日本看護科学会誌
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原著
看護師の情動知能とワーク・モチベーションの関係における職場の感謝の媒介的役割:横断研究
森本 由紀子山本 恵美子山中 真
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2026 年 46 巻 p. 237-246

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Abstract

目的:看護師の情動知能とワーク・モチベーションの関連において,職位や経験年数による職場感謝の媒介効果を明らかにすることである.

方法:13医療機関の看護師長38名,看護師152名に対して無記名自記式質問紙調査を実施.質問紙は基本属性,情動知能測定尺度(以下EQS),看護師のワーク・モチベーション測定尺度(以下WM),日本語版職場感謝尺度(以下GAWS)から構成し,相関分析,媒介分析を行った.

結果:相関分析では経験年数とWMに正の相関,EQS,WM,GAWSに正の相関を認め,媒介分析では,職場感謝の媒介効果は,師長は認めず,看護師経験年数8年以上群は完全媒介,8年未満群は部分媒介を認めた.

結論:本研究は,看護師において情動知能がモチベーションに与える効果に職場感謝が媒介することを示した.特に経験年数8年以上は,職場感謝がモチベーション向上の要因となることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study examined whether workplace gratitude mediates the relationship between emotional intelligence and work motivation among nurses, considering variations in job position and years of experience.

Methods: A cross-sectional survey was conducted among 38 nurse managers and 152 staff nurses from 13 medical institutions. Participants completed an anonymous self-administered questionnaire comprising demographic items, the Emotional Intelligence Scale (EQS), Work Motivation Scale (WM), and the Japanese version of the Gratitude at Work Scale (GAWS). Correlation and mediation analyses were performed.

Results: Correlation analyses revealed positive associations between years of experience and work motivation as well as between emotional intelligence, work motivation, and workplace gratitude. Mediation analysis indicated that workplace gratitude does not mediate the relationship between emotional intelligence and work motivation among nurse managers. However, among staff nurses with eight or more years’ experience, workplace gratitude fully mediated this relationship, whereas only a partial mediation effect was observed in those with less than eight years’ experience.

Conclusions: This study demonstrated that workplace gratitude mediated the relationship between emotional intelligence and work motivation among staff nurses. Findings indicate that workplace gratitude is particularly important for nurses with ≥8 years of clinical experience.

Ⅰ. 緒言

近年の医療ニーズの多様化に対応可能な質の高い看護ケアの提供には,看護師の資質や能力の向上が重要であり,これらはワーク・モチベーションと関連があることが認識されている.ワーク・モチベーション向上には,仕事の達成感,承認や責任,成長の機会などによる能力やパフォーマンスの向上が課題(Herzberg, 2003)であり,動機づけの要因として他者との関係性の構築や促進が重要である(Bezerra et al., 2010平川,2013).

近年,心理学の分野において注目される概念である情動知能(Emotional intelligence)は,情動コントロールに関与し,対人関係を促進する知能として認識され,主に対人コミュニケーションの場面で自分自身や他者の情動を認識し,表出し,コントロールする能力である.定義は「自己と他者の情動を正確に感受し認識する能力,情動を理解し,情動について理性的に考える能力,自己と他者の情動を効果的に管理,対応する能力」(Mayer et al., 1990),構成概念は「自己対応」と「対人対応」,「状況対応」である.

情動知能は,自己の認識や理解,自分の気分をコントロールし,自分自身を動機づけるなどモチベーションと関連があることや,他者の感情を認識し,感情を受け止め,共感する能力であることが示唆され(Goleman, 1995/1996Goleman et al., 2002/2002),職場における情動知能は,個人や集団の活性化をおこない,より適応的で肯定的な側面を増進する働きがあり,チームでの協働や対人関係の構築や促進などのネガティブな感情の調整に関連すると報告されている(大竹ら,2001).

