パーソナルファイナンス研究
Online ISSN : 2189-9258
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3 巻
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INVITED PAPER
  • スティーブン リム
    2016 年 3 巻 p. 7-13
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル オープンアクセス
    1.ニュージーランドの金融教育の目的は何か?
     ニュージーランド政府は以下のように説明している。
     ニュージーランド国民の金融能力を高めることは政府にとって優先課題である。ニュージーランドの世帯や地域社会の福利を向上させ、苦難を減らし、投資を促進、経済成長につながる。
     ニュージーランドで個人向けに金融教育を行うというのは、1990年代半ば以降に出てきた比較的新しい考え方である。(学生や成人国民を対象に実施した)2000年代初めの調査結果から、一部のニュージーランド国民は金融活動を効果的に行うための金融リテラシーを十分に備えていないことが分かった(Feslier, 2006)。そのため、ニュージーランド国民の金融リテラシーを向上させようとの気運が高まっている。こうした動きはニュージーランド政府や金融業界、民間団体、規制当局、中央銀行などで出てきている。
     現在、金融教育のニーズはかなりある。ニュージーランドは金融分野でそれほど厳しい規制をしない制度を構築してきた。ニュージーランドには数多くの複雑な金融商品、先進的な金融市場、自主性に基づく(税制優遇策や強制性のない)老後貯蓄制度がある。複雑な金融環境にうまく対処できるよう国民を支援するため、金融リテラシーは重要である。

    2.政府と民間団体がニュージーランドの金融リテラシー向上のために取るべき方策はどのようなものか
     国民の金融リテラシーを高めるというのは極めて大胆な目標だ。1つの組織だけで達成は望めない。公共、民間、非営利団体の参加が成功に欠かせない。主な参加者には以下のような組織が挙げられる。
     ・ニュージーランド政府
      具体例、金融能力委員会
      (http://www.cffc.org.nz/the-commission/contact-us/)
      老後退職問題委員会(www.sorted.org.nz)
     ・ニュージーランド銀行協会
      (http://www.nzba.org.nz/banking-information/financial-literacy)
     ・大学・高校
     これらの組織はいずれも基礎的な金融リテラシーの向上を促し、ニュージーランド国民が全体としてより良い金融的選択を行うために役立つ情報や学習機会を提供する。例えば、老後退職問題委員会のウェブサイトは老後に向けた貯蓄など、各種の金融関連問題への人々の理解促進を目指している。ウェブサイト「ソーテッド(Sorted)」では、利用者に(短期と長期の)目標設定、収入の予算立て、短期や長期の貯蓄の計画、主要な公的老後貯蓄制度「キウィセーバー(KiwiSaver)」の把握、債務管理、住宅ローンや保険、投資、信託、手数料に関する理解強化を行える。

    3.金融リテラシー強化に向けた教育や情報はニュージーランド国民のニーズに適合しているか?
     最近の報告(PISA 2012)によれば、金融リテラシーについてのニュージーランド人の平均得点(520点)は調査に参加した経済協力開発機構(OECD)加盟13カ国の平均得点(500点)を上回っていた。加えて、以下のことが分かった。
     ・ニュージーランドはOECD平均と比べて金融に関する優れたスキルや知識を備えた学生の比率が高かった(19%)。
     ・大半のニュージーランド学生(約90%)は銀行口座を保有しており、割合は大半の調査参加国より高かった。銀行口座を持つ学生の金融リテラシーの得点(543点)と銀行口座を持たない学生の得点(437点)の格差は、全調査参加国の中で最も大きかった。
     ・他の調査参加国の学生と比較し、ニュージーランドの学生は計画と運用、リスクとリターン、金融環境の分野よりも、通貨と取引の分野での成績が高かった。
     全体として、ニュージーランドの金融リテラシーは良好だと評価する意見もあった。だが、結果から分かる通り、題として改善すべき余地もある。

    4.学習素材を改善し、人々のニーズにより合致したものにすることは可能か
     ニュージーランドの学校では、パーソナルファイナンシャルプランニング(PFP)を起業活動教育と合わせて教育している。これは歓迎すべき取り組みである。従来型のPFP知識と学習は(株式や貯蓄、保険、債務管理などの理解向上を通じて)追加的な資産増を焦点としている。起業活動は所得拡大をもたらし、PEPよりも人々の経済的な幸福度の向上に寄与する可能性を持っている。従って、ニュージーランドは学生への教育で先進的な取り組みを行っていると言える。
