日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T)の有効性の検討
濱谷 雅子平原 優美小沼 絵理新幡 智子沼田 華子野口 麻衣子菱田 一恵山田 享介岡本 有子竹森 志穂栗田 佳代子山本 則子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 46 巻 p. 260-272

詳細
Abstract

目的:訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T)を開発し,有効性を検討した.

方法:PENUT-Tは講義と演習計1日間で構成した.訪問看護師39名を対象に前後比較研究を行い,ルーブリック,ファシリテーター機能自己評価尺度(SAFFS),エンドオブライフ(EOL)ケア教育の意欲・自信尺度(ELNEQ),PENUT開催の実行性を質問紙で尋ねた.

結果:ルーブリック「ロールプレイにおけるファシリテーターの役割の理解」(2.8 ± 1.0, 3.6 ± 0.7),SAFFS「構造化と進行の効力感」(23.2 ± 5.3, 24.5 ± 4.7),ELNEQ「質の高いEOLケアの達成への意欲」(3.0 ± 0.8, 3.3 ± 0.8)等が,受講後に有意に向上した.9名が受講後に地域で開催できると回答した.

結論:PENUT-TはPENUTのファシリテーションと開催の効力感を高めたが,開催の実行性には課題が残った.

Translated Abstract

Objective: We developed a Program of End-of-life care for home visiting Nurses Training-Trainer (PENUT-T) and examined its effectiveness.

Methods: The PENUT-T is a 1-day program of lectures and exercises. A before-and-after comparative study was conducted with 39 home visiting nurses. We collected responses regarding rubric, the Self-Assessment Facilitator Functions Scale, the End-of-Life Nursing Education Questionnaire, and the perceived feasibility of organizing the PENUT course using a questionnaire survey.

Results: The results revealed significant improvements in “Understanding of the facilitator’s role in role play” as rubric (2.8 ± 1.0, 3.6 ± 0.7), “Efficacy in structuring and facilitating” in the Self-Assessment Facilitator Functions Scale (23.2 ± 5.3, 24.5 ± 4.7), and “Preparation to lead initiatives in end-of-life care” in the End-of-Life Nursing Education Questionnaire (3.0 ± 0.8, 3.3 ± 0.8). Nine respondents reported that they felt able to organize the PENUT course in their community immediately after completing the PENUT-T.

Conclusion: The PENUT-T enhanced self-efficacy for facilitating the PENUT and holding PENUT courses. However, enabling PENUT-T graduates to implement PENUT courses in their communities should be examined in future studies.

Ⅰ. 背景

日本における年間死亡者数は,2040年には167万人まで増加すると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所,2023).国民の43.8%は自宅で最期を迎えることを希望している(厚生労働省,2023a).しかし,2023年の自宅死の割合はわずか17.0%である(厚生労働省,2024c).そこで厚生労働省(2024b)は,自宅や介護施設での看取りを増やすことで,国民の希望を実現すると同時に,今後急増する看取りに対応していく方針を明確にしている.

訪問看護は自宅における看取り(以下,在宅看取り)を可能にする1つの要因であり(Hayashi et al., 2011),多死社会を迎える日本において,在宅看取りを実践できる訪問看護師の養成は喫緊の課題である.しかし,苦痛の緩和や症状アセスメント,家族の相談支援など,終末期ケアに負担感を感じている訪問看護師は少なくない(花里・芦谷,2018).他方,訪問看護における家族ケア等の知識の習得と,在宅ターミナルケアの実施には関連があることが報告されており(栗生ら,2017),訪問看護師への教育は在宅看取りを促進できる可能性がある.

看護師を対象とした看取りに関する教育プログラムとしては,End-of-Life Nursing Education Consortium-Japanコアカリキュラム(以下,ELNEC-J)(日本緩和医療学会,2024)や,特別養護老人ホームの看護師を対象としたプログラム(山地ら,2013)(橋本,2018)など,複数報告されている.他方,在宅看取りは対象(松田ら,2021)や多職種連携(菊池,2015)において,施設の看取りとは異なる特徴を有している.このような訪問看護師の実践に即した在宅看取りに特化した包括的な教育プログラムとして,訪問看護師向け在宅看取り教育プログラム(Program of End-of-life care for home visiting Nurses Training: PENUT)が開発され,先行研究において有効性が検証されている(濱谷ら,2024).

PENUTは在宅看取り初心者の訪問看護師が,在宅看取りに必要な知識や技術,療養者・家族・関係職種とのかかわり方を身につけ,「在宅看取りができそう」「在宅看取りをやってみよう」という気持ちになれることを目指したプログラムである(濱谷ら,2024).PENUTは,Webオンデマンド配信による講義20項目と,ライブ演習2項目で構成される(濱谷ら,2024).そのうち演習は,初回訪問時における「訪問看護計画の立案」と「コミュニケーション技術」に関するグループワークであり,各グループにファシリテーターが配置される.したがって,PENUTを継続して開催するためには,グループワークを実践できるファシリテーターの養成が不可欠である.

ファシリテーションとは「中立的な立場で,チームのプロセスを管理し,チームワークを引き出し,そのチームの成果が最大になるように支援する」ことである(フラン,1998/2002).荒木田ら(2020)は保健指導能力を向上させるロールプレイを活用した研修において,重要な役割を担うファシリテーターの技術獲得を目的とした研修を開発した.さらに,地域におけるアドバンス・ケア・プランニングファシリテーターを養成するトレーニングパッケージ(西川,2017)など,ファシリテーションスキルの向上を目的としたプログラムはいくつか報告されている.他方,PENUT演習のファシリテーターには,このような一般的なファシリテーションスキルに加え,在宅看取り初心者が初回訪問において「訪問看護計画の立案」や「コミュニケーション」で躓きやすいポイントを理解したうえで,計画立案の思考プロセスの習得とコミュニケーション技術の向上を援助するファシリテーションが求められる.

