2020 年 29 巻 2 号 p. 29-39
研究目的は,非同意で精神科病棟に初回入院した患者に対する熟練看護師の入院時の関わりを明らかにすることである.非同意で精神科病棟に初回入院した患者と入院時に関わりの経験をもち,かつ精神科病棟で10年以上経験した看護師9名に対し半構造化面接を行い,質的記述的分析を行った.
熟練看護師は非同意で精神科病棟に初回入院した患者への入院時の関わりとして,入院直後に【入院時の衝撃を和らげる】関わりを行っていた.そして【患者のペースを尊重する】ことを行いながら,【患者と接点を作る】関わりを行っていた.患者と接点ができたところで【患者の体験を知る】ことを大切にしながら,【患者へフィードバックする】ことを行い,【患者に治療参加を促す】とともに【患者と一緒に行動する】【患者の強みを活かす】ことを行っていた.更に,関わり全体を通して熟練看護師は患者の一生を左右するという【看護師として関わりに責任を持つ】関わりを行っていることが明らかになった.
This study aimed to clarify the involvement of expert nurses with patients upon their nonconsensual initial admission to the psychiatric ward. We performed a qualitative descriptive analysis and conducted a semi-structured interview on nine nurses who have been involved with patients upon their nonconsensual initial admission to the psychiatric ward and had more than 10 years of experience at the psychiatric ward.
With their involvement with patients upon their nonconsensual initial admission to the psychiatric ward, these expert nurses “relieved the shock upon hospitalization” immediately after their admission. Subsequently, while “keeping pace with patients’ demand,” they “created a point of contact with patients.” After creating a point of contact with patients, while emphasizing on “knowing patients’ experience,” they “provided feedbacks to patients,” “encouraged patients to participate in treatments,” “acted with patients,” and “made use of patients’ strengths.” Moreover, it was revealed that expert nurses “take responsibility for being involved as a nurse” with a sense of responsibility, influencing the patients’ lives through their overall involvement.
2012年厚生労働省は,精神科の新規入院患者は原則1年以内の退院を目指す方向性を打ち出した(厚生労働省,2012).精神科救急・急性期病棟の病床数は2012年では23,560床,2016年では26,805床(厚生労働省,2016)と増加している.このように,精神障がい者の早期退院を目指す中で,精神障がい者への入院治療は短期間で集中的な治療を行っており,精神科急性期治療の重要性は増している.
精神科に入院する患者は,医療保護入院や措置入院などの強制的な入院への不満,精神科病院への悪印象,閉鎖的治療空間への窮屈感を感じている(辻本・松宮,2015).また,急性症状を呈している患者は,幻覚や妄想などの精神症状やそれに伴う行動を医療者に理解されず,自分が拒絶され排除されようとしている感覚を抱き,強い恐怖と孤独を感じている(萱間,2015).混乱状況にある患者に対し,看護師は「入院治療を受ける」という患者自らの意思決定がなされるために,入院を納得してもらう,納得してもらえなくとも受け入れてもらう関わりを行っていく必要がある(阪内,2003).特に,入院時における看護師の対応や説明によっては,その後の両者の関係性に大きく影響する(佐藤ら,2015)ことからも,非同意入院の患者に対する看護師の入院時の関わりは重要である.しかし,非同意で精神科病棟に初めて入院する患者は,入院することによって今まで経験したことのない精神科病棟という環境の変化によって混乱し,その結果として入院に対する「抵抗」や「暴力」が起こる(野中・富田,2015)ため,看護師が患者と早期に関係構築を行うことには多くの困難が予想される.
今後,精神科病棟において,短期間での集中的な治療がますます推し進められる中で,看護師は早期に患者と信頼関係を構築することが重要になってくる(阪内,2003).精神科病棟において患者と早期に信頼関係を構築するための一助として,熟練看護師が患者と関係を構築する報告がある.牧・永井・安藤(2018)は,熟練看護師は統合失調症患者に対する地域定着支援において関係構築困難な患者に対し,安全感を保障し信頼関係の構築を図っていたと述べている.また,熟練看護師の本質としてCutcliffe(1997)は4つのキーワード「知識」「態度/理論」「役割」「スキル」があることを明らかにしている.「スキル」には「人間関係」が含まれており,熟練看護師が患者と早期に関係性を構築するスキルを実践していることを示した.これらの文献から,熟練看護師は精神科病棟に非同意で初回入院した患者とも良好な関係を構築することができると推測される.熟練看護師が患者と早期に関係構築を行うための実践を明らかにすることは,看護師の経験年数に限らず患者と早期に関係構築をするための手立てになると考え,今後の精神科看護にとって重要な意味を持つ.しかし,精神科病棟に非同意で初回入院した患者への熟練看護師の関わりを明らかにした研究は見当たらない.そこで,本研究では非同意で精神科病棟に初回入院した患者への熟練看護師の入院時の関わりを明らかにすることを目的とした.
