2026 年 46 巻 p. 412-423
目的:看護師のNarrative Competenceの構成要素と獲得プロセスを明らかにすることを目的とした.
方法:対話力があると判断された看護師に半構造的面接を行い,質的帰納的手法およびM-GTAを併用し分析を行った.
結果:看護師のNarrative Competenceは【セルフコントロール】【信頼関係構築】【看護プロフェッショナリズム】【語りを開く姿勢】【共感的課題解決志向】で構成され,その獲得プロセスは【自己との対峙】【共感と多様性への眼差し】【成長と変化の促進】【ワーク・エンゲージメントの向上】を円環的に辿る中で進行,洗練されることが示された.
結論:看護師のNarrative Competenceを構成する5つの要素は,対話における一連の実践的能力を体系的に捉えていること,またその獲得プロセスは,自己変容を伴う専門職としての成熟過程であることが示唆された.
Purpose: This study aimed to clarify the components of nurses’ narrative competence and the process through which it is acquired.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with nurses identified as having strong conversational skills. Data were analyzed using a combination of qualitative inductive methods and the Modified Grounded Theory Approach.
Results: Nurses’ narrative competence was found to consist of five components: Self-Control, Building Trusting Relationships, Nursing Professionalism, Openness to Narrative, and Empathic Problem-Solving Orientation. The acquisition process was shown to develop and refine itself through a cyclical progression involving Confronting Oneself, Empathy and Awareness of Diversity, Promoting Growth and Change, and Enhancing Work Engagement.
Conclusion: The five elements comprising nurses’ narrative competence systematically represent a sequence of practical dialogic abilities. Moreover, the acquisition process reflects a maturation pathway characterized by professional self-transformation.
疾病構造の変化,少子高齢社会の急速な進展,医療提供の場の多様化といった複合的要因により,日本の医療は大きな変容期を迎えている.かつて病院中心であった医療は,地域へと重点が移行しつつある.また,医療提供は特定職種中心から多職種連携へと変化している.さらに,「治す医療」から,QOLを重視し病と共に生きることを支える医療への転換が進んでいる.加えてアドバンス・ケア・プランニングの普及により,人生の最終段階において本人の意思が尊重される医療が社会に深く浸透しつつある.こうした状況において,看護師にはこれまで以上に多様で複雑な医療・健康ニーズを適切に捉え,質の高いケアへと繋げる力が求められている(厚生労働省,2023).その中でも,患者・家族の語りを文脈に即して理解し,適切なケアへと結びつけるための高度なコミュニケーション力,すなわち対話力の開発は喫緊の課題と考える.
医療における対話力の必要性を理論的に支える枠組みの一つとして,Greenhalgh & Hurwitz(1998/2001)が提唱したNarrative Based Medicine(以下,NBM)が挙げられる.NBMは患者の語りを文脈に即して理解し,医療を実践するための考え方であり,Charon(2006/2011)はその実践に必要な能力をNarrative Competence(以下,NCとする)と名付け,すべての医療者が身につけるべき力として位置づけている.NCの向上は,診断精度や患者満足度の向上に加え,医療者自身の専門職としての成長につながるとされ,近年,日本の医学教育においても育成が重視されている(孫,2023).
一方,看護学領域においてNCそのものを直接論じた知見は乏しい.看護師のコミュニケーションスキルに関する研究は蓄積され,尺度開発も進み(上野,2005;中谷・井田,2015),言語的・非言語的スキルが多角的に分類され,臨床や教育で活用されてきた.しかしながら,これらは一般的なコミュニケーションスキルの体系化にとどまっており,時代の求める対話としてのコミュニケーションを展開するための思考や行動といったパフォーマンス要素については十分に解明されていないのが現状である.さらに,「聴く姿勢」や「共感的理解」に焦点を当てた研究(吉村,2009;長尾,2013;山﨑,2020)も報告されているが,患者・家族を理解することの重要性やその概念を示すにとどまり,得られた理解をどのように患者・家族へ還元し,双方向的な対話を通じて適切なケアへと結びつけるかという実践的側面については十分に明らかにされていない.
そこで本研究では,従来のコミュニケーションスキル研究を補完・発展させ,現代の医療・健康ニーズに応えるために必要な看護師の高度なコミュニケーション能力,すなわち対話力としてのNCに着目し,その構成要素と獲得プロセスを実践的に活用可能な形で明らかにすることを目的とした.
本研究における看護師のNCとは,Charon(2006/2011)のNCを参考に,「患者・家族の語りを文脈に即して理解し,適切なケアへと結びつける対話を実現するための言動特性(知識・スキル・態度・姿勢・価値観・動機などを含む)」と定義する.
2. 研究デザインNCを実践的に活用可能な形で明らかにするためには,構成要素と獲得プロセスの両側面を同時に明らかにする必要がある.そのため本研究では,目的に応じ,質的帰納的分析と修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTAとする)を併用した質的記述的研究とした.
3. 研究参加者看護管理者によって「患者・家族の語りを文脈に即して理解し,適切なケアへと結びつける対話を実現する力がある」と判断された,日本看護協会版クリニカルラダーレベルIV相当(施設運用基準に準拠)の看護師を対象とした.参加者の選定にあたっては,まず○○圏に所在する基幹病院および大学病院の看護部に研究協力の依頼を郵送で行った.その後,協力の承諾が得られた施設において,看護管理者が推薦する看護師の中から,本研究の目的を十分に理解し研究への参加に同意された人を参加者として決定した.
4. データ収集方法データ収集は,2023年1月~7月に半構造化面接により行った.インタビューは,スペンサーらの手法(Spencer & Spencer, 1993/2011)およびコルブの経験学習モデル(Kolb & Peterson, 1984/2018)に準拠したガイドを用い,1人60分を基本とし状況に応じて調整しながら行った.内容は事前に許可を得て録音した.
インタビューでは,患者・家族との対話場面を想起し,参加者自身が考える「成功した経験」「失敗した経験」,そして「最も重要と考える経験」の3つの事例を挙げてもらい,その経緯と言動の背景について詳細に語ってもらった.次にコルブの経験学習モデルを枠組みとして,各経験の契機となった出来事や特異的な状況,そこからどのような教訓を得たか,過去の経験との比較,自身の看護観などを深く掘り下げる質問を行った.
