日本看護科学会誌
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原著
新卒看護師が活用する自己調整学習方略
米島 望水田 真由美岩根 直美坂本 由希子
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2026 年 46 巻 p. 461-471

詳細
Abstract

目的:新卒看護師がどのような自己調整学習方略を活用しているのかを明らかにする.

方法:新卒看護師12名を対象に半構造的面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:新卒看護師は【実現可能な目標設定】【優先すべき課題のプランニング】【看護実践準備のための知識獲得】【目的に応じた人的資源の活用】【実践における試行錯誤を通じた自己研鑽】【リフレクションによる達成状況評価】【学習継続への意欲の維持】の7つの自己調整学習方略を活用していた.

結論:新卒看護師は慣れない環境下において目標達成していくために,目標設定と達成状況評価を行い,優先すべき課題のプランニングと知識獲得や人的資源の活用および試行錯誤を通じた自己研鑽による実践経験の蓄積などの学習方略に加え,学習意欲維持のため様々な方略を活用していた.新卒看護師は限定的かつ効率を重視した自己調整学習方略を活用していることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the self-regulated learning strategies used by new graduate nurses.

Method: Semi-structured interviews were conducted with 12 new graduate nurses working in hospitals in Japan, and the results were analyzed using a qualitative descriptive approach.

Results: New graduate nurses used seven self-regulated learning strategies, namely [setting achievable goals], [planning priority tasks], [acquiring essential knowledge to prepare for nursing practice], [utilizing human resources based on purpose], [achieving self-improvement through trial and error in practice], [evaluating progress through reflection], and [maintaining motivation to continue learning].

Conclusion: New graduate nurses employed various learning strategies to achieve their goals in an unfamiliar environment, including goal setting and achievement evaluation, and accumulating practical experience through prioritization of tasks, knowledge acquisition, effective use of human resources, and self-improvement through trial and error. Additionally, they utilized strategies to maintain their motivation to learn. The self-regulated learning strategies of new graduate nurses were found to be limited but efficient.

Ⅰ. 緒言

医療の高度化・複雑化に伴い,看護師には生涯にわたる継続的な学習が求められる.特に新卒看護師は,カリキュラムに沿って学習する看護基礎教育から多忙で予測困難な臨床現場への移行に際し,理想と現実のギャップに直面する.この急激な変化はKramer(1974)が提唱したリアリティ・ショックを招きやすく,適性や看護実践能力への不安から早期離職に至る原因となっている(日本看護協会,2025).これに対し,卒後臨床研修の努力義務化など,組織的な支援体制は整備されてきたが,状況が変化し続ける臨床現場では,他者に依存せず,自律的に学習する能力の獲得が不可欠である.

自律的な学習を支える概念として,自己調整学習がある.これは学習者が自らの学習プロセスにおいてメタ認知,動機づけ,行動を能動的にコントロールし,効果的な学習成果をもたらすものである(Zimmerman, 1989).Zimmermanの循環的段階モデルによれば,予見段階での目標設定や動機づけは,遂行段階における学習方略の使用に影響し,学習方略は目標と結果の橋渡しをする役割を担う(塚野,2012).そして,自己省察段階での評価が次のサイクルの動機づけへと循環する.自己調整のできる人は積極的に目標を設定し,この自己調整サイクルを動的に機能させて学習の質を規定する(Zimmerman & Schunk, 2011/2014).本邦でも,学校段階が上がるにつれて抽象的な方略からより高度な自己調整的方略を獲得し(藤田・岩田,2001伊藤,1996伊藤,2002),動機づけと連動しながら自律性を高めていくことが示されている(伊藤,2009).看護教育では看護学生を対象とした実習における自己調整学習方略尺度(Iyama & Maeda, 2018)などが開発されている.しかし,教員や実習指導者の支援のもと特定の患者を受け持つ学生時代とは異なり,新卒看護師は多重課題や不規則な勤務など,より複雑で切迫した環境下で学習を調整する必要がある.そのため,新卒看護師がいかに臨床現場で自己調整を図り,学習を進めているのか,その実態は明らかではない.

このように,自己調整学習は大学生までの研究が中心であるが,新卒看護師が直面する臨床現場では即応力が求められる.Benner(2001)は,初心者の特徴として,状況を全体的に把握できず,ルールに依存することを指摘している.経験の乏しい新卒看護師が,未経験の状況下で自らの知識不足を認識し,主体的に学習行動を見出すには,自己調整学習能力が不可欠となる.すなわち,自己調整学習は経験の少なさを補完し,複雑な臨床状況において「行為の中の省察」(Schon, 1983)を機能させ,自律的な学習を推進する.この能力による課題の克服は,看護専門職としての成長を支える重要な要素である.しかし,Kuiper(2002)は新卒看護師のリフレクションが現状の技術や能力への関心に留まることを示しており,熟練看護師のような高度な学習方略の活用は困難と予想される.新卒看護師が不慣れな臨床現場でどのような方略を活用しているのか,その詳細は明らかにされていない.したがって,新卒看護師が活用する自己調整学習方略の具体的内容を解明することは,自律した新卒看護師の教育的支援において不可欠である.

