日本精神保健看護学会誌
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原著
ピアサポーターとともに行うWRAPクラスの意味
~医療観察法病棟WRAPクラス参加者へのインタビューから~
瀧ノ上 恵寺下 修小島 直也村山 直子柳澤 節子松本 佳子
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2022 年 31 巻 1 号 p. 48-56

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Abstract

本研究は,医療観察法病棟の患者にとって,WRAPクラスの運営をスタッフとピアサポーターがともに行う意味を見出すことを目的とした.WRAPクラスに2クール以上参加した患者7名を対象とし,インタビューを実施した.内容を分析した結果,49のコードから,回復した当事者だからこその魅力,尊重し合い垣根を越えた関係性,支え合い高め合える居場所の3つのカテゴリと12のサブカテゴリが抽出された.結論としては,ピアサポーターのWRAPを使って回復した姿,スタッフとピアサポーターの対等な関係性や医療者と当事者の垣根を越えた関係性に希望を感じ,医療観察法病棟という強制管理下でも,WRAPクラスの場は,参加者同士が支え合いWRAPのスキルや回復に向けた意欲を高め合える居場所になっていたことが見出された.

Translated Abstract

This study aims to find the meaning of the staff and peer supporters running the wellness recovery action plan (WRAP) class for the patients in the medical treatment and supervision act (MTSA) ward. We interviewed seven patients who participated in the WRAP class for more than two courses. As a result of analyzing the interview results, three categories composed of 12 subcategories were extracted from 49 codes: (1) appeal that recovered patients feel because they are recovered patients, (2) the respectful and cross-boundary relationships, and (3) a place where people can support and enhance one another. It was found that the patients felt hope in the sight of peer supporters who had recovered through WRAP, in the equal relationship between staff and peer supporters, and in the relationship that cross-boundary relationships between medical staff and patients. These results suggest that the WRAP class had become a place where patients could support each other and enhance their WRAP skills and motivation toward recovery, even under the compulsory management of the MTSA ward.

Ⅰ  はじめに

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律(以下,医療観察法とする)の指定入院医療機関においては,重大な他害行為を行った精神障がい者の社会復帰を目的として,病気の再発防止や再他害行為防止のために様々な治療的介入が行われている.

A病院医療観察法病棟(以下,B病棟とする)では,平成27年度よりプログラムの1つとしてWellness Recovery Action Plan(以下WRAPとする)を取り入れている.WRAPはアメリカで精神障がいを抱える当事者らによって作られたセルフケアの為のツールであり「不快で苦痛を伴う困難な状態を自分でチェックして,プランに沿った対処方法を実行することで,そのような困難を軽減,改善あるいは解消するための系統立ったシステム」(Mary, 1997/2009)である.WRAPは,各自が取り組むセルフヘルプのツールとして開発されており,WRAPクラスと呼ばれるWRAPを学ぶ為の学習グループに参加し,アイデアを交換しながら理解を深めていくことが推奨されている.

B病棟では,WRAPクラス導入前に,研究者も含む2名の看護師がWRAPファシリテーターの資格を取得した.WRAPファシリテーター養成研修では,WRAPクラスは治療の場ではなく,参加者が互いの経験を持ち寄り学び合う場であると学んだ.さらに,WRAPファシリテーターは,先生や精神保健の専門家になり,何かをアドバイスしたり教える存在ではなく,参加者と対等な人として存在することが重要であり,参加者が心を開いてWRAPクラスでの学びを分かちあうことができるように,安全で安心できる学びの場作りを最優先とし,参加者の感情や考えをありのままに受け入れることが大切であると学んだ.

実際,B病棟WRAPクラス導入に携わったスタッフが地域のWRAPクラスに初めて参加した際には,参加者個人の背景・社会的役割などを自己紹介することもなく,そのWRAPクラスの場で呼ばれたい名前(以下,WRAPネームとする)を考え,それを唯一の属性として2日間学んだが,これまで参加したことのあるどの研修とも違い,緊張や無理をして頑張るという感覚がなく,のびのびとした気持ちでその場に居る自分に気づいた.そして,知らない人たちの中で自分の思いを正直に語れていることにとても驚きと嬉しさを感じた.その後,WRAPファシリテーター養成研修の学びと繋がり,あの時の感覚は,ありのままでいられたということだったのだとわかった.

