2026 年 46 巻 p. 24-32
目的:精神科看護師を対象に,患者との関係に伴うストレッサー(患者関係ストレッサー)と感情労働及び情緒的消耗感の関連を検討した.
方法:精神科看護師162名(38.24 ± 11.59歳)を分析対象者とし,患者関係ストレッサー,感情労働(患者へのネガティブな感情表出及び共感・ポジティブな感情表出),情緒的消耗感の関連を共分散構造分析により検討した.
結果:患者関係ストレッサーは情緒的消耗感に直接関連するとともに,患者へのネガティブな感情表出を媒介とし,情緒的消耗感に有意な正の関連を示した.一方,患者関係ストレッサーは患者への共感・ポジティブな感情表出に有意な正の関連を示したものの,患者への共感・ポジティブな感情表出は情緒的消耗感に有意な関連を示さなかった.
結論:情緒的消耗感の軽減には,患者との関係に伴うストレッサーにより生じる患者へのネガティブな感情の調整を促し,患者へのネガティブな感情表出を緩和させることが有効であると示唆された.
Aim: The objective of this study was to examine the relationship among stressor associated with patient interaction (patient-related stressor), emotion work, and emotional exhaustion in psychiatric nurses.
Methods: Data from 162 psychiatric nurses(mean age: 38.24 ± 11.59 years) were analyzed to examine the relationship among patient-related stressor, emotion work (negative and empathetic/positive emotional expression towards patients), and emotional exhaustion using covariance structure analysis.
Results: The analysis revealed that patient-related stressor was directly associated with emotional exhaustion and also demonstrated a significant positive association with emotional exhaustion mediated by negative emotional expression towards patients. Moreover, while patient-related stressor demonstrated a significant positive association with empathetic/positive emotional expression towards patients, empathetic/positive emotional expression towards patients were not significantly associated with emotional exhaustion.
Conclusion: To mitigate emotional exhaustion, it would be effective to alleviate negative emotional expression towards patients by promoting the regulation of negative emotions caused by patient-related stressor.
精神疾患を有する患者の数は著しく増加しており(厚生労働省,2025),それに伴い精神科看護師をはじめとした精神科医療の専門職の重要性はますます高まっている.こうした社会的背景のもと,精神科看護師には質の高い看護ケアを提供するという重要な役割が求められるが,その実現には看護師自らのメンタルヘルスが維持され,バーンアウトなどのストレス反応を予防することが望まれる(北岡(東口)ら,2004).特に,バーンアウトは精神科看護師の精神的健康の悪化のみならず,患者の生命に関わる重大なリスクを引き起こす可能性がある(北岡(東口),2005).したがって,精神科看護師のバーンアウトの予防は喫緊の課題である(Imai et al., 2006).
バーンアウトとは,対人援助職者が長期にわたり援助的関係を継続する過程で,心的エネルギーが過度に要求されるストレッサーに遭遇した結果,極度の心身の疲労と感情の枯渇が引き起こされるストレス反応である(Maslach & Jackson, 1981).対人援助職者は,被援助者の気持ちに寄り添い,その振舞いを受け入れ,私的な問題にまで分け入って問題を解決していくことが求められるが,この過程では多大な情緒的エネルギーが必要とされる(久保,2003).その結果,情緒的な負荷が高まり,情緒的な消耗感が引き起こされる(久保,2007).このような状態は「情緒的消耗感」と呼ばれ,バーンアウトの主症状とされている(Maslach, 1993).ゆえに,情緒的消耗感は対人援助職者の心理的負担を捉え,バーンアウトの予防や介入策を検討する際の中心的な要素とされる(Maslach & Leiter, 2016).精神科看護師の場合,心理的負担として患者による脅迫や身体的攻撃,さらには患者の予測不能な行動による不快感を含む患者との関係に伴うストレッサー(以下,患者関係ストレッサー)が想定され(Tomaszewska et al., 2024),こうした心理的負担により他科の看護師よりも情緒的消耗感が高い傾向にある(Yousefy & Ghassemi, 2006).したがって,精神科看護師の患者関係ストレッサーや情緒的消耗感への焦点化は,より一層重要であると考えられる.