Ⅱ. 目的

新卒看護師がどのような自己調整学習方略を活用しているのかを明らかにする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

研究デザインは質的記述的研究デザインとした.本研究は新卒看護師の体験による語りから目標達成に向けて用いた自己調整学習方略を捉えるため,出来事やプロセス,あるいは人間の経験の記述に適しているグレッグ(2016)の質的記述的研究デザインを参考にした.

2. 用語の定義

新卒看護師:看護基礎教育機関卒業後,1年未満の看護師

自己調整学習方略:学習者が自らの目標達成に向けて,学習を効果的に進めるために能動的に用いる認知過程,学習行動,学習環境及び学習への動機づけを自己調整する方略

3. 研究対象者

研究対象者はA病院に勤務する新卒看護師12名とした.本研究では,学生から看護師へと移行する社会人1年目特有の厳しい環境下において,どのように自己調整学習方略を活用しているのかを明確に捉えるため,既に社会人としての経験やそれに伴う対処行動を獲得している可能性のある,他の職業経験を有する者は除外した.サンプルサイズについて,新卒看護師という等質な研究対象においては6~8人のデータ単位が必要で,異質な研究対象者では12~20人が必要とされている(Holloway & Wheeler, 2002/2006).新卒看護師は等質な研究対象ではあるが,異なる所属であることから12名をインタビュー対象とした.

4. データ収集期間

2024年3月

5. データ収集方法

対象者のリクルートは,A病院看護部長の承諾後,各病棟師長に研究目的と選定基準を説明し,対象候補者への説明用紙の配布を依頼した.自由意思を担保するため,協力の申し出は候補者自らが申込用紙を研究者へ直接返送する方法とした.申込用紙を返送した対象者に対して研究説明を行い,同意が得られた参加者に対し,1名約60分の半構成的面接を1回行いデータ収集した.分析段階で疑問が生じた際は改めて参加者に連絡をとって内容を確認した.了承を得てICレコーダーで録音し逐語録を作成した.面接は全て対面で行い,参加者の勤務病棟から離れた個室を確保してプライバシーの保護に十分配慮した.

6. インタビュー内容

インタビュー内容は以下の通りである.本研究の目的は自己調整学習方略を明らかにすることであるが,方略はメタ認知・動機づけ・行動と連動し,予見・遂行・自己省察という自己調整の循環的プロセスで機能する(伊藤,2009).そのため,方略を断片的に問わず,循環的段階モデルに基づきプロセス全体をたどる構成とした.これにより,各段階で活用する具体的方略を文脈とともに網羅的かつ深く抽出できると考えた.

また,自己調整学習方略という用語は普段聞きなれない用語のため,先に用語の定義を説明した.さらに,質問に対する回答が広く浅いものになることを防ぐため,実際の臨床場面での具体的なエピソードを想起してもらい,「その時具体的にどう行動したか」「なぜそう考えたか」などと深掘りを行い,方略の実態を詳細に語ってもらえるよう半構成的にインタビューを実施した.

1)属性についての質問:年齢,所属部署,卒業した教育機関

2)目標達成に向けて活用している自己調整学習方略

(1)あなたは仕事をする上で目標にしていることはありますか.(予見段階における方略:目標設定,学習への動機づけをいかに高めているか 等)

(2)日頃目標達成するために,どのような工夫をしていますか.(遂行段階における方略:実際の認知過程,学習行動,環境調整などの具体的な学習方略)

(3)目標を達成するために一番大切だと思うことは何ですか.(自己省察段階における方略:自己評価,原因帰属,次の学習へ向けたメタ認知的な調整方略 等)

7. 分析方法

得られたデータは,グレッグ(2016)の質的記述的研究の分析手法により分析した.逐語録のデータを熟読し,新卒看護師が活用する自己調整学習方略について意味のあるまとまりでコード化した.コードを相違点,共通点について比較することによって分類し,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度を上げ分類した.分析に偏りが生じないよう共同研究者間でコード化,カテゴリー化,ネーミングについて,解釈の不一致がなくなるまで検討を重ねた.研究者間のディスカッションについてはデータで記録を残し,研究の分析過程をたどれるようにした.分析過程において質的研究者からスーパーバイズを受けた他,メンバーチェッキングとして研究参加者3名からの意見を反映させ分析結果の厳密性を確保した.

Ⅳ. 倫理的配慮

対象者に研究の趣旨及び参加は自由意思であり参加の可否により不利益を被ることがなく,個人は特定されないこと,調査結果については研究以外の目的に使用しないこと,データの取り扱いについてプライバシーの保護に十分配慮すること等を口頭及び文書で説明し,文書にて同意を得た.面接の日時は参加者の希望に沿って調整し,インタビューへの参加による負担を最小限にとどめるよう配慮した.インタビュー開始前には,答えたくない質問や答えにくい質問があれば,答えなくても良いことや体調不良時はいつでも中断できること,中断に伴う不利益は生じないためすぐに申し出るよう説明した上で実施した.本研究は所属大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:4060).

Ⅴ. 結果

1. 対象者の基本属性

研究参加に同意が得られた12名のデータを分析した.参加者は平均年齢22.5歳,所属部署は内科5名,外科6名,その他1名であった.卒業した教育機関は,大学7名,専修学校5名であった.インタビュー時間は平均50分であった(表1).