     だが、以下のような問題点もある。
     ・起業活動教育には制約がある
      かなりの部分が時間を要する活動に割かれ、その効果を測定するのは難しい。例えば、学生が授業中に開発した商品の売り方を学習するものなどで、学生が教師に数カ月の短期間で経済的収益成果を示す必要があるなど、短期の計画実行を促す。しかし、こうした発想は真の富を創出する妨げになる恐れがある。
     ・富を生み出すための本当に創造的なアプローチを教える教育になっていない
     そのため、新たなテーマを教育カリキュラムに盛り込むことが望ましい。例えば、A+Bのフレームワークである。

    5.ニュージーランドの金融リテラシーで今後どのような調査を実施すべきか
     ニュージーランドの金融リテラシー教育に関する我々の検証から、教育の内容や有効性を向上させるためのいくつかの優先課題が浮かび上がっている。
     ・PFPと起業活動との間で相反する要素が潜んでいないか(例えば、PEP学習がリスクの最小化に焦点を当てすぎていて、起業家精神を育むことを阻害する恐れがないか)
     ・人々がキャリア上で体系的な誤りをおかし、自らの福利を低下させていないか
     ・金融リテラシー教育の内容は富の運用や創出について保守的・慎重過ぎるアプローチを奨励していないか
査読付論文
  • 2001年に実施された消費者金融会社へのアンケート調査の分析
    堂下 浩
    2016 年 3 巻 p. 15-27
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル オープンアクセス
     1999年12月、いわゆる「商工ローン」問題と呼ばれる、当時の事業者金融市場における大手2社であった商工ファンドと日栄によって引き起こされた違法な取立行為と過剰融資への対応として、出資法が国会で改正された。結果として、出資法の上限金利は年40.004%から年29.2%に引き下げられ、この上限金利規制は法改正から僅か6か月後の2000年6月に施行された。この上限金利引下げ措置は事業者金融業界だけでなく、消費者金融業界にも適用されることとなった。このため、大半の消費者金融会社は突然の規制強化に翻弄される事態に陥った。この当時、JCFA(日本消費者金融協会)は会員業者の経営実態を把握するためにアンケート調査を行っていた。
     著者はその当時JCFAが行ったアンケート調査のデータを入手した。今回、本データを用いた分析の結果、十分な猶予期間なしに施行された上限金利引下げに対処するために、多くの消費者金融会社は短期的な利益を確保しようと与信基準を緩めたという実態が把握できた。その後、こうした与信行動は消費者金融市場において、いわゆる「多重債務問題」を引き起こす要因の一つとなったとも考えられる。
  • 中西 孝平
    2016 年 3 巻 p. 29-46
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル オープンアクセス
     障害者雇用は近年着実に進展しているが、障害者雇用が進められる政策的背景には、就労を通じて障害者の稼得能力を向上させ、その所得を保障しようとする考えがある。しかし、障害者全体に占める雇用者の割合は1割に過ぎず、企業に就労した障害者の勤続年数は短い。それゆえ、障害者の就労を通じた所得保障は達成できていないと言える。
     そこで、本稿は、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして「障害者の起業」を促進し、そのための資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。
     第2章では、障害者の所得を保障するためには、就労の継続性と安定性が保たれかつ就労移行が円滑に進められる必要があることを指摘したうえで、障害者の勤続年数はなぜ短いのか、そして、そのことから障害者の起業についてどのような示唆が得られるのかについて、平成15年度、平成20年度、平成25年度の三つの『障害者雇用実態調査結果』を基に分析している。
     その中で、障害者が「前職を離職した理由」と障害者の「将来への不安」の二つから障害者雇用の継続性と安定性が確保できていない理由を導き、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして、「障害者の起業」を提起している。
     第2章では、日本政策金融公庫により実施された『2008年度新規開業実態調査(特別調査)』と『起業意識に関する調査』から「障害者の起業」への示唆を得たうえで、UNDP1ミャンマーによるマイクロファイナンスを参考として、障害者が起業する際の資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。
