日本看護科学会誌
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原著
スタッフ看護師が新人看護師指導役割に抱くアンビバレンス(両価性)と,精神的健康および職務満足度との関連
上妻 京子岩脇 陽子松岡 知子山本 容子室田 昌子
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2026 年 46 巻 p. 192-202

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Abstract

目的:新人看護師指導役割を担う看護師が抱くアンビバレンス(両価性)と,精神的健康および職務満足度との関連を明らかにする.

方法:新人看護師指導役割を担う看護師を対象に質問紙調査を実施し,311名を分析対象とした(回収率32.8%・有効回答率78.9%).調査内容は,基本属性,プリセプター役割自己評価尺度(やりがい感,負担感),ケスラー心理的尺度(K6),職務満足度測定尺度とした.やりがい感と負担感の中央値で4群に分け,Kruskal Wallis検定と多重比較を行った.

結果:「アンビバレント群」は,「やりがい高・負担低群」に比べて,K6で有意に高値を示し,「職務満足度」および下位尺度「上司からの適切な支援」「働きやすい労働環境」で有意に低値を示した.

結論:アンビバレントな状況にある看護師には,負担感の軽減が重要であり,上司からの適切な支援,働きやすい環境の整備が必要であることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to clarify the relationships between ambivalence felt by nurses who are responsible for mentoring new nurses and their mental health and job satisfaction.

Method: A questionnaire survey was conducted among nurses who were responsible for guiding new nurses, and 311 respondents were analyzed (response rate, 32.8%; valid response rate, 78.9%). The survey items included basic attributes, the Self-evaluation Scale of Preceptor Role Performance for New Nurse Graduates (sense of fulfillment and burden), the Kessler Psychological Scale (K6), and a job satisfaction measurement scale. The subjects were divided into four groups based on the median values of their feelings of fulfillment and burden, and the data were analyzed by Kruskal-Wallis and multiple comparison tests.

Results: The ambivalent group showed significantly higher K6 scores than the high job satisfaction and low burden group and significantly lower job satisfaction scores and scores for the appropriate support from supervisors and comfortable working environment sub-scales.

Conclusion: The results suggested that reducing the feeling of burden is important for nurses in ambivalent situations and that appropriate support from supervisors and the development of comfortable working environments are necessary.

Ⅰ. 緒言

我が国では,医療技術の高度化と複雑化,超高齢化社会による患者の高齢化,地域包括ケアシステムの構築,感染症拡大といった変化に伴い,看護師の役割は増大し,看護師不足が大きな社会問題となっている.看護師の確保を図る施策として,厚生労働省は「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づいて,2011年に「新人看護職員研修ガイドライン」を作成し,2014年に改定している.日本看護協会による病院実態調査(日本看護協会,2024)によると,看護職員の離職率は11.8%と改善の傾向はみられず,2025年需要推計(厚生労働省,2023)によれば,さらなる看護師不足が見込まれている.

看護師の離職理由については,多くの研究により,業務上の責任の加重(池田ら,2011),職務満足の低下(加藤・尾崎,2011)など,さまざまな要因が明らかになっている.離職要因の一つとして,新人看護師育成の役割負担(山口ら,2016)や,指導期間に生じるマンパワー不足・超過勤務の増加(長田,2017)が指摘されている.離職の要因となる新人看護師指導役割だが,一方で,新人看護師指導に携わる看護師は,新人看護師の成長や自身の成長を実感するという肯定的側面を感じ(大村ら,2019),やりがい感と負担感の両方を抱くことが報告されている(日高,2016).これらのことから,新人看護師の指導役割を担う看護師は,やりがい感と負担感という,相反する感情を同時に抱えながら業務を行っていると考えられる.

同一の対象に対して,相反する心的傾向,態度が同時に存在することは,アンビバレンス(ambivalence)とよばれ,日本語では両価性あるいは同時認知などと訳される.アンビバレンスは1914年にEugen Bleulerが提唱した精神病理学的概念で,「日常的で自明な両価性が存在するということ,すなわち同一の対象への関係において快であると認識したり不快であると認識したりはするが,その両者ともに,多かれ少なかれ統一的な価値づけへと結びつくような両価性が存在するとともに,二つの価値づけが並列して存続することによって特徴づけられるような別の両価性も存在するということである.後者については,正常者においても多少は現れるが,これが重大な事態に関係してくると生活上の困難を意味するようになり,しばしば直接に神経症へと導かれることになる.」(Bleuler, 1914/1998)と述べている.すなわち,日常的にアンビバレンスな感情は存在するが,統一的な価値づけをして行動していく.しかし,強いアンビバレンスが生じた場合や存続した場合は,統一的価値づけが困難となり,生活上の困難を生じるようになる.このように,同一の対象に対する相反する認知を同時に抱くアンビバレントな状況は,一定の精神的負担を伴うものとして説明される.

