2026 年 46 巻 p. 366-378
目的:概念分析を用いて,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの構成要素と定義を明らかにし,看護実践への示唆を得る.
方法:Rodgers & Knafl(2000/2023)の手法にて,国内外の36文献を対象とした.
結果:属性は【看護職への暴力の開示】【信頼できる相手とのDVに関する対話】を含む5つ,先行要件は【暴力について話そうと思える身近な看護職】【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】を含む7つ,帰結は【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】【見守られている安心感と自信】を含む4つを抽出した.
結論:「妊娠・子育てを通して関わる身近な看護職の存在や,DVに向き合う母親の覚悟によって促される,暴力の開示やDVに関する対話とサポートの利用,および危機発生に対する介入の受け入れ」と定義した.暴力について開示できる関係と環境づくり,多職種連携による長期的な伴走支援が重要である.
Purpose: This study analyzed help-seeking among pregnant and postpartum women (within 1 year of giving birth) who were experiencing intimate partner violence (IPV). The analysis identified key constructs and definitions that can inform nursing professionals working with IPV victims.
Methods: We applied Rodgers’ evolutionary concept analysis to a total of 36 publications.
Results: Help-seeking was characterized by five core attributes: use of medical and childcare support, disclosure of violence to nursing professionals, dialogue about IPV with trusted individuals, use of IPV counseling services, and accepting intervention for crisis. Antecedents included difficulty disclosing violence and fear of outside intervention, fear of husband’s control and violence, psychological and social barriers, knowledge of IPV and support services, awareness of support based on past experiences, closeness with nursing professionals who make it comfortable to disclose violence, and maternal recognition of IPV with a resolve to confront it. Consequences of help-seeking included progress toward separation, continued use of medical and childcare support alongside new assistance, a sense of security and confidence from being watched over, and disappointment and maintenance of the marital relationship.
Conclusions: Help-seeking was defined as a process that “involves disclosure of violence, dialogue about IPV, use of support services, and acceptance of intervention crisis, prompted by the presence of nursing professionals close to women throughout pregnancy and child-rearing, as well as maternal readiness to confront IPV.” The findings emphasize the importance of fostering environments that support disclosure, sustained involvement of nursing professionals, and long-term accompaniment through multidisciplinary collaboration in hospitals and communities.
配偶者からの暴力(ドメスティック・バイオレンス:DV)に関する国内調査においては,外来通院する妊婦の2割以上(Kataoka et al., 2016;田口ら,2021),褥婦の8.2~14.2%(長坂ら,2012;中澤,2009)がDVを受けている.妊産婦とその子どもの安全を確保するために,どのような介入が最適であるかは明らかになっておらず,効果がある可能性のある介入として,エンパワメント介入,安全計画立案を促すカウンセリングや心理療法,地域リソースの紹介が報告されている(Jahanfar et al., 2014).しかし,DVスクリーニングを受けた妊婦の7割以上は,被害を医療提供者に相談しないと回答し(Kataoka & Imazeki, 2018),看護職に対してDVを打ち明けること,困ったときに自ら専門職の支援を求めること,提供された支援を受け入れることは容易ではないとの報告がある(問本・友田,2018;問本ら,2025).これらの現状より,相談および支援を求めることに困難を抱えているDVを受けている妊産婦に対して,効果的な介入を明らかにする必要がある.
助けを求められない人への支援について,ヘルプシーキング(Help-seeking:援助要請または援助希求)概念を用いた対象理解と支援が,近年注目されている(本田,2015;松本,2019).家庭内暴力におけるヘルプシーキングについては,問題の認識と定義,支援源の特定と関与,暴力の経験の開示,フォーマルまたはインフォーマルな支援を受けること,これらを含む多段階のプロセスであると定義されている(Dufour et al., n.d.).また,海外では親密なパートナーからの暴力をIntimate Partner Violence(IPV)と表記されることが多く,IPV被害女性のヘルプシーキングの促進因子としては,身体的・精神的健康や仕事への影響,同時期における複数形態のDV被害(Malihi et al., 2021),フォーマル・インフォーマルからの支援,支援者の知識,アクセスのしやすさ,子どもを守り暴力を予防したいという被害者の願望(Ravi et al., 2022)が報告されている.反対に,IPV被害女性のヘルプシーキングにおける阻害因子としては,スティグマ,恐怖,被害者自身が虐待と認識することの難しさ(Wright et al., 2022)等が報告されている.しかし,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングはどのようなものか,何を契機にして起こるのかについて,明らかになっていない.
そこで本研究では,概念分析を用いて,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの構成要素と定義を明らかにし,看護実践への示唆を得ることを目的とする.
1)DVを受けている妊産婦:現在法的な婚姻関係にある夫もしくは同居しているパートナー(以下,非婚姻状態も含め夫とする)から暴力を受けている,妊娠中から産後1年未満の女性を指す.既に別居や離別している女性は含まない.また,DVの問題認識がある女性だけでなく,DV被害の自覚がない女性も含む.
2)ヘルプシーキング:DVによって生じている問題や困難があることに女性が気づき,外部からの助けが必要であることを認識し,問題や困難を他者に開示することを通して,助けを求めること.観察可能な行動だけでなく,女性の内的な気づきや認識の変化を含む.
