2026 年 46 巻 p. 436-447
目的:Rodgersの進化的概念分析の手法を用い,心理社会的支援におけるNCの精神保健医療福祉分野への応用可能性を検討する.
方法:医学中央雑誌Web版,CINAHL,PubMedをデータベースに,「Negative Capability」をキーワードとして検索した.最終的に国内外の30文献を概念分析の対象とした.
結果:4つの属性と,4つの先行要件,5つの帰結が導き出された.心理社会的支援におけるNCは,「不確実で困難な状況において,支援者が限界や葛藤を抱えながらも,多様な価値観や立場を尊重し,不確実性にとどまり続けながら新たな理解や実践を創出しようと探求していくプロセス」と定義づけられた.
結論:心理社会的支援におけるNCの概念は,精神保健福祉の分野において,高い応用可能性を有することが示唆された.
Objective: This study employs Rodgers’ (2000) framework of evolutionary concept analysis, which enables dynamic conceptual understanding, to examine the usefulness of the NC concept in mental health in psychosocial support.
Methods: Searches were conducted using the Medical Central Journal Web Edition, CINAHL, and PubMed with the keywords “Negative Capability” After careful review, 30 domestic and international studies that met the research objectives were selected for conceptual analysis.
Results: Analysis revealed that the concept comprises four attributes, four prerequisites, and five consequences. In psychosocial support, NC was defined as “a process whereby, in uncertain and difficult situations, the support provider—while grappling with their own limitations and conflicts—respects diverse values and perspectives, remains within the uncertainty, and explores ways to generate new understanding and practices.”
Conclusion: The concept of NC in psychosocial support was considered to have high applicability in the mental health and welfare field.
Negative Capability(以下,NC)とは,1800年代にJohn Keatsによって提唱された概念であり,「性急に証明や理由を求めることなく,不確実さ・不可解さ・懐疑の中に留まり続けることのできる能力」と定義される(帚木,2016).現代の医療および教育実践においては,課題に対して迅速かつ合理的な解決へと導く能力であるPositive Capability(以下,PC)が重視される傾向が強く,支援者は問題解決志向の態度を求められやすい.しかし,COVID-19の感染拡大以降,先行きが不透明で帰結の見通しが立ちにくい状況が多様な場面で顕在化し,支援者が直面する「解決困難性」や「曖昧さ」を受容しつつ関わる姿勢としてのNCの重要性が再評価されている.NCは単に問題を解決しない態度ではなく,不確実性を排除せずに他者と共に存在し,状況を複眼的かつ継続的に理解しようとする実践的能力であり,特に,症状や生活背景が多層的に絡み合い,標準化された介入が必ずしも有効とは限らない現代の精神医療保健福祉の文脈において,NCは支援者の臨床判断や関わりの質を支える概念として,理論的・臨床的意義を持つ概念である.看護学領域において,不確かさの経験は臨床実践に内在する中核的課題である.とりわけMishelの不確かさ理論(Mishel, 1988)およびその再概念化理論(Mishel, 1990)においては,不確かさはしばしばストレッサーとして作用し,強い感情的苦痛や葛藤を惹起する否定的側面を有する一方で,状況の再解釈や人生における新たな意味・価値の創出を促す肯定的側面も併せ持つことが示されている.すなわち,不確かさは,単純に克服・排除すべき対象ではなく,その中にとどまる経験自体が成長や支援の資源となり得る可能性を含む.この点において,NCはMishelの理論と接点を持ちながらも,単なる不確かさの受容にとどまらない概念的特性を有する.すなわち,NCは,「不確実な状況に身を置きつつ,拙速な判断や結論を回避し,新たな洞察や支援の可能性を探求する能力」として,支援者の内的態度および関わりの様式に関する独自の意義を持つと考えられる.しかし,NCは文学的背景に端を発する概念であり,医療・看護学分野における体系的議論や実践的応用の整理はなお十分とはいえない.したがって,本研究では,NCの心理社会的支援に関する先行文献を踏まえ,Rodgersの概念分析アプローチ(Rodgers, 2000)を用いて,心理社会的支援におけるNCの属性・先行要件・帰結を明らかにすることで,臨床における不確かさへの関わりに対する看護的視座を拡張し,その応用可能性を検討する.
本研究では,Rodgersの概念分析法を援用し,心理社会的支援におけるNCに関する文献的検討を通じて,その概念が精神医療保健福祉領域においてどのような有用性を持ち得るかを明らかにすることを目的とした.
本研究では,Rodgersの概念分析手法を用いた.この手法は,概念を固定的・普遍的なものとしてではなく,時間的・社会的文脈の変化に応じて意味が生成・変容する動的なものとして捉える進化的アプローチである.NCの概念は,1800年代にイギリス文学の領域で創出され,その後,1950年代にはBion(1970)によって精神医療実践に応用された.さらに,2020年代のCOVID-19感染拡大を契機として,医療・福祉・教育といった実践領域において再び注目が高まっている.このように,NCは文学・精神医療・医療・福祉教育といった分野横断的な文脈の中で発展してきた概念であり,その意味内容は歴史的背景や実践領域により変容し続けているといえる.以上の点から,本研究においては,NCの概念的特性をその歴史的変遷と分野横断的適用のプロセスの中で捉えることが必要であると判断し,動的な概念理解を可能とするRodgersの進化的概念分析の枠組みを採用した.