社会学におけるアンビバレンスに関する研究では,対人両価感情に関する実験的研究(堤,1998)などがなされている.発達心理学では,Bowlbyが提唱した愛着理論を基礎として,愛着パターンの一つであるアンビバレント型の,日常の社会的活動中に生じる感情と行動(Tidwell et al., 1996)の研究や,アンビバレント型の精神的な健康状態の関連(金政・大坊,2003)についての研究がなされ,対人関係においてアンビバレンスな感情を持つ場合は,心理的健康に影響を及ぼすことが報告されている.

新人看護師指導を担う看護師は,その役割に対して相反する心情を同時に認知していると考えられるが,看護師が特定の役割に対して抱く相反する心情の同時認知に焦点を当てた研究は少ない.

そこで本研究では,スタッフ看護師が新人看護師指導役割に抱くやりがい感と負担感のアンビバレンス(両価性)に焦点をあて,精神的健康及び職務満足との関連を明らかにすることを目的とする.この研究は,既知の一般的知見を看護実践の具体的状況に適用してその特有の心理的影響を検討するものであり,研究で得られた新たな知見は,今後の新人看護師指導役割を担うスタッフ看護師の支援策や指導環境の改善に資する実践的な示唆を提供し得る.

Ⅱ. 本研究の概念枠組み

Bleulerが提唱したアンビバレンスの概念(Bleuler, 1914/1998)を参考とし,概念枠組みを作成した.新人看護師指導役割に対する肯定的感情であるやりがい感の高・低と,否定的感情である負担感の高・低の4群に分類し,やりがい感が高く負担感が高い群を「アンビバレント群」とした.Bleulerが,健常者のアンビバレンスが重大な事態に関係すると神経症に導かれる(Bleuler, 1914/1998)と述べていることより,新人看護師指導役割に対しアンビバレントな状況にある看護師は,精神的健康の低下や,職務満足度の低下に影響すると仮定し,検証することとした(図1).

図1  概念枠組み

Ⅲ. 研究方法

1. 調査対象及び調査方法

1) 研究のデザイン

本研究は無記名自記式質問紙を用いた調査研究である.

2) 調査期間

本研究の調査期間は,2021年6月26日から8月15日である.

3) 調査対象者

パトリシア・ベナーが提唱した看護理論では,臨床経験3年目以上が一人前看護師(Benner, 2001/2005)と位置付けられていることから,新人看護師指導役割を担える臨床経験の目安として3年目以上であることを必須とし,本研究の対象者を,現在新人看護師指導役割を担っている臨床経験3年目以上の看護師(ただし役職者は除く)とし,スタッフ看護師と同義とした.また,看護師の離職率調査(日本看護協会,2020)では,施設の病床数により離職率に差が生じることが示されており,本研究では,離職率の比較的低い400床以上の施設に勤務する看護師を対象としたA県の400床以上の13施設中,看護部長から研究協力の承諾が得られた10施設に勤務する,現在新人看護師指導役割を担っている臨床経験3年以上の看護師1,200名を質問紙の配布対象とした.

4) 調査方法

郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した.まず,研究対象病院の看護部長に研究依頼文・説明文書にて調査依頼を行った.研究協力への同意が得られた場合,対象者配布用の研究依頼文・説明書・調査票の一式を看護部に郵送し,看護部長から,対象者に配布してもらった.対象者は,配布された研究依頼文・説明書を読み,研究協力に同意した場合には,調査票に同意の意思を記載し,質問項目に回答を記入し,期日までに返送用封筒に入れて,投函してもらい,研究者に直接返送してもらう形とした.

2. 調査内容

1) 対象者の属性

年齢,臨床経験年数,性別,看護基礎教育,所属病棟の新人看護師教育体制,今年度所属病棟で担っている役割(複数回答)の6項目とした.