2. 概念分析の方法Rodgers & Knafl(2000/2023)の手法を参考に,概念を文脈や一般的な使われ方の側面に注意を払いながら分析することにより,その概念の属性,先行要件,帰結を明らかにした.英語文献および日本語文献を対象として,「DVを受けている妊産婦のヘルプシーキング」について以下の手順で概念分析を実施した.最初に,分析対象文献から「DVを受けている妊産婦のヘルプシーキング(help-seek,seek help,援助要請,援助希求,助けを求める,相談する,受診する,問題や困難を開示する・話す)」が出現した前後の文脈を含めてデータをマトリックス表に整理し,本研究の定義におけるヘルプシーキングの内容に注意して要約した.次に類似性と相違性に基づいてコード化し,それぞれがもつ意味に注意しながら抽象度を上げ,サブカテゴリーとカテゴリーを命名し,属性,先行要件,帰結に分類した.分析の信頼性と妥当性の確保のために,分析過程では看護学の研究者2名のスーパーバイズを受けながら分析した.
3. 対象となる文献選定日本において,配偶者からの暴力は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」と表現される通り,「ドメスティック・バイオレンス(DV)」,「配偶者間暴力」と表現されるのが一般的である.一方で,DVに関する研究論文が最も多いアメリカでは,「Intimate Partner Violence(IPV・親密なパートナーからの暴力)」と表現されるほか,「Battered Women」「Partner Abuse」の用語を用いられることがある.援助要請については,「Help-seeking」が用いられている.実際の援助行動としては,痛みに対して医師に助けを求める,心理的な苦悩を持つ人が友人・親戚やカウンセラー・精神科医に問題を持ち込むなどが含まれているが(DePaulo, 1983),DV被害女性の援助要請として,「Disclosure(開示する・打ち明ける)」「カウンセラー,セラピスト,ケースワーカーを含むメンタルヘルス資源の利用」も報告されている(Satyen et al., 2019).すなわち,DV被害女性の「Help-seeking」にはDVの「開示」や「相談」が含まれていると言える.
そこで,英語文献の検索では「CINAHL」「PubMed」のデータベースを用い,検索語は,「“intimate partner violence” OR “battered woman” OR “partner abus*”」AND「help-seek* OR helpseek* OR “help seek*” OR help* AND seek* OR counsel* OR disclos*」AND「pregnan* OR postpartum OR perinatal」とした.「CINAHL」は検索フィールドをabstractとし,検索条件として「女性」「抄録あり」「英語」「19~44歳」「2014~2024年」とした結果,45件が該当した.「PubMed」は検索フィールドをtitle & abstractとし,検索条件として「女性」「英語」「19~44歳」「2014~2024年」とした結果,108件が該当した.「CINAHL」「PubMed」の重複文献は29件であった.検索条件として「19~44歳」とした理由は,若年母親の場合,保護者の影響を強く受けるためである.高年妊婦については,自然妊娠による妊孕率が著しく低下し(日本生殖医学会,n.d.),かつ身体的リスクが非常に高くなる45歳以上(Carolan, 2013)は,成人女性のヘルプシーキングと同様に分析することが難しいと考え,44歳までとした.
日本語文献の検索においては「医中誌Web」「CiNii」のデータベースを用い,検索語は,「ドメスティック・バイオレンス OR ドメスティックバイオレンス OR DV OR “intimate partner violence” OR IPV OR 親密なパートナーからの暴力 OR バタードウーマン OR 配偶者からの暴力 OR 夫からの暴力」AND「援助要請 OR help-seek OR ヘルプシーキング OR ヘルプシーク OR 援助希求 OR 助けを求め OR 相談 OR カウンセリング OR 開示」AND「妊娠 OR 妊婦 OR 褥婦 OR 産後 OR 周産期」とした.検索条件として,「2014~2024年」「原著」とした結果,「医中誌Web」にて13件が該当した.これらに,引用文献や同一著者の文献等からハンドサーチで加えた19文献を足し,185文献を対象文献とした.
重複文献を除いた156文献について,タイトル・抄録を読み,ヘルプシーキングの内容がない文献,低・中所得国のみで実施している文献,夫からの暴力被害ではない文献,妊産婦が対象ではない文献を除外した57件の本文を精読した.その中で,結果にヘルプシーキングの内容がない文献,妊産婦が対象ではない文献を除外し,残りの36件を概念分析の対象とした(表1).対象文献の選定方法については図1に示した.
