日本看護科学会誌
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総説
精神障害者の「気づき」の概念分析
―国内文献レビュー―
西田 祐紀片岡 三佳
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2026 年 46 巻 p. 448-460

詳細
Abstract

目的:精神障害者の「気づき」の概念分析を行い,精神障害者の「気づき」の定義を明らかにすることである.

方法:2025年10月までに医学中央雑誌Web版(Ver.6)およびCiNiiに収録された国内文献34件を対象に,Rodgers & Knafl(2000)の概念分析アプローチを用いて分析した.

結果:4つの属性として【精神疾患への主観的な感覚】【自分なりの理解に基づいた受け入れ】【自身を取り巻く生活環境】【自分自身の客観的な捉え】,4つの先行要件,4つの帰結が生成された.

結論:精神障害者の「気づき」は,「精神障害者が,自分なりの理解に基づき,生活環境を含めて自分自身を主観的および客観的な視点から心身の両側面で捉えること」と定義された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the concept of awareness among individuals with mental disabilities and define awareness in this context.

Methods: We analyzed 34 studies using Rodgers and Knafl’s (2000) conceptual analysis.

Results: Four attributes of awareness were identified: (1) subjective sensations of mental illness, (2) acceptance based on one’s own understanding, (3) the surrounding living environment, and (4) objective self-perception. Four antecedents and four consequences were identified.

Conclusion: Awareness among people with mental disabilities is defined as “The process by which individuals with mental disabilities perceive themselves—including their living environment—from both subjective and objective perspectives, encompassing both physical and mental aspects, based on their own sensibilities.”

Ⅰ. 緒言

近年,日本の精神医療・福祉サービスは,当事者中心のパーソナル・リカバリーを重視しており(千葉,2023山口ら,2016),施策においても精神障害者が自分らしく暮らすことを目指している(厚生労働省,2021).パーソナル・リカバリーは,当事者自身が決めた希望する人生の到達を目指すプロセスである(Leamy et al., 2011Anthony, 1993).パーソナル・リカバリーの過程において,精神障害者は回復可能な自己への「気づき」があり,気づきを経て,回復に向けた取り組みの始まりにつながることが分かっている(Andresen et al., 2003).このことから,精神障害者の「気づき」への着目は,パーソナル・リカバリーを歩む視点になると考えた.

「気づき」について,山鳥(2018)は「意識が正常に働きだしたことの自覚」,斎藤(2024)は「周りの状況や出来事に対して,新たな理解や洞察を得て,ハッとすること」と定義している.つまりは,何らかの契機をもとに得られた結果や内容を示し,より当事者中心の支援を考えるうえで精神障害者の「気づき」の理解が重要となる.

精神障害者の「気づき」は,これまで病識として呼ばれてきており,精神疾患の大きな特徴として自分自身への「気づき」は難しく(福田,2024),病識との関連(池淵,2024)が医学的な視点として取り上げられている.一方,当事者研究やピアサポートという形で,当事者同士の交流を通じて「気づき」を得る取り組みが広がっており(福田,2024),精神疾患に対する「気づき」に限定しない精神障害者の「気づき」に着目する必要があると考えた.

そこで,精神障害者の「気づき」の概念を分析し,定義を明確にすることで,精神障害者が自分らしく暮らしていくために,「気づき」を活かした支援の示唆が得られると考えた.

Ⅱ. 研究目的

精神障害者の「気づき」の概念分析を行い,定義を明らかにする.

Ⅲ. 方法

1. 研究方法

本研究では,概念を動的に捉え,他の学問領域にわたって文献の調査が特徴の一つであるRodgers & Knafl(2000/2023)の概念分析の手法を用いた.精神障害者は,様々なサービスや支援を受ける中で,気づき,その気づきから変化や成長していると推察されることから妥当な概念分析の手法であると考えた.

2. 文献検索方法

検索対象は,看護学ならびに医学,教育学,心理学,文学,社会学,哲学の国内文献とした.「気づき」に該当する英単語は「awareness」「insight」「realization」など複数あるが,「awareness」は自覚や認識,「insight」は洞察力や見識,「realization」は悟るや感得,認識を包含している.それぞれの英単語は異なる意味を含み,解釈が異なることから,今回は精神障害者の「気づき」の概念を明らかにする第一段階として,国内文献に限定することとした.

検索データベースは,医学中央雑誌Web版(Ver.6)(以後,医中誌)およびCiNiiを用いて,2025年11月11日時点で精神障害者の「気づき」を検索した.選定基準は,1)精神障害者が研究対象である,2)精神障害者の「気づき」に関する記述がある,3)文献は査読されたものであるとした.「気づき」には自発的な気づきと周りの状況や出来事による気づきがあり(斎藤,2024山鳥,2018),精神障害者の「気づき」を包括的に捉えるためにいずれの「気づき」も対象とした.また,入院や作業所の通所,プログラムの参加などの精神障害者の置かれた状況は問わず,文献を抽出することとした.