表1 基本属性

参加者 年齢 所属部署 卒業した
教育機関
インタビュー
時間
A 22歳 内科系 専修学校 43分
B 22歳 内科系 大学 85分
C 22歳 内科系 大学 46分
D 23歳 外科系 大学 49分
E 23歳 外科系 大学 43分
F 23歳 内科系 大学 81分
G 23歳 その他 大学 71分
H 23歳 外科系 専修学校 46分
I 22歳 外科系 専修学校 42分
J 22歳 内科系 専修学校 43分
K 22歳 外科系 専修学校 53分
L 23歳 外科系 大学 42分

2. 分析結果

新卒看護師が活用している自己調整学習方略に関するインタビューから,362のコードを抽出した.コードを質的記述的に分析した結果,7つのカテゴリー,32のサブカテゴリーが生成された(表2).以下,カテゴリーごとに結果を記述する.なお,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,コードを「 」,参加者の語りを「斜体」,研究者が補足した部分を( )で示す.なお,語りの末尾にコード番号を示す.

表2 新卒看護師が活用する自己調整学習方略のカテゴリー

カテゴリー サブカテゴリー コード例
実現可能な
目標設定
なりたい自分の認識による目標のイメージ化 ・漠然とした目標が患者と接していくうちに明確になりなりたい看護師像が定まった(D6)
・自分の入院経験で看護師の優しさを感じその人を理想の看護師像として働いている(K3)
・チューターが患者と密に関わっている姿を見て私もそうなりたいと思った(L2)
目標の自己設定 ・1年目だから仕事内容を覚えて社会人として働けるようにすることを目標にしている(A1)
・患者の不安軽減のため傍で話を聞ける看護師になることを目標にしている(E1)
・患者や職場の人に対する自分の発言や行動に責任をもつことを目標にしている(H1)
目標の受動的設定 ・チューターからの助言で次の目標を見出せた(B9)
・病棟の技術チェックリストを見て達成すべき目標だと認識した(I49)
・チューターに言われ続けた優先順位と効率の良さが自分の目標になった(J4)
実現可能性を考慮した目標の具体化 ・憧れの先輩の行動を分析しどうすれば自分も近づくことができるか具体的に考える(A4)
・目標は高すぎず努力すれば手に届くようなものを意識して決める(A55)
・頼られる看護師になるため関わり方とアセスメント力の課題を明確にする(L21)
長期目標達成のための
短期目標の設定
・長期目標達成に向けて朝の情報収集後に「その日の目標」を考えている(B4)
・長期目標達成のため知識やコミュニケーション等の短期目標を立てて意識した(D2)
・目標が遠いと諦めてしまうため短期目標としてコンスタントに次の目標を考える(I38)
優先すべき課題のプランニング 課題の優先順位づけと先送りの判断 ・計画していたスケジュールが崩れたときは落ち着いて優先順位を考える(A10)
・期限が明確な課題を優先し期限がない課題は後に回す判断をする(I19)
・眠いときは寝て朝早く起きるなど実行のタイミングを判断する(J41)
モチベーションに合わせた計画の推進 ・仕事後の学習は時間が限られているため,計画せず気分で実行を決める(F67)
・落ち込んで辛いときは「今日は余裕がない」と直感的に勉強を諦める(G58)
・時間があるときや「やろうかな」と思ったときにだけ学習計画を実行する(L44)
最低限すべき課題の限定 ・疲れて寝たい時でも「これだけはやる」と決めて必ず取り組む(A53)
・勉強量が多く手につかないときでも経験予定の技術の予習だけは取り組む(F19)
・精神的に落ちているときには致命的なミスの回避を最低目標にして取り組む(G55)
課題をやらざるを得ない状況の設定 ・他の課題を全て終えて後回しにした課題しか残らない状況を意図的に作る(C16)
・やるべきことを後回しにするときもやらざるを得ない状況に身を置いて取り組む(E27)
・期限が迫ってやらざるを得ない状況を作り勢いでレポートに取り組む(E28)
看護実践準備のための知識獲得 予習による看護実践への準備 ・経験できる機会が少ない技術はリスクを避けられるよう事前に勉強する(F21)
・慣れないことには時間がかかるためできる準備は早めにしておく(G19)
・疾患理解のため病棟勉強会や院内外の研修に進んで参加する(L40)
学習ツール活用による
疑問解決
・職場教材に加えインターネット上の動画やイラストで物品や手順を覚える(F23)
・技術習得へに向けて院内の看護手順等の教材を用いて自己学習する(G11)
・オンライン学習ツールで準備物品や手順動画を見て予習する(I7)
疑問解決への追及による
知識獲得
・助言をもらったことは再度自分でも調べて深く考える(A21)
・疑問があればなぜそうする方が良いのかと一歩踏み込んで考える(G9)
・疑問は分かるまでとことん調べ知識を頭に入れて自分の中で深める(K44)
覚え書きの整理による
記憶定着
・覚えておくべきことはメモに残し知識を定着させる(B86)
・書き込み過ぎて頭に入らないときは別ノートに書き写し頭の整理をする(G28)
・分からないことはまず調べて小さいノートにまとめいつでも見られるようにする(J24)
目的に応じた
人的資源の活用
他者への表出による思考の整理 ・落ち込んだときは思いを口に出し先輩や家族に聞いてもらい悩みに気づく(C9)
・感情が手に負えないときはうまく言えなくても口に出して誰かに聞いてもらう(C23)
