2026 年 46 巻 p. 573-583
目的:DASC-21を使用した全身麻酔手術を受ける高齢患者のせん妄症状リスク評価の可能性を検討した.
方法:急性期病院の75歳以上の患者991名を対象に後ろ向き観察研究を実施した.2023年4月から2024年10月の入院患者(Derivation群)において,せん妄症状に関するDASC-21のカットオフ値を算出した.2024年11月から2025年3月の入院患者をValidation群とし,カットオフ値の妥当性を検証した.
結果:DASC-21のROC-AUCは0.71,カットオフ値は24点であった.Validation群を低リスク(DASC-21 < 24点),中リスク(≧24点),高リスク群(≧31点)に分類したところ,DASC-21得点が高い群ほどせん妄症状発症率が有意に高かった.
結論:DASC-21は,全身麻酔手術を受ける高齢患者のせん妄症状のリスク評価に活用できる可能性が示唆された.
Objective: To investigate the potential of the Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items (DASC-21) for risk assessment of delirium symptoms in older adults undergoing general anesthesia.
Methods: We conducted a retrospective observational study of 991 patients aged 75 years or older who were admitted to an acute care hospital. Among patients admitted between April 2023 and October 2024 (Derivation cohort), an optimal DASC-21 cutoff value for delirium symptoms was determined. Patients admitted between November 2024 and March 2025 were assigned to a Validation cohort, in which the validity of the cutoff score was examined.
Results: In the Derivation cohort, the ROC-AUC for delirium symptoms using the DASC-21 was 0.71, and the optimal cutoff value was 24 points. Stratification of the Validation cohort into three risk groups (low-: DASC-21 < 24; moderate-: ≥ 24; high-risk group: ≥ 31) revealed a significant increase in incidence of delirium symptoms with higher DASC-21 scores.
Conclusions: These findings suggest that the DASC-21 may serve as a useful tool for delirium symptom risk assessment in older patients undergoing general anesthesia.
高齢者人口の増加に伴い,急性期医療の場で発生するせん妄は,患者安全と医療の質に関わる重要な課題である.急性期病院に入院した高齢患者のせん妄発症率は5~38.0%と報告されている(Ahmed et al., 2014).とりわけ,全身麻酔手術などの侵襲性の高い治療を受ける高齢者が増加しており,周手術期のせん妄への対応が求められている.せん妄は,疾患などの身体的原因や手術侵襲,入院を契機とした環境変化によって起こる意識,認知および知覚の障害であり(小川・佐々木,2019),転倒(Kalivas et al., 2023)やドレーン類の抜去(秋山ら,2021),入院期間の延長(Salluh et al., 2015),長期的な認知機能低下(Jackson et al., 2004)などに関連する.さらに,せん妄により安全確保のための身体拘束に至るケースが一定の頻度で生じ,質の高い看護とは対極の状況へとつながる(嶋森,2017).
せん妄の発症のメカニズムについて,患者が入院前から有する脆弱性である素因と,入院や手術などの急性ストレスである誘因の相互作用によって規定される多因子モデルが提唱されている(Inouye & Charpentier, 1996).このモデルでは,素因による脆弱性が高いほど軽微な誘因でもせん妄を発症しやすく,素因の評価はせん妄発症リスクの把握および予防的介入において重要である(Inouye & Charpentier, 1996).
せん妄に関連するあらゆる素因において,術前の認知機能は最も影響力の大きい要因の一つである.その機序として,認知機能低下は脳の予備能の低下を反映し,入院環境の中で生じる様々な誘因に対する脆弱性を高める(Inouye et al., 2014).Chen et al.(2021)のメタアナリシスでは,認知機能低下が術後せん妄の有意な予測因子であることが明らかにされており,他の研究においても,認知症と軽度認知障害は,身体的状態や他の患者要因よりも強くせん妄と関連することが示されている(Ahmed et al., 2014;Weiss et al., 2023).せん妄は急性発症および症状の変動を特徴とすることから,慢性的な認知機能低下とは区別される(American Psychiatric Association, 2013/2014).したがって,認知機能低下はせん妄そのものではなく,せん妄発症の脆弱性を反映する素因として位置づけられる.