2) プリセプター役割自己評価尺度35項目に対するやりがい感と負担感

プリセプターが自己の役割遂行状況を評価することを目的に,吉富・舟島(2007)が作成した,プリセプター役割自己評価尺度を用いた.この尺度は,新人看護師を指導しているプリセプターが実際に示した行動を表す概念を創出し,プリセプターの役割を成分化し,その役割を果たすために必要不可欠な行動を問う7下位尺度35の質問項目で構成されており,4段階のリッカート尺度で評価する.現在の新人看護師教育体制は,新人看護職員研修の制度改正を契機に実地指導者,教育担当者,研修責任者などの役割を担う看護師の配置がなされ,組織全体で支援する体制となり,看護師すべてが新人看護師指導に関わっている.そのため,本研究における,スタッフ看護師が新人看護師指導役割に対して抱くやりがい感,負担感を的確に示す尺度であると考える.この尺度はCronbachのα係数は0.92と内的整合性による信頼性が確保され,累積寄与率は44.2%と構成概念妥当性も確保されている(舟島,2006).

本研究では,新人看護師指導役割に対するやりがい感と負担感を同時に測定するために,プリセプター役割自己評価尺度を用いて,2つの独立した質問紙を作成した.

「今,あなたはどのくらいやりがいを感じているか」「今,あなたはどのくらい負担を感じているか」を,互いに関係なく各々の質問紙に回答するように説明を行い,「まったくやりがいを感じない(1点)~とてもやりがいを感じる(4点)」,「まったく負担を感じない(1点)~とても負担を感じる(4点)」のいずれも4段階リッカート尺度で回答を求めた.なお,本尺度の項目を使用し,やりがい感,負担感を測定することに関して,事前に著者に許諾を得た.

3) ケスラー心理的尺度(Kessler Psychological Distress Scale日本語版6項目:以後K6)

Kessler et al.(2002)が過去30日間の心理的ストレス反応を測定するために開発したKessler Psychological Distress Scale(K6)を,Furukawa et al.(2008)が翻訳した日本語版の尺度を用いた.この尺度は東日本大震災の住民を対象とした研究や,看護師を対象とした研究にも用いられ汎用性が高い.Cronbachのα係数は0.8以上で内的整合性による信頼性が確保されROC曲線によるスクリーニング効率は抑うつ状態自己評価尺度(GES-D)と同等であることから,妥当性も確保されている.6項目で構成され,「いつも(4点)~全くない(0点)」の5段階リッカート尺度で回答を求める.各項目の項目得点を合計し,得点範囲は0~24点である.点が高いほど気分・不安障害の可能性が高く,精神的に不健康であることを示す.過去の研究より,一般住民の心理的ストレスを評価するカットオフ値は5点以上と提案があり(川上ら,2008Sakurai et al., 2011),5点以上を心理的ストレス反応相当とされている.さらに9点以上であると気分・不安障害である確率は50%(川上ら,2008)といった報告がある.

4) 職務満足測定尺度28項目

撫養(2010)が一般病院に勤務する看護師の職務満足の程度を測定するために開発した尺度を用いた.500床以上の病院の入院患者を担当する看護師を対象とした研究で,Cronbachのα係数は0.91と内的整合性による信頼性が確保されていること,累積寄与率は43.9%,構成概念妥当性は仕事の満足感尺度で支持され,併存的妥当性は自尊感情,バーンアウト尺度で支持されている尺度であることを報告している(撫養ら,2014).28項目で構成され,「全くそう思わない(1点)~非常にそう思う(5点)」の5段階リッカート尺度で回答を求める.否定表現項目に対しては点数を逆転させて計算する.得点が高いほど職務満足が高いことを示す.

3. 分析方法

各尺度の本研究におけるデータの信頼性を確認するためにCronbachのα係数を算出した.基本属性は記述統計を行った.プリセプター役割自己評価尺度35項目に対するやりがい感と負担感に関する回答の合計点の中央値を分割の中心点とし,点四分木により「やりがい高・負担高群」「やりがい高・負担低群」「やりがい低・負担高群」「やりがい低・負担低群」の4群に分けた.群間の比較には,Kruskal Wallis検定を行い,有意差が得られた項目にはさらに多重比較を行った.有意水準は5%とし,統計ソフトはSPSS ver.22を用いた.