・経験したことの整理のために他者に話してアウトプットし新たな気づきを得る(C42)
同期との比較による自己課題の発見 ・目標達成のために同期がどう取り組んでいるか相談して参考にする(E11)
・課題把握が難しいときは課題を書き出して同期に確認する(I31)
・同期と進捗状況を話し合い自分の未達成課題を把握する(J48)
課題解決のための先輩看護師との対話を通じた援助活用 ・分からない時は先輩に聞いて自分だけで判断しないようにする(B84)
・不明点は朝の情報共有時やチューターに個人的に連絡して聞く(G3)
・自分で悩むだけでは解決しないので先輩に相談して解決を図る(J28)
課題解決に有効な相談相手の選択 ・抱えている課題の解決に最もふさわしい人を選んで相談する(C43)
・辛いときには一番自分の話を聞いてくれる恋人や友達に相談する(F66)
・答えを知っていて否定しない優しい先輩を選んで質問する(G24)
ロールモデル行動の選択的模倣 ・複数の指導を比べ全ての言葉を鵜呑みにせず必要な指導を区別する(C33)
・自分がうまく関われない患者が先輩と話すときにその会話方法をこっそり覗く(H13)
・様々な先輩を見て方法や接し方を吸収し良いところだけ取り入れる(K43)
実践における
試行錯誤を通じた自己研鑽
蓄積した知識や経験の意図的活用 ・蓄積した知識を実践で試用し患者に合っているか考える(G10)
・先輩の教えを実践しうまくいったら次に活かす(L27)
・研修で得た知識を元に患者の注意すべき点をみてみようと思う(L41)
自己発信による実践経験の機会確保 ・未修得技術を他の看護師に伝えておくことで実施の機会を得やすくする(B34)
・機会が少ない技術は見学や実施させてもらえるよう先輩に声をかける(F22)
・習得したい技術を一つ選び朝の申し送りで発表する(I10)
試行錯誤と反復学習の実践による経験値の蓄積 ・一つずつ方法を実践し難しいときは他の方法を試す(G13)
・報連相を試行し指導を受け修正するという繰り返しで学習する(H26)
・やってみてうまくいかないときは違う計画を組み立てる(K41)
リフレクションによる達成状況評価 リフレクションによる課題の把握 ・自分の行動や考え方を反省し患者をきちんと見ることができていないことに気づく(C7)
・患者のタイミングを見て訪室すべきであると振り返り行動を修正する(G2)
・できなかったことを振り返りどうすればうまくいくか考える(K42)
他者評価による目標の
達成状況の把握
・自分だけでは自分のことが分からないから他者の客観的な意見を聞く(B62)
・できていないことに目が行くため他者からできていることを伝えてもらう(C53)
・最初は先輩との振り返りで自分に不足していたことを考えられた(L5)
患者の反応による目標の
達成状況評価
・自分で考えた関わり方を実践し患者の反応を見て目標達成度を評価する(G44)
・明確な期限はないが患者の反応で自分の行動の評価を得る(G45)
・退院時に患者に名前を覚えてもらい信頼関係を築けたと感じる(L12)
ゆとりのある環境下での
軌道修正
・辛さの原因を回避することで自分の強みが見えるようになる(C30)
・プレッシャーが少ない状況で振り返ることで次の仕事に向けた前向きな修正ができる(G43)
・仕事に慣れて余裕がでてきたときに目標達成に向けた取り組みを再考する(L8)
学習継続への
意欲の維持
初心を思い出すことによる学習意欲の再燃 ・研修で短期目標を思い出して改めて頑張ろうと思う(D4)
・辛いことがあっても看護師になったきっかけを振り返り頑張ろうと思う(D36)
・ミスを思い返すとくよくよするが目標を思い返すことでやる気が出てくる(K15)
同期との連帯感による
学習意欲の維持
・同期と話すことで自分だけじゃないと思え知識を増やそうと思える(A31)
・自分では思いつかないことを考える同期に刺激をもらい一緒に頑張る(H16)
・同期が頑張っているところを見たら自分も頑張れる(L18)
成長の実感による自信の獲得 ・患者や先輩など他者から肯定的な評価をもらいもっと頑張ろうと思えた(D31)
・自分で考えた患者に合う方法がうまくいき自分でもできるという自信を持つ(G39)
・患者や家族から感謝してもらったことがやりがいになり頑張ろうと思う(J33)
否定的側面からの学習の発起 ・きつく言われて辞めるのが悔しく逃げたくないと思い頑張る(C46)
・失敗したことは次は絶対しないという気持ちで取り組み辛さを乗り越える(D19)
・くよくよした気持ちが落ち着き次は失敗しないよう勉強に気持ちが傾く(K17)
他者への迷惑回避による
学習との対峙
・就職後の目標は患者や職場に影響するためより頑張らないといけない(D44)
・親身なチューターに迷惑をかけたくないと思い頑張りたい(I43)
・前回の患者にできなかったことは次の患者にできるよう頑張る(L11)
「なんとかなる」自己教示 ・目標達成できたか不明だが何とかなるものは何とかなると思う(B79)
・疲れて頭が働かないときはエナジードリンクを飲み大丈夫だと自己暗示をかける(E25)
・未習得技術は急がず機会があればやれたら良いと楽観的に考える(F69)
学習意欲維持のための心身の休養 ・心身を休めるために休日に意図的に予定を入れず何もしない日を作る(C47)
・好きなことをしてリフレッシュする時間をとりオンオフを切り替える(D29)
・不安で体調を崩し「このままではダメ」と好きなことをして心身を休める(I35)

