抄録
本研究の目的は, 出産ストレスが初乳中S-IgA濃度の個人差に及ぼす影響について, 精神神経免疫学の知見を基盤とし, Lazarusらのストレスシステム理論・認知評価理論から関連検証することである. また, 生体内ストレス反応経路の知見からストレス関連ホルモンを測定し, 初乳中S-IgA濃度が出産ストレスを反映する物質であるかを客観的に評価した. 対象は, 初産・経産婦を含めた62名の母親である. パス解析から, Lazarusらの理論に基づく心理社会的要因では,「対処行動」が初乳免疫に与える影響要因であること, 身体的ストレッサーである分娩所要時間が, 副腎系cortisolを介する初乳中S-IgA濃度への間接的効果であること, 分娩後60分cortisol濃度・CgA濃度が初乳中S-IgA濃度と強い因果関係があることが示された. したがって, 初乳中S-IgA濃度は,出産ストレスを反映する免疫物質であることが明らかとなり, この知見は, 科学的根拠に基づく免疫学的視点から, 助産師の早期授乳計画への新しいアプローチとなることが示された.