2026 年 46 巻 p. 65-73
目的:地域で暮らす統合失調症を経験している人の自己成長感を明らかにすることである.
方法:統合失調症を経験している10名を対象に,個別の半構造的面接を実施し,自身が感じている成長に関する回答内容を質的記述的に分析した.
結果:統合失調症を経験している人の自己成長感は,【喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している】【病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている】【病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している】【他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている】の4つのカテゴリが生成された.
考察:統合失調症を経験している人の自己成長感は,希望と不安などの間でゆらぎつつ自己調整を重ねて前進が実感される,喪失と前進が併存する「ゆらぎの中の成長感」であり,生き方の再構築感,新たな意味づけ感,自分らしさの回復感,他者との共生感によって特徴づけられることが示唆された.
Aim: This study aimed to clarify the nature of feeling of self-growth among community-dwelling individuals with schizophrenia.
Methods: Ten individuals diagnosed with schizophrenia were recruited. Semi-structured interviews were conducted individually, and responses regarding feeling of self-growth were analyzed qualitatively using an inductive approach.
Results: Four categories emerged regarding feelings of self-growth in individuals with schizophrenia: “reconstructing one’s life while coming to terms with loss and reality,” “discovering new meaning in one’s experiences with schizophrenia and events in one’s daily life,” “understanding and accepting oneself and one’s condition while rediscovering the self,” and “rebuilding connections with others while deepening one’s relationships to the point at which mutual support is possible.”
Discussion: Feelings of self-growth in individuals with schizophrenia are a combination of loss and advancement described as “a sense of self-growth amid instability” resulting from repeated self-adjustment and advancement while wavering between feelings such as hope and anxiety. Results suggest that this process is characterized by reconstructing one’s life, discovering new meaning, recovering one’s sense of self, and feeling connected to others.
統合失調症の幻覚や妄想といった症状は,本人の生活に大きな影響を及ぼす.しかし症状が軽減しても,病気の経験がもたらす苦悩は容易に消えるものではない.スティグマや人間関係の変化,将来への不安などが重なり,当事者の内面に影響を与える.当事者は診断を受けた際に不安・混乱・戸惑いを経験し(藤本・川口,2008),発病後には「絶望感」「孤独感」「人生が終わった感」といった深刻な感情に苛まれ,これらは過去の記憶にとどまらず現在の生活にも影響を及ぼす(今野・大森,2021).また,入院の経験がトラウマ体験となる場合も報告されている(藤本,2022).このように,統合失調症の経験は,症状の苦痛だけでなく,社会的・心理的な苦悩を伴う複合的な困難として影響する経験である.
一方,苦悩の経験が肯定的な変化の契機となる可能性が報告されている.例えば,精神疾患の初回エピソード後の調査(Jordan et al., 2018)やメンタルヘルスの問題を抱える人々を対象とした調査(Slade et al., 2019)では,自己発見,人間関係,人生への感謝,スピリチュアルな変化などの肯定的な変化が報告されている.しかし,これらの研究は対象者の診断が多様であり,診断未確定例も含むため,統合失調症の経験に特有の様相は十分に捉えられていない.また,症状が軽度なほど肯定的な変化を経験しやすい可能性も示され(Yael et al., 2020),その体験は個人差が大きいと考えられる.統合失調症は,長期経過,再発リスク,スティグマなど他の疾患と異なる様相を示す可能性があり,診断に特化した検討が必要である.統合失調症の経験に焦点を当てた調査(Fujimoto, 2020)では,約7割が病気の経験を通じ自己の成長を感じたと報告しているが,当事者がどのような成長をどのような手応えとして実感しているのかは明らかにされていない.
