2026 年 46 巻 p. 168-180
目的:「発達障害をもつ子どもの親の子育て」の概念を明らかにする.
方法:Rodgersの概念分析の手法を用いた.発達障害児及び発達障害,親,子育てをキーワードに文献を検索し,国内文献30件,海外文献13件,計43件を分析対象文献とした.
結果:属性は【手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす】【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】【子どもが生きていくための居場所をつくる】,先行要件は【コントロール困難な情緒的特性への戸惑い】等,帰結は【親としての自負】等が抽出された.
結論:発達障害をもつ子どもの親の子育てとは,「手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らしながらも,子どもの特性と親としての期待に折り合いをつけ,子どもの行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促すことや子どもが生きていくための居場所をつくること」であった.
Purpose: This study aims to clarify the concept of “child-rearing by parents of children with developmental disabilities.”
Methods: Rodgers’ method of concept analysis was employed. A literature search was conducted using the keywords children with developmental disabilities, developmental disabilities, parents, and child-rearing. A total of 43 publications were analyzed, consisting of 30 domestic (Japanese) and 13 international studies.
Results: The identified attributes were: “navigating the child’s individual characteristics through trial and error while becoming physically and mentally exhausted,” “promoting independence in daily living habits in accordance with the child’s behavioral patterns,” “reconciling the child’s characteristics with parental expectations,” and “creating a place where the child can live and belong”. Antecedents included “confusion over emotionally dysregulated characteristics that are difficult to control,” among others. Consequences included “a sense of pride as a parent,” among others.
Conclusion: Child-rearing by parents of children with developmental disabilities was defined as “a process in which parents, while navigating the child’s individual characteristics through trial and error while becoming physically and mentally exhausted, reconcile those characteristics with their own expectations as parents, promote the child’s independence in daily living habits in accordance with the child’s behavioral patterns, and create a place where the child can live and belong.”
日本では,2005年に発達障害をもつ人への支援を目的とした発達障害者支援法が施行され,その中で発達障害は「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義された.2016年の改正により,発達障害をもつ子どもの家族を含めた,医療,保健,福祉,教育,労働などの関係機関が連携した切れ目のない支援体制の整備が進められている.病態像としては,発達障害の中でも,代表的なASDは社会的コミュニケーションの困難や限定された興味・反復行動を特徴とし,ADHDは注意の持続困難や多動・衝動性を特徴とする(American Psychiatric Association, 2013/2014).いずれも発達障害には根治的な治療はなく,環境調整や行動療法,薬物療法による症状緩和などの支援が中心である.また,これらの特性は,長期的な経過をたどり,対人関係や集団生活での生きづらさをもたらし,自己肯定感の低下や二次障害のリスクを高める特徴がある.
発達障害をもつ子どもは,その特性ゆえに人間関係がうまく築けなかったり,必要以上に叱られたり,いじめを受けるなど様々な生きづらさを抱えやすく,自己肯定感が低下しやすい.加えて,子どもを取り巻く親などの環境との要因が重なることで,愛着障害や反社会的行動,不登校・引きこもりなどといった二次障害を引き起こす場合がある(宮尾,2020).また,その子育てにおいても,診断を受ける前の乳幼児期から,落ち着きのなさやこだわり,癇癪や偏食等といった子どものもつ特性により困難を抱くことが多く,早期からの継続的な子育て支援が重視されている(今井ら,2018;伊藤・小林,2018).このように,発達障害をもつ子どもの育ちを支えるために親や家族,保育,教育関係者等,その子どもを取り巻く環境の整備が,現在においてもなお喫緊の課題となっている.
子育てとは,生物としての保護や身体の成長を促す生理的側面と,社会や文化に関わる教育的側面を併せ持つ営みである(池田,2003).夫婦は第1子の誕生を機に親となり,夫婦間で役割を分担しながら,子どもの健全な発達を助ける養育やしつけを行い,家族全体の生活行動の拡大という課題を達成していくとされる(鈴木,2014).こうした過程において,母親は母子相互作用を介した関わりから,満足感や喜びを得ることで,母親としての自己の確立が促進され(竹村・久保田,2023),親としても成長しながら子育てに適応していく.一方で,発達障害を持つ子どもの親は,子どもがもつ感覚過敏や行動の特性により育てづらさを感じている(梶,2016)など困難性の高い子育てを経験している.その経験には,昼夜繰り返す対応や育児不安による抑うつといった精神面への影響(五百蔵・山口,2014)や,睡眠の質の低下や体調不良(Lee et al., 2023)といった身体面への影響,さらには,子どもの障害が親のしつけのせいとされたりと周囲の目を気にしながら生活をしている(岩崎・海蔵寺,2009;坂田ら,2014)ことが報告されている.このように,発達障害をもつ子どもの子育てには,育児という行為というだけではなく,親の感情体験や価値観,身体や精神面への影響,社会的役割といった特有の要素が互いに影響し合っていることが考えられる.
発達障害をもつ子どもの子育てに関する先行研究では,親の感情体験や子育てに影響を及ぼす要因,子育て支援などについて,心理学,教育学,看護学,社会学といった異なる領域でそれぞれに検討されてきた.しかしながら,発達障害をもつ子どもの子育てがどのようなものであるか,その概念や定義を明確に示した研究はほとんど見られない.様々な支援機関が関与する発達障害をもつ子どもの親への子育て支援を検討するためには,その子育ての概念を明確にすることが必要である.
以上のことから,本研究では,「発達障害をもつ子どもの親の子育て」における概念を明らかにすることを目的とし,子育て支援を検討するための基礎資料とする.