最初に医中誌で,『精神障害者 AND 気づき』と検索した結果54件で,タイトルや抄録をもとに一次スクリーニング,本文をもとに二次スクリーニングを行った結果,対象文献は4件であった.この結果から,本研究は統合失調症や気分障害,依存症など疾患を限定しないため,「精神障害者」から「精神」に変更した結果,対象文献は16件であった.また,精神障害者の「気づき」に関する文献を幅広く検索するために,「気づく」や「気づいた」を検索キーワードに追加した.「気づく」とは「自分のこころの変化を検出するこころの働き」(山鳥,2018)や「今まで意識することはなかった物事について,そこにその物があることや,そのような状態であることを,何かのきっかけで改めて知ること」(山田ら,2020)を意味する動詞に対して,「気づき」は名詞である.このことから,何らかの契機をもとに得られた結果や内容が「気づき」で,何かに対して意識を向ける行為が「気づく」であり,「気づく」行為よって,「気づき」が得られることから,「気づき」には「気づく」という行為を包含すると考えた.なお,「気づいた」は,「気づく」の過去形である.検索キーワードを『精神 AND(気づき OR 気づく OR 気づいた)NOT 実習 NOT 看護学生』とした結果700件以上が該当した.検索結果を絞り込むために,医中誌で抽出された最初の100件を一瞥し,除外キーワードに,「精神看護学」,「認知症」,「母性」,「小児」,「保健師」,「助産師」,「周産期」,「ICU」,「文献検討」,「概念分析」の計10単語を追加して再検索し,対象文献を抽出した.CiNiiで検索する際は同様の検索キーワードを設定した.検索結果として,561件が該当し,一次スクリーニングを行った.一次スクリーニングの際に,研究対象者が,家族や支援者などの精神障害者以外の文献,がんや神経難病などの精神科領域以外の文献を除き,174件が該当した.さらに,二次スクリーニングの際に,精神障害者の「気づき」の記述がない文献の除外,ハンドサーチにて5件を追加した結果,34件を分析対象とした.

3. データ分析方法

精神障害者の「気づき」に注目して対象文献を熟読し,文献ごとに概念を構成する「属性」,概念に先立って生じる要件である「先行要件」,概念が生じた結果としてもたらされる「帰結」に関する記述をコーディングシートにまとめ,データとして抽出した.属性は,精神障害者の「気づき」がどのような形で現れるか,どのような側面が含まれるかの特性や特徴に関するデータを抽出した.また,先行要件は,精神障害者の「気づき」が生じるに至った体験や状況に関するデータを抽出した.そして,帰結は,精神障害者が気づきによって生じた変化や状態に関するデータを抽出した.その後,コード化して類似性や相違性をもとにカテゴリ化して整理した.整理後には概念分析の指導経験のある研究者1名にコードおよびカテゴリをまとめたコーディングシートを確認してもらい,両者が合意するまでコードおよびカテゴリの検討を重ねることで,コードやカテゴリの質の向上に努めた.検討後に分析結果をもとに,本概念を定義した.

また,概念の属性を含む日常の例を示すことで,分析結果の明確化の度合いを高めることから(Rodgers & Knafl, 2000/2023),分析結果をもとにモデルケースを作成した.モデルケースの作成において客観性のある日常の例を示すために,精神科病棟や精神科訪問看護で5年以上の経験のある看護師3名にモデルケースを個別で確認してもらい,3名からそれぞれ了解が得られるまで検討を重ねた.分析過程では概念分析の指導経験のある研究者のスーパーバイズを受け,信頼性および妥当性の確保に努めた.倫理的配慮として,文献の内容を損ないように留意した.

Ⅳ. 結果

以下,結果の記述において対象文献34件を,磯上(2025):[1],木田・宮本(2025):[2],矢吹(2025):[3],中井ら(2024):[4],横山ら(2024):[5],西田・片岡(2023):[6],佐瀬(2022):[7],佐藤(2022):[8],内田・池田(2022):[9],加藤(2021):[10],今野・大森(2021):[11],井上・畦地(2020):[12],小松(2020):[13],小森谷ら(2019):[14],笹木(2019):[15],橋場ら(2018):[16],鈴木ら(2017):[17],笹木(2016):[18],関井ら(2015):[19],藤森・國方(2014):[20],西本(2014):[21],渡邉・國方(2014):[22],池谷(2013):[23],石飛ら(2013):[24],松本ら(2013):[25],前田(2012):[26],坂井・水野(2011):[27],齋(2010):[28],浅井ら(2009):[29],近藤・岩﨑(2009):[30],國方・本田(2009):[31],天谷ら(2008):[32],安保ら(2007):[33],酒井ら(2006):[34]と表記した.

1. 対象文献の概要

対象文献は,2006年~2025年に発刊されていた.また,研究対象者の疾患は,統合失調症が15件[4][6][8][9][11][13][14][17][18][19][21][24][25][29][32],うつ病が2件[15][28],依存症が5件[2][5][7][26][34],摂食障害が2件[1][12],心身症が1件[3],てんかんが1件[10],精神疾患を限定していないものが8件[16][20][22][23][27][30][31][33]であった.そして,研究対象者は,地域で暮らす者が25件[2][3][4][5][6][9][10][11][12][13][15][16][18][19][20][22][23][24][26][27][29][31][32][33][34],入院中の者が8件[1][7][8][14][21][25][28][30],両方の対象が1件[17]であった.

2. 精神障害者の「気づき」の概念分析の結果

対象文献34件から精神障害者の「気づき」は,4つの属性,4つの先行要件,4つの帰結から構成された(図1).なお,カテゴリ【 】,サブカテゴリ〈 〉を用いて示した.