PENUTは2022年度より日本訪問看護財団が開催しており,2024年度までの修了者は690名である(濱谷,2025).他方,エンドオブライフ・ケアを実践する看護師に必要な知識を教育するために国内で広く用いられているプログラムとしてELNEC-Jがあり,2024年度までに53,927名が修了している(日本緩和医療学会,2024).ELNEC-Jでは,ELNEC-Jコアカリキュラム指導者養成プログラム(以下,ELNEC-J指導者プログラム)を修了した「指導者」が,医療施設を中心に全国で研修を開催することで,ELNEC-Jを広めてきた.また,がん診療に携わる医師を対象としたPEACEプロジェクトも,指導者研修会を修了した指導者が中心となり,地域で緩和ケア研修会を開催している(木澤,2009).ELNEC-JやPEACEプロジェクトは,今後さらなる普及を目指すPENUTにおいて,1つのロールモデルになると考える.つまり,PENUT普及の鍵は,地域において在宅看取りの現状およびニーズを把握し,PENUTを企画運営できる人材の養成である.

そこで,PENUTを普及させることのできるファシリテーター(以下,PENUT指導者)を養成するプログラムとして,訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(Program of End-of-life care for home visiting Nurses Training-Trainer: PENUT-T)を開発した.PENUT-Tは,PENUTにおけるファシリテーションスキルの向上および企画運営力の習得を主眼としたプログラムである.

Ⅱ. 目的

訪問看護師向け在宅看取り指導者養成プログラム(PENUT-T)を開発し,その有効性を検討した.

Ⅲ. 方法

1. PENUT-Tの作成手順

はじめに,訪問診療,訪問看護,訪問介護,エンドオブライフ・ケアの有識者10名で構成される検討委員会と,在宅看護学および教育学の大学教員と大学院生9名で構成されるワーキング委員会(以下,WG)を設置した.先行研究(荒木田ら,2020木澤,2009西川,2017梅田・新幡,2013)を参考に,WGでシラバスおよびルーブリック(表1)を作成し,検討委員会の議論を経てそれらを完成させた.そしてそのシラバスをもとにWGでテキストを作成した.

表1 PENUT-Tルーブリック

項目番号 対応する到達目標 評価観点 評価尺度
1 2 3 4
1 在宅看取りに関する現状の理解 在宅看取りに関する全国の現状およびニーズが説明できない 在宅看取りに関する全国の現状およびニーズが説明できる 在宅看取りに関する全国の現状およびニーズと自らが活動する地域における在宅看取りに関する現状およびニーズを比較しながら説明できる 在宅看取りに関する全国の現状およびニーズと自らが活動する地域における在宅看取りに関する現状およびニーズを比較しながら説明したうえで,在宅看取りを実践できる訪問看護師を養成していく必要性を明示できる
2 PENUT指導者の役割の理解 PENUTの意義および演習内容,各演習における学習目標を説明できない PENUTの意義および演習内容,各演習における学習目標を説明できる PENUTの意義および演習内容,各演習における学習目標を説明し,地域・対象に合わせた到達目標を設定することができる PENUTの意義および演習内容,各演習における学習目標を説明し,地域・対象に合わせた到達目標を設定し,その到達目標を達成するために指導者として自身が果たすべき役割を説明できる
3 PENUT-T指導者の役割の理解 PENUT-Tの意義および演習内容,各演習における到達目標を説明できない PENUT-Tの意義および演習内容,各演習における到達目標を説明できる PENUT-Tの意義および演習内容,各演習における到達目標,到達目標を達成させるためのファシリテーターの役割を説明できる PENUT-Tの意義および演習内容,各演習における到達目標,到達目標を達成させるためのファシリテーターの役割を説明できたうえで,演習のファシリテーターに携わることができる
4 自施設での研修開催に向けた体制の整備 自施設の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定できない 自施設の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定できる 自施設の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定したうえで,体制(場所・時間・オンライン等)整備の方法が説明できる 自施設の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定したうえで,体制(場所・時間・オンライン等)整備の方法が説明でき,企画書が作成できる
5 地域での研修開催に向けた体制の整備 地域の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定できない 地域の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定できる 地域の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定したうえで,体制(場所・時間・オンライン等)整備の方法が説明できる 地域の研修ニーズを把握し,受講対象者を決定したうえで,体制(場所・時間・オンライン等)整備の方法が説明でき,企画書が作成できる
6 ロールプレイにおけるファシリテーターの役割の理解 ファシリテーターの一般的な役割が説明できない ファシリテーターの一般的な役割が説明できる コミュニケーション技術の演習で特に必要とされるファシリテーターの役割が説明できる 初回訪問時の看護計画およびコミュニケーション技術の演習で特に必要とされるファシリテーターの役割が説明できる
7 受講者が学習に集中できる環境づくり 受講者が学習に集中できる環境を整えるために必要なことをリストアップすることができない 受講者が学習に集中できる環境を整えるために必要なことをリストアップできる 受講者が学習に集中できる環境を整えるために必要なことをリストアップしたうえで,受講者に注意事項を説明できる 受講者が学習に集中できる環境を整えるために必要なことをリストアップし,受講者に注意事項を説明したうえで,受講者全員が学習に集中できる環境を提供できる
8 受講者が主体的に学べる環境づくり 受講者全員が発言できるよう声かけできない 受講者全員が発言できるよう声かけできる 受講者全員が発言できるよう声かけし,受講者同士の対話を促して議論を活発化できる 受講者全員が発言できるよう声かけし,受講者同士の対話を促して議論を活発化したうえで,受講者が新たな気づきを得られるような投げかけができる
9 PENUTを用いて開催した研修の評価 自らが開催した(する)研修の評価方法(開催者アンケート,受講者アンケートを含む)を説明できない 自らが開催した(する)研修の評価方法(開催者アンケート,受講者アンケートを含む)を説明できる 自らが開催した研修を評価し,課題を抽出できる 自らが開催した研修を評価し抽出した課題をもとに,より質の高い研修を企画できる

