パーソナルファイナンス研究
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INVITED PAPER
ニュージーランドの金融リテラシー
スティーブン リム
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 3 巻 p. 7-13

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抄録

1.ニュージーランドの金融教育の目的は何か?
 ニュージーランド政府は以下のように説明している。
 ニュージーランド国民の金融能力を高めることは政府にとって優先課題である。ニュージーランドの世帯や地域社会の福利を向上させ、苦難を減らし、投資を促進、経済成長につながる。
 ニュージーランドで個人向けに金融教育を行うというのは、1990年代半ば以降に出てきた比較的新しい考え方である。(学生や成人国民を対象に実施した)2000年代初めの調査結果から、一部のニュージーランド国民は金融活動を効果的に行うための金融リテラシーを十分に備えていないことが分かった(Feslier, 2006)。そのため、ニュージーランド国民の金融リテラシーを向上させようとの気運が高まっている。こうした動きはニュージーランド政府や金融業界、民間団体、規制当局、中央銀行などで出てきている。
 現在、金融教育のニーズはかなりある。ニュージーランドは金融分野でそれほど厳しい規制をしない制度を構築してきた。ニュージーランドには数多くの複雑な金融商品、先進的な金融市場、自主性に基づく(税制優遇策や強制性のない)老後貯蓄制度がある。複雑な金融環境にうまく対処できるよう国民を支援するため、金融リテラシーは重要である。

2.政府と民間団体がニュージーランドの金融リテラシー向上のために取るべき方策はどのようなものか
 国民の金融リテラシーを高めるというのは極めて大胆な目標だ。1つの組織だけで達成は望めない。公共、民間、非営利団体の参加が成功に欠かせない。主な参加者には以下のような組織が挙げられる。
 ・ニュージーランド政府
  具体例、金融能力委員会
  (http://www.cffc.org.nz/the-commission/contact-us/)
  老後退職問題委員会(www.sorted.org.nz)
 ・ニュージーランド銀行協会
  (http://www.nzba.org.nz/banking-information/financial-literacy)
 ・大学・高校
 これらの組織はいずれも基礎的な金融リテラシーの向上を促し、ニュージーランド国民が全体としてより良い金融的選択を行うために役立つ情報や学習機会を提供する。例えば、老後退職問題委員会のウェブサイトは老後に向けた貯蓄など、各種の金融関連問題への人々の理解促進を目指している。ウェブサイト「ソーテッド(Sorted)」では、利用者に(短期と長期の)目標設定、収入の予算立て、短期や長期の貯蓄の計画、主要な公的老後貯蓄制度「キウィセーバー(KiwiSaver)」の把握、債務管理、住宅ローンや保険、投資、信託、手数料に関する理解強化を行える。

3.金融リテラシー強化に向けた教育や情報はニュージーランド国民のニーズに適合しているか?
 最近の報告(PISA 2012)によれば、金融リテラシーについてのニュージーランド人の平均得点(520点)は調査に参加した経済協力開発機構(OECD)加盟13カ国の平均得点(500点)を上回っていた。加えて、以下のことが分かった。
 ・ニュージーランドはOECD平均と比べて金融に関する優れたスキルや知識を備えた学生の比率が高かった(19%)。
 ・大半のニュージーランド学生(約90%)は銀行口座を保有しており、割合は大半の調査参加国より高かった。銀行口座を持つ学生の金融リテラシーの得点(543点)と銀行口座を持たない学生の得点(437点)の格差は、全調査参加国の中で最も大きかった。
 ・他の調査参加国の学生と比較し、ニュージーランドの学生は計画と運用、リスクとリターン、金融環境の分野よりも、通貨と取引の分野での成績が高かった。
 全体として、ニュージーランドの金融リテラシーは良好だと評価する意見もあった。だが、結果から分かる通り、題として改善すべき余地もある。

4.学習素材を改善し、人々のニーズにより合致したものにすることは可能か
 ニュージーランドの学校では、パーソナルファイナンシャルプランニング(PFP)を起業活動教育と合わせて教育している。これは歓迎すべき取り組みである。従来型のPFP知識と学習は(株式や貯蓄、保険、債務管理などの理解向上を通じて)追加的な資産増を焦点としている。起業活動は所得拡大をもたらし、PEPよりも人々の経済的な幸福度の向上に寄与する可能性を持っている。従って、ニュージーランドは学生への教育で先進的な取り組みを行っていると言える。
 だが、以下のような問題点もある。
 ・起業活動教育には制約がある
  かなりの部分が時間を要する活動に割かれ、その効果を測定するのは難しい。例えば、学生が授業中に開発した商品の売り方を学習するものなどで、学生が教師に数カ月の短期間で経済的収益成果を示す必要があるなど、短期の計画実行を促す。しかし、こうした発想は真の富を創出する妨げになる恐れがある。
 ・富を生み出すための本当に創造的なアプローチを教える教育になっていない
 そのため、新たなテーマを教育カリキュラムに盛り込むことが望ましい。例えば、A+Bのフレームワークである。

5.ニュージーランドの金融リテラシーで今後どのような調査を実施すべきか
 ニュージーランドの金融リテラシー教育に関する我々の検証から、教育の内容や有効性を向上させるためのいくつかの優先課題が浮かび上がっている。
 ・PFPと起業活動との間で相反する要素が潜んでいないか(例えば、PEP学習がリスクの最小化に焦点を当てすぎていて、起業家精神を育むことを阻害する恐れがないか)
 ・人々がキャリア上で体系的な誤りをおかし、自らの福利を低下させていないか
 ・金融リテラシー教育の内容は富の運用や創出について保守的・慎重過ぎるアプローチを奨励していないか

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© 2016 パーソナルファイナンス学会
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