試みた研究は乏しい.このリサーチ・ギャップを埋めることは,MDRPU予防における困難感の全体像を捉え,経験段階に応じた効果的な支援策を講じるうえで不可欠である.

そこで本研究の目的は,医療的ケア児を支援する訪問看護師を対象に,MDRPU予防に関する知識・技術および実践の実態を明らかにし,実践における困難感を,小児訪問看護経験年数による差異に着目して解明する.経験を通じた実践知の質的変化を捉える理論的枠組みとして,Benner(1984/2005)の熟達度モデルを援用する.この理論に基づき,経験3~5年で到達する中堅を実践知の質的転換点と位置づけていることに着目し,本研究では小児訪問看護経験年数5年を節目と考え,経験年数によってMDRPU予防に関する実践知や困難感に質的な差異が生じるのではないかとの問いを設定した.

同理論において,経験を積んだ看護師は分析的思考から直感的・包括的思考へと移行し,それに伴い課題認識の焦点も,自己の知識・技術といった内的な不確実性から,他者や環境との相互作用といった関係性・構造的課題へと移行することが予測される.

また,Benner理論に基づけば,MDRPU予防に求められる知識や技術は,その性質によって実践知の発達プロセスが均一ではないと予測される.例えば,成人領域や基礎教育でも習得可能な基礎的ケア(例:酸素マスク),小児在宅という専門領域での経験を必要とする高度・専門的ケア(例:気管切開カニューレ固定具),そしてケアの対象を医療的ケア児から家族全体へと広げる高次の関係構築力(例:家族への教育)では,それぞれ熟達に至るプロセスや経験年数の影響が異なる可能性がある.

この問いを検証するため,本研究で混合研究法デザインを採用する.まず量的データで経験年数群間の実践レベルの差異を客観的に捉え,次に質的データでその背景にある困難感の質的変容と構造を探求する.

本研究は,小児訪問看護師が経験年数に応じて困難感の質的変容を可視化することに学術的独創性を持つ.上記の理論的考察に基づき,本研究で設定した仮説は以下の2点である.第一に,経験年数5年以上の看護師は5年未満の看護師と比較し,知識,技術,特に家族への教育といった応用的実践レベルが高い.なお,この量的仮説の検証においては,年齢や小児以外の訪問看護経験といった他の要因が結果に及ぼす影響を統計的に調整する必要があり,多重ロジスティック回帰分析を用いた.

第二に,困難感の質は経験年数で異なり,5年未満の看護師では知識,技術,および実践不足に起因する困難感が,5年以上の看護師では多職種や家族との複雑な関係性に起因する困難感が中心となる.本研究の知見は,経験年数5年という節目を境にした看護師の質的変容を踏まえ,それぞれの段階にある看護師への教育プログラム構築を検討の基礎資料となり,小児訪問看護の質向上に貢献し意義深いと考える.

Ⅱ. 用語の定義

小児訪問看護師

特定の資格や専門性を示すものではなく,訪問看護ステーションに所属し,日常的に一人以上の医療的ケア児の居宅を訪問しケアを提供する看護師とする.

困難感

小児訪問看護師がMDRPU予防ケアを計画・実践する過程で,目標達成を阻害,または心理的・技術的な負担を強いると認識する,個人的,環境的,および関係的な要因の総体を指す.

Ⅲ. 方法

1. 調査方法と研究対象

1) 研究デザインと対象

本研究は,A県内の訪問看護ステーションに勤務し,医療的ケア児を訪問している看護師を対象に横断的な質問紙で求めた量的データの心理計量学的な量的分析と質問紙の自由記述欄の記述データをKH Coderで質的分析し(樋口,2014),両分析を統合する混合研究法の収束的デザインを採用した.

本研究では小児訪問看護経験年数5年を境に2群に分類した(以下,それぞれ5年未満群,5年以上群と表記する).この区分は,Benner(1984/2005)の熟達度モデルを理論的拠り所とする.Bennerは,経験3~5年で到達する中堅を包括的実践へ移行する質的転換点と位置づけ(Benner, 1984/2005, p. 23–26),訪問看護への適用可能性も示唆している(Benner, 1984/2005, p. 6).この理論的節目は国内の先行研究でも支持されている(森下・山田,2018).さらに,この5年という区分は,日本の訪問看護師を対象とした先行研究においても,集団の統計的な中央値として採用され(大木・浅海,2022),実践の質を比較するための慣行的な基準として用いられており(仁科・谷垣,2009),看護実践の変容を捉える上で妥当な指標であると判断した.また,Benner(1984/2005, p. 18)は,実践知が領域固有的であると指摘している.本研究が対象とする小児訪問看護領域は,小児特有のMDRPUリスクへの対応や,在宅環境における家族への教育的実践など,病院での小児看護や成人領域の訪問看護とは質的に異なる固有の実践知が求められる.この理論に基づけば,他の領域での経験が豊富であっても,小児訪問看護における実践知の発達は,その領域固有の経験年数にこそ反映されると考えられる.したがって,本研究では小児訪問看護経験年数で比較することが,実践知の質的差異を分析する上で最も妥当であると判断した.

2) 研究対象施設の抽出と協力依頼

2022年5月時点のA県庁保健医療介護部が公開しているデータに基づき,小児を対象としている訪問看護ステーション256施設を特定した.これらの施設の中から,各ステーションが公開情報として提示している対応可能な医療処置の項目を精査し,MDRPUに直接関連しないケア(服薬管理,血糖測定・インスリン注射,褥瘡の処置,浣腸・摘便)のみを実施している施設を除外した,239施設の研究対象施設を抽出した.

抽出した239施設に電話で協力を依頼し,承諾を得た施設に所属する対象看護師数を把握した.