非同意入院とは,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律における入院形態のうち,措置入院,医療保護入院,応急入院とする.入院時とは,医療法施行規則第一条六に「入院診療計画書は入院した日から七日以内に作成し,適切な説明を行わなければならない.」とあることから7日以内とする.熟練看護師とは,Benner(2001/2006)が述べる達人看護師の定義「状況を直感的に把握し,適切な行動に結び付けることができる」とともに,精神科病棟で10年以上経験した看護師とする.関わりとは,患者との対応の中での工夫や気を付けていることとする.
質的記述的研究
2. 研究参加者及び選定方法研究対象施設は研究協力の同意が得られた2施設とした.研究参加者は非同意で精神科病棟に初回入院した患者と入院時に関わった経験のある熟練看護師とした.研究対象施設の看護管理者に選定条件を満たす看護師を選定してもらい,その後,研究者が口頭にて研究の趣旨を説明し,書面にて研究協力の同意を得た.
3. データ収集方法データ収集期間は2017年10月から2018年1月であった.面接調査の経験がある研究者2名が面接を行った.面接を担当する研究者は交互にインタビュワー役,インタビュイー役になり模擬面接調査を行い,研究者間でフィードバックを行った.病院の1室を借り,1人60分程度の半構造化面接を行った.研究参加者には事前にカルテで精神科病棟に非同意で初回入院した患者の事例を確認してもらった.面接内容は非同意で精神科病棟に初回入院してきた患者の概要,精神科病棟に非同意で初回入院した患者との関わりの難しさ,そのような難しさを感じる患者に対して気をつけていることや工夫をしていることとした.なお,インタビュー内容は研究参加者の了解を得て録音した.
4. 分析方法研究参加者ごとに逐語録を作成し,非同意で精神科病棟に初回入院した患者に対する熟練看護師の入院時の関わりが語られている記述部分を分析対象とした.関わりごとに単文で区切り,可能な限り研究参加者の語った言葉を用いてコード化した.意味内容の類似したコードを集めて,カテゴリーとした.なお,本研究の明解性を確保するために,逐語録からコードの生成過程,コードからカテゴリー生成の過程の各段階で精神看護学を専門とする研究者や質的研究のエキスパートのスーパービジョンを受けた.また,確認可能性を確保するために,研究参加者の語った言葉からコード,サブカテゴリー,カテゴリーに至る過程を記載した.コード生成は面接者2名で行った.コードからカテゴリー生成の過程は研究者3名共同で行い,3名の意見が一致するまで協議を行った.
5. 倫理的配慮本研究は目白大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(No.17-011).研究参加候補者である看護師に対し,研究の目的と内容,研究参加は自由意思によること,途中で辞退してもよいこと,研究参加による利益と不利益,プライバシーの保護,個人情報の保護について文章並びに口頭で説明を行い,同意を得た.
研究参加候補者9名に協力依頼し,全員から同意が得られた(表1).
研究参加者 | A | B | C | D | E | F | G | H | I |
年齢(歳) | 30歳代後半 | 40歳代後半 | 40歳代前半 | 40歳代前半 | 60歳代前半 | 50歳代前半 | 40歳代前半 | 30歳代後半 | 40歳代後半 |
性別 | 男性 | 男性 | 男性 | 女性 | 男性 | 男性 | 男性 | 女性 | 女性 |
経験年数(年) | 12 | 17 | 13 | 20 | 40 | 24 | 22 | 11 | 26 |
面接時間 | 35分00秒 | 46分15秒 | 47分39秒 | 37分08秒 | 56分59秒 | 45分27秒 | 33分42秒 | 36分13秒 | 44分05秒 |
事例の概要 | 警察に保護され措置入院.入院時へらへら笑っている感じであった.入院直後から関わる. | 前日措置入院し,すぐに鎮静をかけられる.翌日覚醒したところから関わる. | 家から飛び出し警察に保護され措置入院.支離滅裂だが,なんとか疎通が取れる.入院直後から関わる. | 家に引きこもり心配した家族が連れてきて医療保護入院.入院翌日から関わる.質問しても返答しない. | 警察に保護され措置入院.入院当日の夜勤から関わる.拒絶が強い. | 警察に保護され医療保護入院.思考途絶が見られた.入院直後から関わる.本人は入院は必要ないと話す. | 幻聴に左右され殺されると訴え,家族が警察に通報して措置入院.入院直後から関わる. | 過敏性が高く,家族付き添いで医療保護入院.入院直後から関わる.問いかけにあまり話さない. | 幻聴妄想が著明で自傷他害の疑いで措置入院.入院直後から関わる.何でここにいるのかと話す. |
逐語録から225コードが抽出され,225コードを類似性に基づき分類した結果,44サブカテゴリーになり,最終的に9カテゴリーが形成された.以下,カテゴリーごとに代表的な具体例を示していく.なお,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》,研究参加者の発言を「 」,その末尾に研究参加者名を〈 〉の記号で表し,( )内に補語を加えた.