さらに,高齢患者に顕在化する生活機能の低下も,せん妄の素因である(Ormseth et al., 2023).生活機能には,家事など一人暮らしを遂行する能力である手段的日常生活動作(IADL)と,身の回りのことを自立して行う能力である基本的日常生活動作(BADL)が含まれる.認知機能が軽度低下した段階ではIADLが障害され,重度になるにつれてBADLの障害へ進展するとされており(粟田,2015),生活機能障害は認知機能低下に伴う主要な変化の一つである.IADL低下とせん妄との関連は複数の研究で報告されており,Chen et al.(2023)は,術前のIADL依存状態が術後せん妄リスクを約2倍に高めることをメタアナリシスによって示している.70歳以上の整形外科・外傷外科患者を対象とした研究においても,術前IADLスコアと術後せん妄発症率との有意な関連が報告されている(Rahm et al., 2024).
一方で,認知機能とIADLを含む生活機能を臨床で同時に評価する上では,実践上の課題が存在する.高齢患者の認知機能評価には,長谷川式簡易知能評価スケール(加藤ら,1991)をはじめとする様々なツールが存在する(大塚・本間,2013).しかし,これらは主として認知機能の評価に焦点を当てており,認知機能低下に伴う生活機能の状態を反映しないため,高齢患者のせん妄発症リスクを包括的に評価するには限界があると考えられる.さらに,これらのツールを用いた初対面の医療従事者による評価は,患者に不快感を与える可能性があり,信頼関係の構築を阻害することも指摘されている(山口ら,2018).
地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント(DASC-21)は,記憶や見当識などの認知機能に加え,認知機能低下に伴う生活機能障害を総合的に評価するツールである(Awata et al., 2016).認知機能低下と生活機能低下はいずれもせん妄の重要な素因であることを踏まえると,これらを包括的に評価するDASC-21は,せん妄リスクの評価に活用できる可能性がある.さらに本ツールは,観察に基づく評価が可能であり,患者本人の協力が得られにくい状況においても,家族や介護者からの情報に基づいて評価できるように設計されている(粟田,2015).
しかし,DASC-21は認知症スクリーニングを目的に開発されたものであり,高齢患者のせん妄症状のリスク評価への適用については,これまで十分に検証されていない.特に,DASC-21を臨床で用いる際には,カットオフ値によってリスクが判定されるが,既存のカットオフ値(31点)は認知症の疑いを検出するための基準として設定されたものである(Awata et al., 2016).そのため,急性期医療におけるせん妄リスク患者の検出に適用可能かどうかは明らかでない.
本研究では,全身麻酔手術を受ける75歳以上の高齢患者を対象に,入院前に評価したDASC-21と入院後のせん妄症状との関連を明らかにし,最適なカットオフ値を検証した.これにより,DASC-21を用いた高齢患者のせん妄症状のリスク評価の可能性を検討することを目的とした.
せん妄症状
本研究における「せん妄症状」とは,臨床診断のせん妄ではなく,DELirium Team Approach(DELTA)プログラムにおけるせん妄アセスメントシートに従い評価された精神症状とした.具体的には,注意障害や意識レベルの変容(ぼーっとしている,焦燥感が強く落ち着かない)および睡眠・覚醒リズムの変化(昼夜逆転の有無など)の症状を含み,入院経過において急性発症または症状の変動(日内変動や数日単位での変化)を伴う状態と定義した(小川・佐々木,2019).
本研究は,600床以上の病床を有する急性期病院1施設の10診療科において,全身麻酔手術を目的に入院した患者を対象とした後ろ向き観察研究である.研究のタイムラインを図1に示す.DASC-21は入院前の術前オリエンテーション時にベースライン評価として実施し,入院後にせん妄症状のアセスメントを行った.観察期間は入院後30日とした.

DASC-21:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント
DELTAプログラム:DELirium Team Approach(DELTA)プログラム
2023年4月から2025年3月の間に,対象施設に入院した患者を対象とした.DASC-21によるせん妄症状の判別能の評価とカットオフ値の決定,およびその妥当性の検証を目的に,入院時期に基づき対象者を2群に分けた.まず,2023年4月から2024年10月の間に入院した患者を,DASC-21の判別能およびカットオフ値を評価するための集団(Derivation群)とした.また,2024年11月から2025年3月の間に入院した患者を,Derivation群で得られた結果の適用性を検証するための集団(Validation群)とした.
