日本看護科学会誌
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原著
慢性疾患を持つハワイ在住日系移民高齢者の文化的背景がヘルスリテラシーに及ぼす影響
リトル 奈々重合田 加代子中村 安秀
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2026 年 46 巻 p. 496-506

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Abstract

目的:慢性疾患を有するハワイ在住日系移民高齢者を対象に,文化的背景がヘルスリテラシーの形成および健康行動にどのように関与するかを明らかにすることを目的とする.

方法:質的記述的研究デザインを用い,米国メディケア受給者9名に半構造的面接を実施した.

結果:ヘルスリテラシーは文化的背景と関連し,「我慢」「遠慮」「恥」といった日本的価値観は相談行動を控える姿勢と関連していた.一方,「自立」や「責任」は健康維持に向けた意識や行動と関連していた.また,英語力の低下や医療制度への不安は,健康情報の理解・活用を困難にする可能性が示唆され,日本語で安心して相談できる環境の重要性が示された.

結論:日系移民高齢者は,医師への信頼や家族への配慮を基盤に,自己管理と医療への委任の間でバランスを取りながら健康管理を行っていた.他者に委ねつつ主体性を保つ「他律的自立」に基づく健康管理が示された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify how cultural background is related to health literacy among older Japanese immigrants living in Hawaii who have chronic illnesses.

Methods: A qualitative descriptive research design was employed. Semi-structured interviews were conducted with nine older Japanese immigrants who were Medicare beneficiaries. Interview data were analyzed inductively to describe the phenomenon and its meanings.

Results: The health literacy of older Japanese immigrants was closely related to their cultural background. Japanese cultural values such as gaman (endurance), enryo (restraint), and haji (shame) were associated with a tendency to refrain from consulting healthcare professionals. In contrast, values such as independence and responsibility were linked to attitudes and behaviors aimed at maintaining health. Limited English proficiency and anxiety about the U.S. healthcare system were suggested to hinder participants’ ability to understand and utilize health information. Additionally, an environment in which participants could consult healthcare providers in Japanese and feel psychologically safe was identified as an important factor supporting their health literacy.

Conclusion: Older Japanese immigrants managed their health by balancing self-care with reliance on medical professionals, based on trust in physicians and consideration for their families. This pattern of health management can be interpreted as a form of relational autonomy, in which decision-making is shaped through relationships with others. Culturally sensitive support models that consider cultural values, language, and family relationships are needed to promote health literacy in this population.

Ⅰ. 緒言

ヘルスリテラシーは,患者の治療遵守(コンプライアンス)や健診の受診行動,慢性疾患の転帰に関わる重要な要素として注目されている.とくに慢性疾患は,完治を目的とした短期的治療ではなく,症状と折り合いをつけながら長期にわたり自己管理を継続することが求められるため,患者自身が健康情報を理解・評価し,生活の中で適切に活用する能力が不可欠である.この点において,ヘルスリテラシーは医療の成果を左右する基盤的要素であり,高齢者医療や慢性疾患管理の質に大きく関与する概念と位置づけられている.

米国では,65歳以上の高齢者の約6割が心臓病,脳卒中,がん,糖尿病など少なくとも1つ以上の慢性疾患を有しており,医療費全体の84%が慢性疾患治療に起因していることが報告されている(World Health Organization, 2022Centers for Disease Control and Prevention, 2023).このことから,慢性疾患管理は医療経済および公衆衛生の観点からも重要な課題である.一方で,高齢者では加齢に伴う認知機能や学習能力の低下により,医療情報の理解や判断が困難となりやすく,ヘルスリテラシーの低さが指摘されている(Sentell & Braun, 2012).しかし,日常的な健康管理やセルフケア,予防行動の実践が生活の質(QOL)の維持・向上に寄与することも示されており(Gazmararian et al., 2003Sudore et al., 2006村松,2021辛島,2022),高齢者が健康情報をどのように捉え,行動に結びつけているのかを理解することは,看護実践において重要である.

さらに米国においては,ヘルスリテラシーの低さが高齢者,低学歴者,低所得者,英語を母語としない集団に多くみられることが報告されており(DeWalt et al., 2004Zanchetta & Poureslami, 2006),とくに移民や少数民族集団では,言語的制約や文化的背景が医療サービスの利用や健康情報の理解・活用に影響を及ぼすことが指摘されている.Betancourt et al.(2003)は医療の質向上における文化的コンピテンスの重要性を示し,Ishikawa & Kiuchi(2010)は,患者―医師間の相互作用的ヘルスリテラシーが,言語や価値観の影響を受けながら理解や意思決定に関与することを明らかにした.さらに,Sentell et al.(2014)は,ヘルスリテラシーが個人の能力のみで規定されるものではなく,地域の情報環境や社会的文脈の影響を受けることを示している.