図1  精神障害者の「気づき」の概念図

1) 属性

精神障害者の「気づき」の属性は,【精神疾患への主観的な感覚】【自分なりの理解に基づいた受け入れ】【自身を取り巻く生活環境】【自分自身の客観的な捉え】の4つのカテゴリおよび11のサブカテゴリが生成された(表1).

表1 精神障害者の「気づき」の属性

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献番号
精神疾患への主観的な感覚 精神症状による身体感覚 自分の症状 [1]
アルコールを求める身体の反応 [7]
湧きあがる飲酒欲求 [7]
自覚症状の関係性 [10]
自らの発作 [10]
身体の感覚を通した身体のおかしさ [12]
体調の悪さや身体の無感覚,心と身体が思い通りにならない [12]
得られた身体の感覚を通して必要な体力と知力が病気によって失われる,培われないこと [12]
自分の病状 自分の中に摂食障害の部分と健康な部分があること [1]
自分は大丈夫だと思っていたが,思った以上に精神症状に支配されていたということ [1]
病気の深刻さ [10]
幻聴が治まる [11]
自分の意思通りに食べられずに体重が減っていくのを見ているしかできない自分 [12]
他者がみる自分の身体のイメージが摂食障害者のように痩せているかもしれないこと [12]
精神症状は薬理作用と合わさって,症状の変化への認識や睡眠の評価といった過去の精神症状 [25]
目の前の症状や出来事以外に過去と現在にも目を向ける [25]
ビデオを見て,自分の体験は精神症状であったこと [30]
飲酒による自分の体験 [34]
他者の体験談と自分の体験がよく似ていること [34]
自分なりの
理解に基づいた受け入れ
薬を服用するメリット 薬を飲む意識が強まったり,薬を飲んでいる方が楽であること [8]
内服することで睡眠がとれたり,落ち着けたり,幻聴が少なくなったりするという具体的なメリット [21]
薬を飲む意識が強くなったり,再発率を知ったりすることでの薬のメリット [21]
自分自身に合う治療スタイル 自分に負担がかかってこないような頑張りの加減 [6]
自分にあった断酒活動の楽なスタイル [26]
自分の気持ちを率直に伝えることは自分を大事にすること [28]
自身を取り巻く生活環境 他者からの
関わりの変化
発症時から親の自分に対するかかわり方の肯定的な変化 [24]
親から自分への関わりの変化 [24]
他者の存在 両親もある程度の年齢になると頼るのに限度があること [1]
祖母だけでなく父や母にもわだかまりがあったこと [3]
仲間の存在 [5]
自分自身を受け入れてくれる他者の存在 [15]
作業の間に自分自身の明るい一面や人と関わりたい部分,ユーモアがあること [16]
疾病に影響された自己や他者との関係 [17]
他者の存在 [18]
母という存在が自身の生きがいとなっていること [27]
周囲への視野の広がり 精神疾患の発症後にそれまで関心を示さなかった外界への変化 [18]
生活を楽しむ余裕や張り合いが出てきたこと [29]
退院後,働くことはできないが,生活保護ではお金に余裕がないこと [30]
毎日飲んでいる薬の飲み忘れ [33]
自分自身の
客観的な捉え
自分の置かれた状況 依存の必要のない生き方に自分を変えなくてはならない [5]
当たり前のようにある健康の大切さ [18]
自分自身が焦っていること [19]
自分の悩みのつらさは他の人も同じであった [20]
自分と他者はすべて同じではなく,異なる部分もある [20]
思考の深まりは自己の思考が絶対的なものではなかった [20]
自分の外や時間軸上において自分の位置 [23]
自分の立場の逆転 [24]
病気になった自分は日常生活を維持するためにどうやって生きるかということ [31]
自分自身の傾向 理不尽な態度をとった教員に祖母を重ねてみていたこと [3]
自分の感情 [3]
自身の睡眠状態の傾向 [9]
他者の機嫌の悪さは自分に理由があると考えてしまう傾向 [22]
自分自身の傾向 [28]
自分自身のこれまでの行動様式 [28]
こだわりから抜けられなくなる自分の傾向 [28]
精神障害を過大に評価する傾向や思い込む自分自身の傾向 [32]
自分で見出した価値 対面による自助グループの価値 [2]
ありのままの自分でいていいこと [5]
精神障害者は決してダメな人間ではない [13]
自身の大切にしていること [14]
まずは小さい目標から達成していくこと [14]
過程や取り組むこと自体に意味があるという見方や新たな価値観を得るプロセスの大切さ [18]
自分自身のこれまでの価値観のままではやっていけないこと [28]
自分が失ったと思っている価値の他に多くの異なった価値があること [31]
自分の存在価値 [32]
人の十分の一しかできないことが十分の九できることよりもずっと大切であることが断酒の支えになっていたこと [34]
腑に落ちる感覚 自分のいる状況や自身の状態について腑に落ちる感覚 [23]

 (1)【精神疾患への主観的な感覚】

このカテゴリは,精神障害者が精神疾患によって身体に現れたものを心身の両面から得た感覚であり,〈精神症状による身体感覚〉〈自分の病状〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈精神症状による身体感覚〉は,湧き上がる依存物質への欲求や身体の具合が良くない[7][12],違和感[12],発作や自覚症状[1][10]といった自身の身体に現れた感覚を意味していた.また,〈自分の病状〉は,精神疾患の重症度や深刻さ[1][10][12],自分の症状と健康な部分[1],過去の感覚や行動が精神症状の一つであること[11][25][30][34]を意味していた.