「対応する到達目標」は,本文中の「到達目標」①~⑤に対応している.

各項目を達成度が低いほうから1~4で点数化した.

2. PENUT-Tの内容と研修実施の方法

PENUT-Tは,在宅看取りを推進するという使命感をもち,所属施設や地域において在宅看取りを実践できる訪問看護師を意欲的に養成できる「指導者」の養成を目的とした1日間のプログラムである.具体的な到達目標として,①在宅看取りを実践できる訪問看護師を養成する必要性を説明できる,②PENUT指導者の役割について説明できる,③PENUTを用いた研修を企画できる,④グループワークにおけるファシリテーターの役割を理解し,初回訪問時における訪問看護計画の立案およびコミュニケーション技術の演習を実施できる,⑤PENUTを用いて開催した研修を評価できる,という5つを設定した.グラフィック・シラバスを図1に示す.はじめに講義で,PENUT指導者の役割,研修の先行事例,在宅看取り初心者が初回訪問の訪問看護計画の立案とコミュニケーションで躓きやすいポイント,グループワーク(ファシリテーション)のスキルなどを学習する.そして講義で学んだ知識を「ファシリテーター実践演習」で実践し学びを深める.さらに「地域で研修を開催する準備」では,参加者間の交流を図りながら,地域における研修や事例検討会などの情報と,PENUT企画運営における課題を共有する.このように,PENUT-Tは講義で学んだ知識を演習で実践・応用しながら,知識・技術の積み上げ・定着を図っていく構造となっている.演習は全て4~5名のグループワークであり,各グループにスーパーバイザー(以下,SV)を配置した.SVは,在宅看取りを指導的な立場で実践する訪問看護師であり,PENUT講義の講師および演習のファシリテーター経験を有する者とした.SVは,事前にPENUT-Tの目的および演習の手順等に関する説明会に参加し,演習中は基本的に見守りながら,参加者にグループワークへの参加を促し,目標の達成へと導く役割を担った.また,参加者およびSVに対しては,講義・演習のテキストに加え,PENUT指導者がPENUTを開催する手順を記載した「PENUT研修開催マニュアル」を事前に配布した.なお,本研修はコロナ禍における参加者の安全性を考慮してWeb会議システムを利用したオンラインで実施し,演習ではブレイクアウトセッション機能を活用した.

図1  PENUT-Tのグラフィック・シラバス

※①~⑤は本文中の到達目標に対応している

※図形□は講義,図形〇は演習(グループワーク)を示している

3. 調査方法

1) 対象

参加要件を①訪問看護師として従事している,②訪問看護師として在宅看取りに3年以上携わったことがある,③所属施設や地域でPENUTを開催する意志がある,④管理者または所属部署責任者の推薦が得られる,⑤名前および所属を掲載したPENUT指導者リストを公開することに同意できると設定し,全てに該当する者を募集した.演習のファシリテーションでは,指導者には訪問看護計画とコミュニケーションに関する内容を深められるディスカッションを手助けする役割が求められるため,先行研究(横尾・大町,2014)を参考に,「②訪問看護師としての在宅看取り3年以上」の要件を設定した.また,所属施設や地域におけるPENUT開催には,管理者の理解が不可欠であること,さらに,指導者として適切な人材を募集するために「④管理者または所属部署責任者の推薦」を要件とした.なお,本研究参加時点でPENUTを修了していない者は,PENUT-TまでにPENUT(講義および演習)を修了することを条件とした.

2) リクルート方法

日本訪問看護財団のホームページおよび会員通信サービス,日本訪問看護認定看護師協議会会員宛てのメールに,参加者募集案内ページのURLを掲載し,40名を上限に募集した.募集期間は2023年7月24日~8月24日であった.

3) 調査の流れ

PENUT-T(研修)前後にアンケート調査を実施した.調査の流れを図2に示す.SVの人数に限りがあったため,申込者52名のうち,複数名申し込んだ2施設には1名を選択してもらい,49名が本研究に参加した.本研究参加時点でPENUTを修了していない者は,PENUT-TまでにPENUT(講義および演習)の修了を求めたため,Webオンデマンド配信による講義を修了できなかった者3名,PENUT演習中に1名が脱落した.また,体調不良等の自己都合によりさらに4名が脱落し,41名(83.7%)が研修前アンケートに回答した.さらに参加自身もしくはスタッフの体調不良により,研修直前に1名,研修中に1名が脱落し,39名(79.6%)が研修後アンケートに回答した.