宅(2004)は,ストレス体験を通じて得られる「自分が成長しているという実感や手応え」を「自己成長感」と定義し,その形成には体験の意味づけや対処の仕方が関与し,Quality of Life(以下,QOL)の向上に寄与する可能性があると述べている.近年,心理学領域では「成長」は結果ではなく,出来事との向き合いの中で生じる内的変化が相互に影響し合うプロセスとして捉えられている.Maurer et al.(2023)のPersonal Growth Process(以下,PGP)モデルでは,困難な出来事に対する感情・思考の変化,自己理解の再構成,他者関係の見直しなどが段階的に生じ,それらが個人の成長につながるとされる.本研究では,この自己成長感を,統合失調症という長期にわたる病いの経験において,苦悩と共存しながらも当事者が主観的に感じる前進感として捉える.これは,心的外傷後成長(以下,PTG)(Tedeschi & Calhoun, 1996)や逆境から得られた利益の認知過程であるベネフィット・ファインディング(以下,BF)(Tennen & Affleck, 2002)と部分的に重なるが,日常の小さな変化を含む点に特徴がある.精神保健福祉分野では,リカバリーの概念(Anthony, 1993)が提唱され,Leamy et al.(2011)はそのプロセスを「つながり」「希望」「アイデンティティ」「意味」「エンパワメント」からなるCHIMEモデルとして整理している.リカバリーは当事者が自分らしく生きることを目指すプロセス概念であり,QOLは生活の質というアウトカム概念である.両者は当事者の主観を重視する点で共通し,自己成長感はその交差領域に位置づけられると考えられる.Fujimoto(2020)は,統合失調症を経験する人が病気に伴う困難をどのように捉え,乗り越えていくかを理解することが,自己成長感の理解や支援において重要であると指摘している.しかし,当事者が日常生活の中で自己成長感をどのように感じているのかを明らかにした研究は少ない.また,個人背景や社会的背景の違いにより成長感のあり方が異なる可能性もある.まずは統合失調症を経験する人々に共通する自己成長感を明らかにすることが,今後の比較検討の基盤となると考えられる.
そこで本研究は,統合失調症を経験している人を対象に,統合失調症の診断以降の日常生活の中で感じた自己成長感を明らかにすることを目的とする.当事者の語りをもとに,自己成長感を記述することで,リカバリーのプロセスを支援する一助となると考える.
地域で暮らす統合失調症を経験している人が,統合失調症の診断以降の日常生活の中でどのような自己成長感を感じているのかを明らかにする.
自己成長感:本研究では,統合失調症の経験に結びついた,本人の主観的な実感に着目する.宅(2004)の「自分自身が成長しているという実感や手応え」およびPGP(Maurer et al., 2023)を参考に,「統合失調症を経験したことに伴う苦悩や不確かさを抱えながらも自分の人生が前に進んでいる実感や手応え,気づき」と定義した.
2. 研究対象者富山県のホームページに公開されている障害福祉サービス事業所(就労継続支援B型)75施設のうち,研究協力を依頼し承諾が得られた5施設の職員に研究対象者の推薦を依頼した.推薦に際し,地域で生活し,精神症状が安定しており,研究参加の可否を自ら判断でき統合失調症発症以降の経験を振り返り語ることができる者の推薦を依頼した.推薦を受けた11名に対し強制力が働かないよう,研究者より研究の概要,方法を書面,口頭にて説明し同意が得られた10名を対象とした.本研究は,統合失調症診断以降の自分の経験を振り返り語ることができることを必要とするため,認知症や知的障害を併存している人は除外した.
3. 調査期間2022年12月~2023年7月
4. 調査方法インタビューは個別にてインタビューガイドに基づく40分~1時間の半構造的面接を実施した.同意を得てインタビュー内容をICレコーダーに録音した.まず,統合失調症の診断を受けたことはどのような体験であったかについて質問した.その後,統合失調症を経験したことでこれまでの日常生活の中で自分が感じていることや変わったと感じること,自身の成長をどのように感じているか,統合失調症の経験があったことで気がつけたことなどについて質問した.対象者の語りに応じて,その時の具体的な状況や支えやきっかけ,そう感じた理由などの質問を加えた.肯定や否定はせず,受容的な態度で傾聴した.質問はポジティブな視点に焦点を当て質問をするが,対象者が自らつらい話題に触れた時は,質問により語りを深めることを一時中断し,心理的負荷を確認しながらインタビューの継続の可否を対象者に確認した.性別,年齢,統合失調症の診断を受けた時の年齢を属性データとした.
5. 分析方法本研究は,統合失調症の経験に伴う人生の前進の実感や手応え,気づきを当事者の語りから明らかにすることを目的としている.そのため,既存の理論的枠組みに当てはめず,語りの中から特徴を生成的に見いだすことが必要である.そこで,本研究は,グレッグら(2016)の質的記述的分析を参考に,対象者の語りに基づき自己成長感の特徴を抽出する方法を採用した.録音した内容から逐語録を作成し,統合失調症の診断を受けてから現在に至るまでの経験やその時の思い,関連している要素を把握しながら複数回読み込んだ.全体の内容を把握する過程で,必要に応じ前後関係や状況が理解しやすい文章となるよう補足を加えた.その後,統合失調症を経験したことにより本人が感じている前進の実感や手応え,気づきが語られている部分を抽出した.抽出は,できる限り具体的な状況・言動・手応え・気づきが記述されている部分を選んだ.抽出した内容をコード化し,類似点および相違点に基づき,サブカテゴリ,カテゴリを作成した.分析の全過程において精神看護学を専門としており,質的研究に精通した共同研究者によるピアレビューを行い,適宜,研究対象者のメンバーチェックを実施することで信憑性の確保に努めた.