5. 分析方法 1) 看護師のNarrative Competenceの構成要素得られたデータを元に逐語録を作成し,質的帰納的に分析を行った.具体的には,クリッペンドルフ(Krippendorff, 1980/1989)の内容分析の考え方を参考にした.クリッペンドルフの内容分析は,記述データに含まれる顕在的・潜在的な意味を系統的かつ再現可能な手順でコード化・抽象化することに適しており,NCの構成要素を明らかにする本研究の目的に合致すると判断したためである.
まず前後の文脈をよく読み,対象の「患者・家族の語りを文脈に即して理解し,適切なケアへと結びつける対話を実現する言動特性」にあたる部分を抜き出し,意味を解釈してコード化を行った.次にその内容の共通性と相違性を整理し,同じ意味内容のものを抽象化してサブカテゴリー化した.さらに各サブカテゴリーを比較検討し,共通性をもつものをまとめて抽象化し,カテゴリー化した.全ての分析過程において,質的研究に熟知した研究者とともに繰り返し検討を重ね,分析の確証性(グレッグら,2016)の確保に努めた.
2) 看護師のNarrative Competence獲得プロセスM-GTA(木下,2020)に基づいて行った.分析テーマを「看護師が患者・家族との語りを通してNCを獲得していくプロセス」と設定し,分析焦点者は「日本看護協会版クリニカルラダーレベルIV相当の看護師」とした.NCの構成要素が「どのような力で構成されているか」を明らかにするものであるのに対し,獲得プロセスの解明には,看護師がどのような経験や相互作用を通してNCを身につけていくのかという「変化の流れ」を捉える必要があると考えた.そのため,限定された場面における社会的相互作用をもとにプロセスを記述することに適したM-GTAを採用した.
分析は,よりデータが豊富な事例から概念生成していくというM-GTAの手続きに沿って行った.まず逐語録を精読し,看護師の「成功した経験」「失敗した経験」「最も重要と考える経験」とその背景にある出来事や体験に着目し,そこからの思考や言動の変化についての語りを具体例として抽出した.次に分析焦点者である看護師の視点で抽出した語りの内容や背後にある意味の流れを解釈するとともに,抽出した理由を理論的メモとして整理しながら分析ワークシートに具体例・定義・概念を記載した.複数の概念が生成された段階で概念同士の関係を検討し,概念の取捨選択を繰り返しながら,同時にカテゴリー生成を行った.最終的に,概念とカテゴリーの関係を図式化し,ストーリーラインを作成した.なお,13名分の分析後,残り5名分のデータを追加しても新たな概念が生成されない理論的飽和化に達したことを確認した.分析過程では,主研究者がワークシートを作成し,質的研究経験を有する研究者とともに概念名・定義・具体例を検討した.カテゴリー生成,結果図,ストーリーラインについても研究者間で検討を重ね,分析の確証性(グレッグら,2016)の確保に努めた.
6. 倫理的配慮本研究は,奈良学園大学研究倫理委員会の承認(承認番号:4-H021)を受けて実施した.強制を避けるため,推薦を受けた看護師への調査依頼は研究者が直接行った.研究の主旨を説明し,不利益の不存在,自由意思による参加,同意の撤回可能性を書面と口頭で伝え,同意を得た.また匿名性とデータ管理についても説明した.
研究参加者は18名,性別は男性3名,女性15名,平均経験年数は25.1年であった.そのうち5名が認定看護師(特定行為研修修了者),1名が診療看護師,11名が主任以上の管理的役割を担っていた.なお,インタビューは同意した全員に対して実施した.
| 所属部署 | 役職 | 年齢 | 経験年数 | 専門資格等 | |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 外来 | 副主任 | 50歳代前半 | 30年 | がん化学療法認定看護師 |
| B | 外来 | 30歳代後半 | 17年 | 糖尿病療養指導士 | |
| C | 管理室 地域連携 | 元師長 | 60歳代後半 | 46年 | 認知症ケア専門士 産業カウンセラー |
| D | 管理室 医療安全 | 師長 | 50歳代後半 | 35年 | 認定看護管理者 |
| E | 管理室 感染 | 師長 | 50歳代前半 | 32年 | 感染管理認定看護師 がん性疼痛認定看護師 |
| F | 病棟 内科 | 師長 | 60歳代前半 | 41年 | 認定看護管理者 |
| G | 管理室 看護 | 副師長 | 40歳代後半 | 23年 | 緩和ケア認定看護師 |
| H | 管理室 看護 | 主任 | 30歳代後半 | 15年 | 診療看護師 |
| I | 病棟 外科 | 主任 | 30歳代後半 | 18年 | |
| J | 外来 | 師長 | 40歳代後半 | 27年 | がん化学療法認定看護師 |
| K | 病棟 HCU | 主任 | 40歳代後半 | 20年 | 認定看護管理者 |
| L | 病棟 混合 | 師長 | 50歳代後半 | 34年 | 認定看護管理者 |
| M | 病棟 外科 | 30歳代前半 | 12年 | 助産師 | |
| N | 病棟 内科 | 30歳代後半 | 13年 | ||
| O | 病棟 NICU | 40歳代前半 | 21年 | ||
| P | 病棟 外科 | 主任 | 40歳代前半 | 19年 | |
| Q | 手術室 | 40歳代前半 | 17年 | 手術認定看護師 | |
| R | 管理室 教育 | 40歳代前半 | 21年 |
分析の結果,17のサブカテゴリーからなる5つのカテゴリーが抽出された.以下,カテゴリーごとにその内容について説明する.尚,説明において,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは[ ],コードは〈 〉で表記する.