移民高齢者は,言語的制約,文化的障壁,ヘルスリテラシーの低さという「三重の脅威」を抱えやすい集団であるとされ(Schyve, 2007Sentell et al., 2011),医療情報へのアクセスや医療者とのコミュニケーションにおいて不利な立場に置かれやすい.とくに日系高齢者においては,「恥」「我慢」「遠慮」といった日本文化に根差した価値観が,症状の表出や医療者への相談行動を抑制する可能性が指摘されている(Morioka, 1994).これらの価値観は,対人関係の調和を重視する文化的規範に基づくものであり,医療場面におけるコミュニケーションや意思決定の在り方に影響を及ぼしている可能性がある(相原,2019).一方,日系コミュニティが歴史的に形成されているハワイでは,日本語環境や日本文化が比較的維持されやすく,移民高齢者が母語や文化に支えられた生活を送りやすい社会的文脈が存在している.また,ハワイ州は高齢者人口の増加率が高い地域であり(State of Hawaii, Department of Business, Economic Development & Tourism, 2021State of Hawaii, Hawaii State Data Center, 2023Wilson, 2023),文化的・言語的多様性を踏まえた慢性疾患管理や高齢者支援の重要性が高まっている.しかし,こうした環境がヘルスリテラシーの形成や慢性疾患管理にどのような影響を及ぼしているのかは,十分に明らかにされていない.とくに,慢性疾患を有するハワイ在住日系移民高齢者を対象に,文化的価値観,言語環境,家族関係が健康情報の理解・評価・活用および意思決定にどのように関与しているのかを,当事者の語りに基づいて検討した研究は乏しい.

そこで本研究は,慢性疾患を有するハワイ在住日系移民高齢者を対象に,文化的背景が健康情報の理解・評価・活用および意思決定,すなわちヘルスリテラシーとどのように関連しているのかを質的に明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的帰納的研究デザインを用いた質的記述的研究である.

2. 用語の定義

1) 日系人

海外日系人協会の定義によれば,海外日系人とは「日本から海外に本拠地を移し,永住の目的をもって生活する日本人並びにその2世,3世,4世などで,国籍や混血の有無は問わない者」とされている(公益財団法人海外日系人協会,n.d.).本研究では,日本から海外に移住した日系1世(日本人の親を持ち,日本で生まれ育ち,現在ハワイ在住の者)および帰米2世(米国で出生し米国籍を有し,幼少期または学齢期に日本で教育・生活を経験した後,再び米国に戻った者)を対象とした.両者は,日本の文化的背景と移住先文化の双方に接触しており,文化的背景が健康行動やヘルスリテラシーに及ぼす影響を比較的明確に検討できると考えられるためである.

2) 慢性疾患

Centers for Disease Control and Prevention(2023)の定義に基づき,心臓病,脳卒中,がん,2型糖尿病,肥満症など,1年以上継続する疾患と定義する.

3) ヘルスリテラシー

Nutbeam(2000)が提唱した機能的・相互作用的・批判的ヘルスリテラシーの枠組みを参考に,本研究では「適切な健康上の意思決定を行うために必要な基本的健康情報やサービスを入手・処理・理解し,活用する能力」と定義する.

4) 文化的背景

文化は,Tylor(1871)およびHofstede(1998)の定義を参考に,社会的環境の中で学習・継承される言語,行動様式,信念,価値観などの総体を指すものとする.本研究における文化的背景は,個人の価値観や行動様式に加え,言語,医療制度,社会的ネットワーク等の環境要因を含む広義の文脈として捉え,移民高齢者の健康情報の理解・評価・活用および意思決定に影響を及ぼす要素と定義する.

3. 研究協力者

研究協力者は,65歳以上の米国メディケア(Medicare)対象者であり,ハワイ州ホノルル郡に所在するSクリニックのChronic Care Management(以下,CCM)システムのデータから抽出した日系移民高齢者とした.そのうち,研究への参加およびインタビューへの同意が得られた者を対象とした.なお,会話による意思疎通が困難な者は除外した.

*メディケア(Medicare)とは,高齢者および障害者を対象とした連邦政府管轄の公的医療保険制度であり,原則として米国内に5年以上の居住者が給付対象となる(Social Security Administration, 2025).

*CCMとは,2つ以上の慢性疾患を有する受給者に対し,継続的かつ包括的な健康管理を提供するメディケアのサービス形態である.

4. データ収集

データ収集期間は,2021年8月1日から2022年1月20日であった.インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施し,リサーチクエスチョン「文化的背景がハワイ在住日系移民高齢者のヘルスリテラシーにどのように関連しているか」に基づいて質問項目を設計した.質問内容は,①情報の入手方法(言語,入手先,内容),②コミュニケーションの取り方(言語差,医師への質問時の工夫),③健康・病気の認識(健康行動,現病の受け止め),④病気への対処(意思決定者,判断過程),⑤家族や周囲との関わり(会話,意見調整)などとした.

面接はSクリニック内の個室で実施する予定であったが,新型コロナウイルス感染拡大に伴う規制および感染予防の観点から,大半は電話による面接に変更した.協力者の承諾を得たうえで,ICレコーダーを用いて録音した.

