目的:身体16部位の皮膚の生理機能測定により年齢区分別特徴を明らかにする.
方法:20~80歳代の男女124名,身体16部位の角層水分量(以下,水分量),皮脂量,経表皮水分蒸散量(以下,TEWL),pHを測定し,青・壮年,中年,高年の3区分で比較した.
結果・結論:水分量は高年が前腕屈側で青・壮年,中年より高く,足背で青・壮年,中年より低く,皮脂量は青・壮年が後頸部,上背部で中・高年より高かった.TEWLは高年が前腕伸側で青・壮年より低く,中年が前腕屈側で青・壮年より低かった.pHは部位による差があったが全年齢区分で弱酸性であった.水分量,皮脂量,TEWLによる総合評価では,加齢に伴う低下はあるが,総合評価が良い部位(上背部,前胸部)と全年齢区分で総合評価が悪い部位(手背,足背,大腿部,腹部)が明らかとなり,水分・油分を補い,擦らず優しく拭く等のケアが必要な部位であることが示された.
Purpose: To clarify the features of skin physiological functions by age range at 16 sites on the body.
Methods: The subjects comprised 124 men and women aged in their 20s to 80s. Stratum corneum moisture content (hereinafter, ‘moisture content’), sebum content, trans epidermal water loss (TEWL), and pH were measured at 16 points on the body and compared according to the three categories: young/young adult, middle-aged, and elderly.
Results/Conclusions: Water content was higher in the forearm flexor region and lower on the foot dorsum in elderly subjects compared to young/young adult and middle-aged subjects. Sebum content was higher on the posterior neck and upper back regions in young/young adult subjects compared to middle-aged and elderly subjects. Further, TEWL was lower in the forearm extensor region in elderly subjects compared to young/young adult subjects, and lower in the forearm flexor region in middle-aged subjects compared to young/young adult subjects. Although some variation was observed by site, pH was weakly acidic for all age ranges. Despite there being some age-related drops, overall evaluation based on water content, sebum content, and TEWL clarified sites with good overall evaluation (upper back region, anterior chest region) and sites with bad overall evaluation for all age ranges (hand dorsum, foot dorsum, femoral region, abdominal region). Results revealed sites requiring interventions, such as supplementing moisture and sebum content, and wiping gently without chafing while caregiving.
わが国の平均寿命は男女ともに2013年には80歳を超え(厚生労働省,2014),2025年9月15日時点の65歳以上人口は3,619万人,高齢化率29.4%となり,超高齢社会を迎えている(総務省統計局,2025).2023年の患者調査の概要において,65歳以上の高齢者の入院は887万2,000人で入院総数の75%を占め(厚生労働省,2024),他の年齢階級と比較して高い水準にあり,高齢者へのケアの必要性は増している.
高齢者の皮膚は,表皮細胞の増殖と分化の速度が低下し,角層の表皮細胞由来の天然保湿因子が減少することで表皮が薄くなり,表皮突起が減少して平坦化する(Grove & Kligman, 1983;田上,1998).また,加齢に伴い角層が肥厚し,ターンオーバーも遅延する.さらに,汗腺や皮脂腺の機能低下により,角層水分量(以下:水分量)や皮脂量が減少し,皮膚の乾燥やバリア機能の低下を引き起こす.このような皮膚状態は知覚神経の表皮内伸展を促し,知覚過敏や皮膚掻痒症の発症に関与する可能性がある(清水,2012).加齢による表皮の微細構造と機能の変化は皮膚の浸軟を促進し(Minematsu et al., 2011),発汗などの影響も受けやすくなる.実際,原(2012)の調査では,老人ホームにおける高齢者の95%が老人性乾皮症を有していたことが報告されており,高齢者の皮膚に対する適切なケアの重要性は極めて高い.
しかし,皮膚の加齢変化は一様ではなく,過去の研究では水分量や経皮水分蒸散量(以下:TEWL)が年代や身体部位によって異なる傾向を示すことが報告されている(徳留・田上,1986;熊谷ら,1989).特に,TEWLは20歳代をピークに加齢とともに曲線的に低下する一方で,角層水分量は加齢による明確な低下を示さない部位もあるなど,皮膚生理機能の加齢変化には部位差や個人差が存在する.そのため,高齢者の皮膚に対して効果的なケアを構築するには,高齢者に限らず広範な年代における皮膚状態を明らかにし,どのように変化し始めるのかを把握することが,予防的介入の時期を見極める上で有用である.また,身体各部位によって皮膚の生理機能特性が異なることから,部位別の皮膚状態を明らかにすることはスキンケア方法の選択につながると考えた.