その為,B病棟でWRAPクラスを導入する際,「ありのままの自分を受け入れられ,安心して参加できる場」を作りたいと考えた.しかし,医療観察法病棟という強制的入院の中での治療的介入や治療プログラム等を通じて形成された医療者と患者の役割関係がそのままWRAPクラスの場にも持ち込まれ,WRAPクラス参加患者にとって「ありのままの自分を受け入れられ,安心して参加できる場」が確保できるだろうかという不安があった.そのような中,参加患者にとってWRAPを使って実際に社会復帰している当事者の姿や体験談に勝る説得力はないと考え,実際に精神障がいを抱えた当事者自身がピアサポーターとして参加することがWRAPクラスをより効果的にするのではないかと考えた.

そこでB病棟では,WRAPクラス導入時の平成27年度より,参加患者とWRAPクラス運営スタッフ(以下,スタッフとする)を繋げ,安心できる場づくりの役割を担ってもらうとともに,当事者の体験談の持つ説得力という効果を期待して,外部から一人のピアサポーターであるWRAPファシリテーターに参加してもらい,一緒にWRAPクラスを運営していくことになった.WRAPクラス運営を始めて4年間,WRAPクラスは自由参加でありながら,入院患者の約半数が参加していること,複数クールにわたり継続して参加する患者の主体的な姿が見られることを,スタッフは,共通してWRAPクラスの効果として実感し,それがピアサポーターとともに運営を行うことによる効果ではないかと感じていた.

これまでの日本における先行研究を調べると,WRAPの効果や効果のメカニズムを明らかにする研究や,WRAPクラス参加後の活用実態を把握する研究,WRAPを用いたセルフヘルプグループに関する研究があった.しかし,ピアサポーターとともにWRAPクラスを行うことの意味に限局した研究はなかった.そこで今回,医療観察法病棟において,WRAPクラス運営をピアサポーターとともに行うことは,患者にとってどのような意味があるのかを見出し,WRAPクラスの充実を図れるよう示唆したいと考え,本研究に取り組むことにした.

Ⅱ  研究目的

目的:医療観察法病棟の患者にとって,WRAPクラスの運営をスタッフとピアサポーターがともに行う意味を見出す

Ⅲ  用語の定義

ピアサポーター:同じような立場や経験を持ち,それらの経験を活かしながら支援やサービスを提供する者.

元気に役立つ道具箱:自分自身が,元気でいるために,あるいは気分がすぐれないときに元気になるためにこれまでやってきたこと,またはできたかもしれないことをリストにしたもの.

スタッフ:WRAPクラスを運営するスタッフ(看護師,心理士,作業療法士,ケースワーカー)であり,WRAPファシリテーターの資格を持つ看護師を含む.ピアサポーターは含まない.

ガイドライン:WRAPファシリテーター・WRAPクラス参加者全員で共に考える決め事.ガイドラインは,安心して学べる場作りのための決め事であり,クラス参加者全員が共同の責任を表明するもの.

呼ばれたい名前:WRAPクラスの場で自身が呼ばれたい名前を決め,WRAPクラスの場では,その名前で呼び合い,「WRAPネーム」と言われている.

治療ステージ:医療観察法病棟で分けられている治療のステージ段階.急性期治療ステージ・回復期治療ステージ・社会復帰治療ステージの3ステージがある.

Ⅳ  方法

1. B病棟WRAPクラスの概要

1) 目的

参加者が互いの経験やアイデアを分かち合いながら,WRAPを作成・活用していくこと.

