におい・かおり環境学会誌
Online ISSN : 1349-7847
Print ISSN : 1348-2904
ISSN-L : 1348-2904
特集(におい・香りの心理・生理的効果に関する研究)
高齢者における嗅覚と自伝的記憶研究の近年の動向—嗅覚同定能力,加齢性ポジティビティ効果,機能の観点から—
山本 晃輔
著者情報
ジャーナル 認証あり

2023 年 54 巻 3 号 p. 161-166

詳細
抄録

超高齢社会の現在において,高齢者の健康やwell-beingに関する研究は社会全体で取り組むべき喫緊の課題である.本稿では,嗅覚刺激によって喚起される過去の出来事の記憶,すなわち自伝的記憶に関する従来の研究を概説したあと,3つの観点から高齢者を対象とした近年の研究を紹介する.第1に,嗅覚同定能力に注目した研究を取り上げ,若年者は嗅覚同定能力の個人差によって自伝的記憶の鮮明さが異なるが,高齢者ではその差がみられないことを報告した.第2に,若年者よりも高齢者がポジティブな記憶を想起する現象である加齢性ポジティビティ効果に焦点をあて,嗅覚刺激による想起事態でもこの現象が生起されることを示した.第3に,新たに開発された高齢者のための嗅覚刺激による自伝的記憶の機能を測定する尺度について説明した.今後はこのような基礎知見をもとに,認知症高齢者を対象とした嗅覚刺激による回想法などへの応用展開が望まれる.

著者関連情報
© 2023 (社)におい・かおり環境協会
前の記事 次の記事
feedback
Top