3) データ収集方法

2023年3月13日から5月22日にかけて,協力に同意した施設の管理者を通じて対象看護師に研究説明書と無記名質問紙を配布した.看護師は研究内容を理解・同意した上で回答し,同封の封筒で直接郵送にて返送する方法で回収した.

2. 調査項目

1) 対象者の背景

対象者の背景情報として,基本属性2項目(性別,年齢)を質問した.また,臨床経験,小児科経験,新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit,以下NICU)経験,新生児回復室(Growing Care Unit,以下GCU)経験の有無とそれぞれの経験年数,訪問看護経験年数,小児訪問看護経験年数も調査した.さらに,皮膚排泄ケア認定看護師資格の有無,MDRPUに関する教育・研修受講経験の有無,および訪問看護での医療的ケア児に対するMDRPUケア経験の有無も確認した.

2) 医療関連機器と皮膚ケアのMDRPU予防に関する知識,技術および実践

MDRPU予防に関する知識,技術,および実践について,医療関連機器19項目と皮膚ケア9項目にわたって質問した.医療関連機器と皮膚ケアについては,日本褥瘡学会が提唱するガイドライン「MDRPUベストプラクティス医療関連機器圧迫創傷の予防と管理」(日本褥瘡学会,2016)を参考に選定した.MDRPU予防の知識および技術については,4段階(1:ない,2:あまりない,3:まあある,4:ある)のリッカート尺度を用いて自己評価を求め,実践については,2段階(1:実践していない,2:実践している)で回答を得た.

3) MDRPU予防ケアに関する困難感

医療的ケア児のMDRPU予防ケアに関する困難感を自由記載で回答を求めた.

3. 分析方法

定量的データは,以下の方法で統計解析を行った.対象者の属性およびMDRPU予防の医療関連機器および皮膚ケアに関する知識・技術・実践の有無について,5年未満群と5年以上群の2群間比較を行った.割合の検定にはχ2検定を,平均の差の検定には対応のないt検定を,中央値の差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた.次に,MDRPU予防の知識と技術については,医療関連機器および皮膚ケアにおいて,「ない」と「あまりない」を「ない」として統合し,「まあある」と「ある」を「ある」として統合することで,二値変数とした.これは,後の多重ロジスティック回帰分析において,知識・技術の有無を従属変数として投入するためである.

医療関連機器19項目および皮膚ケア9項目について,それぞれ知識,技術,実践の有無を従属変数とし,交絡因子を調整した多重ロジスティック回帰分析を行った.その際,調整変数として,年齢,訪問看護経験年数,MDRPUケア経験の有無,MDRPU研修受講の有無をモデルに投入した.これらの変数は,主要な独立変数である小児訪問看護経験年数と,従属変数であるMDRPU予防の知識・技術・実践の双方に関連しうると先行研究や理論から想定される交絡因子として選定した.

具体的には,年齢が全般的な臨床経験の長さと関連しうること,訪問看護経験年数が成人領域など小児以外での訪問経験を反映しうること,MDRPUケア経験がMDRPUの問題に直接対処した経験の有無を示すこと,そしてMDRPU研修受講が体系的な教育機会の有無を示すことから,これらが小児訪問看護経験年数とは独立して知識・技術・実践に影響を与える可能性を考慮し,その影響を統計的に統制した.

なお,独立変数の比較では,5年未満群を基準とした.また,モデルに投入した変数間の多重共線性の有無を線形回帰分析における分散拡大係数(VIF)で確認した.すべての統計学的分析にはSPSS Ver. 28を使用し,統計的有意水準は5%とした.

質的データは,KH Coderを用いて分析した.小児訪問看護経験年数(5年未満群/5年以上群)を外部変数として頻出語や共起関係を探索的に分析した後,該当記述を繰り返し熟読し,帰納的にカテゴリーを生成した.

4. 倫理的配慮

本研究は,学校法人福岡学園倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:第618号).対象者には研究の目的,方法等を文書で説明し,自由意思による参加と研究への同意を確認した.質問紙冒頭の同意チェックボックスで意思を確認し,個別の直接返送により匿名性を確保した.また,回答者の個人を特定できる情報は一切収集せず,データは統計的に処理するため,回答内容が個人と結びつくことはない.

また,訪問看護経験者5名にプレテストを行い,質問の表現や理解度,回答のしやすさ等を確認し,質問紙を修正した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の属性

本研究では,A県の訪問看護ステーションに勤務する看護師571名に対し無記名質問紙調査を実施した.回収数は256名(回収率44.8%)であり,このうち未回答があった37名を除外した有効回答219名(有効回答率85.5%)を分析対象とした.量的分析対象者(以下,質問紙回答者)を,5年未満群(121名)と5年以上群(98名)の属性を表1に示す.両群間で,年齢,訪問看護経験年数,小児訪問看護経験年数,およびMDRPUケア経験において有意差が認められた.一方,両群間に臨床経験および,MDRPUに関する教育・研修受講経験の有無では有意な差は認められなかった.