     その中で、障害者が起業する場合のリスクとして、第一に、生活保護を受けている障害者が多い中で、起業して収入を得れば生活保護費を削減されることにつながり、事業が軌道に乗るまでは不安定な生活を強いられること、第二に、障害者が事業を行う場合、職務の遂行と自身の体調やケア・スケジュールとの関係から制約を受けることを挙げている。
     それゆえ、障害者が起業する場合、第一に、少額の開業費で身軽な経営形態を採用すること第二に、開業後の運転資金が柔軟な返済条件で融資されること、の二つが求められるとしたうえで、UNDPミャンマーによるSRG(Self-Reliance Group)活動を参考として、頼母子講を障害者が起業する際の資金調達の手段として活用する場合、掛け金の払込時期を頼母子講の参加者が相談して変更することができるなど、頼母子講をめぐるルールの硬直性を克服する仕組みをつくることができれば、障害者が自身の生活リズムに合わせてビジネスを行うことができるとしている。
  • 永野 聡, 日詰 博文, 山田 俊亮
    2016 年 3 巻 p. 47-54
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル オープンアクセス
     宮城県名取市閖上地区は、東日本大震災による甚大な被害を受けた。閖上地区における震災復興にあたり、地域の産業復興と雇用創出を目的として「ゆりあげ港朝市」が先んじて再建される事となった。朝市は、30年以上、地域住民や地域外の人々に親しまれた閖上地区を象徴する場所であった。しかし、津波被害で全てを失う事となった。そして、2年半の月日を経て平成25年12月1日に再開された。その一方で、津波被害により何も無くなった閖上地区で、朝市が継続した事業を行えるのか、という大きな課題も残されていた。そこで本研究では、これまでの朝市の取り組みを時系列的に整理する。特に、様々な段階におけるファイナンスが地域復興に果たす役割についてまとめる事を目的とする。その結果、朝市は震災後一定の顧客を取り戻しつつある。しかし、継続的な事業を行うには、各店舗での対面販売の充実を図る事と同時に、ネット販売事業で新規の顧客を獲得する事が必要である。また、新たなプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディング等を活用し、市場のニーズの読み込みや新たな市場を開拓する活動を行う必要がある。その事が、新たな支援者の獲得に繋がり、中長期的な視点を持った事業を計画・実施する素養を身につける事にも繋がっていく。そのためにも、今後ファンドレイジングはより一層重要な手法となる。その一方で、閖上地区における、嵩上げ工事や道路線形の変更等の基盤整備事業は、当初の計画より大幅に遅延している。その影響により、居住地としての再建は先延ばしとなっている。それら事業が大きく前進する事で、朝市本来の姿でもあった、地域住民が朝市を訪れ互いに安否を確認するといった「地域コニュニティーの場」の再興にも繋がると言える。言い換えれば、個々人のパーソナルファイナンスも含めた生活再建の像が描ける環境を整える事で、はじめて、地域としての再建が進む事となる。
  • 前田 真一郎
    2016 年 3 巻 p. 55-70
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル オープンアクセス
     現代において、家計の金融取引が拡大している。米国において、資金調達者としての家計は、住宅ローンや消費者信用での借入を増やしてきた。また資産保有者としての家計は、住宅を中心とした不動産や株式を多く保有している。現代においては、家計が保有する資産を担保にして借入を行う金融商品などが普及してきたこともあり、家計の借入は、自らが保有する資産価値変動の影響を大きく受けるようになっている。
     家計の金融取引が拡大する中で、米国金融機関は家計・個人を対象にした金融業を拡大してきた。金融機関は、対象顧客や貸付担保を広げながら、家計・個人を対象に貸付を増やしてきたのである。その際、証券化を利用し、金融機関の信用リスクを軽減するように試みてきた。しかし、2008年前後の金融危機時には、米国金融機関の貸倒費用が急増した。その中身を見ると、住宅ローンのみならずクレジットカードなどにおいても貸倒費用が急増している。金融機関による信用リスク管理は、これまで主に貸付商品ごとに行われてきた。しかし、金融危機時には、住宅価格の下落などにともなう住宅ローンの信用リスク増大が、クレジットカードほかの信用リスクにも影響を与えたのである。金融機関のリスク管理は、従来の金融商品別や事業部門別に行うだけでは、不十分となっている可能性がある。金融機関は、家計・個人を対象とした金融取引において、統合リスク管理の必要性に迫られていると考えられる。
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