包含基準は,1)75歳以上,2)全身麻酔下の待機的手術を受けた患者,3)術前にDASC-21の評価を受けた患者とした.除外基準は,1)せん妄症状のアセスメントを受けていない者,2)入院前に予定していた手術が中止となった者および3)緊急・臨時手術を受けた者とした.
3. 評価項目・データ収集方法 1) DASC-21DASC-21は,記憶(3項目),見当識(3項目),問題解決判断力(3項目),家庭内・外のIADL(各3項目)および身体的ADL(6項目)の評価項目で構成され(全21項目),認知機能と生活機能を総合的に評価するスケールである.各項目は4件法で評価され,総得点の範囲は21点から84点である.総得点が高いほど認知機能が低下していることを意味し,31点以上の場合には「認知症の可能性あり」と判定される(Awata et al., 2016).
評価は,入院前に患者サポートセンターで実施される術前オリエンテーションに組み込まれ,所定の評価研修を受けた看護師が実施した.実際の評価は,本スケールのマニュアルおよび留意点(粟田,2015)に沿って行われた.
2) せん妄症状せん妄症状の評価には,DELirium Team Approach(DELTA)プログラムにおけるせん妄アセスメントシートを用いた.評価は,対象者が入院する病棟の看護師により実施された.このせん妄アセスメントシートは3つのステップで構成されており,せん妄症状については,注意障害,意識レベルの変容,急性発症もしくは症状の変動など,せん妄に関連する精神症状の有無をチェックする方式である(小川・佐々木,2019).これらの症状は,カテーテル類の自己抜去や転倒などの重大事象の前駆症状を把握し,早期対応するために重要な項目である(新田ら,2023).
術前から継続する慢性的な認知機能低下とせん妄症状を区別するために,急性発症または症状の変動をせん妄症状の必須条件とした.本アセスメントシートにおける急性発症または症状の変動の判定基準は,症状の出現や以前との様子の変化を患者・家族および医療スタッフからの情報収集や診療録を参照した上で,評価するよう設計されている.本研究では,この判定基準に沿った評価結果に基づいて,せん妄症状を判定した.
せん妄症状の評価は,入院日を含む3日間に加え,看護師が患者の状態変化を認めた場合にも実施される運用であった.本研究では,診療録に記載された評価結果を電子的に抽出し,入院後30日以内にせん妄症状が一度でも認められた場合に,せん妄症状ありと判定し,初回発生日時を収集した.
3) 患者背景・せん妄リスク因子診療録から年齢,性別,診療科を含む患者背景のほか,手術時間,麻酔時間,出血量,術式(開放,腹腔鏡・胸腔鏡下,ロボット支援下,内視鏡,血管内治療,その他)などの手術関連情報を収集した.また,周術期管理に関連する情報として集中治療室(ICU)入室の有無を収集した.退院時の状況については,在院日数と退院時転帰を収集した.
せん妄のリスク因子については,せん妄アセスメントシートにおけるリスク項目に基づき,脳器質障害(脳転移を含む),アルコール多飲,せん妄の既往,およびベンゾジアゼピン系薬剤内服の有無に関する情報を収集した.
さらに,術前の患者状態を反映する指標として,手術日直近の血液検査結果を参照し,ヘモグロビン,アルブミン,尿素窒素(BUN),推算糸球体濾過量(eGFR),血清Cl,Na,KおよびC反応性タンパク(CRP)のデータを収集した.
4. 分析方法連続変数は中央値および四分位範囲(IQR),カテゴリカル変数は度数とパーセンテージで示した.群間比較では,連続変数にはMann-Whitney U検定を,カテゴリカル変数にはχ2検定またはFisherの正確確率検定を用いた.なお,欠測データに対する補完は行わず,各解析において利用可能なデータのみを用いた分析を実施した.統計解析にはR version 4.5.3(R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を使用し,有意水準は両側検定で5%未満とした.