表1 小児訪問看護経験年数別の対象者背景

質問紙回答者 自由記載回答者
5年未満群 5年以上群 p 5年未満群 5年以上群 p
121 (55.3%) 98 (44.7%) 65 (51.6%) 61 (48.4%)
性別 n(%) 16 (13.2) 1 (1.0) .001 5 (7.7) 1 (1.6) .111
105 (86.8) 97 (99.0) 60 (92.3) 60 (98.4)
年齢 Mean(SD) 41.3 (9.0) 48.3 (6.4) <.001 42.0 (8.8) 47.0 (6.5) <.001
病院勤務経験 n(%) 2 (1.7) 1 (1.0) .579 1 (1.5) 0 (0.0) .331
119 (98.3) 97 (99.0) 64 (98.5) 61 (100.0)
病院勤務経験年数 Median(IQR) 10.0 (5~16) 10.0 (6~15) .636 11.0 (6~20) 10 (6~15) .628
小児科勤務経験 n(%) 92 (76.0) 71 (72.4) .545 47 (72.3) 44 (72.1) .916
29 (24.0) 27 (27.6) 18 (27.7) 17 (27.9)
小児科勤務経験年数 Median(IQR) 0.0 (0~0) 0.0 (0~2) .451 0.0 (0~1) 0.0 (0~2) .916
NICU・GCU勤務経験 n(%) 107 (88.4) 89 (90.8) .567 57 (87.7) 55 (90.2) .557
14 (11.6) 9 (9.2) 8 (12.3) 6 (9.8)
NICU・GCU勤務経験年数 Median(IQR) 0.0 (0~0) 0.0 (0~0) .480 0.0 (0~0) 0.0 (0~0) .734
訪問看護経験年数 Median(IQR) 3.0 (1~4) 10.0 (6~15) <.001 3.0 (1~4) 8.0 (6~12) <.001
小児訪問看護経験年数 Median(IQR) 2.0 (1~3) 9.0 (6~12) <.001 2.0 (1~3) 8.0 (6~11) <.001
MDRPUに関する研修,教育等の受講 n(%) 95 (78.5) 79 (80.6) .702 48 (73.8) 48 (78.7) .492
26 (21.5) 19 (19.4) 17 (26.2) 13 (21.3)
訪問看護で医療的ケア児のMDRPUケア経験 n(%) 89 (73.6) 46 (46.9) <.001 40 (61.5) 25 (41.0) .069
32 (26.4) 52 (53.1) 25 (38.5) 36 (59.0)

※割合の検定はχ2検定,またはFisherの直接確率検定,平均の差の検定はt検定,中央値の差の検定はMann-WhitneyのU検定を用いた.

次に,質問紙回答者219名のうち,MDRPU予防ケアに関する困難感について自由記載のあった126名(記載率57.5%)を質的分析の対象とした(以下,自由記載回答者).この自由記載回答者も質問紙回答者と同様に,5年未満群(65名),5年以上群(61名)の属性を表1に併記する.質問紙回答者の結果と同様の傾向であった.

また,MDRPUに関する教育・研修受講率は,約20%であった.なお,本研究の対象者には,皮膚排泄ケア認定看護師資格取得者はいなかった.

2. 小児訪問看護経験年数と医療関連機器,皮膚ケアに関する知識,技術および実践の関連性(単変量解析)

5年未満群と5年以上群の医療関連機器に関する知識・技術・実践の比較を表2に示す.医療関連機器全般において5年以上群は5年未満群より知識・技術等の保有割合が高い傾向にあった.特に知識5項目,技術6項目で有意差が認められた.一方,装具関連機器は両群ともに低い割合であった.

表2 小児訪問看護経験年数別にみた医療関連機器に関する知識,技術および実践の割合とその関連要因:単変量解析

n = 219)

医療関連機器 知識有り n(%) 技術有り n(%) 実践している n(%)
5年未満群 5年以上群 p 5年未満群 5年以上群 p 5年未満群 5年以上群 p
121 (55.3%) 98 (44.7%) 121 (55.3%) 98 (44.7%) 121 (55.3%) 98 (44.7%)
経ろう管法用チューブ(胃ろう・腸ろう等) 95 (78.5) 84 (85.7) .170 79 (65.3) 82 (83.7) .002 89 (73.6) 83 (84.7) .046
経鼻経管法用チューブ(経鼻胃チューブ等) 103 (85.1) 88 (89.8) .303 89 (73.6) 81 (82.7) .108 95 (78.5) 83 (84.7) .244
NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)フェイスマスク 69 (57.0) 73 (74.5) .007 55 (45.5) 64 (65.3) .003 57 (47.1) 66 (67.3) .003
酸素マスク 96 (79.3) 83 (84.7) .308 89 (73.6) 79 (80.6) .219 80 (66.1) 66 (67.3) .848
経鼻酸素カニューレ 94 (77.7) 86 (87.8) .053 90 (74.4) 82 (83.7) .096 85 (70.2) 80 (81.6) .052
気管切開カニューレ 97 (80.2) 82 (83.7) .504 86 (71.1) 76 (77.6) .277 97 (80.2) 82 (83.7) .504
酸素マスク,気管切開チューブの固定用ひも 98 (81.0) 83 (84.7) .472 86 (71.1) 81 (82.7) .045 99 (81.8) 85 (86.7) .324
気管切開カニューレ固定具 79 (65.3) 77 (78.6) .031 72 (59.5) 69 (70.4) .094 81 (66.9) 73 (74.5) .224
経皮酸素分圧モニター(SpO2) 106 (87.6) 88 (89.8) .612 99 (81.8) 84 (85.7) .439 94 (77.7) 88 (89.8) .017
血管留置カテーテル 90 (74.4) 84 (85.7) .039 81 (66.9) 70 (71.4) .476 75 (62.0) 65 (66.3) .506
尿道留置カテーテル 91 (75.2) 81 (82.7) .182 85 (70.2) 72 (73.5) .599 75 (62.0) 65 (66.3) .506
上肢装具(指装具,把持装具,肩装具,等) 36 (29.8) 36 (36.7) .274 20 (16.5) 34 (34.7) .002 29 (24.0) 30 (30.6) .270
下肢装具(成形靴,短下肢装具,長下肢装具,等) 39 (32.2) 49 (50.0) .008 29 (24.0) 45 (45.9) .001 47 (38.8) 51 (52.0) .051
体幹装具(胸椎仙椎装具,頚椎装具,等) 33 (27.3) 44 (44.9) .007 23 (19.0) 39 (39.8) .001 37 (30.6) 41 (41.8) .084
ギプス,シーネ(点滴固定用含む) 73 (60.3) 66 (67.3) .284 61 (50.4) 58 (59.2) .195 66 (54.5) 56 (57.1) .700
医療用弾性ストッキング 79 (65.3) 60 (61.2) .534 72 (59.5) 53 (54.1) .420 61 (50.4) 42 (42.9) .265
抑制帯(抑制目的としたてづくりのもの(ミトン等)含む) 83 (68.6) 66 (67.3) .844 75 (62.0) 60 (61.2) .909 72 (59.5) 58 (59.2) .962
車椅子のアームレスト・フットレスト 71 (58.7) 66 (67.3) .187 65 (53.7) 60 (61.2) .265 64 (52.9) 55 (56.1) .633
ベッド柵 94 (77.7) 77 (78.6) .875 84 (69.4) 72 (73.5) .511 76 (62.8) 73 (74.5) .065