 (2)【自分なりの理解に基づいた受け入れ】

このカテゴリは,精神障害者が薬の服用や療養行動の選択を自分自身の体験や経験から理解したことに基づくものであり,〈薬を服用するメリット〉〈自分自身に合う治療スタイル〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈薬を服用するメリット〉は,心理教育において「薬を飲む意識が強まった」や「薬を飲む方が楽だなと思った」[8]と,看護師との面接後に,「睡眠がとれる」や「幻聴が少なくなった」と具体的な精神科薬の効果の実感による内服への意識の変化[21]という心理教育や看護師との面談を通して,薬の効果を実感して薬物療法を受け入れることを意味していた.また,〈自分自身に合う治療スタイル〉は,自分に負担をかけないように頑張ることの加減[6],断酒活動の楽なスタイル[26]や自分の気持ちを我慢せずに率直に伝えることで自分を大事にする[28]という療養行動の選択において自分自身の理解に基づいていることを意味していた.

 (3)【自身を取り巻く生活環境】

このカテゴリは,精神障害者が家族や同じ精神疾患をもつ当事者と関わる場に身を置くからこそ見えてきた自分自身の周囲の環境であり,〈他者からの関わりの変化〉〈他者の存在〉〈周囲への視野の広がり〉の3つのサブカテゴリで構成されている.〈他者からの関わりの変化〉は,精神疾患の発症時に比べて,親からの関わり方の肯定的な変化[24]を意味していた.また,〈他者の存在〉は,自分を受け入れてくれる母や他者の存在[5][15][18][27],家族全体での関わりの状況[1][3],他者と関わりたい部分[16],精神疾患に影響された自己や他者の関係[17]を意味していた.そして,〈周囲への視野の広がり〉は,精神疾患の発症前に関心を示さなかった外界への変化[18],毎日飲んでいる薬の飲み忘れ[33],生活を楽しむ余裕や張り合いが出てくる[29],生活保護ではお金に余裕がない[30]という生活や周囲の環境に視野が広がることを意味していた.

 (4)【自分自身の客観的な捉え】

このカテゴリは,精神障害者が自分自身の状況や考え方・行動の傾向,自分のできていることを客観的に捉えたものであり,〈自分の置かれた状況〉〈自分自身の傾向〉〈自分で見出した価値〉〈腑に落ちる感覚〉の4つのサブカテゴリで構成されている.〈自分の置かれた状況〉では,これまでの生き方を変えないといけないこと[5]や自分が焦っていること[19],自分の悩みやつらさは他者と同じものもあれば異なる部分もあること,思考の深まりとは自己の思考が絶対的なものではないこと[20],自分の立場や親からの関わりの変化[24],時間軸での自分の位置の確認[23],健康の大切さ[18],これからの日常生活の維持に向けた生き方[31]を意味していた.また,〈自分自身の傾向〉では,自身の思考や感情,行動,精神症状,睡眠状態の傾向[3][9][22][28][32]を意味していた.他に,〈自分で見出した価値〉では,自分にもある存在価値[13][32],目標に向けて小さな目標を立てることや自分の大切にしていること[14],ありのままの自分でいていいこと[5],これまでの価値観では難しいこと[28],過程や取り組むこと自体に意味がある見方や新たな価値観を得ること[2][18][31][34]を意味していた.そして,〈腑に落ちる感覚〉では,周囲との関わりの中で自分の状況や状態に腑に落ちる感覚[23]を意味していた.

2) 先行要件

精神障害者の「気づき」の先行要件は,【精神疾患による心身の変化】【自分をかえりみる】【精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で過ごす】【自分に合う日常生活の形成】の4つのカテゴリおよび10のサブカテゴリが生成された(表2).