1) Derivation群を対象とした分析DASC-21総得点とせん妄症状発症の独立した関連性を検討するため,せん妄症状の有無を目的変数とした多変量解析を実施した.調整変数は単変量解析の結果(P < 0.05)および臨床的重要性を考慮して選択した.なお,脳器質障害はDerivation群において完全分離を示す変数であったため,調整変数から除外した.また,手術時間と麻酔時間のSpearman相関係数は0.976と強い相関を認めたため,多重共線性を避けるために手術時間のみを投入した.イベント数(n = 79)に対して調整変数が多いことから,過剰適合,小標本バイアス,および分離の影響を低減するために,Firthのペナルティ付きロジスティック回帰分析を行った(Heinze & Schemper, 2002).まず,各説明変数に対して単変量解析(Model 1)を行った.次に,DASC-21と全ての調整変数を投入したモデル(Model 2),およびDASC-21を強制投入したbackward変数選択(P > 0.05の変数を順次除外)によるモデル(Model 3)をもとに,DASC-21の関連の一貫性を確認した.なお,Model 2のevents per variable(EPV)は6.6,Model 3は13.2であった.
入院後30日以内のせん妄症状発症をアウトカムとして受信者操作特性(ROC)解析を行い,DASC-21総得点の判別能を評価した.感度,特異度,および曲線下面積(ROC-AUC)を算出し,Youden Index(感度+特異度-1)に基づいて最適カットオフ値を決定した.
2) Validation群を対象とした分析Derivation群の解析結果に基づき,Validation群をDASC-21スコアにより3群に層別化した.Derivation群のROC解析で得られた最適カットオフ値未満を低リスク群,最適カットオフ値以上かつ31点未満を中リスク群,既存の認知症スクリーニング基準である31点以上を高リスク群とした.各リスク群におけるせん妄症状の発症を評価するため,死亡を競合リスクとして考慮したCumulative Incidence Function(CIF)曲線を用いた解析を実施した.観察期間は入院後30日とし,群間比較にはGray検定を用いた.
3) 感度分析術後は,鎮静管理や意識障害などにより,実質的にせん妄症状の評価が困難な期間が生じる可能性があり,このようなケースのほとんどはICU入室患者で発生する.ICU入室患者(n = 169, 22.0%)を除外したDerivation群(n = 600)において,ROC解析およびFirthのペナルティ付きロジスティック回帰分析を実施した.さらに,得られたカットオフ値に基づきICU入室患者を除外したValidation群(n = 173)を分類し,同様にCIF曲線およびGray検定を用いて,主解析との一致を確認した.
5. 倫理的配慮本研究は手稲渓仁会病院の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2-024433-00).対象者に対しては,対象施設のホームページ上に研究目的や方法の概要について公開し,オプトアウトの機会を設けた.また,概要には研究結果の公表にあたっては個人が特定されないようにする旨を併せて明記した.
対象者はDerivation群769名,Validation群222名の計991名であった.Derivation群では,せん妄症状の発症は79名(10.3%)に認められ,入院から初回せん妄症状が出現するまでの日数の中央値(IQR)は2.7(1.7~5.3)日であった.せん妄症状の有無による比較では,せん妄症状を認めた対象は年齢中央値と男性割合が高く,脳器質障害,せん妄の既往,アルコール多飲およびICU入室の割合が有意に高かった.術前採血ではヘモグロビンやアルブミンが発症者で有意に低値であり,手術時間および出血量に統計的有意差があった(表1).