皮膚の生理機能測定により身体16部位の皮膚の年齢区分別特徴を明らかにする.
用語の定義:本研究において以下のように用語を定義した.
角層水分量:角質層に含まれる水分量を示し,保湿状態やバリア機能の指標となる.
皮脂量:皮膚表面に分泌される皮脂の量を示し,水分の蒸散を防ぎ,病原体の侵入を防ぐ役割を果たす.皮脂腺の活動性を反映する生理的指標となる.
経表皮水分蒸散量(TEWL: Transepidermal Water Loss):皮膚の角質層を通じて体外へ自然蒸散する水分量は,皮膚バリア機能の健全性を評価する生理的指標となる.
pH:皮膚表面の酸性アルカリ度合を示し,弱酸性(pH 4.5~6.0)に保たれ,バリア機能や常在菌のバランス維持に必要な指標となる
居宅で生活をしている自己申告による主観的健康観が良好な20~80歳代の各年代の男女8~12名ずつ,計133名から協力の承諾を得た.20~40歳代の対象者は,大学生・大学院生,教職員等を対象とし,大学内において,公募文を掲示及び配布して協力者を募った.30~60歳代の対象者は,地域で介護事業所等に勤務する人を対象とし,介護事業所内に公募文を掲示及び配布して協力者を募った.60~80歳代の対象者は,地域で行われている健康サロン等に参加する人から協力を得た.対象者の条件は,以下を全て満たすものとした.①過去に重篤な疾患の既往がなく,日常生活を送ることができる状態である.②測定前日までは普段と変わらない生活とし,当日は入浴しない.③当日は,保湿クリーム,軟膏などを使用しない.④測定日は,過度な運動をしない.⑤測定日現時点でアトピー性皮膚炎や測定部位に皮疹や発赤がない.
2. 調査方法1)記録用紙にて性別,年齢,身長,体重,現病歴,既往歴,内服の有無を確認した.
2)皮膚の生理機能測定を以下の部位と手順で行った.
(1)測定部位(図1)

①後頸部(後頸部中央),②上背部(肩甲骨間中央),③前胸部(鎖骨中央と乳頭を結ぶ上部3分の1),④上腕伸側(肩峰と肘頭を結ぶ中点),⑤上腕屈側(肩峰と肘窩を結ぶ中点),⑥前腕伸側(肘頭と手根骨を結ぶ中点),⑦前腕屈側(肘窩と手根骨を結ぶ中点),⑧手背(中指基尺骨下と手根骨を結ぶ中点),⑨腹部(臍と腸骨稜を結ぶ中点),⑩腰部(腸骨稜と脊柱を結ぶ中点),⑪臀部(上前腸骨稜と臀溝を結ぶ中臀筋中央),⑫大腿屈側(臀溝と膝蓋窩中央を結ぶ中点),⑬大腿伸側(鼠経部中央と膝蓋骨上部を結ぶ中点),⑭下腿伸側,⑮下腿屈側,⑯足背の16部位.測定部位は,先行研究で2~4ケ所(徳留・田上,1986;根来ら,2013;中野,2015)と全身を捉えておらず,内田・田村(2007)の皮膚の温度感受性の部位差を捉えた全身26ケ所を参考にした.顔面及び前頸部,手掌,足底は,精神的発汗による影響を受けやすく,白癬菌などの感染予防のため除外し,「肩と胸部」「乳房下部と下腹部」「肩と肩甲部」「胴と腰」は位置的に近接しているため,中間位置を採用し16ケ所とした.
(2)測定部位の選定方法
測定部位は,同一部位を反復して測定することを避けるため,16部位ごとに6 × 6 cmを特定し,これを2 × 2 cmに9分割し,左上から右へ1~9の順に番号を割り付け,水分量(1~3番)からTEWL(4・5番),皮脂量(7~9番)の順に測定し,最後にpHは,9分割の上方,左方,右方に10~12番を設けて測定した.測定部位はできるだけ体毛の少ない部位とした.
