日本精神保健看護学会誌
Online ISSN : 2432-101X
Print ISSN : 0918-0621
ISSN-L : 0918-0621
研究報告
精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケアの実態
―単科精神科病院におけるフォーカスグループインタビュー調査から―
清野 由美子田中 浩二関井 愛紀子小山 諭
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 29 巻 2 号 p. 60-70

詳細
Abstract

本研究の目的は,精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケアの実態を明らかにし,誤嚥性肺炎防止と患者の食生活に関するQOL向上に向けた支援の在り方について示唆を得ることである.A県内16か所の精神科病院に勤務する病棟看護師55名を対象にフォーカスグループインタビュー調査を行い,収集したデータを質的帰納的に分析した.精神科看護師は,【精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難】があるために,誤嚥性肺炎予防ケアにおいて,見守りの徹底に象徴される【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】を提供していた.一方では,精神疾患患者にとって食はQOLの重要な要素であることから,【食べることのQOLを志向したケア】に取り組んでいた.また,看護業務の一環として日常的に【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】に努めていた.さらに,限られた環境の中で,【精神科医療の強みを活かすチームケア】を取り入れていた.本研究結果から,有効な資源の少なさや精神疾患をもつ人に特有の困難さがある中での,看護師のケアが明らかとなった.本研究により,一人ひとりの患者のニーズに立ち返り,多職種連携や包括的支援に取り組むことの重要性が示唆された.

Translated Abstract

The goal of this study is to clarify the state of care in aspiration pneumonia prevention as experienced by psychiatric nurses and to obtain ideas about support in improving quality of life (QOL) in terms of aspiration pneumonia prevention and patients’ dietary habits.

Focus group interviews were conducted with 55 nursing staff members employed in 16 psychiatric hospitals in A Prefecture and qualitative inductive analysis was performed on the data collected.

Since “aspiration pneumonia preventive care in a psychiatric ward is problematic,” psychiatric nurses proposed care based on their strong desire to avoid the risk of pulmonary aspiration (i.e. food, etc. “going down the wrong way”) or suffocation happening before their eyes.

On the other hand, since food is an important element in QOL for mentally-handicapped patients, they tried to provide care that “prioritized QOL in terms of food.” Moreover, as part of their nursing work, “they provided everyday living support that they considered to be effective in preventing aspiration pneumonia.” They also incorporated “team care that made the most of the strengths of “psychiatric medical care” in a restricted environment.

The results of the study showed the state of care among nurses amid the lack of effective resources in psychiatric hospitals and the particular difficulties associated with looking after psychiatric patients. The research suggests the importance of going back to basics in terms of the individual needs of each patient and of getting to grips with multi-disciplinary coordination and comprehensive support.

Ⅰ  はじめに

我が国の精神科病院では入院患者の高齢化が進み,31.5%が何らかの身体合併症を有している(日本精神科看護協会,2015).これらの病院では,身体観察及び身体ケアの困難性が報告され(清野・中村,2012清野,2012),身体合併症看護の実践能力を高める取り組みに重点が置かれている(荒木ら,2014).身体合併症の中でも肺炎の多くが高齢者の誤嚥性肺炎と言われ(大藪ら,2017),その原因である摂食嚥下障害は精神疾患患者の9~42%が合併し(Aldridge & Taylor, 2012),向精神薬の有害反応や精神症状による影響が指摘されている(髙橋・戸原,2014).ところが,精神科病院では摂食嚥下機能評価やリハビリテーションが積極的に行われているとは言えず(小野沢,2016),誤嚥・窒息を含む不慮の致傷・致死が精神科医療事故の33%を占め年々増加が予測されることから(石井,2007),摂食嚥下支援の強化が喫緊の課題となっている.先行研究では,入院慢性期精神疾患患者への嚥下体操と口腔ケアが誤嚥性肺炎予防に有効であること(吉村ら,2013)や,総合病院精神科病棟における誤嚥・窒息予防のケアは食事摂取時の個別対応や医療者間の協力(井箟ら,2015)であることが報告されている.しかし,精神科病院における研究は事例報告が主で,精神科看護師が誤嚥性肺炎予防のためのケアをどのように捉え,どのように実践しているのかというケアの詳細については明らかになっていない.本研究は,精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケアの実態を明らかにし,患者の食生活に関する質(Quality of life:以下,QOLと略す)向上に向けた支援の在り方について示唆を得ることを目的とする.

Ⅱ  研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 研究参加者

A県の民間精神科病院20か所のうち施設責任者から研究協力への同意が得られた16か所に勤務する病棟看護師55名である.これらの研究参加者(以下,参加者)は,各施設の代表として誤嚥性肺炎予防を含む身体ケアの豊富な経験を備えていた.