| No. | 著者 | 発行年 | 国 | タイトル |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Finnbogadóttir et al. | 2014 | スウェーデン | Struggling to survive for the sake of the unborn baby: a grounded theory model of exposure to intimate partner violence during pregnancy |
| 2 | 藤田 | 2014 | 日本 | ドメスティック・バイオレンス被害女性の周産期および育児期を通じたDV被害に対する認識の回復過程 |
| 3 | Mauri et al. | 2015 | イギリス | Domestic violence during pregnancy: Midwives’ experiences |
| 4 | 本田 | 2015 | 日本 | 援助要請のカウンセリング 「助けて」と言えない子どもと親への援助 |
| 5 | Bacchus et al. | 2016a | イギリス | Infusing Technology Into Perinatal Home Visitation in the United States for Women Experiencing Intimate Partner Violence: Exploring the Interpretive Flexibility of an mHealth Intervention |
| 6 | Bacchus et al. | 2016b | イギリス | ‘Opening the door’: A qualitative interpretive study of women’s experiences of being asked about intimate partner violence and receiving an intervention during perinatal home visits in rural and urban settings in the USA |
| 7 | Spangaro et al. | 2016a | オーストラリア | ‘They aren’t really black fellas but they are easy to talk to’: Factors which influence Australian Aboriginal women’s decision to disclose intimate partner violence during pregnancy |
| 8 | Spangaro et al. | 2016b | オーストラリア | Deciding to tell: Qualitative configurational analysis of decisions to disclose experience of intimate partner violence in antenatal care |
| 9 | Eustace et al. | 2016 | オーストラリア | Midwives’ experiences of routine enquiry for intimate partner violence in pregnancy |
| 10 | 藤田 | 2016 | 日本 | 周産期及び子育て期におけるドメスティック・バイオレンス被害女性と助産師の関わりの様相 1事例を通して |
| 11 | 問本・友田 | 2017 | 日本 | DVを受けながら子育てする産後の女性の困難 |
| 12 | Garnweidner-Holme et al. | 2017 | ノルウェー | Talking about intimate partner violence in multi-cultural antenatal care: a qualitative study of pregnant women’s advice for better communication in South-East Norway |
| 13 | Jack et al. | 2017 | カナダ | Identification and assessment of intimate partner violence in nurse home visitation |
| 14 | Van Parys et al. | 2017 | ベルギー | The impact of a referral card-based intervention on intimate partner violence, psychosocial health, help-seeking and safety behaviour during pregnancy and postpartum: a randomized controlled trial |
| 15 | Kataoka & Imazeki | 2018 | 日本 | Experiences of being screened for intimate partner violence during pregnancy: a qualitative study of women in Japan |
| 16 | 問本・友田 | 2018 | 日本 | ドメスティック・バイオレンス(DV)を受けながら子育てする産後の女性がもつ支援に対する思いとニーズ 医療機関および地域母子保健に対して |
| 17 | 淺田ら | 2018 | 日本 | 妊娠中DVを受けた若年初産婦に対する妊娠期から産後にかけた看護介入の一考察 |
| 18 | Kapaya et al. | 2019 | アメリカ | Intimate Partner Violence Before and During Pregnancy, and Prenatal Counseling Among Women with a Recent Live Birth, United States, 2009-2015 |
| 19 | Spangaro et al. | 2019 | オーストラリア | ‘Yarn about it’: Aboriginal Australian women’s perceptions of the impact of routine enquiry for intimate partner violence |
| 20 | Hooker et al. | 2020 | オーストラリア | Differences in help-seeking behaviours and perceived helpfulness of services between abused and non-abused women: A cross-sectional survey of Australian postpartum women |
| 21 | Spangaro et al. | 2020 | オーストラリア | “Made Me Feel Connected”: A Qualitative Comparative Analysis of Intimate Partner Violence Routine Screening Pathways to Impact |
| 22 | Phillips et al. | 2021 | アメリカ | Barriers to help-seeking among intimate partner violence survivors with opioid use disorder |
| 23 | 村上 | 2021 | 日本 | ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと |
| 24 | Flaathen et al. | 2021 | ノルウェー | User-Involvement in the Development of a Culturally Sensitive Intervention in the Safe Pregnancy Study to Prevent Intimate Partner Violence |
| 25 | 飯島・高橋 | 2021 | 日本 | IPV被害妊婦の実態および妊婦健康診査時に助産師へ求める支援 |
| 26 | Flaathen et al. | 2022 | ノルウェー | Safe Pregnancy intervention for intimate partner violence: a randomised controlled trial in Norway among culturally diverse pregnant women |
| 27 | Siller et al. | 2022 | オーストリア | Midwives Perceiving and Dealing With Violence Against Women: Is It Mostly About Midwives Actively Protecting Women? A Modified Grounded Theory Study |
| 28 | 加藤・片岡 | 2022 | 日本 | COVID-19感染拡大下におけるドメスティック・バイオレンス被害女性への支援 |
| 29 | Luebke et al. | 2024 | アメリカ | “It is like a curse”. The lived experiences of the intersection of intergenerational violence, pregnancy, and intimate partner violence among urban Wisconsin Indigenous women |
| 30 | Andreasen et al. | 2024a | デンマーク | The effect of a digital intervention on symptoms of depression in pregnant women exposed to Intimate partner violence in Denmark and Spain (STOP study) |
| 31 | Scott et al. | 2024 | アメリカ | Creating Healing-Centered Spaces for Intimate Partner Violence Survivors in the Postpartum Unit: Examining Current Practices and Desired Resources Among Health Care Providers and Postpartum People |
| 32 | Eikemo et al. | 2024 | スウェーデン | I had to tell to survive"- a cross-sectional study on exposure to intimate partner violence in pregnant women and the importance of screening |
| 33 | Andreasen et al. | 2024b | デンマーク | Facilitators and barriers for digital screening and a supportive intervention within antenatal care among danish pregnant women facing intimate partner violence: A qualitative study nested in the STOP study |
| 34 | Hill et al. | 2024 | アメリカ | Help-Seeking Among Pregnant and Postpartum Women With Lifetime Experiences of Opioid Use Disorder and Intimate Partner Violence. |
| 35 | Tasaki & Kataoka | 2024 | 日本 | Development of Educational Video Material for Pregnant Women Who Screened Positive for Intimate Partner Violence |
| 36 | 丸山・堀内 | 2024 | 日本 | Domestic Violence 被害妊産婦への看護職の関わり |

文献を使用する際は出典を明記し,著作権の保護を遵守した.
属性,先行要件,帰結より,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの概念構造(図2)を示した.以下にカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕で表した.なお,これ以降は英語文献によるIPVも全てDVと表記する.また,文献から職種が明らかな看護職については,助産師,保健師と明記するが,ホームビジター等,各国の制度によって勤務する看護職に差があり職種が明らかでない場合は,看護職と表記する.

DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの属性は,【医療や子育て支援の利用】【看護職への暴力の開示】【信頼できる相手とのDVに関する対話】【DVに関する相談機関の利用】【危機発生に対する介入の受け入れ】の5つが抽出された.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 文献No. |
|---|---|---|
| 医療や子育て支援の利用 | 身体的暴力により救急外来を受診する | 17, 20 |
| 産後の母子のための医療を利用する | 16, 20 | |
| 産後ケアや母乳育児支援を利用する | 20 | |
| 保健師に子育ての相談をする | 16 | |
| 看護職への暴力の開示 | 外傷や症状を通して暴力を気づかせようとする | 13, 19 |
| 反応を見ながら段階的に暴力を打ち明ける | 1, 5, 6, 7, 8, 9, 12, 13, 15, 19, 21, 23, 27, 28, 30, 31, 33, 35, 36 | |
| 直接暴力について尋ねられ打ち明ける | 5, 18, 32 | |
| 助けを求めて暴力について自ら話し始める | 1, 2, 32 | |
| 受診の原因は暴力だと隠さず話す | 6, 17 | |
| 信頼できる相手との DVに関する対話 |
理解してくれる友人や家族と話し合う | 6, 10, 15, 22, 24, 25 |
| 看護職には包み隠さず話す | 5, 6, 13, 15, 16, 18, 25, 28, 33, 34 | |
| DVに関する相談機関の利用 | DVに関する専門の窓口へ相談する | 2, 10, 15 |
| 危機発生に対する介入の受け入れ | 危機発生時の対応を隣人や家族に依頼する | 14, 26 |
| 暴力の激化や危機に対し自ら助けを求める | 10, 14, 34, 36 | |
| 警察を呼び介入を求める | 6, 36 |
〔身体的暴力により救急外来を受診する〕というDVによる直接的な健康障害に関する治療だけでなく,〔産後の母子のための医療を利用する〕〔産後ケアや母乳育児支援を利用する〕という妊産婦特有の心身の状況に対するヘルプシーキングがあった.また妊産婦は,保健師を子育てに関する専門家として認識し,〔保健師に子育ての相談をする〕に至っていた.
(2) 【看護職への暴力の開示】妊産婦は,身体的暴力を受け受診した救急外来において,〔外傷や症状を通して暴力を気づかせようとする〕ことがあった.また,DVに関する小さな手掛かりを漏らすことで暴力をほのめかしたり,遠回しな言い方をしたりすることで,〔反応を見ながら段階的に暴力を打ち明ける〕場合があった.スクリーニング場面だけではなく,看護職から暴力について具体的に聞かれることで〔直接暴力について尋ねられ打ち明ける〕ことが可能になっていた.〔助けを求めて暴力について自ら話し始める〕ことや,〔受診の原因は暴力だと隠さず話す〕直接的な開示を行う場合もあった.
(3) 【信頼できる相手とのDVに関する対話】身近な人に暴力について話すことができ,つらさをわかってもらえる場合,〔理解してくれる友人や家族と話し合う〕こと自体が妊産婦にとって助けとなっていた.また,周産期ケアや子育て支援を通して,看護職になんでも話せる,暴力について自らすすんで話せる関係となり,〔看護職には包み隠さず話す〕に至っていた.
(4) 【DVに関する相談機関の利用】DVの問題に向き合い,離別を見据えて専門的な助けが必要であると認識した妊産婦は,〔DVに関する専門の窓口へ相談する〕に至っていた.
(5) 【危機発生に対する介入の受け入れ】自分だけで危機に対処するのが困難,あるいは危険であることに気づいた妊産婦は,〔危機発生時の対応を隣人や家族に依頼する〕ことを行っていた.非常時においては,いつでも電話してきてよいという看護職の言葉を思い出し電話する,シェルターに助けを求めるなど〔暴力の激化や危機に対し自ら助けを求める〕行動をしていた.〔警察を呼び介入を求める〕といった他者を巻き込んだ危機対応によって,自分と子どもの安全や命を守ろうとしていた.