一方で,久保(2007)は対人援助職者の情緒的消耗感を検討する際,被援助者との関係の中で用いられる多大な情緒的資源(感情的な対応を行うために用いられる心理的なエネルギーや能力の総体)に注目する必要があり,その理解には「感情労働」の視点が不可欠であると指摘している.事実,精神科看護師は患者の行動や言動に情緒的に反応しながらも治療的な関係を維持することが求められるため,自らの感情を調整すること,すなわち感情労働が看護ケアにおいて不可欠であることが示されている(Edward et al., 2017).したがって,精神科看護師の感情労働に着目することは,患者関係ストレッサーと情緒的消耗感の関連を理解する上で重要であると考えられる.
感情労働とは,「仕事において他者と接する際に自らの感情を調整する心理過程」であり,具体的には葛藤場面においてネガティブな感情を抑制し,葛藤場面にありながらもポジティブな感情を表現することが含まれる(Zapf, 2002;Zapf et al., 2001).看護師における感情労働としては,「患者への共感・ポジティブな感情表出」「患者へのネガティブな感情表出」「感情の不協和」「感情への敏感さ」が見出されている(荻野ら,2004).このうち,「患者への共感・ポジティブな感情表出」と「患者へのネガティブな感情表出」は,感情の調整に関連する感情労働である.そして,患者との関係に伴って生じる怒りや不満などの感情の調整に基づく感情を表出する行動傾向を反映していることから,本研究ではこれらを感情労働のスタイルとした.具体的には,「患者への共感・ポジティブな感情表出」は患者との関係に伴う怒りや不満などの感情を調整することで,患者に対するネガティブな感情に目を向けるのではなく,患者に対して共感や理解を示し,感謝や励ましの言葉を使うなど,温かさや思いやりを表現する感情労働のスタイルである.一方で,「患者へのネガティブな感情表出」は患者との関係に伴う怒りや不満などの感情を調整するものの,これらのネガティブな感情の抑制に至らず,その感情を表現する感情労働のスタイルである.
そして,精神科看護師は患者関係ストレッサーに遭遇すると,怒りや恐怖,不安などのネガティブな感情が生じるが,よりよい看護ケアの遂行のためにはこうした感情を自ら調整することが想定され,結果として感情労働が誘発されると考えられる.事実,Edward et al.(2017)は,患者関係ストレッサーが精神科看護師の感情労働を引き起こすことを示唆している.さらに,Grandey(2000)が提唱した感情労働のプロセスモデルでは,職場での対人ストレッサーが感情労働を引き起こし,その結果として情緒的消耗感が生じるとされている.この理論的枠組みに基づけば,精神科看護師が直面する患者関係ストレッサーも感情労働を介して,情緒的消耗感に関連するという一連の過程が想定される.したがって,患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感を連続的な心的過程として捉えることは,精神科看護師の情緒的消耗感に至る構造をより精緻に理解する上で意義があるといえる.しかし,これまでの研究では,こうした患者関係ストレッサーを考慮した上で感情労働と情緒的消耗感の関連を検討した研究は見当たらず,感情労働と情緒的消耗感の関連のみに焦点が当てられてきた(児屋野・香月,2018;Sakagami et al., 2017;高橋ら,2010;上田ら,2017).
加えて,感情労働と情緒的消耗感の関連を検討した研究においては,「患者へのネガティブな感情表出」が情緒的消耗感を引き起こす要因であるという一貫した示唆が得られている(児屋野・香月,2018;Sakagami et al., 2017;高橋ら,2010;上田ら,2017).しかし,「患者への共感・ポジティブな感情表出」と情緒的消耗感との関連については,一致した見解が得られておらず,「患者への共感・ポジティブな感情表出」が情緒的消耗感を抑制する報告もある一方で(児屋野・香月,2018;上田ら,2017),両者の間には関連がないとの報告もある(高橋ら,2010;Sakagami et al., 2017).この背景として,先行研究では勤務時間や経験年数などの個人属性による影響が統制されていない可能性が考えられる.事実,勤務時間や経験年数などの属性は精神科看護師の情緒的消耗感に関連することが報告されているにも関わらず(Wang et al., 2022;Yousefy & Ghassemi, 2006),これらを統制変数とした上で「患者への共感・ポジティブな感情表出」と情緒的消耗感の関連を検討した研究は見当たらない.