本研究における用語の操作的定義として,「発達障害」を発達障害支援法の定義に基づき,「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder以下,ASDとする),注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder以下,ADHDとする)など,これに類する脳機能の障害であって,通常低年齢において発現するもの」と定義する.なお,法令上は『アスペルガー症候群』等の旧診断名も含まれているが,現在の診断基準(DSM-5)ではASDに統合されている.
2. 分析方法分析方法は,Rodgers & Knafl(1993/2023)の概念分析の手法を用いた.Rodgersの手法は,概念は時代や文脈によって変化し発展するという進化的視点を哲学的基盤とする.そして,概念が使用される文脈や概念の変化に注意を払い,概念を社会的・経時的に説明し,理解することを目的としている(濱田,2017).親の子育てには,親子の相互作用だけではなく,社会的な相互作用,時代や文化的な影響を受けると考えられるため,「子育て」の概念を明らかにするために,Rodgersの手法を選択した.
Rodgersの概念分析の手法では,30件程度の文献が必要とされているが,文献の種類については限定されていない.そのため,本研究では対象文献の抽出にあたり,より幅広い分野を網羅するために,国内文献にはGoogle Scholar,医中誌Web,CiNii Researchを,海外文献にはPubMedを使用した.また,抽出する文献は,学術誌および大学紀要に掲載された文献のみを対象とし,研究目的との適合性を複数の研究者で精査し,信頼性と妥当性を確保した.
キーワードの選定では,医中誌Webなどの統制語である「発達障害」「親」「子育て」を用いることを検討した.しかし,Google ScholarおよびCiNii Researchでは「発達障害をもつ親」を対象とする文献が多数抽出されたため「発達障害児」をキーワードとした.
海外文献の検索においては,PubMedのMeSH(Medical Subject Headings)における「発達障害」の定義が広範であることから,乳幼児期に行動やコミュニケーションに特性が表出し(横山,2022),子育てへの影響が大きいと考えられる“ASD”および“ADHD”に限定しキーワードとした.
文献を選択する際の「親」については,先行研究において,その多くは「母親」と「父親」の両方が混在しており,その経験を明確に分けて抽出することが困難であった.そのため,「母親」「父親」と限局することなく両方を含む「親」を対象とした.
また,本研究では,「成長」を新教育社会学辞典(1986)における広義の意味を用いて,身体的な変化の他に,座る,立つなどの神経系の発育も含む「発達」と同義として表現する.
3. データの収集方法国内文献は,Google Scholarでは,「発達障害児」「子育て」「親」をキーワードに検索し,閲覧可能な1,000件のうち,本文にアクセス可能でテーマが適合する483件を抽出した.さらに,以下の除外基準①発達障害児の子育てに関する記載がない,②抄録のみ,③書籍,④発行元不明に基づき精読を行い,20件を選定した.
CiNii Researchも同様のキーワードで検索し56件を抽出し,抄録とテーマを確認し重複を除いた9件のうち,精読により2件を選定した.
医中誌Webでは,同様のキーワードで検索し63件を抽出し,抄録とテーマを確認し重複を除いた11件のうち,精読により3件を選定した.加えて,「発達障害」「子育て」「親」による検索から5件を抽出した.
海外文献は,PubMedにて,MeSHである“Autism Spectrum Disorder”or“Attention Deficit Disorder with Hyperactivity”,“child”,“Parenting”をキーワードとし検索した.研究方法は質的研究およびレビューに限定し,83件を抽出し,抄録と本文を精読し13件を選定した.
以上の検索プロセスにより,国内文献30件,海外文献13件,計43件を分析対象文献(表1)とした.
| NO | 分析対象文献 |
|---|---|
| 1 | 松永しのぶ,廣間貴子(2010):自閉症スペクトラム障害児の母親の診断告知に伴う感情体験,昭和女大生活心理研紀,12, 13–24. |
| 2 | 道原里奈,岩元澄子(2012):発達障害児をもつ母親の抑うつに関連する要因の研究 子どもと母親の属性とソーシャルサポートに着目して,久留米大心理研,11, 74–84. |
| 3 | 大西慶子,永田博,武井祐子(2013):高機能広汎性発達障害児をもつ母親の子どもの捉え方とその変容過程:療育プログラムに参加した母親を対象とした質的研究―,川崎医療福祉会誌,23(1), 159–168. |
| 4 | 橋本浩美,一門惠子(2017):自閉症スペクトラム障害の子どもをもつ母親の育児におけるポジティブ感情:「嬉しい実のなる木」の制作を通して,応障害心理研,15, 16, 11–25. |
| 5 | 眞野祥子,堀内史枝,宇野宏幸(2009):注意欠陥/多動性障害児の行動特徴と母親から子どもへの情動表出について,小児保健研,28, 28–38. |
| 6 | 吉野妙子(2014):発達障害児をもつ母親の育児上の体験―障害名を告げられてから就学前の時期―,小児保健研,73(2), 293–299. |
| 7 | 坂田祥,成瀬昂,田口敦子,他(2014):幼児の行動特性別にみた母親の育児困難感とその関連要因,日公衛誌,61(1), 3–15. |
| 8 | 松井藍子,大河内彩子,田髙悦子,他(2016):発達障害児をもつ親の会に属する母親が子育てにおける前向きな感情を獲得する過程,日地域看護会誌,19(2), 75–81. |
| 9 | 伊藤由香,小林恵子(2018):子どもの発達障害の特性を指摘された母親の子育てにおける体験―発達障害の特性を指摘されてから専門機関の継続的な支援を受けるまで―,日地域看護会誌,21(2), 22–30. |
| 10 | 植松勝子(2018):発達障がい児の早期支援に関する研究―障がいの「気づき」から専門相談までの保護者の対応について―,中部学院大学・中部学院大学短期大学部研究紀要,19, 1–12. |
| 11 | 藤田藍津子,玄番千恵巳,今留忍,他(2020):発達障害児を育てる母親の心的体験と経験,東京家政大研紀,60(2), 21–18. |
| 12 | 中澤杏梨,柏瀬淳,金泉志保美(2022):幼児期の自閉スペクトラム症児をもつ保護者の子育てにおける思い―就園・就学に向けた思いを中心に―,北関東医,72(2), 177–184. |