※医療関連機器は,日本褥瘡学会の「MDRPUベストプラクティス」に基づく19項目.

p値はχ2検定による.

また,5年未満群と5年以上群の皮膚ケアに関するMDRPU予防の知識,技術および実践の比較を表3に示す.皮膚ケア関連では,特に「子ども・家族への教育」において,知識・技術・実践の全てで5年以上群が有意に高い割合を示した.

表3 小児訪問看護経験年数別にみた皮膚ケアに関する知識,技術および実践の割合とその関連要因:単変量解析

n = 219)

皮膚ケア 知識有り n(%) 技術有り n(%) 実践している n(%)
5年未満群 5年以上群 p 5年未満群 5年以上群 p 5年未満群 5年以上群 p
121 (55.3%) 98 (44.7%) 121 (55.3%) 98 (44.7%) 121 (55.3%) 98 (44.7%)
医療機器による圧迫を低減すること 95 (78.5) 80 (81.6) .567 85 (70.2) 75 (76.5) .297 101 (83.5) 92 (93.9) .018
皮膚から刺激物,異物,感染源を取り除く洗浄すること 102 (84.3) 87 (88.8) .338 98 (81.0) 81 (82.7) .752 106 (87.6) 88 (89.8) .612
皮膚と刺激物,異物,感染源を遮断すること 96 (79.3) 82 (83.7) .414 91 (75.2) 73 (74.5) .903 101 (83.5) 82 (83.7) .968
皮膚への光熱刺激や物理的刺激を小さくする被覆をすること 78 (64.5) 73 (74.5) .111 74 (61.2) 67 (68.4) .268 87 (71.9) 76 (77.6) .341
皮膚の浸軟を防ぐため水分除去すること 95 (78.5) 78 (79.6) .845 90 (74.4) 75 (76.5) .714 104 (86.0) 81 (82.7) .503
皮膚角層の水分を保持する保湿をすること 105 (86.8) 89 (90.8) .350 102 (84.3) 84 (85.7) .771 106 (87.6) 90 (91.8) .310
栄養の適切な摂取について教育をすること 90 (74.4) 70 (71.4) .624 81 (66.9) 63 (64.3) .680 92 (76.0) 74 (75.5) .928
子ども,または家族に機器装着前,装着中に教育をすること 68 (56.2) 69 (70.4) .031 59 (48.8) 67 (68.4) .004 66 (54.5) 80 (81.6) <.001
機器装着中の痛みは表出するよう教育をすること 68 (56.2) 63 (64.3) .225 60 (49.6) 58 (59.2) .157 58 (47.9) 66 (67.3) .004

※皮膚ケアは,日本褥瘡学会の「MDRPUベストプラクティス」のケア要因に基づく9項目.

p値はχ2検定による.

3. 小児訪問看護経験年数が医療関連機器と皮膚ケアに関する知識,技術および実践に与える影響(多重ロジスティック回帰分析)

本研究で実施した全ての多重ロジスティック回帰分析において,投入した独立変数および調整変数間のVIFの最大値は,訪問看護経験年数で記録された2.61を示した.この値は,多重共線性を判断するためのVIFの一般的な基準値である10を大きく下回っていた.

その結果,医療関連機器における分析結果を表4に示す.本分析では,計10項目(知識4項目,技術3項目,実践3項目)において,調整オッズ比(AOR)が有意に高いことが示された.中でも,血管留置カテーテルの知識項目では,AORが3.57(95%CI: 1.21~10.54, p = .021)と医療関連機器の分析項目の中で最も高い値を示した.

表4 小児訪問看護経験年数が医療関連機器に関する知識,技術および実践に与える影響:多重ロジスティック回帰分析

n = 219)