2) 参加者

医療観察法病棟は,治療ステージが急性期ステージ・回復期ステージ・社会復帰期ステージの3ステージに分かれている.B病棟には,疾病教育や再他害行為防止に向けた内省プログラム,生活能力評価や向上のための作業療法プログラムなど多数の治療プログラムがある.これらの治療プログラムは,治療の進捗状況により参加の検討を本人を含めた多職種チームで相談しながら決定している.一方で,WRAPクラスは患者本人の参加意思を尊重しており,治療ステージや治療の進捗状況などによる参加者選定をすることはなく,入院数日後から参加する患者もいる.安心・安全な場作りには,WRAPクラス参加者とともにガイドラインを作成し,それに基づいて参加者が互いを思いやり参加する場を作っている.

3) 運営方法

1回のセッションは1時間15分,1クール15セッション.1クールを約半年かけ月に2~3セッションのペースで開催し,年間2クール開催している.

第1回は,全体WRAPと称し,病棟内の全ての患者が参加可能な共用スペースを利用し,自由参加で開催している.ピアサポーターからこれまでの人生経験やWRAPを使ってどのような生活をしているかの体験談を語ってもらっている.第2回は,ガイドラインをWRAPファシリテーターとWRAPクラス参加者全員で考え作成している.第3回からはWRAPの中身に入る.元気に役立つ道具箱,希望・責任・学ぶこと・権利擁護・サポートの5つのキーコンセプト,いい感じの自分,日常生活管理プラン,注意サイン・引き金・調子が悪くなっている時・クライシスの時・クライシスを脱した時のそれぞれのサインと行動プランを考えていき,WRAPを作成している.

WRAPファシリテーターであるピアサポーター1名,WRAPファシリテーターである看護師1名,その他WRAP係の看護師1名と他職種1名の計4名で運営している.運営スタッフも全員参加者の一員となり,共に学びを分かち合いながらWRAPを作成している.1クール中2~3回程度ピアサポーターが不在の日があり,その日は看護スタッフのファシリテーター1名,その他のWRAP係の看護師1名・他職種1名の計3名でおこなっている.今回の研究者の中の4名は,WRAPクラスを運営しているスタッフである.

2. 研究デザイン:

インタビューガイドを用いたグループインタビューによる質的記述的研究

3. 研究対象:

B病棟に入院中でWRAPクラスに2クール以上参加した患者の中から本研究への協力を依頼し,承諾を得た7名を研究対象とした.自由参加であるWRAPクラスに自ら複数クール参加する患者の主体的な姿が,スタッフとピアサポーターがともに行うことの効果の現れでないかと考え,研究対象を2クール以上参加した患者とした.なお,複数クール参加した患者は,4年間で64%(48人中31人)である.

4. 研究期間:

2018年6月~2019年5月

5. データ収集方法:

1) 設定

研究対象者を3名,2名,2名の3グループに分けてグループインタビューを実施.インタビューは研究者2名で,インタビューガイドを用いて実施した.グループインタビューの回数は各グループ1回とし,時間は60分で実施した.インタビュー内容は「WRAPクラスに初めて参加したきっかけ」「WRAPクラスに2クール以上参加している理由」「B病棟のWRAPクラスに参加して感じたこと」「B病棟のWRAPクラスと他の治療プログラムとの違い」「ピアサポーターの存在について」「ピアサポーターの体験談を聞いて感じたこと」「ピアサポーターがいる日とスタッフだけの日の違いはあるか」「ピアサポーターとスタッフで運営している現在のWRAPクラスについてどのように感じているか」の8点であった.ホワイトボードに模造紙を張りディスカッションしたことを記入していき,発言内容について相違がないかをその場で確認しながら進めた.インタビュー内容は,同意を得てICレコーダーに録音した.場所は,参加人数を考慮した上で,プライバシーの守られたB病棟の一室を使用した.

2) インタビュー時の配慮

WRAPクラスと同様に,全員が対等な立場で安心して自由な発言ができる場になることを意識した.そのための方法として,WRAPクラス時と同様の形式で開催することで,環境の変化を感じさせないようにした.お茶菓子の用意とホワイトボードに模造紙を貼ったものを用意した.研究者と研究対象者で一緒にガイドラインを作成した.WRAPネームを決め,インタビュー時にはWRAPネームで呼び合った.