4. 倫理的配慮

本研究は京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号ERB-E-480).対象者には,研究の意義,目的,方法,個人情報の保護,協力の自由意思,参加をしなくても何ら不利益を被らないこと等を記載した説明文書を質問紙と共に配布し,同意の確認を書面で行った.

Ⅳ. 結果

A県の400床以上の病院13施設のうち,研究協力の合意が得られた10施設に勤務する,対象となる看護師1,200名に調査票を配布し,394名から回答を得た(回収率32.8%).有効回答は311名(有効回答率78.9%)であった.

1. 対象者の基本属性(表1

対象者の年齢の中央値は31.0歳,臨床経験年数の中央値は8.0年,性別は女性が93.9%であった.看護基礎教育は大学が45.0%と最も多く,所属病棟の新人教育体制はプリセプターシップが70.7%と最も多かった.今年度所属病棟で担っている役割で最も多かったものはチームリーダーで,21.9%を示した.スタッフ看護師が担っている1人当たりの役割数は0~7で中央値は1であった.

表1  対象者の基本属性

2. 尺度の内的整合性の検討

Cronbachのα係数は,プリセプター役割自己評価尺度のやりがい感35項目では0.886,負担感35項目では0.925,ケスラー心理的尺度6項目では0.885,職務満足度測定尺度28項目では0.907であった.

3. プリセプター役割自己評価尺度を用いたやりがい感と負担感による分類

やりがい感の中央値は88点,負担感の中央値は87点であった.したがって,プリセプター役割自己評価尺度35項目に対するやりがい感,負担感それぞれの合計点の中央値を分割の中心点とした点四分木による分類は,「やりがい高(≧89点)・負担高(≧88点)群:以後アンビバレント群」58人(18.6%),「やりがい高(≧89点)・負担低(≦87点)群(以後やりがい高・負担低群)」94人(30.2%),「やりがい低(≦88点)・負担高(≧88点)群(以後やりがい低・負担高群)」97人(31.2%),「やりがい低(≦88点)・負担低(≦87点)群(以後やりがい低・負担低群)」62人(20.0%)となった.

4. 4群間の比較

1) 基本属性の比較

年齢では,4群間に差があり(p = .006),「やりがい高・負担低群」(中央値29.0歳)が「やりがい低・負担高群」(中央値34.0歳)より,有意に若かった(p = .003).臨床経験年数も,4群間に差があり(p = .016),「やりがい高・負担低群」(中央値7.0年)が「やりがい低・負担高群」(中央値11.0年)より,有意に少なかった(p = .017).

2) K6合計得点の比較(表2)(図2

K6合計得点の全対象者の中央値は6点であった.

表2  K6日本語版得点及び職務満足測定尺度

n = 311)

図2  4群におけるK6得点の分布の比較

注:Kessler Psychological Distress Scale(K6)日本語版 使用,合計得点5点以上:心理的ストレス反応相当

4群間に差があり(p = .000),「やりがい高・負担低群」(中央値3.0点)と比べて「アンビバレント群」(中央値7.0点)と「やりがい低・負担高群」(中央値7.0点)が,有意に高かった(p = .002, p = .000).

K6の合計得点5点以上の,「心理的ストレス反応相当」(Sakurai et al., 2011)に該当する人は,対象者全体で176人(56.6%)であった.K6得点が5点以上の割合は,「アンビバレント群」39人(67.2%),「やりがい低・負担高群」62人(63.9%)となっており,「やりがい高・負担低群」40人(42.6%)より有意に高かった(p = .017, p = .018).

3) 職務満足測定尺度の合計得点の比較

職務満足測定尺度の合計得点の全対象者の中央値は83.0点であった.4群間で差が見られ(p = .000),「やりがい高・負担低群」(中央値89.5点)は,「アンビバレント群」(中央値83.0点),「やりがい低・負担高群」(中央値80.0点),「やりがい低・負担低群」(中央値80.0点)と比べ,有意に高かった.(p = .026, p = .000, p = .000).