| せん妄症状なし(n = 690) | せん妄症状あり(n = 79) | P値 | ||
|---|---|---|---|---|
| 基本属性・背景因子(入院前) | ||||
| 年齢(歳),中央値(IQR) | 79.0(76.0~82.0) | 80.0(77.0~83.0) | 0.012a | |
| 性別 | 男性 | 344(49.9%) | 51(64.6%) | 0.013b |
| 脳器質障害 | あり | 169(24.5%) | 79(100.0%) | <0.001c |
| せん妄の既往 | あり | 12(1.7%) | 18(22.8%) | <0.001b |
| アルコール多飲 | あり | 37(5.4%) | 20(25.3%) | <0.001b |
| ベンゾジアゼピン | 内服あり | 1(0.1%) | 0(0.0%) | 0.999c |
| 採血検査値(術前) | ||||
| ヘモグロビン(g/dL),中央値(IQR) | 12.5(11.3~13.7)[n = 689] | 11.7(10.0~13.0) | <0.001a | |
| アルブミン(g/dL),中央値(IQR) | 4.0(3.7~4.3)[n = 687] | 3.8(3.5~4.1) | 0.002a | |
|
推算糸球体濾過量 (mL/min/1.73 m2),中央値(IQR) |
60.0(50.0~71.0)[n = 688] | 60.0(45.0~67.0) | 0.095a | |
| 尿素窒素(mg/dL),中央値(IQR) | 16.9(13.6~20.3)[n = 688] | 17.8(13.3~23.8) | 0.190a | |
| Cl(mmol/L),中央値(IQR) | 106.0(104.0~107.0)[n = 688] | 107.0(104.0~108.0) | 0.039a | |
| Na(mEq/L),中央値(IQR) | 140.0(139.0~142.0)[n = 688] | 140.0(139.0~141.0) | 0.932a | |
| K(mEq/L),中央値(IQR) | 4.2(4.0~4.5)[n = 688] | 4.2(3.9~4.5) | 0.339a | |
| C反応性タンパク(mg/dL),中央値(IQR) | 0.11(0.05~0.29)[n = 650] | 0.11(0.04~0.41)[n = 71] | 0.860a | |
| 手術関連要因 | ||||
| 手術時間(分),中央値(IQR) | 153.0(98.0~256.0) | 224.0(133.0~441.0) | <0.001a | |
| 麻酔時間(分),中央値(IQR) | 219.0(153.0~329.3) | 290.0(221.0~499.0) | <0.001a | |
| 出血量(mL),中央値(IQR) | 10.0(2.0~75.0) | 77.0(10.0~222.5) | <0.001a | |
| 術後ICU入室 | あり | 137(19.9%) | 32(40.5%) | <0.001b |
| 術式 | 開放手術 | 306(44.3%) | 37(46.8%) | 0.067c |
| 腹腔鏡・胸腔鏡下手術 | 276(40.0%) | 22(27.8%) | ||
| ロボット支援下手術 | 53(7.7%) | 12(15.2%) | ||
| 内視鏡手術 | 9(1.3%) | 0(0.0%) | ||
| 血管内治療 | 35(5.1%) | 7(8.9%) | ||
| その他 | 11(1.6%) | 1(1.3%) | ||
| 退院時転帰 | ||||
| 在院日数(日),中央値(IQR) | 8.5(5.0~15.0) | 16.0(7.0~27.0) | <0.001a | |
| 退院転帰 | 治癒・軽快 | 662(95.9%) | 69(87.3%) | 0.006c |
| 転院 | 26(3.8%) | 9(11.4%) | ||
| 死亡 | 2(0.3%) | 1(1.3%) | ||
IQR:四分位範囲,ICU:集中治療室
a Mann-Whitney U検定
b χ2検定
c Fisherの正確確率検定
欠測値が存在する項目については,各群の有効例数[n]をセル内に示す.
Validation群では,入院後30日以内におけるせん妄症状の発症は20名(9.0%)に認められ,入院から初回せん妄症状が出現するまでの日数の中央値(IQR)は3.5(2.8~4.3)日であった.Derivation群とValidation群の背景因子の比較を付録1に示す.両群間で脳器質障害(32.2% vs 3.2%)およびアルコール多飲(7.4% vs 0.0%)の割合に有意差が認められた.
2. DASC-21とせん妄症状の関連性とカットオフ値Derivation群において,DASC-21総得点は,せん妄症状なし群(中央値22.0[IQR 21.0~23.0]点)と比較して,あり群(中央値24.0[IQR 22.0~36.0]点)で有意に高かった(P < 0.001).しかし,既存のDASC-21のカットオフ値(31点)を用いた場合,せん妄症状を発症した患者の72.2%(n = 57/79)がカットオフ値未満であった(図2).