| 13 | 三並めぐる,福島夏実,梅田弘子,他(2017):発達障害のある子どもの母親の思いと支援 書籍「軽度発達障害児を育てる」の内容分析による質的研究,広島国際大看ジャーナル,14(1), 91–105. |
| 14 | 吉野妙子(2014):発達障害児を持つ母親の育児の体験―受診までの時期―,日看会論集:小児看,44, 78–81. |
| 15 | 山本真実,門間晶子,加藤基子(2010):自閉症を主とする広汎性発達障害の子どもをもつ母親の子育てのプロセス,日看研会誌,33(4), 21–30. |
| 16 | 金城志麻(2013):自閉症児を育てる母親の「子ども理解」と育児効力感の関連,琉球大学教育学部附属発達支援教育実践センタ一紀要,4, 15–21. |
| 17 | 田中里実,橋本創一,松尾彩子,他(2013):発達や行動が気になる幼児の相談支援に関する研究―保護者の主訴・困り感からみた分析―,東京学芸大学紀要 総合教育科学系II,64, 253–263. |
| 18 | 武田恵(2015):発達障害児の母親が我が子の障害傾向に起因して体験する感情とその過程―母親へのインタビューに基づく質的分析―,ルーテル学院研紀,48, 67–80. |
| 19 | 沼田あや子(2018):発達障害児を育てる母親の迷いの語りの探求―他者は母親のなにに寄り添うことができるのか―,心理科学,39(2), 44–57. |
| 20 | 西村智恵子,高野久美子(2020):乳幼児期自閉症スペクトラム児の母親における困難への対処に伴う体験のプロセス,創価大学教育学論集,72, 163–177. |
| 21 | 栗本佳代,武田鉄郎(2021):自閉症スペクトラム障害のある子どもの親の養育サポートに関する質的研究,和歌山大学教職大学院紀要 学校教育実践研究,6, 53–62. |
| 22 | 沼田あや子(2016):発達障害児の母親の語りのなかに見る家族をつなぐ実践「葛藤の物語」から「しなやかな実践の物語」へ,質的心理研,15(1), 142–158. |
| 23 | 山下亜紀子,河野次郎(2013):発達障害児の母親が抱える生活困難についての研究,日社精医会誌,22(3), 241–254. |
| 24 | 山本冴織,吉岡恒生(2022):知的に遅れのない発達障害児とそのきょうだい児を育てる母親のきょうだい児に対する育児観と関わりに関する一考察,障害者教育・福祉学研究,18, 15–22. |
| 25 | 山下亜紀子(2013):発達障害児の母親の育児における問題対処方法,日本社会分析学会,40, 61–80. |
| 26 | 中野杏,平野美千代,佐伯和子(2024):自閉スペクトラム症傾向を持つ児の育児を通した母親の経験 療育開始前に焦点を当てて,看ケアサイエンス会誌,22(1), 53–66. |
| 27 | Adachi, F. Miura, M. Oiji, A. (2022): Mothers’ parenting process for children with autism spectrum disorder, the modified grounded theory approach, Kitasato Med. J., 52(1), 28–36. |
| 28 | 今井しのぶ,古田加代子,佐久間清美(2018):子どもの障害に気づき広汎性発達障害と診断を受けるまでの母親の生活上の困難,日公衛看会誌,7(1), 3–12. |
| 29 | 今西良輔(2013):発達障害児を育てる父親の生活体験 3人の父親と息子達の歩み,北海道医療大看福祉会誌,9(1), 27–34. |
| 30 | 山崎せつ子,鎌倉矩子(2000):自閉症児Aの母親が障害児の母親であることに肯定的な意味を見出すまでの心の軌跡,作業療法,19(5), 434–444. |
| 31 | Brennan, J., Ward, O. F., Tomeny, T. S., et al. (2024): A systematic review of parental self-efficacy in parents of autistic children, J. Pediatr. Nurs., 27(3), 878–905. |
| 32 | Suvarna, V., Farrell, L., Adams, D., et al. (2024): Parenting practices and externalizing behaviors in autistic children: A systematic literature review, Clin. Child Fam. Psychol. Rev., 27(1), 235–256. |
| 33 | Crowell, J. A., Keluskar, J., Gorecki, A. (2019): Parenting behavior and the development of children with autism spectrum disorder, Compr. Psychiatry, 90, 21–29. |
| 34 | Steinberg, E. A., Drabick, D. A. G. (2015): A developmental psychopathology perspective on ADHD and comorbid conditions: The role of emotion regulation, Child Psychiatry Hum. Dev., 46(6), 951–966. |
| 35 | Deault, L. C. (2010): A systematic review of parenting in relation to the development of comorbidities and functional impairments in children with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD), Child Psychiatry Hum. Dev., 41(2), 168–192. |
| 36 | Modesto-Lowe, V., Danforth, J. S., Brooks, D. (2008): ADHD, does parenting style matter?, Clin. Pediatr. (Phila), 47(9), 865–872. |
| 37 | Kaş Alay, G., Kaçan, H., Kurtoğlu, S. (2025): Experiences, difficulties, and coping mechanisms of parents with children with autism: A phenomenology study in Türkiye, J. Child Adolesc. Psychiatr. Nurs., 38(3), e70035. |