表2 精神障害者の「気づき」の先行要件

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献番号
精神疾患による心身の変化 身近な人からの指摘・支援 施設長や仲間と出会い,自身の存在に関心を向けられた [5]
てんかんの前兆のある人の場合,身近な人からの異変の指摘 [10]
てんかんによる意識消失中の様子を家族から聞いた [10]
病気を含めた自分を肯定してくれる夫や家族から病期の重さや発作時の状態を聞き,自分を気遣って心配してくれる様子 [10]
周囲の人と関わる [23]
疾患の発症から親の支援を受けてきた [24]
他者からの指摘 [27]
精神症状による身体の違和感 食べる-食べないに囚われた生活を継続する [12]
ひどい胃のむかつき,常にある倦怠感,無月経などの身体の不調 [12]
自分を追い込む快感や達成感がなくなる [12]
なんとか食べても吐いてしまう状態 [12]
精神疾患を抱えるということ 精神障害者が症状や障害により自身の感覚や感情が鈍麻 [16]
精神疾患になる [18]
現在と過去の症状の違いに目を向けることができはじめる [25]
お酒を飲んでいるときすべてが「どん底体験」 [34]
自分を
かえりみる
自分を
見つめ直す
自分と向き合う [1]
自分を見つめ直す [4]
自己の内面と向き合う [5]
これまでの
振り返り
酒や薬なしに生きていけなかった過去を振り返る [5]
自己分離を十分に体得できていないことを自覚 [22]
自分の性格傾向や行動様式を振り返ること [28]
精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で過ごす 精神疾患をもつ人との対話 自分ができないと思っていたことを実施している精神障害者の生き様に希望をもつ [13]
断酒会仲間の死でこの病気の恐ろしさを知る [26]
ビデオの登場人物が語った症状と自分の体験が同じであった [30]
病気から立ち直ってきた私の話を聞いた人から,「これだけの資源(病気から立ち直った話ができるあなた)は大切だ」と言われた [32]
医療者に自分の体験や思いを語る 看護面接で症状やその背景にある思考について考えていく [1]
精神療法をもとにした診断面接 [3]
自分の気持ちを伝える話し方を教えてもらった病院でのカウンセリングを受けた経験 [23]
自分自身の生きがいの体験や思いを語る [27]
プログラム参加による他者との関わり 自助グループに関するオンラインミーティング [2]
レジリエンスモジュールによる心理教育では,服薬の必要性に関する情報提供・体験の共有を行う [8]
ストレングスマッピングシートを書く [14]
心理教育の参加 [25]
断酒会に参加 [26]
医師や看護師以外に,自分の気持ちを安心して語れる人と場ができ,語る心地良さを実感し,手ごたえを感じたこと [28]
自分に合う日常生活の形成 自分に合った生活の組み立て 幻聴が聞こえる時に冷蔵庫の扉を開ける [11]
退院後の入居費と生活費を計算する [30]
薬の袋の置く場所や捨てるプロセスを決めておく自分なりのルールや癖を決める [33]
継続した通い先での活動 社会の中で活動 [12]
就労移行事業所を継続して通所できている [15]
作品は自身の好きなものを中心に選んで貼る [16]
焦りが症状であることを自覚したり,デイケアは仕事で治療したりする [19]
作業所での作業 [23]
活動的になって色々なことを楽しめる [29]

 (1)【精神疾患による心身の変化】

このカテゴリは,精神障害者が身体の違和感,周囲からの指摘や支援,精神疾患の診断を通して,心身に生じている変化であり,〈身近な人からの指摘・支援〉〈精神症状による身体の違和感〉〈精神疾患を抱えるということ〉の3つのサブカテゴリで構成されている.〈身近な人からの指摘・支援〉では,家族や周囲からの指摘や支援による自覚[10][23][24][27],支援者や同じ精神疾患をもつ者から関心を向けられること[5]を意味していた.また,〈精神症状による身体の違和感〉では,倦怠感や胃のむかつき,まったく動けないなどの身体状態[12]の自覚を意味していた.そして,〈精神疾患を抱えるということ〉では,精神症状[16][18][25]や精神症状によるどん底体験[34]を意味していた.

 (2)【自分をかえりみる】

このカテゴリは,これまでの自分を振り返り,自分と向き合うことであり,〈自分を見つめ直す〉〈これまでの振り返り〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈自分を見つめ直す〉では,精神障害者が自分を見つめ直して[4],自分と向き合うこと[1][5]を意味していた.また,〈これまでの振り返り〉では,飲酒や薬を使用せずにはいられなかった過去[5]や対話の中で自己分離できていない自分[22],これまでの自分の性格傾向や行動様式[28]を振り返ることを意味していた.

 (3)【精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で過ごす】

このカテゴリは,精神障害者が精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で対話やプログラムに参加して過ごすことであり,〈精神疾患をもつ人との対話〉〈医療者に自分の体験や思いを語る〉〈プログラム参加による他者との関わり〉の3つのサブカテゴリで構成されている.〈精神疾患をもつ人との対話〉では,同じ精神疾患をもつ人やピアサポーター[13][32],視聴したビデオで登場した精神障害者[30],断酒会の仲間[26]との対話を意味していた.また,〈医療者に自分の体験や思いを語る〉では,医療者に自分自身の生きがいの体験や思いを語ること[1][3][27]病院でのカウンセリング[23]を意味していた.そして,〈プログラム参加による他者との関わり〉では,心理教育[8][25][28]や自助グループ[2][26],ストレングスマッピングシートの活用[14]のプログラムへの参加を意味していた.

 (4)【自分に合う日常生活の形成】

このカテゴリは,精神障害者が自分に合う習慣や通い先での活動によって,その人自身のライフスタイルを組み立てることであり,〈自分に合った生活の組み立て〉〈継続した通い先での活動〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈自分に合った生活の組み立て〉では,退院後の入居費や生活費を計算したり[30],幻聴が聞こえる時に冷蔵庫の扉を開けたり[11],薬の管理方法で自分なりのルールを決めること[33]を意味していた.また,〈継続した通い先での活動〉では,作業所[15][16][23]やデイケア[19]への通所,外に出て活動すること[12][29]を意味していた.

3) 帰結

精神障害者の「気づき」の帰結は,【精神疾患をもつ自分という存在を認める】【自分に合わせた距離感や行動の調整】【主体性のある回復への歩み】【戸惑いと否認が巡る】の4つのカテゴリおよび8つのサブカテゴリが生成された(表3).