6. データ分析方法:

ICレコーダーに録音した音声を逐語録に起こし,コード化した.類似したコード内容を集め,サブカテゴリ化,カテゴリ化した.分析は,「ピアサポーターとスタッフが一緒に運営しているB病棟のWRAPクラスについてどう感じているか」を焦点とし,関連あるデータに着目し分析した.分析過程は研究チーム内で納得いくまで議論し,質的研究の専門家による助言を受け,複数回検討し信憑性を確保した.

Ⅴ  倫理的配慮

埼玉県立精神医療センター倫理委員会で承認を得た.研究の説明文書を研究対象者に渡し,文書及び口頭により,研究目的,意義,方法,研究データは本研究のみに使用し匿名性を保持すること,プライバシー保護の徹底について十分な説明を行った.研究参加に対しては,研究対象者の自由意志による旨を説明し,文書で同意を得た.さらに,同意後の撤回可能と撤回に対する不利益が生じないことを,文書を用いて説明し同意を得た.

Ⅵ  結果

研究対象者の属性

対象者の性別は,男性5名,女性2名,年齢は平均43.3歳(20代から50代)であった.対象者がB病棟WRAPクラスに初参加した時期は,6名が急性期の治療ステージ,1名が回復期前半の治療ステージであり,全員WRAPクラスは,B病棟での体験が初めてであった.研究のインタビューを受けた時期は,4名は回復期治療ステージ,3名は社会復帰期治療ステージに属していた.

スタッフとピアサポーターがともに行うWRAPクラスについて,どのように感じているかを研究対象者に語ってもらい,49のコードを抽出し,12のサブカテゴリ,3のカテゴリとして分類した.なお,〈 〉はコードを,『 』はサブカテゴリを,【 】はカテゴリを示す.また,斜体文字は研究対象者の語りを示し,研究対象者別にアルファベットで示す.語りの中のピアサポーターの名前は,ピアサポーターと変換して記し,中略は( )で示す.

ピアサポーターとともに行うWRAPクラスの意味を抽出したところ,【回復した当事者だからこその魅力】【尊重し合い垣根を越えた関係性】【支え合い高め合える居場所】の3つのカテゴリが得られた.(表1

表1 B病棟のWRAPクラスに参加して感じたこと
回復した
当事者だから
こその魅力
引き込まれる当事者の体験談 大変な人生を送ってきたのだと知って驚いた
体験談を伝える勇気に引き込まれた
経験や体験談に親近感を感じた
目標・希望となる存在 実際に病気をしている人の回復している姿が励みになり,参考になる
病気を克服して仕事について,自分もそんな風になりたいと思える存在
病気を克服するために,ピアサポーターの体験談をもっと聞いてみたい
ピアサポーターのように,頑張れば戻れるということを知らない人に教えてあげたい
当事者だからこその理解 親身になって聞いてくれるから,病気のこととか何でも話したくなる
人柄が良い
病気の体験者だからこそ,理解や優しさがある
のびのびできる空気 ピアサポーターがいると,リラックスした明るい雰囲気で安心できる
スタッフだけだと固い雰囲気
ピアサポーターのお菓子や土産話が嬉しい
ピアサポーターが楽しんでいる姿に,自分もWRAPを楽しみたいと感じる
WRAPで回復した経験の持つ力 進行が上手で,WRAPの経験値を感じる
何でも答えてくれるWRAPの伝道師だと思う
ピアサポーターから,元気回復の道を辿ってきたという喜びが伝わってきた
ピアサポーターからは,WRAPにかける思いや情熱が伝わってくる
輝いていてパワーがある
尊重し合い
垣根を越えた
関係性
それぞれの持つ強み・持ち味 スタッフとピアサポーターが一緒にやる方が良い
スタッフは裏方として全体に目を配り,進行がスムーズにいくように徹している
講義内容が形に残るのがすごく嬉しい,楽しい,勉強になる
プログラム中に気分が悪くなったり,緊急の場合はスタッフがいると安心できる
スタッフが患者の気持ちをわかるようになる
スタッフでは気づかないことをピアサポーターが経験を交えて紹介できる
元患者とスタッフが一緒にやることに意義がある
対等で尊重し合う関係 WRAPという1つのことに向かって,同じ考えを持って自然に協力できている
対等であるが,スタッフはピアサポーターを立てている
障害の有無は関係ないと思える スタッフはピアサポーターを病人としてではなく,一人の人として見ている
障害を持っていようと,持っていない人と仲良くやっていけると思える
支え合い
高め合える
居場所
ありのままでいられる居場所 受け入れてくれる自分の居場所
暖かい,包み込むような場の雰囲気が自分に合っている
他のプログラムは緊張するが,WRAPは緊張しないから負担じゃない
リラックスして気楽に参加できる
WRAPは学校の授業のような感じがしない
みんなで輪になって同じ目線でやれているのがいい
お菓子が出るのが嬉しい
自分の意見を言い合える喜び みんなが輪になって自分の意見を言い合えるのが居心地良い
その場にいるメンバーが自分の意見を全部受け入れてくれる
強制されず自由に話せるのが楽しい
自由だからリラックスして自分の意見が言える
参加していくうちに生まれる仲間意識 仲間意識が芽生え,お菓子をもっていこうという気持ちになる
講義内容を印刷してもらうと,WRAPのメンバーの一員だと実感できる
自分と同じ道具箱を持った人が多いと安心するし嬉しい
道具箱を持ち寄り人生が
グレードアップする実感
他の人の意見から道具箱も増えて,自分の人生がグレードアップしていく
参加メンバーが互いにアイデアをもらえるWIN WINなところが良い
WRAPに出会い,引き込まれ,自分の道具箱を考えていきたいと思った
WRAPで対処法を知り,効果を実感している
本だけでは得られない体験が出来ているWRAPクラスは良い