| カテゴリ | サブカテゴリ | コード | 代表的な語り |
|---|---|---|---|
| セルフ コントロール |
メタ認知の発揮 | 自己の思考・言動の傾向を自覚する | 「全員が全員,今のやり方が,私の元気さがいいっていう人もいれば,それが苦手っていう人もいたりするんですよね.患者さんによっては入院してて,あって声掛けたら避ける人もいるんですよ.ああ,私の顔見たくなかったか,ごめんね言うて(去ります)」 |
| 思い込みの排除を意識する | 「いろんな経験,人の意見聞いてっていうのも大切だと思うので,そういうのが大事じゃないかなって思う.自分の見方が正しいと思っててもやっぱり違う見方も受容できる自分でいなきゃなってのは,自分でも思って」 | ||
| 状況に応じ言動を制御する | 「自分の中でちょっとテンション上がってきてるし,冷静にならなきゃと思って,声をわざとトーンを低くすると冷静になったりとか…」 | ||
| 自己効力感の 保持 |
困難を学びと捉える | 「今言ったような失敗があるから,気付けるようになるんですよね.」 | |
| 強みを積極的に活用する | 「痛みの話を取っ掛かりにというか,私が一番自分を武器にしているのはそこなので…」 | ||
| 自己の感覚を信じる | 「みんなからの客観的な情報だけじゃなくって,自分でその患者さんを見て…自分の感覚で見極める」 | ||
| ストレス マネジメント |
仕事とプライベートを切り替えストレスに対処する | 「プライベートはプライベート.仕事から離れたら,病院から出たら切り替えてるってところですよね.家までは基本あまり仕事を持ち込みたくないという感じで.」 | |
| 過度な役割を果たそうとしない | 「この今の(辛い状況にある)患者さんが,私と喋って,ちょっと楽になったなとか,何かわかってもらえたなって思ってもらうことを一番目標にしてる.」 | ||
| 困難を抱え込まず協力を求める | 「ガツガツいかないほうがいい人もいるわけじゃないですか.役割分担できるスタッフがいるので,そこはもう無理して私1人がっていうことも考えてない.」 | ||
| 信頼関係構築 | 誠実・公平な 態度 |
礼節をわきまえる | 「挨拶から始めるとかね,そういうとこからですよね,コツコツと.言葉遣いとか,雰囲気とか,そういうのが大事」 |
| 分け隔てなく公平に接する | 「入院して来られる患者さんには全員に,よろしくお願いしますっていうのと,困ったことがあったらいつでも声掛けてくださいっていうのをお声掛けています」 | ||
| 非は素直に認め謝罪する | 「何か不快な思いをさせてしまっているのであれば,まず,本当にそこは謝って…」 | ||
| 心理的安全性の 担保 |
意図的に関心を向ける | 「担当じゃないときも声掛けして,きょうの調子どうですか?みたいな感じで…」「最初はね,そういう(病気や治療に関する)言葉に触れずに,全然関係ない話から入ってちょっとずつちょっとずつ(距離を縮める)」 | |
| 自己開示し警戒心を解く | 「自分の失敗談だったりとか,今日はちょっとへこんでるんだとか,そういうちょっと自分の弱いところも見せたり,向こうの弱いところを受け止めたりしながら…」 | ||
| いかなる場合も肯定的表現を用いる | 「(患者・家族からの苦言に対して)そういうとこを本音で言ってもらえて本当に助かったっていうような感じで言う」 | ||
| 強制・強要しない | 「(言葉を濁すときは)掘り下げない.じゃあ,またよかったら教えてくださいねって言うて話切ります」 | ||
| 立場・状況への 配慮 |
心情に合わせた距離感をとる | 「攻撃的に,向こうに行ってとか言う患者さん.本当に向こうに行ってって言ってるときは,そばにあまりね,近づくんじゃない,グイグイと行くんじゃない.でも,遠くからでもあなたのこと見てますよ,1人にはしないよっていう気持ちは持っておかないといけない.」 | |
| 心情を察し言葉を選ぶ | 「抗がん剤治療をずっとしている患者さん,抗がん剤が効かなくなって,2剤目から3剤目変わりましたよねとか言うと,先生はまだ薬があるって言ってたからとかね.そういうふうに言われると,そうなんですか,みたいな感じで.それ以上言ったらあかんよね,みたいな.」 | ||
| 調和的な 自己表現 |
対等な立場で接する | 「看護師だからっていうちょっと優位な立場っていうのかな,そういうので,患者さんに対して,どうしたいですか,ああしたいですかって聞いていっても,本当のことは言ってくれない」 | |
| アサーティブな表現を用いる | 「言葉で言わないと,私たちはわからないんですって言う.わかりたいけど,そのだるさとか,ありのままを言ってもらえないと,医療者って全然わからないんですって言うのを,もうぶっちゃけ患者さんには言います」 | ||
| 正論と共感のバランスをとる | 「正しいことが全部正しいわけじゃないので,相手が求めることと,向こうの考えも踏まえて,着地点を探りながら話をする」 | ||
| 看護プロフェッショナリズム | 患者中心の貢献心 | 患者の価値感・人生観を尊重する | 「患者さんの価値観を大事にしながら,患者さんの一番いい道というか,その選択肢を支援したい.患者さんと家族から良かったなと思ってもらえる看護を大事にしていきたいって思います」 |
| 寄り添い支える姿勢をもつ | 「相手の痛みをわかろうとする気持ちが1番大事やと思うんです.その人にはなれないんで100%理解することは絶対不可能やけど,でも,想像してどんな気持ちでいはんねやろうとか,どれぐらい辛いのかなあって.看護師としてできることってそこに寄り添うことやと思う」 | ||
| 専門的知識の裏付け | 病状と心理の関係を理解する | 「露骨にバンバンとあの看護師さん来てもらうの嫌とか言われてしまうとね(スタッフは辛くなる),今はそういう時期だからね,受け入れる時期が来るまでちょっと待たないといけないかなっていうのは(スタッフに)伝えていってます.」 | |
| 科学的根拠,専門的知識を活用する | 「看護師として患者さんと話すときに,説得とか納得とかしてもらうためには科学的な根拠,もちろんですよね.それからそれぞれの専門的な知識とか,そういうものを持った上での対話,会話っていうのが絶対必要だなと思うんですよ.」 | ||