3. データ収集方法

平成28年7月~11月,精神科病院1か所につき2~5名の参加者を1グループとしたフォーカスグループインタビュー(以下,FGI)を各施設1回,計16回実施した.この手法を用いたのは,参加者の相互作用により実践知を引き出し,個別面接では得られない発想の広がりを期待できるからである(Holloway & Wheeler, 2002).看護部長宛てに研究案内を郵送し,日常的に身体的なケアが行われる病棟に勤務し,ケアについて多角的かつ詳細に語れる看護師を募集した.案内には,研究概要,研究参加の任意性,辞退しても不利益を被らないこと,個人情報の保護,結果の公表等を含む倫理的配慮を明記し,参加者の条件に該当する看護師への配布を依頼した.各施設において,所属病棟の異なる参加希望者に詳細な研究説明を行った.その後に研究協力の意思を十分に確認し,同意署名を得た.FGIでは研究者が進行役となり,主に調査前1か月間に体験した身体合併症予防を目的とするケアのうち具体的なケアを想起しやすい事例の想起を促した.精神科病院では摂食嚥下支援が十分でない現状を踏まえると,誤嚥性肺炎予防には病院間の格差が予想された.濃厚なケアの語りが多く得られるよう,精神疾患患者が併発しやすく肺炎発症に影響する麻痺性イレウス(胃食道逆流)や糖尿病(易感染)の予防についても順に質問し,参加者間で自由なディスカッションを促した.インタビュー内容は,参加者の同意を得て録音した.

4. 分析方法

参加者の見方で現象を明らかにするために,質的帰納的に分析した.インタビュー内容を全て逐後録に書き起こし,参加者の体験を理解できるまで精読し,誤嚥性肺炎予防に関するケアが語られた部分を抽出した.抽出した内容は,前後の文脈も考慮して一つの意味が含まれる文章とした.各文章を比較しながら共通する意味を持つもの同士を統合し,コード名を付与した.コードの類似性と相違性を明確にし,類似する内容を集めて共通する意味を表現したものをサブカテゴリーとし,カテゴリー,コアカテゴリーを生成した.

5. 研究の真実性の確保

インタビュー終了時に,1回のインタビューで十分に語れたかを参加者に確認した.分析過程において,精神科臨床経験および教育研究経験を有する精神看護学の質的研究者からスーパーバイズを受け,真実性の確保に努めた.分析で疑問を感じた際は逐後録に戻り,研究者間で繰り返し討議を重ねた.ケアについては,精神看護の摂食嚥下障害ケア研究者および身体合併症看護領域の精神科認定看護師から助言を受けた.

6. 倫理的配慮

新潟大学大学院保健学研究科研究倫理審査委員会の承認(第144号)を得た.その後,看護部長に依頼文の配布および取りまとめを依頼した.参加候補者には,依頼文を読んで研究参加の意思がある場合のみ,申し出てもらうよう案内した.看護部長にもその旨を説明し,強制力が働かないよう十分に配慮した.参加者に,研究目的,方法,研究参加の任意性,不参加による不利益を被らないこと,途中でも辞退が可能であること,調査時のプライバシー保護,データ管理と個人情報保護,結果公表の可能性について文書と口頭で説明を行い,同意署名を得た上で調査を実施した.

Ⅲ  結果

参加者55名の概要を表1に示す.年齢は26~60(平均41.6)歳,看護師としての臨床経験年数は3.2~42(平均17.7)年,精神科看護の経験年数は1.5~33(平均11.9)年であった.インタビュー内容の分析により114個のコードが抽出され,45個のサブカテゴリー,18個のカテゴリー,5個のコアカテゴリーが生成された.精神科看護師は,【精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難】を感じながら,【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】【食べることのQOLを志向したケア】に努め,【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】【精神科医療の強みを活かすチームケア】を提供していた.以下,コアカテゴリー【 】,カテゴリー《 》,代表的なサブカテゴリー〈 〉を説明する.参加者の語りを斜体で示し,各語りの末尾にグループ名を記載した.語りに含まれる研究者の言葉を[ ],研究者による補足説明を( )内に記載した.語りの中で不要と思われた部分は(中略)とし省略した.

表1 グループインタビューの概要
グループ A B C D E F G H
研究参加者数 5 3 5 3 3 3 3 3
インタビュー時間 57分20秒 52分31秒 36分8秒 48分14秒 37分17秒 43分47秒 46分30秒 44分25秒
看護師経験年数 13.46(±3.89) 13.11(±2.57) 9.58(±2.33) 12.99(±4.88) 17.24(±5.54) 20.01(±7.41) 11.37(±3.58) 27.40(±11.55)
精神科看護経験年数 7.35(±19.49) 7.05(±0.62) 7.02(±2.92) 10.63(±4.10) 10.44(±2.93) 13.97(±5.33) 7.40(±1.00) 21.63(±4.15)
グループ I J K L M N O P
研究参加者数 3 3 5 4 2 4 3 3
インタビュー時間 37分42秒 60分36秒 61分15秒 34分25秒 47分37秒 64分58秒 46分10秒 90分51秒
看護師経験年数 27.35(±4.07) 15.71(±2.38) 13.29(±2.16) 33.61(±3.01) 8.94(±1.54) 27.18(±5.46) 14.68(±7.67) 17.65(±3.49)
精神科看護経験年数 14.79(±5.77) 11.71(±4.64) 10.15(±2.37) 22.37(±3.74) 4.74(±1.26) 17.66(±3.76) 8.20(±1.22) 14.45(±4.53)

1. 【精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難】

このコアカテゴリーは,身体をケアするための資源が限られていることや,長期入院患者のセルフケアレベルの低下や症状の出現の仕方が分かりにくいことなどから,精神科看護師が誤嚥性肺炎の予防ケアに困難を抱えていることである.14個のサブカテゴリーと5個のカテゴリーから構成されていた.