6. 倫理的配慮研究対象者に,研究の目的,方法,個人情報やプライバシーの保護,研究参加協力や途中辞退の自由,結果の公表について口頭および書面にて説明し同意を得た.説明は対象者が理解しやすいよう,平易な言葉を用いるよう努めた.インタビューは対象者が安心できる場でかつ,プライバシーが確保された個室で実施した.インタビュー開始前に語りたくないことは語らなくてよいことを説明した.インタビュー中は研究対象者の表情や口調の変化の観察をし,適宜疲労感を確認し過度な負荷とならないよう留意した.また,自殺念慮やネガティブなことを自ら語ったときは,語りを傾聴することを優先し,心理的に負荷の高い内容が語られた際は,そのつらさに焦点を当て共感的に傾聴し,感情の整理をサポートした.さらに,インタビュー開始30分程度で,インタビュー継続の可否を確認し,インタビュー終了時にはインタビューを受けたことによる気分の変化等がないことを確認し終了した.本研究は富山県立大学「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認を得て実施した(承認番号:看護第R4-16).
対象者の内訳は,男性5名,女性5名,年齢は30歳代1名,40歳代4名,50歳代3名,60歳代2名で,年齢の中央値(四分位範囲)は52.5(45.5~58.8)歳であった.統合失調症の診断を受けた年代は10歳代3名,20歳代2名,30歳代3名,40歳代2名で,診断を受けた年齢の中央値(四分位範囲)は26.0(19.3~30.0)歳,診断後の経過年数の中央値(四分位範囲)は29.0(7.5~38.3)であった.
| ID | 氏名 | 性 | 年代 | 診断を受けた年代 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | A氏 | 女 | 30代 | 30代 |
| 2 | B氏 | 男 | 40代 | 30代 |
| 3 | C氏 | 女 | 40代 | 40代 |
| 4 | D氏 | 女 | 40代 | 40代 |
| 5 | E氏 | 男 | 40代 | 10代 |
| 6 | F氏 | 男 | 50代 | 20代 |
| 7 | G氏 | 女 | 50代 | 30代 |
| 8 | H氏 | 男 | 50代 | 20代 |
| 9 | I氏 | 男 | 60代 | 10代 |
| 10 | J氏 | 女 | 60代 | 10代 |
統合失調症を経験している人の語りから,当事者が感じている自己成長感として62コードを抽出し,12サブカテゴリ,4カテゴリを作成した.対象者の語り全体を通して,統合失調症の経験は現在においても不安やつらさを伴うものであり,必ずしも一貫した「前向きな変化」としてのみ語られているわけではなかった.診断や発症のショック,対人関係への恐れ,自責感などが語られており,病気を経験した自分をどのように受け止めるかについて迷い続けている様子がうかがえた.その一方で,これらの苦悩やゆらぎを抱えながらも,日常生活の中での小さな気づきや手応えを前進として捉え,自分なりの成長を感じていた.本研究で捉えた自己成長感は,安定した前向きさや達成ではなく,苦悩とゆらぎを伴いながらも自分にとっての前進感であった.