※コード末尾にコード番号を示す

1) 実現可能な目標設定

このカテゴリーは新卒看護師が自分の目標を見つけ目標達成に向けて実現可能性を模索する方略であり,〈なりたい自分の認識による目標のイメージ化〉〈目標の自己設定〉〈目標の受動的設定〉〈実現可能性を考慮した目標の具体化〉〈長期目標達成のための短期目標の設定〉の5つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は「高校生のときに入院したことがあって,(中略)看護師ってこんなに優しいんだ,すごいなって思ったのが一番初めで.(中略)こんなふうになりたいと思ってずっとその人を理想の看護師像として働いてる感じです.(K3)」のように自分自身の経験や理想像に基づき目標をイメージ化して目標を構築し,自ら設定が難しい場合は他者の助言やチェックリストを通じた受動的な設定も行っていた.また,目標達成に向け,実現可能な目標を具体化し,「短期目標がすごい大事かなと思います.目標までが遠過ぎると途中で『もういいや』って投げ出してしまうことがあって.コンスタントに目標があると『これはできた,じゃあ次どうしよう』って考えられるかなって.(I38)」のように,目標までを構造化することで,着実な達成を目指して短期目標を能動的に設定していた.

2) 優先すべき課題のプランニング

このカテゴリーは新卒看護師が目標達成に向けて優先すべき課題を明確にし,自身の心理的・環境的条件に合わせて学習行動を調整するための具体的な方略であり,〈課題の優先順位づけと先送りの判断〉〈モチベーションに合わせた計画の推進〉〈最低限すべき課題の限定〉〈課題をやらざるを得ない状況の設定〉の4つのサブカテゴリーで構成された.

新卒看護師は抱えている学習課題に対してすぐに取りかかるかどうか〈課題の優先順位づけと先送りの判断〉をして,自身の〈モチベーションに合わせた計画の推進〉を図っていた.さらに,疲労や意欲低下といった内的要因に学習が左右されないよう,行動を調整していた.また「いくつかのことを調べようと思って帰っても,疲れて眠たくてもう寝たいとかって思うこともあるんで,そのときはこれだけは調べようって決めて調べて.(A53)」のように〈最低限すべき課題の限定〉を行うことで,学習の停滞を防いでいた.後回しになりがちな課題に対しては,「やりたくないから後回しにするじゃないですか.他にやりたいこととかがあるってことじゃないですか.そっちを全部終わらせて(中略)もうそれしかすることがないっていう状態に先に持っていってしまいます.(C16)」のように,意図的に学習環境を調整し,学習への強制的な取り組みを実行していた.

3) 看護実践準備のための知識獲得

このカテゴリーは新卒看護師が看護実践の準備として,知識の獲得および記憶の定着を目的とした学習方略であり,〈予習による看護実践への準備〉〈学習ツール活用による疑問解決〉〈疑問解決への追及による知識獲得〉〈覚え書きの整理による記憶定着〉の4つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は日々の覚え書きを整理し記憶を定着させるといった学習方略に加え,「輸血の実施の機会がなくて,でも勉強はしておかないとさすがに副作用出たらやばいなって(中略),手順とか業務的なことも分かっておかないとダメだなと思って.動画(の不要な部分)は早送りできないけどとりあえず,2つのウェブサイトを見ながら物と名前覚えて,手順を大体把握して.(F23)」のように,経験機会の少なさから生じる不安を解消するため,インターネット上の動画等の学習ツールを活用し疑問解決を通して予習していた.さらに,「自分が疑問に思ったときに分かるまでとことん調べるほうが(中略)ただ単に疾患の勉強をするより,日々の疑問を解消していくほうが一番知識としては深まってるんじゃないかなって.(K44)」のように,疑問を放置せず解決に向けて追及することで,看護実践に必要不可欠な知識の深化を図っていた.

4) 目的に応じた人的資源の活用

このカテゴリーは新卒看護師が達成したい目標や学習課題に応じて人的資源を活用する方略であり,〈他者への表出による思考の整理〉〈同期との比較による自己課題の発見〉〈課題解決のための先輩看護師との対話を通じた援助活用〉〈課題解決に有効な相談相手の選択〉〈ロールモデル行動の選択的模倣〉の5つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は,先輩看護師への直接的な援助要請だけでなく,「頭の整理をしっかりしていくっていうのをやってます.友達とか家族とか喋ってる中で整理したことをアウトプットして,さらに他の人に意見をもらって『そうか』と気付くことや考えが進むこともいっぱいある.(C42)」のように,抱えている課題や考えを言葉にして他者に伝え,その対話を通じて思考を整理し,自己課題を見出すために人的資源を活用していた.また,抱える課題の内容に応じて,課題解決に有効な相談相手を選択し,具体的な援助要請を行っていた.さらに,「色々な先輩を見て,色々なやり方,接し方っていうのを吸収して,その中でいいところだけをもらうみたいな感じでやってます.(K43)」のように,ロールモデルを見つけて良いと感じた行動を選択して模倣し,自身の看護実践に活かすための学習方略としていた.