表2 精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケア
コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー コード グループ(A~P)
精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難 現状への歯がゆさ 院内の対応に限界を感じる 高齢化してきて精神状態悪化・薬剤増量・肺炎・禁食・寝たきりのモデルケース化のようになる N
誤嚥性肺炎を繰り返す患者に関連施設のSTからミールラウンド・介入受けたが意味なかった N
患者全員に手が行き届かない看護の限界を感じる A
経口摂取を目指したいが肺炎を繰り返すかと思うと矛盾を感じる P
経管栄養・胃瘻患者のケアに限界を感じる 経管栄養患者は胃瘻になると長期化し,経鼻でも自己抜去予防で行動制限が必要である N
経管栄養患者の栄養管理は栄養士主導で経口摂取に戻す際の食形態もあるが判断が難しい P
経管栄養患者が食べたいと言い支援したいが家族の疎遠や肺炎を繰り返し上手くいかない N
提供可能な食形態に限りがある 院内で提供できる食形態にゼリータイプが無いため粘度調整剤になってしまう G
院外受診時に限界を痛感する 他科受診時に「こんな検査もできないのか」と言われ単科精神科病院の辛さを感じる N
院外受診に伴い病棟内の看護要因が減りマンパワー不足になる N
院内の連携が十分といえない OT単独で集団療法として嚥下体操や歌うたう会を行っているが参加者しない患者がいる K
NSTは栄養状態のみで摂食嚥下にかかわることはない N
院内にNSTとかの活動はない O
栄養委員会活動の議事録に要チェック患者が挙げられるが病棟のケアへ反映されない P
精神疾患をもつ患者特有の難しさ セルフケアへの介入が難しい 口腔ケアはこちらが望む程やってくれない A,C,D
身体面・セルフケアのアセスメントが難しい 慢性便秘・体重減少・嘔吐・発熱患者が他院受診するまで誤嚥性肺炎とアセスメントできなかった P
誤嚥性肺炎を起こした患者は口腔ケア自立者と思っていたが要介入であったかもしれない P
ケアに危険を伴う 要介助者の口腔ケア時には指サックを使用しケアする側の安全も守る P
口腔ケア時に指を噛まれて爪が割れたことがあり看護側に危険を伴う P
生き抜く力を信じるしかない 口腔ケアを拒否する患者は今まで生き抜いてきた力を信じ無理にケアしない O
想定外の誤嚥・窒息が苦手 対策を講じていても慌ててしまう 食事時の見守り・配膳等の対策をとっていても誤嚥・窒息が起こると慌ててしまう A
寝たきり患者には食前に吸引するがかえって食事でムセることがある D
意外にも面会時が盲点だった 認知症患者が食事時以外に窒息して家族面会時の差し入れが盲点だったことに気づいた K
看護師間でケアの方向性が不一致 同一患者へ提供するケアが違う 意外と食事介助時のベッドの角度が看護師によってバラバラである J
看護チーム内で嚥下機能が低下した患者の経口摂取に対する方針の違いを感じる N
職場風土の手ごわさ 医療者の精神疾患患者に対する身体ケアへの無関心 精神科医と内科医の間で経口摂取・血液検査実施か否かに治療方針の違いを感じる N
自立患者への口腔ケアは後回しで疎かになる傾向がある D,O,P
今は歯ブラシ類の管理を行っているが,以前患者の持ち物から昭和の歯磨き粉が出てきた P
喫煙習慣に着手していない 喫煙者は敷地内にある喫煙所を使用してもらっている F,I
喫煙制限は逆効果のため取り組んでいない G,H,K,M
目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア 食事場面での徹底した見守り・介助 とにかく食事中の見守り・介助を工夫する 食事時は食堂に集合するよう患者の協力を促す A,C
食事場面ではどの病棟でも必ず看護師が立って何かあった際に対処できる体制をとっている F,K,J
食事席を工夫し見守りを行う E
今まで何ともなかった患者でも何かのはずみで詰まるので大勢の目で見てないとと思う P
自立患者の方が窒息を起こしやすいため絶対目を離さない万全の態勢で見守る K
高リスク患者は重点的に見守り・介助を行う 認知症患者や自立度別に食事席を区分して看護師が介入する K
食事時に見守り・介助が必要な患者を集めて重点的に見守り・介助する J
食事中目が離せない患者の場合は手が空いてから配膳する J
誤嚥リスク者は見守りやすい環境を整えて重点的に見ていく G,H
盗食による誤嚥リスクを回避するために食事席を調整する K
盗食による誤嚥リスクを回避するために食事席を調整し情報共有する J
患者目線で食事の見守りを行う 食事中はテレビを消し会話も制限するが見張られている雰囲気にならないよう配慮する G
食堂以外のリスクへの注意 保護室の食事場面にも目を配る 保護室の患者も誤嚥リスクがある場合は配膳や摂取時に適宜観察を行う K
面会時の飲食にも目を配る 面会時の差し入れを事前にチェックしてから家族と一緒に摂取してもらう K
セルフケアの抑制 敢えて食事介助でセルフケアを抑制する むせたまま食べ続ける切迫摂食患者には敢えて全介助にしリスク回避する A,G
食べることのQOLを志向したケア 食形態・摂食方法の工夫 食行動や嚥下状態に合わせて食形態・摂取方法を工夫する 患者に合わせて食形態や水分粘度の調整を行う A,B,J,H
加齢による嚥下機能低下に合わせて食形態や水分粘度の調整を行う D,F
誤嚥を繰り返す患者の食形態に配慮し水分粘度を調整する B,F
食形態・水分粘度調整を工夫する I
院内で患者全員の食形態が本当に合っているかの見直しを定期的に行う K
若年層の向精神薬の影響による嚥下機能低下時は十分説明した上で一時的に食形態を下げる F
薬の副作用で嚥下機能が低下した患者には食形態の見直しを行う G
一口量の多い切迫摂食の患者にはスプーンやお椀で一回摂取量を調整する E,G,J,K
食事時のスプーン選択を工夫する I
精神状態の変動をみながら食形態を調整する 精神状態をみながら誤嚥・窒息が無いように食形態や量を調整する M