1. 【回復した当事者だからこその魅力】

ピアサポーターの体験談を聞いてB氏は,「自分のことを赤裸々に話していたので最初はびっくりしたんですけど,とても誠実な印象を受けて話に引き込まれましたね」と語り,A氏は,「自分のこと話すのって勇気がいると思う.そういうことをきちんとできているのでピアサポーターさんは凄いなって思いました」と語っており,〈大変な人生を送ってきたのだと知って驚いた〉〈体験談を伝える勇気に引き込まれた〉など,ピアサポーターが語る体験談には『引き込まれる当事者の体験談』という魅力があった.そして,C氏の「実際に病気をしている人が回復している姿っていうのが,ピアサポーターさんで分かるので,すごく励みになります.こんな風になれるんだっていう」という語りや,F氏の「同じように病気になって復活して,仕事もプライベートも充実している話は,今の僕たちにとって必要な情報だと思うんですよね.僕もそうなりたいという願望があるんで,ピアサポーターは絶対必要だと思ってます」という語りがあり.〈実際に病気をしている人の回復している姿が励みになり,参考になる〉〈病気を克服して仕事について,自分もそんな風になりたいと思える存在〉など参加者は『目標・希望となる存在』としてピアサポーターを見ていた.さらに,ピサポーターについてG氏は,「いつもピアサポーターさんの隣に座って嬉しそうにしている人がいて,話したくて仕方ないんだなって.自分もそうなんです(中略)親身になって考えてくれてるんだと思います」と語り,A氏は,「ピアサポーターさんは病気をしていて,体験者だからこそ優しくしてくれるっていうか.やっぱりちょっと申し訳ないんですけど,病気になったことのないスタッフさんとは違うのかなって」と語っており,〈親身になって聞いてくれるから,病気のこととか何でも話したくなる〉〈病気の体験者だからこそ,理解や優しさがある〉など『当事者だからこその理解』をピアサポーターに感じていた.そして,WRAPクラスについてF氏は,「他のプログラムは,まぁ怒られるわけではないんですけど,やっぱりWRAPの方がアットホームでね.少し心の負担が軽くなるっていうのが,ピアサポーターさんいるのといないのとじゃ違うのかなーって」と語り,E氏は,「ピアサポーターさんもWRAPを楽しんでるなって感じます.それで僕も楽しんでね.WRAPをやってみたいなって.本当に心からね,楽しみたいって感じですね」と語っており,〈ピアサポーターがいると,リラックスした明るい雰囲気で安心〉〈ピアサポーターが楽しんでいる姿に,自分もWRAPを楽しみたいと感じる〉など,『のびのびできる空気』を感じてた.そして,D氏はピアサポーターのファシリテートに対して「進行が上手い.クオリティーが違うんですよね,スタッフがやるのと説得力がね.(中略)経験値を感じるっていうか,WRAPの」と語り,E氏は,「ピアサポーターさんからは何か伝わってくるものがある.WRAPにかける思いが違うんじゃないかな」と語っており,〈進行が上手で,WRAPの経験値を感じる〉〈ピアサポーターからは,WRAPにかける思いや情熱が伝わってくる〉など『WRAPで回復した経験の持つ力』に説得力を感じていた.このようにピアサポーターには【回復した当事者だからこその魅力】があった.