図2  調査の流れ

4) 調査項目

 (1)参加者の属性

研修前アンケートでは,就業場所(訪問看護事業所,病院,診療所,その他),年代(20代,30代,40代,50代,60歳以上),職位(管理者・所長,副所長・主任,スタッフ,その他),最終学歴(専門学校,短期大学,大学,大学院),病院・施設および訪問看護の経験年数,認定看護師・専門看護師・特定行為研修(以下,認定・専門・特定)修了の有無および領域・分野,ELNEC-J指導者プログラムおよび専門的緩和ケア看護師教育プログラム(SPACE-N)修了の有無,訪問看護で臨死期にある方をケアした人数,所属施設の看護師実人数を収集した.

 (2)ルーブリック,SAFFS,ELNEQ

研修前後アンケートで,ルーブリック,ファシリテーター機能自己評価尺度(Self-Assessment Facilitator Functions Scale: SAFFS),End-of-Life Nursing Education Questionnaire(ELNEQ)を収集した.ルーブリックは,参加者の到達目標の達成度を評価する指標として用い,PENUT指導者が最終的に達成すべきレベルを「4」と設定した.評価観点9項目,各項目4段階評価とし,点数が高いほど到達目標を達成できていることを示す(表1).SAFFSは,「構造化と進行の効力感」(5項目),「グループへの信頼と尊重の感覚」(7項目),「気づきを活かす柔軟な姿勢」(9項目)という3つのドメイン(計21項目)から構成されており,参加者のファシリテーターの効力感,態度,技能の習得度を評価する指標として用いた.SAFFSは7段階で評価するリッカート尺度であり,各ドメインの合計点を算出した.点数が高いほどファシリテーターの効力感,態度や技能の習得度が高いことを示す.ELNEQは,「教育に対する自信」,「教育への意欲」,「教育の方法」,「質の高いEOLケアの達成への意欲」,「教育の参加者への影響」という5つのドメイン(計20項目)から構成されており,参加者のエンドオブライフ(以下,EOL)ケア教育に対する意欲や自信を評価する指標として用いた.ELNEQは,5段階で評価するリッカート尺度であり,各ドメインの平均点を算出した.点数が高いほど意欲や自信が高いことを示す.SAFFS(金子ら,2021)およびELNEQ(Takenouchi et al., 2011)の信頼性と妥当性は既に検証されている.

 (3)PENUT開催の実行性と必要なサポート

研修後アンケートでは,PENUT開催の実現可能性と必要なサポートについて収集した.PENUT開催の実現可能性については,所属施設/地域でPENUTを開催しファシリテーターを「すぐにできると思う」「現時点では難しい」「どちらともいえない」から選んでもらった.さらに,地域で開催することが「現時点では難しい/どちらともいえない」と回答した者に対し,必要なサポートを「ファシリテーターを担当できる仲間集め」「研修を運営できる仲間集め」「集合研修の会場の提供」「オンライン研修の技術サポート」「その他」から複数回答可で尋ねた.

4. 分析方法

全てのプログラムと研修前後の調査に参加した39名を分析した.分析対象者39名の回答に欠損値は含まれなかった.参加者の属性およびPENUT開催の実行性と必要なサポートに関する項目は統計量を算出した.①ルーブリックの各項目の点数,②SAFFSの各ドメインの合計点,③ELNEQの各ドメインの平均点について,研修前後をウィルコクソンの符号順位検定を用いて比較した.さらに,①~③の研修前後の変化量について,認定・専門・特定およびELNEC-J指導者プログラムの修了との関連をMann-WhitneyのU検定で分析した.有意水準は5%とし,分析にはSPSS Ver. 28を用いた.

5. 倫理的配慮

参加者募集案内ページには,本研究の目的および内容を明記した.申込フォームにて,本研究の目的および内容を理解したこと,参加要件①~⑤に該当すること,アンケート調査に参加できることにチェックを入れることで同意を得た.アンケート調査では受付番号を入力してもらい,個人が特定されないよう配慮した.本研究は公益財団法人日本訪問看護財団研究倫理委員会の承認を得て実施した(No. 2023-002).

Ⅳ. 結果

1. 参加者の属性

参加者39名の属性を表2に示す.訪問看護事業所に所属している者が36名(92.3%),管理者・所長が25名(64.1%)であり,訪問看護経験は平均13.9 ± 6.9年であった.また,認定看護師が21名(53.8%)であり,その領域・分野の内訳は,訪問看護/在宅ケア15名(71.4%),緩和ケア5名(23.8%),無回答1名であった.専門看護師2名(5.1%)はいずれも在宅看護専門看護師であった.ELNEC-J指導者プログラムの修了者は15名(38.5%),SPACE-Nは1名(2.6%)であった.所属施設の看護師実人数は,4人以下が5名(12.8%),5~9人が17名(43.6%),10人以上が17名(43.6%)であった.