| 役割と責任の自覚 | 自己の言動に責任を持つ | 「治療方針とか,そういうのをしっかり聞いてからじゃないと,患者さんからもし質問されたときに答えられなかったら,それはそれで信頼関係も何もないですので」 | |
| 役割遂行のため自己研鑽に努める | 「自分のことはケモバカって言ってるんですけど…病院で一番抗がん剤のことは知ってますって言えるぐらいは学ばないといけないなとは思って(努力して)いる」 | ||
| 語りを開く姿勢 | 開かれた 認知的柔軟性 |
自分に置き換え考える | 「何か諦めちゃいますよね.もうわかってもらえないって思ったら,その人に話をすることを諦める.」 |
| 無知の姿勢で聴く | 「否定はしませんし,でもねとか間に入れる自分の思いとか考えとか言うわけではなく,ただ本人の思いを言ってもらう.取りあえず感情を出してもらうってしてますかね.そんなん無理やんと思うこともありますけど,取りあえず受け止めるように」 | ||
| 共感的存在感 | 聴いてることが伝わるように聴く | 「そう思ってはるんですねとか,そういうことを思ってはったんですね,みたいな感じで,言ってはることに対しては,しっかりと傾聴っていうか,聞いているっていうことを相手に伝わるように…」 | |
| 聴くことに徹する | 「あんまり喋らないですかね.こっちから.とにかく喋らせる.ここは意識してますね.うん.頷いて」 | ||
| 視覚的に感情に寄り添う | 「その時の患者さんの顔に合わせるって言ったらおかしいですけど,患者さんが眉間にしわ寄せてたら,何か同じような顔をしたほうがわかってもらえてると思うかなと思って,表情変えたり.でもずっとそれが続くとしんどいから,ちょっと時々冗談を入れて,患者さんがちょっとでも笑った瞬間は,こっちは笑顔になるとか,そういうことはしますね.」 | ||
| 自然な感情でその場にいる | 「その(傾聴の)後っていうのはどうしてるかな,あまり多くは語ってないかもしれない.そばに一緒にいるだけかもしれないし,よく話し合う.家族さんと本人さんと話し合おうね,みたいなことを言ってるかもしれない.」 | ||
| 待つ姿勢 | 落ち着いたゆとりある環境・態度をとる | 「他の方がいらっしゃらないタイミングっていうところも,お話ししやすいようにっていうのと.他の方に耳に入らないようにって思いながら,場所の工夫であったりとか,しながらしてました」「ゆっくりでいいですよ,とか,ちょっと待つ姿勢できくっていう雰囲気で,お話はしてもらった」 | |
| 沈黙の時間を大切にする | 「沈黙とか間があっても,患者さんがその間を大事にしてるって感じることってあるんですよね.だから,何ぼでもちょっと待とうって思って,すごいしんどい患者さんに関しては,本当にひたすら待ったり.」「待つ時間.沈黙の時間とかそういうのを,間を取ったりとかしてます」 | ||
| 共感的課題解決志向 | 心の機微の察知 | 非言語的反応の意味を読み取る | 「表情でちょっと険しい顔をしたら今の言い方とか発言とか,何言ったか分からへんっていうふうに思ってはるんだなと…」 |
| 矛盾する反応を敏感に捉える | 「眠れました?って聞いたら,眠れましたって笑顔で答えられたんですけど,何かその笑顔が私はそこが信用ができなかったので…」 | ||
| 共感的洞察 | 言葉の奥にある意味を問う | 「つらいとかいう言葉に対して,その奥.何がつらいのか,痛みがつらいのか,心がつらいのか,それとも家に残してきたことに対して何かつらいという思いがあるのか.仕事のことに対してなのかとか,いろいろ臆測するんですよ,自分のなかで.」 | |
| 気付きを促す問いかけをする | 「すぐ反応,解決策を求めるのではなくて,その言葉を聞いたなかから,気付かせてあげたいなっていうところまで静かに聞いてあげて…・直接的にすぐアドバイスにいかないような感じです」 | ||
| 事実と感情を区別・整理してフィードバックする | 「つらかったっていう思いに対して,そのつらかった場面はそういうところがつらかったんですねってフィードバックしてあげるとか.」 | ||
| 潜在する価値観を引き出す | 「残された時間,どういう経過をたどられるか分からないけれど,大事にしてほしいってすごく思っていたので,今何が一番したいか,どうしたいのかということを,順を追って関わっていった」 | ||
| 多面的な 状況理解 |
本人にとっての事実を正確に把握する | 「(思っていることを表情や態度だけで)憶測は基本しないです.経験しないことって人間は分からないんですよね.スタッフによっては,そこ聞いちゃいけないのかなと思って聞けなかったです,とかいうことがあるんだけど,いや,聞かんと分からんよねみたいな.だから素直に聞きます.」 | |
| 客観的情報を集める | 「(クレーム)対応で師長代行として呼ばれるとか,そういうことが多いので,スタッフからどんな感じかを聞いていくこともあります,患者さんの状況.」 | ||
| 機転の利く判断 | 過去の体験を類推し判断する | 「(治療の意思決定の場面で)どう思う? っていうところって,誰かの間に入らないと聞けないんだなって,(これまでの経験から)すごくそのときに思って.」 | |
| 語りの扉が開いたときだけそっと入る | 「(踏み込んで話をするのは)相手の顔の表情とか口調とか,うん,何だろう,相手が自分の病気のことを話し出したときかなっていうふうに思う」 | ||
| 情報のタイミングと量を調整する | 「(何でもかんでも伝えるのではなく)本人が必要なときに,必要なものを小分けにして情報を伝えたらいい」 | ||
| 語りの深度に合わせて踏み込む | 「抗がん剤ができるってことは命が延びるってことだよね? みたいな聞いたから,いやいや,そこまで話ができてるんやからもう踏み込んで,今の抗がん剤をするってこと自体が害にもなるんだよっていう話をしたんです」 |
【セルフコントロール】とは,自己の感情や思考,認知的な傾向を客観的に捉え,状況に応じて冷静に言動を調整する力を指す.これは3つのサブカテゴリー[メタ認知の発揮][自己効力感の保持][ストレスマネジメント]から構成される.