精神状態により切迫摂食となる場合は食形態を下げる場合も患者の納得を得る A
機能回復を促す積極的な介入 薬の副作用を考慮し嚥下機能に働きかける 抗精神病薬の影響でムセがある患者に嚥下訓練の個別対応を行う B
薬の副作用で嚥下機能が低下した患者には食前のマッサージを行う G
向精神薬の影響で嚥下機能が低下している患者には食前に唾液腺マッサージを行う G
心から寄り添うケアの実現 経口摂取の希望に応える 胃瘻造設患者の家族の意向で誤嚥覚悟で家族とコミュニケーション取りながらゼリー等を提供する O
経管栄養の患者の食への欲求に応えるため三食お茶ゼリーに砂糖をまぶして提供する N
食の満足感と安全を守る 満足感を得ながら安全に食べてもらいたいので食形態変更時はしっかり説明する A
家族の協力を得て食をつなぐ 一般病院と違って捕食のゼリー食が無いため家族に差し入れてもらっている J
より良いケアへの希望 ケアをより充実させたい 以前,OTが行っていた嚥下体操を看護師サイドで始めたらどうかと思う D
ベッド上で食事摂取する患者も可能か限り見守れる環境を作りたい J
誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助 自立度に合わせた口腔ケアの励行 要介助・高齢者の口腔ケアを行う 一般的なところで口腔ケアを心掛けている I,J
高齢者に対して口腔ケアを励行する H
寝たきりなど介護度の高い患者の口腔ケアは一生懸命行う H
要介助者の口腔ケアは食事介助の担当者が毎食後に行う B
夜はなかなか(要介助者)全員の口腔ケアが出来ないが頑張って朝昼だけでも行う B
身体合併患者はほぼ寝たきりで意思疎通困難者も多いが口腔ケアに努めている C,F
寝たきり患者の口腔ケアは一日一回行っている K
経管栄養患者の口腔ケアに努める 経管栄養患者は歯槽膿漏や歯牙欠損・乾燥等で不良だが潤滑材使用し口腔環境を整える A
経管栄養患者や要介助者は誤嚥性肺炎リスクが高いことを踏まえて口腔ケアを励行する E
経管栄養患者の口腔ケアを頑張っている K
身体合併患者で寝たきりの経管栄養患者には口腔ケアして吸引するようにしている F
声掛けを行い口腔ケアを促す ADLが自立していても口腔ケアがおっくうな患者には声掛けして一緒に行う J,K
比較的若い患者の口腔ケアは声掛けがメインである H
義歯管理を行う 患者のセルフケア能力に合わせて義歯を預かり消毒を行う J
摂食時のポジショニング 摂食時のポジショニングを行う 要介助者の食事の際は頸部後屈にならないように姿勢を整える F
要介助者の食事の際のポジショニングについて勉強会で情報伝達している F
寝たきり患者の食事の際にはできるだけ背面開放となるよう車いす移乗させ食堂へ誘導する F
食事時の体位を工夫する I
身体面の把握と統合 嚥下状態を把握する 向精神薬や加齢の影響を含めて入院時から嚥下評価・アセスメントしケアに繋げる E,G,I,N
身体状態を把握する 毎日,SPO2まで検温,身体面の観察も行い異常時は医師へ報告し継続観察する B,K,M
環境全体への取り組み 全面的な禁煙に取り組む 病院全体で全面的な禁煙に取り組んでいる E,J,L
空気乾燥を緩和する 冬場がトータルで加湿器を使用し空気乾燥を予防する H
精神科医療の強みを活かすチームケア 看護チームの連携 事例検討を共有しケアに繋げる むせる時点でスタッフに周知し食事席も配慮し食形態をカンファレンスや本人とも話し合う C
病棟では切迫摂食の傾向があるためカンファレンスで食形態を検討しパン・麺禁になることが多い G
肺炎罹患者が経口摂取するリスクを考慮し頻繁にカンファレンスで話し合う J
パック牛乳の吸い込みでむせる患者は情報共有し予めコップにあけて提供する G
電子カルテで窒息リスクや異食について情報共有し観察に活かす C
薬剤調整後の窒息事例を機に入院患者全体の嚥下機能低下を共有し早めの食形態変を行う D
早めにアクションを起こす 原因・治療方針不確定の発熱患者が増えているが家族の希望時は早めにアクションを起こす A
モニターひとつ着けるのも医師の指示が必要だが急変時は早めに部屋移動し医師へ報告する A
看護補助者と一緒に取り組む 看護補助者に対して食事介助の指導を行う I
看護補助者には食事介助に入ってもらうがその辺は慎重に怖いところである J
看護補助者には口腔ケアのセッティングや見守り,物品管理を中心に行ってもらう M,P
多職種との協働 他の職種の力を借りる 病棟単位で勉強会を開催し,OTや薬剤師から専門的な知識・技術を学ぶ F
嚥下機能低下者に対しOT,NSTメンバー,関連施設のSTから指導を受けた N
誤嚥性肺炎を繰り返す経管栄養患者にOT,医師,栄養士か経口摂取移行プログラムを作成した P
精神科医師に働きかける 向精神薬長期連用高齢者や鎮静による嚥下機能低下者は精神科医に働きかけ薬剤調整に繋げる H
精神科医に言っても直ぐには検査指示が出ない為SPO2・呼吸音・エア入り・発熱等の情報を揃える N
作業療法士と協働する OTが昼食前の集団嚥下プログラム(体操,発声,唾液腺マッサージ)に取り組んでいる E,M,P
経管栄養患者にはOTが嚥下訓練を行う N
言語聴覚士と協働する 関連施設のSTによる勉強会を開催する H
STによる嚥下造影後に経口摂取開始時の嚥下訓練が行われ看護師が習ってやっていく L
嚥下障害がある経口摂取患者の家族に対してSTが嚥下造影結果を説明し理解を促す L
STは食事時のポジショニング,昼食時の介助,食形態の選択,水分粘度の調整を行う L
食べたいという経管栄養患者に対して関連施設のST介入で日中介助で摂取し歩行している N
関連施設のSTの評価後に食事開始,姿勢の指導受け,個別ケアをスタッフでも共有する O,M
歯科衛生士と協働する 歯科衛生士による入院時検診や口腔内が気になる患者の専門的口腔ケアを依頼する K
歯磨き指導が必要な自立患者には歯科衛生士主催の患者教室に参加を促す K
理学療法士と協働する 認知症患者の誤嚥性肺炎リスクを考慮し理学療法士に食事摂取時の姿勢をみてもらう K