2. 【尊重し合い垣根を越えた関係性】

〈スタッフとピアサポーターが一緒にやる方が良い〉と全員が答えており,その理由としてG氏は,「ピアサポーターさんの力プラス,スタッフさんの力もあると思う.(中略)スタッフがいると滞りなく進められる.進行とかがね.目が行き届くと思うんですよ」と語り,A氏は,「元患者さんとスタッフさんが一緒になって同じことをやるっていうのは凄く意義があると思いますね.やっぱりスタッフが患者さんの気持ちがわかるようになる」と語っている.またB氏は,「一緒に運営することはとっても良いことだと思います.スタッフが気がつかないこともピアサポーターさんが自分の経験を交えて紹介できるので,その点もとても良いと思います」と語っており,〈スタッフは裏方として全体に目を配り,進行がスムーズにいくように徹している〉〈スタッフが患者の気持ちがわかるようになる〉〈スタッフでは気づかないことをピアサポーターさんが経験を交えて紹介できる〉など,スタッフとピアサポーターが一緒にWRAPクラスを運営することは『それぞれの持つ強み・持ち味』があった.両者が一緒に運営している姿からは,E氏は,「WRAPという名のひとつのことに向かって,ピアサポーターも同じ考えを持って,ひとつになってプログラムができているんだなと思っていますね.(中略)お互い思いやっているような感じですね」と語り,〈WRAPという1つのことに向かって,同じ考えを持って自然に協力できている〉など『対等で尊重しあう関係』を感じていた.C氏は,「スタッフがピアサポーターさんに過剰なケアはしていない.自然な相談ごとをしている雰囲気がありますしね.(中略)そこらへんは,病人としてじゃなくて,一人の人としてちゃんと見ているんだろうなっていう」「ピアサポーターさんを患者として見るんじゃなくて一緒のスタッフとしてやっていけてるところが,障害を持っていようと持っていない人と仲良くやっていけるんだって思っていける」と語り,〈スタッフはピアサポーターを病人としてではなく,一人の人として見ている〉〈障害を持っていようと,持っていない人と仲良くやっていけると思える〉など,スタッフとピアサポーターの関係を通して,『障害の有無は関係ない』と感じ,WRAP参加者はスタッフとピアサポーターが一緒に運営するWRAPクラスに【尊重し合い垣根を越えた関係性】を見ていた.