| カテゴリ | サブカテゴリ | コード |
|---|---|---|
| 喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している | 苦悩をもちながらも前に進みたいという気づきを感じた | 不安な気持ちはあるが病気に負けずにこれから頑張って生きていこうと思えた |
| 自分が変わりたいという気持ちが強くなり,自分からはいけないけど機会が与えられればやってみようと思えた | ||
| 人と関わるのが不安だけど,人とうまく関われるようになりたいと思えるようになった | ||
| 元気になりたい自分があるが,考えれば考えるほど人が怖くなったり緊張して元気がなくなることがあることに気づけた | ||
| 現実と折り合いをつけながら生活を調整した | 思い通りにならないことも多く,なるようにしかならないと思えるようになった | |
| 死のうと思うほどつらい時期もあったが,人生いいこともあれば悪いこともあると思えるようになった | ||
| 自殺しようと思ったこともあったが人生つらことばかりではなくいいこともあると思えた | ||
| いいときもあれば悪いときもあるが,悪いときは休んでまた上がればいいと思えるようになった | ||
| 喪失を経て今できることへ視点が移った | 病気になったことで,どん底に突き落とされた感じがあったが,底を知っているからこそ上がるだけだと思った | |
| 病気になって諦めないといけないことはあったが,それでも自分でもできることを探してやってみようと思った | ||
| 結婚や就職も無理なので,今の環境の中で過ごそうと思えるようになった | ||
| 将来どうなりたいかは考えることができないが,今の目の前のことでなりたい自分がみえてきた | ||
| 若いころ(発病前)に思い描いていた夢を諦めたことで楽になった | ||
| 将来のことは深く考えなくなったが,明日くらいの未来のことは考えられるようになった | ||
| 自分で自分のことができたことや頑張って生きたことで,この先のことを考えるのではなく,生きるために生きているということを感じた | ||
| 生活を整えるための具体的な工夫をした | 毎朝つらいため,自分なりの方法でモチベーションを高めながら過ごし,一日が終わった時に頑張った自分を褒めようと思った | |
| 仕事と生活を豊かにするためにはどうしたよいのかについて常に考えるようになった | ||
| 叶わないこともあるからこそ,ストレスの発散方法を考えるようになった | ||
| いじめられた経験もあり人を信じられず話すことが嫌であったが,このままではだめだと思い自分から挨拶するようになった | ||
| 病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている | 日常の価値を再発見した | 他者がいてくれたり,仕事に来れるだけでも幸せを感じるようになった |
| 一日一日をもったいないと思うくらい丁寧に過ごすようになった | ||
| 病気のことなどを勉強することで豊かに過ごせるようになり一日一日をより大切にできるようになった | ||
| 経験や生活の意味づけをした | 統合失調症にならなかったら自分は冴えない人間になっていたと思えた | |
| 病気になってできなかったことをつらかったけど教えてもらいながら頑張ってやっているうちにわかるようになり,やればできるのではないかということがわかった | ||
| 精神科に通院しているからこそ自分の心を大切にしようと思った | ||
| 自分の病気と向き合っていく中で仕事に対する意識も変わり,できないことができるようになる感覚がもてるようになってきた | ||
| 病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している | 自分の気持ちや弱さに気づき理解が深まった | 病気になる前は人間関係で無理して疲れていたのではないかと思えるようになった |
| 自分の弱さがわかり,弱い自分がいることを知った | ||
| 病気になる前の自分は一生懸命になっていてくたくたに疲れていたのではないかと思う | ||
| 自分のために自分の心と向き合っていく大切さを感じた | ||
| どこか自分に悪いところがあるから病気になったと思うので,どうしてうまくいかないのかやどうしたらうまくできるのかを自分の心の中で考えるようになった | ||
| 自分を大切にし無理をしない選択ができた | 自分の中の疲れを自分が認めることができるようになった | |
| 自分の中で外に出してよい部分と中に秘めたほうがよい境界を考えるようになった | ||
| 人に合わせるのではなく,自分を守るために自分のことを優先にして考えられるようになった | ||
| 自分が今まで苦手としていたことを少しずつ勇気を出してやってみようと思えた | ||
| 病気になる前の自分は頑張りすぎていたことに気がつき,自分の感情に素直になろうと思えた | ||
| 病気を抱える自分を受け入れ肯定的に見られるようになった | 今が充実しているからかもしれないが,こんな自分でも変わってもいいのかもと思えた | |
| 自分の弱さを受け入れたり,自分を見つめ直すことができた | ||
| 自分の性格を受け入れ,いいふうに考えられるようになったことで心が穏やかになってきた | ||
| 病前は短気な性格だったが,イライラせずに受け入れられるようになった | ||
| 病気と一緒にうまく暮らすことができている感覚がでてきた | ||
| 病気の自分を受け入れ付き合っていこうと思えた | ||
| 仕事を休まずに続けられていることで自信がもてた | ||
| 他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている | 他者との距離が縮まり他者を信じられるようになった | 人が嫌がる病気に罹患したと思っており今でも友達には話せないが,同じ病気をもつ仲間には少しは話せるようになった |
| 知らない人にはちょっと言いにくいけど,自分が統合失調症であることを他者に知られても恥ずかしく思わないようになった | ||
| 病気の症状が改善してきたら自分のことを話すことができるようになった | ||
| 病気の症状がつらいときは話すことができなかったが,今は自分のことを話すことができるようになった | ||
| 人と話すことが苦手で挨拶することも勇気が必要であったが,小さな経験の積み重ねで自分が変わってきた | ||
| 人と関わることを避けていたが,誰か自分のことを理解してくれるのではないかと思えるようになった | ||
| 人を信用していなかったが,信じられるようになった | ||
| こわいけどいろいろな経験や背景をもつ人とうまく関われるように努力するようになった | ||
| 他者を頼り支えを受け入れられるようになった | 人に頼ることが好きではなかったが,頼るようになった | |
| 引け目を感じてはいるが,親に甘えられるようになった | ||
| ずっと一緒にいて疲れない人がそばにいてくれていると思うと自分はひとりではないと思えた | ||
| 同じ障害をもつ仲間がいることで自分が守られているように感じるようになった | ||
| 自分の話を聞いてもらえるという安堵感を感じることができるようになった | ||
| 支えてくれる人がいるので,無理をしなくてよいと思えた | ||
| 自分の人生や病気の体験を人に話せたことで自分がケアされた感覚がでて,体と気持ちが楽になった | ||
| 他者を大切に思い共感したり自分から関係を深められるようになった | 自分ひとりではないと思うようになり,人を大切にすることができるようになった | |
| 死んだら困ると思えるほど家族以外の人を大切に思えるようになった | ||
| 自分が夢や希望を諦めた経験があるからこそ,人の身になって考えられるような感覚がでてきた | ||
| 同じ病気をもつ人の体験談を聞いて,自分よりもつらい体験をしている人がいることを知り,自分の体験を振り返ることで人のつらさがわかるようになった |
以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,語りを「斜体」とする.( )は補足を加えた箇所である.