カテゴリー | サブカテゴリー |
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入院時の衝撃を和らげる | 自ら自己紹介をする |
声のトーンを柔らかくして話しかける | |
病棟は安全,安心できる場所だと伝える | |
入院する前や入院したことについてねぎらう | |
いつもの患者と状態が違うために入院したと説明する | |
自分自身が落ち着いて関わる | |
患者のペースを尊重する | 患者の様子や環境に配慮して関わる |
問題行動に対し,異なった視点で関わる | |
患者の様子によっては,無理に関わらない | |
強制的な関わりをしない | |
患者と相性の良いスタッフに任せる | |
患者と接点を作る | 患者の行動や発言を観察する |
生活に関する会話から患者に近寄っていく | |
自ら患者との距離を近づける | |
自分のことをさらけ出す | |
患者と同じものから会話を広げる | |
顔見せや声掛けなどで関わる機会を増やす | |
患者の希望が叶うように医師や看護師に相談する | |
患者のことを心配していると伝える | |
患者の様子を見ながら体に触れる | |
患者の体験を知る | 感情にフォーカスを当てて関わる |
患者の言い分をきちんと聞く | |
生活する中で困っていることはないか聞く | |
患者の言動が,患者の根本に関与していると感じ,確認する | |
幻聴や妄想など,本人が体験していることについて聞く | |
服薬することでの違和感を聞く | |
患者が感じているであろうことを言葉で伝える | |
今まで関わってきた患者対応の経験を伝えた後,本人に話してもらう | |
患者へフィードバックする | 入院時の患者の状況を伝える |
入院時からの変化を伝える | |
自分の考えや気持ちをストレートに伝える | |
患者に治療参加を促す | 治療や行動制限について説明する |
疾患や薬の知識について伝える | |
自分の行動をコントロールする必要性について話す | |
薬の効果を伝え,服薬を勧める | |
医師の治療の説明後に,補足して対応する | |
患者と一緒に行動する | 患者を信頼して関わる |
患者の味方として協力したいことを伝える | |
今後のことについて,一緒に話し合って共有する | |
現在の状況について振り返りを行う | |
患者の強みを活かす | 患者に良い見通しを伝える |
症状や問題の中に患者の強みを見つける | |
看護師として関わりに責任を持つ | 自分の関わりについて正直に向き合う |
患者の一生を左右するという責任感を持って関わる |
《自ら自己紹介をする》について,看護師は非同意で精神科病棟に初回入院してきた患者に対し,最初の出会いの場面で,まずは自分から自己紹介をすることで自分のことを分かってもらおうとしていた.「特に自分は,まず最初に会うときに,自分の名前を,自己紹介をしますよね.」〈E〉
《声のトーンを柔らかくして話しかける》について,看護師は患者に安心してもらうために,関わる時の声のトーンを柔らかくすることを心掛けて話しかけていた.「印象を残すというか,ゆーっくり話すとか,やさーしく,出来るだけ,自分の中での最大限の柔らかなトーンで話してみるとか(をしている).」〈C〉
《病棟は安全,安心できる場所だと伝える》について,看護師は入院してきた患者に対し,最初に病棟が安全,安心な場所であると感じてもらうことが大事だと感じ,病棟は安全,安心な場所だと言葉で伝えていた.「この場所が安全であるということを最初に伝える事が一番大事かなと(思ってやっている).」〈A〉
《入院する前や入院したことについてねぎらう》について,看護師は入院してきた患者に対し,入院する前の状況や入院したことについて,その時の患者の心情を思い遣り,患者にねぎらいの言葉をかけていた.「今回,こういうとこに来てしまって大変だったなってことを声掛けしますね.今日は大変でしたね,ご飯食べたの,寝れたのとか,そういう会話から始まって.」〈A〉
《いつもの患者と状態が違うために入院したと説明する》について,入院という事態を納得できない患者に対し看護師は,あたりまえであった生活サイクルが乱れたために入院になったと説明していた.「入院って,現実から一時期離れるわけじゃないですか.患者さんの当たり前のサイクルが乱れてしまったっていうことだと,そのサイクルを戻すための入院だからと.」〈I〉