1) 《現状への歯がゆさ》

誤嚥性肺炎予防に関して,院内で対応可能な援助に限界があることや,多職種との連携が十分に取れていないことである.

〈院内の対応に限界を感じる〉:全体的に高年齢化して(中略),精神状態が悪くなって,精神薬が増えて,すると嚥下が悪くなって,で肺炎になりみたいな.肺炎になって,食事が止まって,点滴をしたりなんかしてると痩せてって,体力が無くなって,動けなくなって寝たきりになって.なんかそういうもう,モデルケースのようにそういう風になっちゃう(中略).ならないようにしようってやってるんですけど,でもそこのレールに乗っちゃうとみんなそうなるみたいな.(N)

2) 《精神疾患をもつ患者特有の難しさ》

精神疾患をもつ患者は,療養行動への関心が低いことや独自のこだわりがあることなどから生活習慣への介入が難しいこと,また身体症状の現れ方が非特異的でその発見に難しさが伴うことである.

〈セルフケアへの介入が難しい〉:糖尿病と同じで口腔ケア全然やってくれない(中略)こっちが望むくらいはやってくれないので磨いてうがいとかできない.(A)

〈身体面・セルフケアのアセスメントが難しい〉:一晩中嘔吐されて便もなかなか出にくい方で,もしかしてイレウスでないかと.(中略)金曜日から始まって土曜日の朝から熱が8°C近く出たので(中略)サチュレーションも70台と下がって(中略)結局(一般)病院受診して(中略)肺炎の方が重篤だったってことで入院になりました.(P)

3) 《想定外の誤嚥・窒息が苦手》

十分な対策を講じていても,突然,誤嚥・窒息が起こると動揺し戸惑うことである.

〈対策を講じていても慌ててしまう〉:(食事)席は(中略)一応なるべくリスクの高い人であれば最後に配膳して目が届くようにするっていう色々工夫はするんですけど,やっぱり(誤嚥・窒息に)なってみてアワアワするっていう.(A)

4) 《看護師間でケアの方向性が不一致》

ケアの判断基準が各々の看護師で異なり,看護方針や技術に影響することである.

〈同一患者へ提供するケアが違う〉:「悪いときに無理しないで治してから栄養をつけるとかそういうふうに取り組みましょう」という考えと,あと,「(中略)とにかく栄養を摂らないと体力が落ちちゃうから,多少なんか飲み込みとかが弱くても,食べれるんだったら食べさせて」みたいな(中略)そういう考えの人もいたりして….(N)

5) 《職場風土の手ごわさ》

職場風土や喫煙習慣,長期入院の弊害によって,摂食嚥下に関するケアの質の担保が困難なことである.

〈医療者の精神疾患患者に対する身体ケアへの無関心〉:療養病棟だから「どうかひとつ採血を」って言うと(内科医に)「ええっ」というふうな顔されるんで,じゃあって引っ込めて「精神科の先生の方でどうかひとつ採血を」と.なんかそこのやりにくさ.(N)

2. 【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】

このコアカテゴリーは,食事場面における誤嚥・窒息リスクを何としても回避したいという強固な信念のもとで見守りや介助などのケアを行っていることであり,6個のサブカテゴリーと3個のカテゴリーで構成されていた.

1) 《食事場面での徹底した見守り・介助》

配膳から食事終了まで,とにかく食事中の見守りと介助を徹底することである.

〈とにかく食事中の見守り・介助を工夫する〉:自力で食べれる方の方が,むしろ窒息起こしやすくて,その,目を離した瞬間につまって下向いてたっていうことがあるので(中略)必ず一人(中略)分担が付いてて,でもそこぐるぐる回って(中略)絶対目を離さない,(中略)絶対下膳しないで,そこに全員が食べ終わるまで.(K)

2) 《食堂以外のリスクへの注意》

面会時や隔離中の飲食時にもリスク意識をもち,見守りや対応にあたることである.