5. データ分析

逐語録作成後,生データを精読し,ヘルスリテラシーと関連する文化的背景に関する記述を抽出してコード化した.次に,意味内容の類似性および相違性を検討しサブカテゴリを生成し,サブカテゴリ間の比較検討を通して,より抽象度の高いカテゴリを生成した.

6. 真実性・信頼性・妥当性の確保

逐語録は録音内容に忠実に作成し,真実性の確保に努めた.信頼性を確保するため,研究協力者2名に対してメンバーチェッキングを実施した.妥当性の確保にあたっては,国際保健および質的研究に精通した研究者間で,分析結果が研究協力者の語りに基づいていることを相互に確認した.

7. 倫理的配慮

本研究は,甲南女子大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2020059).研究協力者には,研究目的,参加の自由意思および辞退の権利,匿名性の保持,研究結果の公表について文書および口頭で説明し,文書による同意を得た.

Ⅲ. 結果

1. 研究協力者の概要(表1

研究協力者は9名であり,面接方法は対面2名,電話7名であった.インタビューは1名につき1回,20~45分実施した.性別は男性4名,女性5名で,平均年齢は78.9 ± 5.4歳,平均在米年数は48.0 ± 7.0年であった.現病歴は,高血圧症と高脂血症を併せ持つ者が7名と最も多かった.

表1 研究協力者の概要

ID 性別 在米移住
年数
年齢 家庭内での
主言語
英語情報の理解方法 健康情報取得場所 現病歴 世帯構成 職業 学歴 インタビュー
方法
(年) (歳)
A 男性 46 68 日本語
(アメリカ育ち:
日本語可)
医師 高血圧症・高脂血症 単独世帯 無職
元観光ドライバー
高校 電話
B 女性 52 80 日本語・
簡単な英語

(アメリカ育ち:
日本語可)
医師,娘,友人 骨粗鬆症・高脂血症 単独世帯 無職
元美容師
高校 電話
C 女性 48 82 日本語・
簡単な英語
息子
(アメリカ育ち:
日本語多少可)
息子,日本のテレビ(NHK),保険会社の電話相談 糖尿病・
高血圧症・
高脂血症
単独世帯 主婦 短大 電話
D 男性 58 82 日本語
(アメリカ育ち:
日本語可)
医師,日本のテレビ(NHK) 高血圧症・高脂血症 二人世帯
(夫婦のみ)
住職 高校 対面
E 女性 46 72 日本語・
英語
離婚した夫
(アメリカ人)
医師,YOUTUBE.Google検索 高血圧症・高脂血症 二人世帯
(子どもと同居)
無職
元旅行会社
大学 電話
F 女性 39 72 日本語
(アメリカ育ち:
日本語可)
友人,日本のテレビ(NHK) 高血圧症・高脂血症 単独世帯 無職
元ウエイトレス
高校 電話
G 男性 50 82 日本語 離婚した妻(日本人),
息子(アメリカ育ち:
日本語多少可)
離婚した妻(日本育ちの日本人)日本のテレビ(NHK),医師 糖尿病・
高血圧症・
高脂血症・
前立腺がん
二人世帯
(子どもと同居)
無職
元観光ドライバー
高校 電話
H 女性 57 84 日本語・
簡単な英語
息子(アメリカ育ち:日本語可) 医師 高血圧症・高脂血症 二人世帯
(子どもと同居)
無職
元HOTELクリーナー
中学 対面
I 男性 38 82 日本語・
簡単な英語
妹夫婦
(妹の夫アメリカ人)
インターネット,YOUTUBE 肝硬変・
高血圧症・
脳出血
単独世帯 無職
元自衛官
大学 電話

学歴は短大卒以上3名,高卒5名,中卒1名で,全員が日本の学校教育を受けていた.世帯構成は単独世帯5名,夫婦のみ1名,子ども同居3名であった.家庭内の主な使用言語は,日本語のみ4名,日本語と簡単な英語4名,日本語・英語の両語1名であり,英語による医療情報の理解に際しては,家族(主に子ども)の支援を受けている者が多かった.健康情報の主な取得源は医師(6名)であり,日本語のテレビ番組,インターネット,家族や友人なども利用されていた.

2. ヘルスリテラシーに影響する文化的背景(表2

分析の結果,73コード,27サブカテゴリ,12カテゴリが抽出された.カテゴリは【 】,サブカテゴリは『 』,コードは〈 〉,語りは斜体で示した.カテゴリ名は,①文化的背景要素を反映していること,②ヘルスリテラシーとの関連を示すこと,③語りの意味を尊重しつつ抽象化することを基準に命名した.