2. 対象となる文献の選定NCの概念は,200年以上前にイギリス文学において創出され,その後,文学にとどまらず,精神医療,医療・福祉・教育など多様な領域で応用されながら発展してきた.そのため本研究では,特定の時期に限定せず,国内外の文献を対象とし,看護学以外の学術分野における活用も含めて検索を行った.文献検索は,医学中央雑誌Web版,CINAHL,PubMedを用いて実施した(2025年8月10日検索).検索キーワードは,和文では,「ネガティブ・ケイパビリティ」,英文では,「Negative Capability」を用いて実施した.その結果,医学中央雑誌web版で37件,PubMedで30件,CINAHLで71件,計138件が抽出された.会議録,重複文献,および心理社会的支援に言及していない文献を除外したうえで内容を精査し,研究目的に適合した30件を最終対象とした.最終的な対象文献の内訳は,和文献24件,英文献6件であった.分野別では,医学分野が最も多く17件であった.看護学分野は6件であり,公衆衛生4件,精神看護1件,看護教育1件に分類された.
3. データ分析方法対象文献を精読し,各文献における「Negative Capability」に関する記述およびその前後の文脈に着目して分析を行った.Rodgersの概念分析枠組みに基づき,概念の本質的特徴を示す「属性」,概念が成立するための前提条件である「先行要件」,および概念が生じた結果として,個人・家族・社会・実践において現れる影響を示す「帰結」に該当する記述を抽出した.抽出した記述は意味内容を保持したままコード化し,意味内容の類似性に基づいてサブカテゴリ,さらにカテゴリへと段階的に抽象化した.カテゴリ化の過程においては,解釈の恣意性を抑制し,分析の信頼性および妥当性を確保するために,質的研究および,概念分析に精通した看護学研究者のスーパーバイズを受け,分析結果の検討および修正を行った.
分析の結果,心理社会的支援におけるNCの概念は4つの属性,4つの先行要件,および5つの帰結から構成されることが明らかとなった.以下に,カテゴリを【 】,サブカテゴリを[ ],内容を〈 〉で示す.
1. 属性属性としては,【支援者の自己省察と柔軟な関わりの姿勢】【支援者の忍耐と謙虚さを伴う受容的関わり】【支援者・患者双方が不確実性と多様性を受容し探求する姿勢】【相互の肯定的関心と回復への希望と信頼】の4つが導き出された(表1).
| カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
|---|---|---|---|
| 支援者の自己省察と柔軟な関わりの姿勢 | 自分の思考や感情に捉われず,柔軟かつ客観的に状況を受け止める姿勢 | 自己統制を支える自己理解 | 日下(2022) |
| 自己の言動への即時的気づき | 西(2022) | ||
| 医療者・支援者が自己を見つめ直し,内面的な感情や思考を理解しようとする姿勢 | 水上(2024),北内(2020),Coulehan & Clary(2005) | ||
| 認知的柔軟性と客観性 | 思考の偏りや限界を自覚し,特定の価値感に捉われずに柔軟で開かれた理解を目指す姿勢 | 田中(2025),安酸(2024),水上(2024) | |
| 自分の認知を客観的に捉え,事実を俯瞰的に理解しようとする能力 | 水上(2024),西(2022) | ||
| 感情調整と受容 | 不確実さに伴う感情を認識し受け流す | 若林ら(2024) | |
| 自然体で開かれた関わり | 専門家としての枠に捉われず,開かれた姿勢で一人の人間として相手に向き合うこと | 水上(2024),山根・越川(2020) | |
| 医療者が力みを手放し,自然体で関わる姿勢 | 水上(2024) | ||
| 支援者の忍耐と謙虚さを伴う受容的関わり | 時間とペースを尊重する姿勢 | 患者の回復の歩調に合わせ,焦らず寄り添いながら関わる姿勢 | 若林ら(2024),上村(2023) |
| 拙速に結論や行動に走らず,時間をかけて待ち,洞察しながら長期的視点で捉える姿勢 | 日下(2023),福嶋(2023),上村(2023),岡村(2022) | ||
| 性急に結論を出さず,自分の価値観や判断を脇に置いて観察を続ける姿勢 | 田中(2025),若林ら(2024) | ||
| 柔軟で開かれた理解の姿勢 | 新しい発想を取り入れ,柔軟に物事をとらえる心 | Cornish(2011) | |
| 安易な意味づけを避け,柔軟で謙虚に向き合う姿勢 | 蓮井(2024),Cornish(2011) | ||
| 尊重と共感を伴う寄り添いの姿勢 | 患者や家族を一人の人間として尊重し,共感と敬意をもって謙虚に寄り添う姿勢 | 福嶋(2023),高落(2023),北内(2020),Cornish(2011) | |
| 苦しみに寄り添い,その行く末を見守る承認 | 西(2022) | ||
| “今ここで”への関心と真摯な受容 | 患者との関係の“今,ここで”に注意を向け,ありのままを感じ取り関心を寄せる姿勢 | 水上(2024),福嶋(2023),田中(2025) | |
| 患者の症状や感情を真摯に受け止め,根気強く対応 | 宮田(2024),岡村(2022) | ||
| 現実を受け入れ行動する姿勢 | 何もしないことではない | 西(2022) | |
| 今できることに注力する姿勢 | 日下(2023) | ||
| 支援者・患者双方が不確実性と多様性を受容し探求する姿勢 | 不確実性の困難への耐性と探求 | 先行きや結果が明確でない状況を理解し,受け止める | 若林ら(2024) |