国内外の看護師の情動知能に関する研究においても,看護師の情動知能は職務満足度や看護ケアの質向上とポジティブな関係にあることが示され,看護師のストレスおよび燃え尽き症候群の減少,仕事の満足度や定着率との関連(Ekermans & Brand, 2012Majeed & Jamshed, 2020Phillips et al., 2021),看護師間の協働との関連(Zaid et al., 2021)が明らかになっている.さらに,看護管理者の情動知能と職場環境の醸成との関連があることや(Akerjordet & Severinsson, 2008平井・吉岡,2020古澤,2017, 2021),師長の情動知能は看護師より高く(丹野・鄭,2021),「自己対応」,「状況対応」は30代から高いと述べられ(大坪,2017),職位や臨床経験年数の高低など個人の背景の影響をうけることが示唆されている.これらから情動知能は,看護師のワーク・モチベーション向上の動機づけの個人的要因として有意義な指標であるといえる.

職場のモチベーションとして認識されるワーク・モチベーションは「目標に向けて行動を方向づけ,活性化し,そして維持する心理的プロセス」(Mitchell, 1997)と定義されている.ワーク・モチベーションの因子構造は,内発動機づけの概念をもとに考えられ,達成志向,競争志向,協力志向の3因子構造(Barrick et al., 2002)が示されている.わが国では,池田・森永(2017)が学習志向の因子を加えた4因子構造として「多側面ワーク・モチベーション尺度」を開発しており,ワーク・モチベーションは達成志向モチベーションの側面だけでなく,職務特性に応じて,関連するモチベーションが喚起され,職務パフォーマンスに結実することが示唆されている.看護分野では,モチベーションの内容理論を基に4つの動機傾向とコンピテンシー・モデルから構成される「看護師のワーク・モチベーション測定尺度」(西村ら,2017)を基にした研究において,ワーク・モチベーションが看護職者の成果に寄与することを認識し,これらの関心を高める支援を構築する必要があると指摘されている(西村,2018).ワーク・モチベーションの向上には,上司や周囲などによる働きやすい職場環境の構築が影響することが示唆されている.看護師のワーク・モチベーションの動機づけに関する研究では,職場の環境要因が挙げられ,良好なチームワークや,看護管理者とケアチームとの良好な関係(Bezerra et al., 2010),上司の支援による働きやすい環境や周囲のサポートが重要であることが報告されている(平川,2013).

このような働きやすい職場環境の一つとして,職場の感謝が挙げられる.職場の感謝について,Cain et al.(2018)は,「仕事の様々な側面が自分の人生に影響を与えていることに気が付き,感謝する傾向」と定義し,職場環境における感謝は,職場への感謝であることが示唆されている.感謝という感情を抱くためには,自らが恩恵や利益の受け手であるという認識が必要であると示唆され(Emmons & Stern, 2013),また感謝の感情体験は,自分以外の対象からの恩恵や利益の価値の評価であり,それらの見返りが期待されていないほど強くなるとされている(Watkins et al., 2006).

感謝には「感謝される」受動的感謝と「感謝する」能動的感謝との二側面がある(野田・小松,2022).受動的感謝は,相手の性格や相性,感謝の言動の有無など周囲の要因による影響が生じる可能性があるのに対し,能動的感謝は,自己の感情に起因するポジティブな感情であり(野田・小松,2022),対人関係促進と職場の成果行動や(池田,2015),看護師の仕事や組織への肯定的感情や職務継続との関連があると述べられている(井上・山田,2015).

職場環境における感謝は,ネガティブな感情の調整に有効であり(Algoe & Haidt, 2009Riskin et al., 2019),幸福感との関連があることから(Wood et al., 2010Emmons, 2016Kim et al., 2019),ポジティブな感情として職場環境の醸成との関連があることが認識されている.わが国においても,状況をポジティブに解釈することや(Komase et al., 2020),上司のポジティブな態度や言動(田中・布施,2022)は,看護師のモチベーション向上と関連があると述べられており,感謝は幸福感に関連し,仕事や組織に対するネガティブな感情の調整がポジティブな感情を促し,モチベーション向上に影響することが明らかになっている.

本研究では,看護師個人の情動知能,職場への感謝とワーク・モチベーションとの関連に焦点を当て,感謝の位置づけは,「感謝する」視点である能動的感謝に基づいて捉えることとする.能動的感謝は,他者の努力や配慮に対して共感するポジティブな感情であり,情動知能もまた,他者の感情を認識し,感情を受け止め共感する側面があることから(Goleman, 1995/1996Goleman et al., 2002/2002),情動知能は職場への感謝を媒介してネガティブな感情からポジティブ感情への調整や,他者の理解や共感が促進し,ワーク・モチベーションに影響を及ぼしていることが予測される.