《自分自身が落ち着いて関わる》について,患者と関わるときに看護師は自身が気持ちを落ち着かせ対応することで患者に安心してもらおうとしていた.「こっちが落ち着きを見せることが肝心で,こっちが怖がってたりとか興奮してると.やっぱり,お互いの反応が反応を呼ぶので(落ち着いて対応している).」〈C〉
2) 【患者のペースを尊重する】《患者の様子や環境に配慮して関わる》について,看護師は患者の症状の程度やペース,生活環境に配慮して関わっていた.「患者さんからすると,治療の場でもあるけど,生活の場でもあるので.一定のわきまえというか.物に触れることもそうですけど,やっぱり一つ一つ,丁寧に声掛けて触らしてもらっていいですかとか,動かしていいですかと(伝える).」〈G〉
《問題行動に対し,異なった視点で関わる》について,看護師は問題行動に焦点を当てて患者に関わるのではなく,問題行動そのものとは異なった視点で関わりを持とうとしていた.「(問題行動を問題視するのではなく)行動がそういう風に見えてるよじゃないけど,びっくりしたっていうのかもしれない,なんかずいぶん今日怖いねじゃないけど,そういう風に見えてることを相手に伝える.」〈F〉
《患者の様子によっては,無理に関わらない》について,看護師は患者が他者との交流意欲や活動意欲が低いと感じたときには無理に関わらないようにしていた.「活動意欲があるのかなってとこで話しかけて.そのアクションで,向こうがあんまり返事がなかったら今日はこれぐらいかなみたいな感じで立ち去る.」〈H〉
《強制的な関わりをしない》について,患者の意思で行動できるように看護師は患者に行動制限をしないよう配慮していた.「警察官が,縄をほどいて,その,腕をむんずとつかまえてたから,いや,もう放してもらっていいですよーって言って,私は触らないで,どうぞこちらへって対応の仕方をする.」〈C〉
《患者と相性の良いスタッフに任せる》について,看護師は患者と関わる中で相性が合わないと感じたら一人で抱え込まず,相性の良い他の看護師に関わりを任せていた.「人となりとか性格とかやっぱ全然違うので.私が合わなければ別の看護師に話してもらっていいし,話す内容が私じゃ嫌だったら,全然他の人(に任せて)でもいいとは思ってるので.」〈H〉
3) 【患者と接点を作る】《患者の行動や発言を観察する》について,看護師は患者の行動や発言を観察し,観察した内容からその背景にある体験を想像することで,患者のことを知ろうとしていた.「何か待ってる時間もあったかな.しゃべるのを待つというか,ずっと,見ているというか.本人のなんか,聞こえてそうな感じとか,体験がありそうな感じとかを見てるというか.」〈D〉
《生活に関する会話から患者に近寄っていく》について,看護師は患者と会話の機会を作るために,食事や天候,雑談など日常的な話題で話しかけていた.「やっぱりまた来たのかとか,嫌がられることも多いんですよね.あんまり治療的な話っていうよりは,雑談だったりをメインにしていく中で,向こうも,だんだん(心を)開いてくれるような感じがあるので.」〈G〉
《自ら患者との距離を近づける》について,看護師は患者との関係性を深めるために視線を合わせる,場に一緒にいるなどして自ら患者との心理的距離を近づけていた.「本人とこう,距離を縮めるためにも,やっぱ,必要だなあと思うので.場に一緒にいるというか.慣れてもらうというか.」〈D〉
《自分のことをさらけ出す》について,看護師は自分のエピソードをさらけ出すことで自分の境遇や考えを知ってもらい,患者との間に感じる距離感を縮めるよう努めていた.「自分をさらけ出すことで,相手のハードルは確実に下がるわけなんで.やっぱり,看護師は,そのさらけ出せるエピソードを,完全にさらけ出せるエピソードの一つや二つは持ってるべきだと思います.」〈C〉
《患者と同じものから会話を広げる》について,看護師は患者と同じ境遇や体験がないか会話の中で探りながら会話を広げていた.「同じもの探しみたいなことをしますね.どこ出身なの,何人兄弟とか,お父さん,お母さん,どんな人みたいな,同じだねみたいなことをしながら共通点を探したり(する).」〈A〉
《顔見せや声掛けなどで関わる機会を増やす》について,患者の部屋に頻回に訪室し,顔見せや声掛けすることで看護師は患者と関わる機会を増やしていた.「ほんとに,信頼関係を築かなきゃいけないっていうのは,常に思ってる.もう頻回に訪室してコミュニケーションを積極的にとるようにしていた.」〈G〉