職務満足測定尺度の下位尺度である,【仕事に対する肯定的感情】【上司からの適切な支援】【働きやすい労働環境】【職場での自らの役割意識】についても,4群間で差がみられた(p = .000, p = .000, p = .000, p = .000).【上司からの適切な支援】では,「やりがい高・負担低群」(中央値19.0点)が,「アンビバレント群」(中央値18.0点),「やりがい低・負担高群」(中央値17.0点),「やりがい低・負担低群」(中央値17.0点)に比べて有意に高かった(p = .047, p = .000, p = .009).また,【働きやすい労働環境】についても同様に,「やりがい高・負担低群」(中央値18.0点)が,「アンビバレント群」(中央値17.0点),「やりがい低・負担高群」(中央値15.0点),「やりがい低・負担低群」(中央値16.0点)に比べて有意に高かった(p = .027, p = .000, p = .004).【仕事に対する肯定的感情】では,「やりがい高・負担低群」(中央値36.0点)が,「やりがい低・負担高群」(中央値31.0点),「やりがい低・負担低群」(中央値32.5点)に比べて有意に高かった(p = .000, p = .000)が,「アンビバレント群」との間には明らかな違いは見られず,「アンビバレント群」(中央値34.0点)は,「やりがい低・負担高群」(中央値31.0点)より有意に高い結果であった(p = .004).【職場での自らの役割意識】では,「やりがい高・負担低群」(中央値16.0点)は,「やりがい低・負担高群」(中央値14.0点),に比べて有意に高かった(p = .000)が,「アンビバレント群」(中央値15.0点)との間には明らかな違いは見られなかった.

Ⅴ. 考察

1. 新人看護師指導役割に抱くやりがい感と負担感の同時認知の実態と精神的健康及び職務満足度との関連

1) 尺度の内的整合性

Cronbachのα係数は内的整合性(等質性)を示す指標であり,一般に0.8以上あれば内的整合性が十分高いと言える.使用した尺度はすべて0.8以上であり,内的整合性は確認されたと考える.

2) アンビバレント群の属性の傾向

「やりがい高・負担低群」「アンビバレント群」「やりがい低・負担低群」「やりがい低・負担高群」の順に,年齢,臨床経験年数が高くなる傾向にあった.新人看護師指導役割を担うようになった若い看護師層のやりがいについて,大村ら(2019)の調査によると,新人看護師指導に対して臨床経験5~9年目の看護師は10年目以上の看護師より自己の成長を高く感じるという結果が得られており,新人看護師指導を行うことで自らが成長できることとやりがいを感じることが明らかになっている.一方,今の医療現場の状況の中,新人看護師指導役割を果たすことへの負担感が,中堅看護師(臨床経験年数5年以上15年以下)に生じるようになる(児玉ら,2017)ことも明らかになっている.本研究でも,「やりがい高・負担低群」は「やりがい低・負担高群」に比べて,年齢も若く,臨床経験年数が少なかった.年齢が若く,臨床経験年数が少ないと,新人看護師指導役割に対するやりがい感が高く負担感は低いが,年齢,臨床経験年数を重ねていくと,やりがい感は高いが負担感も高いといった,アンビバレントな状況となっていくことが推察される.

全体に占める人数の割合は「やりがい低・負担高群」が97人(31.2%)と最も多く,年齢層が最も高い結果であった.このことは,対象者の特徴として「やりがい感」の得点が低い状態にある一方で,「負担感」の得点が高い状態である傾向にあること,「やりがい感」と「負担感」に負の相関関係がある可能性が示唆された.またCOVID19流行期であり,新人看護師指導体制において,指導力向上の教育,新人の状況の理解,手厚い支援体制への変更,IT活用(末永,2022)と変化が著しかった.中高年看護師の職業ストレスに技術革新(中村,2006)が存在し,また,思考の柔軟性が低下するといった報告がある.このことからも,時期的に負担感が高まっていたことが推察される.

3) アンビバレント群と精神的健康の関連

「やりがい高・負担低群」以外の3群はすべて,K6の合計得点の中央値が5点以上7点以下であり,心理的ストレス反応相当に位置している.このことから,「やりがい高・負担低群」は,精神的健康度が最も高い群であることが分かる.中でも,「やりがい高・負担低群」と比べ「アンビバレント群」と「やりがい低・負担高群」はK6の合計得点の中央値が,有意に高く,負担感が高いことが心理的ストレスを生じる要因となると推察される.