(3)皮膚の生理機能の測定方法
①水分量の測定(使用機器:CorneometerCM825(Courage-Khazaka社))
測定には角層の比較的深い(最高で45 μm)部分までの測定が可能で測定値のばらつきが少なく,非常に乾燥した部位でも測定が可能である(Clarys et al., 2012)静電容量法を用いた.機器は,スキンケアや高齢者の皮膚評価にも採用されているCorneometerCM825を選択した.測定は,測定機器のプローブ面を測定部位の皮膚に平行に押し当て,1回ごとに位置をずらして3回測定し,平均値を測定値とした.
②皮脂量の測定(使用機器:Sebmeter SM(Courage-Khazaka社))
皮膚表面の皮脂をテープに付着させ,そのテープの光透過度をグリーススポット測定器による光度測定法により測定した.SebmeterSMの専用テープは,皮膚表面の水分含有量に関係なく皮脂のみに反応するものを使用した.測定は,機器を測定部位に押し当て,1回ごとに位置をずらして3回測定し,平均値を測定値とした.
③TEWLの測定(使用機器:微風水分計TEC-050(スキノス技研(現:ASE技研))
生理的に角層を通って体外に蒸散する水の喪失量は,皮膚バリア機能の健全性を評価する一つの指標となる.微風水分計TEC-050(閉鎖還流型水分蒸散計)は,一般的に採用されている開放型TEWL計と異なり,皮膚からの自然蒸発ではなくキャリアガスによる強制的な換気をしており,計測結果のばらつきも少なく,センサー部の向きを垂直にする制限がなく,測定しやすい.さらに,リアルタイムで環境の湿度変化を捉え補正をかけている微風水分計TEC-050を選択した.測定は,機器のプローブ面を皮膚に押し当て,水分の蒸散する量を測定した.1回50秒間測定するごとに位置をずらして2回測定し,平均値を測定値とした.
④pHの測定(使用機器:pH計皮膚・頭皮用スキンチェッカーMJ-120(佐藤商事))
蒸留水0.1 ml程度を皮膚表面にのせ,溶液中の水素イオン濃度をプローベで測定した.位置をずらして3回測定し,平均値を測定値とした.
(4)測定用浴衣
条件を一定にし,測定部位が特定しやすく,測定時間を短縮するため,全身を覆う専用浴衣を作成した.浴衣は,各測定部位が納まる位置に12 × 12 cmの窓を空け,測定時以外の皮膚露出を防いだ.
(5)測定の体位
座位で測定し,大腿屈側の測定する時のみ立位とした.
(6)測定環境
EUのEEMCOガイドライン(Berardesca & EEMCO, 1997)と田上ら(2002)の条件を参考に,室温20~22°C,湿度40~50%を測定環境とした.データ収集開始20分前より,空気調節器による温度調節と加湿器による加湿により室内の温度・湿度を調節した.平均室温は,開始時21.8 ± 0.7°C,終了時22.1 ± 0.5°C,平均湿度は開始時44.0 ± 4.5%終了時44.3 ± 4.8%であった.
3. データ収集方法 1) 当日のスケジュールの説明および環境への馴化スケジュールを説明後,記録用紙の質問(性別,年齢,身長,体重など)に回答を得たのち,測定用浴衣へ更衣し,椅座位で20分間安静にしていただき,環境への馴化を行った.
2) 生理機能測定の手順研究者は,手袋を装着し,後頸部から臀部,大腿屈側,大腿伸側から足背の順で測定した.測定終了後は,皮膚に違和感,不快感などがないことを確認した.
4. 分析方法対象者全体で身体の各部位における皮膚の生理機能測定値の平均値を求めた.健康日本21(厚生労働省,2000)では,生まれてから死までの生涯を「幼年期」~「高年期」の6段階に分けており,各段階は独立して存在するのではなく前の段階が次の段階を生み出し支えると捉えている.本研究における20~80歳は青年(15~24歳),壮年(25~44歳),中年(45~64歳),高年期(65歳~)にあたる.加齢による心身の様々な生理機能は,30歳代を頂点として,低下し始める(山田・太田,1988)との報告があり,青年と壮年を1区分として青・壮年(19~44歳)とし,中年(45~64歳),高年(65歳以上)に3区分して一元配置分散分析を行った.データは統計解析ソフトSPSS Statistics version 24.0 for Windowsを用いて解析した.
