日本精神保健看護学会誌
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31 巻, 1 号
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原著
  • 沼田 由美, 難波 峰子
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 1-9
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    本研究は,精神科病棟看護師の65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容を明らかにすることを目的とした.

    A県内及びB県内にある精神科病院に協力を依頼した結果,3施設の協力が得られ,7名の看護師に半構造化面接を実施した.

    語りの内容を分析した結果,意味内容の異なる42のコードと,それらを説明する20のサブカテゴリー,6のカテゴリーが導き出された.看護師は,【服薬行動の安定】【自他への問題行動の改善】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】【家族の精神症状への折り合い】【退院を見据えた家族役割の引き受け】について査定し,患者の退院可能性を判断していた.

    結果のうちサブカテゴリーの内容は,退院支援経験が少ない看護師の,退院可能性の判断のための査定を行う際の情報収集のポイントとして貢献できる.

  • 香川 昭夫, 山本 明弘
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 10-18
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    本研究の目的は,精神科看護師のワーク・エンゲイジメント(以下,WE)の実態を明らかにし,WEと自己効力感,レジリエンスおよび精神障害者に対するスティグマとの関連を検証することである.A県内の精神科単科病院5施設の病棟看護職員350名を対象とし,無記名自記式質問紙調査を行った.関連要因の分析には,WE総得点および3下位尺度の得点を従属変数とした重回帰分析を行った.有効回答は242名を得た(有効回答率79.6%).WE総得点平均は44.4(標準偏差15.4)点で,回答者の73.1%が低い群に区分された.レジリエンスの得点は,WE総得点および3下位尺度の得点と正の関連がみられた.自己効力感の得点および精神障害者に対するスティグマの得点は,いずれも有意な関連がみられなかった.精神科看護師のWEを高めるためには,レジリエンスを高めるように努める必要性が示唆された.また,夜勤回数とWEに負の関連がみられたことから,夜勤回数制限の必要性が示唆された.

  • ―施設で生活する高齢精神障害者の語りを通して―
    鷺 忍, 寳田 穂, 和泉 京子, 德重 あつ子
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 19-28
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    本研究の目的は,高齢者入所施設で生活する高齢精神障害者の語りを通して,援助職者から受けるケアに関する体験を描き出し,施設における精神障害者へのケアの課題を考察することである.半構造化インタビュー調査にて,認知症を除く精神障害の診断名をもつ65歳以上の高齢者から①施設入所の経緯②印象的なケア体験③ケアへの思い等の自由な語りを得た.同意を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成し分析した.

    参加者は4施設の10名であり,参加者の語りからは次のようなケアのストーリーが明らかになった.精神障害をもつことによって自尊感情が傷ついている参加者にとって,〈一人の人〉として関心を向け,ケアしてくれる援助職者との関係性を築いていくプロセスを通して,援助職者との関係で傷ついたりしながらも,病気や生活に対する捉え方が前向きになっていった.これは〈一人の人〉として認められた感覚の獲得につながっていた.施設でのケアにおいては,入所者の自尊感情が回復できるような対人関係のあり方が重要な課題であると考えられた.

  • 古野 貴臣, 藤野 成美, 藤本 裕二
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 29-38
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    アパシーは認知症患者の行動・心理症状の中で出現頻度が高い症状であるが,すぐさま問題にならず,他のケアが優先されることで見過ごしやすいことが指摘されている.本研究では,アパシーのある認知症患者に対する看護の熟練者の看護実践を明らかにした.

    精神看護専門看護師など認知症看護の熟練者11名に対し,半構成的面接によるインタビュー調査を実施した.「アパシーのある認知症患者に対する看護実践」の観点から調査を行い,質的帰納的に分析した.

    その結果,【意思や感情が生きていることを忘れずに反応を気長に待つ姿勢】【その人らしさを発揮できる機会の設定】【リカバリー促進に向けたストレングスやなじみの関係の活用】【情動的な反応を引き出す意図的な刺激】【症状がアパシーではない可能性を考慮したアセスメント】【現在の機能維持に向けた日常生活支援】の6カテゴリが生成された.アパシーのある認知症患者に対しては,アパシーが頻出することを念頭に置いたアセスメントや,その人らしさを尊重できるような働きかけが重要である.

  • 重富 一乃
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 39-47
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    本研究の目的は,精神科病棟に勤務している看護師が,病棟の引っ越しを体験した患者の表す反応をどのように捉え,どのように対応したのか,また看護師にとって病棟の引っ越しはどのような体験であったのかを明らかにし,そこにどのような意味があるのかについて考察することである.

    看護師は,引っ越しに直面した患者の反応を,漠然とした不安や,現実的な不安や不満,あまり関心を示さない薄い反応としてとらえていた.そうした患者の反応を見たり,関わったりすることで,看護師自身も不安や苛立ち,無力感など様々な感情を抱いていた.また,引っ越しは看護師の業務を増加させ,病院からの情報提供の遅れや引っ越し後の業務内容が変わることは看護師らを不安にさせていた.しかし,そうしたネガティブな感情であっても自身に生じた感情に気づいて,意味を把握することで,患者に素直に申し訳なさを伝えたり,気持ちを共有する,療養環境の調整をしたりするなど,ケアに活かすことができた.引っ越しをきっかけにした関わりによって患者への理解が深まったり,ケアの転機にもなっていた.引っ越しに直面した患者をケアする看護師を支えたものは,“気づかい”や“気配り”を土台とした,看護師チームの力であった.

  • ~医療観察法病棟WRAPクラス参加者へのインタビューから~
    瀧ノ上 恵, 寺下 修, 小島 直也, 村山 直子, 柳澤 節子, 松本 佳子
    原稿種別: 原著
    2022 年31 巻1 号 p. 48-56
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
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    本研究は,医療観察法病棟の患者にとって,WRAPクラスの運営をスタッフとピアサポーターがともに行う意味を見出すことを目的とした.WRAPクラスに2クール以上参加した患者7名を対象とし,インタビューを実施した.内容を分析した結果,49のコードから,回復した当事者だからこその魅力,尊重し合い垣根を越えた関係性,支え合い高め合える居場所の3つのカテゴリと12のサブカテゴリが抽出された.結論としては,ピアサポーターのWRAPを使って回復した姿,スタッフとピアサポーターの対等な関係性や医療者と当事者の垣根を越えた関係性に希望を感じ,医療観察法病棟という強制管理下でも,WRAPクラスの場は,参加者同士が支え合いWRAPのスキルや回復に向けた意欲を高め合える居場所になっていたことが見出された.

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