《患者の希望が叶うように医師や看護師に相談する》について,看護師は患者が希望を伝えてきたら,その希望ができるだけ叶うよう医師や看護師に相談していた.「自分の責任でできることは必ずやるっていうことですよね.先生と話がしたいと言ったら,先生に伝えておくではなく,先生を呼ぶわけですよ.」〈E〉
《患者のことを心配していると伝える》について,看護師は身体的ケアをしながら,あるいはコミュニケーションの中で患者のことが心配だと言葉で伝えていた.「ケアをして,あなたのことを心配しているんですよと.こういう状況でびっくりしましたよっていうのを,そういうのを(伝えた).」〈B〉
《患者の様子を見ながら体に触れる》について,初めての場所や人,そして状況が見通せない中で不安を感じている患者に対し,看護師は手を握る,肩に触れることで安心してもらうようにしていた.「手を握ってあげたりとか,肩を抱いてあげたりとか.その人が触ってほしい程度に触れられたらと(思う).」〈C〉
4) 【患者の体験を知る】《感情にフォーカスを当てて関わる》について,看護師は患者の感情を知るために,治療や生活の中で患者が感じているであろう感情にフォーカスを当てて関わっていた.「その人が感じている感情,例えば,この入院で大変だったとか,辛いとかいうのは,そこにフォーカスを当てて,詳しく聞いて,その人の気持ちを分かってあげてますよってことを繰り返し伝えていくようにしてます.」〈A〉
《患者の言い分をきちんと聞く》について,まずは患者の話をしっかり聞くことが患者に信頼してもらえると考え,看護師はきちんと患者の話を聞こうとしていた.「(患者さんは)言い分があって言ってるんですよ.こっちにはそう聞こえなくても.なんで,最後まで言い分を聞く姿勢を保つ.」〈C〉
《生活する中で困っていることはないか聞く》について,看護師は患者に生活の中での困りごとや看護師自身が患者への対応の中で患者に迷惑をかけていないかを聞くことで,患者の様子を把握しようとしていた.「日常生活の中で,本人の生活,本人だけじゃなく私との比較もあるんですけど,日常生活の中で何が起きてて,何が不都合なのか,うまくいってないのかを知るようにしています.」〈I〉
《患者の言動が,患者の根本に関与していると感じ,確認する》について,患者から看護師のことで何度も話してくることに対し,その話題が患者の根本に関与していると感じ,本人に確認していた.「根本になんでそこまで,僕の職歴とかうらやましいと思うのかって所から,家族のことだろうなあって思いながら家族に対する思いを聞いて,そこに僕ができることがあるのか(を確認する).」〈A〉
《幻聴や妄想など,本人が体験していることについて聞く》について,看護師は患者が体験しているであろう幻聴や妄想について,本人の言葉で語ってもらうように関わっていた.「聞こえてるとか,体験とか,何でもいいから,本人の言葉で出てくるように,関係性を取らなきゃっていうのは常に思ってるかなあ.」〈D〉
《服薬することでの違和感を聞く》について,服薬することで患者が感じるであろう違和感を推測しながら患者に服薬について話を聞いていた.「見ている中で副作用が出ちゃったときがあって,違和感があるだろうから,あの,変な感じがするんじゃないのって話はしていた.」〈D〉
《患者が感じているであろうことを言葉で伝える》について,看護師は患者が治療や対人関係などで感じているであろうことを推測し,推測した感情を言葉で伝えていた.「飲むときに本当に嫌そうに飲むねえって言うと,やっぱり飲みたくないんだって.そうなんだ,飲みたくないよねえって(話してくれた).」〈B〉
《今まで関わってきた患者対応の経験を伝えた後,本人に話してもらう》について,看護師は自身が過去に関わってきた患者から聞いた思いや入院したことで起こることを患者に伝えた後,患者自身はどう思うのか尋ねていた.「大学生だったんですね,その人.なので,学校のこととか,そういうところの心配とかあるかとか聞いたんですかね.(今まで関わった患者には)こういう人もいるんだけど,あなたは今どう思ってるのかみたいなところを聞いた.」〈H〉
5) 【患者へフィードバックする】《入院時の患者の状況を伝える》について,看護師は患者の入院時の状況や,入院時の状況を見た自分の印象について伝える事で,なぜ入院になったのかを伝えていた.「こういう状況だと,困っちゃうから入院になっちゃうよねっていうのを,そこでちゃんと説明してるかなあ.」〈D〉