2) 先行要件について(表3)DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの先行要件は,【暴力について話す困難さと他者介入への恐怖】【夫の支配と暴力に対する恐怖】【心理的・社会的に複合した高い障壁】【DVと相談機関に対する知識】【過去の経験による支援に対する認識】【暴力について話そうと思える身近な看護職】【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】の7つが抽出された.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 文献No. |
|---|---|---|
| 暴力について話す困難さと他者介入への恐怖 | 自責感とスティグマや恥の感情で話せない | 3, 4, 6, 15, 16, 22, 23, 25, 32, 35 |
| 不適切な母親として通告される恐れ | 9, 11, 12, 16, 19, 22, 31, 33 | |
| 秘密が漏れ望まない介入を受ける恐れ | 6, 13, 19, 32, 33 | |
| 夫の支配と暴力に対する恐怖 | 暴力の口外が夫に知られて報復につながる恐れ | 15, 16, 22, 24, 25, 33 |
| 夫の監視と支配で助けを求められない | 9, 11, 12, 16, 22, 31 | |
| 心理的・社会的に複合した高い障壁 | 暴力を過小評価し助けが必要と認識できない | 2, 12, 13, 14, 22, 25 |
| トラウマの回避 | 6, 7, 8 | |
| 子どもができれば夫は変わってくれるという願望 | 2, 10 | |
| 暴力があっても夫婦関係を維持したい | 6, 22 | |
| 経済的依存により夫と子育てするしか選択肢がない | 2, 4, 16, 22 | |
| 家族や友人からのサポートが得られない | 6, 11, 31 | |
| 家族が暴力のつらさを分かってくれない | 2, 11 | |
| 人種・民族差別や社会的な耗弱性 | 4, 7, 12, 19 | |
| DVと相談機関に対する知識 | 暴力から逃れるための情報を知らない | 2, 4 |
| DVに関する情報提供や教育的支援を受けた経験 | 2, 12, 13, 14, 24, 26, 31 | |
| 過去の経験による支援に対する認識 | 暴力について尋ねない助産師 | 9, 12, 27 |
| 看護職を暴力の相談相手として認識していない | 13, 15, 16, 25 | |
| 助産師を信頼できない | 8, 16, 19, 25, 32 | |
| 過去の経験から支援者を信頼できない | 4, 6, 16 | |
| 現状の支援だけで十分という認識 | 21, 32, 34 | |
| 暴力について話そうと思える身近な看護職 | いつも担当してくれる看護職との信頼関係 | 3, 5, 6, 7, 8, 9, 12, 13, 19, 25, 30, 33 |
| 気遣われ時間をかけて話を聞いてもらう経験 | 3, 5, 6, 7, 13, 16, 22, 25 | |
| ありのままの自分が受け入れられる妊娠・出産の経験 | 2 | |
| 看護職がDVに気づいてくれる | 3, 5, 9, 12, 13, 23, 25, 27, 29, 31, 36 | |
| 暴力について話しやすい場面が何度もある | 6, 7, 8, 9, 12, 13, 16, 19, 31 | |
| 家庭状況や夫の言動について具体的に尋ねられる | 3, 7, 8, 13, 16, 23, 27, 31, 32 | |
| 話しても安全だと思える環境 | 5, 7, 8, 9, 12, 13, 16, 19, 24, 28, 31 | |
| 退院しても気にかけ関わってくれる病院の存在 | 16 | |
| 必ず行くと家庭訪問を押してくれた保健師の存在 | 16 | |
| DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟 | スクリーニングや看護職の関わりでDVに気づく | 1, 2, 5, 6, 7, 12, 14, 15, 18, 19, 21, 26, 27, 28, 33, 36 |
| 子どもができても夫は変わらないという気づきと失望 | 2, 10 | |
| 自分と子どもへの暴力の深刻化 | 2, 7, 10, 13, 19, 34 | |
| 胎児を守るために暴力について助産師に話そうという決意 | 7, 8, 31, 32, 33 |
DVを受けている妊産婦は,〔自責感とスティグマや恥の感情で話せない〕ため,助けを求めることができなかった.児童相談所等に〔不適切な母親として通告される恐れ〕や,暴力が公になり子どもが保護されるといった〔秘密が漏れ望まない介入を受ける恐れ〕から,暴力を受けていることを隠していた.
(2) 【夫の支配と暴力に対する恐怖】妊産婦は,〔暴力の口外が夫に知られて報復につながる恐れ〕を抱き,〔夫の監視と支配で助けを求められない〕状況にあった.
(3) 【心理的・社会的に複合した高い障壁】妊産婦は,〔暴力を過小評価し助けが必要と認識できない〕ことや〔トラウマの回避〕により,DVの問題に向き合うことができず,助けを求めることができない状況にあった.また,〔子どもができれば夫は変わってくれるという願望〕や,〔暴力があっても夫婦関係を維持したい〕場合だけでなく,〔経済的依存により夫と子育てするしか選択肢がない〕場合は,子どもの親として夫と家族を続けることを希望していた.〔家族や友人からのサポートが得られない〕〔家族が暴力のつらさを分かってくれない〕といった,助けを求めようとしても,身近な人の理解や支援が得られない状況にあった.マイノリティであること,言語の壁,移民であること,文化と慣習等の〔人種・民族差別や社会的な耗弱性〕により,助けを求めるという選択肢がない女性がいた.
(4) 【DVと相談機関に対する知識】〔暴力から逃れるための情報を知らない〕ため,DVの関係にとどまっていた.一方で,〔DVに関する情報提供や教育的支援を受けた経験〕があることは,DVに関する相談機関を利用するきっかけとなっていた.
(5) 【過去の経験による支援に対する認識】〔暴力について尋ねない助産師〕が妊産婦に関わっている場合は,〔看護職を暴力の相談相手として認識していない〕状況にあった.また,怖い,冷たい,頼ろうと思えないなどの理由で〔助産師を信頼できない〕と感じていた.そして,自らの成育歴や支援者が役に立たなかったことから,〔過去の経験から支援者を信頼できない〕と認識していた.〔現状の支援だけで十分という認識〕は,新たなサポートの利用を受け入れることへの抵抗を強めていた.
(6) 【暴力について話そうと思える身近な看護職】妊産婦に〔いつも担当してくれる看護職との信頼関係〕があることは,看護職への暴力の開示へとつながっていた.看護職から〔気遣われ時間をかけて話を聞いてもらう経験〕は,恥や暴力について話す困難さと恐怖を乗り越え,暴力を開示することにつながり,〔ありのままの自分が受け入れられる妊娠・出産の経験〕によって,自分は悪くないという感覚や自信をとり戻していた.