5) 実践における試行錯誤を通じた自己研鑽

このカテゴリーは新卒看護師がこれまでに獲得した知識や技術を臨床実践の場において適用し,試行錯誤を通じて熟練度を高めることを目的とした方略であり,〈蓄積した知識や経験の意図的活用〉〈自己発信による実践経験の機会確保〉〈試行錯誤と反復学習の実践による経験値の蓄積〉の3つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は,「ためた知識は病棟で使ってみて(中略)その子にあってるかどうかやってみます.(G10)」のように,学習により蓄積した知識や経験を意図的に活用し,うまくいかない場合は別の方法を試すといった試行錯誤と反復学習の実践を行い,経験値を蓄積していた.この試行錯誤のプロセスを可能にするには実践の機会が不可欠であり,「(先輩から単独での実施について)OKもらえてない技術って経験する機会が少ない技術が多いから(中略)せっかくの機会を逃したらOKをもらえない.何の技術ができてないとか(自分から)皆に言うの大事だなって思う.(B34)」のように,実践経験が少ない課題について自ら周囲に発信し,積極的に機会確保に向けて行動していた.

6) リフレクションによる達成状況評価

このカテゴリーは新卒看護師が自分自身の目標の達成状況を評価するための方略であり,〈リフレクションによる課題の把握〉〈他者評価による目標の達成状況の把握〉〈患者の反応による目標の達成状況評価〉〈ゆとりのある環境下での軌道修正〉の4つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は,自分自身での内省を基本としつつ,他者からのフィードバックや客観的な情報を活用して達成状況を評価していた.「自分のちょっとした行動とか(中略)なんで自分はそう考えてしまったんだろとかいうのを反省して(中略)それを考えてるうちに多分気付いていった.(C7)」のように,自らの行動や思考を批判的に振り返ることで,次なる課題を明確にしていた.また,リフレクションの質を高めるための重要な方略として,「不安が減ってくると看護技術の実施に対して“大丈夫かな”じゃなくて“大丈夫だと思えるにしよう”と,心の余裕ができてきて,目を向ける視野が広がってきた気がします.(中略)(G43)」のように,プレッシャーや不安を軽減することで,心にゆとりをもって達成状況を俯瞰し,その結果,具体的な行動計画や設定した目標そのものの軌道修正へとつなげていた.

7) 学習継続への意欲の維持

このカテゴリーは新卒看護師が学習を継続するための意欲の維持・向上に関する方略であり,〈初心を思い出すことによる学習意欲の再燃〉〈同期との連帯感による学習意欲の維持〉〈成長の実感による自信の獲得〉〈否定的側面からの学習の発起〉〈他者への迷惑回避による学習との対峙〉〈「なんとかなる」自己教示〉〈学習意欲維持のための心身の休養〉の7つのサブカテゴリーで構成された.新卒看護師は,初心を思い出すことによる学習意欲の再燃や,「同期はそれぞれ性格も全然違って(中略)私は思わないようなことも考えてたりとかするんで(中略)いい刺激じゃないですけど,一緒に頑張っていきたい.(H16)」といった同期の看護師との連帯感により学習意欲を維持し,成長の実感を通じて自信を獲得することで学習意欲を高めていた.また,「悔しいっていう思いが出てくるんで,なんでできなかったんだろみたいな感じで,次失敗しないように勉強のほうに気持ちが傾く.(K17)」など,失敗体験に対する自分への悔しさという否定的側面や,他者に迷惑をかけてしまうことの回避といった内発的な動機づけにより学習と対峙したり,「なんとかなる」と自分に言い聞かせることで,困難な状況を踏ん張って乗り越えていた.

Ⅵ. 考察

新卒看護師が活用している自己調整学習方略に関するインタビューから,【実現可能な目標設定】【優先すべき課題のプランニング】【看護実践準備のための知識獲得】【目的に応じた人的資源の活用】【実践における試行錯誤を通じた自己研鑽】【リフレクションによる達成状況評価】【学習継続への意欲の維持】の7つのカテゴリーが見出された.カテゴリーを分析すると,新卒看護師が目標達成に向けて取り組む自己調整学習方略には,以下の3つの視点があることが示唆された.第一に,認知過程の側面として目標設定と達成状況評価が挙げられる.第二に,学習行動および学習環境の側面として,優先すべき課題のプランニングや知識獲得といった自らの学習行動の調整,目的に応じた人的資源の活用といった社会的学習環境の調整,および試行錯誤を通じた自己研鑽による実践経験の蓄積が挙げられる.第三に,動機づけの側面として,学習継続への意欲の維持が挙げられる.本稿ではこれら3つの視点から新卒看護師の自己調整学習方略を多角的に分析するとともに,先行研究で示されている看護師や看護学生,一般の大学生等が活用する自己調整学習方略と比較しながら考察を進める.