DASC-21:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント
Derivation群における単変量解析(Model 1)では,DASC-21総得点はせん妄症状の有無と有意に関連していた(オッズ比[OR]1.10,95%CI 1.07~1.14,P < 0.001)(表2).
| 変数 | Model 1 単変量 | Model 2 | Model 3 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| OR | 95%信頼区間 | P値 | OR | 95%信頼区間 | P値 | OR | 95%信頼区間 | P値 | |||
| DASC-21総得点 | 1.10 | 1.07~1.14 | <0.001 | 1.07 | 1.03~1.11 | 0.001 | 1.08 | 1.04~1.13 | <0.001 | ||
| 年齢(歳) | 1.09 | 1.03~1.14 | 0.001 | 1.07 | 1.00~1.14 | 0.046 | |||||
| 性別(ref. 女性) | 1.82 | 1.13~2.97 | 0.013 | 3.29 | 1.80~6.28 | <0.001 | 3.34 | 1.85~6.30 | <0.001 | ||
| せん妄の既往(ref. なし) | 16.33 | 7.68~35.84 | <0.001 | 4.88 | 1.59~15.53 | 0.007 | 4.90 | 1.56~15.28 | 0.007 | ||
| アルコール多飲(ref. なし) | 6.00 | 3.25~10.87 | <0.001 | 3.77 | 1.81~7.67 | 0.001 | 3.61 | 1.73~7.32 | 0.001 | ||
| 手術時間(分) | 1.00 | 1.00~1.01 | <0.001 | 1.00 | 1.00~1.01 | 0.003 | 1.00 | 1.00~1.01 | <0.001 | ||
| ICU入室(ref. なし) | 2.75 | 1.69~4.45 | <0.001 | 2.01 | 0.94~4.25 | 0.086 | |||||
| ヘモグロビン(g/dL) | 0.77 | 0.68~0.87 | <0.001 | 0.76 | 0.65~0.88 | <0.001 | 0.75 | 0.65~0.86 | <0.001 | ||
| アルブミン(g/dL) | 0.50 | 0.33~0.78 | 0.005 | 1.11 | 0.81~1.28 | 0.278 | |||||
OR:オッズ比,DASC-21:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント,ICU:集中治療室,ref.:参照カテゴリー
Model 2:事前に選択した全変数を投入したモデル.術式を調整変数として投入した.
Model 3:DASC-21を強制投入したbackward法(P > 0.05の変数を順次除外)によるモデル.空白は当該モデルに含まれなかった変数を示す.
多変量解析(Model 2)において,年齢,性別,せん妄の既往,アルコール多飲,手術時間,ICU入室,術前ヘモグロビン,術前アルブミンおよび術式を調整した後も,DASC-21総得点とせん妄症状発症の有意な関連が認められた(調整済みOR 1.07,95%CI 1.03~1.11,P = 0.001).DASC-21を強制投入し,Model 2における他の変数をbackward法によって選択したモデル(Model 3)においても,DASC-21総得点の有意な関連は維持された(調整済みOR 1.08,95%CI 1.04~1.13,P < 0.001).Model 3ではDASC-21に加え,性別,せん妄の既往,アルコール多飲,手術時間およびヘモグロビンが含まれた.
ROC解析の結果,DASC-21総得点の判別能を示すAUCは0.71(95%CI 0.65~0.78)であり,Youden Indexが最大となるカットオフ値は24点であった(図3).このカットオフ値における感度は0.56,特異度は0.80であった.

DASC-21:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント
Derivation群で得られたカットオフ値に基づき,Validation群を低リスク群(DASC-21 < 24点,n = 166),中リスク群(24~30点,n = 43),高リスク群(≥31点,n = 13)に分類した.死亡を競合リスクとして考慮したCIF曲線による解析では,DASC-21スコアが高い群ほどせん妄症状発症率が有意に高かった(Gray検定,P < 0.001)(図4).30日累積せん妄症状発症率は低リスク群4.8%,中リスク群16.8%,高リスク群71.3%であった.

DASC-21:地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント
曲線中の短線は打ち切りを示す.観察期間中に死亡例は認めなかったため,競合リスクとしての死亡イベントは発生しなかった.