| 38 | Yevtushok, T., Petronzi, D. (2025): “Like something supernatural in your house”: An interpretative phenomenological analysis to explore the experiences and psychological challenges of parents raising children with autism spectrum disorder, BMC Psychol., 13(1), 642. |
| 39 | Asmare, R. F., Taye, F. N., Kotecho, M. G., et al. (2023): Towards a “new mothering” practice? The life experiences of mothers raising a child with autism in urban Ethiopia, Int. J. Environ. Res. Public Health, 20(7), 5333. |
| 40 | Malhi, P., Shetty, A. R., Bharti, B., et al. (2022): Parenting a child with autism spectrum disorder: A qualitative study, Indian J. Public Health, 66(2), 121–127. |
| 41 | Waizbard-Bartov, E., Yehonatan-Schori, M., Golan, O. (2019): Personal growth experiences of parents to children with autism spectrum disorder, J. Autism. Dev. Disord., 49(4), 1330–1341. |
| 42 | Bessette Gorlin, J., McAlpine, C. P., Garwick, A., et al. (2016): Severe childhood autism: The family lived experience, J. Pediatr. Nurs., 31(6), 580–597. |
| 43 | Cheuk, S., Lashewicz, B. (2016): How are they doing? Listening as fathers of children with autism spectrum disorder compare themselves to fathers of children who are typically developing, Autism, 20(3), 343–352. |
続いて,対象文献を精読し,データを抽出した.抽出するデータは,著者が「発達障害をもつ親の子どもの子育て」として記載している「子育てにおける行為」,「子育ての行為に伴う判断」,「子育ての行為の動機や結果となる感情体験」とした.文献を精読する過程で,「発達障害をもつ子どもの親の子育て」は,単に子育ての行為の連なりではなく,親の感情体験と密接に結び付いている営みであることが考えられた.そのため,データの抽出では,子育ての行為に加え,行為に関わる「判断」や「感情体験」を抽出した.そして,抽出したデータを属性,先行要件,帰結のそれぞれのシートにまとめた.
4. データの分析データの分析では,分析対象文献から抽出したすべてのデータをコード化し,属性,先行要件,帰結のそれぞれのシートごとに,コードの類似性や相違性について比較し,抽象度を上げサブカテゴリ,カテゴリを生成した.また,関連概念は文献を精読する中で頻出した用語を記録し,意味内容を精査し同定した.
対象文献の選定からデータの抽出・分析に至る全過程において,質的研究に熟練した研究者と繰り返し議論を重ね,スーパーバイズを受けながら進めることで,本研究の妥当性を確保した.
5. 倫理的配慮対象とする文献については,著者や出典を明示し,また,データを抽出・分析する際には,論旨を損なわないように配慮した.
「発達障害をもつ子どもの親の子育て」について分析した結果,属性は,4カテゴリ,16サブカテゴリ,80コード(表2-1),先行要件は7カテゴリ,20サブカテゴリ,37コード(表2-2),帰結は,4カテゴリ,6サブカテゴリ,24コード(表2-3)が抽出された.また,関連概念として1つの用語が同定された.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉で示す.
| カテゴリ(4) | サブカテゴリ(16) | 文献番号 |
|---|---|---|
| 手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす | 先が見えない大きな不安感を持ち続ける | 12, 24, 26, 29, 30, 37, 38, 42 |
| 子どもと気持ちが通じる実感が持てず孤立感を募らせる | 11, 15, 21, 26, 37, 42 | |
| 家族や周囲から理解されず孤立が深まる | 27, 37, 42 | |
| 子どもの特性への対応に心身をすり減らす | 9, 11, 12, 15, 19, 37, 42, 43 | |
| 目には見えない障害ゆえに諦められない思いを持ち続ける | 6, 9, 24 | |
| 医療制度を利用するために精神的・身体的に消耗する | 40 | |
| 子ども中心の生活により仕事との両立に苦しむ | 11, 29 | |
| 行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す | 子どもの言動の意味を理解し基本的な生活習慣の獲得を促す | 6, 13, 17, 20, 39 |
| 子どもを知るために支援者とつながる | 2, 8, 21, 25, 27, 30 | |
| 言動の意味を考え否定しない関わりを試みる | 6, 14, 22, 23, 24 | |
| 生活の中で子どもの変化を見つめ続ける | 13, 22 | |
| 子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける | 子どもと関わる経験から気になる特性を認識する | 8, 15, 20, 26 |