〈面会時の飲食にも目を配る〉:来る方全員に「食べ物をお持ちじゃ無いですか」と(中略)見させていただいて(中略)ちょっと難しいなって思ったら(中略)遠慮していただいたりして,全員にそういうこの確認を(中略)してます.(K)

3) 《セルフケアの抑制》

切迫摂食者への対応として,やむを得ず食事の全面的な介助を行うことである.

〈敢えて食事介助でセルフケアを抑制する〉:ムセても止めるってことをしないとか,精神科特有のムセたまま食べ始めるとか.やっぱり誤嚥予防のひとつの作戦としてはそういう方を介助させてもらうっていうのも一つの工夫かな(中略).患者さんに負担かけるんですけど,それでも誤嚥のリスクよりはいいだろうって.(A)

3. 【食べることのQOLを志向したケア】

このコアカテゴリーは,入院生活における楽しみのひとつとして,食べることに関するQOLを維持・向上したいという願いを込めた取り組みのことであり,7個のサブカテゴリーと4個のカテゴリーで構成されていた.

1) 《食形態・摂食方法の工夫》

患者の自立度や嚥下機能に合わせて,食形態や摂食方法を調整することである.

〈食行動や嚥下状態に合わせて食形態・摂取方法を工夫する〉:トロミの粉を使ったり(中略)ミキサー粥にしてみたり(中略)色々,その人に合わせて考えて.(D)

2) 《機能回復を促す積極的な介入》

患者の精神状態や薬物療法の副作用を考慮し,嚥下機能の回復を促すことである.

〈薬の副作用を考慮し嚥下機能に働きかける〉:ムセがあまりにも激しい方がいて(中略)とろみつけたり,おかゆにしたりしてもムセるので,(中略)昼ごはん前に口と顔の運動しましょうって言って,やってるのが既にあったんですけど(中略)そういうのにも参加してなかったんで,じゃあってことで,重点的にやろうと.(B)

3) 《心から寄り添うケアの実現》

患者や家族の希望を叶えるために,食べることの支援に努めることである.

〈経口摂取の希望に応える〉:家族の意向があって,どうしても食べさせたいって,ゼリーだけは,お茶,トロミ茶(中略)だけは経口で食べてもらってたりはしたんですけど,もう誤嚥覚悟でそっちを食べさせてあげたい,口からなんとしてもやっぱ,食べて欲しいってことで,家族とコミュニケーションとってやってます.(O)

4) 《より良いケアへの希望》

現行の看護ケアを改善し,ケアの質を向上したいと願うことである.

〈ケアをより充実させたい〉:なのでまあ,食事,ベッド上で食べられる方も可能な限り見守れる環境作ってくのはね,したいんですけど.(J)

4. 【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】

このコアカテゴリーは,精神科看護師が日々の看護業務の中で,誤嚥性肺炎の予防に有効とされる口腔ケアやポジショニング等の日常生活援助に努めていることであり,9個のサブカテゴリーと4個のカテゴリーから構成されていた.

1) 《自立度に合わせた口腔ケアの励行》

誤嚥性肺炎予防のための基本的なケアとして,口腔衛生に努めることである.

〈要介助・高齢者の口腔ケアを行う〉:身体的な合併症の患者さんいっぱい,(中略)ほぼ寝たきりで疎通もままならない人の方が多いので,(中略)もう本人がどう思っているかちょっと分からないんですけど,こちらからさせてもらって.(C)

2) 《摂食時のポジショニング》

摂食時の介助を必要とする患者に対し,適切な姿勢の保持を促すことである.

〈摂食時のポジショニングを行う〉:食事介助必要な方は,誤嚥しないような姿勢で(中略),顎引いて食べてもらうだとか,行っています.(F)

3) 《身体面の把握と統合》

患者の精神状態の他,加齢や薬物療法の影響を考慮しながら嚥下機能や身体状態を把握し,全身状態として統合していることである.

〈嚥下状態を把握する〉:入院時に皆さんに誤嚥アセスメントシート,向精神薬飲んでるかとか年齢的なものとか全部含めて,まあアセスメントシートしてますんで.そちらでハイリスクの方にはもちろん予防します.‍(I)

4) 《環境全体への取り組み》

呼吸機能の維持や回復に向けて行う,禁煙や空気乾燥の緩和のことである.

〈全面的な禁煙に取り組む〉:今年から(中略)完全禁煙を病院でやると決めましたので.今,もう本数を決め始めていて,現在うちは1日3本っていう風に.(E)

5. 【精神科医療の強みを活かすチームケア】

このコアカテゴリーは,精神科多職種チームの強みをケアに活用することである.9個のサブカテゴリーと2個のカテゴリーから構成されていた.

1) 《看護チームの連携》

困難な状況だからこそ,病棟内で生じた課題について複数の看護師で共有しケアにつなげ,患者の状態変化時に速やかに最大限の対応を行うことである.