年齢区分別に身体各部位の皮膚特徴を捉えて総合評価をするため,対象者全体の身体16部位の水分量,皮脂量,TEWLのすべての値を昇順に並べ,全体の最小値~最大値の分布を確認した.それらを,最小値と最大値よりそれぞれ5%範囲を除いた90%の範囲に分布している値を高値群,中間群,低値群の3つに区分した.pHは,すべての値が弱酸性(4.5~6.0)の範囲であったため年齢区分による比較から除外した.
水分量と皮脂量は値が高いほど良い皮膚状態を示すことから,良い値(高値群)を1点,中間群2点,良くない値(低値群)を3点と配点した.TEWLは値が低いほど角層からの水分喪失が少ないことを示すため,良い値(低値群)を1点,中間群2点,良くない値(高値群)3点と配点した.なお,良い値に区分された測定値の平均値をスキンケアガイダンスの皮膚生理機能の基準値(日本看護協会認定看護師制度委員会創傷ケア基準検討会,2004)と照合したところ,水分量,皮脂量,TEWLのいずれも基準値に相当しており,評価できるものであると考えた.3つの得点の合計により皮膚状態を分類し,総合評価した.最も良い皮膚状態を示す総合評価は3点(白色)で,水分量や皮脂量が高く,TEWLが低い状態,すなわち「バリア機能が良好な状態」を示す.最も悪い皮膚の状態を示す総合評価は9点で,これは水分量や皮脂量が低く,TEWLが高い状態,すなわち「バリア機能が低下している状態」を示す.
16部位ごとに上記の分類特徴を捉えやすくするため,人体図を作図し,水分量や皮脂量が高く,TEWL値が低い良い状態(総合評価3点)を白色とし,水分量や皮脂量が低く,TEWLが高い悪い状態を(総合評価9点)を黒色とした.また,黒色に近づくほどバリア機能が低下している状態を示すようにした.なお,本研究では総合評価9点を示す部位はなかったため,総合評価8点を最も悪い黒色に配色した(表1).

各研究協力に承諾が得られた施設及び機関に公募文の掲示及び配布の許可を得て対象者を募集した.応募者に,個別に研究者が文書及び口頭で研究の目的,意義,研究方法及びデータ収集方法の詳細,匿名性の保証,データの保管と破棄の方法,結果の公表方法,参加及び同意撤回の自由などを説明し,同意を得た方から同意書を得た.
本研究は,愛知県立大学研究倫理審査委員会(承認番号27愛県大学情第6—26号)による承認を得て実施した.
同意を得た133名を測定した結果,スキンケアガイダンスのTEWL基準値「かなり悪い状態>30」に対し,標準偏差3倍以上離れた45以上を外れ値とした.極端に高い数値を示した対象者は本人の了承を経て除外し,124名を分析対象とした.測定項目は極端な高値のみが特異的な異常値を示す可能性が高いため,外れ値の例外は高い数値に限定した.
平均年齢53.0 ± 19.9歳,男性60名,女性64名であった.BMIは17.3~31.2で平均22.7 ± 2.9であり,BMI 18.5未満が8名,18.5~25が90名,25以上が26名であった.現病歴の有無では,あり48名(38.7%)の内,最も多いのが,高血圧22名(内服管理中)で,次いで高脂血症10名(内服管理中),糖尿病8名(7名が内服管理中,1名は内服なし)であった.現病歴なしは76名(61.3%)であった.既往歴の有無では,あり33名(26.6%)で既往歴なし91名(73.4%)であった.
2. 実施期間2015年12月~2016年3月
3. 部位別および年齢区分における生理機能(表2) 1) 水分量全体において,上背部(57.2 ± 8.3)が最も高値で,次いで,後頸部(55.4 ± 10.2),前胸部(55.4 ± 9.7)の順であった.最も低値であったのは,足背(29.7 ± 8.6)で,次いで,上腕伸側(30.7 ± 7.4)であった.

年齢区分で差があったのは,前腕屈側と足背で,前腕屈側は高年者(44.3 ± 7.6)が,青・壮年者(37.2 ± 6.6)と中年者(39.4 ± 9.3)より高値であった(p = .000).足背は,高年者(26.1 ± 7.4)が,青・壮年(32.1 ± 7.3)と中年者(31.3 ± 10.3)より低値であった(p = .001).
2) 皮脂量全体では,後頸部(12.3 ± 13.5)が最も高値で,次いで上背部(5.3 ± 8.7),前胸部(5.0 ± 8.5)であった.最も低値であったのは大腿屈側(0.3 ± 0.5),大腿伸側(0.3 ± 1.1)であった.