| 対応がうまくいかない苦しさに耐える | 6, 29 | |
| 子どもへの期待に妥協点を見つける | 15, 20, 21, 25, 30, 29 | |
| 子どもが生きていくための居場所をつくる | 社会のルールの中で生活できるよう関わり続ける | 6, 10, 22, 29 |
| 子どもの居場所をつくるために周囲の理解を得る | 5, 6, 13, 25 |
| カテゴリ(7) | サブカテゴリー(20) | 文献番号 |
|---|---|---|
| コントロール困難な情緒的特性への戸惑い | 癇癪や泣き,落ち着きのない行動への対応の困難 | 12, 28, 35 |
| 感情調節の制御の困難 | 34, 35, 36 | |
| 自己効力感の低さ | 35 | |
| 子どもとの相互的なコミュニケーションの困難 | 子どもとの相互的なコミュニケーションの困難 | 16, 20, 28, 32 |
| 基本的生活習慣のしつけの困難 | 睡眠の問題 | 12 |
| 運動発達の遅れ | 28 | |
| 食事に関する問題 | 20, 29 | |
| 排泄の自立の遅れ | 20 | |
| 診断告知を契機とした疾患や障害への気付き | 診断告知の衝撃 | 1, 37, 40 |
| 疾患や障害に関する知識の不足による絶望 | 5, 39 | |
| 特性をもつ子どもを育てるための生活力 | 親の年齢 | 7 |
| 親の健康状態 | 7 | |
| 親の精神的な健康状態 | 36 | |
| 生活環境 | 7 | |
| 相談する力 | 21, 40 | |
| 自己効力感 | 7, 31 | |
| 親の育児観 | 子育てに挑む親の育児観 | 3 |
| 受容的な子育てスタイル | 21, 32, 34 | |
| パートナーとの協力関係 | 支えとなる共育者の存在 | 18 |
| パートナーとの良好な関係性とサポート | 2, 5 |
| カテゴリ(4) | サブカテゴリ(6) | 文献番号 |
|---|---|---|
| 子どもの成長への喜び | 子どもの成長への喜び | 4, 9 |
| 子どもに育てられた実感 | 子どもとの新たな関係性 | 15, 38, 39, 41 |
| 親自身の変化の自覚 | 29, 39, 40, 41, 43 | |
| 親としての自負 | 親としての自負 | 9, 15, 21, 30, 43 |
| 支援や交流の場への要望 | 支援への要望 | 9, 42 |
| 仲間との交流の場への切望 | 21, 29 |
属性は,【手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす】【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】【子どもが生きていくための居場所をつくる】の4つのカテゴリが抽出された.
1) 【手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす】発達障害をもつ子どもは,こだわりや癇癪等のその子どもごとに特有の特性をもっている.そのような中で,【手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす】は,〈悲しみや不安といった感情的な崩壊を経験する〉や〈子どもの将来への不安を持つ〉等の《先が見えない大きな不安感を持ち続ける》ことであった.また,〈理解しにくい子どもとの関わりの中で孤立が深まる〉等の《子どもと気持ちが通じる実感が持てず孤立感を募らせる》経験であった.さらに,〈子どもの発達への不安や葛藤を家族にも共有できない思いがある〉等といった《家族や周囲から理解されず孤立が深まる》状況も含まれていた.
日々子どもと関わる中で,〈どのように応じればよいのか困り果てながらも手探りで子どもを育てる〉や〈睡眠不足,絶え間ないストレス,資金調達などの困難を経験する〉等の《子どもの特性への対応に心身をすり減らす》ことが続いていた.また,〈診断を受け入れるために悲観的な感情や諦められない思いに揺れる〉等の《目には見えない障害ゆえに諦められない思いを持ち続ける》ことだった.さらに,その子育ての過程には,《医療制度を利用するために精神的・身体的に消耗する》や《子ども中心の生活により仕事との両立に苦しむ》といった親の社会生活への影響も含まれていた.
2) 【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】生活習慣の獲得は子育ての中核をなすものであり,【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】は,〈子どもの特性を理解し,偏食や排泄自立の遅れ,多動・衝動性などの特性に合わせた対応する〉等といった《子どもの言動の意味を理解し基本的な生活習慣の獲得を促す》ことであった.また,〈手当たり次第に子どもの特性を知るための情報を集める〉や〈育児における問題を解決するために支援者を得る〉等といった《子どもを知るために支援者とつながる》ことであった.それは,〈障害の症状や生活環境が子どもの行動に影響することを理解し子どもを否定しない対応をする〉等といった《言動の意味を考え否定しない関わりを試みる》ことでもあった.さらに,〈子どもの成長と障害特性やその変化を見つめ続ける〉や〈不安と心配の波に襲われながらも毎日自立を見守る〉等といった《生活の中で子どもの変化を見つめ続ける》ことに続いていた.
3) 【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】は,日常生活の中で,〈感覚の過敏さや集団行動の難しさから子どもが特性をもつことに気づく〉や〈知識だけではなく自らの経験により特性を理解する〉等といった《子どもと関わる経験から気になる特性を認識する》ことや,〈子どもへの対応がうまくいかない苦しさに自分の感情をコントロールする〉等といった《対応がうまくいかない苦しさに耐える》ことであった.さらに,〈これまでの考え方から違う考え方を探しなおす〉や〈子どもに対する期待値を下げたり妥協点を見つける〉等といった,自らの認識を変化させて《子どもへの期待に妥協点を見つける》ことであった.
4) 【子どもが生きていくための居場所をつくる】【子どもが生きていくための居場所をつくる】は,〈我が子が社会のルールの中で行動できるよう関わり続ける〉や〈社会に適応すべく能力を育む〉等といった《社会のルールの中で生活できるよう関わり続ける》ことだった.また,〈周囲に子どもの障害を理解してもらうために努力を重ねる〉や〈家族に障害を理解してもらうために説明方法を工夫し伝える〉等の家族や学校などの関係者への働きかけを通じて,《子どもの居場所をつくるために周囲の理解を得る》ことであった.