なお,研究対象者からの匿名性の担保に関する意向に沿い,研究対象者の語りにID番号は付さないこととした.
1) 【喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している】このカテゴリは,統合失調症の経験による喪失や不確かさを抱えながらも,自分にできる形で生活を調整し,自分なりの生き方を再構築していく過程を示していた.統合失調症に伴う不安や迷いを抱えながら,変わりたい・生きたいという前向きな気持ちの芽生えに気づき,現実の生活の中で折り合いをつけ,喪失を抱えながらも今できることへ視点を移行し生活を整えるための工夫が語られていた.4つのサブカテゴリで構成されており,〈苦悩をもちながらも前に進みたいという気づきを感じた〉〈現実と折り合いをつけながら生活を調整した〉〈喪失を経て今できることへ視点が移った〉〈生活を整えるための具体的な工夫をした〉であった.語りの中には,「元気になりたいけど.なかなか難しくてね.(中略)振り返っても,もう戻れんまいけど.人が怖くなる時があって.でも戻れなくてもここから抜け出したいと思うことが成長なのかも.」と怖さを感じながらも変わりたいという思いをもてたことを成長と捉えていた.また,「気持ちが楽になった部分もあるし,なるようにしかならんから,毎日できるようなことはほんとはせんなんですけど.」と,自分にできる範囲で現実に合わせて生活を整えようとしたり,「若い頃は,結婚もしたいし(異性と)付き合いたいしいろんなことありました.(中略)友達は出世していくし,(友達には)負けたくないなと思ったこともあります.でも,だんだん諦めがついて考えなくなりました.(諦めたことは)マイナスではないんです.自分にできることやろうって思えるようになったんです.」と,描いていた夢や将来への期待を諦めざるを得なかった苦悩を受け入れたことで,新たな生き方の再構築につながっていた.生活面では,「(車をもっている)友達とたまには外食出かけたり,ドライブ,ちょっとした気分転換にもなるしね.もう今度は車買うことはできんと思うっちゃね.だから,そうなった時に,どうやってストレス発散するかとか,いろいろ考えますよ」と将来の夢や理想の喪失を抱えながらも実際の生活や環境に合わせた工夫を重ねる姿が見られた.
2) 【病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている】このカテゴリは,統合失調症の経験により日常生活や出来事の捉え方が変わり,当たり前だったことの価値や時間の意味が再構築されていることを示していた.当たり前と感じていたことや否定的に捉えていた経験を肯定的に意味づけ,日常生活に新たな視点を見いだしていることが語られていた.2つのサブカテゴリで構成されており,〈日常の価値を再発見した〉〈経験や生活の意味づけをした〉であった.語りの中には,「毎日,仕事出てこられるだけでも幸せだなって最近感じられるようになってきましたね.」と,以前は見過ごしてた価値に気づき,喜びや満足を感じていた.また,「せっかく精神科通わさせてもらってるんで,やっぱ心の目を重視して頑張っていこうかとは思ってるんですけど.自分の生き方のスタイルを変えてくれた病気だと思います.プラスに捉えたらですけど.プラスしかなかったような気がしますね.自分にとって,やっぱり病気になる前よりは心が豊かになったと思います.」と,病気があったからこそ自分が変われたと,病気の経験そのものを肯定的に意味づけており,人生観の変化が語られていた.