しかし,情動知能は,職位や経験年数(丹野・鄭,2021),年齢(大坪,2017)との関連があることが示唆されているものの,個人の情動知能が職場への感謝を媒介してワーク・モチベーションへの関連の強さが,看護師の職位や経験年数の高低に関連して変わる可能性について検証した研究は見られない.

そのため,本研究は,職位,臨床経験年数を調整変数,職場への感謝を媒介変数として用い,情動知能とワーク・モチベーションとの関連について職場への感謝の媒介効果を明らかにすることを目的とした.これは,情動知能がネガティブ感情の調整や他者への理解や共感をおこなう際に,感謝がさらにポジティブ感情や他者への理解や共感を促進し,モチベーション向上に及ぼす影響を検討するうえで重要な示唆となると考える.

Ⅱ. 研究目的と本研究の仮説

本研究では,看護師の情動知能とワーク・モチベーションとの関連について,職位や経験年数の高低による職場への感謝の媒介効果を明らかにすることを目的とする.

1. 用語の定義

モチベーション:目的や目標に向けて行動を起こす意欲,それを維持する要因

感謝:組織や他者の行為,心情に対する情緒的でポジティブな反応

情動知能:自己と他者の情動および現在の状況を正確に感受,認識し,理解し,効果的に管理,対応する能力

2. 本研究の仮説

本研究の仮説は,情動知能がモチベーションに与える効果は感謝によって変化が生じ,さらには,職位や経験年数による違いがある(図1).

図1  本研究の概念枠組み

Ⅲ. 研究方法

1. 研究対象者と調査方法,調査期間

本研究では,病院に勤務する病棟看護師長と看護師を対象とした.なお,病棟とは組織特性を異にする外来看護および訪問看護は,組織背景のばらつきを最小化するため対象から除外した.調査方法は,対象の均質性を確保し,職位に基づく分析を行うため,病棟看護師長1名と看護師4名を1ユニット(計5名)として設定し,ユニット単位で調査を実施した.本研究は,情動知能測定尺度(Emotional Intelligence Scale:以下EQS)と看護師のワーク・モチベーション測定尺度:以下WM)における日本語版 職場感謝尺度(Gratitude At Work Scale:以下GAWS)の媒介効果を検討するため対象者の属性については,性別,年齢,臨床経験年数を分析に用いた.なお,「職場への感謝」は病棟環境の影響を受けやすいと推察されたため,施設IDおよびユニットIDは配布・回収管理と構成均等化のみに使用し,統計解析には含めなかった.

調査施設は,急性期から慢性期まで幅広い経験,年齢の看護師が在籍すると考え,全国の200床以上の13病院の38ユニット,190名を対象者とした.質問紙は,対象病院に郵送し看護部長に研究協力の承諾を得て,看護管理者および看護師に,同じ内容の無記名自記式質問紙調査を実施した.回答後は研究対象者自身で封筒に入れ封緘した後,回収箱への投函により回収し,一括して郵便ポストに投函するよう依頼した.調査期間は,2023年2月から4月である.

2. 調査項目

1) 個人属性

看護職員に対して,性別,年齢,資格,臨床経験年数,師長経験年数,部署での経験年数,最終教育課程,認定看護管理者教育課程,有給取得率,残業時間の合計10項目について質問した.

2) 情動知能

島井ら(2002)により開発された「EQS」を用いて測定した.「自己対応」,「対人対応」,「状況対応」の3つの領域に対し,9つの対応因子,21の下位因子,合計65項目で構成されている.「自己対応」は自己の心の動きを知り,行動を支え,効果的な行動をとる能力,「対人対応」は他者の感情に対する認知や共感をベースに,他者との人間関係を適切に維持する能力,「状況対応」は環境の変化に適応し,自己対応や対人対応を状況に応じて使い分ける能力である.全ての項目は「非常によくあてはまる(4点)」から「まったくあてはまらない(0点)」の5件法で回答し,得点が高いほど情動知能が高いことを意味する.この尺度の信頼性を示すクロンバックα係数は0.70~0.86であり,妥当性は因子的妥当性,構成概念妥当性で確認されている.情動知能測定尺度はライセンス料を支払い使用した.

