抄録
この研究は老人の「できるADL」と「しているADL」の差に及ぼす要因を心理社会学的視点から明らかにすることを目的として行なった。対象は日常生活に介助を要する65歳以上の老人及び主たる介護者各66名である。主な結果は次の通りである。
1) 対象の老人の約1/3に「できるADL」と「認識しているADL」との間に過小・過大評価によるズレが認められた。
2) 全員の老人が「できるADL」より「しているADL」が低下しており, 10点以上の大きい差があったものは約20%であった。
3) 男女とも伝統的性役割を肯定的に受け止めている者ほど差が大きく「しているADL」が低下していた。
4) 行動時に痛みなどの負担感を感じていた者, 再発作などの挫折体験を持っていた者, 過剰介護を受けていた者ほど「できるADL」より「しているADL」が低下していた。