以上の先行研究をまとめると,二つの課題が明らかになった.一つ目は,患者関係ストレッサーが感情労働を介して情緒的消耗感に関連する可能性があるにも関わらず,これらの関連を統合的に扱った検討が不足しているという点である.二つ目は,「患者への共感・ポジティブな感情表出」と情緒的消耗感との関連に一致した見解が得られていない点である.この点に関して,その背景には先行研究で情緒的消耗感と関連が指摘されている勤務時間や経験年数などの属性を統制していない可能性が考えられ,これらを統制した上での再検討が必要である.
そこで,本研究では精神科看護師を対象に,図1に示すモデルに基づき,患者関係ストレッサー,感情労働(患者へのネガティブな感情表出及び患者への共感・ポジティブな感情表出),情緒的消耗感の関連を明らかにすることを目的とする.また,本研究では勤務時間や経験年数などの統制変数を考慮した上で,これらの関連を検討する.

大学附属病院81施設に調査の協力を依頼し,22施設から協力の承諾を得た(承諾率27.2%).承諾を得た大学附属病院に所属する精神科看護師394名に研究協力の依頼を行い,187名から回答を得た(回答率47.5%).回答に不備があったものを除いた162名を分析対象者とした(有効回答率86.6%).分析対象者の内訳は,男性34人,女性128人であり,平均年齢は38.24(SD = 11.59)歳,平均看護経験年数は14.84(SD = 10.83)年,平均精神科経験年数は5.77(SD = 5.01)年であった.その他の属性は表1に示した.
| n | % | ||
|---|---|---|---|
| 勤務時間 | 41時間以上 | 81 | 50.0 |
| 41時間未満 | 81 | 50.0 | |
| 残業有無 | 有 | 137 | 84.6 |
| 無 | 25 | 15.4 | |
| 勤務形態 | 常勤 | 158 | 97.5 |
| 非常勤 | 4 | 2.5 | |
| 夜勤有無 | 有 | 146 | 90.1 |
| 無 | 16 | 9.9 | |
| 交代制度 | 二交代 | 141 | 87.0 |
| 三交代 | 4 | 2.5 | |
| その他 | 17 | 10.5 | |
| 休日勤務有無 | 有 | 142 | 87.7 |
| 無 | 20 | 12.3 | |
性別,年齢,看護経験年数,精神科経験年数,勤務時間,残業有無,勤務形態,夜勤有無,交代制度,休日勤務有無についての回答を求めた.なお,勤務時間は41時間以上あるいは41時間未満から,勤務形態は正規雇用あるいは非正規雇用から,交代制度は二交代,三交代,あるいはその他から回答を求めた.
2) 患者関係ストレッサー精神科における患者関係ストレッサーを測定するために,山崎ら(2002)が作成した精神科における看護師の職場環境ストレッサーを測定する尺度の7因子のうち,患者関係ストレッサーとして位置づけられている「看護介入の困難さ」10項目,「看護者への患者からの否定的行動化」6項目,「患者の自殺・自傷の体験」2項目,「患者の感情への巻き込まれ」2項目を使用した.なお,尺度の項目の一部の主語が不明瞭であったため,公認心理師の資格を有する2名(著者含む),心理学を専攻する大学院生5名で一部修正を行った(修正項目番号:1,4,5,6,9,11,14,16,17,18,19,20).「ほとんどない」から「とてもよくある」までの5件法で回答を求めた.得点が高いほど,患者関係ストレッサーの経験頻度が高い.
3) 感情労働感情労働として,感情の調整に基づく行動傾向を測定するために,Zapf et al.(1999);Zapf et al.(2001)の尺度を参考に,荻野ら(2004)が開発した感情労働尺度のうち,「患者への共感・ポジティブな感情表出」6項目と「患者へのネガティブな感情表出」6項目を使用した.「ほとんどない」から「とてもよくある」までの5件法で回答を求めた.患者への共感・ポジティブな感情表出は得点が高いほど,患者との関係に伴う怒りや不満などの感情を調整することで,患者に対するネガティブな感情に目を向けず,患者に対して共感や理解を示し,感謝や励ましの言葉を使うなど,温かさや思いやりを表現する傾向が高い.患者へのネガティブな感情表出は得点が高いほど,患者との関係に伴う怒りや不満などの感情を調整するものの,これらのネガティブな感情の抑制に至らずその感情を表現する傾向が高い.なお,「患者への共感・ポジティブな感情表出」と「患者へのネガティブな感情表出」は,患者との関係に伴う怒りや不満などの感情の調整に基づく感情の表出に関わる行動傾向を反映していることから,本研究ではこれらを感情労働のスタイルとした.