プリセプター役割自己評価尺度は,指導看護師が指導役割を果たすための行動を示した(吉富・舟島,2007)ものである.これらは,看護実践場面において,自分の看護技術・知識を必要とする行動や,時間的な余裕が必要となる行動が多く,高度急性期病院の環境においては,実践困難な場面がある.業務量が増え,多忙な中で新人看護師指導役割を果たすことは,看護師の負担感を高めることが先行研究で指摘されている(大村ら,2019日高,2016).本研究においても負担感が高いスタッフ看護師は精神的な問題を抱えている傾向にあり,負担感が精神的健康の阻害要因であることが示唆された.

K6の合計得点が5点以上の心理的ストレス反応相当を示した者の割合は,「アンビバレント群」が最も高く7割近くが該当していた.日高(2014)は,新人教育を経験した看護師は,新人看護師が求める関わりを行う一方で,新人看護師に否定的な感情をぶつけることを報告している.新人看護師指導役割は相反する感情を感じるアンビバレントな状況に陥りやすいことが推察される.葛藤はアンビバレンスに随伴する状態で,相反する要求や衝動が対立しているために苦悩(Myriam & Lisa, 2003)を生じるとの報告があり,やりがい感負担感がともに高いアンビバレントな状況にあるスタッフ看護師は,より強い葛藤を生じ苦悩していると考えられる.

4) アンビバレント群と職務満足度の関連

職務満足度の合計得点で「やりがい高・負担低群」は他の3群よりも有意に高い得点であった.このことから,「やりがい高・負担低群」は,職務満足度が最も高い群であることが分かる.

「アンビバレント群」は次いで合計得点の中央値が高かった.しかし,合計得点,下位尺度の【上司からの適切な支援】【働きやすい労働環境】では,「やりがい高・負担低群」に比べて,「アンビバレント群」の職務満足度は有意に低かった.アンビバレンスは対人コミュニケーションに影響を及ぼし(Simpson et al., 1996),自己を低く評価しやすく関係葛藤や衝突場面において深刻な苦悩を抱えやすい(Myriam & Lisa, 2003)といった報告がある.新人看護師指導に関わる際,対人コミュニケーションは,指導者間での意見交換や,新人看護師との関係性の構築において必要とされる行動であり,アンビバレントな状況にあるスタッフ看護師に影響を及ぼしている可能性が高いと考える.さらに,太田・升田(2017)は,プリセプターの役割遂行には,病棟の組織風土の提案が受けとめられる環境であることが大きな影響要因であると述べている.これらのことより,アンビバレントな状況のスタッフ看護師は新人看護師指導役割を遂行する上で,職場環境への苦悩を生じ,労働環境の職務満足度が低かったと推察する.

一方,下位尺度の【仕事に対する肯定的感情】【職場での自らの存在意識】では,「やりがい高・負担低群」と「アンビバレント群」の間で有意な差は見られず,やりがい感が高いと,負担感の高低にかかわらず,仕事への肯定感や自己への存在感が高いことが推察された.

5) やりがい感と負担感,精神的健康と職務満足の関連

やりがい感の高い2群を見ると,負担感が低い群の方がK6が有意に低く,精神的健康が良いことを示し,職務満足は有意に高く,職務満足度が高いことを示した.やりがい感の高い2群間では,負担感の高低によって,差がみられた.しかし,やりがい感の低い2群間では,負担感の高低によるK6や職務満足の有意な差はみられなかった.

このことは,やりがい感の高いスタッフ看護師にとっては,負担感の有無でK6や職務満足に大きな影響を及ぼす可能性があるが,やりがい感の低いスタッフ看護師にとっては,必ずしも負担感が大きな影響を与えるとは言えないことが示唆されたと考えられる.

2. 新人看護師指導役割を担うスタッフ看護師の支援の方向性

スタッフ看護師が新人看護師指導役割に抱くやりがい感と負担感の同時認知に焦点をあて,同時認知の実態と,精神的健康及び職務満足度の関連について述べてきた.これらを踏まえ,さらに新人看護師指導役割を担うスタッフ看護師の支援の方向性について記述していきたい.

新人看護師指導役割は,中堅看護師層のスタッフ看護師にとって,負担を感じながらもやりがいを感じることのできる役割であり,自身の成長につながる役割でもある.しかし,臨床経験年数を重ねた中堅看護師層になると,リーダーなど責任のある役割が課せられる機会が加わる.特にアンビバレントな状況にある中堅看護師の精神的ストレスには役割ストレス認知の関与が報告されている(下川・片山,2015).本研究においても,スタッフ看護師は複数の役割を担っていた.多くの役割を兼務することによる負の相乗効果が懸念される.業務量を上司が調整していくことが必要になると考える.