3) 【病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している】このカテゴリは,統合失調症の経験を通して,自分の感情・弱さに向きあうことで自己理解が深まり,病気をもつ自分を受け入れ無理をしない自分らしい生き方を選択できるようになる過程を示していた.否定的であった自己像が徐々に緩和し,自己を肯定的に捉えられるようになる様子が語られていた.3つのサブカテゴリで構成されており,〈自分の気持ちや弱さに気づき理解が深まった〉〈自分を大切にし無理をしない選択ができた〉〈病気を抱える自分を受け入れ肯定的に見られるようになった〉であった.語りの中には,「精神病になるということは,やっぱりどこか自分で悪いところがあるから精神病になったんじゃないのかなって思ってまして.常に,何が悪いんだろうとか,自分と周りの人を良くするためにはどうしていけばいいんだろうかとか,そういうことを考えるようになりました.」と自分を責めたり,迷いを抱えながらも自分自身と深く向き合う姿があった.また,「自分を守るためというか,無理しないように.自分を優先に考えられるようになったというか.前は結構,人の目とか気にして,ちょっとなんか明るく振舞おうとかいい子に振舞おうとかって思ってたんですけど」と,他者の期待よりも自分の気持ちを優先し,自己を守る選択ができるようになったり,「病気と一緒に,病気と共に暮らしてる感じです.うまいこと付き合ってるんじゃないかなと自分では思うんです」と,病気と共に生きる自分を肯定的に受け止める様子が見られた.
4) 【他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている】このカテゴリは,統合失調症経験後に希薄化した他者とのつながりが少しずつ回復し,支援を受けながら相互的な関係へと発展していく過程を示していた.他者への不信や距離の取り方の難しさを抱えながらも,信頼や安心感,共感が再構築されていた.3つのサブカテゴリで構成されており,〈他者との距離が縮まり他者を信じられるようになった〉〈他者を頼り支えを受け入れられるようになった〉〈他者を大切に思い共感したり自分から関係を深められるようになった〉であった.語りの中には,「(病気になる前は)いつも黙っとってすぐどこかへ行ってしまうとか,どこかへ逃げる感じ.(中略)一人になろうとか思っていたのが,(今は)やっぱ誰かと一緒にいれば分かってもらえるかもって思って,自分のこと.」と,過去には他者との関係を避けていたが,現在では他者との関係を築こうとする意欲の芽生えがあった.また,「今,こういう中にいるから守られてるんです(中略).一般企業行ったらそら大変だと思いますよ.あいつは精神病やいうてばかにされたりとか.やっぱりこういう,僕みたいに障害持っとる人たちが結構いるっちゅうことと,あと,どういうふうに生きていこうかとか,そういうことをやっぱり.生きやすくなったような気がします.過ごしやすく.だから,今(アパートに)住んでるんですけど,(住んでる階の人)みんな知ってます,僕の病状のこと.だから別に恥ずかしがることもないし.でもその,それより出たところではやっぱり言いません.やっぱりちょっと嫌だね」と,他者との関係の中で信頼や安心を回復させてはいるが,その範囲はまだ限定的であることも語られていた.そのような中でも,「やっぱり仲間見とって,自分もこういう障害もって,人の身になって考えれるような感覚が出ました.いや,それはみんなそうじゃないんですか.(中略)分かるんです,自分も(つらい)経験したから.だから,そういうやつらにちょっと優しい言葉かけてやったりとか.」と,自身の経験をもとに他者の苦しみに共感し,自らも他者を支える行動へとつながっていた.
本研究の対象者は,困難さや諦め,スティグマ,対人不安,自責感などを語っており,統合失調症の経験が症状だけでなく,心理・社会的にもつらいものであったことがうかがえた.一方で,苦悩を抱えながらも,日常生活の中で生じる小さな手応えや気づきを成長として実感する語りもあり,自己成長感は【喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している】【病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている】【病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している】【他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている】の4要素に整理された.本研究で捉えた自己成長感の特徴は,否定的感情や困難が解消された後に一方向へ進む安定した変化ではなく,希望と不安,前進への意欲とためらいといった相反する体験が併存しながら形成されている点にある.元には戻れないという感覚を抱えつつも抜け出したい,支援的な環境では自己開示できる一方で場面によっては語らない選択をしている,将来への期待を諦めながらも今できることへ視点を移して生活を整えていくことなど,ゆらぎを含んだ語りが認められた.これらの語りは,喪失や不安を抱えたままでも,日常生活の中で自己調整を重ねることにより,前進の実感が積み重なっていく様相を示している.すなわち,本研究で示された自己成長感は,喪失や苦悩と前進が併存する「ゆらぎ」の中で形成される成長感であると考えられる.
【喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している】は,将来像のゆらぎや喪失,不安などの苦悩を抱えながらも,変わりたい・抜け出したいなどの思いに気づき,自分にできる範囲で現実と折り合いをつけ生活を整えていく様相であった.対象者は,前のようには戻れないという感覚や理想と現実のギャップを抱えつつ,現実に合わせた生活を模索し,その中で感じられる小さな前進を成長として捉えていた.統合失調症は思春期・青年期に発症することが多く,学業や就労,結婚などのライフイベントが大きくゆらぐ疾患である.描いていた将来の再構成を迫られる中で,喪失を抱えつつも今できることへ視点を移し,生活を整える工夫を重ねることが自己成長感の基盤となっていると考えられる.
【病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている】は,それまで当たり前と思っていた日常や否定的に捉えていた出来事の価値を再発見し,新たな視点から意味づけられている実感を示していた.仕事や日々の生活ができることへの感謝,時間を大切に生きる変化など,日常の小さな喜びへの気づきが語られており,出来事の捉え方が変化する中で,自己の成長や豊かさの実感へとつながっていた.一方で,統合失調症は症状の不安定さや再発のリスクを伴うため,意味づけが常に安定しているわけではない.不安定さの中で小さな価値に気づき,意味を更新し続ける姿勢が,自己成長感を支えていると考えられる.
【病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している】は,自己否定から自分の弱さや感情への気づきを経て,自分を大切にする選択へ変化する様相であった.当初は自責感や他者との比較による自己否定をしていたが,日々の生活の中で自分の状態を見極めながら休むことを選んだり,人の目よりも自分の気持ちを優先するようになっていた.これは,他者や社会の期待に左右されるのではなく,自分がどうしたいか,何が安心かといった内的基準を重視する思考への転換であり,病気による孤立感や自己をうまくコントロールできない感覚を乗り越え,自分の判断で行動を選び取る力を取り戻していく心理的過程といえる.森ら(2021)は統合失調症者の自己概念の形成において,自己受容が重要な要素であると報告しており,本研究の対象者が自分の気持ちや弱さを受け入れながら自分らしさを再び取り戻していく過程と一致する.これらの語りは,統合失調症の経験によってゆらいだ自己像や生き方を日々の生活の中で少しずつ編み直していく営みとして捉えることができ,その積み重ねが成長として実感されていたと考えられる.
【他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている】は,発症後に希薄化した他者との関係性が回復し,支えを受け入れながら相互に支え合い共に生きる関係へと変化していくことを示していた.他者を受け入れる姿勢の変化,孤独感の軽減,他者への共感・思いやりといった要素が含まれており,他者を信頼し,支援を受け入れ,相手の苦しみにも共感できるという相互性の広がりは,つながりを超えて「共に生きる」感覚として語られていた.他者への不信や距離の取り方の難しさを抱えながらも,信頼や安心感,共感が再構築されており,「わかってもらえる」「頼ってよい」と感じられる心理的安全性が形成されていた.Maurer et al.(2023)は,個人が自己理解を深め変化に向かうためには,安全で受容的な対人環境が不可欠であると述べている.心理的に安全な関係があることで,自分の弱さや不安を表現しやすくなり,その経験が他者への信頼や共感の深化,さらには相互性のある関係性の再構築へとつながっていると考えられる.
以上より,統合失調症を経験した人の自己成長感は,生き方の再構築感,出来事の新しい意味づけ感,自分らしさの回復感,他者との共生感という4要素において,喪失や苦悩と前進が併存する「ゆらぎ」の中で形成される前進感であると考えられる.これは,日常の価値や利得に気づく過程を扱うBF(Tennen & Affleck, 2002),困難を契機とした自己理解・価値観・対人関係の変容を含むPTG(Tedeschi & Calhoun, 2004),および長期的な自己再編のプロセスを示すPGP(Maurer et al., 2023)の考え方と親和性が高い.一方で,本研究で示されたのは,否定的感情が消失した後に成長するのではなく,恐れや喪失を抱えたままでも「できること」「続けられること」を手がかりに自己調整が重ねられ,前進が実感される点である.本研究の自己成長感は,統合失調症の症状の不安定さやスティグマ,長期的経過といった特徴をもつ病いの経験の中で,自己像の再編を伴いながら形成される成長感として,「ゆらぎの中の成長感」と位置づけることができると考える.