4) 情緒的消耗感情緒的消耗感を測定するために,久保(2004)が作成した日本版バーンアウト尺度のうち,「情緒的消耗感」5項目を使用した.「ほとんどない」から「とてもよくある」までの5件法で回答を求めた.得点が高いほど情緒的エネルギーが枯渇しており,情緒的な消耗が高い.
3. 倫理的配慮調査対象者には研究の目的・方法,研究の参加は任意であること,不参加により不利益を受けないこと,調査への参加と日々の業務は一切関係がないこと,研究途中の同意撤回が可能であること,調査内で得られたデータは本研究以外に使用しないこと,学会等で結果を発表する際は個人が特定されないようにプライバシーを保護すること,得られたデータの管理は厳重に行うことなどを書面で説明し,同意書への署名をもって同意を得た.また,本研究は対象施設の看護部長に研究説明書を用いて研究主旨を説明し,事前に研究協力の承諾を得た.なお,本研究は著者の所属機関の研究倫理審査委員会から事前に承認を得て実施した(承認番号:726).
4. 分析方法まず,患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感を測定するそれぞれの下位尺度の信頼性を検討するために,クロンバックのα係数を算出した.また,それぞれの下位尺度ごとの正規性を検討するために,歪度と尖度を算出した.次に,性別,勤務時間(41時間以上・41時間未満)ごとに患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感の平均値及び標準偏差を算出し,t検定を行った.また,年齢,看護経験年数,精神科経験年数と患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感との相関係数を算出した.その後,仮説に基づき共分散構造分析を行った.共分散構造分析の際には,患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感のいずれかと有意な関連が認められた属性を対応する変数の統制変数とした.また,患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感に関する各観測変数及び潜在変数には,それぞれに対応する誤差変数を設定し,測定誤差を考慮したモデル構成とした.さらに,共分散構造分析の結果に基づき,患者関係ストレッサーと情緒的消耗感を媒介とする感情労働の間接効果の有意性を検討するために,ブートストラップ法による媒介分析を実施した.分析には,IBM SPSS Statistics 26及びAmos 26を使用した.なお,共分散構造分析におけるサンプルサイズの妥当性を評価するために,Preacher & Coffman(2006)の理論に基づき,モデル適合度指標であるRMSEAを用いた事後的検出力分析を実施した.
患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感を測定するそれぞれの下位尺度のクロンバックのα係数を算出したところ,患者の感情への巻き込まれにおいてα = .53とやや低い値であったが,その他の尺度ではα = .66~.86と一定の信頼性が確認された(表2).また,それぞれの下位尺度ごとの正規性を検討するために,歪度と尖度を算出したところ,歪度は–.81~–.27,尖度は–.66~.67の範囲にあり,一定の正規性が確認された(表2).
| 尺度(α) | 歪度 | 尖度 | 合計(n = 162) | 性別(n = 162) | 勤務時間(n = 162) | |||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 男性 (n = 34) |
女性 (n = 128) |
p | 41時間以上 (n = 81) |
41時間未満 (n = 81) |
p | |||||||||||||
| M | SD | Min | Max | M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | |||||||
| 情緒的消耗感 (α = .82) |
–.46 | –.50 | 3.50 | .95 | 1.00 | 5.00 | 3.43 | .10 | 3.52 | .94 | .63 | 3.60 | .86 | 3.40 | 1.02 | .17 | ||
| 患者へのネガティブな感情表出(α = .66) | –.29 | .56 | 3.23 | .61 | 1.17 | 4.83 | 3.36 | .69 | 3.20 | .59 | .18 | 3.25 | .68 | 3.21 | .53 | .66 | ||
| 患者への共感・ポジティブな感情表出(α = .79) | –.58 | .67 | 4.21 | .54 | 2.00 | 5.00 | 4.13 | .62 | 4.23 | .52 | .37 | 4.18 | .53 | 4.23 | .56 | .58 | ||
| 看護介入の困難さ (α = .86) |
–.63 | .45 | 3.83 | .69 | 1.40 | 5.00 | 3.71 | .71 | 3.86 | .68 | .24 | 3.94 | .58 | 3.72 | .77 | .04* | ||