表2 参加者の属性

就業場所,人数(%)
訪問看護事業所 36(92.3%)
病院 1(2.6%)
診療所 0(0%)
その他 2(5.1%)
年代,人数(%)
20代 0(0%)
30代 2(5.1%)
40代 11(28.2%)
50代 21(53.8%)
60歳以上 5(12.8%)
職位,人数(%)
管理者・所長 25(64.1%)
副所長・主任 2(5.1%)
スタッフ 9(23.1%)
その他 3(7.7%)
最終学歴,人数(%)
専門学校 22(56.4%)
短期大学 5(12.8%)
大学 6(15.4%)
大学院 6(15.4%)
病院・施設の看護経験年数(年),平均±標準偏差 15.5 ± 10.7
訪問看護の経験年数(年),平均±標準偏差 13.9 ± 6.9
認定看護師,人数(%)
取得あり 21(53.8%)
取得なし 18(46.2%)
専門看護師,人数(%)
取得あり 2(5.1%)
取得なし 37(94.9%)
特定行為研修,人数(%)
修了あり 3(7.7%)
修了なし 36(92.3%)
ELNEC-Jコアカリキュラム指導者養成プログラム,人数(%)
受講経験あり 15(38.5%)
受講経験なし 24(61.5%)
専門的緩和ケア看護師教育プログラム(SPACE-N),人数(%)
受講経験あり 1(2.6%)
受講経験なし 38(97.4%)
訪問看護で臨死期にある方をケアした人数(人),平均±標準偏差 124.1 ± 172.2
所属施設の看護師実人数,人数(%)
4人以下 5(12.8%)
5~9人 17(43.6%)
10人以上 17(43.6%)

2. ルーブリック

ルーブリック各項目の平均値の研修前後の変化を図3-1,3-2,3-3に示す.全ての項目で平均値は増加し,「在宅看取りに関する現状の理解」(前:3.0 ± 0.8,後:3.5 ± 0.8,P < 0.01(ウィルコクソンの符号順位検定))(図3-1),「PENUT指導者の役割の理解」(2.9 ± 0.9, 3.2 ± 0.9, P < 0.05)(図3-1),「PENUT-T指導者の役割の理解」(2.8 ± 0. 9, 3.4 ± 0.7, P < 0.001)(図3-1)の点数は有意に増加した.また,PENUT特有の「ロールプレイにおけるファシリテーターの役割の理解」(2.8 ± 1.0, 3.6 ± 0.7, P < 0.001)(図3-3)の点数も有意に増加した.

図3  ルーブリックおよびSAFFSの研修前後の変化

* p < 0.05(ウィルコクソンの符号順位検定)

研修前後の変化量について,認定・専門・特定の修了と有意に関連する項目はなかった一方,ELNEC-J指導者プログラム未修了者は,修了者と比較し,「ロールプレイにおけるファシリテーターの役割の理解」の点数が有意に増加していた(未:1.1 ± 1.0,修:0.2 ± 0.9,P < 0.01(Mann-WhitneyのU検定)).

3. SAFFS

SAFFS各ドメインの平均値の研修前後の変化を図3-4に示す.全ての項目で平均値は増加し,「構造化と進行の効力感」(前:23.2 ± 5.3,後:24.5 ± 4.7,P < 0.05(ウィルコクソンの符号順位検定))と「グループへの信頼と尊重の感覚」(36.7 ± 5.2, 38.1 ± 4.6, P < 0.05)の点数は有意に増加した.

研修前後の変化量について,認定・専門・特定,ELNEC-J指導者プログラムの修了と有意に関連するドメインはなかった.

4. ELNEQ

ELNEQ各項目の回答者の割合および各ドメインの平均点の研修前後の変化を表3に示す.研修前の時点で「教育への意欲」の平均点は4.2 ± 0.7であり,他のドメインと比較し高い傾向であった.他方,「教育の方法」の平均点は2.9 ± 0.9から3.3 ± 0.8に有意に増加し(p < 0.01(ウィルコクソンの符号順位検定)),全ての項目(グループワーク,事例検討,ロールプレイ,講義)において,その方法が全くわからないと回答した者は0名となった.また,「所属する施設や地域で,EOLケアの質を向上させるための計画を立てることが出来る」などで構成される「質の高いEOLケアの達成への意欲」(3.0 ± 0.8, 3.3 ± 0.8, p < 0.05)の平均点も有意に増加した.