2. 先行要件先行要件は,【コントロール困難な情緒的特性への戸惑い】【子どもとの相互的なコミュニケーションの困難】【基本的生活習慣のしつけの問題】【診断告知を契機とした疾患や障害への気付き】【特性をもつ子どもを育てるための生活力】【親の育児観】【パートナーとの協力関係】の7つのカテゴリが抽出された.
発達障害をもつ子どもの子育てに先立つ要件として,子どもの《癇癪や泣き,落ち着きのない行動への対応の困難》や《感情調節の制御の困難》等の【コントロール困難な情緒的特性への戸惑い】,〈言葉のやり取りの困難さ〉や〈呼んでも振り向かない〉等の【相互的なコミュニケーションの困難】,そして,《睡眠の問題》や《排泄の自立の遅れ》等の【基本的生活習慣のしつけの困難】が含まれていた.これらは,子どもの障害への気づきや支援を求めるきっかけとなる特性であった.
一方,先に述べた子どもの要件に加えて,親は〈診断告知により衝撃や罪悪感,拒絶感,無力感といった感情を経験する〉等の《診断告知の衝撃》や〈発達障害に関する知識がないために悲しみと絶望に圧倒される〉等の《疾患や障害に関する知識の不足による絶望》といった【診断告知を契機とした疾患や障害への気付き】が抽出された.また,特別な配慮を要する子どもを育てるための《親の健康状態》や《親の年齢》,近隣住民との関係構築などに関わる《生活環境》,他者や専門機関に《相談する力》等の【特性をもつ子どもを育てるための生活力】も含まれていた.さらに,《子育てに挑む親の育児観》や《受容的な育児スタイル》といった【親の育児観】,《支えとなる共育者の存在》や《パートナーとの良好な関係性とサポート》といった【パートナーとの協力関係】が抽出された.これらの要件は,親が子どもの発達障害に気づき,その子どもを育てるために必要な親の能力や環境であった.
3. 帰結帰結は,【子どもの成長への喜び】【子どもに育てられた実感】【親としての自負】【支援や交流の場への要望】の4つのカテゴリが抽出された.
帰結では,〈子どもの能力の向上〉や〈子どもの自立の喜び〉等の【子どもの成長への喜び】があった.そして,〈子どもとつながっていると実感する〉や〈子どもとの深く愛情に満ちた絆の認識〉等の《子どもとの新たな関係性》,〈時間管理や忍耐力,共感力といった生活スキルの発達〉や〈主体的な育児姿勢への変化〉等の《親自身の変化の自覚》といった【子どもに育てられた実感】であった.さらに,〈これまでの子育てへの肯定的感情〉や〈子育ての苦労や成功を高く評価する〉等の【親としての自負】であった.その子育ては,社会資源等への更なる充実を期待する《支援の必要性》や《仲間との交流の場への切望》といった【支援や交流の場への要望】につながっていた.
4. 関連概念関連概念は,関心のある概念と何らかの関係を持っているが,同じ属性の集合を共有していないような概念である(Rodgers & Knafl, 1993/2023).本研究においては,「療育」という用語が関連概念として同定された.
「療育」という用語は,心理学や教育学,看護学などの分野で用いられていた.高松(1990)は,療育を「注意深く特別に設定された特殊な子育て」と定義している.療育は,もともと知的障害児や肢体障害児の「機能の獲得」や「権利の獲得」としての“ハビリテーション”としての視点からはじまり,障害児のみならず子どもを育てる親や家族を含む「発達支援」へと発展してきた概念である.子ども家庭庁(2024)の「児童発達支援ガイドライン(令和6年7月版)」では,児童発達支援(療育に相当する支援)を「障害のある子どもに対し,身体的・精神的機能の適正な発達を促し,日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う,福祉的,心理的,教育的及び医療的な援助」と定義している.この支援は,専門的なアセスメントや判断に基づいた「その子」に適した方法で,子どもや家族への支援(市川,2018;原,2021)が実践されている.
このように,療育は発達障害をもつ子どもの親にとって,子育てを支える重要な支援であり,「子育て」という営みに密接に関連する概念である.しかしながら,療育は,専門職による指導や支援を中心としたものであり,親が主体的に行う育児行動や心理的適応を含む「子育て」とは,支援の対象や主体,目的において異なる.したがって,両者は類似性を持ちながらも同じ属性を共有していないと考えられる.
以上のことより,「療育」は,「発達障害をもつ子どもの親の子育て」と関係性を持ちながらも,同じ属性を共有していない関連概念と位置つけられた.
発達障害をもつ子どもの親の子育てとは,「手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らしながらも,子どもの特性と親としての期待に折り合いをつけ,子どもの行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促すことや,子どもが生きていくための居場所をつくること」であった.
その子育ては,子どものもつ障害特性に加えて,親が子育てを行うために必要な生活力やパートナーとの関係性を基盤とし,発達障害をもつ子どもの子育ての経験から得られる「親としての自負」といった,親としての成長を含む,帰結へとつながるものであった.そのため,概念図では,先行要件から属性を経て帰結へとつながる構造で示された(図1).

以下,「発達障害をもつ子どもの親の子育て」の概念の特徴,例証の同定,子育て支援への示唆について述べる.
1. 概念の特徴 1) 子どもの特性と成長を見極め基本的な生活習慣の獲得を促す発達障害をもつ子どもの親の子育ては,目には見えにくい障害を理解し対応していくことに苦慮しながらも,子どもとの関わりの中で試行錯誤を重ね,その子ども特性に合わせた方法で基本的な生活習慣の獲得を促していた.