| 看護者への患者からの否定的行動化(α = .84) | –.81 | .33 | 3.89 | .84 | 1.17 | 5.00 | 4.01 | .76 | 3.86 | .86 | .36 | 3.97 | .78 | 3.82 | .90 | .26 | ||
| 患者の自殺・自傷の体験 (α = .83) |
–.68 | –.51 | 3.58 | 1.20 | 1.00 | 5.00 | 3.41 | 1.14 | 3.63 | 1.22 | .35 | 3.53 | 1.20 | 3.63 | 1.21 | .63 | ||
| 患者の感情への巻き込まれ (α = .53) |
–.27 | –.66 | 3.76 | .90 | 1.00 | 5.00 | 3.69 | .98 | 3.78 | .88 | .61 | 3.69 | .90 | 3.84 | .90 | .28 | ||
* p < .05
性別,勤務時間(41時間以上・41時間未満)ごとに患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感の平均値及び標準偏差を算出し,t検定を行ったところ,看護介入の困難さと勤務時間においてのみ有意差が認められ,勤務時間が41時間以上のほうが41時間未満よりも看護介入の困難さの経験頻度が高いことが示された(41時間以上;M = 3.94, SD = 0.58, 41時間未満;M = 3.72, SD = 0.77, p < .05)(表2).次に,年齢,看護経験年数,精神科経験年数と患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感との相関係数を算出したところ,患者の自殺・自傷の体験と精神科経験年数においてのみ有意な正の相関が認められた(r = .18, p < .05)(表3).
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1.情緒的消耗感 | ― | ||||||||
| 2.患者へのネガティブな感情表出 | .30 ** | ― | |||||||
| 3.患者への共感・ポジティブな感情表出 | .04 | –.03 | ― | ||||||
| 4.看護介入の困難さ | .45 ** | .30 ** | .02 | ― | |||||
| 5.看護者への患者からの否定的行動化 | .41 ** | .26 ** | .18 * | .54 ** | ― | ||||
| 6.患者の自殺・自傷の体験 | .05 | .12 | .19 * | .32 ** | .47 ** | ― | |||
| 7.患者の感情への巻き込まれ | .17 * | .22 ** | .14 | .49 ** | .48 ** | .53 ** | ― | ||
| 8.年齢 | –.11 | –.07 | –.02 | –.03 | .05 | .05 | –.03 | ― | |
| 9.看護経験年数 | –.12 | –.09 | –.06 | –.04 | .05 | .05 | –.04 | .45 ** | ― |
| 10.精神科経験年数 | –.10 | –.07 | .02 | –.02 | .12 | .18 * | –.04 | .42 ** | .39 ** |
* p < .05, ** p < .01
患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感の関連について,共分散構造分析を実施した結果を図2に示した.モデルの適合度はGFI = .93,AGFI = .86,NFI = .81,CFI = .87,RMSEA = .09であった.変数間の関連については,患者関係ストレッサーは情緒的消耗感に有意な正の関連を示した(β = .24, p < .01).また,患者関係ストレッサーは患者へのネガティブな感情表出に(β = .27, p < .001),患者へのネガティブな感情表出は情緒的消耗感に有意な正の関連を示した(β = .23, p < .01).一方で,患者関係ストレッサーから患者への共感・ポジティブな感情表出には有意な正の関連が認められたが(β = .18, p < .05),患者への共感・ポジティブな感情表出から情緒的消耗感には有意な関連は示されなかった(β = .01, p = ns).

注)実線は有意な関連,点線は有意でない関連を示す.図の煩雑さを避けるため,誤差変数は省略した.
*** p < .001, ** p < .01, * p < .05.
次に,共分散構造分析の結果に基づき,患者関係ストレッサーから情緒的消耗感における患者へのネガティブな感情表出の間接効果の有意性を検討するために,ブートストラップ法(ブートストラップ標本数10,000)による媒介分析を実施した.その結果,間接効果は有意であった(B = .16, p < .01).
なお,共分散構造分析におけるサンプルサイズの妥当性を評価するために,事後的検出力分析を実施した結果,Null RMSEA = .05,Alternative RMSEA = .09の条件下で検出力は.94であり,サンプルサイズは分析に十分であることが示された.