年齢区分で差があったのは,後頸部,上背部で高年者と中年者より青・壮年者が高値であった(p = .001).前胸部(p = .003),上腕伸側(p = .048),臀部(p = .043)は高年者より青・壮年者が高値であった.腰部は,高年者(0.4 ± 0.5)より中年者(1.5 ± 2.8)が高値であった(p = .015).
3) TEWL全体では,後頸部(20.4 ± 5.7 g/m2/hr)が最も高値で,次いで手背(18.2 ± 6.8 g/m2/hr),腹部(13.1 ± 3.8 g/m2/hr)であった.最も低値であったのは,下腿屈側(7.0 ± 2.2 g/m2/hr),次いで,下腿伸側(7.8 ± 3.0 g/m2/hr)であった.
年齢区分で差があったのは前腕伸側で,青・壮年者(9.6 ± 3.4 g/m2/hr)より高年者(7.7 ± 2.7 g/m2/hr)が低値であった(p = .009).前腕屈側は青・壮年者(9.1 ± 3.2 g/m2/hr)より中年者(7.4 ± 3.0 g/m2/hr)が低値であった(p = .019).
4) pH全体では,大腿伸側(5.0 ± 0.6)が最も高値で,次いで腰部(4.9 ± 0.6),下腿屈側(4.9 ± 0.6)であった.最も低値であったのは,前胸部(4.7 ± 0.6),上腕屈側(4.8 ± 0.6)であった.
年齢区分で差があったのは,後頸部で,青・壮年者(4.7 ± 0.4)より中年者(4.9 ± 0.5)が高値で(p = .036),臀部(p = .027),大腿伸側(p = .001)・屈側(p = .002),下腿伸側(p = .007)・屈側(p = .003)は,青・壮年者より高年者が高値であった.
4. 各年代の皮膚の特徴の総合評価 1) 総合評価の結果(図2,表3)部位別に特徴をみると,前胸部は,青・壮年が総合評価(以下:得点のみ記載)3点:白色(水分量,皮脂量が高く,TEWLが低い)で最も良い状態であり,中年は4点:淡いグレー(水分量が高く,皮脂がやや低く,TEWLが低い),高年は5点:グレー(水分量は高く,皮脂は低く,TEWLは低い)であった.腹部は,青・壮年者と高年は7点:黒に近いグレー,中年は8点(水分量,皮脂量がともに低く,TEWLが高い):黒色であった.後頸部は,全年齢区分で5点:グレーであった.背部は,青・壮年は3点:白色,中年と高年は5点:グレーであり,腰部は,青・壮年者と高年は6点:濃いグレー,中年は7点:黒に近いグレーであった.臀部は,全年齢区分で6点:濃いグレーであった(色は以下より表1を参照).

| 得点 | 角層水分量 | 皮脂量 | TEWL(g/m2·h) |
|---|---|---|---|
| 1 | 50以上 | 6以上 | 10未満 |
| 2 | 37~50未満 | 3~6未満 | 10~15未満 |
| 3 | 37未満 | 3未満 | 15以上 |
前腕伸側・上腕屈側は,青・壮年と中年は7点,高年は6点で,前腕屈側は全年齢区分で6点,上腕伸側は,全年齢区分で7点,手背は,全年齢区分で8点であった.
下肢は,大腿伸側・屈側は全年齢区分で8点,下腿伸側は,青・壮年は6点,中年と高年は7点,下腿屈側は全年齢区分で7点,足背は全年齢区分で8点であった.
年齢区分別特徴をみると,青・壮年者は,前胸部,背部は3点,後頸部は5点,前腕屈側,腰部,臀部,下腿伸側は6点,前腕伸側・上腕伸側・屈側,腹部,下腿屈側は7点と手背,大腿伸側・屈側,足背は8点であった.
中年は,前胸部は4点,後頸部,上背部は5点,前腕屈側,臀部は6点,前腕伸側,上腕伸側・屈側,下腿伸側・屈側,腰部は7点,腹部,大腿伸側・屈側,手背,足背は8点であった.
高年は,前胸部,後頸部,上背部は5点,前腕伸側・屈側,上腕屈側,腰部,臀部は6点,上腕伸側,腹部,下腿伸側・屈側は7点,大腿伸側・屈側,手背,足背は8点であった.