〈早めにアクションを起こす〉:一般病院て(中略)口頭で点滴するとか急変時の指示みたいなのはあるんですけど,ここはとにかく先生の指示を仰ぐというのが第一(中略),モニターひとつつけるのもまず先生の指示で.その辺の駆け引きじゃないですけど,ま,取りあえずできることは部屋を移動させて早めに医師に報告,当直医なりなんでも報告をする.それがもし精神的でこういう状態なのか,それとも本当に具合が悪いのかが分からないレベルでも,取りあえずアクションは起こそうって.(A)

2) 《多職種との協働》

ケアの充実に向け作業療法士や精神科医師,看護補助者等の多職種に働きかけ,各々の専門職の知識や技術を活用することである.

〈他の職種の力を借りる〉:病棟内で,例えばOT(作業療法士)さんにお願いするとか,薬剤に関しては薬剤師さんにお願いするとかで,専門の窓口からちょっと情報引き出して,教えていただいてます.(F)

Ⅳ  考察

1. 精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケアの実態

精神科看護師は,【精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難】があるために,誤嚥性肺炎予防において,見守りの徹底に象徴される【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】を提供していた.一方では,精神疾患患者にとって食はQOLの重要な要素であることから,【食べることのQOLを志向したケア】に取り組んでいた.また,業務の一環として【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】に努めていた.さらに,限られた環境の中で最大限のケアを提供するために,【精神科医療の強みを活かすチームケア】を取り入れていた.これまで,精神科病院に特化した誤嚥性肺炎予防のためのケア上の困難や看護師の願いに基づくケアは報告されておらず,本研究結果から,有効な資源の少なさや精神疾患をもつ人に特有の困難さがある中での,看護師が体験しているケアの実態が明らかとなった.

大西・北岡・中原(2016)は,倫理的感受性の高い看護師ほど,それを果たせなくなったときに感じる倫理的悩みが強くなり,この悩みには病院の体制などが影響する可能性があると述べている.本研究結果も同様に,精神科看護師は職務意識や倫理的感受性が高いが故に,思うようなケアを提供できない現状に対する【精神科における誤嚥性肺炎予防ケアの困難】を感じ,【食べることのQOLを志向したケア】につながっていたと考える.精神科病棟で看護師が最も意識する見守りの目的は安全確保で,転倒・誤嚥事故,自殺を未然に防ぐため(坂元ら,2015)と報告されている.本研究結果の【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】においても,精神科看護師は《食事場面での徹底した見守り・介助》意識を持ち,《食堂以外のリスクへの注意》を心掛け,誤嚥・窒息リスクを回避していると考える.安全優先のために全てを代償せず患者の摂食行動を支援することが大切と言われているが(井箟ら,2015),精神看護師は《セルフケアの抑制》もやむを得ないと考え敢えて食事を全介助で提供し,罪悪感を抱きながらも妥協点を模索していることが考えられる.この理由として,精神疾患患者に特徴的な切迫摂食等の行動への介入困難があり,予測不可能な事態への恐れやマンパワー不足による看護業務遂行への焦りが影響していると考える.また,これらの背景には精神科病院の職場環境要因の他,精神疾患患者に特有の困難さがあると考えられる.精神科看護師は,患者が自覚症状を訴えないこと,検査や治療に協力が得られないこと,療養行動に関心を示さないことに困難を抱いている(清野,2012).本研究で示された《精神疾患をもつ患者特有の難しさ》の〈セルフケアへの介入が難しい〉〈身体面・セルフケアのアセスメントが難しい〉〈ケアに危険を伴う〉〈生き抜く力を信じるしかない〉体験は,身体合併症看護の困難さを形づくる一因と考えられる.そのような中で精神科看護師は,嚥下状態等の身体面へも目を向け,【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】を提供していた.口腔ケアは誤嚥性肺炎予防策の基本的ケアであり(前田,2018),要介助者に対する日常生活援助の一環として励行していると考える.精神疾患患者は身体症状の訴えが不明瞭なことが多く,精神科病院における身体合併症看護の課題としてアセスメント能力の強化が指摘されてきた(日本精神科看護技術協会,2007道上,2017).本研究結果でも精神科看護師は,《身体面の把握と統合》のために身体面と精神面の両側面から行う観察・アセスメントの重要性を認識していることが推察された.さらに【精神科医療の強みを活かすチームケア】では,《看護チームの連携》に努めていた.身体管理を要する患者の増加に伴い,精神科看護師が抱く身体合併症看護への不安の要因として,精神科特例による低い人員配置基準があげられる(清野,2012).精神科看護師は,マンパワー不足を補うために事例検討や早めのアクションを心掛け,限られた環境でケアの質向上や看護師の不安軽減に努めていると考えられる.