基本的な生活習慣の獲得は,社会の中で生活していくために必要な基礎的な能力として重要である.その獲得は,幼児が周りの人を見る「観察」や「模倣」,そして言葉による「意識化」によって定着し,さらに大人の承認や評価が加わることで社会的「行為」として実践可能となる(松田,2011).しかし,発達障害の一つであるASDでは,脳内のネットワークの障害が顔認知や表情認知などの社会的コミュニケーションの障害に関与しており(飛松,2023),親が子どもを褒めたり喜んだりする様子を,子どもがその意図や感情として読み取ることを困難にしている.さらには,言語的な表現の乏しさや感覚過敏,こだわり行動などの特性が,親子間の相互的なコミュニケーションを一層困難なものにしている.このような状況において,親は日々の関わりの中で,子ども特有のサインや反応を蓄積しながら,その意味を捉え理解を深めていく必要がある.そのうえで,子どもの日々の成長だけではなく,子どものもつ特性にも向き合い,子どもの変化に合わせた対応方法を模索し続けることが求められる.これらは,発達障害をもつ子どもの親の子育てにおける特有の適応過程であり,一般的な子育てとは異なる複雑さと継続的な努力が伴うことが考えられる.
また,慢性疾患をもつ子どもの基本的な生活習慣の獲得に関わるしつけにおいても,治療や病状に波のある病児に対し,情報や知識,マニュアルがないために自らが答えを作り出さなければならない困難がある(幸松,2003)とされている.発達障害をもつ子どもの親も,痛み等の症状や検査値では捉えられない子どもの特性を知ることから始まり,子どもの発達の可能性に希望を抱きながら,その変化を見届けていると考えられる.また,こだわりの強さなどの一筋縄ではいかない子育てにおいて,親は子どもに否定しない関わりを試みていることも明らかとなった.これは,特性をもつ子どもに対して,単なる厳しさだけではなく,子どもから発せられるサインの意味を考え続ける中で育まれる理解を通して,初めて可能となる子育ての特徴の一つであると考えられる.
2) 親としての期待と子どもの現状に折り合いをつける発達障害をもつ子どもの親は,子どもの特性の理解が進むことで,子どもをありのままに捉える一方で,親としての期待や諦めたくないという思いがあり,その狭間で心の着地点を見出し,折り合いをつけていた.
発達障害をもつ子どもの親には,“障害”であることと“その子らしさ=個性”との揺れ動きや,“普通である”ことと“普通でないこと”の葛藤が常に同時に存在する(鳥畑ら,2007)とされ,目には見えにくい障害であるがために,親であっても子どもの障害特性を明確に理解し受け止めていくことは容易なことではない.さらに,子どものつまずきに直面し,再び情緒的危機的状態に陥ることで,子どもの障害に対する意味の再構成が再び行われる可能性がある(山根,2012)とされている.子どもの成長の過程では,日々の生活に加えて,入園や入学といった環境の大きな変化も伴い,そのたびに新たなつまずきが訪れることが推察される.親は,そうしたライフステージごとの変化に応じて,自らの認識を問い直しながら,子どもを捉え直していく過程を繰り返していると考えられる.
3) 子どもが過ごせる居場所をつくる親は,環境を調整し子どもが安心して過ごせる場所を作ることや,子どもが社会の文化に馴染むルールやマナーを身につけられるよう働きかけていた.
医療的ケア児の親においても,社会とつながりをもち,将来の夢を失わないでほしいと考えており(大久保・野口,2022),発達障害をもつ子どもの親と同様に,子どもの社会参加を強く望んでいることが示された.加えて,わが子の社会参加と成長発達という親としての願いで行動力を培い(佐鹿ら,2020),幼稚園や学校,近隣住民などの周囲に理解を得られるよう働きかけ,子どもが家庭以外で過ごせる環境を整えていた.
さらに,発達障害をもつ子どもの親は,単に環境を整えるだけではなく,子どもが親や家族以外の存在にも受け入れられるよう,マナーや社会のルールを身につけさせるための関りも行っていた.これは,行動や認知に特性があることで子どもが孤立しやすい状況を見越し,子ども自身が社会に参加できるよう働きかけていることを示している.
2. 例証の同定モデル事例:A児
A児(男児)は両親との3人家族.乳児期には授乳時以外ほとんど泣いているような子どもだった.父親は仕事のため毎日夜遅くに帰宅し,子育ては母親が一人で担っていた.
幼児期に入ると,偏食による食事づくりの試行錯誤や,制止しても飛び出してしまうなどの多動が目立ち,思い通りに指示が伝わらないため,母親は常に目を離せない子育てに強いストレスと困難さを抱いていた.さらに,集合住宅であったためA児の癇癪による物音や声により近所に迷惑をかけていないかと申し訳なさも感じていた.3歳で幼稚園に入園したが,参観日に他児と異なる様子を目の当たりにし,「発達に障害があるのかもしれない」と考えるようになった.
3歳児健診では異常なしとされたが,母親は子育ての大変さから心身ともに疲弊し,通所型の療育サービスの利用を開始した.一方,父親は療育や診断に否定的で,夫婦間で十分な話し合いができない状態が続いた.母親はA児の将来を見据え,小学校入学時にASDの診断を受けた.父親もその頃には渋々ながらペアレントトレーニングに参加し,「話を聞いてほしいときは名前を呼んで気づかせてから指示を出す」など,A児に適した指示の出し方を模索していた.