3. 【支え合い高め合える居場所】

WRAPクラスについて,A氏は,「自分を受け入れてくれる自分の居場所になる.居心地がいい.負担じゃない」と語り,G氏は,「楽しめているっていうか,アットホームな雰囲気があるところが気に入ってます.ピアサポーターさんが先導してくれて,お菓子を食べながらできるから」と語り,WRAPクラスは〈受け入れてくれる自分の居場所〉〈リラックスして気楽に参加できる〉などWRAP参加者が『ありのままでいられる居場所』となっていた.D氏の「楽しいし,みんな輪になってあの空間でなんかぺちゃくちゃおしゃべりしている感覚で話せるのがいい」といった語りや,B氏の「自由に話し合っているところがわきあいあいとしてるかなって思います.強制されずに自分のタイミングで発言できることが好きです」といった語りからは,〈みんなで輪になって自分の意見を言い合えるのが居心地良い〉〈強制されず自由に話せるのが楽しい〉など,『自分の意見を言い合える喜び』を感じていた.またC氏は,「みんな仲良いところですね.みんなでお菓子を持ち寄ったりしているところとか,そういうところがすごくいいなって.仲間意識というか,普段から顔馴染みになってきて,こういう風にしたら喜んでもらえるんじゃないかなって思って買ってきたりしてます」と語り,E氏は,「僕は,同じ意見を持った人が多くて嬉しいですね.自分の言った道具箱について同じような意見を言ってくれた人に対して,うわー!やっぱりそう考えるんだなーって」と語っており,〈仲間意識が芽生え,お菓子をもっていこうという気持ちになる〉〈自分と同じ道具箱を持った人が多いと安心するし嬉しい〉など,『参加していくうちに生まれる仲間意識』を実感していた.さらに具体的な効果としてF氏は,「初めて参加する人から道具箱を想像させるヒントがあったりするところが好き.(中略)いろんな人の意見が治療になる.逆に自分の意見を参考にしてくれている人もいるかもしれない.だからまぁ,WIN WINなね」と語り,D氏は,「手帳の後ろに11項目特化したものを書いてあるんですよ.生きがいがこれなんだぞって言うのが常にあればいいなと思って.(中略)考えがまとまってるから動けるんですよね.さらにどんどん進化していってる」と語り,〈参加メンバーが互いにア‍イデアをもらえるWIN WINなところが良い〉〈WRAPで対処法を知り,効果を実感している〉など,『道具箱を持ち寄り人生がグレードアップする実感』を持ち,WRAPクラスは,参加者同士が【支え合い高め合える居場所】となっていた.

Ⅶ  考察

本研究では,スタッフとピアサポーターがともに行うWRAPクラスにおいて,WRAPクラス参加患者は,ピアサポーターの回復した姿に希望を感じ,スタッフとピアサポーターの対等な関係性をみて,障害の有無は関係ないと感じていた.そして,WRAPクラスはみんなが支え合い高め合える居場所となっていることが示された.

医療観察法に基づく入院患者に対する医療は,強制的入院の中で行われており,病気の再発防止と再他害行為防止を目的として,心理教育や内省プログラムなど複数の治療プログラムを実施している.医療観察法病棟では,患者本人の主体性を大事にし,多職種チームで治療を進めていくことを大切にしているが,治療プログラムの多くは,医療者から患者への教育的アプローチとなりやすく,教える者と教えられる者といった上下関係を患者に感じさせやすいと考えられる.このような治療関係が,参加者が互いの経験やアイデアを持ち寄り学びを分かち合う場であるWRAPクラスに影響してしまうことを懸念していた.先行研究において大場らは,「WRAPという共通のツールを用い,リカバリーを推進していこうとする「仲間」の存在によって,セルフヘルプ機能が促進し,発展していく可能性がある」(大場・山本,2015)と述べている.本研究においても,結果的に,B病棟のWRAPクラスの場は,仲間意識が芽生え参加者同士が支え合いWRAPのスキルや回復に向けた意欲を高め合える居場所となっており,先行研究と同様の結果が得られた.以下に詳細を述べる.

1. 参加者の希望となるピアサポーター

参加者は,ピアサポーターの病状悪化時やWRAPを使って社会復帰した体験談を,自らの経験に重ね合わせて親近感を抱き,WRAPに魅力を感じたと考える.坂本は,「精神疾患を患った経験のある者がファシリテーターをする姿は,クラス参加者にとってリカバリーへの希望につながり,ロールモデルとしての役割を担うことができる」(坂本,2008)と述べているように,同じ病気を抱えた当事者としてのピアサポーターが,WRAPを活用して回復した現在の姿を目の当たりにすることは,重大な他害行為を行った者,精神障がい者という2つのスティグマを背負った参加者にも,自らの回復を信じられる大きな希望となり,社会復帰に向かう大きな目標となったと考える.