妊産婦が自ら助けを求めなくても,看護職がDVの視点を持って妊産婦に関わることで,夫とのやり取りや妊産婦の様子から〔看護職がDVに気づいてくれる〕に至っていた.暴力について尋ねる理由を説明される,暴力について話すかどうか自己決定を尊重される,初診だけでなく関係が深まった後に暴力について尋ねられるなど,〔暴力について話しやすい場面が何度もある〕ことは,妊産婦が暴力について打ち明けることを後押ししていた.また,夫の言動を暴力と認識していない場合や,暴力について話してもよいのかわからない場合があるため,〔家庭状況や夫の言動について具体的に尋ねられる〕ことで,暴力について話せる場合もあった.夫に知れることがない,望まない介入を受けない,差別されないと思えるような〔話しても安全だと思える環境〕が重要であり,プライベートな個室や急かされない時間が必要であった.産後は,〔退院しても気にかけ関わってくれる病院の存在〕により体調不良を訴えることができたり,〔必ず行くと家庭訪問を押してくれた保健師の存在〕により暴力を打ち明けることにつながったりと,看護職からの接近によって助けを求めることが可能になっていた.
(7) 【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】妊産婦は,スクリーニング場面での看護職の質問や,病院に貼ってあるDVに関するポスターを見て〔スクリーニングや看護職の関わりでDVに気づく〕に至り,DVに向き合う契機となっていた.また,夫が出産や育児に関心を示さず,〔子どもができても夫は変わらないという気づきと失望〕によってDV被害を認識することや,面前DVによる上の子の変化や夫から子どもへの直接的暴力,命の危険を感じるような身体的暴力などの〔自分と子どもへの暴力の深刻化〕が起こることで,このままではいけないと妊産婦が感じ,助けを求める大きなきっかけとなっていた.妊娠がきっかけとなり,母体となった自分の健康を守る必要性を感じ〔胎児を守るために暴力について助産師に話そうという決意〕に至る場合もあった.
3) 帰結について(表4)DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの帰結は,【離別に向けたプロセスの前進】【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】【見守られている安心感と自信】【失望と夫婦関係の維持】の4つが抽出された.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 文献No. |
|---|---|---|
| 離別に向けたプロセスの前進 | 夫婦関係の振り返りと問題認識の強化 | 2, 10, 14, 21, 28, 31, 35 |
| 助けを得て夫から離れる | 2, 24, 28, 31, 36 | |
| 医療や子育て支援の継続利用と 新たな支援 |
病院での継続ケアやフォローアップ | 21, 28, 31, 36 |
| 病院からの情報提供と必要な支援への橋渡し | 15, 19, 21, 31 | |
| 家庭訪問の受け入れ | 5, 6, 16, 28, 36 | |
| 紹介されたDVに関する相談機関の利用 | 21, 22, 28, 30, 31 | |
| 将来的なヘルプシーキングにつながる知識 | 19, 24, 35 | |
| 警察から必要な支援への橋渡し | 22 | |
| 見守られている安心感と自信 | カルテに暴力の記録が残される | 21 |
| 病院・保健師と一緒に自分と子どもの安全を守る | 6, 17, 28, 36 | |
| 孤独感の減少と安心 | 6, 19, 21, 22 | |
| 健康問題の改善 | 26, 30 | |
| 暴力に対処できている感覚 | 26, 33 | |
| 失望と夫婦関係の維持 | ニーズに合わない専門職の対応に対する失望 | 1, 20, 21, 34 |
| 現状維持の選択と新たな支援の拒否 | 21, 36 | |
| 離別を決意できず夫の元に留まる/戻る | 1, 2, 16, 28, 36 |
ヘルプシーキングの結果,夫との同居を継続する女性にも〔夫婦関係の振り返りと問題認識の強化〕が起こり,さらなるヘルプシーキングや離別に向けた準備につながった.離別に向けたプロセスが目に見える形で前進し,〔助けを得て夫から離れる〕に至ることもあった.
(2) 【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】妊産婦は,看護職にDVを開示することで〔病院での継続ケアやフォローアップ〕を受けるに至っていた.また,〔病院からの情報提供と支援への橋渡し〕によって,妊産婦が利用可能な様々な支援についての理解を深めた上で,必要な支援につながることができていた.具体的には,看護職の〔家庭訪問の受け入れ〕や,〔紹介されたDVに関する相談機関の利用〕につながることもあった.一方その時は紹介された支援と妊産婦がつながらなかった場合も,将来的に助けを求められるようになるための〔将来的なヘルプシーキングにつながる知識〕を得ていた.〔警察から必要な支援への橋渡し〕が行われる場合もあった.
(3) 【見守られている安心感と自信】妊産婦が助けを求めた結果,〔カルテに暴力の記録が残される〕ようになっていた.その結果,危険発生時に母子の安全を守るための準備について,看護職と妊産婦が話し合ったり,病院では産科・小児科を中心に多職種が母子の情報とケア方針を共有し,病院と地域の保健師間が連携して支援することを妊産婦が受け入れたりすることによって,〔病院・保健師と一緒に自分と子どもの安全を守る〕ことが可能になっていた.気にかけてくれる看護職とのつながりを感じ,話すと楽になるという感覚を妊産婦が得られることで,〔孤独感の減少と安心〕に至っていた.抑うつなどの〔健康問題の改善〕は,自分自身の生活をコントロールし,〔暴力に対処できている感覚〕につながっていた.