医療関連機器 知識 技術 実践
AOR 95% 信頼区間 p AOR 95% 信頼区間 p AOR 95% 信頼区間 p
下限 上限 下限 上限 下限 上限
経ろう管法用チューブ(胃ろう・腸ろう等) 0.77 0.26 2.26 .632 1.68 0.65 4.37 .288 2.60 0.83 8.10 .101
経鼻経管法用チューブ(経鼻胃チューブ等) 1.12 0.31 4.02 .864 1.88 0.69 5.09 .216 2.90 0.90 9.30 .074
NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)フェイスマスク 1.53 0.64 3.65 .334 1.93 0.87 4.29 .108 3.13 1.34 7.32 .008
酸素マスク 1.72 0.54 5.43 .355 1.32 0.49 3.56 .584 1.32 0.57 3.04 .517
経鼻酸素カニューレ 1.96 0.60 6.42 .268 1.26 0.46 3.46 .659 2.45 0.90 6.65 .079
気管切開カニューレ 1.17 0.40 3.42 .778 1.01 0.41 2.49 .991 0.99 0.32 3.04 .985
酸素マスク,気管切開チューブの固定用ひも 1.08 0.36 3.28 .892 1.57 0.60 4.09 .361 2.34 0.65 8.48 .196
気管切開カニューレ固定具 2.62 1.04 6.55 .040 1.76 0.77 4.00 .180 2.62 1.03 6.64 .043
経皮酸素分圧モニター(SpO2) 1.82 0.48 6.91 .380 1.24 0.40 3.78 .709 2.52 0.76 8.32 .130
血管留置カテーテル 3.57 1.21 10.54 .021 1.93 0.81 4.60 .140 1.52 0.66 3.49 .321
尿道留置カテーテル 2.84 0.98 8.23 .055 1.56 0.63 3.85 .335 1.51 0.66 3.45 .328
上肢装具(指装具,把持装具,肩装具,等) 1.40 0.63 3.11 .405 2.97 1.23 7.12 .015 1.28 0.55 2.96 .567
下肢装具(成形靴,短下肢装具,長下肢装具,等) 2.72 1.23 6.01 .013 3.19 1.41 7.21 .005 2.28 1.04 4.97 .039
体幹装具(胸椎仙椎装具,頚椎装具,等) 2.61 1.18 5.80 .018 3.01 1.30 6.96 .010 1.92 0.86 4.26 .109
ギプス,シーネ(点滴固定用含む) 1.26 0.56 2.83 .576 1.49 0.69 3.23 .311 1.14 0.52 2.48 .745
医療用弾性ストッキング 0.90 0.40 2.00 .792 1.02 0.47 2.22 .953 0.70 0.33 1.52 .369
抑制帯(抑制目的としたてづくりのもの(ミトン等)含む) 1.43 0.62 3.30 .402 1.25 0.56 2.77 .585 1.07 0.48 2.38 .872
車椅子のアームレスト・フットレスト 0.99 0.44 2.24 .988 0.97 0.45 2.12 .948 0.80 0.37 1.72 .565
ベッド柵 1.00 0.39 2.58 .997 0.86 0.36 2.05 .725 1.33 0.57 3.11 .507

※独立変数は小児訪問看護経験年数(5年未満群 vs 5年以上群)とした.

※調整変数として,年齢,訪問看護経験年数,MDRPUケア経験の有無,MDRPU研修受講の有無をモデルに投入した.

※表中には,5年未満群を基準とした5年以上群の調整オッズ比(AOR),95%信頼区間,p値を示した.

また,皮膚ケアにおける分析結果を表5に示す.本分析では,計2項目(実践2項目)においてAORが有意に高いことが示された.中でも,子ども,または家族への教育の実践では,AORが5.15(95%CI: 1.93~13.70, p = .001)高い値を示し,経験年数が特に教育的実践に強く関連する可能性が示された.

表5 小児訪問看護経験年数が皮膚ケアに関する知識,技術および実践に与える影響:多重ロジスティック回帰分析

n = 219)

皮膚ケア 知識 技術 実践
AOR 95% 信頼区間 p AOR 95% 信頼区間 p AOR 95% 信頼区間 p
下限 上限 下限 上限 下限 上限
医療機器による圧迫を低減すること 0.64 0.23 1.75 .381 1.07 0.43 2.67 .881 1.93 0.50 7.44 .341
皮膚から刺激物,異物,感染源を取り除く洗浄すること 1.40 0.40 4.90 .603 1.05 0.36 3.04 .928 1.10 0.32 3.84 .881
皮膚と刺激物,異物,感染源を遮断すること 1.17 0.42 3.28 .759 0.91 0.37 2.24 .830 0.94 0.32 2.71 .903
皮膚への光熱刺激や物理的刺激を小さくする被覆をすること 1.71 0.71 4.12 .232 1.10 0.48 2.52 .830 1.28 0.52 3.18 .591
皮膚の浸軟を防ぐため水分除去すること 1.51 0.56 4.07 .413 1.33 0.53 3.33 .550 0.66 0.22 1.95 .451
皮膚角層の水分を保持する保湿をすること 1.26 0.33 4.80 .733 0.86 0.27 2.75 .800 1.59 0.40 6.26 .509
栄養の適切な摂取について教育をすること 0.50 0.20 1.26 .141 0.45 0.20 1.04 .063 0.71 0.29 1.75 .455
子ども,または家族に機器装着前,装着中に教育をすること 1.45 0.64 3.29 .370 2.03 0.91 4.53 .085 5.15 1.93 13.70 .001
機器装着中の痛みは表出するよう教育をすること 1.13 0.51 2.47 .769 1.52 0.71 3.29 .283 2.66 1.20 5.91 .017

※独立変数は小児訪問看護経験年数(5年未満群 vs 5年以上群)とした.

※調整変数として,年齢,訪問看護経験年数,MDRPUケア経験の有無,MDRPU研修受講の有無をモデルに投入した.

※表中には,5年未満群を基準とした5年以上群の調整オッズ比(AOR),95%信頼区間,p値を示した.

4. MDRPU予防ケアの困難感に関連した経験年数別の頻出語および共起ネットワーク分析

MDRPUケアに関する自由記載文から抽出された頻出語について分析を行った.5年未満群において最も出現回数が多かった語は,難しい46回,ケア38回,家族27回,方法26回,訪問25回が上位を占めた.また,5年以上群においては,ケア54回が最も出現回数が多く,難しい51回,訪問34回,家族33回,医療的ケア児24回,方法24回が上位を占めた.