[メタ認知の発揮]とは,〈自己の思考・言動の傾向を自覚する〉ことによって,自らの反応パターンに気づき,〈思い込みの排除を意識する〉ことで偏った認識を修正し,〈状況に応じ言動を制御する〉力を働かせることを示す.[自己効力感の保持]とは,〈困難を学びと捉える〉姿勢を持ち,経験を成長の糧としたり,〈強みを積極的に活用する〉ことで自信を高め,〈自己の感覚を信じる〉ことによって前向きに行動し続けるための心理的基盤を示す.[ストレスマネジメント]とは,〈仕事とプライベートを切り替えストレスに対処する〉ことで負荷を分散し,〈過度な役割を果たそうとしない〉ことで自己への過剰な期待を緩め,〈困難を抱え込まず協力を求める〉ことで周囲との支え合いを活用し,ストレス軽減する力を示す.
2) 信頼関係構築【信頼関係構築】とは,誠意ある態度と思いやりのある言動を継続的に積み重ね,人対人として相互に信頼できる関係を築く力を指す.これは4つのサブカテゴリー[誠実・公平な態度][心理的安全性の担保][立場・状況への配慮][調和的な自己表現]から構成される.
[誠実・公平な態度]とは,〈礼節をわきまえる〉ことで相手への敬意を示し,〈分け隔てなく公平に接する〉ことで偏りのない関係性を築き,〈非は素直に認め謝罪する〉ことで誠実さを伝える姿勢を示す.[心理的安全性の担保]とは,〈意図的に関心を向ける〉ことで相手の存在を尊重し,〈自己開示し警戒心を解く〉ことで距離を縮め,〈いかなる場合も肯定的表現を用いる〉ことで安心感を与え,〈強制・強要しない〉ことで自由な語りを保障する態度を示す.[立場・状況への配慮]とは,〈心情に合わせた距離感をとる〉ことで相手の感情に寄り添い,〈心情を察し言葉を選ぶ〉ことで丁寧な対応を図る感受性を示す.[調和的な自己表現]とは,〈対等な立場で接する〉ことで上下関係を排し,〈アサーティブな表現を用いる〉ことで率直かつ尊重ある対話を行い,〈正論と共感のバランスをとる〉ことで関係性を損なわずに自己を表現する力を示す.
3) 看護プロフェッショナリズム【看護プロフェッショナリズム】とは,患者・家族に対して深い敬意と献身性を持ち,それを支える専門性と責任感を備えた態度を指す.これは3つのサブカテゴリー[患者中心の貢献心][専門的知識の裏付け][役割と責任の自覚]から構成される.
[患者中心の貢献心]とは,〈患者の価値感・人生観を尊重する〉ことでその人らしさを守り,〈寄り添い支える姿勢をもつ〉ことで関係性の中で支援する倫理的態度を示す.[専門的知識の裏付け]とは,〈病状と心理の関係を理解する〉ことで患者の全体像を捉え,〈科学的根拠,専門的知識を活用する〉ことで信頼性のある対話を行う知的基盤を示す.[役割と責任の自覚]とは,〈自己の言動に責任を持つ〉ことで専門職としての自律性を保ち,〈役割遂行のため自己研鑽に努める〉ことで継続的な成長を図る姿勢を示す.
4) 語りを開く姿勢【語りを開く姿勢】とは,患者・家族が安心して語り始められる“場”をつくるための態度と感受性を指す.これは3つのサブカテゴリー[開かれた認知的柔軟性][共感的存在感][待つ姿勢]から構成される.
[開かれた認知的柔軟性]とは,〈自分に置き換え考える〉ことで相手の視点に近づき,〈無知の姿勢で聴く〉ことで先入観を排し,語り手の世界に適応する柔軟性を示す.[共感的存在感]とは,〈聴いてることが伝わるように聴く〉ことで安心感を与え,〈聴くことに徹する〉ことで語りの主導権を尊重し,〈視覚的に感情に寄り添う〉ことで非言語的な共感を示し,〈自然な感情でその場にいる〉ことで関係性の自然さを保つ態度を示す.[待つ姿勢]とは,〈落ち着いたゆとりある環境・態度をとる〉ことで語りやすい空気をつくり,〈沈黙の時間を大切にする〉ことで相手の感情表出を促す寛容な姿勢を示す.
5) 共感的課題解決志向【共感的課題解決志向】とは,患者・家族の感情や状況の機微に深く共感しながら,複雑な課題を柔軟かつ的確に見立て,関係性の中で解決へと導く力を指す.これは4つのサブカテゴリー[心の機微の察知][共感的洞察][多面的な状況理解][機転の利く判断]から構成される.
[心の機微の察知]とは,〈非言語的反応の意味を読み取る〉ことで言葉にならない感情を捉え,〈矛盾する反応を敏感に捉える〉ことで深層の葛藤に気づく感受性を示す.[共感的洞察]とは,〈言葉の奥にある意味を問う〉ことで表層を越えた理解を目指し,〈気付きを促す問いかけをする〉ことで内省を促し,〈事実と感情を区別・整理してフィードバックする〉ことで状況の構造を明確にし,〈潜在する価値観を引き出す〉ことで本質的な課題に迫る洞察力を示す.[多面的な状況理解]とは,〈本人にとっての事実を正確に把握する〉ことで主観的現実を尊重し,〈客観的情報を集める〉ことで第三者的視点を補完し,偏りなく状況を理解する力を示す.[機転の利く判断]とは,〈過去の体験を類推し判断する〉ことで経験知を活かし,〈語りの扉が開いたときだけそっと入る〉ことでタイミングを見極め,〈情報のタイミングと量を調整する〉ことで負荷を軽減し,〈語りの深度に合わせて踏み込む〉ことで関係性を損なわずに対応する判断力を示す.
