2022 年 53 巻 1 号 p. 37-44
真性社会性昆虫であるアリ類は,少数の生殖虫と多数の同じ体臭を持つ働きアリで構成される巣(コロニー)単位で統制のとれた行動を示す.特に,巣外に出て活動する働きアリ(ワーカー)どうしの行動の基盤となるのは,巣仲間を「味方」と判断し,非巣仲間を「敵」と判断する識別ルールである.このルールの成立を可能にしているメカニズムを,敵・味方識別に特化した炭化水素感覚器に着目して,フェロモンを受容体タンパク質へと運ぶ低分子タンパク質CSPやフェロモン受容神経どうしが末梢で情報をやりとりするマイクロネットワークの発見などのトピックスも織り込みながら,分子(群),細胞(群),個体(群)レベルを通して解説する.また,アリの敵・味方識別の行動規範を逆手にとって在来生態系の生物多様性を脅かす外来アリ種の侵入と生息拡大を阻止する可能性も紹介する.