表3 精神障害者の「気づき」の帰結

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献番号
精神疾患をもつ自分という
存在を認める
自分を信じる 自分を前に出せるようになった [16]
自分の可能性を信じていた [32]
自分の存在を社会の中で生かそうと自信や意欲につながっていた [32]
精神疾患を
受け入れる
自分の居場所は生き方を変えていくこの施設以外ない [5]
自分には帰る場所がここしかなく禊の期間であることを受け入れていった [5]
右足のしびれ感といった身体,悲嘆といった気分への自覚 [7]
病気を意識していた [10]
病気であることの認識の深まりが見られた [25]
酒への敗北感 [26]
病気の知識を得て,自分の症状を病気だと認識した [28]
少しずつ自分を受け入れるようになってきた [31]
自分の断酒の可能性を認知していた [34]
自分に合わせた距離感や行動の調整 他者との距離感を掴む 相手と積極的に距離をとることで対処できた [7]
対人関係が円滑になる [21]
自ら対処法を
考える
自ら改善するための方法を考えることができるようになった [9]
対処法や予防策を考えることができた [9]
主体性のある
回復への歩み
新たな視点の獲得 頼れる両親から自立する必要性を感じる [1]
外泊訓練での様子を整理したことで,冷静に現状を捉えられるようになった [1]
自分自身を客観的に捉え直していた [1]
祖母への感情をあらためて認識した [3]
家族を再び悲しませるわけにはいかないと家族への思いを客観的に捉えることができるようになっていった [5]
客観的に自分をみれるようになっている [6]
自己を外側から見るという経験をしていた [20]
物事をみる視点を変化させ,いわゆるメタ認知的な視点を得ていった [20]
何でも自分の責任と感じないように意識できる自己に喜びを感じていた [22]
症状回復の意識をもち,この先の自分のイメージを主体的にもてるようになった [25]
自分自身を肯定的に捉えるきっかけにつながっていた [27]
いずれの者も自分なりに生きがいを感じることができていた [27]
生活の中でのさまざまな出来事に別のとらえ方もあることを知った [28]
これまでの自分とは異なり積極的な関わりがもてる自分になった [31]
自信を取り戻す [34]
回復への一歩を
踏み出す
回復の道を感じつつも将来への不安も出てくる変化がみられた [1]
「症状に支配されている」という感覚に関する点数の減少を前向きに捉えていた [1]
女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する [5]
薬に対する抵抗感が薄れたことで継続することへの意欲が見られた [8]
薬に対する抵抗感が減り,薬を飲むことのメリットの実感につながり,薬に対する前向きな思いに変わった [8]
セルフスティグマへの克服体験への転機 [13]
健常者よりも劣っているという自らに課す偏見を解く [13]
少しずつ回復していく感覚として,外界を感じ取ることができることを健康と思えるようになった [18]
就労への思いの変化 [19]
「気づき」と「否認」を行き戻り,回復のプロセスをたどっていた [26]
体力や気力の限界を知り,自分の行動様式を見直す機会を得ていた [28]
戸惑いと否認が巡る 現状への葛藤や
戸惑い
自立の一歩が生じるが,親からの支援を期待する依存とが混在し,葛藤していた [24]
対処する術がわからず戸惑っていた [28]
身体の異変の否認 身体の異変を認めたくないため否定していた [10]

 (1)【精神疾患をもつ自分という存在を認める】

このカテゴリは,精神障害者が気づきによって自分自身の可能性や精神疾患を抱える自分自身を包括的に捉えて受け入れることであり,〈自分を信じる〉〈精神疾患を受け入れる〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈自分を信じる〉では,自分の可能性を信じること[32]や自分自身を前に出せるようになること[16]を意味していた.また,〈精神疾患を受け入れる〉では,統合失調症やてんかん,物質依存などの精神疾患を意識し,精神疾患であることの認識の深まり[7][10][25][26][28][31][34]や治療の一貫として施設で生きていくことの受け入れ[5]を意味していた.

 (2)【自分に合わせた距離感や行動の調整】

このカテゴリは,精神障害者が気づきによって他者との距離感,対処方法を自分自身に合わせて整えていくことであり,〈他者との距離感を掴む〉〈自ら対処法を考える〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈他者との距離感を掴む〉では,相手と積極的に距離をとって対処でき,対人関係が円滑になること[7][21]を意味していた.また,〈自ら対処法を考える〉では,改善するための対処法や予防策を自ら考えるようになったこと[9]を意味していた.

 (3)【主体性のある回復への歩み】

このカテゴリは,精神障害者が気づきによって新たな捉え方をもとに主体的に回復への過程を歩むことであり,〈新たな視点の獲得〉〈回復への一歩を踏み出す〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈新たな視点の獲得〉では,自身や周囲を客観的にみる経験[1][3][5][6][20][25][27][28][31]や何でも自分の責任と感じないような意識[22],自信を取り戻すこと[34],回復の意識をもつ,生きがいの認識[27]を意味していた.また,〈回復への一歩を踏み出す〉では,外界を感じ取り健康であると思えること[18],就労への思いの変化[19],セルフスティグマの克服[13],自らの行動を振り返り,自身の内面の直視[5]や体力や気力の限界などを知ること[1][28],薬に対する抵抗感が減って継続すること[8],「気づき」と「否認」を行き戻りしつつ回復の過程をたどること[1][26]を意味していた.