(4) 【失望と夫婦関係の維持】医療従事者が話を聞くだけで積極的に行動しないことや,反対に夫との離別を前提とした支援を行うことによって,〔ニーズに合わない専門職の対応に対する失望〕が起き,専門職との関係性が断ち切られていた.看護職が支援への橋渡しを行おうとしても,〔現状維持の選択と新たな支援の拒否〕によって,状況に変化が起きない場合もあった.自責感や無力感,離別して自立する力がないといった理由で,〔離別を決意できず夫の元に留まる/戻る〕という選択をせざるを得ない妊産婦の状況があった.
概念分析より,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングについて,「妊娠・子育てを通して関わる身近な看護職の存在や,DVに向き合う母親の覚悟によって促される,暴力の開示やDVに関する対話とサポートの利用,および危機発生に対する介入の受け入れ」と定義した.Lelaurain et al.(2017)は,DV被害女性のヘルプシーキングプロセスについて,被害者,助けを求める行動,家族や専門家等との間に築かれる,相互依存的かつ動的な関係であると述べている.また,Randell et al.(2012)は,DVを受けている母親のヘルプシーキングに関する動機には,他者による介入や適切な時の適切な言葉が関係すると報告している.つまり,妊娠中から産後1年間は,マタニティケアや子育て支援を通して様々な看護職と出会う中で,DVを受けている女性のヘルプシーキングが促進されるポテンシャルの高い時期であるといえる.
1. DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの特徴DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの特徴として,妊娠・子育てを通して看護職との接触機会が増加し,【暴力について話そうと思える身近な看護職】として認識することが,助けを求めるきっかけになっていた.また,自分が母親役割を獲得していく一方,父親役割を担えない夫に気づき,【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】ができることによって,助けを求める動機づけが高まっていた.そして,【医療や子育て支援の利用】を通した看護職とのつながりの中で,【看護職への暴力の開示】【信頼できる相手とのDVに関する対話】が可能になった.また,【危機発生に対する介入の受け入れ】ができることで,【離別に向けたプロセスの前進】【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】【見守られている安心感と自信】へとつながることが明らかになった.
一方,ヘルプシーキングによって,女性が【離別に向けたプロセスの前進】に向かう反面,【失望と夫婦関係の維持】に向かう場合もあることが明らかになった.内閣府(2024)の調査では,DVを受けた後に別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった女性は半数近くであり,その理由は「子供がいる(妊娠した)から,子供のことを考えたから」が73.3%と最も多く,次いで「経済的な不安があったから」が46.0%となっている.本研究の先行要件でも〔子どもができれば夫は変わってくれるという願望〕〔経済的依存により夫と子育てするしか選択肢がない〕が示され,妊産婦が夫と離別することは容易ではなく,子どもの養育や経済的不安が障壁となることが示唆された.
本研究の先行要件からは,【暴力について話す困難さと他者介入への恐怖】【夫の支配と暴力に対する恐怖】【心理的・社会的に複合した高い障壁】がヘルプシーキングの阻害因子であると明らかになった.促進因子としては,【DVと相談機関に対する知識】【暴力について話そうと思える身近な看護職】【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】が明らかになった.これらのDVを受けている妊産婦のヘルプシーキングに関する阻害因子および促進因子は,一般的なDV被害女性のヘルプシーキングで報告されている因子と類似していた(Wright et al., 2022;Malihi et al., 2021;Ravi et al., 2022).また,【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】が促進因子となる一方で,〔不適切な母親として通告される恐れ〕〔秘密が漏れ望まない介入を受ける恐れ〕が阻害因子となることから,子どもの存在は,促進因子にも阻害因子にもなりうることが示唆された.自ら助けを求めないDV被害女性とその家族の特徴は,対応すべき問題としてDVに向き合えない,家庭のバランスを壊すような介入は拒否する,閉鎖的な家庭内で子どもが危険にさらされている等であるとの報告があり(問本ら,2025),妊産婦自身が子どもにとって不適切な母親であると認識し,子ども虐待として通告される恐れを抱いている場合は,ヘルプシーキングがより困難となると考えられた.
一般的なDV被害女性は,DVに対する問題認識と助けを求める決意だけではなく,誰に支援を求めるかを選定した上で,ヘルプシーキング行動を起こすと報告されている(Liang et al., 2005).一方,本研究で明らかになったDVを受けている妊産婦のヘルプシーキングは,【暴力について話そうと思える身近な看護職】がすでに存在することで,DVに対する問題認識と助けを求める決意がない場合であっても,【看護職への暴力の開示】が起きていた.そして,妊産婦が看護職に助けを求め,支援や介入を受け入れるようになることで,看護職は〔病院からの情報提供と必要な支援への橋渡し〕〔病院・保健師と一緒に自分と子どもの安全を守る〕といった多職種連携を行えるようになった.その結果,妊産婦は産科や小児科,保健師,DVの専門機関からの様々な支援を受けられるようになっていた.つまり,妊娠中から産後1年間は,DVを受けている女性にとってヘルプシーキングの好機であり,支援につながる可能性が高いことが示唆された.
2. 妊娠中から産後1年間における継続的支援の重要性妊娠中から産後1年間のヘルプシーキングの好機に,継続的に関わることのできる看護職の役割は大きいと言える.これを踏まえ,以下では看護実践への示唆を述べる.
1) 暴力について看護職に開示できるような関係と環境づくり1点目は,妊産婦が暴力について看護職に開示できるような,関係と環境づくりが必要である.