表2 日系移民高齢者のヘルスリテラシーに影響を及ぼす文化的背景

カテゴリ サブカテゴリ コード
母国の生活習慣の維持と回帰 日本人の友人が多く暮らしやすい 日本人が多く暮らしているので日本の文化に触れやすい E
日本人の友人ができやすく,日本語で話ができる E
日本の生活をしながら外国感も感じられて暮らしやすい C
慣れ親しんだ日本食の生活が叶えられる 日本の食材を調達しやすい C
慣れ親しんだ和食の味付けになってきた B
ハワイの医療システムの不安によるセルフケアへの動機づけ ハワイの医療システムに不安を抱き続けている 毎月1万ドルもの老人入所施設費用が払えないので不安がある F
すぐに退院させられるから一人暮らしには不安がある I
すぐ入院できないので病気しないように用心している A
ハワイの医療サービスに期待できないので
健康に気をつけている
寝たきりなっても受け入れ施設がないので自分で頑張るしかない A
医療費が高いので家族に迷惑かけないようにする F
家族への気遣いがもたらす
自立への意欲
家族に心配させないために胸の内に留める 子どもには心配や迷惑をかけたくないから相談しない B
娘の生活があるから自分でできる事は遠慮して言わない F
家族に迷惑をかけないために健康に心がける 子どもに世話をかけないよう健康づくりや療養管理をする G
家族に迷惑かけるくらいなら長生きしたくない G
英語力の低さを自覚した
情報収集 
日本のテレビやラジオに頼りに健康情報を得る インターネットができないので日本のテレビから情報をとっている A
医師が日本語で説明するテレビやラジオを参考にしている H
英語ができないので日本のテレビの健康特集番組を見ている F
本を読むのが億劫になってきたので日本のテレビやラジオに頼る H
日本語中心の生活により英語が上達しない 仕事も家庭も日本語が使えるから不便でない A
日本語で話すことが多いから英語は上達しにくい F
加齢に伴い英語情報に近づくことが負担になる 歳とともに英語を使うのが面倒くさい B
普段日本語を使うから英語をすぐに忘れる D
信頼できる情報にアクセスする努力  信用できる専門家の情報にアクセスする 多くの情報に惑わされないように専門家の医師の情報だけを聞く D
保険会社(専門家)の健康指導は信用できる C
看護師に具体的な食事指導をしてもらう E
家族を頼って健康情報を集める 息子にインターネットの情報を調べてもらう C
英語でわからない情報は子どもに頼る B
病気の事は妻に相談し頼っている G
自分なりに情報収集の手段を工夫する 退職後は付き合いも減りインターネットで情報を得ている G
保健センターの様な相談場所がないから友人に聞く F
子どもがいないので教会や寺で情報交換をする D
どこで情報を得たらいいのかわからないから医師に聞く F
病気を深く気にしない捉え方 血圧やコレステロールが高くても気にしない 血圧やコレステロールは日本人に多い病気だからしょうがない D
生活に支障がないので大した病気とは思っていない F
血圧やコレステロールは薬を飲めばいいと言う程度の病気だ A
歳を取れば病気になるのは当たり前と捉える 歳をとれば骨も弱くなるし当たり前と思っている B
医師に相談しても治るわけではないけれどとりあえず聞いている G
安心して病気と向き合うための
日系クリニックの選択
アメリカ人医師とは分かり合えないと感じるストレスを抱く アメリカ人医師には痛みの感覚が伝わらないのでストレスがある B
アメリカ人の医師には態度や空気感では通じない G
英語で話しているのに伝わらないからもどかしい G
日本人スタッフは気持ちを察してくれるため安心できる 日本人医師はわかり合えるので自分には必要だ G
同じ死生観が感じられる医師に診てもらいたい D
日本人スタッフは態度や空気感で通じ合えるので安心 G
日本人スタッフには伝えたい事がスムーズに伝わるので楽だ D
細やかな気遣いをしてくれる日系クリニックを選ぶ 日本人看護師は何も言わなくても表情を察し医師に捕捉してくれる B
日本人スタッフは受診を忘れていたら気にかけて連絡してくれる D
医師に不満を持ちながらも
妥協した付き合い方
医師への遠慮からくる聞くに聞けない
もどかしさ
忙しそうな医師を目の前にすると嫌われそうで質問できない F
医師の雰囲気に呑まれ遠慮して納得いくまで聞けない I
医師に聞きにくいため自分なりに調べざるを得ない 医師が説明してくれないので自分で調べざるを得ない I
医師からの説明がないので看護師から薬の説明を聞く C
医師への不満があっても仕方なく付き合う 病気の説明をしてくれない医師に不満を持っている I
医師への不満があっても何かあったら診てくれるのでしょうがない C
医師に不満があっても新たに探すのは大変だから我慢している B
医師に委ねる病気との付き合い方 主治医を信頼して従う 主治医としての恩があるから信じてついていく D
自分のことをわかってくれている主治医の言うことだけを聞く C
なんとなく分かり合えている雰囲気があるので信じて従う G
病気は治らないと諦めているから医師の言うことだけを聞いている G
医師の判断に委ねる 医学は難しいから医師に任せておきたい G
生かされるのも殺されるのも医師次第と思い任せている D
色々考えるのが面倒だから医師に従うほうが楽だ G
子どもとの言語的・文化的ギャップを抱えた関係性 ハワイ育ちの子どもとの価値観のズレ ハワイ育ちの子どもとは感覚が合わないからこちらの思いが伝わらない E
ハワイ育ちの子どもとは気持ちを理解し合えないので相談しない H
言語的ギャップによる意思疎通の困難さ 子どもと英語で話すのは面倒なので適当に済ませる H
子ども世代は英語しか話さないので深い話はできない E
自分ができる情報選択と健康行動 自分に適した健康情報を選び,実行している 自分に合った情報を選び自己管理する E
元気で健康を維持したいので自分でできることを見つけて取り込んでいる E
和食はヘルシーで健康にいいから食べるようにしている C
病気とうまく付き合いながらの自立した暮らしの継続 無理のない健康管理によって生活を維持する 残り少ない人生だから薬飲みながら好きなもの食べて過ごす A
医師の言う事を聞きながら無理しない健康管理をする D
いつ(あの世に)行ってもおかしくないから病気とは上手に向き合っていく C
家族や周囲を過度に頼らず自立した生活を送る 長生きすることより家族に迷惑かけないよう頑張ることが大事 D
自立した生活ができるために,まず病気を理解したい C
自立して暮らすための自分なりの健康管理 I