本研究では,精神科看護師を対象に,患者関係ストレッサーと感情労働及び情緒的消耗感の関連について検討することが目的であった.共分散構造分析によって変数間の関連を検討した結果,モデルの適合度はGFI = .93,AGFI = .86,NFI = .81,CFI = .87,RMSEA = .09であった.GFIは.90以上が良好な適合度であり(Hu & Bentler, 1998),AGFIは.80以上が許容範囲内の適合度である(Hu & Bentler, 1999).また,NFIとCFIは.90以上が良好な適合度であるが,.80~.90が許容範囲内の適合度である(Portela, 2012).さらに,RMSEAは.06未満が良好な適合度であるが,.10未満が許容範囲内の適合度である(Hu & Bentler, 1999).これらを踏まえると,本研究のモデルは概ね許容可能な適合度を示していると解釈できる.以下,各変数間の関連について吟味する.
1. 患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感の関連まず,患者関係ストレッサーは患者へのネガティブな感情表出に有意な正の関連を示した.患者に対してネガティブな感情を持ちながら看護ケアをした経験がある精神科看護師は82.7%と大多数であることが報告されており(松浦・鈴木,2017),患者に対して暴力や拒否が想起された際には,患者の理不尽さへの苛立ちや規範逸脱への憤り,患者の抵抗への困惑といったネガティブな感情が生じることが示されている(浮舟・田嶋,2014).また,精神科看護師の中には,患者からの暴力や拒否により沸き起こったネガティブな感情を調整しようと試みながらも,患者に対する否定的な査定に偏ることで,その感情を反映させた看護ケアを行ってしまうことがあると報告されている(浮舟・田嶋,2014).本研究においても,患者へのネガティブな感情表出に患者関係ストレッサーが関連していることが確認された.
次に,患者へのネガティブな感情表出は情緒的消耗感に低いものの,有意な正の関連を示した.精神科看護師の情緒的消耗感を対象とした児屋野・香月(2018);Sakagami et al.(2017);高橋ら(2010);上田ら(2017)においても,患者へのネガティブな感情表出が情緒的消耗感に有意な関連を示すことは確認されている.なお,患者へのネガティブな感情は,看護師に罪悪感や抵抗感(松浦,2010),無力感や徒労感,葛藤を引き起こすとされ(佐々木,2006),さらに看護師が患者へネガティブな感情を表出した場合,その後には自己嫌悪に陥ることが示されている(武井,2001).加えて,精神科看護師が患者へのネガティブな感情を抑制せず,患者に厳しい態度で接することは,患者の看護師に対するネガティブな感情や攻撃的な言動を強化し,患者-看護師関係の悪循環を生み出し,またその悪循環ゆえに情緒的消耗感が強まるとされる(高橋ら,2010).本研究から得られた患者へのネガティブな感情表出と情緒的消耗感との間の有意な関連は,これらの報告を支持するものであると考えられる.
そして,媒介分析の結果より,患者関係ストレッサーは直接的に情緒的消耗感に関連するとともに,患者へのネガティブな感情表出を介して情緒的消耗感に関連していることが示された.つまり,精神科看護師が患者関係ストレッサー,例えば患者からの否定的な行動化に直面した際,患者へのネガティブな感情を抑制せずに表出してしまうことで情緒的消耗感が引き起こされると考えられる.
また,相関分析の結果をみてみると,患者関係ストレッサーのうち,「看護介入の困難さ」,「看護者への患者からの否定的行動化」,「患者への感情の巻き込まれ」が患者へのネガティブな感情表出や情緒的消耗感と有意な正の関連がある一方,「患者の自殺・自傷の体験」は有意な関連がないことが示された.つまり,患者へのネガティブな感情表出や情緒的消耗感について検討する際,より日常的な看護ケアに関連するこれらの患者関係ストレッサーに注目する必要があると考えられる.
一方で,患者関係ストレッサーは患者への共感・ポジティブな感情表出に有意な正の関連を示した.加えて,相関分析の結果をみてみると,患者関係ストレッサーのうち,「看護者への患者からの否定的行動化」と「患者の自殺・自傷の体験」が患者への共感・ポジティブな感情表出と弱い正の関連があると示された.これらネガティブな感情を生み出す患者関係ストレッサーが患者への共感・ポジティブな感情表出と関連している点は,一見矛盾した結果のようである.しかし,精神科看護師は患者の否定的な行動(野田ら,2014)や自傷的な行動(若杉・松下,2022)を治療の転機として捉え,それらの行動の背後にある患者の苦悩に共感することができると報告されている.すなわち,精神科看護師は患者の受け入れがたい行動に対して葛藤しながらも,試行錯誤して患者の心情を理解しようとするプロセスを経て,患者に対して共感や理解を示し,励ましの言葉を使うなど,温かさや思いやりを表現すると考えられる.