| 複雑で不確実な状況に直面しても,揺らぎを抱えながら受け止め,安定を保とうとする力 | 遠藤ら(2023),日下(2022) | ||
| 不確かさや否定的に捉えがちな体験を,価値ある学びや能力として受けとめ,耐えながら取り入れていく姿勢 | 安酸(2024),帚木(2016) | ||
| 不確実で解決困難な問題に対して逃げずに向き合い,努力や忍耐をもって耐える | 安齋(2025),蓮井(2024),上村(2023),池永(2020) | ||
| 不確実さやプレッシャーの中でも揺らがず,自尊感情を保ちながら踏みとどまる姿勢 | 安酸(2024),日下(2023) | ||
| 困難な状況において投げ出さず,現状を受け止めながら意味や解決策を模索し続ける姿勢 | 安酸(2024),阿川(2023),山根・越川(2020) | ||
| 答えが出ないもどかしさに耐えながら,自ら思考を深め続け,本質を探求する姿勢 | 安酸(2024),若林ら(2024) | ||
| 多様性・矛盾・曖昧さの受容 | 多様な価値観や視点を尊重し,相互に受け止めながら関わる姿勢 | 水上(2024),遠藤ら(2023),Del(2020),Cornish(2011) | |
| 多様な選択や立場を尊重し,寛容に受け入れる姿勢 | 上村(2023) | ||
| 相手の立場や意図を理解しようと努め,一方的な非難を避けて受容的に関わる寛容の姿 | Del(2020),帚木(2016) | ||
| 曖昧さを受容し,多様な視点を併存させる姿勢 | Del(2020) | ||
| 医療者が不安や解決不能な状況を抱えても良いと受け入れ,完璧さに縛られずに存在を許容すること | 水上(2024),上村(2023) | ||
| 矛盾を受け入れる姿勢 | 安酸(2024) | ||
| 開かれた対話の実践 | Son et al.(2023) | ||
| PCに依存せず主体的に活用・対応する能力 | 若林ら(2024),西(2022) | ||
| 相互の肯定的関心と回復への希望と信頼 | 患者-看護師相互の肯定的関心と患者の可能性への希望と信頼 | 患者や対象者と互いに肯定的な関心を持ち続け,その人の変化や成長の可能性を信じて支える姿勢 | 田中(2025),福嶋(2023),山根・越川(2020),Del(2020) |
【支援者の自己省察と柔軟な関わりの姿勢】とは,不確実な状況において支援者が自己を俯瞰し,自身の思考や感情に過度にとらわれることなく,柔軟性と客観性をもって対象者と関わろうとする態度を示すものである.本属性は,NCを発揮する上で支援者が内的体験を継続的に省察しつつ,状況に応じて関わりのあり方を調整する能力を意味する(日下,2022;西,2022;水上,2024;田中,2025;若林ら,2024;山根・越川,2020).これらは,支援者が自己の内面を理解しながら外界との相互作用を調整する実践態度であり,心理社会的支援におけるNCを支える中核的要素であることが明らかとなった.
【支援者の忍耐と謙虚さを伴う受容的関わり】とは,相手への尊重と共感的理解を基盤とし,安易な意味づけや結論づけを避けながら,「いま,ここで」における対象者の経験に真摯に関心を向ける受容的態度を示すものである(若林ら,2024;日下,2023;田中,2025;Cornish, 2011;蓮井,2024;福嶋,2023;西,2022;水上,2024;宮田,2024).本属性は,不確実な状況の中で,患者が抱える苦悩や揺らぎに対して性急に介入・修正を図るのではなく,支援者が耐性を持ちながら,その場にとどまり続ける姿勢を示している.また,支援者が自身の専門職としての信念や方向性を相手に一方的に押し付けるのではなく,謙虚さと共感をもって関わることが,NCを体現する関係性の中核であることが明らかとなった.
【支援者・患者双方が不確実性と多様性を受容し探求する姿勢】とは,支援者のみならず,患者・対象者が,不確実で困難な状況そのものをまず認識し,そこに内在する多様な価値観や立場を尊重しながら,不確実性を排除せずに受け入れ,その中から新たな意味や関わりを見出そうとする態度を示すものである(若林ら,2024;遠藤ら,2023;安酸,2024;安齋,2025;水上,2024;上村,2023;Del, 2020;Son et al., 2023;西,2022).本属性は,対象者-支援者間の関係性における相互作用のみならず,支援者同士の協働関係,さらに,オープンダイアログを用いた対話的アプローチにおいても中核的姿勢として見出されていた.また,心理社会的支援におけるNCは,迅速な問題解決を志向するPCと相補的な関係にあり,不確実な状況を支援者自身が見逃さずに受け止めることを起点として,新たな理解や関わりの展開を促す点に独自の意義があることが明らかとなった.
【相互の肯定的関心と回復への希望と信頼】とは,患者と,看護師の双方が互いに肯定的関心を寄せ,支援者が患者・対象者の回復や成長の可能性を信じ続ける態度を示すものである(田中,2025).これは,支援者が患者の苦悩や揺らぎに寄り添いながら,その人が本来有する力や回復の可能性を見失わずに関係を維持し続ける姿勢を意味する.すなわち,相互の肯定的関心と希望・信頼は,NCを体現する支援関係を基盤から支える要素であることが示された.
2. 先行要件先行要件としては,【不透明で解決困難な社会的状況】【支援者・治療者自身が直面する専門的限界や葛藤】【支援者が認識する支援過程における困難な状況】【発達・社会・健康にまたがる対象者の深刻で複雑な課題状況】の4つが導き出された.これらは,NCを用いた心理社会的支援が実践される際の前提条件となるものである.(表2).
| カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
|---|---|---|---|
| 不透明で解決困難な社会的状況 | 答えや解決が得られず,不確かさや停滞に直面して耐えざるをえない状況 | 答えや状況がはっきりしない中で,その不確かさや停滞に耐える | 安齋(2025),北内(2020),池永(2020) |
| 問題や症状が安易には改善・解決せず,停滞や限界が伴う状況 | 蓮井(2024),岡村(2022),帚木(2016) | ||
| 時間的に持続する困難や課題に対して,継続的な対応や支援が必要となる状況 | 安酸(2024),帚木(2016),坂井(2014) | ||
| 見通しの不明確さ | 状況が明確に定まらず,答えや見通しが容易に得られない | 安酸(2024),帚木(2016),坂井(2014) | |
| 答えや解決が得られず,不安定で不確かな状態に置かれていること | 田中(2025),西(2022),Cornish(2011) | ||
| 将来の見通しが立たない状況 | 日下(2022) | ||
| 解決の手がかりが存在しない | 明確な指針や正解が存在せず,自分の力では容易に解決できない | 安酸(2024),阿川(2023),岡村(2022) | |
| 未経験で前例のない状況 | 田中(2025) | ||
| 病態・経過の不確実性 | 支援の範囲や限界が不明確な状況 | 田中(2025) | |
| 医学的評価を行っても,器質的な原因や明確な病態が特定できない症状 | 宮田(2024) | ||
| 治療経過や治療場面の出来事が不明瞭な状況 | 日下(2022) | ||
| 不確実で流動的な社会環境 | 変化が激しく,不確実で曖昧な社会環境 | 若林ら(2024),安酸(2024) | |
| COVID-19の流行下における社会的・保健的な状況や対応 | 岡村(2022),日下(2022),Simon et al.(2021) | ||
| 支援者・治療者自身が直面する専門的限界や葛藤 | 専門性の限界や力量不足を意識し,達成困難な状況に直面した際に生じる無力感や挫折感・葛藤 | 治療者が抱く専門的限界や能力不足への感情 | 日下(2022) |
| 達成困難な目標に直面する苦悩 | 安齋(2025) | ||
| 支援者が認識する支援過程における困難な状況 | 支援者が対象者の困難に向き合い,解決の難しさを抱えながらも支援を模索・提供しようとする状況 | 支援者が解決不能な問題に直面する状況 | 安酸(2024) |
| 支援者がアセスメントを通じて,対象者に必要な支援を見出し提供しようとする状況 | 安酸(2024) | ||
| 支援が難航する事例への対応 | 安齋(2025),安酸(2024) | ||
| 発達・社会・健康にまたがる対象者の深刻で複雑な課題状況 | 地域固有の課題と支援 | 地域に内在する多面的で解決困難な問題 | 蓮井(2024) |
| 地域に暮らす人々を対象とした支援 | 阿川(2023) | ||
| 発達課題に直面する時期に生じる心理社会的な不安定さ・揺らぎ | アイデンティティを模索し,成長と葛藤を伴う思春期の不安定な時期 | Del(2020) | |
| 児童・思春期の患者と家族を対象とした治療 | Del(2020) | ||
| 人間関係や繋がりを築きはじめる関係形成の初期段階 | 福嶋(2023) | ||
| 発達課題ごとに求められる課題への適応が困難となり,心理的・社会的均衡が揺らいでいる深刻な状況 | Son et al.(2023) | ||
| 精神的困難や疾患を背景に長期的かつ複雑な支援を要する状況 | 深刻で複雑な精神的・行動的課題を抱える人への支援・治療 | 西(2022),Del(2020),松本(2017),坂井(2014) | |
| 心身に長期的な影響を及ぼす苦痛や傷つきを抱え続ける状況 | Del(2020) | ||
| 精神疾患を抱える人とその家族を対象とした支援 | 大友(2019) | ||
| 生命や存続を脅かす危機状況に対する支援・ケア | 死を含む生命の危機的状況にある患者と家族に対して行われる緩和的な医療・ケア | 水上(2024),日下(2022),池永(2020),帚木(2016) | |
| 重大な困難や脅威に直面し,存続や安全が脅かされている状況 | 日下(2022) | ||
| 出産というライフイベントにおいて女性が直面する自然なプロセス | 出産に伴う生理的経過と女性の役割変化 | Maclellan(2020) |
【不透明で解決困難な社会的状況】とは,患者・対象者が抱える病態や疾患特性に起因する不確かさに加えて,医療のみでは対応しきれず保健・医療・福祉など複数の制度領域にまたがる支援が必要となる状況,さらにCOVID-19の感染拡大以降に象徴されるVUCA(Volatility:変動性,Uncertainty:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性)的な社会環境における曖昧さを示している(安齋,2025;蓮井,2024;安酸,2024;田中,2025;日下,2022;宮田,2024;若林ら,2024;岡村,2022).これらは,不確実性を特徴とする現代社会の構造的背景と,その中で支援者および,患者双方が抱える心理的負荷を反映していると解釈された.
【支援者・治療者が直面する専門的限界や葛藤】とは,支援者が不確実な状況に対峙した際に生じる専門職としての葛藤や責任感を示すものである(日下,2022;安齋,2025;安酸,2024).これらの感情経験は,NCを用いた心理社会的支援において,支援者が繰り返し自己へ立ち返り,内的体験を省察しながら,感情を昇華していくための基盤となるものである.すなわち,本先行要件は,支援者が不確実性を排除せずに「その場にとどまる」ために必要となる内的態度の出発点を示すものである.
【支援者が認識する支援過程における困難な状況】とは,支援者が専門職としての教育的基盤や支援の方向性を有しつつも,対象者の困難に直面しながら支援を試みる中で生じる葛藤や限界を示している(安酸,2024;安齋,2025).これは,支援者が状況の複雑さや予測不能性を認識しながらも関わりを継続しようと試みる過程における負荷と努力を反映しており,NCを要する実践場面における支援者の現実的な位置づけを示している.
【発達・社会・健康にまたがる対象者の深刻で複雑な課題状況】とは,対象者が直面する課題が発達段階,社会的背景,疾患や治療経過といった複数の要因にまたがり,多面的かつ複雑な支援を要する状況であることを示している(阿川,2023;Del, 2020;福嶋,2023;Son et al., 2023;西,2022;大友,2019;水上,2024;日下,2022;Maclellan, 2020).これらは,不確実性を生じさせる状況が,対象者の病態や治療段階のみならず,発達的課題,時間的変化,地域性,文化的背景など多層の要因に依存することを示している.すなわち,心理社会的支援におけるNCが必要とされる支援場面は,個別性が高く,かつ多面的な要因が複合する文脈の中で生じることが明らかとなった.