小児訪問看護経験年数別とMDRPU予防ケアにおける困難感に関する語との共起関係を明らかにするために,共起ネットワーク分析を実施した.5年未満群に共起する特徴的キーワードは,不安,アセスメント,経験,トラブル,小児,ステーション,固定,正しい,変更,技術,使用であった.また,5年以上群に強く共起する特徴的キーワードは,処置,継続,在宅,指導であった.

5. 小児訪問看護経験年数によるMDRPU予防ケアにおける困難感の質的差異

5年未満群と5年以上群の困難感の分析結果を表6に示す.5年未満群では,アセスメントの困難感と不安とを直接的に関連づける表現が頻繁に見られた.一方,5年以上群では,困難感の焦点が,自己の知識不足から,他者との「関係性」や在宅の「構造的」な制約へと移行している特徴がみられた.

表6 小児訪問看護経験年数別の看護師が捉えるMDRPU予防ケアの困難感

経験年数 カテゴリー サブカテゴリー カテゴリー/サブカテゴリーの定義 具体的な記述
5年未満群 I.看護師個人の実践能力に起因する困難 1.知識・経験不足からくる不安 小児看護,特にMDRPU予防に関する知識や多様な症例の経験が不足していることから生じる,ケアの実践そのものへの不確かさや懸念 小児経験が少ないので不安
圧迫予防のための皮膚保護剤や用具等の新しい知識が不足しているのではと不安
私の知識・技術の不十分さから,予防的ケアの実践に不安がある
2.アセスメントと判断の不確実性 医療的ケア児特有の皮膚状態を的確に評価し,単独で臨床判断を下すことの難しさ.また,その判断が最善であるか確信が持てない状況 皮膚をアセスメントすることが難しい
一人でアセスメントをすることに対して難しい
少しの発赤発生時にフィルム貼付等して様子をみているがそれが正解なのか不安
II.ケア実践の技術的・環境的困難 3.機器の固定と皮膚トラブル 児の成長や体動,身体的特徴を考慮しながら,医療機器を安全に,かつ皮膚損傷なく固定する上での技術的な難しさ 医療的ケア児によって最善の固定方法を見つける事,方法の選択肢が少ない
体動が激しい場合の医療関連機器の固定は強固なものになることが多く,皮膚トラブル予防の工夫が難しい
固定ひもなどの締め具合が成長と共に圧迫過多となり皮膚トラブルを起こしやすくなっている
4.在宅環境における物品使用の制約 ケアに有効な物品であっても,家族の経済的負担や入手の手間を考慮すると,使用を推奨・継続することにためらいが生じる状況 予防のために固定方法や装着中の工夫などを考える際,在宅なので安価で手軽にできるものをと考えることが難しい
自費購入になるため,高い物はあまり使用できない
使用したくても買ってもらうのにためらうことも多い
III.他者との関係性における構造的困難 5.事業所間の連携とケアの不統一 複数の訪問看護ステーションが関わることで,ケアの方針や手順が一貫せず,標準化された予防ケアを継続することが困難になる状況 複数の訪問看護ステーションが関わっている場合,予防ケアの統一が難しい
毎日同じ訪問看護ステーションが訪問に入るわけではないのでケアの継続が難しい
病院と違い他訪問看護ステーションの看護師とケアの統一をする難しい
6.家族の独自性とケア変更の壁 家族が実践している独自のケア方法や価値観を尊重しつつ,新しいケア方法を助言し,変更を促していくことの難しさ ケア方法を独自で変更している家族に正しいケア方法の助言や変更を行うことが難しい
家族が良いと思って信じてしている事をすぐには変更できない
家族が新しい事に変更していく事に抵抗感がある
5年以上群 I.ケア提供における実践的困難 1.処置方法の選択と実践の壁 最適な処置を選択すること自体の難しさに加え,医師の指示や家族の同意といった他者の介在がなければ,決定した処置を実践・変更できないという障壁 創傷のカテゴリーに応じた最適な処置方法の検討が難しい
母親の受け入れがないと処置は変更できず母親の受け入れが難しい
必要とする処置(創傷被覆材や軟膏の選択・提案)についてかかりつけ医との連携が難しい
2.家族への指導と実践の乖離 専門的知識に基づき家族へケア方法を指導しても,家族のやりやすさや理解度,介護力によってその内容が省略・変容され,意図したケアが実践されない状況 ケアする家族へ指導していても,いつの間にか家族のやりやすい省略したケアになっていることがある
訪問時に主介護者に医療関連機器による圧迫を低減する具体的な方法を説明.指導しても実践しないことがある
訪問の短時間で指導しなければならないのが難しい
II.在宅ケアの構造的困難 3.在宅という環境特有の制約 病院とは異なり,使用できる物品や薬剤が限られ,常に医師の指示を受けられるわけではない在宅という環境下で,応用的な工夫が求められる状況 在宅の場合,使用できる物品,軟膏が限られている
病院でのケアの知識はあるが,在宅でどう活かすか難しい
在宅では個別で工夫しなければならない点も多く,基本から応用が必要になり難しい
4.ケアの統一と継続の困難 家族や複数の専門職など,多様な担い手が関わる中で,一度合意したケア方針や手順を一貫して維持し続けることの難しさ 家族によっては,注意すること,観察,ケアの継続についての実行,理解が難しい
関連職種間,家族でのケアの統一が継続されないことがある
在宅医,学校や療育センター,放課後デイ,訪問看護等関わっている人が多く予防ケアについての情報共有,ケアの統一が難しい

Ⅴ. 考察

1. 実践知の発達に伴う困難感の質的変容とその構造

本研究の結果,小児訪問看護師の困難感は,経験年数5年を境に質的に変容する可能性が示唆された.