《入院時からの変化を伝える》について,患者自身が入院による変化をどう感じているか確認するために,患者に看護師自身が感じた患者の入院時からの変化を伝えていた.「本人には,あまり会話にならなかったっていう入院時の印象を伝えて,今はそれがないように見えるよねって.どう,自分では変化を感じるっていう(ことを聞いた).」〈A〉
《自分の考えや気持ちをストレートに伝える》について,看護師は患者に誠実であることが信頼関係構築に必要だと考え,自分の考えや気持ちを患者にストレートに伝えていた.「薬のことも何でも,とにかくあなたと話すときに,うそはつかないよっていうところ,それだけはきちんと,私は伝えています.」〈I〉
6) 【患者に治療参加を促す】《治療や行動制限について説明する》について,看護師は突然の入院で状況を把握できない患者に対し,治療を受け入れてもらうために治療内容や行動制限の必要性について説明を行っていた.「ただ,単にやみくもに縛られてます,閉じ込められてますっていうのは絶対良くない.なんでそんな風になってんのかって分かってないので理由はきちんと説明していく.」〈B〉
《疾患や薬の知識について伝える》について,疾患の症状や今後現れる可能性のある薬の副作用について,看護師は患者の状態を観察しながら説明を行っていた.「入院時とか,その副作用が出たときに,ちらっとその話をしておくと,後で疾患教育をするときに使えるなあと思いましたけどね.」〈D〉
《自分の行動をコントロールする必要性について話す》について,看護師は行動制限が行われている患者に対し,行動制限が解除されるためには衝動性を自分でコントロールできる必要があることを伝えていた.「自分の行動をコントロールできなくて,自分とか他者を傷つけてしまう可能性があるから隔離になっているって.それが大丈夫ってことになれば鍵は開きますよって話を(した).」〈A〉
《薬の効果を伝え,服薬を勧める》について,服薬することで患者が得られるであろう効果を伝えることで服薬してもらうよう勧めていた.「このお薬は,リスペリドンと言って,という説明よりは,これ落ち着くよー,と(伝えた).」〈C〉
《医師の治療の説明後に,補足して対応する》について,看護師は医師から患者に対し治療についての説明があった後に患者の理解度を確認し,説明の補足を行っていた.「これからお薬をきちんと飲んで,こういう風な治療法をやってってもらいますよっていうような話は,メインでやるのはお医者さんですけど,回診時間が短いもので,その後の対応は看護が代理でやっていましたね.」〈B〉
7) 【患者と一緒に行動する】《患者を信頼して関わる》について,看護師は患者にあなたのことを信頼していると言葉で伝えながら行動制限の緩和などを行っていくことで,さらなる信頼関係の深化に繋げていた.「危ないこともしないねって.そういうところも,やっぱり,ちゃんと,患者さんを信頼していくと,患者さんも信頼してくれる.」〈C〉
《患者の味方として協力したいことを伝える》について,看護師は関わりの中で患者に対し,自分はあなたの味方であること,一緒に協力していきたいことを患者に伝えていた.「その辛さとか,なんとかできる方法を一緒に探したいと思うんだよねって.僕は何とか味方になりたいんだよねって(伝えた).」〈A〉
《今後のことについて,一緒に話し合って共有する》について,今後の治療の方向性について,看護師は患者と一緒に話し合って認識を共有していた.「(患者は)治療のことや今後のこともどうしていいのか分からないので.退院するために一緒に考えることを,私の中ではいつも患者さんと共有している.」〈H〉
《現在の状況について振り返りを行う》について,看護師は患者の病状が落ち着いてきたと感じたときに,患者自身に気づいてもらえるように病識や入院時からの変化,受けているケアの認識を患者に問いかけ,一緒に振り返っていた.「現実として入院してるってとこでは,やっぱり何かしら病気はあるんじゃないのかなっていうとこは,気付いてもらいたいっていう働き掛けはしている.」〈G〉
8) 【患者の強みを活かす】《患者に良い見通しを伝える》について,看護師は患者に対し,治療を受けることで疾患は回復していくこと,そして必ず退院できることなど良い見通しを伝えていた.「あなたこの病気をどういう風に認識してるのって話をしました.健康に過ごしている人もいるとか,回復の過程とか,そういうことは知らない,書かれてないですよね.それについてお話したり,することはしましたね.」〈A〉