年齢区分別に差がみられた部位は前胸部であり,青・壮年は3点,中年は4点,高年は5点と年齢区分が上がるほど総合評価得点は高値となった.一方,年齢区分により差がない部位は,後頸部5点,前腕屈側,臀部6点,上腕伸側,下腿屈側7点,手背,大腿伸側,大腿屈側,足背8点であった.
水分量は,全体で高値の部位は,後頸部,上背部,前胸部であり,低値の部位は,足背,上腕伸側であった.高年者が高値の部位は,前腕屈側であり,低値の部位は,足背であった.他の部位に差はなかった.水分量が高値の3部位は皮脂腺が豊富で,脂漏部位ともいわれる部位であり(清水,2018),皮脂腺から分泌される皮脂が皮表を覆い水分保持を行い(渡辺・玉置,2004;佐藤,2020),水分が保たれていることが考えられた.一方で,田上(2012)は,皮脂分泌の少ない下半身,下背部から腰仙部,下腿伸側は,乾皮症の好発部位であり,肩,大腿,上肢がこれに次ぐと述べている.下腿伸側の延長にある足背も同様に乾燥していることが考えられ,また,上腕伸側も乾皮症の好発部位の一つであり,紫外線や外気による刺激,衣服の袖による摩擦などを受ける部位であることから乾燥する可能性が考えられた.田上ら(1982)は,高齢者は角層の吸水性の低下と水分保持能の低下傾向があるが,若年者と比較して有意な差は認めないことを示し,徳留・田上(1986)は,小児に比べ高齢者は水分保持能が高いことを示している.上肢の内側は,外気に触れにくい部位であるため,水分が保たれ,乾燥を起こしにくい部位であると考えられ,高年者の前腕屈側の水分量が他の年齢区分より高値だったのはこれらの要因の一つに考えられる.しかし,本研究では,加齢による水分量の違いがあるのは,前腕と足背のみであったことから,年齢区分に関わらず,体幹上部は比較的水分を保持しており,四肢は水分量が低下し,乾燥している傾向にあるものと考えた.
皮脂量は後頸部,上背部,前胸部において,青・壮年が最も高値で,中年,高年はともに低値であった.熊谷ら(1989)は女性の顔面における皮脂量の加齢変化と部位の差を調査し,20~30歳代で最大となり,その後は加齢とともに減少すると報告している.また,男性の皮脂腺の体積は20~40歳代で最大となり,60歳代より縮小する(池田,1991).女性の皮脂腺の体積は20歳代で最大となり,50歳代から縮小することが報告されている(増子,1988).加齢による皮脂腺の縮小は,皮脂の分泌低下を招くことが考えられる.本研究では,後頸部,上背部,前胸部の皮脂量が高値であり,この部位は顔面の額や鼻などと同様に皮脂腺の豊富な部位であり,皮脂腺の体積が大きい青・壮年の皮脂量が最も多く加齢とともに減少していた.皮脂量は,顔面の測定結果はあるが,それ以外の部位における調査がされておらず,今回の結果は新たな知見であると言える.一方で,四肢の皮脂量が年齢区分に関わらず低値であったことは,皮脂腺が少なく,もともと皮脂の分泌量自体が少ない部位であることが原因であると考えられた.
TEWLは,前腕伸側と屈側は高年者が有意に低値であり,他の部分に差は無かった.高年者は,ターンオーバーが遅延し角層数が増加することにより,バリア機能はむしろ良好になることが示されている(田上,2003).加齢によるターンオーバーの遅延は全身で起こりうると考えられるが,本研究において年代による変化がみられたのは一部であった.また,田上(2003)は,頭部や顔,良く動く後頸部や眼瞼など皮膚の薄い部位や皮膚炎などがある場合,TEWLは高値を示すことを報告しており,本研究においても後頸部は全ての年代で高値を示し,同様の結果を示した.Kikuchi et al.(2020)は,皮膚のバリア機能について,摩擦刺激はバリア機能の低下を引き起こし,時間とともに皮膚バリア機能の脆弱化が増すことを報告している.腹部については,ズボンやスカートの締め付けなどによる日常生活における衣服の摩擦により,高値になったことが考えられた.一方で,手背は日常生活の中で衣服に覆われることなく紫外腺を浴び,手洗いをなどの刺激を受けやすい部位であることから表皮のバリア機能低下につながる可能性が高い部位であることが考えられた.
pHは,後頸部は青・壮年者より中年者が高値であり,高年者は臀部および大腿・下腿のpHは青・壮年者より高かったが,いずれも4.7~5.2の範囲内であった.石田ら(1990)は12~81歳の健常人の4ヶ所の皮膚pHを測定し,その内,前腕と下腿において30~40歳代より20~30歳代が有意に高かったが,他の年代とは差はなく4.5~5.0であったことを報告している.田浦(1969)は,50歳代を超えると前腕屈側部では4.98~5.09であったと報告しており,本研究も同様の結果を示した.いずれも弱酸性(4.5~6.0)の範囲内であり,pHは加齢に伴う大きな変化がないことが確認された.