3) モチベーション

西村ら(2017)により開発された「WM」で測定した.本尺度は,「チーム協調への関心」,「患者支援への関心」,「キャリア向上への関心」,「リスク回避への関心」の4つの下因子12項目で構成される.各質問に「とても関心がある(4点)」から「全く関心がない(1点)」までの4件法で回答を求め,得点が高いほど看護師のワーク・モチベーションが高いことを意味する.尺度の信頼性を示すオメガ信頼性係数は0.83であり,妥当性は構成概念妥当性で確認されている.尺度使用については,作成者に使用許諾を得た.

4) 職場に対する感謝の気持ち

Komase et al.(2020)により作成された「GAWS」を使用した.この尺度は,米国でCain et al.(2018)により開発された「職場での感謝の尺度(Gratitude At Work Scale)」をもとにガイドラインに沿った手順で作成された.日本語版GAWSは,職場への感謝を規定する2つの因子である,サポーティブな職場環境への感謝(6項目),意味のある仕事への感謝(4項目)の合計10項目で構成されており,感謝することを測定する尺度である.すべての項目は「いつもありがたさを感じる(5点)」から「全くありがたさを感じない(1点)」の5段階のリッカート尺度で得点を求め,得点が高いほど感謝が高いことを意味する.この尺度の信頼性を示すクロンバックα係数は0.81~0.91であり,妥当性は構成概念妥当性,収束的妥当性で確認されている.尺度使用については,作成者に使用許諾を得た.

3. 分析方法

分析対象は,各尺度の項目に欠損のない回答とした.基本属性,質問紙の項目の基本統計量を算出,データの正規性を確認し,基本属性,各尺度の総得点および下位因子間のSpearmanの順位相関係数算出をおこなった.次に,職位,看護師の経験年数についての各尺度の群間比較には一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合には,Holm法による多重比較をおこなった.

最後に,情動知能がワーク・モチベーションに影響を及ぼす影響について,職場への感謝が媒介するか否かを検討するために媒介分析をおこなった.媒介分析では情動知能を独立変数,職場への感謝を媒介変数,ワーク・モチベーションを従属変数,職位と臨床経験年数を調整変数として,師長,看護師の臨床経験年数により各変数間の関連の強さが変わる可能性について分析をおこなった.看護師の経験年数については,情動知能が高くなる30代以上を経験年数8年以上と考え,経験年数高低8年による比較をおこなった.間接効果の有意性の確認には,正規性の検定結果に基づき,正規性を仮定しない方法(Bootstrap法)を用い,リサンプリング回数は10,000回とした.統計解析には統計ソフトIBM SPSS Statistics Ver.28およびHAD17(清水,2016, 2020)を使用し,検定の統計学的有意水準は5%とした.

4. 倫理的配慮

本研究は,愛知医科大学看護学部倫理委員会の承認を得て実施した(許可番号:P22032).調査では,各施設の看護部長および研究対象者に研究概要や目的,意義,方法,倫理的配慮,研究参加の任意性,個人情報保護,データ管理,研究成果の公表についてなどについて文書にて説明した.質問紙は病院管理IDをつけ,看護師長と看護師の調査ではユニットIDにて連結可能とし,個人を匿名化した.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者の概要と各尺度の信頼性等

全国200床以上の56医療機関を無作為抽出し,そのうち研究参加に承諾を得た13医療機関の38ユニット190名の看護管理者と看護師に調査票を配布し,175名から回答が得られ(回収率92.21%),一部あるいは全ての回答が記入されていない調査票は無効とし,有効回答161(有効回答率92%)を分析対象とした.回答者の施設とユニットに明らかな偏りはなかった.

対象者の属性を表1に示す.各尺度のEQS,GAWSは正規性を認め,WMの正規性は認められなかった.各尺度のCronbachのα係数は,EQSが.96,GAWSが.89,WMが.91であった.