【母国の生活習慣の維持と回帰】

本カテゴリは,『日本人の友人が多く暮らしやすい』『慣れ親しんだ日本食の生活が叶えられる』から構成された.ハワイの日本語・日本食環境は生活のしやすさにつながる一方で,英語による健康情報の取得や医療制度への適応を妨げ,情報の取得・理解段階における制約となっていた.

「日本人が多いし,仕事も日本語だし,日本と変わりない感じだよ」(E)

「ハワイは,日本人の友達も多くて,本当に住みやすい場所よ」(E)

「歳をとると,慣れ親しんだ日本食の味を好むね」(C)

【ハワイの医療システムへの不安によるセルフケアへの動機づけ】

本カテゴリは,『ハワイの医療システムに不安を抱き続けている』『ハワイの医療サービスには期待できないため健康に気を付けている』の2つのサブカテゴリから構成された.米国の高額な医療費や入院制度への不安は,健康情報への関心と関連づけて語られ,セルフケア行動や情報探索行動に結びついて捉えられていた.

「日本のようにすぐ入院させてもらえないから不安よ.だから病気せんようにしているの」(A)

「介護が必要になったら心配よ.毎月1万ドルもの入所費用は払えないわ」(F)

【家族への気遣いがもたらす自立への意欲】

本カテゴリは,『家族に心配をかけないために胸の内に留めておく』『家族に迷惑をかけないために健康に心がける』の2つのサブカテゴリから構成された.「家族に迷惑をかけたくない」という価値観は,相談行動を控える語りと結びつく一方で,健康維持への意欲や自己管理志向とも関連し,ヘルスリテラシーの「活用・意思決定」に関与する可能性が示唆された.

「娘の手を煩わせたくないから,たいしたこと以外は言わないようにしているの」(F)

「息子には世話をかけられんから,自分の健康や病気は自分で管理せんとね」(G)

【英語力の低さを自覚した情報収集】

本カテゴリは,『日本のテレビやラジオを頼りに健康情報を得る』『日本語中心の生活により英語が上達しない』『加齢に伴い英語情報に近づくことが負担になる』の3つのサブカテゴリから構成された.英語力の低さや日本語中心の生活は,医療情報の理解・評価の困難さとして語られ,情報アクセスに言語的差がみられた.加齢に伴う英語使用への負担感とコミュニケーションの減少も語られた.

「英語もできないから,日本のテレビやNHKの健康番組をよく見ているのよ」(F)

「昔は英語で話したし読めたけれど歳をとると英語が面倒くさくなるのよ」(B)

【信頼できる情報にアクセスする努力】

本カテゴリは,『信用できる専門家の情報にアクセスする』『家族を頼って健康情報を集める』『自分なりに情報収集の手段を工夫する』の3つのサブカテゴリから構成された.研究協力者は,日本語中心の限定的な情報環境の中で,家族や専門家,友人を頼りながら信頼できる情報にアクセスしようとする努力を示していた.

「わからない英語の情報は娘に聞いている」(B)

「情報が多くて迷うから,医者とか専門家の情報だけを聞くようにしているの」(D)

「英語できんしパソコンも使えんと,医者か家のもんに聞くくらいしかできん」(G)

【病気を深く気にしない捉え方】

本カテゴリは,『血圧やコレステロールが高くても気にしない』『歳を取れば病気になるのは当たり前と捉える』の2つのサブカテゴリから構成された.研究協力者は,病気を加齢に伴い誰にでも起こり得るものとして受け止め,過度に深刻視していなかった.

「日本人の老人はほとんど高血圧だし,コレステロールもそう.病気のうちに入らないわよ」(D)

「歳なんだから骨も弱くなるでしょ.病気の一つや二つ当たり前.みんな同じよ」(B)

【安心して病気と向き合うための日系クリニックの選択】

本カテゴリは,『アメリカ人医師とは分かり合えないと感じるストレスを抱く』『日本人スタッフは気持ちを察してくれるため安心できる』『細やかな気遣いをしてくれる日系クリニックを選ぶ』の3つのサブカテゴリから構成された.日本語が通じ,文化的価値観や「察し」を共有できる医療環境は,安心して病気と向き合うことと関連する可能性が示唆された.