3. 看護師のNarrative Competence獲得プロセス(表3)分析の結果,14の概念・概念定義から『自己との対峙』『共感と多様性への眼差し』『成長と変化の促進』『ワーク・エンゲージメントの向上』の4つのカテゴリーが生成された.以下カテゴリーは『 』,概念は〈 〉,それを説明する代表的な語りは“イタリック体”で記す.文意が分かりにくい箇所には,前後の文脈から( )内に言葉を補った.
| カテゴリー | 概念 | 概念定義 |
|---|---|---|
| 自己との対峙 | 傲慢さへの反省 | 自分の都合を優先して,患者のことを疎かにしてしま気持ちをもつこと. |
| 軽率な言動への後悔 | 出来事の重さや状況を深く知る前に浅はかな考えで発言・行動したことで,相手を傷つけたり,不快感を与えたことに対して後悔すること. | |
| 形式的な関りからの覚醒 | タスク志向で配慮に欠ける自己に気付き,本質的な対話の重要性に目覚めること | |
| イラショナルビリーフを手放す | 正論を貫くことに集中し,対象を気遣う意識が欠けていたことに気付き,柔軟な考え方を受け入れようとすること | |
| ジレンマとの闘い | 相反する事象があり,一方を選ぶと他方を失い後悔する可能性が高まる中で,その選択に思い悩み苦悩すること | |
| 共感と多様性への眼差し | 認知的多様性の理解 | 立場や状況が異なれば,見方,考え方,ニーズが異なることを肝に命じること |
| 心を重ねる | 相手の状況や心情と自らの過去の困難な体験を重ね,理解しようとすること | |
| 深層心理の探索 | 深くその人の内面に踏み,多様な人間の心理を理解すること | |
| 成長と変化の促進 | 対話経験が血肉となる | 様々な体験を積み重ね,その学びを意識し自分のものにしていくこと |
| 探究心の刺激 | 疑問や興味・関心をそそられる事象に遭遇し,自発的にその意味を求めて考え抜く態度が高まること | |
| 看護観の醸成 | 多様な経験や対話,内省などにより看護に対する価値観が育っていくこと | |
| ワーク・エンゲージメントの向上 | 手応えの実感 | 対象の反応から対話の成果を実感し,達成感や自己効力感を高めること |
| 承認による自信 | 自ら下した判断・対応について周囲から承認され自信をつけること | |
| 知識と経験の融合 | 断片的な知識・経験が結びつき,看護師としての専門性が確立されていくこと |
看護師のNC獲得プロセスは,まず『自己との対峙』から始まる.自己への内省を深め,正論を貫き通そうとする自己に気づくことで,思考の柔軟性を育みながら,本質的な関わりを模索するようになる.

次の『共感と多様性への眼差し』では,看護体験を経て,言葉のやりとりとしてのコミュニケーションが,心を通わせる営みとしての対話へと変化し,他者の内面に寄り添う力が育まれていく.
こうして積み重ねられた日々の経験が,実践知として深化するとともに,自発的な学びが促され,対話力は磨かれていく.また,多様な経験と内省を通じて看護観が育まれ,『成長と変化の促進』を通じて専門職としての自己形成が進んでいく.
このような成長の中で,看護師は自らの対話力が着実に高まっているという感覚を得るようになる.さらに知識と経験が融合することで,状況に応じた柔軟な対応が可能となり,対話を通じて得られるこうした経験そのものが『ワーク・エンゲージメントの向上』へとつながっていく.
これら4つの段階は直線的ではなく,円環的プロセスを取りながら螺旋階段を上るように繰り返され,自己と他者の理解が深まるたびに,看護師のNCはさらに洗練されていく.そしてこのプロセス自体が,看護師としての成長と充実を支える力となる.
2) 各段階 (1) 自己との対峙『自己との対峙』とは,看護師が自身の未熟さや感情,思考の偏りに気づき,それを乗り越えようと内省するとともに,本質的な関わりを模索する段階を指す.
この段階では,患者の不快な表情や沈黙といった反応,上司・先輩からのフィードバックなどにより自らの言動を客観視する機会が生まれる.その過程で,〈傲慢さへの反省〉や〈軽率な言動への後悔〉といった内省が芽生えてくる.それらを契機として,タスク志向となっている自己,患者が発する非言語的メッセージに気づけない,あるいは気づいても深く関われない自己に気付き,そうした〈形式的な関わりからの覚醒〉が生じることで,患者との本質的な関わりを模索するようになる.例えば,“新人のときの私,業務に視点が行き過ぎて…患者さんが怒ってしまわれて.なんで怒っているのかそのときは分からなかったんですが,あとで患者さんの話に耳を傾けてなかったんだって気付いて…”(B)という語りは,苦い体験を通じて自己の関わり方を振り返り,本質的な対話の必要性に目覚めていく様子を示している.この段階ではまた“(相手が感情的・心理的に不安定な状態にあるときは)正論をどんだけ言っても伝わらん”(P)と,正論を貫くことに固執していた自己に気付き,〈イラショナルビリーフを手放す〉ことで,柔軟な思考・言動への転換が促される.一方で,例えば次の語りに示されるような〈ジレンマとの闘い〉を通じてより深く自己と対峙し,倫理的感受性や判断力などが育っていく.“家族は治療をしてちょっとでも長く(生きてほしい)って思われている,だから家族さんに対して本人さんが早く(家に)帰りたいっていう気持ちを直で言えない…けれど(末期がんで)残された時間っていうのは限りがある…(何もできず)悶々としたことがありました”(F)
(2) 共感と多様性への眼差し『共感と多様性への眼差し』とは,他者理解と共感的態度の深化を通じて,対話力が広がっていく段階を指す.