表1 基本属性と情動知能,職場への感謝,看護師のワーク・モチベーション尺度得点

n = 161 師長 n = 34
(21.1%)
看護師 n = 127(78.9%) F
df = 2,157)
多重比較
(Holm法)
臨床経験年数
8年未満 n = 60
(47%)
臨床経験年数
8年以上 n = 67
(53%)
n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD)
性別 女性 146(90.7%) 33(97.1%) 52(86.7%) 61(91.0%)
男性 14(8.7%) 1(2.94%) 8(13.3%) 5(7.5%)
不明 1(0.6%) 1(1.5%)
年齢 37.8(11.4) 49.8(7.7) 27.2(3.4) 41.3(9.2)
経験年数 15.1(10.9) 27.6(8.1) 4.9(1.3) 18.0(8.4)
EQS 合計 127.8(32.4) 126.6(33.2) 124.3(33.7) 116.9(30.9) n.s
自己対応 42.0(10.9) 42.8(11.2) 43.2(10.9) 40.5(11.0) n.s
対人対応 43.8(13.9) 45.4(13.5) 46.8(14.8) 40.3(13.0) 3.7* 8年未満>8年以上
状況対応 36.0(12.0) 38.5(12.4) 34.4(11.6) 36.0(12.1) n.s
GAWS 合計 3.5(0.6) 3.5(0.6) 3.6(0.6) 3.4(0.7) n.s
職場環境 3.4(0.7) 3.3(0.5) 3.5(0.6) 3.3(0.7) n.s
意味ある仕事 3.7(0.7) 3.8(0.7) 3.7(0.7) 3.5(0.8) n.s
WM 総計 37.5(5.3) 41.4(4.7) 36.5(4.9) 36.3(5.1) 14.0** 師長>8年未満,8年以上
チーム協調 9.9(1.6) 10.9(1.5) 9.6(1.5) 9.7(1.6) 9.3** 師長>8年未満,8年以上
患者支援 9.9(1.4) 10.8(1.2) 9.6(1.5) 9.7(1.2) 10.5** 師長>8年未満,8年以上
キャリア向上 7.9(2.0) 9.0(1.7) 7.8(2.0) 7.3(2.0) 8.6** 師長>8年未満,8年以上
リスク回避 9.8(1.6) 10.7(1.3) 9.6(1.7) 9.6(1.6) 6.5** 師長>8年未満,8年以上

* p < .05,** p < .01

EQS;情動知能,GAWS:職場への感謝,WM:看護師のワーク・モチベーション

また,WMの得点は,師長がスタッフに対して有意に高かった(F(2, 157) = 14.0, p < .01).臨床経験年数,EQS,GAWS,WMの相関分析の結果,臨床経験年数とWMにおいて弱い正の相関(r = .27, p < .01)を認め,EQS,GAWS,WMにおいて正の相関(r = .42~.52, p < .01)を認めた(表2).

表2 臨床経験年数と情動知能,職場への感謝,看護師のワーク・モチベーション尺度の相関

1.臨床経験年数 2.EQS合計 3.GAWS合計 4.WM総計
1.臨床経験年数
2.EQS合計 –.019
3.GAWS合計 –.091 .418**
4.WM総計 .266** .458** .524**

Spearmanの順位相関 ** p < .01

EQS:情動知能 GAWS:職場への感謝 WM:看護師のワーク・モチベーション

職位別の相関では,師長のWMはEQSおよびGAWSと中等度の相関を認め(r = .51~.59, p < .01),EQSとGAWSは相関を認めなかった.看護師の経験年数8年高低による相関では,両群でWMはEQSおよびGAWS,EQSとGAWSの全てにおいて,中等度から弱い正の相関(r = .32~.60, p < .01)を認めた(表3).

表3 職位,臨床経験8年以上および未満別の情動知能,職場への感謝,看護師のワーク・モチベーション尺度の相関

1.EQS合計 2.GAWS合計 3.WM総計
師長
n = 34
1.EQS合計
2.GAWS合計 .227
3.WM総計 .511** .594**
臨床経験
8年未満
n = 60
1.EQS合計
2.GAWS合計 .412**
3.WM総計 .323** .562**
臨床経験
8年以上
n = 67
1.EQS合計
2.GAWS合計 .512**
3.WM総計 .599** .558*

Spearmanの順位相関 ** p < .01,* p < .05

EQS:情動知能 GAWS:職場への感謝 WM:看護師のワーク・モチベーション

2. EQSがWMに与えるGAWSを媒介変数とした効果

情動知能がワーク・モチベーションに与える影響について,職場への感謝を媒介変数として媒介分析をおこなった.分析の結果,EQSからWMへの有意な正の効果が認められた(β = .29**, p < .01).さらに,EQSを独立変数,GAWSを媒介変数として間接効果の分析を行った.Bootstrap法による検定の結果,間接効果(EQS→GAWS→WM)は,B=.027,SE = .007,95%Cl[.016, .042](z = 4.104, p < .01)となり,EQSはGAWSを介してWMに有意な間接効果を示した.