《症状や問題の中に患者の強みを見つける》について,看護師は患者の症状や問題と捉えがちなことからも強みを見つけるようとしていた.「不眠で全然安静も取れずじゃないけど.そんなに寝なくても生活やってたんですねって.そのことを否定じゃなく,すごいって言うようには必ず(伝えている).」〈I〉
9) 【看護師として関わりに責任を持つ】《自分の関わりについて正直に向き合う》について,看護師は患者と向き合うにあたって,自分の関わりが患者にどのような印象を与えているのか正直に向き合うことを心がけていた.「自分の印象,自分が相手にどんな印象を与えやすいのかとか,もっと言ったら,客観的データとして,これまでどんな印象を与えてきたのか,てことと正直に向き合えるかですよね.」〈C〉
《患者の一生を左右するという責任感を持って関わる》について,看護師は慢性疾患を患う患者と関わるうえで,患者の一生を支えるという責任感を持たなければならないという意識をもって関わっていた.「精神科って,一回関わると,その人の昔から今に至るまでの一生に関わるわけです.今,関わった患者さんに対しての一瞬がその患者さんの一生を左右するんだって意識をもっています.」〈E〉
3. ストーリーライン熟練看護師は非同意で精神科病棟に初回入院した患者への入院時の関わりとして,入院直後に【入院時の衝撃を和らげる】関わりを行っていた.そして【患者のペースを尊重する】ことを行いながら,【患者と接点を作る】関わりを行っていた.患者と接点ができたところで【患者の体験を知る】ことを大切にしながら,【患者へフィードバックする】ことを行っていた.【患者に治療参加を促す】とともに【患者と一緒に行動する】【患者の強みを活かす】ことを行っていた.関わり全体を通して熟練看護師は患者の一生を左右するという【看護師として関わりに責任を持つ】関わりを行っていた(図1).
非同意入院で精神科病棟に初回入院した患者への熟練看護師の入院時の関わり
精神科に非同意で初回入院してきた患者は,入院時の精神科病棟という初めての環境への戸惑い,恐怖,緊張の他に,入院前からの被害的な幻聴や妄想によって他者を信頼しきれない状況にある(萱間,2015).そのような患者に対し本研究の結果である【入院時の衝撃を和らげる】と,梶原・遠藤(2017)の報告にある【意に反した中でなんとか行う患者の意に沿う援助】は,どちらも入院や医療者を受け入れてもらうために安心できる環境を提供する関わりである.なかでも,本研究の特徴的な関りとして,《声のトーンを柔らかくして話しかける》《入院する前や入院したことについてねぎらう》があった.この関わりについては,熟練看護師はねぎらいの言葉をかけ,気持ちをときほぐし安らぎを提供する(野嶋ら,2004)ために行っていたと考える.【患者の体験を知る】関わりにおける《患者の言動が,患者の根本に関与していると感じ,確認する》関わりも本研究の特徴的な関わりであった.これは,熟練看護師が患者の生活歴や背景を理解することが患者理解の糸口になる(吉井・田嶋,2016)ことを理解しているからだと思われる.
また,【患者の強みを活かす】関わりは梶原・遠藤(2017)の報告には見られなかった.なぜならば,梶原・遠藤(2017)の入院時の定義が本研究の定義より短期間に設定されており,入院時の戸惑い,緊張状態への関わりに焦点が絞られているためだと考えられる.しかし,先行きが見えず不安に苛まれている入院時だからこそ,患者の希望,健康的な部分を見出す(田嶋・山田,2014)ことが効果的な関わりだと感じ,熟練看護師は【患者の強みを生かす】関わりを実践していたと考える.そして,看護師自身の心持についても梶原・遠藤(2017)の文献では報告されていなかった.田中ら(2015)は「精神疾患患者との関係構築には難しさが伴うが,一度構築されると患者と看護師の間には時と場を超えて失われない一生ものの関係が作られていた」と述べている.また,田嶋・山田(2014)は,効果的だった関わりを活用することが精神科看護師の高い成果を生み出すための特徴的な行動だと報告している.熟練看護師は,入院時という短期間の中でも,初回入院時に丁寧に関わることが関係構築に効果的であった体験から,【看護師として関わりに責任を持つ】関わりを行っていたと考える.