3. 帰結帰結としては,【不確実性を生じた支援者の成熟】【患者の自律性・回復を支える心理社会的支援の実践】【不確実性の受容が導く支援者・患者・家族の肯定的な変化】【支援者・患者双方の安心と展望の獲得】【協働から生まれる新たな知と展開】の5つが導き出された.(表3).
| カテゴリー | サブカテゴリー | 内容 | 文献 |
|---|---|---|---|
| 不確実性を生じた支援者の成熟 | 不確実性対応力と自律性の保持 | 支援者が高度な不確実性に対応する力を獲得する | 若林ら(2024) |
| 支援者が自らの自由領域を守りつつ,自律性を保持し,非拘束的な自己を保つ | 若林ら(2024) | ||
| 感情解放と寛容性の涵養 | 感情を無理に抑え込むのではなく開放することで,支援者がより寛容になれる | 安酸(2024),若林ら(2024) | |
| 共感的関係と癒しの構築 | 支援者が共感を深め,言葉を超えて患者と癒しを伴う深い関係性を築く | 西(2022),Del(2020),Coulehan & Clary(2005) | |
| 内省・創造性・慈愛の育成 | 内省と創造性,そして慈愛を育み,内省的で創造的かつ慈愛ある支援者へと導くことを促す支援者形成 | Coulehan & Clary(2005) | |
| 感性と開放性に基づく理解 | 支援者が開放性と感性に基づき,感性豊かに人と捉え,他者を理解するまなざしを持つ | 水上(2024) | |
| 患者の自律性・回復を支える心理社会的支援の実践 | 自律性と自己効力感の育成 | 思春期の子どもが自己決定を通じて自律的に成長していく力を育むこと | Del(2020) |
| 将来の課題に対応し克服できる自信を養うこと | Del(2020) | ||
| セルフケアを基盤とした回復の促進 | 症状の軽減や安定を超えて,事態の好転を契機に対象者の回復へと繋げる | 岡村(2022),坂井(2014) | |
| 患者がセルフケアを習得・獲得することで,自然な回復へと繋がる | 安酸(2024) | ||
| 関わりを通じた変化の創出 | 自然な接し方や関わりを通じて,患者の変化を生み・促し・導く看護 | 安酸(2024) | |
| 患者中心性と発展的関係の構築 | 効果的なコミュニケーションを通じて,良好で発展的な患者-看護師関係を築く | 宮田(2024),Cornish(2011) | |
| 患者中心のアプローチを実現・維持するために,個別性に即した重要な側面を明確にし,方向づける | Cornish(2011) | ||
| 不確実性の受容が導く支援者と患者・家族の肯定的な変化 | 心理的幸福感の向上 | 不確実性の受容が看護師や支援者の心理的幸福感を高める | 若林ら(2024),Son et al.(2023) |
| 看護師や支援者が心理的に楽になり,生きやすさや安心感が得られる | 上村(2023),岡村(2022) | ||
| 医療者の心身の消耗や負の心理的影響を軽減し,健全なケア提供を保つ | 上村(2023) | ||
| 専門職としての成長と洞察 | どうしようもない状況や苦悩を耐え抜き,受け止めることで看護に必要な力や洞察を得て,状況を好転させていく | 安齋(2025),安酸(2024) | |
| 自己を超えて,自我を離れ,他者や他職種へと想像的に入り込み理解する姿勢が持てる | 日下(2022) | ||
| 曖昧さをともに抱える場の形成 | 曖昧さや不理解を許容し,明確でない状況を受け入れ,不明確さを抱えられる場を提供・保障する | Cornish(2011) | |
| 創造的方向性の芽生えと展開 | 看護に創造的方向性が芽生え,生まれ,展開していくこと | 水上(2024) | |
| 患者の自己理解と変容の促進 | 患者が新たな自己理解や可能性を思考し,エネルギーを得ながら変化を想像し実現する力を与えられること | 水上(2024),日下(2022),Cornish(2011) | |
| 対象者・家族の潜在力の発見 | 支援対象者や家族への理解を深めることで,その人たちが持つ力を見出す | 田中(2025) | |
| 支援者と患者双方の安心と展望の獲得 | 将来への見通しと希望の維持 | 発展的で深い理解が将来に待ち受けていると確信し,それを見通すことで希望を保ち,展望を失わない | 上村(2023) |
| 安全基地としての場の形成 | 安心と支えを与え,いつでも戻れる拠点となる場を提供する | Del(2020) | |
| 協働から生まれる新たな知と展開 | 協働による知の創造と社会的適応力の強化 | 多様な主体の協働を通じて新たな知を創造し,地域や公衆衛生の適応力を強化することで共生社会を実現する | 蓮井(2024),岡村(2022),Simon et al.(2021),Del(2020) |
| 臨床現場における新たな知の創出 | 慢性期以外の多様な臨床現場や状況において,新たな知見や知の創出を得ること | 西(2022),Maclellan(2020) | |
| 補完による既存資源の強化 | PCと置き換えるのではなく,補完することで,PCの効果をより一層高めることに繋がる | 安酸(2024),福嶋(2023) | |
| 曖昧さの明確化と治療的展開 | これまで曖昧で言葉にならなかったものが明確化され,新たな治療の展開に繋がる | 福嶋(2023),山根・越川(2020) |
【不確実性を生じた支援者の成熟】とは,不確実な状況に身を置き続ける経験が支援者自身の内的変容や成長につながることを示している(若林ら,2024;安酸,2024;西,2022;Coulehan & Clary, 2005;水上,2024).これらは,不確実性と向き合い続けることが支援者の内的資源を活性化し,支援における感受性や寛容性,関係性の深まりといった成熟をもたらすことを示している.さらに,支援者の成熟は,患者-看護師関係に相互作用的に影響し,関係性の質を高めながら発展させていくプロセスとして理解された.