EQSがWMに与える媒介変数GAWS投入前の効果は(β = .46**, p < .01)媒介変数投入後も(β = .29**, p < .01),依然として直接効果は有意であり,EQSがWMに与える効果は,GAWSが部分的に媒介しているという結果となった.

3. 臨床経験と職位別にみたEQSがWMに与えるGAWSを媒介変数とした効果

師長,看護師の臨床経験年数により各変数間の関連の強さが変わる可能性について分析を行うため,師長,およびスタッフ看護師経験年数8年以上と8年未満の3群に分け媒介分析を行った.

分析の結果,師長のEQSからWMへ有意な正の効果が認められたが(β = .51**, p < .01),EQSからGAWSへの有意な効果はなかった(β = .23, n.s).この結果から,師長のWMは,GAWSを媒介する効果は認められないことが示された.

次に,臨床経験8年以上のスタッフ看護師のBootstrap法による検定では,間接効果(EQS→GAWS→WM)は,B = .035,SE = .012,95%Cl[.016, .063](z = 3.006, p < .01)となり,EQSはGAWSを介してWMに有意な間接効果を示した.EQSがWMに与える媒介変数GAWS投入前の効果(β = .32**, p < .01)は媒介変数投入後(β = .11, p < .01)となり,有意ではなくなったため,EQSがWMに与える効果は,GAWSが完全に媒介していることが明らかとなった.

最後に,臨床経験8年未満のスタッフ看護師のBootstrap法による検定の結果,間接効果(EQS→GAWS→WM)は,B = .025,SE = .012,95%Cl[.006, .053](z = 2.157, p < .01)となり,EQSはGAWSを介してWMに有意な間接効果を示した.EQSがWMに与える媒介変数GAWS投入前の効果(β = 60**, p < .01)は媒介変数投入後(β = 42**, p < .01)となり,EQSがWMに与えるGAWSの媒介効果が部分的であることが示された(図2).

図2  看護師の情動知能とワーク・モチベーションの関係における職場への感謝の媒介分析

よって本研究の仮説,情動知能がモチベーションに与える効果は感謝によって変化が生じ,さらには,職位や経験年数による違いがあるは支持され,感謝は情動知能がモチベーションに与える影響に媒介し,関連があることが示唆された.

Ⅴ. 考察

1. データの信頼性と適切性

本研究の対象161名は,全国平均と比較して男女の割合について同様の割合を示した.年齢分布や臨床経験年数についても,病棟に勤務する看護管理者と看護師を対象とした看護師の現状を概ね反映していると考えられた.

本研究で得られたデータについて,3つの尺度の得点の平均値や因子構造は,先行研究と比較すると同様の結果が得られた.以上のことより,対象者の属性や各尺度の集計結果は,看護管理者と看護師のEQS,WM,GAWSの特徴を示しており,本研究の目的である看護管理者と看護師の情動知能,モチベーション,職場への感謝を調査し,それらの関連について示唆を得るために有用な標本が得られたと考える.

2. 研究対象者の情動知能,職場への感謝,モチベーションの状況,尺度間の相関

情動知能およびモチベーションと感謝の関係を探索するため,EQS,GAWS,WMの3つの尺度の相関係数の算出をおこなった.その結果,すべての尺度間の得点に中等度の有意な相関が認められ,情動知能,ワーク・モチベーションおよび職場への感謝は相互に影響を及ぼすことが示された.

尺度の得点結果から,ワーク・モチベーションは,患者のケアやチーム連携に対して向上し,キャリアに対しては低いことが明らかになった.これは看護師を対象としたWM尺度を用いた先行研究(西村ら,2018)と同様の結果であった.次に職場への感謝では,サポーティブな職場環境への感謝よりも意味ある仕事に対して感謝を感じていることが明らかになった.情動知能については先行研究(大坪,2017)と同様に,看護師は相手との共感や配慮などの対応力,次に自己の感情を知り対応する力が高く,状況に対して対応する力が低いことが示された.