「ズンとした痛みの感覚は伝わりにくいのよ.向こう(アメリカ人医師)には,言わなくても感じ取ってほしいのよね」(B)

「英語で話しても聞いてくれんし,アメリカ人は意思表示がせんと何もせんでしょ」(G)「日本人同士だと分かり合いやすいと思うよ,察してくれるし,態度や空気感を読んでくれる」(D)

【医師に不満を持ちながらも妥協した付き合い方】

本カテゴリは,『医師への遠慮から聞くに聞けないもどかしさ』『医師に聞きにくいため自分なりに調べざるを得ない』『医師への不満があっても仕方なく付き合う』の3つのサブカテゴリから構成された.これらの行動は,医療情報の理解・確認機会を制限し,ヘルスリテラシーの「情報評価」および「意思決定」と関連している可能性が示唆された.

「先生忙しそうで,時間を取らせて嫌な顔をしないかと思うと質問もできないわ」(F)

「先生は忙しいから,先に自分で調べてから先生に聞くんだよ」(I)

「先生(日本人医師)は説明してくれないけど,日本語が分かる先生が必要だから我慢するよ」(B)

【医師に委ねる病気との付き合い方】

本カテゴリは,『主治医を信頼して従う』『医師の判断に委ねる』の2つのサブカテゴリから構成された.医師を専門家として信頼し,判断を委ねる姿勢は,安心感や適切な行動として認識されていた.

「先生は私のことを知っているから,先生の言うことだけを聞いておくのよ」(C)

「先生に言われる薬は必ず飲んどる.生かされるのも殺されるのも医師次第」(D)

【子どもとの言語的・文化的ギャップを抱えた関係性】

本カテゴリは,『ハワイ育ちの子どもとの価値観のズレ』『言語的ギャップによる意思疎通の困難さ』の2つのサブカテゴリから構成された.親子間の言語的・文化的ギャップは,健康情報共有の困難さと関連づけて理解され,家庭内支援ネットワークの限定性に関与する要素として示唆された.

「息子は私の言っていることは分かっても,気持ちまで理解するところまではいかないでしょ.感覚がアメリカ人だから」(E)

「息子は日本語が話せないでしょ.私も面倒になって『はい,はい』と返してしまうの.そうすると,息子もあまり話さなくなるのよ」(H)

【自分ができる情報選択と健康行動】

本カテゴリは,『自分に適した健康情報を選び,実行している』から構成された.研究協力者は,無理のない形で健康行動を継続しようとする姿勢を示していた.

「最終的には,自分で自分に合ったものの中から選択するわ.そうじゃないと長続きしないから」(E)

【病気とうまく付き合いながらの自立した暮らしの継続】

本カテゴリは,『無理のない健康管理によって生活を維持する』『家族や周囲を過度に頼らず自立した生活を送る』の2つのサブカテゴリから構成された.文化的価値観は,慢性疾患を抱えながらも自己管理を継続し,自立した生活を維持しようとする行動を支える要素として,健康行動に関連していた.

「この歳だから,息子たちの世話にならずに生活していけるよう頑張りたいのよ」(E)

Ⅳ. 考察

日系移民高齢者の語りから抽出された12のカテゴリは,価値観,言語,制度,生活文化といった文化的背景の多様な側面が,ヘルスリテラシーを構成する情報の理解・評価・活用・意思決定の各過程に多層的に関与していることが示された.とくに,価値観や家族関係に基づく文化的要素は,意思決定や情報活用の過程において抑制的に作用する様相がみられ,言語的背景や医療制度の特性は,情報の理解および評価を困難にする要因として語られていた.一方で,日系クリニックなど文化的感受性の高い医療環境は安心感と結びつけて語られており,医療情報へのアクセスや受け止め方に影響する要因として,ヘルスリテラシーとの関連が示唆された.

慢性疾患を抱えるハワイ在住日系移民高齢者では,日本文化に根差した「遠慮」や「恥」といった価値観により,症状や不安を積極的に表明することを控え,医療者から提供される情報を十分に確認・質問できない状況がみられた.こうした傾向は,日系高齢者における医療者への依存や受動的態度を指摘した先行研究(Morioka, 1994McLaughlin & Braun, 1998)とも一致している.さらに,慢性疾患管理に必要な情報理解や医療制度の利用においては,米国の複雑な保険制度や医療手続きが大きな障壁として語られていた.Sentell et al.(2014)が示すように,地域全体の情報環境は個人の健康自己評価に影響を及ぼすが,本研究においても,言語的・文化的背景と制度的複雑性が相互に作用し,セルフマネジメントを困難にしている状況が示されていた.