【患者の自律性・回復を支える心理社会的支援の実践】とは,不確実性を共有しながら関わることが,患者や家族が本来有する回復力や自己決定の力を引き出す実践へとつながることを示している(Del, 2020;岡村,2022;安酸,2024;宮田,2024).これらは,NCを用いた心理社会的支援において,支援者が対象者と家族の内的な力を信じ,その成長のプロセスに寄り添う姿勢が,思春期の自律性支援や地域での回復支援の場面において有効に機能することを示している.すなわち,NCに基づく心理社会的支援の実践は,患者及び家族を中心に立脚し,対話と関係性を基盤にしながら,対象者自身が回復の方向性を構築していくプロセスを支えるものであることが明らかとなった.
【不確実性の受容が導く支援者・患者・家族の肯定的な変化】とは,不確実な状況を排除せず受け止め続けることが,支援者・患者・家族にとって肯定的な変容をもたらすことを示している(若林ら,2024;上村,2023;安齋,2025;日下,2022;Cornish, 2011;水上,2024;田中,2025).これらは,不確実性を肯定的に受容することが,支援者のみならず,患者や家族にとって内的な資源の活性化や新たな意味の再構築に繋がることを示している.
【支援者・患者双方の安心と展望の獲得】とは,NCを用いた関わりによって,支援者・患者双方にとって心理的に安定した関係性と,将来に向けた見通しが形成されることを示している(上村,2023;Del, 2020).これは,心理社会的支援におけるNCに基づく受容的かつ開かれた関わりが,患者・対象者にとって安心して自己を表出できる関係性の場を醸成し,その中で将来に向けた展望や希望を再構築していくプロセスを支えることを意味している.
【協働から生まれる新たな知と展開】とは,NCに基づく関わりが,支援者と対象者,さらには多領域の専門職同士の協働を促進し,新たな理解や実践知の創出へとつながることを示している(蓮井,2024;西,2022;安酸,2024;福嶋,2023).これらは,NCを用いた支援が,共生的な協働関係の形成やPCとの相補的活用により,新たな実践的指標の開発,対象領域の拡張,および治療的アプローチの展開へと繋がることを示している.すなわち,心理社会的支援におけるNCは個人的変容にとどまらず,臨床・教育・地域・社会といった複数のレベルにおける新たな知の循環と創出を促す概念であることが明らかとなった.
4. 概念図と定義心理社会的支援におけるNCの概念構造を図1に示す.【不透明で解決困難な社会的状況】や【支援者が認識する支援過程における困難な状況】のもとで,【発達・社会・健康にまたがる対象者の深刻で複雑な課題状況】を抱える患者,対象者,家族への支援場面において,支援者は【支援者・治療者自身が直面する専門的限界や葛藤】を抱えながら関わりを進めている.支援場面では,【支援者・患者双方が不確実性と多様性を受容し探求する姿勢】を保ち,【支援者の自己省察と柔軟な関わりの姿勢】で,【支援者の忍耐と謙虚さを伴う受容的関わり】を持ち続けようとすることで,患者-看護師関係における,【相互の肯定的関心と回復への希望と信頼】が醸成されていた.その結果,【不確実性の受容が導く支援者・患者・家族の肯定的な変化】として,支援者の【患者の自律性・回復を支える心理社会的支援の実践】が,【支援者・患者双方の安心と展望の獲得】へと繋がり,[患者の自己理解と変容の促進]や[対象者・家族の潜在力の発見]を生みだしていた.また,支援者にとっての成果として,【不確実性を生じた支援者としての成熟】が得られ,【協働から生まれる新たな知と展開】へと支援が発展していくことが示された.すなわち,心理社会的支援におけるNCは,不確実性の認知→受容→探求のプロセスを通じて,患者・家族・支援者・実践のすべてに新たな変容をもたらす概念である.以上の分析より,心理社会的支援におけるNCは,「不確実で困難な状況において,支援者が限界や葛藤を抱えながらも,多様な価値観や立場を尊重し,不確実性にとどまり続けながら新たな理解や実践を創出しようと探求していくプロセス」と定義される.

曖昧さは,新奇性,複雑性,および不可解性を内含する概念として定義されている(Budner, 1962).増田(1998)は,曖昧さが刺激を受け取る個人の解釈や意味づけに依存する性質を持つことを指摘し,曖昧さに対する態度や耐性はパーソナリティ特性に基づく個人差を伴う概念であると論じている.
不確実性は,情報の不完全性として定義される(Smithson, 1994).また,不確実性耐性は,未来の予測ができない,結果が不明確であるといった不確実な状況に対して,個人がどの程度耐えることができるかを示す,未来志向的な概念であるとされている(竹林ら,2012).
曖昧さ耐性と不確実性耐性の間には,中程度の正の関連が認められていると報告されている(Buhr & Dugas, 2006).さらに,直面している状況に内在する曖昧さに対してどの程度耐えられるかを示す特性を「曖昧さ耐性」,将来生じうる結果の不確実さに対してどの程度耐えられるかを示す特性を「不確実性耐性」とし,両者は時制の違いに基づいて区分されることが指摘されている(Grenier et al., 2005).