なお,個人属性による影響を統制した本研究においても,患者への共感・ポジティブな感情表出から情緒的消耗感には有意な関連はみられず,高橋ら(2010);Sakagami et al.(2017)と同様の結果が得られた.すなわち,統制変数を考慮した本研究において情緒的消耗感の軽減には,患者への共感・ポジティブな感情表出を増進させることの有効性は期待できず,患者へのネガティブな感情表出を低減させることが有効であることが示唆された.
2. 本研究の意義本研究では,これまでの研究を一歩進め,勤務時間や精神科経験年数を統制変数とした上で,バーンアウトの主症状である情緒的消耗感に至る精神科看護師の心的過程について,患者関係ストレッサーとの関連を考慮した知見を得ることができた.つまり,患者関係ストレッサーは情緒的消耗感に関連するが,その過程では患者へのネガティブな感情表出が媒介変数として関与し,情緒的消耗感につながっている可能性が示された.このことは,精神科看護師のバーンアウトの予防が重要な課題とされるなかで,情緒的消耗感の軽減を目指した具体的な取り組みを考案するための一助となる情報である.なお,本研究結果からは精神科看護師の情緒的消耗感を軽減させる取り組みとして,患者関係ストレッサーが生じる場面に応じて,患者へのネガティブな感情の調整を促し,ネガティブな感情労働のスタイルを緩和させることが有効であると考えられる.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究は,いくつかの大学附属病院の精神科看護師を対象とした限られた人数での調査である.そのため,研究結果の一般化のためには,さらに多くの精神科看護師を対象とした調査を行う必要がある.また,本研究は横断調査であることから,患者関係ストレッサー,感情労働,情緒的消耗感の因果関係については結論付けることができない.この点を明らかにするためには,今後,縦断的な調査を実施し,検討する必要があると考えられる.さらに,本研究では患者関係ストレッサーとの関連がみられた勤務時間と精神科経験年数を統制変数として分析を行った.本研究の知見を実践の場に活かすためには,引き続き精神科看護師の情緒的消耗感の背景にある様々な要因を多角的に捉え,その他の統制変数の可能性も考慮しつつ,精神科看護師の情緒的消耗感に至る機序を検討していく必要がある.加えて,本研究は大学附属病院の精神科看護師を対象とした調査であり,単科精神科病院とは異なる大学附属病院特有の要因(院内ローテーション,配置されている看護師数,患者層など)のために,単科精神科病院の精神科看護師とは異なった傾向が得られた可能性がある.そのため,今後は単科精神科病院など異なる病院環境の精神科看護師を含めた研究が必要である.なお,本研究のモデルでは感情労働の一側面である感情の表出のみに焦点を当てているため,感情労働の構造に関するモデル設定には理論的限界があることは否めない.今後は,感情の敏感さや感情の不協和と情緒的消耗感との関連にも注目し,感情の表出に至る心的過程を他の因子構造と比較検討をすることで,モデルのさらなる精緻化が求められる.
次に,ネガティブな感情が感じられる状況で自らの感情を抑制しなければならないことは困難さを伴う労働であるが,ネガティブな感情を抑制することは,援助者の感情が被援助者との関係に悪影響を与えないようにするために必要なスキルとされる(Zapf et al., 2001).本研究の結果より,ネガティブな感情の調整スキルが患者関係ストレッサーを緩衝する可能性が期待できることが示唆された.そこで,今後は本研究で得られた知見を精神科看護師の情緒的消耗感の軽減に活かすことができるよう,介入調査を実施し,実践の場で活用できるプログラムの開発につなげることも重要な課題であると考える.
謝辞:調査にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:筆頭著者及び第二著者ともに,研究の構想やデザイン,あるいは研究データの取得・分析・解釈に相当の貢献をした.また,重要な知見となる部分を起草,あるいはそれに対して重要な修正を行い,出版前の原稿に最終的な承認を与えた.さらに,研究のあらゆる側面に責任を負い,論文の正確性や整合性に疑義が生じた際は適切に調査し解決することに同意した.