また,ピアサポーターには,病気の経験からくる当事者だからこそ知り得る理解や配慮を感じていることもわかった.このように,参加者と同様に,病気の経験を持つピアサポーターがクラスの中に存在することが,参加者の安心感やのびのびとリラックスして参加できる環境につながっていると考える.

2. 医療者と当事者がありのままの一人の人として認めあえること

WRAPクラスの運営について,研究対象者の全員がピアサポーターとスタッフが一緒にやる方が良いと回答していた.ピアサポーターにも,スタッフにも,それぞれに強みや持ち味があり,それを活かすことで,各々が単独でやるよりもより効果的なWRAPクラスとなり,そこから得られるものが大きいことを実感していると考える.そして,WRAPクラスを通じてスタッフがピアサポーターと交流することで,医療者に病気を持つ当事者への理解を深めてほしいといった期待をも抱いていることがわかった.

また,スタッフとピアサポーターはWRAPという1つのことに向かって自然に協力できていると感じ,両者の関係性を対等で尊重し合う関係と見ていた.スタッフとピアサポーターが「ありのままの自分を受け入れられ,安心して参加できる場」を提供したいという思いを共有して運営していた結果が,参加者からはこのように見えていたと考える.このような両者が互いに尊重し合いながら対等に仕事をして活躍する姿は,参加者にさらなる希望を与え,社会復帰に向けた意欲をも高めていると思われる.さらに参加者は,〈スタッフはピアサポーターを病人ではなく一人の人として見ている〉と感じており,ピアサポーターとスタッフに障害の有無は関係ないと思える関係性を見出している.宇田川は「グループピア活動の中では,ピアサポートの中に専門職が取り込まれて,専門職の専門性をとっぱらった友人としての関係や,何もしない関係もありえる」(宇田川,2013)と述べている.実際,WRAPクラスの中で,スタッフはピアサポーターを同志・仲間としてとらえている.自らと同じ病気を持ち障害を抱えたピアサポーターとスタッフが,障害の有無は関係なく対等な関係を築いている姿は,自らも障害の有無を乗り越えた関係を築けていけるのだといった自信や希望に繋がったと考える.こうしたピアサポーターとスタッフとの対等な関係性が,WRAPクラス参加者にも影響し,医療観察法病棟での普段の治療的関係から垣根を超えた関係となり,誰もが一人の人として存在し,ありのままで居られ支えあい高め合える居場所となったと考える.

Ⅷ  結論

WRAPクラス参加者は,

①ピアサポーターのWRAPを使って回復した姿に希望を感じていた.

②スタッフとピアサポーターの対等な関係性や医療者と当事者の垣根を越えた関係性に希望を感じていた.

③医療観察法病棟という治療構造の中でも,WRAPクラスの場が支え合い高め合える居場所になっていた.

Ⅸ  本研究の限界

今回の研究は,医療観察法という強制管理下の病棟であっても,「ありのままの自分を受け入れられ,安心して参加できる場」を大切にしたWRAPクラスを運営することは可能であることがわかった.しかし,B病棟では,WRAPクラス運営に携わっているピアサポーターとスタッフは限局されており,必ず同様の効果が得られるかについては,検討が必要である.そして,WRAPクラスの運営とグループインタビューは研究者自身で行っているため,今後はインタビュー方法や研究参加者を検討し,追跡調査していく必要がある.

謝辞

本研究にご協力をいただきました対象者の皆様,関係機関の皆様,ご指導いただきました先生に深くお礼を申し上げます.

著者資格

MTは研究の着想及びデザイン,論文の作成,OT,NM,NKはデータ収集と分析,KM,SYは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
  • Mary, E. C. (1997)/久野恵理(2009).元気回復行動プランWRAP(初版).4,愛知:道具箱.
  •  大場 義貴, 山本 隆広(2015).WRAPを通したメンタルヘルスプライマリケア―統合モデルへのアプローチ―.聖隷社会福祉研究,(7), 109.
  •  坂本 明子(2008).WRAP:元気回復行動プランから学ぶ.精神障害とリハビリテーション,12(1), 48.
  •  宇田川 健(2013).当事者が望むピアサポート活動とパートナーシップのあり方.精神科臨床サービス,13(1), 20.
 
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