職位別の相関では,師長は情動知能および感謝とモチベーションは関連するが,情動知能と感謝は関連しなかった.さらに,看護師は経験年数高低8年にかかわらず,情動知能,モチベーション,職場への感謝が互いに関連することが示された.看護管理者の情動知能は,それまでの職業や私生活などの経験によりすでに獲得している可能性が高いと示唆され(大坪,2017),看護師は,情動知能と職場への感謝が関連するが,看護管理者になると情動知能と職場への感謝とは相互の関係は弱くなり,モチベーションにも個々に関連すると推測される.

3. 看護管理者および看護師の情動知能が職場への感謝を媒介してワーク・モチベーションに及ぼす影響

媒介分析では,情動知能がワーク・モチベーションに与える効果に職場への感謝が媒介する構造は,師長および看護師の経験年数高低8年により異なることが示された.

師長群の情動知能はワーク・モチベーションに影響したが,職場への感謝には有意な効果が認められなかった.この結果は,師長の主たる業務が看護実践からチームの醸成や運営,病院運営への参画などの管理業務に移行していることに起因すると考える.師長の職務特性上,直接的な看護実践の機会が減少し,患者や同僚からの恩恵や利益を受ける機会が構造的に減少している.さらに,情動知能の構成要素の視点から考察すると,師長は「自己対応」「状況対応」が高いとされている(丹野・鄭,2021大坪,2017).師長は,EQSの「自己対応」能力として,自己の気分をコントロールし,自分自身を動機づける能力を駆使することで,自己完結的に高いワーク・モチベーションを維持している可能性が示唆される.また,師長が発揮するEQSの「状況対応」能力は,組織を考慮しての決断や組織の構成員への気配りといった組織に対して能動的に与える側面が強調されるため,他者の努力や配慮に共感する能動的感謝の関連が弱くなると考える.師長が抱く感謝は,調査対象とした他者の努力や配慮に対して共感するポジティブな感情がもたらす能動的感謝の特徴よりも,職業選択や仕事と生活の中での出会い,自分を肯定すること,資源の獲得,支えられてきたことへの気づきなどのキャリア発達に関連して抱くものが主であるという先行研究の指摘とも一致する(村井・原田,2017).したがって,師長の情動知能は感謝を媒介とせず,情動知能そのものと職場への感謝がそれぞれ独立してモチベーションに影響を及ぼす構造にあると考察する.

次に,経験年数8年以上の看護師群では,職場への感謝(GAWS)がEQSとWMの関係を完全に媒介した.この結果は,中堅看護師の成熟した情動知能の多面的な機能が,感謝の発生に決定的に寄与していることを示している.経験年数8年以上の看護師は,専門職としての豊富な看護実践の経験に加え,自己の感情理解や他者の感情欲求にも適切に対応する能力としてEQSの「自己対応」「対人対応」が身についていると考えられる.新ら(2019)は,患者や家族との人生のイベントの共有や,他部署との協働を通じて関係性の中で育まれる道徳的発達が他者への配慮や自己の探究を強化していく可能性を示している.加えて,EQSの「状況対応」領域は,集団の雰囲気や気持ちの流れに気づき,導き,コントロールする能力(島井ら,2002)である.これは,中堅看護師が組織における役割や責任を拡大し,組織状況の中で集団や他者への配慮を行うといった役割を発揮することを可能にすると考える.中堅看護師の成長は,周囲の状況を察知したリーダーシップ力や,指導力を向上させるなどの役割発揮により促進されるという先行研究の指摘とも一致する(青木,2018).こうした役割発揮を通じて幸福感を得る過程で,上司や同僚から支援(恩恵)を受けることで,その支援に対する感謝の気持ち(GAWS)が生じると推察される.すなわち,中堅看護師は情動知能を駆使して対人関係や組織運営に適応する中で,支援という恩恵を効果的に受け取り,その恩恵に対する感謝が喚起されると考える.この感謝が,ネガティブ感情の調整や,他者への理解・共感の促進を通じて,結果的にワーク・モチベーションを全面的に高め完全な媒介構造となっていると考察する.