2. リカバリープロセスへの示唆本研究で明らかになった自己成長感は,統合失調症を経験した人が不安やゆらぎ,喪失を抱えながらも,自分にできる形で生活を整え,小さな変化を前進として捉える「ゆらぎの中の成長感」であった.この「ゆらぎ」は,症状や環境に受動的に左右されるゆらぎではなく,「できそうなことから始める」「無理せず休む」といった主体的判断を伴う自己調整として語られていた.発達の節目に自己像がゆらぎながら再編されるという自己同一性の形成の観点(Erikson, 1959/1973)からも,本研究で示された「ゆらぎ」は,統合失調症の経験により自己像・役割・将来像がゆらぐ中で,同一性を編み直しながら前進を積み上げていく内的変化の様相として解釈できる.つまり,「ゆらぎ」を不安定さではなく,成長の一部として位置づけ直す視点として捉えることができる.リカバリー研究では,リカバリーには「困難」を内包し,回復が直線的ではなく行きつ戻りつを含むプロセスとして示されており(Stuart et al., 2017;Onken et al., 2007),CHIMEモデル(Leamy et al., 2011)においても,つながり,希望,アイデンティティ,意味の再構築,エンパワメントといった要素が整理されている.本研究で得られた4要素は,つながり・意味・アイデンティティの再編を中心にCHIMEの要素と重なり,概ね対応する.一方で,CHIMEを補完する視点として,否定的感情を抱えたままでも生じる小さな前向きさや自己調整の積み重ねといった内的経験としてのゆらぎながらの前進感を抽出した.すなわち,CHIMEの諸要素が実際の生活の中でゆらぎを含みながら立ち上がってくる様相を示し,リカバリーの理解を補完する可能性がある.したがって支援者は,ゆらぎを不安定さとして捉えるのではなく,自己像の再編を伴うプロセスとして尊重し,ゆらぎながらも「前に進めている」感覚が維持・強化されるよう支えることが重要であると考える.さらに,日常の価値の再発見や意味づけの更新を支える関わりは,リカバリーを支援することに加えて,ウェルビーイングの向上にもつながり得る点で,本研究の知見は支援に寄与し得るのではないかと考える.
本研究は,統合失調症を経験している人の語りをもとに,自己成長感を質的記述的に明らかにしたものであり,「ゆらぎ」がどのように成長へとつながるのか,またそれが経時的にどのように変化していくのかを理論化・検証したものではない.今後は,症状の安定性,社会参加状況,支援環境などの差異を踏まえた縦断的な検討を通して,ゆらぎと前進感の形成過程をより多角的に検討していくことが必要である.また,本研究の対象者は,地域で生活し,障害福祉サービス事業所に通所しながら,自らの経験を語ることが可能な人であった.そのため,一般就労者や非通所者,あるいは語ることに困難を感じている人の視点は含まれていない.さらに,本研究はインタビューによる語りに基づくものであり,生活場面の直接的な観察や非言語的側面は十分含まれていない.しかしながら,本研究は,類似した状況にある人々の理解や支援実践,今後の研究において,本研究で示された自己成長感のありようを参照・翻訳するための手がかりを提供するものと考えられる.今後は,個人および社会的背景の多様性を踏まえ,自己成長感の多様な様相を検討していくことが求められる.
統合失調症の経験は,苦悩や不確かさを伴うものであるが,その中で自らの前進を実感できる経験でもあった.本研究では,統合失調症を経験する人の語りから,【喪失と現実の折り合いをつけながら生き方を再構築している】【病気の経験や日常の出来事に新たな意味を見いだしている】【病気を抱える自分を理解し受け入れ自分らしさを取り戻している】【他者とのつながりを取り戻し支え合える関係へと深めている】の4つの自己成長感が明らかとなった.これらは,症状が安定したのちに得られる成長の実感ではなく,苦悩やゆらぎを抱えたまま,日々の生活の中で生き方を再構築し,新しい意味を見つけ,自己を取り戻し,他者との共生へと向かう関係を深めていくという,内的変化の様相として現れていた.統合失調症を経験している人の自己成長感は,喪失と前進が併存する「ゆらぎの中の成長感」であり,当事者の世界の中で積み重ねられていく主観的な前進感であった.支援においては,この「ゆらぎの中の成長感」を不安定さとして捉えるのではなく,成長の一部として捉え直し,日常の中での小さな前進や自己調整の積み重ねを実感できるよう支えることで,リカバリープロセスに寄与できると考えられる.
謝辞:本研究の実施にあたり,研究にご協力いただいた皆様に,心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費JP21K10799の助成を受けて実施したものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:杉山は研究計画,研究データ収集,分析,執筆の研究プロセスに貢献した.比嘉は分析,研究プロセス全体への助言を行った.両著者共に最終原稿を読み承認した.