表3 ELNEQの研修前後の変化

研修前 研修後 P
全くそう
思わない
あまり
思わない
そう思う
ことがある
そう思う 大変
そう思う
平均値 標準偏差 全くそう
思わない
あまり
思わない
そう思う
ことがある
そう思う 大変
そう思う
平均値 標準偏差
ELNEQ(各ドメインの平均点)
教育に対する自信 2.6 0.8 2.7 0.7 0.268
EOLケアの教育能力に満足している 1(2.6%) 15(38.5%) 11(28.2%) 9(23.1%) 3(7.7%) 0(0%) 12(30.8%) 17(43.6%) 10(25.6%) 0(0%)
EOLケアの教育能力は十分である 1(2.6%) 15(38.5%) 15(38.5%) 7(17.9%) 1(2.6%) 0(0%) 15(38.5%) 12(30.8%) 12(30.8%) 0(0%)
EOLケアの教育はそれほど困難ではない 3(7.7%) 19(48.7%) 12(30.8%) 5(12.8%) 0(0%) 4(10.3%) 14(35.9%) 12(30.8%) 9(23.1%) 0(0%)
EOLケアの教育について困ることはない 6(15.4%) 23(59.0%) 6(15.4%) 4(10.3%) 0(0%) 3(7.7%) 22(56.4%) 9(23.1%) 5(12.8%) 0(0%)
教育への意欲 4.2 0.7 4.1 0.8 0.462
EOLケアの教育に意欲がある 0(0%) 2(5.1%) 4(10.3%) 19(48.7%) 14(35.9%) 0(0%) 2(5.1%) 5(12.8%) 19(48.7%) 13(33.3%)
EOLケアの教育を積極的に行いたい 1(2.6%) 1(2.6%) 3(7.7%) 19(48.7%) 15(38.5%) 0(0%) 2(5.1%) 6(15.4%) 15(38.5%) 16(41.0%)
EOLケアにおける臨死期のケアについてさらに教育したい 0(0%) 1(2.6%) 3(7.7%) 22(56.4%) 13(33.3%) 0(0%) 1(2.6%) 8(20.5%) 16(41.0%) 14(35.9%)
EOLケアにおける看護師の役割についてさらに教育したい 0(0%) 1(2.6%) 3(7.7%) 20(51.3%) 15(38.5%) 0(0%) 1(2.6%) 7(17.9%) 17(43.6%) 14(35.9%)
教育の方法 2.9 0.9 3.3 0.8 <0.01 *
EOLケアの教育のためのグループワークの方法がわかる 3(7.7%) 11(28.2%) 14(35.9%) 10(25.6%) 1(2.6%) 0(0%) 9(23.1%) 11(28.2%) 18(46.2%) 1(2.6%)
EOLケアの教育のための事例検討の方法がわかる 3(7.7%) 6(15.4%) 16(41.0%) 13(33.3%) 1(2.6%) 0(0%) 7(17.9%) 13(33.3%) 17(43.6%) 2(5.1%)
EOLケアの教育のためのロールプレイの方法が分かる 3(7.7%) 11(28.2%) 9(23.1%) 14(35.9%) 2(5.1%) 0(0%) 10(25.6%) 8(20.5%) 17(43.6%) 4(10.3%)
EOLケアの教育のための効果的な講義方法がわかる 4(10.3%) 15(38.5%) 13(33.3%) 7(17.9%) 0(0%) 0(0%) 9(23.1%) 16(41.0%) 13(33.3%) 1(2.6%)
質の高いEOLケアの達成への意欲 3.0 0.8 3.3 0.8 <0.05 *
所属する施設や地域で,EOLケアの質の向上に貢献できる自信がある 1(2.6%) 8(20.5%) 12(30.8%) 16(41.0%) 2(5.1%) 0(0%) 7(17.9%) 15(38.5%) 14(35.9%) 3(7.7%)
所属する施設や地域で,EOLケアの質を向上させるには何をすれば良いか分かる 1(2.6%) 7(17.9%) 16(41.0%) 14(35.9%) 1(2.6%) 0(0%) 7(17.9%) 13(33.3%) 15(38.5%) 4(10.3%)
所属する施設や地域で,EOLケアの質を向上させるための計画を立てることが出来る 3(7.7%) 6(15.4%) 18(46.2%) 11(28.2%) 1(2.6%) 0(0%) 7(17.9%) 13(33.3%) 16(41.0%) 3(7.7%)
所属する施設や地域で,EOLケアの質を向上させるための計画がある 5(12.8%) 13(33.3%) 9(23.1%) 12(30.8%) 0(0%) 1(2.6%) 12(30.8%) 15(38.5%) 10(25.6%) 1(2.6%)
教育の参加者への影響 3.1 0.7 3.1 0.7 0.704
私の行う教育を受けた看護師は,EOLケアの質が向上する 1(2.6%) 8(20.5%) 20(51.3%) 10(25.6%) 0(0%) 0(0%) 9(23.1%) 18(46.2%) 11(28.2%) 1(2.6%)
私の行う教育を受けた看護師は,EOL期の症状マネジメントの能力が向上する 1(2.6%) 10(25.6%) 17(43.6%) 11(28.2%) 0(0%) 0(0%) 10(25.6%) 17(43.6%) 12(30.8%) 0(0%)
私の行う教育を受けた看護師は,臨死期のケアの能力が向上する 1(2.6%) 6(15.4%) 19(48.7%) 13(33.3%) 0(0%) 0(0%) 9(23.1%) 18(46.2%) 12(30.8%) 0(0%)
私の行う教育を受けた看護師は,「患者を守る人である」という役割をより意識する 1(2.6%) 6(15.4%) 16(41.0%) 15(38.5%) 1(2.6%) 0(0%) 7(17.9%) 16(41.0%) 16(41.0%) 0(0%)

各項目は人数(%)

ウィルコクソンの符号順位検定

* p < 0.05

研修前後の変化量について,認定・専門・特定を修了していない者は,修了者と比較し,「教育に対する自信」の平均点が有意に増加していた(未:0.5 ± 0.5,修:–0.1 ± 0.7,P < 0.01(Mann-WhitneyのU検定)).さらに,ELNEC-J指導者プログラム未修了者は,修了者と比較し,「教育の方法」の平均点が有意に増加していた(未:0.6 ± 0.6,修:0.1 ± 0.7,P < 0.05(Mann-WhitneyのU検定)).

5. PENUT開催の実行性と必要なサポート

所属施設でPENUTを開催しファシリテーターを担当することが「すぐにできると思う」者は14名(35.9%),「現時点では難しい」者は14名(35.9%),「どちらともいえない」者は11名(28.2%)であった.他方,地域でPENUTを開催しファシリテーターを担当することが「すぐにできると思う」者は9名(23.1%),「現時点では難しい」者は15名(38.5%),「どちらともいえない」者は15名(38.5%)であった.地域で担当することが「現時点では難しい/どちらともいえない」と回答した者(30名)が必要としているサポートでは,「研修を運営できる仲間集め」23名(76.7%)が最も多く,次いで「ファシリテーターを担当できる仲間集め」22名(73.3%),「オンライン研修の技術サポート」17名(56.7%),「集合研修の会場の提供」5名(16.7%),「その他」4名(13.3%)という結果であった.