この段階では,異なる立場や価値観を尊重する〈認知的多様性の理解〉がすすみ,例えば“(同じ病気や治療をする場合も患者の反応は)十人十色で,患者さんによって全然ベースが違うので,雰囲気とか,今までの人生観,価値観とか含めて,今後どうしていくというのを一緒に…”(E)という語りに示されるように,患者一人ひとりの背景や価値観に応じた「パーソンセンタードケア」を実践する姿勢が育まれる.一方で,自身の体験と患者の状況と〈心を重ねる〉ことで,共感的な態度が育まれる場面もある.例えば,“今まで医療者側でいたのが初めて患者側になって…そのとき,入院中患者さんってこんなにしんどいんやって(わかって).そういうのもあって,(看護師として臨床の場に)戻ってからがより患者さんや家族さんの気持ち,心情を考えられるように(なった)”(K)という語りは,自身の入院経験を通じて患者の苦しみに共感し,感情的な理解が深まったことを示している.このように,患者・家族一人ひとりが持つ異なる考え方,価値観,感情を認識し,それを自分に重ねて寄り添う態度が育まれるとともに,“言葉の奥っていうか,価値観,人生観,社会的役割.綺麗事で言えば,そういったものを察するというか,経験上考えて,その言葉の意味を捉えてあげようという気持ちは持っています.”(C)という語りに示されるように,さらに深くその人の内面に踏み込み,多様な人間の心理を理解しようとする〈深層心理の探索〉が加わることで,患者理解や共感的態度が一層深まり,それに伴い対話の質が高まっていく.
(3) 成長と変化の促進『成長と変化の促進』とは,対話を契機とした内省的実践を通じて,看護師が専門職としての自己を形成し,実践知を深化させていく段階を指す.
この段階では,経験の蓄積と振り返りを通じて実践知が深化し,看護師としての判断や言動に質的な変容が生じる.例えば,“患者さんと話していて,○○のときの経験がふっと思い出されて…ああ,こういうときはあの人も不安だったなって.だから,今回はこう声をかけようって自然に思えた”(R)という語りに示されるように,過去の〈対話経験が血肉となり〉現在の判断に結びつき,実践知として活用される.また,患者の語りや反応に対して疑問や違和感を覚え,その背後にある意味を探ろうとする姿勢が高まることで〈探究心の刺激〉が生じ,自発的に意味を求めて考え抜こうとする態度が示される.例えば,“(認知症患者に対し)困った人…と決めつけて対応してしまい(うまくいかなかったが,)先生(医師)が,「それはお困りですよね」って共感して「心配してましたよ」って言ってくれて,で患者さんが穏やかになって.患者さんの思い,言葉.私は根本的に認知症の患者さんのことを分かってなかったんです…そこから(認知症ケアを)より深く勉強するようになって…”(C)という語りには,患者の本質的理解への不足を認め,学び直そうとする探究の契機が見て取れる.さらに,患者や家族との真摯な関わりを通じて,自身の看護に対する価値観や信念が形成されることで,〈看護観の醸成〉が促される.例えば,“(看取りの後,家族から)「いつも○○さんが腰をさすってくれて,優しく声かけてくれて,嬉しかった,と家でずっと言ってた」ということをきいて…何もできないって思ってたけど,患者さんにとって,そばにいて,時々励ましてっていう行為が一番受け入れられてた…やっぱそれが一番大切な看護なんだなって…”(G)との語りは,ケアの意味が他者との関係性の中で再定義され,看護師自身の看護観が深まったことを示している.
(4) ワーク・エンゲージメントの向上『ワーク・エンゲージメントの向上』は,対話を通じて得られる達成感や自信が,看護師の主体性と専門性を高める段階を指す.
この段階では,例えば次のような語りに見られるように,患者・家族の反応を通じて看護師が〈手応えの実感〉を得ることで,達成感が充実感へとつながっていく.“(夫のために効果が期待できない抗がん剤を無理して続けていた患者が,看護師を介して夫と話す時間を持てたことで)害にもなる治療をわざわざしなくてもいいし,お互いにもう(治療を)する必要ないよねっていう話になって…ご主人に,最期の場所ってどこか考えてますかって聞いたんですよ,本人の前で.そしたら,ご主人が,自宅で看たいですって言ってくれて.奥さんが,そうなの? 私のこと家で看てくれるの?って嬉しそうな顔されたのを,今でも思い出します”(A)このような経験は,周囲からの〈承認による自信〉を育み,次なる挑戦への意欲を高める原動力となる.さらに,〈知識と経験の融合〉によって断片的な学びが結びつき,看護師としての専門性が確立されていく.
本研究では,看護師のNCが【セルフコントロール】【信頼関係構築】【看護プロフェッショナリズム】【語りを聴く姿勢】【共感的課題解決志向】の5つの能力によって構成されることが示された.これは,看護師が患者・家族との対話を通じて,自己を調整し,関係性を築き,高い倫理観と専門性を発揮しながら,課題を見極め,共感的に関わるという,語りを文脈に即して理解しケアへと結びつける実践能力を体系化した枠組みといえる.患者・家族の語りを文脈に即して理解し,適切なケアへと結びつける対話を実現するための一連の実践的能力を体系的に捉える枠組みと考えられる.
看護師に求められるコミュニケーションスキルを体系的に捉えた研究としては,上野(2005)や中谷・井田(2015)の尺度研究がある.また,昨今,そのスキルを測定,評価するためにしばしば用いられる尺度としてENDCOREs(藤本・大坊,2007)がある.これらの尺度は,「言語・非言語の伝達力」,「受容力」,「関係調整力」,「自己統制力」などを中心に構成されており,本研究で抽出された構成要素と多くの点で共通している.例えば,ENDCOREsの「自己統制」は,感情や言動の調整という点で【セルフコントロール】と一致する.また同じくENDCOREsの「関係調整」や「他者受容」,上野(2005)の尺度の「積極的傾聴」,中谷・井田(2015)の尺度の「信頼形成スキル」は,【信頼関係構築】や【語りを開く姿勢】に含まれる態度的要素と重なる.これらの一致から,NCが既存知見と整合することが示唆される.
一方で,従来のコミュニケーションスキルは,情報伝達や関係調整を中心に構成される傾向があり,昨今の多様で複雑な健康・医療ニーズに直面する看護師に求められる,対話の中で課題を見立てて対応する力や,語りの出発点を整える力については十分に検討されていないと考える.本研究では,そうした課題に対応するために必要な感受性・洞察力・判断力を含む高次元の能力として,【語りを開く姿勢】と【共感的課題解決志向】の2つをNCの主要な構成要素として位置づけた.さらに,これまで背景的因子として扱われることが多かった看護専門職としての姿勢や価値観についても,【看護プロフェッショナリズム】として明示的に位置づけ,専門性・倫理観・責任感をNCの中核に位置づけた点に,本研究の独自性があると考える.