1. 目標設定と達成状況評価

新卒看護師は,【実現可能な目標設定】を行い【リフレクションによる達成状況評価】によって自分自身が目標達成に近づいているかどうかをメタ認知的に捉えていた.Pintrich(2000)による自己調整学習のモデルでは,予見段階の認知領域では目標設定,内容やメタ認知的知識の活性化を行うとされている.自己調整における予見の段階には課題分析と自己動機づけ感情/信念があり,目標設定は課題分析の1つの鍵となる側面である(Zimmerman & Schunk, 2011/2014).新卒看護師の学習はこれまで未経験の事柄に関する学習であることが多く,予測がつきにくいことが考えられる.漠然とした状態では学習への取り組みが停滞する恐れがあり,目標の具体化や短期目標の設定といった【実現可能な目標設定】を活用することで,目標達成できるよう工夫していると考えられる.

自己調整学習における主たるプロセスとして,多くの理論において自己省察や遂行フィードバック等の内省に関する段階が示されている(伊藤,2009).本研究の【リフレクションによる達成状況評価】も内省の段階で使用される学習方略である.新卒看護師における内省の特徴として〈ゆとりのある環境下での軌道修正〉のように,心理的な負荷が少なく安心できる環境下においてリフレクションが進み,学習に向かうための軌道修正ができることが示唆された.また,新卒看護師のリフレクションは自己内省だけでなく,患者や先輩看護師など他者評価も活用していることが明らかになった.成人学習では経験学習が中心となり,省察的学習を行うことが明らかにされている(Knowles, 1980/2002).看護師は『勉強する時には,患者や家族に聞かれて答えられるレベルにかみくだいて理解する』など(三浦,2022)次に活かせるように具体的に省察しているのに対して,本研究の新卒看護師では「最初は(目標達成に向けて)何をして良いのか分からなかったけれど,先輩との振り返りの時間で不足していたことを考えられたから目標や課題を見つけられた」のように,自分一人での理解が難しいことが多いため,他者のサポートを活用しながら現状把握するという限定的な内容にとどまっていた.

新卒看護師は状況の理解が難しい中でも目標の設定と達成状況評価をすることで,目標や達成状況を認識して,実践経験の蓄積に向けた計画,実践の段階へと移行していることが示唆された.

2. 学習行動および学習環境の調整による実践経験の蓄積

新卒看護師は【優先すべき課題のプランニング】をしながら【看護実践準備のための知識獲得】を行い,【目的に応じた人的資源の活用】をして【実践における試行錯誤を通じた自己研鑽】を行っていた.

一般の大学生の自己調整学習方略では学習量や週間予定に基づくプランニング方略や行動調整方略が見られるが(藤田,2010畑野・斎藤,2021),新卒看護師は〈長期目標達成のための短期目標の設定〉を活用していた.また看護師の方略として優先順位付けが挙げられるが(三浦,2022),本研究の新卒看護師は〈課題の優先順位づけと先送りの判断〉により,学習内容の選択だけでなく先送りの判断も含めたメリハリのある学習を行っていた.慣れない臨床で学習することは容易ではないため,〈モチベーションに合わせた計画の推進〉によって心身の状態の安定を図りつつ学習を維持できるようプランニングしていると考えられる.さらに〈最低限すべき課題の限定〉や〈課題をやらざるを得ない状況の設定〉といった工夫も行っていた.これらは他の対象には見られない方略であり,多くの課題を抱え詳細な学習計画立案が困難な新卒看護師の状況を反映した独自の方略と言える.

新卒看護師は,知識獲得のために予習や覚え書きの整理,学習ツールの活用等,様々な学習の工夫を行っていた.学習の工夫は大学生等でも見られるが,新卒看護師の場合は獲得した知識を看護実践で直ちに活用するため,より効率的に学習できるように工夫している点が特徴である.

また,慣れない臨床現場での学習継続には,周囲のサポートが不可欠であり,新卒看護師は思考の整理や課題解決など,目的に応じて人的資源を意図的に活用していた.これは課題の早期達成を目指す効率的な方略と言える.看護師も同様に同僚や先輩を活用するが(三浦,2022),社会人学生が友人を活用する傾向(石川・向後,2017)と比較すると,新卒看護師は活用する人的資源がより多様化し,実践的な解決に向けた資源選択を行っていることが示唆された.

新卒看護師は未経験の学習課題に対し,「一つずつ方法を実践し難しいときは他の方法を試す」といった〈試行錯誤と反復学習の実践による経験値の蓄積〉のように,分からないことを放置せずに試行錯誤しながら繰り返し学習と向き合い経験を積んでいた.また,〈蓄積した知識や経験の意図的活用〉により目標達成を目指していた.成人学習者は,成長・発達するにつれて蓄えた経験が豊かな学習資源となるため(Knowles, 1980/2002),成長過程にある新卒看護師は,今後の学習活動や看護実践に向けた経験値の蓄積のための方略を能動的に活用していることが示唆された.