本研究で明らかになったNCの属性から,心理社会的支援におけるNCは曖昧さや不確実を抱合する概念であるといえる.また,曖昧さ耐性や不確実性耐性といった関連概念は,不確実な状況に対して「耐えうるか/耐え得ない」かを軸として評価されており,不確実性や曖昧性に対して耐容的に関わることを肯定的に捉える点においてNCの帰結と重なる部分がある.しかし,心理社会的支援におけるNCは単に,不確実な状況に「耐える」ことに留まらず,不確実性の中にとどまり続ける過程そのものが,新たな意味・関係性・実践知の生成へとつながる点に独自の意義をもつ.すなわち,曖昧さ耐性が「曖昧さに耐えること」自体を目的とする特性概念であるのに対し,心理社会的支援におけるNCは,「不確実性に耐えて待つこと」を通して,新たな知や治療的展開を創出する過程的・発展的概念であると位置づけられる.
2) Mishelの不確かさ理論における「不確かさ」の概念Mishel(1990)は,自身が提唱した不確かさ理論において,不確かさを「病気に関連した予測不可能で意味づけができない状態であり,患者が自身の病状,診断,予後,治療に関する十分な情報を得られず,曖昧さや複雑さを経験すること」と定義している.すなわち,Mishelは,不確かさを「患者自身の体験」であり,かつ「病気に関連する状況」に限定している点が特徴である.一方,本研究で明らかになった心理社会的支援におけるNCの先行要件においては,不確かさを経験する主体は患者に限られず,支援者自身が直面する専門的限界や葛藤,さらには患者-看護師関係において共有される関係的な困難も含まれていた.また,不確かさが生じる文脈も,疾病や治療経過に限定されるものではなく,社会環境,地域性,家族関係,ライフイベントなど,より広範で動的な状況にまたがることが示された.
以上より,Mishelの不確かさ理論が「病いに関連して患者が経験する不確かさ」を中心的対象とするのに対し,心理社会的支援におけるNCは,不確実性を支援者と患者が関係性の中で共同して引き受ける相互的プロセスとして捉える点に独自性があると考えられる.また,心理社会的支援におけるNCは不確実性を「克服すべきもの」とみなすのではなく,その中にとどまり続けること自体が新たな理解・意味・実践を創出する契機となるという点で,不確かさを問題解消の対象として整理してきた従来の枠組みを超える概念であるといえる.
6. 例証Aさん(17歳女性)は,友達関係のトラブルを契機に不登校となり,引きこもりがちな生活を送っている.SNSへの没頭により,昼夜逆転の生活が持続し,半年が経過していた.心配した学校教員や友人から連絡を受けるものの,登校しなければならないという思いと,友人関係や学校生活を想起することによる強い切迫感との間で揺れ動き,過呼吸発作を繰り返すようになった.次第に不眠や強い不安が出現し,「どこにも居場所がない.自分なんて終わりだ」といった絶望感が増強し,希死念慮を抱くようになった.家族は関わりに見通しが持てず,対応に疲弊していた.こうした状況を受け,かかりつけ医に相談し,児童思春期精神科の専門機関の受診に繋がった.初診時の面接では,生活状況を問われたが,Aさんは感情を言語化しようとするほど呼吸が乱れ,発語困難な状態となった.看護師は,「焦らなくて大丈夫です.今ここで無理に気持ちを整理する必要はありません.ここは,あなたがありのままでいることができる安全な場所です」と伝え,Aさんの沈黙を尊重しつつ,寄り添いながら時間を共有した.看護師は,Aさんの反応を意味ある表現として受け止め,とどまる姿勢を選択した一方で,即時的な成果を見出せず,内面では無力感を抱いていた.同時にAさんは,何も聞かずにそばにいる看護師の関わりに,はじめは戸惑いを感じたが,言葉にならない状態のまま受け入れられる体験を通して,次第に自己の内面に注意を向け,呼吸を整えることができるようになった.看護師はAさんの変化から,共に時間を過ごすことの意義と,不確実性にとどまる価値を再認識し,不安が自信へと変化していくのを感じた.Aさんは,自分の内面に目を向けて呼吸を整えることができた経験ははじめてで.沈黙を共有しながら,隣にいてくれた看護師の存在が,この新たな向き合い方につながったのかもしれない,と振り返った.
本概念分析により,心理社会的支援におけるNCは,支援者のみならず患者・家族にとっても有益な可能性を持つアプローチであり,社会情勢や医療環境の変化に応じて発展し続ける動的な概念であることが示唆された.さらに,心理社会的支援におけるNCは,明確な因果関係や即時的な成果が見出しにくい精神医療保健福祉分野において,高い適応可能性を有すると考えられた.とりわけ,多様な価値観や生活文脈を背景に,支援ニーズが流動的に変化する当該領域では,不確実性や曖昧さを排除せずに当事者と関係性を維持しながら理解を深める姿勢が,支援の質を左右する.NCは可視化困難な実践を理論的に位置づけ,支援者の臨床判断や関わりの質を支える枠組みとして有用であると考えられた.Mishelは,不確かさの再概念化理論において,患者が不確実な経験から成長や意味の再構築へと向かうためには,不確実性に価値を見出し得る支援者の存在が重要であると述べている(Mishel, 1990).これは,本研究の属性で示された【不確実性と多様性を受容し探求する姿勢】と[患者の自己理解と変容の促進]の帰結と一致するものである.また,心理社会的支援におけるNCは,問題解決志向的なアプローチであるPCとは対照的に,不確実性の中に留まり続ける態度を中核とする.しかしこの「とどまり続ける」実践が,〈これまで曖昧で言葉にならなかったものが明確化され,新たな治療の展開に繋がる〉ことを可能にする点が明らかとなった.すなわち,心理社会的支援におけるNCは,従来停滞していた支援者の理解や視点を拡張し,新たな介入の方向性を創発する契機となることで,新たな治療へと展開していくなど,看護の視点だけではなく,医療の視点にも繋がる有益性が示唆された.以上より,心理社会的支援におけるNCは看護実践における患者理解と関係性形成のみならず,医療チーム内の協働や治療的アプローチの再構築といったより広い臨床実践領域にも応用可能な概念であると考えられる.