 (4)【戸惑いと否認が巡る】

このカテゴリは,精神障害者が気づきによっての戸惑いや気づきの内容を否定することであり,〈現状への葛藤や戸惑い〉〈身体の異変の否認〉の2つのサブカテゴリで構成されている.〈現状への葛藤や戸惑い〉では,自立の一歩を踏み出すことと親への依存の混在による葛藤[24],自身のこだわりに対処する術が分からないこと[28]を意味していた.また,〈身体の異変の否認〉では,周囲からの指摘と自覚症状に関係性があると分かったが,それを認めたくないこと[10]を意味していた.

Ⅴ. 考察

1. 精神障害者の「気づき」の定義

Rodgers & Knafl(2000/2023)の概念分析の方法を用いて,精神障害者の「気づき」の概念分析を行った.その結果,【精神疾患への主観的な感覚】【自分なりの理解に基づいた受け入れ】【自身を取り巻く生活環境】【自分自身の客観的な捉え】の4つ属性が生成された.この結果をもとに,精神障害者の「気づき」を「精神障害者が,自分なりの理解に基づき,生活環境を含めて自分自身を主観的および客観的な視点から心身の両側面で捉えること」と定義した.

2. モデルケース

本概念の理解を深めるために,モデルケースを用いて説明する.

Aさんは,18歳の男性で,部活動での人間関係のトラブルにより軽度の抑うつ状態によって通学が困難になり,高校1年生の時に留年している.復学した際は,クラスメイトと馴染んで学校行事にも参加できていたが,再び部活動での人間関係のトラブルをきっかけに,「誰かが僕の悪口を言っている」と授業中に大声を出すことがあった.しかし,Aさんは,教員や周囲の生徒にはそのような事実がないことを知り,Aさんは誰にも聞こえない声が自分にだけ聞こえる体験に困惑していた.今回の体験を通じて,両親とともに精神科外来に受診したところ,統合失調症と診断された.その後,Aさんは精神科外来に定期通院するが改善がみられず,学業への専念が難しくなり,再び休学して治療の一環として精神科デイケアに通所することとなった.そこで同じ統合失調症を抱える利用者Bさんやデイケアスタッフとの対話を通じて,Aさんは,Bさんが自分と同じ体験をしていることを知り,自分だけではないと実感した.Aさんは,統合失調症と診断を受けた時,統合失調症を抱えた自分を受け入れることが難しく,統合失調症を抱える前の状態までの回復を目指して焦っていた.精神科デイケアに通所する中で,生活リズムを維持し,精神疾患に向き合うBさんの姿を見て,Aさんも治療に励もうと考えるようになった.

Aさんは,周囲の指摘を通じて,自分にしか聞こえない声という【精神疾患による心身の変化】を契機に,これまでの体験も統合失調症による症状であったという【精神疾患への主観的な感覚】に関する気づきを得た.しかし,Aさんは,精神疾患を受け入れることが難しく,当初は【戸惑いと否認が巡る】ような状態であったと考えられる.その後,【精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で過ごす】ことを通して,Aさんは,自分の考え方の傾向や生活を整えることの重要性に頷くようになり,【自分自身の客観的な捉え】をもっていたことに気づいた.この気づきを契機に,Aさんは統合失調症を受け入れるようになり,【精神疾患をもつ自分という存在を認める】ことや,治療に前向きな姿勢となって【主体性のある回復への歩み】に至ったと考えられる.

3. 精神障害者の「気づき」の概念と「気づき」を活かした支援の示唆

精神障害者の「気づき」には,【精神疾患への主観的な感覚】の主観的視点や【自分自身の客観的な捉え】の客観的視点があり,精神障害者の「気づき」の4つの属性は,精神障害者自身を軸に置いた内容であった.パーソナル・リカバリーの要因の一つに,精神障害者自身の主体性が挙げられる(Weeghel et al., 2019).精神障害者の主体性に着目した支援は重要であり(西谷ら,2022田井,2008),精神障害者が主体性をもつことは,自分を軸に置くことを包含し,精神障害者のもつ力を引き出す視点になると考えられる.気づきを得る要素として,自分自身の経験から直接生じるもの,自分にとっての妨げを乗り越える際に必要なものが挙げられ(Michael, 2019),精神障害者自身の経験を主観的および客観的視点から捉えることで,気づきが得られると考えられる.【精神疾患への主観的な感覚】は,自分自身に気づきにくく,思考や行動に影響を与える精神疾患特有のものであると考えられる.また,【自分自身の客観的な捉え】を構成するサブカテゴリ〈自分で見出した価値〉は,精神障害への偏見によって,自分自身への価値の喪失が影響している可能性のある精神障害者の「気づき」であると考えられる.一方で,精神障害者の「気づき」は,精神障害者以外の他の対象にも共通するものもあると考えられる.例えば,【自分自身の客観的な捉え】を構成するサブカテゴリ〈自分の置かれた状況〉や〈自分自身の傾向〉では,ある出来事や他者との関わりなどの契機から,自分自身の状況や考え方,行動の傾向に関する気づきを得ることは精神疾患だけでなく,他の疾患や疾患の有無に問わないものと推察される.他に,気づきによって【自分に合わせた距離感や行動の調整】も自分に合う他者との距離感や行動を模索し,自分自身が良いと思える形への調整も精神疾患だけでなく,他の疾患や疾患の有無に問わないものと推察される.