【暴力について話そうと思える身近な看護職】では,DVを開示するきっかけとなった妊産婦の経験や,看護職との関係性が明らかになった.乳幼児の母親を対象とした研究でも,援助要請しやすい関係づくりが重要であり,幾度も顔を合わせ,日ごろからつながりのある,気にかけてくれる人の存在によって援助要請が可能となると報告されている(吉羽・森田,2025).単発的な関わりだけでDVについて話してもらうことは難しく,継続ケアに基づいた信頼関係の構築が重要である.
加えて,看護職が周産期ケアと子育て支援を通してDVを疑うような状況や発言に気づき,安全な環境で話しやすいような尋ね方をする必要がある.自ら助けを求めないDV被害者を支援するためには,助産師が周産期ケアを通してDVに気づき,関係性を活かして踏み込むことで開示を促す実践(問本ら,2025)が報告されている.本研究の結果からも,〔看護職がDVに気づいてくれる〕〔暴力について話しやすい場面が何度もある〕〔家庭状況や夫の言動について具体的に尋ねられる〕といった知見が明らかになった.看護職が妊婦にDVスクリーニングを行うかどうかは,個人の知識だけでなく,施設のガイドラインや支援プロトコル,組織の研修体制や人的資源,多職種連携や院外の地域資源との連携のしやすさに影響されるとの報告がある(Andreu-Pejó et al., 2022).看護職個人の知識を向上させることに加え,看護職が安心してDV問題に取り組むための組織風土が必要であると考えられた.
2) 多職種連携による長期的な伴走支援2点目として,母子の安全と心身の健康のための,多職種連携による長期的な伴走支援が必要である.
ヘルプシーキングによって,女性が【離別に向けたプロセスの前進】へと進むことがある一方で,【失望と夫婦関係の維持】に向かう場合もあることが明らかになった.夫との離別に向けたDV被害女性の行動変容のプロセスは,非線形で浮き沈みを伴い,内的・外的要因の影響を受けるとされている(Chang et al., 2006).離別だけを短期的な支援のゴールとするのではなく,【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】【見守られている安心感と自信】といった現実的な目標のために支援することも重要である.そのために,DVを把握した看護職は,院内外の多職種に働きかけ,〔病院での継続ケアやフォローアップ〕〔病院からの情報提供と必要な支援への橋渡し〕を行う必要がある.DVを受けている妊産婦が,信頼を寄せる様々な支援先と長期的に繋がり続けること,またそれを可能にする体制を整備することは,母子の安全と心身の健康を保つことに寄与できると考える.
一方で,暴力やトラウマから自分を守るために,スクリーニング陽性の妊婦はDVを開示しない(Spangaro et al., 2016a)という指摘がある.本研究では,DVを打ち明けることができない場合も,〔将来的なヘルプシーキングにつながる知識〕を得ることができ,時間が経ってから〔DVに関する情報提供や教育的支援を受けた経験〕となって,次のヘルプシーキング行動につながることが示唆された.今は暴力について話せない,否定したい,という女性のありのままの状況を受け止めながら,将来の女性のヘルプシーキングに気づき対応できるように,継続的に関わり見守る支援が必要になることも示唆された.
3. 研究の限界と今後の課題本研究の概念分析の対象とした文献は,先進国で行われた研究だけを対象としている ため,低・中所得国におけるDVを受けている妊産婦のヘルプシーキングを理解するには不十分である可能性がある.一方で,対象文献に日本語文献が多数含まれていることから,日本におけるDVを受けている妊産婦のヘルプシーキングを理解・評価する際に,本研究の結果は活用可能であると考えられる.今後の課題として,先行要件で示された文化的背景や医療体制が,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングにどのような影響を及ぼすのかについて,日本における調査を基に明らかにする必要がある.
DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングについて概念分析した結果,属性は,【医療や子育て支援の利用】【看護職への暴力の開示】【信頼できる相手とのDVに関する対話】【DVに関する相談機関の利用】【危機発生に対する介入の受け入れ】の5つを抽出した.先行要件は,【暴力について話す困難さと他者介入への恐怖】【夫の支配と暴力に対する恐怖】【心理的・社会的に複合した高い障壁】【DVと相談機関に対する知識】【過去の経験による支援に対する認識】【暴力について話そうと思える身近な看護職】【DVを自覚し母親として問題に向き合う覚悟】の7つを抽出した.帰結は,【離別に向けたプロセスの前進】【医療や子育て支援の継続利用と新たな支援】【見守られている安心感と自信】【失望と夫婦関係の維持】の4つを抽出した.また,DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングについて,「妊娠・子育てを通して関わる身近な看護職の存在や,DVに向き合う母親の覚悟によって促される,暴力の開示やDVに関する対話とサポートの利用,および危機発生に対する介入の受け入れ」と定義した.
DVを受けている妊産婦のヘルプシーキングの特徴として,妊娠中から産後1年の期間は,DVを受けている女性にとってヘルプシーキングの好機であり,支援につながる可能性が高い一方で,妊産婦が夫と離別することは容易ではなく,子どもの養育や経済的不安が障壁となることが示唆された.看護実践への示唆として,妊産婦が暴力について開示できる関係と環境づくり,および,母子の安全と心身の健康のための,多職種連携による長期的な伴走支援が重要である.
付記:本研究の内容の一部は,第66回日本母性衛生学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究において,文献検索にご協力下さいました図書館職員の皆様に感謝申し上げます.本研究は科研費(24K13995)の助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HT,AM,SOは,研究の着想およびデザインに貢献した.HTはデータ収集,分析の実施および草稿を作成した.AM,SOは,データ分析,研究プロセス全体への助言を実施した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.