これら5つの能力は,それぞれ異なる機能を担いながら,互いに補完し合う構造を形成していることが示唆される.具体的には,【セルフコントロール】で抽出された[メタ認知の発揮]や[ストレスマネジメント]は,自己の感情や思考を調整する力として,他者との円滑な関係性を支える基盤となっていたと解釈できる.これにより,【信頼関係構築】の[心理的安全性の担保]や[調和的な自己表現]が成立しており,両者は相互に補完的に働いていたとみなすことが妥当といえる.また,【看護プロフェッショナリズム】の[患者中心の貢献心]や[役割と責任の自覚]は,信頼関係を土台に専門性と倫理性を付与するものであり,他のカテゴリーを方向づける役割を果たしていたと位置づけられる.さらに,【語りを開く姿勢】の[待つ姿勢]や[共感的存在感]は,信頼関係構築と連動し,患者が安心して語り始められる場を成立させていたと理解できる.最後に,【共感的課題解決志向】の[心の機微の察知]や[機転の利く判断]は,セルフコントロールや信頼関係構築を前提に,課題を柔軟に見立てて解決へ導く力として機能していたと考えるのが妥当といえる.このようにこれら5つの能力が有機的に連関しながら看護師のNCを支えている点からも,本研究の構成は理論的に妥当であり,実践的にも有効な枠組みであると考える.
2. 看護師のNarrative Competence獲得プロセス本研究で示された看護師のNC獲得プロセスは,『自己との対峙』『共感と多様性への眼差し』『成長と変化の促進』『ワーク・エンゲージメントの向上』の4段階からなり,看護師が自己と他者の理解を深めながら,成長と充実を原動力にNCを継続的に洗練させていく過程を描いている.これは,看護師が患者・家族との対話を通じて内省を深め,専門職としての自己を形成していくプロセスであり,実践を通じて専門性と倫理性を統合していく内的変容の軌跡と考えられる.
藤田・丸岡(2018)は,中堅看護師がハッとする経験を契機に自己を振り返り,実践知を深めていく自己学習の仕組みを示している.これは『自己との対峙』から『成長と変化の促進』へと至る内省的実践の流れと同様と考える.Gregg & Magilvy(2001)は,看護師が日々の実践を通じて看護の本質的価値に気づき,自らの看護観を深めていくことで,専門職としての在り方を内面化していく過程を明らかにしており,これは本研究の〈対話経験が血肉となる〉〈看護観の醸成〉といった概念と重なる.このことからは,NCの獲得とは単なるスキルの習得ではなく,実践を通じた意味づけと自己変容を伴う専門職としての成熟過程であることが示唆される.
NC獲得プロセスを構成要素との関係から捉えると,例えば,『自己との対峙』の段階では,苦い経験やジレンマを通じて自己の限界や偏りに気づき,内省を重ねることで言動を調整する力が育まれる.これは【セルフコントロール】の基盤となる力であり,感情の整理や思い込みの排除といったメタ認知的能力が実践の中で形成されていくと考えられる.また『共感と多様性への眼差し』の段階では,他者の価値観や感情に寄り添う姿勢が育まれ,患者の語りに対して開かれた態度で接する力が培われる.これは【語りを開く姿勢】や【信頼関係構築】の土台となるものであり,認知的柔軟性や心理的安全性を確保する力が,対話経験を通じて磨かれていくと捉えられる.『成長と変化の促進』では,過去の対話経験が現在の判断に活かされることで,実践知が統合され,課題を見立てる力や倫理的判断力が高まる.これは【共感的課題解決志向】や【看護プロフェッショナリズム】の形成に直結し,専門性と倫理性を備えた対話実践が可能となる段階と捉えられる.さらに『ワーク・エンゲージメントの向上』では,対話を通じて得られる達成感や承認が看護師の主体性と専門性を高める原動力となり,仕事に対する前向きで充実した心理状態であるワーク・エンゲージメント(Schaufeli et al., 2006)を高め,より深い患者理解と柔軟な対応力へとつながっていく.これは知識と経験が融合し,状況に応じた柔軟で的確な対応が可能となることで,NCが,働きがいや実践の意味づけと深く結びついた力として定着していくものであることを示唆するものである.
以上のように,NCの構成要素は,獲得プロセスの各段階において相互に作用しながら育まれていくものと考えられる.また,それぞれの段階が,構成要素の形成に必要な経験・気づき・関係性・意味づけを提供しており,NCは対話を通じて発達する実践的な能力であることが示唆される.こうしたプロセスの可視化は,NCを育成・評価するための枠組みとして有効であり,看護師の内的変容と実践的成熟への教育的支援に寄与できるものと考える.さらに本研究で示されたプロセスは,患者・家族との対話を契機とする点においてNCに特徴的である一方,自己調整力や倫理的判断力の形成など,より広く看護師の専門性や実践的成熟に関連する普遍的なプロセスとも重なることが示唆された.このように,NCを看護師の専門的成熟の過程に位置づけるとともに,その特徴的な側面と普遍的な側面の両方を明らかにできた点にも本研究の意義があると考える.
看護師のNCは【セルフコントロール】【信頼関係の構築】【看護プロフェッショナリズム】【語りを開く姿勢】【共感的課題解決志向】の5つの要素で構成されていた.その獲得プロセスは,『自己との対峙』『共感と多様性への眼差し』『成長と変化の促進』『ワーク・エンゲージメントの向上』の4段階を円環的に辿る中で進行し,看護師が自己と他者の理解を深めながら,成長と充実を原動力にNCを継続的に洗練させていく過程である.
謝辞:本研究の実施にあたり,調査にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます.
また,本研究はJSPS科研費JP 23K16409の助成を受け実施したものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:田場真理:研究計画からデータ収集・分析の実施および論文作成,吉村雅世:分析の実施および解釈への助言および論文作成への助言・加筆修正,上野栄一:研究プロセス全体の助言および分析の実施と解釈,論文作成への助言を行った.著者全員が最終原稿を確認し,内容を承認した.