新人看護師指導役割を果たす場合の負担感が精神的健康の阻害要因であること,「アンビバレント群」は心理的ストレス反応の割合が高かったことから,負担感が軽減できるよう,新人看護師指導役割を担うスタッフ看護師への組織的な取り組みが必要である.負担感をなくすことは難しいが,数値化して見えるようにし,職務満足・精神的健康に悪影響を及ぼさない範囲を設定していくことが,今後の課題と考える.また,看護師自身が抱える心理的ストレスを,自らコントロールできるように支援する仕組みが重要である.そのため,気軽に相談できる職場風土の醸成や,必要に応じて心理カウンセラー等の専門職へアクセスできる体制の整備についても検討すべきである.

Bleulerは,「アンビバレンスは心の中に同居することはできるが,決してそこに無関心が加わることはない」と述べている(Bleuler, 1914/1998).このことから,「アンビバレント群」は新人看護師指導役割に関心が高いと考える.しかし,職務満足度の【働きやすい労働環境】で「アンビバレント群」は有意に低かった.新人看護師指導役割に関心が高いスタッフ看護師に対して,対人コミュニケーションが図れ,提案が受け止められる組織風土といった環境づくりが大切である(太田・升田,2017)と推察された.また,撫養ら(2009)は,「職務満足の向上には,上司が個々の状況や資質に応じた適切な承認を,看護実践を通して行うことが重要である」と述べている.職務満足度の【上司からの適切な支援】で「アンビバレント群」は有意に低かった.自己を低く評価しやすい(Myriam & Lisa, 2003)「アンビバレント群」のスタッフ看護師に対しては,特に上司の適切な承認が求められる.

Ⅵ. 結論

スタッフ看護師が新人看護師指導役割に抱くやりがい感と負担感の同時認知に焦点をあて,これらの同時認知の実態と,精神的健康及び職務満足度の関連を検討した結果,以下のことが明らかとなった.

1.「アンビバレント群」は,やりがい感が高く負担感が低い群と比べて,有意に精神的健康が低く,負担感が高い群は精神的健康が低かった.

2.「アンビバレント群」はやりがい感が高く負担感が低い群と比べて,有意に職務満足度が低く,「アンビバレント群」においては新人看護師指導役割に対してやりがい感はあるが,負担感を高く感じ,職務満足が上がっていなかった.

3.やりがい感が高い群は負担感の高低により,K6及び職務満足に有意差がでるが,やりがい感の低い群は負担感の高低で,K6及び職務満足に差はなかった.

以上から,新人看護師指導役割は,負担を感じながらもやりがいを感じることのできる役割であり,自身の成長につながる役割でもある.課せられる役割の調整が必要と考える.多様な業務を行いながら,新人看護師指導役割を果たす場合の負担感が軽減できるよう,組織的な取り組みが必要である.コミュニケーションできる環境づくり,上司からの承認を受ける関わりにより,職務満足度が向上する可能性が推察された.やりがい感を感じる群においては,負担感が与える影響が大きいことが示唆された.

Ⅶ. 研究の限界と課題

対象がA県と限定された調査であり,一般化することは難しい.また,本研究はCOVID-19の流行期に実施しており,新人看護師の指導環境や指導看護師の精神的負担も通常時とは異なる状況であった.そのため,当時特有の影響があった可能性を考慮する必要がある.

また,多くの対象者が複数の役割を兼務していたため,特定の役割に対するやりがい感や負担感には,全体の業務量が影響している可能性がある.今後はやりがい感や負担感に影響を及ぼす因子についてさらに研究を進めていく必要がある.

付記:本研究は,京都府立医科大学大学院保健看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本論文の一部は,第42回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にあたり,調査へのご協力を頂きました対象者の方々と研究協力施設の皆様,ご指導賜りました皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:上妻京子:研究計画からデータ収集,分析の実施および論文の作成.岩脇陽子:研究プロセス全体への助言および論文作成への助言.松岡知子:研究プロセス全体への助言.山本容子:分析の実施および解釈への助言および論文作成への助言.室田昌子:研究プロセス全体の助言および分析の実施と解釈,論文作成への助言.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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