2023 年 54 巻 3 号 p. 167-171
本稿では,においの順応および慣れに及ぼす先入観の影響について,著者の研究を中心にレビューする.ヒトのにおいに対する順応および慣れはその個人差が大きく,再現性を伴う実験的検討が非常に難しいといわれる.しかし,実験計画を周到にたてることで,個人差に及ぼす影響を最小限に留め,結果的に実験的操作の影響を検出しやすくなる.そこで,においの感覚強度に及ぼす先入観の影響を検討する際,どのような実験計画を採用することが有効であるのかを中心に議論を展開していく.具体的には,においに対するポジティブ,あるいはネガティブな先入観が,においの感覚強度の推移に及ぼす影響について,におい刺激の連続提示と断続提示の比較に基づいて考察する.さらに,先入観を暗に与える研究の例として,人工観葉植物を室内に設置し,これにエッセンシャルオイルのにおいを随伴させた際の心身への影響についての研究も紹介する.