Ⅴ. 考察

ELNEQおよびルーブリックの研修前後の変化の結果から,PENUT-Tを受講した参加者は,PENUT特有のグループワークやロールプレイの方法,ファシリテーターの役割についての理解が向上することが明らかとなった.そして研修後には,ファシリテーションの構造化と進行への効力感,グループメンバーへの信頼感,メンバーを尊重したいという気持ちが高まっており,PENUT-Tはファシリテーションに対する自己効力感を高めることが示された.さらに,所属する施設や地域においてEOLケアを向上させる計画への意欲も向上し,PENUTの企画運営に対する意欲の向上という点においても,PENUT-Tは有効であると考える.一方,所属施設,地域双方におけるPENUT開催の実現可能性には課題が残る結果となった.

ファシリテーターは初めてファシリテーションを実施する前には,構成されたプログラムをスムーズに進めることができるのか,不安を抱いていることが報告されている(西野ら,2017).本研究の参加者は,PENUT-Tの演習で初めてPENUTのファシリテーターを担当した.また,PENUTは到達目標とスケジュールが明確に設定されている(濱谷ら,2024).したがって,研修前に参加者は,初めてのファシリテーションで展開を予測できないにも関わらず,グループワークをスケジュール通りに進行し,目標に到達できるのか,不安を抱いていたと考えられる.

PENUT-Tではこのような不安に対し,「在宅看取り初心者が初回訪問の訪問看護計画の立案とコミュニケーションで躓きやすいポイント」を提示した.これらの講義を通して参加者は,在宅看取り初心者である受講者の思考を理解し,その発言がある程度想定できるようになったと考える.さらに,「グループワーク(ファシリテーション)のスキル」を学び,グループのメンバーが目標に到達するためにはどのようなスキルを用いたらよいか,具体的にイメージできたと考えられる.また,西野ら(2017)によると,ファシリテーション実施前の不安による緊張は,「想像より緊張せずに」ファシリテーションできたという成功体験を積み重ねていくことで徐々に緩和されていく.本研究においても,参加者は演習のなかで実際にファシリテーターを体験し,あるいは他参加者のファシリテーションを通して疑似体験を積み重ねたことで,ファシリテーションに対する緊張が緩和されたのだろう.さらに守田ら(2006)は,ファシリテーターはグループメンバーの力を信頼することが大切だと感じられることで,自己効力感を高めていくことを報告している.PENUT-Tでは,ファシリテーターも受講者も訪問看護の実践者である.参加者は受講者と日々の看護実践を共有するなかで,グループメンバーへの信頼感とメンバーを尊重したいという気持ちが高まり,ファシリテーターとしての自己効力感を向上させたと考える.

訪問看護師は,多職種カンファレンスや地域ケア会議などにおいて,医師や介護支援専門員,訪問介護員などが見聞きした療養者・家族の情報を引き出し,その価値観を共有しながら,療養者の意思決定を支援する役割が求められる.このような訪問看護師の役割は,メンバーそれぞれの発言を引き出しながら議論を活性化し,共通の目標を目指すという点で,PENUTのファシリテーターと類似している.また,厚生労働省(2025)は,2021年より在宅医療・介護の連携を支援する人材を「コーディネーター」と名称化し,関係機関団体や自治体等への配置を推奨している.そのコーディネーターに期待される能力の1つは,研修会や会議等におけるファシリテーション能力である(厚生労働省,2025).このように,在宅医療・介護の多機関・多職種連携において,ファシリテーターを担える人材の必要性が高まっている.しかし,そのような人材養成に有用な教育プログラムは,これまでほとんど報告されていない.本研究では,受講者の躓きやすいポイントとファシリテーションスキルを講義で学習し,その知識を演習で実践することで,ファシリテーションに対する理解と効力感が向上することが明らかとなった.今後PENUT-Tは,PENUTにおいてだけでなく,多機関・多職種連携におけるファシリテーターの養成プログラムとしても応用できる可能性がある.

「教育への意欲」の平均点は,研修前の時点で他のドメインと比較し高い傾向であり,研修前後の有意差はみられなかった一方,より具体的な計画に対する意欲を示す「質の高いEOLケアの達成への意欲」の平均点は,研修後に有意に増加し,PENUT-Tは参加者のPENUT開催への意欲を高めることが示された.研修におけるグループワークでは,他施設に所属する受講者の頑張りが刺激となり,実践への意欲が高まることが報告されている(楢原ら,2022).PENUT-Tにおいても,参加者は他参加者との研修や事例検討会などの情報交換を通して,PENUT開催への意欲を高めたと考えられる.このように,PENUT-Tの受講により,参加者のファシリテーターおよびPENUT開催に対する効力感は高まったにも関わらず,所属施設でPENUTを開催しファシリテーターを担当することが「すぐにできると思う」者は14名(35.9%),地域で「すぐにできると思う」者は9名(23.1%)にとどまっており,指導者によるPENUT開催の実現には,意欲だけでは難しい現状が明らかとなった.

所属施設における開催のハードルとして,業務時間や休日に研修時間を確保することが難しい点が考えられる.1日間という演習の長さが,時間の確保をより困難にしている可能性がある.本研究の参加者の半数以上は,看護師10人未満の訪問看護事業所に所属していた.全国平均はさらに少なく,半数以上の事業所は看護職員の常勤換算数が5人未満である(厚生労働省,2023b).訪問看護事業所の管理者を対象としたアンケート調査では,管理者が研修を開催できない理由として,小規模のため余裕がないこと,休日をあてた研修は代替者の確保ができず難しいことが報告されている(中込ら,2023).訪問看護では,スタッフが研修や代休で不在にした場合,他のスタッフが代わりに訪問する必要があり,限られた人員で複数の代替者を確保することは現実的に難しい.したがって,単独施設における開催では,演習を「訪問看護計画の立案」と「コミュニケーション」に分け,訪問の合間や訪問後に実施できる工夫が必要だろう.また,単独施設での開催ではなく,複数の施設が共同で開催し,各施設から1名ずつ参加者を募るなど,地域開催を検討することも有用である.