2. 熟練看護師の特徴的な関わりが備わった背景本研究における非同意で精神科病棟に初回入院した患者への,熟練看護師が入院時に行う特徴的な関わりは,柔らかいトーンでねぎらいの言葉をかける,気持ちをときほぐし安らぎを提供する,患者の生活歴や背景を理解し患者理解の糸口とする,患者の希望・健康的な部分を見出す,看護師として関わりに責任を持つことであった.Cutcliffe(1997)が報告している4つのキーワードのうち,「態度/理論」の意味するところは,熟練看護師の信念,価値観,世界観であり,熟練看護師は患者をケアの中で最も重要な人として捉え,患者のことを思いやり,患者に関心を持つことが,患者の力を高め回復につながると考え患者に関わることである.また,「スキル」の意味するところは,熟練看護師は関係構築をケアの最優先事項とし,肯定的な敬意,共感,柔軟なアプローチなど効果的なコミュニケーションをとることで早期に患者と関係構築を行うことである.熟練看護師が実践していた柔らかいトーンでねぎらいの言葉をかけ気持ちをときほぐし安らぎを提供していたのは,患者への思いやりからくるものであり,患者の背景を理解しようとしていたのは,患者に関心を持つからであった.さらに,熟練看護師が患者の希望・健康的な部分を見出すことが効果的な関わりだと感じていたのは,患者へ関心を持つことによって,患者が本来持つ力の回復につながると考えていたからだ.
そして,看護師として関わりに責任を持つについては,Travelbee(1971/1974)が述べている「人間対人間の関係は看護師と看護を受ける人との一連の体験であり,この体験の主要な特色は相互に意味のある体験,個人の看護上のニードが満たされることだ」との関連が深いと考える.本研究の熟練看護師は,それまでの患者との相互作用的な関わりの中で,初回入院時に丁寧に関わることが関係構築に効果的であったと実感できる意味のある体験をしていたことが考えられる.さらに,本研究の結果にある「自分の中で最大限の柔らかなトーンで話す」,「これまで患者にどんな印象を与えてきたのかということに正直に向き合う」,「関わった患者さんに対しての一瞬がその患者さんを左右する」という参加者の発言も,熟練看護師ならではの実践知が基盤となっている.熟練看護師は,それまでの患者との関わりを通して自分の話し方のパターンや患者が受ける印象を自覚しており,距離感を測りながら患者と接し,その反応を見ながら話し方を瞬時に使い分け関係を築いていたと考える.また,非同意で初回入院した患者との入院初期段階での関わりが,医療の継続性だけでなく,その後の患者の生活そのものを左右することにもつながることを経験から知覚していたのである.これらは,田嶋(2002)の臨床判断の構造で述べられているように,看護師の過去の同じような経験からの実践知に基づく行動である.その過去の同じような経験からの実践知を基に「状況を直感的に把握し,適切な行動に結び付ける」(Benner, 2001/2006)ことが,熟練看護師の関わりの特徴だと考える.以上,本研究で示された熟練看護師の関りの特徴から,非同意で精神科病棟に初回入院した患者を思いやり,関心を持ち,そして患者との相互作用の中でのニードが満たされた体験を大切に積み重ねていくことが患者との早期の関係構築に必要であると考える.
本研究の結果に「家族支援」等が抽出されていないことから研究参加者9名のデータでは理論的飽和に達していない可能性がある.また,看護師の記憶に基づいた語りによるデータを基に分析しているため,看護師の認識に限局されたものである.今後は,参加観察によるデータ収集を用いて分析をしていくことが記憶と認識に偏らない非同意で精神科病棟に初回入院した患者を支援する看護師への更なる支援の検討に向けて必要だと考える.
非同意で精神科病棟に初回入院した患者への熟練看護師の入院時の関わりを,質的記述的に分析した.分析の結果,最終的に9カテゴリーが抽出された.熟練看護師は非同意で精神科病棟に初回入院した患者への入院時の関わりとして,入院直後に【入院時の衝撃を和らげる】関わりを行っていた.そして【患者のペースを尊重する】ことを行いながら,【患者と接点を作る】関わりを行っていた.患者と接点ができたところで【患者の体験を知る】ことを大切にしながら,【患者へフィードバックする】ことを行っていた.【患者に治療参加を促す】とともに【患者と一緒に行動する】【患者の強みを活かす】ことを行っていた.更に,関わり全体を通して熟練看護師は患者の一生を左右するという【看護師として関わりに責任を持つ】関わりを行っていることが明らかになった.
本研究にあたり,面接調査にご協力いただきました看護師の皆様,病院関係者の皆様に心より御礼申し上げます.
KK,MK,MIは,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.
本研究における利益相反は存在しない.