2. NCの概念の適応可能性をより高める支援モデルについてNCの概念を心理社会的支援において実践的に活用するためには,その適応可能性を高める支援モデルの検討が不可欠である.本研究におけるNCの概念の起点には,【支援者・治療者自身が直面する専門的限界や葛藤】の存在が明らかとなった.しかし現在の精神医療領域における入院治療では,早期退院を促進する政策的動向の影響により医学モデルが優勢となりやすく,問題解決思考や治療効果を迅速に求める力学が働き,支援には時間的・役割的な制約が生じやすい.このような状況下では,先行要件や属性が備わっていたとしても,NCが帰結へと十分に発展しない可能性が示唆された.すなわち,支援者が葛藤を抱きつつ不確実性を認知していても,組織的・文化的要因により「受容の段階」に到達できない場合,NCを基盤とした心理社会的支援の実践には結びつかず,支援者には葛藤と不全感のみが残存する恐れがある.福嶋(2023)は,NCの活用が限定的である背景として,「限られた期間で結果を求める成果主義的傾向」の影響を指摘しており,本研究の検討結果もこの指摘を支持するものであった.そのため,専門職としての看護師が,NCを実践的に活用しうる場面や方法を明確化し,支援に組み込むための枠組みを整備する必要性が示唆された.一方で,先行要件の分析からは,心理社会的支援におけるNCが公衆衛生看護学領域,精神看護学領域,慢性疾患を有する人々の地域生活支援といった「生活モデル」を基盤とする支援場面において応用されやすいことも示された.地域における支援は,入院治療と比較して長期的・継続的な関わりが可能であり,対象者のストレングスを基軸とした支援が展開されるため,時間的制約が相対的に小さい.このような環境は,NCの概念が対人関係の中で醸成されやすい条件を備えていると考えられる.以上より,心理社会的支援におけるNCは短期的成果が求められる医学モデルよりも,生活に根ざした継続的ケアモデルにおいて,実践的意義をもつ概念であることが示唆された.
3. NCの概念を抱合する看護現象の探求についてLeininger(1995/1995)は,ケアとは,「世界観や社会構造,文化的価値観のなかに埋めこまれており,その本質を明確化することは極めて困難である」と述べ,埋もれたケア現象を明らかにするためには,人間集団の内側からの帰納的でオープンな探究が必要であると指摘している.精神医療領域においては,「見守る」「待つ」といった一見“何もしない”ように見える態度を看護実践に取り入れることで,患者の内在的な適応に働きかける実践知が蓄積されている(木下ら,2024).しかし,これらの実践知は,個々の療養環境や文化的背景,支援者と患者の関係性といった文脈の影響を強く受けるため,その構造や本質の明確化が困難であり,専門的技術として可視化されにくい現状がある(Kato et al., 2025).Leiningerの文化ケア理論の意義の一つに,文化的文脈の中に埋没しているケア現象を照らし出すことで,専門的看護ケアの独自性や有効性を明確化する点にある.そのためには,異なる文化的環境におけるヒューマンケアを理解し,健康・安寧にどのような影響を及ぼすかを把握する視点が求められる.本研究の結果から,心理社会的支援におけるNCは,対象者の病態や治療段階だけでなく,発達課題,生活史,時間的変化,地域性,文化的背景など多層的な要因の中で成立する概念であり,対話と関係性を基盤にし,対象者が自ら回復の方向性を構築していくプロセスを支える看護現象であることが示された.つまり,心理社会的支援におけるNCは,個別性の高い文化的・社会的文脈の中で生起する現象であるため,その本質を解明するためには,現象が立ち現れる“内側の文化的状況”に深く入り込む探求手法が適していると考えられる.
本研究は,心理社会的支援におけるNCに関する文献を対象として概念分析を行ったが,分析対象文献となった文献数には限界があり,NCに関する議論を網羅的に把握できていない点は本研究の限界である.本研究で明らかとなった属性および先行要件では,支援者および患者がストレスフルな状況に置かれていることが前提となっており,これらの困難な状況がいかなるプロセスを経てポジティブな帰結へと転換していくのかについては,今後さらなる精緻な検討が必要である.特に,心理社会的支援において,NCが形成される背景要因や,受容に至るまでの心理的・関係的プロセスの解明は,今後の重要な研究課題といえる.今後は,本研究で抽出された属性・先行要件・帰結を理論的基盤として,不確実性にとどまり続ける支援過程を評価するアセスメントツールの開発や,精神医療を含む多様なケア場面で適用可能な介入プログラムの構築が求められる.これにより,心理社会的支援におけるNCに基づく支援が臨床現場において継続的かつ再現性をもって実装され,支援者と患者の双方にとって意味ある成長と回復を促進する支援モデルの確立につながることが期待される.
本研究では,心理社会的支援におけるNegative Capability(NC)を,「不確実で困難な状況において限界や葛藤を抱えながらも,多様な価値観や立場を尊重し,不確実性にとどまり,新たな意味や実践を創出していくプロセス」として定義した.本概念は,支援者のみならず患者・家族にとっても有益な成果をもたし得るアプローチであり,社会的課題や医療環境の変化に応じて動的に適用される特性を有することが示唆された.以上の結果から,心理社会支援におけるNCは精神医療保健福祉分野において,現代のケアの在り方を再考するための有用な理論的基盤となりうることが明らかとなった.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:筆頭著者のIYは研究の着想・デザイン・データ収集・分析・解釈・原稿の作成に貢献;MKは,研究の着想・デザインへの助言・データ分析,解釈への示唆・原稿作成への示唆,研究プロセス全体への助言にて貢献,全ての著者は最終原稿を読み,承認した.