以下では,①健康行動,②言語能力,③コミュニケーション,④文化的背景とヘルスリテラシーの4点から考察する.

1. 健康行動にみるヘルスリテラシー

【ハワイの医療システムへの不安によるセルフケアへの動機づけ】および【家族への気遣いがもたらす自立への意欲】は,日系移民高齢者の文化的・社会的背景を反映した健康への関心の表出として捉えられる.

文化的背景としては,日本文化に特徴的な「家族に迷惑をかけない」「自立していたい」といった価値観に加え,医療制度や経済的不安が挙げられる.これらは,ヘルスリテラシーの「健康情報の評価」および「健康行動の活用」の段階に作用している可能性が考えられた.すなわち,米国における高額な医療費や介護費用,短い入院期間への不安が,日常的な健康管理やセルフケアへの動機を高める要素となっている可能性が示唆された.

【病気とうまく付き合いながらの自立した暮らしの継続】および【医師に委ねる病気との付き合い方】は,健康行動における自律性と他律性の両側面を内包していた.

米国では患者の自己決定が重視される一方(American Academy of Family Physicians, 2023American Medical Association, n.d.),本研究対象である日系移民高齢者は,医師への信頼に基づき判断を委ねる傾向が強く,家族が通訳や意思決定の媒介者となることで,意思決定が個人ではなく家族単位で成立している側面がうかがえた(Saldo et al., 1998).さらに,「家族に迷惑をかけたくない」「自立して生活したい」という思いは,日本文化にみられる家族中心主義や恥の感情(森・湯浅,2006)を基盤としつつ,米国文化における自己責任や自立志向とも共鳴していた.これらの結果は,文化的背景に基づく他律的協調性と自律的主体性が共存したヘルスリテラシーの特性を示すものであり,自立意識の保持が高齢者のQOLに寄与するという先行研究(青木,2015)とも一致する.すなわち,本研究で示された健康行動は,医療制度,家族関係,文化的価値観が相互に影響し合いながら形成されたヘルスリテラシーの一形態であると考えられる.

2. 言語力にみるヘルスリテラシー

【英語力の低さを自覚した情報収集】および【子どもとの言語的・文化的ギャップを抱えた関係性】は,言語的背景がヘルスリテラシーの「情報理解」および「情報活用」に大きく影響していることを示していた.

ハワイでは日本語環境が比較的維持され,【母国の生活習慣の維持と回帰】が容易である一方,英語使用の必要性が低く,英語習得の機会が限定されていた.その結果,医療制度や健康情報に関する英語情報の理解が困難となり,日本語メディアへの依存が強まっていたと考えられる.言語習得は社会的・心理的要因の影響を受けるとされ(Flege et al., 1999),本研究においても,高齢に伴う英語使用への負担感や日本語中心の生活の快適さが,英語力低下の背景として示された.さらに,移民における言語能力の低下が健康情報へのアクセスを脆弱にするという先行研究(Zanchetta & Poureslami, 2006Jacobson et al., 2007Cacal et al., 2023)とも整合していた.加えて,子ども世代との言語的ギャップは,世代間の文化差(Schwartz, 2016)やコミュニケーションの減退(Harris & Chen, 2023)を生じさせ,情報理解や意思決定といったヘルスリテラシーの基盤を弱体化させていた可能性がある.以上のことから,文化的背景を考慮した多言語的・多文化的医療情報支援の必要性が示唆された.

3. コミュニケーションにみるヘルスリテラシー

(1)医師との関係性

【安心して病気と向き合うために日系クリニックを選択】および【医師に不満を持ちながらも妥協した付き合い方】は,医療者との関係性において文化的コミュニケーション様式が影響していることを示していた.

日系移民高齢者は,ハイコンテクスト文化に基づく「察し」や非言語的理解を重視し,同様の文化的背景を持つ医療者との関係を好む傾向を示していた(藤本,2011).一方,ローコンテクスト文化である米国社会における直接的な意思表明は心理的負担となりやすく,質問の抑制や医師への判断委任といった行動につながっていた.これらの行動は,医師の権威を尊重し関係の調和を重んじる日本文化的価値観(Morioka, 1994)とも共通しており,ヘルスリテラシーの「情報活用」および「意思決定」の過程において文化的抑制が作用していることを示している.

(2)家族との関係性

【家族への気遣いがもたらす自立への意欲】および【子どもとの言語的・文化的ギャップを抱えた関係性】は,家族関係における文化的背景がヘルスリテラシーに影響していることを示していた.

ハワイで生まれ育った子ども世代と親世代との間には,言語や価値観の違いがみられ,世代間の文化適応差が親子間のコミュニケーションのあり方と関連している可能性が示唆された.こうした傾向は,移民家族における親子間の文化適応ギャップが関係性の不一致や相互理解に関連することを示した先行研究(Harris & Chen, 2023)とも一致する.また,「家族に迷惑をかけたくない」という価値観は,情報共有や相談を抑制する一方で,健康維持や自立した生活を志向する主体的行動を促す側面も有していた.こうした家族との関係性は,文化的価値観を介してヘルスリテラシーの「情報活用」および「意思決定」の双方に関与している可能性が考えられる.