2. 食べることのQOL向上に向けた支援の在り方

精神科身体合併症の中でも,特に誤嚥性肺炎は,予防的なケアが患者のQOLや予後を大きく左右すると考える.精神科看護師は,食形態や水分粘度の調整,食具の工夫といった【食べることのQOLを志向したケア】を提供していた.食形態や水分粘度の調整,食具の工夫は,精神科病棟で行われる誤嚥・窒息予防に向けたケアと報告されているが(井箟ら,2015),本研究結果のように,食べることのQOLを志向したケアという解釈もできるであろう.精神疾患患者の生活習慣への動機づけの難しさが指摘され(髙橋・戸原・寺尾,2010),セルフケア行動を阻害する要因のひとつに精神症状や薬物療法の副作用がある(日本精神科看護技術協会,2011).本研究結果から,精神科看護師は,介護抵抗の強い患者に対する口腔清拭のような〈ケアに危険を伴う〉場面や〈身体面・セルフケアのアセスメントが難しい〉〈セルフケアへの介入が難しい〉という経験から,《精神疾患をもつ患者特有の難しさ》を抱えていた.他方では患者が示す反応の背景にある精神状態や身体の病理を見極めながら,食行動や嚥下機能の変化に対応すべく食形態の調整や摂取方法を検討していた.このように精神疾患患者に特徴的な症状や行動,薬物療法の影響を的確に捉えたケアの提供は,単科の精神科病院であるからこそ培われる技であり,精神科看護師の豊富な経験知に基づいて行われていると考える.精神科看護師は,《より良いケアへの希望》を持ち,経口摂取が困難な患者やその家族のニーズに応え,細やかなケアを検討しながら共に同じ目標に向けて取り組んでいた.入院中であっても介護・看護環境が整っていない場合は,胃瘻造設患者の経口摂取を断念せざるを得ない(水田,2015).一方で,誤嚥性肺炎発症後に嚥下評価や訓練により経口摂取へ移行できたという報告(松本ら,2017)がある.本研究結果から,精神科看護師は胃瘻・経管栄養患者に対し,リスクを覚悟した上で経口摂取に取り組んでいた.患者のQOL向上への願いが精神科看護師の原動力となり,《心から寄り添うケアの実現》をもたらしていると考える.

摂食嚥下障害に対する支援はベッドサイドリハビリで完結するものではないことから,チーム医療が欠かせない(山口ら,2017).本研究結果も同様で,【精神科医療の強みを活かすチームケア】において,看護補助者との取り組みや院内の多職種がもつ専門性や強みを活かした《多職種との協働》により,ケアの質の向上に努めていることが考えられる.一部のグループでは摂食嚥下専門職による嚥下訓練や食事介助,ポジショニングへの介入について語られていたものの,主に精神科病院に併設する老人保健施設等に所属する言語聴覚士へ依頼していた.他方,一部の病院では,入院時からの定期的な嚥下スクリーニングや作業療法士による集団嚥下訓練が行われていた.院内に嚥下造影や内視鏡設備が無く言語聴覚士が不在であっても,作業療法士と看護師が中心となり機能評価や嚥下訓練を進めることで,単独職種での介入以上の効果が期待できると考える.

誤嚥性肺炎の発症要因として日常生活動作(Activity of daily living:以下,ADLと略す)や栄養状態との関連が指摘され(齋藤ら,2011),再発予防策として多職種による栄養管理の効果が指摘されている(山口ら,2017).本研究結果において,嚥下機能が低下した患者に対する栄養支援チーム(Nutrition Support Team:以下,NSTと略す)の介入,誤嚥性肺炎を繰り返す経管栄養患者への経口摂取移行への支援が行われていたが,ADLへの積極的な介入は見当たらなかった.今後は嚥下障害の有無にかかわらず患者のADLや栄養状態に目を向け,栄養管理や摂食嚥下,誤嚥・窒息時の咳嗽・喀出力に必要な筋力が維持できるよう,患者の身体機能に働きかけていくことが必要と考える.

定型抗精神病薬の内服種類が嚥下機能に有意に関連すると報告されている(中村ら,2013).本研究結果から,向精神薬を長期連用する高齢者には過鎮静や嚥下機能低下を考慮しながら主治医へ薬剤調整の働きかけを行っていたものの,患者の異常兆候を捉えた際に早めに検査指示が出るような介入に苦慮していた.このような現状から,患者の食べることのQOL向上に向けた支援として,院内の多職種やNSTと協働で包括的なアセスメントを行い,患者中心のケアの検討・実施,モニタリングに取り組むことの必要性が示唆された.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究で明らかとなった成果は,各々の精神科看護師の誤嚥性肺炎予防に関するケアの実態を反映するものであった.しかし,インタビュー時に誤嚥性肺炎予防のみならず,他の身体合併症ケアについても触れており,各施設1回のインタビューでは十分に語りつくせなかった可能性も否めない.今後は本研究の成果を活用するとともに,誤嚥性肺炎予防のための包括的なケアプログラム構築に向けて精錬を図る必要がある.

Ⅴ  結論

精神科看護師が体験している誤嚥性肺炎予防に関するケアとして,【精神科における誤嚥性肺炎予防の困難】【目前の誤嚥・窒息リスクを回避したいという強い思いに基づくケア】【食べることのQOLを志向したケア】【誤嚥性肺炎予防に有効とされる日常生活援助】【精神科医療の強みを活かすチームケア】という5個のコアカテゴリーが明らかとなった.精神科看護師は,精神科特有の困難がある中で,誤嚥性肺炎防止と食べることのQOLを志向したケアを実施していた.一人ひとりの患者のニーズに立ち返り,多職種連携や包括的支援に取り組むことの重要性が示唆された.

謝辞

調査にご協力くださいました研究参加者の方々,病院関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.ご指導を賜りました日本赤十字九州国際看護大学の髙橋清美先生に心より感謝申し上げます.なお,本研究は平成28年度新潟大学大学院保健学研究科研究奨励金の助成を受けて実施した.JSPS科研費(課題番号17K19800)の成果の一部である.本研究の一部は第27回日本精神保健看護学会学術集会において発表した.

著者資格

清野由美子は研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文作成を行った.田中浩二は質的分析および論文作成,最終原稿作成に至るまでの助言に貢献した.関井愛紀子と小山諭は研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2020 日本精神保健看護学会
feedback
Top