最後に,経験年数8年未満の看護師群では,職場への感謝がEQSとWMの関係を部分的に媒介した.この群は,業務の多くの時間を費やす看護実践において,技術を身につけ能力を向上し,一人前の看護師として著しく成長する時期である.大坪(2017)は,看護基礎教育や臨床では,看護師自身が自己の感情コントロールについて学ぶ機会はほとんど設けられておらず,先輩看護師の言動や臨床現場で自身が感情のコントロールを模索することで身につけていくと述べている.このことから8年未満の看護師のEQSの「自己対応」能力は臨床における対人関係のなかで獲得する途上であると推測される.この「自己対応」能力の獲得とともに「対人対応」能力が,チーム連携や患者・家族との対人関係における成功体験を促進し,これがモチベーション向上に直接的に影響する側面が大きいと考える.

同時に,他者との関係性による成功体験は,上司や同僚から受ける支援に対する感謝(GAWS)を生じさせ,その感謝がモチベーションに間接的な好影響を及ぼしていると考える.Algoe & Haidt(2009)は,恩恵を与えてくれた相手や相手との関係に対するポジティブな変化をもたらし,相手に積極的に関わっていく行動を動機づけることを通じて対人関係を促進すると示唆している.したがって,この時期のモチベーションは,情動知能による成功体験の直接的な影響と,感謝を介した間接的な影響の両方によって支えられているために,部分媒介の結果となったと考察する.

本研究で得られた新たな知見は,看護師の情動知能がモチベーションに影響する際に感謝が媒介する構造は,看護師の職位や経験年数による職務や役割の違いから異なることである.看護実践で得られる能力の向上や,対応により生じる満足感・達成感は,職場への感謝に繋がり,情動知能はこの感謝を媒介してワーク・モチベーションの向上に影響を及ぼしていた.

以上のことから,看護師の情動知能が職場への感謝を媒介してモチベーション向上に導くためには,看護実践による達成感や他者の感情理解・対応能力の向上,仕事に対する支援を受ける中で自己の価値や仕事の意義を見いだし,職場への感謝の気持ちが高まることが重要であることが示唆された.

患者を対象とする看護の仕事は,患者の尊厳や死に対する葛藤,予期せぬ事態や多重課題への対応など心身共に疲弊し,達成感を得られなくなることがあるばかりか意欲の低下につながることも少なくない.

看護師の情動知能が職場への感謝を媒介し,モチベーション向上を促進するためには,看護実践における効果や患者の言動の振り返りを意識づける機会の提供,経験年数や成長に合わせた病棟内の役割拡大や委員会活動などへの参加の推進と,他者との関係性の構築や促進の支援など,職場環境を醸成することが重要であると考える.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

今回の調査は,全国200床以上の病院の病棟に勤務する看護管理者,看護師を対象にした調査であり,サンプルサイズが161データ,そのうち師長は34データであるため,統計的検出力は低く,限定的で一般化するには限界がある.今後さらに正確な結果を導くためには,対象施設の範囲を拡げ,より大きなサンプルサイズを用いた研究が必要である.

本研究は,看護師の情動知能とモチベーションとの関連について看護師の職場への感謝を媒介変数,経験年数を調整変数としてその関連を示すものである.そのため看護師の個人の背景に関する項目や労働環境との関連については調査していない.今後は個人の背景や労働環境との関連,外来看護や訪問看護の領域についてさらなる調査が必要である.最後に,本研究では,能動的感謝に着目したため受動的感謝の影響は明らかにされていない.田中・布施(2022)は,看護師が患者から感謝されることで心理的報酬を得て自信を高め,家族患者との社会的関係を築きながら職業継続のモチベーションを高めていると言及していることから,受動的感謝である「患者家族から感謝される経験」や,師長や看護師間で生じる「感謝される経験」がモチベーションに影響を与える可能性がある.したがって,受動的感謝に関する調査を通じて感謝とモチベーションの関連構造を明確化することが期待され,この分野における研究のさらなる蓄積が望まれる.

付記:本論文の内容の一部は,第27回日本看護管理学会学術集会において発表した.本研究は,愛知医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力頂きました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究に多大なご指導とご助言を下さいました諸先生方に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YMは研究の着想およびデザイン,統計解析の実施および原稿作成までの全体を実施した.EYおよびMYは研究デザイン,分析,解釈への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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