ICU入室患者(n = 169, 22.0%)を除外した感度分析を実施し,主解析の結果への影響を検討した.Derivation群(n = 600,せん妄症状あり47名[7.8%])において,DASC-21総得点のROC-AUCは0.74(95%CI 0.66~0.83),最適カットオフ値は23.5点(感度0.62,特異度0.79)であり,主解析(24点)と同様の結果であった(付録2).Firthのペナルティ付きロジスティック回帰分析の結果,Model 2(OR 1.06, 95%CI 1.02~1.11, P = 0.008)とModel 3(OR 1.07, 95%CI 1.03~1.12, P = 0.003)において,DASC-21総得点はせん妄症状発症と有意に関連した(付録3).
得られたカットオフ値(23.5点)に基づき,ICU入室患者を除外したValidation群(n = 173,せん妄症状あり16名[9.2%])を分類したところ,高リスク群では対象者数が少ないものの,主解析と同様に3群の30日間のせん妄症状発症率に有意差が認められた(低リスク群5.2%,中リスク群15.9%,高リスク群81.7%,Gray検定P < 0.001)(付録4).
本研究では,全身麻酔手術を目的に急性期病院に入院した高齢患者を対象に,入院前のDASC-21評価によってせん妄症状リスクを評価できるかを検証し,その最適なカットオフ値を明らかにした.せん妄発症は素因と誘因の相互作用によって規定されるという多因子モデル(Inouye & Charpentier, 1996)に基づけば,認知・生活機能の低下を捉えるDASC-21は,素因を定量化する指標に位置付けられる.また,せん妄症状の判定に急性発症または症状の変動を必須条件とし,術前から継続する慢性的な認知機能低下とは明確に区別した.この枠組みのもとで実施したロジスティック回帰分析において,年齢や既知のせん妄リスク因子を調整した後も,DASC-21総得点はせん妄症状発症の独立した関連要因であることが3つのモデルで一貫して示された.DASC-21が認知機能に加えIADLを含む生活機能を包括的に評価し,単一の認知機能評価ツールでは検出できないせん妄発症の脆弱性をより多面的に反映することが示唆された.
既存のカットオフ値(31点)を適用した場合,せん妄症状を発症した患者の72.2%がリスク患者に該当しないことが明らかとなった.この基準は地域包括ケアシステムを前提とした認知症スクリーニングのための閾値であり(Awata et al., 2016),急性期医療におけるせん妄のリスク検出を目的としたものではない.一方,認知症の既往のない65歳以上の人工関節置換術患者を対象とした前向き研究では,Mini-Cogによる術前認知機能スクリーニングで認知機能低下が認められた患者において術後せん妄の発症率が有意に高かった(Culley et al., 2017).Pas et al.(2022)によるnarrative reviewでは,認知症の診断に至らない軽度認知機能低下においても,周術期せん妄のリスクが高いことが指摘されている.本研究の結果はこれらの知見と一致するものであった.さらに,急性期医療の入院患者においては様々な誘因が重複するため(中島ら,2024),軽度の認知・生活機能低下を有する患者においてもせん妄リスクが顕在化しやすい.このことから,急性期医療のせん妄リスク患者の同定には,認知症スクリーニングよりも低い閾値が必要である.導出したカットオフ値(24点)は,DASC-21の一部項目の軽度の変化で到達しうる点数であり,潜在的なリスク患者を広く抽出するための判断基準として機能する可能性がある.ROC解析で得られたDASC-21総得点のAUC(0.71)は,他の術前認知機能評価ツールを用いた先行研究で報告されているAUC(0.61~0.74)(Segernäs et al., 2022;Moellmann et al., 2024)の範囲にあり,既存ツールと同等の判別能であった.
DASC-21によるリスク層別化により,Validation群において3群間のせん妄症状発症率に有意差が認められた.せん妄症状発症までの期間の中央値はDerivation群で2.7日,Validation群で3.5日であり,発症は入院後早期に集中していた.この結果には,入院による急激な環境変化(Ryman et al., 2019)に加え,手術侵襲(Bramley et al., 2021)や疼痛(White et al., 2024)といった複数の誘因が入院後早期に重積することが関連していると考えられる.本研究における発症時期のデータは,入院前の段階で高リスク患者をあらかじめ同定しておくことの重要性を示すものである.