1) 5年未満群:実践知の未成熟と『内的な不確実性』

緒言で提示した理論的予測である『内的な不確実性』に基づき,本項では結果で示された量的データの知識・技術レベルの有意な低さと質的データのアセスメントと不安の強い結びつきを統合して解釈すると,5年未満群の困難感の本質は,Benner理論における実践知の未成熟さに起因する『内的な不確実性』である可能性が示唆された.共起ネットワーク分析でアセスメントと不安が強く結びついていた事実は,知識・経験不足が判断への不確実性と心理的負担に直結する構造を象徴していると考えられる.こうした『内的な不確実性』は,単独で判断・実践し,即時の相談が困難な訪問看護の業務特性において,特に深刻な課題となる可能性がある.

このような『内的な不確実性』の構造は,量的結果と統合することでより鮮明になると考えられる.5年未満群が,約30%のMDRPUケア経験にもかかわらず,グループ全体の知識・技術レベルが5年以上群より有意に低いという事実は,個々のケア経験が,グループ全体の安定した実践知へと転換・共有されにくい経験の断絶が生じている可能性を示唆している.個々の経験が学びに転換されず(Schön, 1983/1990武藤・前田,2016),応用可能な実践知として定着しにくい背景には,構造的な教育機会の欠如が影響していると推察される.本研究で両群ともに約20%と低水準であった教育・研修受講経験の少なさが示すように,体系的な知識インプットの不足が,経験の実践知への統合を妨げ,判断への不安を増幅させていると推察される.このような悪循環は,単独で即時相談が難しい訪問看護の業務特性に加え,看護ケアの複雑性を直接的に増大させることが先行研究で報告されている医療的ケア児の医療的複雑性という外的要因によって一層深刻な課題となっている可能性が考えられる(Cesare et al., 2025).

2) 5年以上群:実践知の深化と『関係性・構造的課題』への移行

5年以上群では,困難感の焦点が自己の内面から,他者(家族,多職種)や環境(在宅の制約)との相互作用から生じる,より複雑な『関係性・構造的課題』へと質的に移行していることが示された.この変容の背景には,緒言で理論的に予測した通り,量的結果が示す以下の3つの異なる専門性の獲得パターンが存在すると考えられる.

3) パターン1:経験年数と関連が限定的な基礎的ケア

酸素マスクや気管切開カニューレといった生命維持に不可欠なケアは,成人領域での経験や基礎教育を含むキャリアの初期段階で習得されるか,あるいは小児訪問看護の5年未満の段階までに既に習熟されるべき基礎的ケアであり,経験年数による差が出にくい領域である可能性を示唆している.

4) パターン2:経験年数と共に習熟する高度・専門的ケア

パターン1とは対照的に,本研究の量的分析で最も高いAORを示した血管留置カテーテルの知識をはじめ,NPPVフェイスマスクの実践,経ろう管法用チューブの実践,機器装着中の痛みに関する教育の実践,そして気管切開カニューレ固定具の知識と実践は,小児訪問看護経験によって獲得する専門性の高いMDRPU予防ケアである可能性が示唆された.これらのケアの共通点は,基礎的ケアとは異なり,より高度な専門知識や,医師,理学療法士などとの密な連携・調整を必要とする点にあると考えられる(Brenner et al., 2018).5年以上の経験は,こうした専門性の高い領域においてこそ,看護師の実践能力に明確な差をもたらすことが示唆された.

気管切開カニューレ固定具を例に取ると,固定具を装着・交換するという基本的な技術は経験年数に関わらず比較的早期に習得される可能性があるが,質的データは,技術の習得だけでは特に5年未満の看護師の困難感を解決できないことを示唆している.5年未満群は,「最善の固定方法を見つける事」の難しさや,「方法の選択肢が少ない」という知識不足に起因する『内的な不確実性』を抱えていた.また,「体動が激しい場合」や「成長と共に圧迫過多になる」といった,小児特有の状況への対応や皮膚トラブル予防にも困難感を抱いており,これは医療的ケア児の状態を的確に評価・応用する知識の未熟さを示唆している.

一方で,5年以上群の実践能力の高さは,単なる手技の正確さを超えた,在宅ケア文脈における応用力を反映していると考えられる.質的データにおいて5年以上群は,「在宅では個別で工夫しなければならない」という応用的な対応の必要性を認識していた.この気管切開カニューレ固定というケアは,在宅においては,医療的ケア児の成長,活動レベル,皮膚の状態,使用物品の制約,そして家族のケア能力といった多様な要因を考慮し,個別的な調整を行う実践知そのものと考えられる.

こうした個別的な工夫や応用力は,特定の医療関連機器の熟練にとどまらず,5年以上群の実践知に共通する特徴と考えられる.例えば,質的データで示された「緊張・不随運動,拘縮等でベッド柵,車椅子での予防が難しい」や「リフトの操作と車椅子に座った時の体勢には,とても気を使い子どもに声掛けを行いながら行っている」といった記述は,熟練した看護師が,医療関連機器の画一的なケアではなく,医療的ケア児の個別的な身体状況に合わせてケアを調整・工夫している姿を示す,応用的な実践知の表れと考えられる(Danzig & Katz, 2021).

ただし,こうした高度・専門的ケアが経験年数と共に習熟しても,必ずしも実践に結びつくとは限らない.本研究の装具ケアに関する知見では,量的には経験との関連が示されたが,質的には困難として認識されていなかった点が示唆するように,看護師が理学療法士の専門領域といった専門職間の役割認識から実践をためらったり,個々の医療的ケア児の身体的特徴に合わせる個別性の高さゆえにケアの標準化が困難であったりする場合,習得した実践知が実践へと結びつきにくい知行の乖離が生じる可能性も,このパターンに潜む課題として考えられる.