小学校高学年になる頃には多動の症状は落ち着き,叱る回数も減少した.一方で,A児は友人関係の形成に難しさを示し,遠足や修学旅行などの学校行事では教員と過ごす場面が多かった.母親はその様子に戸惑いと落胆を覚え,「どうしてうちの子だけ…」という思いと「この子の場合は仕方がない」という受け止めの狭間で揺れ動きながら,「A児にとって安心して過ごせる友人を見つけてほしい」と考えるようになっていった.両親は学校生活や将来への不安を感じつつも,小学校教員や放課後等児童デイサービスと連携しながら,A児の成長を見守り続けている.
以下,本研究で抽出された概念を用いて事例を説明する.
A児の事例では,泣きやこだわりの強さなどの【コントロール困難な情緒的特性への戸惑い】や,思い通りに指示が伝わらないといった【子どもとの相互的なコミュニケーションの困難】によって子育てに困難が生じ,受診や支援を求める契機となっている.また,父親の子育てへの関与の少なさや障害理解の差は,【パートナーとの協力関係】も困難さに影響していると考えられる.
母親は,A児の偏食や多動に対応するために,日々試行錯誤し,常に緊張して過ごすなど,【手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らす】状況にあった.夫に相談しても理解されず孤立感を深めていたことも示唆される.そのような中で,母親はA児に合った子育て方法を模索し,ペアレントトレーニングなどの社会資源とつながることで【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】方法を得ている.
A児の人間関係では,母親は,「たくさんの友達と楽しく過ごす」姿を期待していたが,実際には,「教員と過ごすことが多い」という現実に直面している.母親は,期待と現実の狭間に揺れ動きながらも,「この子の場合は仕方ない」と受け止め,【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】ようになり,期待を「たくさんの友達」から「安心できる一人の友達」へと修正している.さらに母親は,子どもの将来を見据えて診断を受け,小学校や放課後等児童デイサービスと連携しながら,【子どもが生きていくための居場所をつくる】行動を起こしている.A児は成長とともに特性にも変化が見られ,親は【子どもの成長への喜び】を感じながらも将来への不安を抱きつつ,子どもを見守っている様子がうかがわれた.
以上のように,本研究で抽出された概念は,A児の子育てを多面的に捉える枠組みとして有効であり,実践的に概念を証明できると考えられる.
3. 発達障害をもつ子どもの親の子育てに対する支援への示唆発達障害をもつ子どもの親の子育ては,子どもの障害特性への気づきから始まり,場合によっては,親の生涯にまで及ぶ非常に長期間の営みとなる.さらに,本研究において明らかにされた属性の概念からも,子どもの障害特性に起因する子育ての困難さ,パートナーとの認識の違い,周囲の理解不足などにより,親は,長期間に渡り不安や孤立といった困難な状況に置かれることが示された.発達障害をもつ子どもの子育ては,親の心身の健康や生活に影響をもたらすものであり,その支援においては親の生活や体験を理解した専門職による支援が必要(松岡ら,2013)とされる.揺れ動く親を見守り受容過程を支える支援(中山ら,2008)や,就園・就学の準備をする等の子どもとその親の生活を支える支援(中山・斎藤,2007)など,子どもと親に寄り添いながらも,課題解決に向けてともに考え続ける姿勢が重要である.
本研究で明らかになった属性の【行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促す】や【子どもの特性と親としての期待に折り合いをつける】は,親の子どもへの理解が進むことで得られる親としての変化であり,発達障害をもつ子どもの子育てに適応していくために重要な要素であると考えられる.したがって,親への支援においては,子どもの成長・発達を見据えつつ,子どもおよびその家族の生活状況やライフステージに応じた子ども理解ができる支援が重要となると考える.また,発達障害をもつ子どもとその親の子育てを支えるためには,親や子どもへの支援だけでなく,発達障害をもつ子どもを地域全体で受け入れ,理解し合えるような地域づくりの視点も必要である.
以上のことから,発達障害をもつ子どもとその親に対する支援は,子どもと親の生活を中心に据え,医療・教育・保育等の専門機関が連携・協働しながら,リレーのように途切れることなく,連続的かつ継続的に展開されることの重要性が示唆された.
発達障害をもつ子どもの親の子育てとは,「手探りで子どもの特性に向き合い心身をすり減らしながらも,子どもの特性と親としての期待に折り合いをつけ,子どもの行動パターンに合わせて生活習慣の自立を促すことや子どもが生きていくための居場所をつくること」であった.
発達障害をもつ子どもの親の子育ては,子どものもつ特性に加えて,親の生活力やパートナーとの協力関係を基盤とし,発達障害をもつ子どもの子育ての経験から得られる「親としての自負」といった,親としての成長を含む帰結へとつながるものであった.
発達障害をもつ子どもを育てる親は,子どもの特性への気付きから始まり非常に長期間に渡り不安や孤独といった困難な状況に置かれやすいことが示された.これらのことから,発達障害をもつ子どもとその親に対する支援は,子どもと親の生活を中心に据え,専門機関が連携・協働し,連続的かつ継続的に展開されることの重要性が示唆された.
付記:本研究の内容の一部は,日本小児看護学会第35回学術集会において発表した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:山下千絵子は,研究の着想,デザイン,文献収集,概念分析と解釈,原稿作成の全体に貢献した.日沼千尋は,研究デザインの検討,文献収集,概念分析と解釈に関するディスカッション,研究全体へのスーパーバイズに貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,内容に同意している.