他方,地域における開催では,受講者の募集や研修場所の確保など,開催準備に要する作業が多く,それらの時間を捻出するという課題が,参加者が「すぐに実行できる」と回答できなかった理由として考えられる.さらに,地域開催には一緒に開催できる「仲間」の存在が重要であることも明らかとなった.仲間と協働することで,開催準備に必要な作業を役割分担できる.さらに,同じ目的をもつ仲間の存在は,ファシリテーターとしてのモチベーションの向上に繋がることが報告されている(内海ら,2022).したがって,指導者が初めてのPENUT開催に踏み出し,その活動を継続していくためには,地域で一緒に開催できる「仲間」を増やしていくことが重要である.指導者が仲間を見つける手段として,所属地域や施設を掲載した指導者リストを公開することは有用だろう.また,既存のネットワークを活用し,地域でPENUTを開催することも有用である.例えば,日本訪問看護認定看護師協議会,都道府県看護協会,訪問看護ステーション連絡協議会において,日頃から繋がりのある仲間同士がPENUT指導者を取得することで,地域のなかでPENUTを開催する体制が構築できると考える.在宅看取りは単独施設で実施できるケースばかりではない.したがって,指導者が既存のネットワークをいかしながら地域でPENUTを開催することは,個々の施設のレベルアップのみならず,地域における訪問看護事業所の連携強化にも繋がり,さらなる在宅看取りの推進が期待できる.

このように地域でPENUTを一緒に開催できる仲間を増やしていくと同時に,全国の指導者が交流できる場を提供し,PENUT指導者コミュニティを構築していくことも重要だろう.人口動態や医療需要,疾病構造など,在宅看取りを取り巻く状況は地域によって異なっており(厚生労働省,2024a),2040年の多死社会のピークに向け,その状況はさらに変化していくことが予測される.PENUT指導者コミュニティは,そのような変化に対応し,より質の高い在宅看取りを実現するプラットフォームになり得ると考える.つまり,PENUT指導者が直面している課題について,自地域の実践をもとに全国の指導者と議論し,その内容を発信することが,より質の高い在宅看取りの実現に繋がるのではないだろうか.

本研究の限界として,本研究は対照群を設定しない前後比較研究であり,PENUT-T以外の要因が結果に影響を及ぼしている可能性は排除できない.また,研修効果を自己評点のみで評価している点も,本研究の限界である.プログラム開発の次のステップでは,演習における参加者の達成度について,緩和ケアに関する教育プログラムの開発・運営に携わった経験をもつ複数の専門家による客観的な評価を実施する予定である.さらに,PENUT-T受講以前の教育歴が研修前後の変化量に影響を与えている可能性も考慮する必要がある.本研究の参加者の約半数は,認定看護師,専門看護師,特定行為研修修了者のいずれかであり,認定・専門・特定の修了の有無は,「教育に対する自信」以外と有意な関連はみられなかった.他方,ELNEC-J指導者プログラムについては,修了者・未修了者ともにロールプレイにおけるファシリテーションの役割や教育方法に関する理解は向上したが,未修了者の理解度の向上がより顕著であった.これらの結果から,受講者の教育歴にかかわらず,PENUT-TはPENUTのファシリテーションおよび企画運営力に対する自己効力感の向上に寄与した一方,ファシリテーターの役割や教育方法の理解においては,ELNEC-J指導者プログラム未修了者にとってPENUT-Tが新たな学びの契機となり,その効果は修了者と比較してより顕著に示されたと考える.

Ⅵ. 結論

PENUT-Tを受講した参加者は,PENUT特有のグループワークやロールプレイの方法,ファシリテーターの役割についての理解が向上することが明らかとなった.そして研修後には,ファシリテーションの構造化と進行への効力感,グループメンバーへの信頼感,メンバーを尊重したいという気持ちが高まっており,PENUT-Tはファシリテーションに対する自己効力感を高めることが示された.さらに,所属する施設や地域におけるEOLケアを向上させる計画への意欲も高まり,PENUTの企画運営に対する意欲の向上という点においても,PENUT-Tは有効である.一方,研修を一緒に運営できる仲間がいない等の理由から,PENUT開催の実現可能性には課題が残る結果となった.今後は既存のネットワークをいかしながら,指導者コニュニティを構築し,PENUT指導者が地域で一緒に開催できる「仲間」を増やしていくことが必要である.

付記:本研究の内容の一部は,第44回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました,研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.そして研修実施にあたり,演習のスーパーバイザーには多大なるご尽力を賜りました.心より感謝申し上げます.研究プロセス全体に対し,様々なご助言をくださいました検討委員の先生方にも感謝申し上げます.本研究は公益財団法人日本財団の助成を受け実施しました.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MHは研究のデザイン,データの収集・分析,原稿の作成;YHおよびEOは研究のデザイン,データの収集・分析,原稿の作成に貢献;TA,HN,MNW,KH,RY,YO,STは研究のデザイン,データ分析,原稿の作成に貢献;KKおよびNYMは研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2026 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top