概念分析を通じて,精神障害者は気づきを経て,【精神疾患をもつ自分という存在を認める】ことや,【自分に合わせた距離感や行動の調整】ができ,【主体性のある回復への歩み】を体験していた.これら3つの帰結から,精神障害者は気づきを経て,自己理解を深め,精神疾患をもつ自分を受け入れ,自分にとってちょうどいい感覚に焦点を当てられるようになると考えられる.一方で,精神障害者は,精神疾患を抱えることが生きる上での妨げになり,周囲に知られたくない思いをもつこともある(栗原・中林,2024).このことから,精神障害者は,自分の抱える精神疾患の受け入れが難しく,将来へ焦燥感をもつような背景があるからこそ【戸惑いと否認が巡る】と考えられる.これは,精神障害への差別や偏見が課題である背景をもとに(厚生労働省,2021),「低い自己認知」や「精神障害への否認」を経験して,セルフスティグマをもたらしていたこと(西澤・川村,2023)が要因の一つと推察される.精神障害への偏見は,世界共通の課題であるが(World Health Organization, 2021),地域を基盤とする支援への移行(福井,2013)や,精神障害者の権利擁護が手厚い諸外国の取り組みによって(佐竹,2021),精神障害への偏見の状況が異なる可能性がある.また,精神障害者は気づきを経て,【戸惑いと否認が巡る】ことがあっても,【自分をかえりみる】ことや【精神疾患をもつ人や医療者と同じ場で過ごす】ことで,【自分なりの理解に基づいた受け入れ】や【自分自身の客観的な捉え】として自分に軸を置き,気づきにつながると考えられる.このことから,精神障害者の「気づき」は,一回ごとに終わらず,新たな気づきにつながる一面もあることが示唆された.

以上より,精神障害者の「気づき」は,精神障害者自らが,自分を軸に置く機会となり,気づきを通して自己理解の機会になりうることが分かった.精神障害者の「気づき」を活用した実践では,精神障害者の主観的および客観的な視点が重要であると考えられる.気づきは,自分の話を客観視できると生まれやすく(斎藤,2024),精神障害者が,主観的視点ではどのような感覚をもっているのか,客観的視点ではその感覚をどのように捉えているのかを一緒に振り返ることで気づきを得やすくなると考えられる.また,気づきは個人的なプロセスであるが,気づきを人為的に作り出せること(上田,2024)からも,気づきの契機として,適切な情報や精神障害者が振り返ることができる場の提供も気づきを得るための支援になると考えられる.Lysaker et al.(2011)は,自身の思考や感情に気づく能力こそが,自分自身の内部の状態や異常な知覚体験を病気に関連する症状として認識し,自分の状態をラベル付けるために不可欠であると述べている.この気づきが自己理解を深め,〈新たな視点の獲得〉をし,精神障害者は目標設定や自分らしさを見出すことができると考えられる.結果として,精神障害者の【主体性のある回復への歩み】が,パーソナル・リカバリーのプロセスが進むと推察される.

今回得られた精神障害者の「気づき」の概念の属性には,精神障害者の主観的視点および客観的視点,自身を取り巻く環境が含まれていた.これらをもとに指標を作成することで,精神障害者の「気づき」の言語化や,支援プログラム開発の一助になると考える.そして,気づきには心理的,社会的,文化的側面があり(Konstantakopoulos, 2019),それぞれの視点を考慮した支援の検討も重要であると考えられる.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究では精神障害者の「気づき」の概念を明らかにする第一段階として対象文献を国内の研究論文に限定したことで,解釈上の偏りの可能性,当事者自身の語りを直接扱いきれていないことが挙げられる.

今後の課題は,概念分析で得られた属性をキーワードとした海外文献の選出および精神障害者の体験記も対象文献とすることで,精神障害者の「気づき」への理解をさらに深めることができると考えられる.

Ⅶ. 結論

本研究では,国内文献34件をもとに,Rodgers & Knafl(2000/2023)の概念分析法を用いて精神障害者の「気づき」の概念分析を行った結果,精神障害者の「気づき」を「精神障害者が,自分なりの理解に基づき,生活環境を含めて自分自身を主観的および客観的な視点から心身の両側面で捉えること」と定義した.

精神障害者の「気づき」は,精神障害者が自分を軸に置く機会となり,気づき自体が自己理解を深める機会になると分かった.また,気づきは,精神障害者にとって自分を受け入れ,前向きな姿勢を示すことがあれば,否定的な見解を示すこともあるが,そこから新たな気づきを得ることもあることが示唆された.

付記:本稿の一部は,日本精神障害者リハビリテーション学会第32回札幌大会にて発表した.

謝辞:本研究は,科学研究費助成事業 基盤研究C(25K13959)の助成を受けて実施したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:本研究では,NYが研究のデザイン,データ収集と分析,論文作成を行い,KMは研究プロセス全体への助言を行った.両名の著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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