2. 年齢区分による皮膚特徴の総合評価水分量,皮脂量,TEWLによる皮膚バリア機能の状態を判断する総合評価では,年齢区分で加齢による低下があるが総合評価が良い部位,全ての年齢区分で皮膚特徴に差がない部位,全ての年齢区分で総合評価が悪い部位という3つの皮膚特徴が見られた.
まず,年齢区分で加齢による低下があるが総合評価が良い部位は,上背部と前胸部であった.上背部は,青・壮年3点より,中年・高年4点と得点が高く,前胸部は,青・壮年3点より,中年4点・高年5点と高くなった.上背部と前胸部の2部位は,皮脂腺が多い部位であり,皮膚表面に皮脂膜を作り,水分喪失を防いで角質層内に水分を保持している状態が,年齢とともに起こる皮脂分泌量が低下したことにより,総合評価に影響したことが考えられる.しかし,他の部位と比較して総合評価得点の低下が少なく,バリア機能が良好な皮膚状態である部位と考えられた.
次に,全ての年齢区分で差がない部位は,後頸部であった.この部位の特徴は,TEWLの値が高いため,総合評価得点は上がっているが,水分・皮脂量は基準値内であった.田上(2003)は,後頸部は良く動く部位でありTEWLは高値となると述べており,その影響は考えられる.中野(2015)は,高齢者と大学生の後頸部と上腕内側の水分量,皮脂量を測定しているが,両部位において,若年者の方が水分・皮脂量ともに高く,高齢者の後頸部の水分量は46.7 ± 12.2,皮脂量は14.5 ± 17.7と高い値を示したことを報告していた.このことから,後頸部は年齢区分に関係なく,比較的バリア機能が良好な皮膚状態である部位と言える.
以上のことから,上背部,前胸部,後頸部の3部位は,他の部位と比較して水分や皮脂量が高値であり,総合評価得点が低く,高年になっても比較的バリア機能が良好な皮膚状態である部位と考えられた.
最後に,全ての年齢区分で総合評価が悪い部位は総合評価得点が7~8点の四肢であった.特に,大腿部前面,後面,手背および足背は,水分量,皮脂量が少なく乾燥して,TEWLが高値であった.皮膚は,季節の影響も受けやすいことが考えられ,吉国ら(1983)は,冬季には,体幹,四肢の水分量の減少が著明で,中でも下肢外側(下腿伸側)の減少率が高いと報告している.本研究は12月~3月までの間に調査しており,各年代を平均的に測定していたが,冬季になると乾燥した状態になりやすいことが考えられる.高齢者に認められる乾皮症は生理的老化現象であり,保湿因子の減少が乾燥の原因であると言われ,皮脂腺の少ない部位は,乾皮症の好発部位に一致する.本研究で四肢は高年のみならず,他の年齢区分においても水分量,皮脂量が低値で,TEWLが高値であったことからバリア機能が低くケアが必要な部位と考える.また,前胸部・上背部と比較し,体幹であっても腰部・腹部はどの年齢区分も水分量・皮脂量が低値であり,腰腹部,大腿,上肢は高齢者の乾皮症の好発部位とも一致する(敷地ら,2001;田上,2012).四肢,腹部・腰部は,水分量,皮脂量が低下し,TEWLが高値となるすなわちバリア機能が低下した部位であり,年齢区分を問わず早期からケアが必要な部位であることが示唆された.
年齢区分による皮膚特徴を踏まえた看護ケアを実践していくために,総合評価得点3~8点の皮膚特徴を大きく分けると3~5,6,7~8の3つに分けることができる.3点(最も良い皮膚状態)~5点(皮脂量のみ低下またはTEWLのみ高値)の部位は,ケアの必要性が低い部位であり,6点(水分量・皮脂量の低下)の部位は,水分と油分の両者を補う保湿が必要な部位であり,7~8点(水分量・皮脂量が低下・TEWLが高値)の部位は,水分や油分を補うとともに,バリア機能のさらなる低下を防ぐために擦らず,優しく拭くなどのケア介入を必要とする部位である.