5) パターン3:高次の関係構築力の獲得と,それに伴う関係性の壁

子ども,または家族への教育の実践のAORが突出して高かった点は,5年以上の経験が,単なる技術の習熟を超え,ケアの対象を医療的ケア児単体から家族を含む生活全体へと広げて捉え,家族をケアの主体的なパートナーとして協働するという(朝見ら,2023),より包括的な実践へと移行していることを示唆する知見と考えられる.

そして,こうした教育・指導という高度な実践への移行が,質的結果で示された5年以上群の困難感の質的変容と直結していると考えられる.すなわち,5年未満群の『内的な不確実性』を克服した看護師は,家族への指導を実践するからこそ,「指導していても,いつの間にか家族のやりやすい省略したケアになっている」という指導と実践の乖離や,「母親の受け入れがないと処置は変更できない」といった同意形成の壁という,新たな『関係性・構造的課題』に直面するものと推察される.「病院とは違い家族にケアを継続してもらう必要があり,訪問の短時間で指導しなければならないのが難しい」と記述されていたように,こうした乖離や困難は,家族との関係性という側面に加え,在宅ケア特有の時間的制約によっても増幅されていると推察される.

このジレンマは,生活に即したケアを共に考える困難感を示唆する(仁科ら,2019).また,この課題は,家族とのパートナーシップ形成の困難感とも共通する点が示唆される(Denboba et al., 2006水落・益守,2016).さらに,看護師と家族の関係は時間と共に変化し,ケア調整は複雑化するとの報告もある(Nageswaran & Golden, 2018).こうした熟練者特有の『関係性・構造的課題』は,最適なケアを実践できないという倫理的苦悩に直結しうる(Schulz et al., 2023丸山ら,2023).この高次の倫理的ジレンマに対処するには,複雑な状況下での調整能力や倫理的判断力を涵養する事例検討などの支援が求められる(Brashers et al., 2020).

2. 本研究の限界と今後の展望

本研究は,混合研究法を用いて小児訪問看護師経験年数に応じてMDRPU予防ケアの困難感の質的変容を明らかにしようと試みたが,結果の解釈と活用にあたっては,いくつかの限界を考慮する必要がある.第一に,本研究はA県の訪問看護ステーションのみを対象とした横断研究であり,その結果を全国の状況に一般化するには慎重さが求められる.また,横断研究のデザイン上,経験年数と困難感の質との間に関連性を示唆することはできたが,その因果関係を特定することはできない.第二に,結果の解釈におけるバイアスの可能性である.質問紙の回収率が44.8%であったことから,未回答者の特性が結果に影響を与えた可能性,すなわち回答者バイアスは否定できない.

さらに,本研究では量的データで経験年数との有意な関連が示されたが,質的データでは困難感として言及がみられなかった装具関連機器のような,本稿の3パターンでは分類できない知行の乖離も示唆された.この特異な構造の解明は,今後の重要な研究課題である.

今後の展望として,本研究で提言した経験年数に応じた段階的教育プログラムを開発し,その有効性を実証する介入研究の実施が望まれる.これらの研究は,医療的ケア児を支える看護師の専門性開発に貢献する重要な課題であると考えられる.

Ⅵ. 結語

本研究の学術的貢献は,量的・質的データの統合により,看護師の困難感が実践知の発達に伴い質的に変容するプロセスを可視化した点にある.

すなわち,5年未満群は『内的な不確実性』と葛藤し,5年以上群は『関係性・構造的課題』に直面している可能性が示唆された.この変容の背景構造を,本研究の混合研究法による統合は,パターン1の基礎的ケア,パターン2の高度・専門的ケア,そしてパターン3の高次の関係構築力という,3つの異なる実践知の発達プロセスの存在として可視化した.

この困難感の質の変容と,それを支える獲得パターンの解明は,経験年数に応じた実践知の育成を核とする,体系的な人材育成の必要性を示唆する.本研究がMDRPU予防というミクロな実践の分析から導いたこの提言は,地域連携というマクロな実践の領域において,訪問看護師の多様なキャリア背景に応じた教育体制の構築が課題であると指摘した先行研究とも軌を一にする(大木・浅海,2022).これは,経験年数に応じた体系的教育の必要性が,小児訪問看護という領域に留まらず,訪問看護全体に共通する普遍的な課題であることを示唆している.本研究の知見は,看護師個人の実践知を組織の集合知へと高め(Senge, 1990/2011),今後の小児訪問看護における持続可能な人材育成に貢献するものであると期待される.

付記:本論文の内容の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会およびCONFERENCE SUTH The 3rd National and International Academic Conference of 2024(Thailand)において発表した.

謝辞:本研究の質問紙調査にご協力いただきました訪問看護ステーションの管理者様,ならびに看護師の皆様に深謝申し上げます.ご多忙のなか貴重なお時間を割いて真摯にご回答いただいたことで,本研究の分析に不可欠なデータを得ることができました.

また,本研究の遂行にあたり,終始ご指導ご鞭撻を賜りました先生方に厚く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:本研究における各著者の貢献は以下の通りである.ENは,研究の構想,デザイン,データ分析,および原稿の執筆を行った.NTは,研究デザインとデータ分析に実質的に貢献し,原稿の重要な知的内容について批判的な修正を行った.ATは,データ解釈に貢献し,原稿の批判的修正に重要な役割を果たした.著者全員が,投稿する最終原稿を確認・承認しており,本研究のすべての側面における正確性と公正性に責任を負うことに同意している.

文献
 
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