4. 文化的背景とヘルスリテラシー

高齢者は,加齢に伴う理解力や判断力の低下により,慢性疾患管理においてより高いヘルスリテラシーが求められる(Berkman et al., 2011).本研究の結果から,日系移民高齢者のヘルスリテラシーには,文化的・言語的背景が相互に関係しながら複合的に関与している可能性が示唆された.すなわち,「我慢」「遠慮」「恥」といった日本的価値観は,医療者や家族への相談を控える抑制的要素として作用する一方で,「自立」「責任」「他者への配慮」は,健康維持に向けた意識や行動と関連づけて理解されていた.これらの文化的背景は,個人の内面的価値観にとどまらず,対人関係や医療場面における行動選択のあり方に影響を及ぼしている.さらに,健康情報の理解・評価・活用および意思決定といったヘルスリテラシーの構成要素に対し,抑制的側面と促進的側面の双方から関与していると考えられる.また,研究協力者は,医師への信頼や家族への気遣いを基盤に,自己管理を重視しつつも医療判断を医師に委ねる場面を併存させながら慢性疾患と向き合っていた.このような行動様式は,日本文化に根差した協調性や権威尊重に支えられた「他律的自立」として特徴づけられ,他者との関係性を前提としながら主体性を保持しようとする実践的態度を示している.すなわち,自律と他者依存は対立するものではなく,関係性の中で状況に応じて調整されながら成り立っている可能性がある.さらに,英語力の低下や医療制度への不安は健康情報の理解や評価を困難にしている可能性が示唆された.一方で,日本語で安心して相談でき,文化的価値観を共有できる医療環境は,医療者との関係性や意思決定のあり方と関連して捉えられていた.このように,ヘルスリテラシーの水準に応じた情報提供や意思決定支援のあり方が重要であり(中山,2018),これらの結果は,ヘルスリテラシーが個人の能力のみならず,文化的背景,言語環境,さらには社会制度といった文脈要因と相互に関連しながら形成される動的な概念であることを示唆している.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の対象地域であるハワイは,日系コミュニティが歴史的に形成され,日本語環境や日本文化が維持されやすい社会文化的特性を有している.そのため,本研究の知見は,ハワイ在住の日系移民高齢者という特定集団に限定されており,一定の限界を有している.また,本研究の対象は特定のクリニックにおいて継続的な医療管理を受けている高齢者であり,医療未接触層やより脆弱な集団は含まれていない可能性がある.

加えて,「恥」や「遠慮」といった価値観が日系移民に特有の文化的特性であるのか,アジア系民族に共通する傾向であるのか,あるいは移民という社会的立場や医療場面における権力関係の中で強化される行動様式であるのかについては,十分に検討できていない.また,これらの価値観が高齢世代に特有のものであるのか,若年世代や次世代の日系人・在留外国人にも当てはまるのかについても,世代間比較を行っていない点が本研究の限界である.今後は,ハワイ在住の日系移民とアジア系移民を対象とした量的比較研究や,米国本土や中南米など他地域との比較を通じて,文化的特性や地域特性の影響を明らかにすることが求められる.さらに,日本国内で増加する在住外国人高齢者との比較研究により,日本における外国人医療の課題解決に資する知見が得られる可能性がある.

以上を踏まえ,今後の看護科学研究では,文化的価値観,社会的マイノリティ性,居住環境とヘルスリテラシーとの関連を多面的に検証し,文化に配慮した支援モデルの構築へと発展させていくことが課題である.

Ⅵ. 結論

ハワイ在住の日系移民高齢者は,現地の生活環境に順応しつつも,医療システムに対する不安や「家族に迷惑をかけたくない」という思いを抱いていた.これらは,健康への関心や情報収集,セルフケア行動を促す動機づけと関連している可能性が示唆された.一方で,英語力の低さを背景に,日本語が通じる日系クリニックを選択する傾向がみられ,医師に対する遠慮や判断を委ねる姿勢など,他律的な意思決定や情動的対処行動も認められた.これらの特徴は,「我慢」や「遠慮」といった日本的価値観に根ざしており,文化的背景が健康情報の理解や活用に影響を及ぼしている可能性を示唆するものであった.すなわち,日系移民高齢者のヘルスリテラシーは,日本文化を保持しつつ多文化的環境に適応する過程で形成されてきた特性であると考えられた.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました研究参加者ならびに参加施設の皆様に心より御礼申し上げます.また,新型コロナウイルス感染症の流行下において本研究を遂行するにあたり,貴重なご助言とご支援を賜りました皆様に,心より感謝申し上げます.さらに,甲南女子大学在学中にご指導賜りました先生方に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:筆頭著者NLは,研究のコンセプト・デザイン,またはデータの収集・解析・解釈,論文執筆まで研究全体のプロセスに貢献している.KGおよび YNは,研究の着想およびデザインに貢献するとともに,論文執筆への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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