Derivation群とValidation群の間で脳器質障害の割合に顕著な差が認められた(32.2% vs 3.2%).また,アルコール多飲に該当する患者の割合も2群で有意に異なり,これらの要因の偏りが,Derivation群でのカットオフ値の導出に影響した可能性は否定できない.脳器質障害やアルコール多飲はせん妄リスクを高める要因であることから(小川・佐々木,2019),Validation群は相対的に低リスクの患者集団であったことが推察される.このような不均衡は,両群のデータ収集時期の違いによる患者背景の時間的変動に起因するものと考えられる.一方で,一部の背景因子に群間差が認められたものの,Validation群の3群間のせん妄発症率の差が維持されたことから,得られたカットオフ値は異なる患者背景を有する集団においても活用できる可能性がある.
ICU入室患者はDerivation群において169名(22.0%),Validation群では49名(22.1%)であった.ICU入室患者では,鎮静管理や重症度の影響によりせん妄症状の評価が制限される可能性を考慮し,ICU入室の有無を代理指標として感度分析を実施した.その結果,主解析と同様の結果が得られたことから,ICU入室の影響は限定的であると考えられた.一方で,ICU入室という代理指標は薬剤使用や病態変化を直接的に反映する指標ではないため,これらを詳細に評価していない.今後は,鎮静薬使用や意識レベルなどを考慮したより精緻な検討が必要である.
臨床におけるせん妄ケアについて,一般病院の看護師の9割以上がせん妄ケアに困難を感じており,人員不足がその主な要因であることが報告されている(鳥谷ら,2012).このような臨床状況において,DASC-21を術前オリエンテーションなどで評価することで,早期にリスクの高い患者を同定し,限られた看護資源を優先的に投入すべき患者選定に活用できる可能性がある.今後は,DASC-21によるリスク層別化とそれに応じた予防的介入を組み合わせることを検討し,その有効性を検証していくことが求められる.
本研究にはいくつかの限界がある.第一に,単一施設を対象とした後ろ向き観察研究であるため,得られたカットオフ値の外的妥当性については他施設での検証が必要である.第二に,主要アウトカムであるせん妄症状は臨床診断ではなく,DELTAプログラムのせん妄アセスメントシートに基づく症状評価である.本評価は急性発症または症状の変動を基準としたが,臨床現場での判断に依存するため,一部の症例では慢性的な認知機能低下との完全な識別が困難であった可能性がある.また,重症度や持続期間といった質的側面は評価できておらず,一部の症例に誤分類が生じた可能性は否定できない.第三に,収集した変数はせん妄発症に関連する因子の一部に留まっており,未測定の交絡因子の影響を完全に排除することはできない.特に,術後の安静度や薬剤使用など,一部の臨床情報は電子カルテの構造上,系統的な取得が困難であった.第四に,イベント数が限られていたことに加え,一部の調整変数において該当するカテゴリの症例数が少なかったため,オッズ比の信頼区間が広く,推定の安定性に限界がある.この影響を軽減するためにFirthのペナルティ付きロジスティック回帰分析を用いたが,推定精度には依然として限界がある.一方で,DASC-21総得点の関連性については複数のモデルで一貫した結果が得られており,主要な結論への影響は限定的であると考えられる.
全身麻酔手術を目的に急性期病院に入院した高齢患者において,入院前に評価したDASC-21総得点はせん妄症状発症の独立した関連要因であり,その最適カットオフ値は24点であった.このカットオフ値によるリスク層別化に基づき,Validation群においてもせん妄症状発症率に有意差が認められた.これらの結果から,DASC-21は,全身麻酔手術を受ける高齢患者のせん妄症状のリスク評価に活用できる可能性が示唆された.
付記:本論文の一部内容は,第34回日本老年学会総会(老年看護学会)において発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました患者とご家族の皆様,対象施設の看護師の皆様に御礼を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:山口真弥,佐藤加奈子および安西啓恵は研究の着想およびデザインに貢献;山口真弥は統計解析の実施および草稿の作成;佐藤加奈子および安西啓恵は原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.