新卒看護師は,優先すべき学習を選択し,効率を重視して知識獲得や人的資源の活用を行うことで実践経験を蓄積していた.Benner et al.(2009/2015)は,新人看護師の把握は,自分が理解できる側面に限定され,臨床状況を部分的にしか把握できないと述べている.加えて,経験を積んだ看護師の関心は,ケアの内容,複雑で変化する患者の状態,担当する患者や家族の具体的なニーズを満たすことに向くのに対し,新人は患者のベッドサイドを離れてからも,患者の状態そのものよりも,しなければならないことのリストに心を奪われていると指摘している.この特徴は自己調整学習方略にも反映されており,省察的かつ向上志向・拡張的な熟練看護師の方略(三浦,2022)に対し,新卒看護師の方略は,目標達成や課題解決のための限定的かつ効率を重視した方略であることが示唆された.

3. 学習継続への意欲の維持

動機づけに関する学習方略は,様々な対象で活用されている.大学生では『自分にご褒美を与える』方略(石川・向後,2017),看護大学生では『達成動機づけ』(伊山・前田,2018),看護師では『自分なりの方法で勉強へのやる気をおこす』(三浦,2022)等があり,いずれもポジティブな動機づけである.新卒看護師も【学習継続への意欲の維持】として,初心を思い出すことや同期の看護師との連帯感,自分への言い聞かせ,成長の実感による自信獲得などにより,意欲を維持していた.

一方で新卒看護師は失敗や叱責など多くのネガティブ感情を経験していた.怒りや不安などの活性型のネガティブ感情は,タスクに対する外発的動機づけを高める可能性がある一方で,学習やパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性もある(Pekrun, 2024).急激で一時的な感情である情動が活性化すると,目標や行動を無視してしまう傾向がある(Boekaerts, 2011).しかし新卒看護師は,「失敗したことは次は絶対しないという気持ちで取り組み辛さを乗り越える」など,否定的な情動を学習への動機づけに変えようとしていた.Boekaerts(2011)は,情動が目標追求に干渉する際に情動経験を修正・調節する能力を情動調整と述べており,本研究の新卒看護師は自己調整学習方略として情動調整も行っていることが示唆された.このような否定的な情動からの動機づけは,他の対象では明らかにされておらず,新卒看護師に特徴的な方略であると言える.但し,失敗体験が続き否定的な情動が慢性化すると学習意欲が阻害される可能性があるため,情動調整を有効に活用するには,成功体験を重ねて自己効力感を高める支援も必要である.

伊藤(2009)は,学業場面における感情の問題や教師との駆け引き等の外的な環境とのかかわりである文脈の自己調整学習方略の検討の必要性を述べており,新卒看護師においては特に先輩看護師との関係性における感情が自己調整学習方略にも影響していることが示唆された.守られた環境で学ぶ学生と比較し,新卒看護師は社会人としての自立や主体的な学習が求められ,心身の疲労がたまりやすい.そのため,〈学習意欲維持のための心身の休養〉の活用が不可欠である.これは他の先行研究にない独自の方略であり,退職理由に健康上の理由が多い(日本看護協会,2025)現状からも,休息のコントロールが難しいからこそ意図的に休養し健康を保つことで,学習意欲を維持していることが示唆された.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

本研究は1施設の新卒看護師12名を対象とした質的研究であるため,得られた結果は調査施設の教育体制や組織文化といった特定の文脈の影響を受けている可能性があり,他施設への適用可能性については慎重に判断する必要がある.今後は,病床規模や教育体制の異なる複数の施設の新卒看護師を対象に調査を行い,本研究で見出された概念の適用可能性を検証し,理論的洗練を図ることが課題である.また,本研究で抽出された自己調整学習方略の構成要素をもとに,量的な評価を可能とする新卒看護師の自己調整学習方略尺度を開発し,今後の新卒看護師支援に向けたより広範な実態調査につなげていく必要がある.

Ⅷ. 結論

新卒看護師が活用する自己調整学習方略として,【実現可能な目標設定】【優先すべき課題のプランニング】【看護実践準備のための知識獲得】【目的に応じた人的資源の活用】【実践における試行錯誤を通じた自己研鑽】【リフレクションによる達成状況評価】【学習継続への意欲の維持】の7つのカテゴリーが明らかになった.

新卒看護師は状況の理解が難しい中でも,目標の設定と達成状況評価をすることで,目標や達成状況を認識して,実践経験の蓄積に向けた計画,実践の段階へと移行していた.新卒看護師が活用する自己調整学習方略は,限定的かつ効率を重視した方略であることが示唆された.また,学習継続への意欲を維持するための様々な方略を用いており,新卒看護師は休息のコントロールが難しいからこそ意図的に休養して心身の健康を保つことで,目標達成に向き合っていることが示唆された.

付記:本研究の一部を,第44回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究を行うにあたり,お忙しい中ご協力いただきました新卒看護師の皆様,医療機関の看護部の皆様に謹んで御礼申し上げます.また,ご指導いただきました全ての皆様に感謝いたします.本研究は,JSPS科研費JP22K10734の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:米島望は研究の着想及びデザイン,データ収集,分析と考察,論文執筆の全てを実施した.水田真由美は研究の着想及びデザイン,研究プロセス全体への助言,分析と考察,論文作成に貢献した.岩根直美及び坂本由希子は研究プロセス全体への助言,分析と考察,論文作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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