まず,3~5点にあたる最も良い皮膚状態~比較的良い皮膚状態を示した後頸部,前胸部,上背部は,直ちにケアの必要性は低く,観察を要する部位であると考える.
6点にあたる青・壮年の下腿伸側,高年者の上肢,全ての年齢区分における臀部,前腕内側は,水分・油分を補う保湿ケアの必要がある.
7~8点にあたる四肢,腹部は,全ての年齢区分で水分量及び皮脂量が低下し,TEWLが高値であることから,水分と油分を補う保湿ケアに加え,バリア機能を保持し,回復させるケアが必要である.皮膚が乾燥する要因として,年齢等の皮膚生理機能の変化や,外気や室内空調による低湿度,紫外線曝露などの環境要因,過度な入浴など不適切なスキンケアが指摘されている(佐伯ら,2021).皮膚を過度に擦ることや強い刺激を与えることにより角質層が傷つきバリア機能の低下を招くため,優しく拭くなどの愛護的なケアの必要性が考えられた.
一方で青・壮年では,皮膚表層が乾燥していても高齢者に認められる生理的老化現象とは違い,皮膚の保湿にかかわる3大因子である皮脂膜,天然保湿因子(NMF),角質細胞間脂質が保たれていることから,乾皮症へ移行は少ないことが考えられる.しかし,青・壮年から早期にケアを開始することによって,高年における乾皮症への移行を防ぎ,皮膚の健康状態を維持することにつながることが考えられた.
本研究は,約10年前に収集したデータではあるが,生理学的指標は,対象者の基礎的な皮膚機能を示すものである.社会的・環境的要因の変化によって大きく影響されるものではないと考え,測定値としての有効性は十分に担保できると考える.また,青年期から高年期までの133名を対象とした身体16部位の皮膚状態の測定は,一定の条件下で手順に基づき,高精度の測定機器を用いて行っており,希少で質の高いデータであると捉えている.よって現在においても学術的,臨床的意義があると判断した.
本研究の限界として,温度や湿度などの測定環境を一定に保った状態で実施したが,調査当日に向けて事前に設定した対象者の5つの条件については,対象者の自己管理に委ねられており,厳密な遵守状況を確認することはできなかった.また,データ収集は12月から3月にかけて実施したため,外気温の変化が対象者の皮膚状態に何らかの影響を及ぼしている可能性を完全には否定できない.
今後の課題は,更なる研究を重ねるために,同一対象者を経時的に追跡し,加齢に伴う皮膚状態の自然変化をより正確に把握できる縦断的追跡研究の導入や,皮膚状態に影響を及ぼす疾患や内服などの因子を捉えることである.臨床現場と連携し,得られた知見を看護ケアに反映させ,実際のケアにどのような変化が起こるかを観察・検証する介入研究が期待される.
健康な20~80歳代の身体の各部位における加齢に伴う皮膚状態の変化を生理機能測定により調査を行い,以下の結果を得た.
1.水分量は青・壮年,中年,高年の年齢区分の差はほとんどなく,体幹は水分が保たれているが,四肢は年齢区分に関わらず低値であった.
2.皮脂量は,体幹において,後頸部,上背部,前胸部では青・壮年が高値で,中年以降は低下した.四肢は年齢区分に関わらず低値であった.
3.TEWLは,前腕部のみ青・壮年が高値で,他の部位では年齢区分による差がなかった.TEWLは全ての年齢区分で後頸部,手背,腹部が高値を示した.
4.pHは高年者の臀部・下肢は5.1~5.2と有意に高値であったが,弱酸性は保たれていた.
5.水分量,皮脂量,TEWLによる皮膚バリア機能の状態を判断する総合評価では,年齢区分で加齢による低下があるが総合評価が良い部位(上背部,前胸部),全ての年齢区分で皮膚特徴に差がない部位(後頸部),全ての年齢区分で総合評価が悪い部位(手背,足背,大腿部,腹部)という3つの皮膚特徴が見られた.
謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
付記:本研究は,愛知県立大学大学院看護学研究科看護学専攻に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものであり,本論文の一部は,第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.