日本精神保健看護学会誌
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資料
精神看護学実習における看護学生の患者への自己開示の体験
大橋 里美
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2023 年 32 巻 1 号 p. 74-82

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Abstract

本研究は,精神看護学実習における患者-看護学生間の相互作用の中で,特に看護学生の自己開示の体験ついて明らかにし,精神疾患患者に寄り添った治療的関わりに向けた自己開示への教育への示唆を得ることを目的とした.対象は精神看護学実習を終えた学生9名で,半構造化面接法を実施した.逐語録を作成し,患者に対して自己開示をどのように体験したかについて,一つのまとまりあるストーリーとして抽出した.自己開示の体験ストーリーは,自己開示が関係性構築のきっかけとなったもの,患者からの質問や患者の自己開示に応えた自己開示,なかなか容易にできない自己開示の3つに分類された.

学生が自己開示に至るにはプロセスがあり,様々な感情を抱きながら患者との相互作用を続けており,教員,指導者やグループメンバーの指導やサポートが影響していた.

Translated Abstract

This study elucidates the experience of nursing students’ self-disclosure to their patients during their interactions in a psychiatric nursing practical training and aims to obtain knowledge regarding educating nursing students on self-disclosure as a way to build a therapeutic relationship with mentally-ill patients. The subjects were 9 student who had completed psychiatric nursing training and conducted a semi-structured interview method. After composing a word-for-word record, I extracted concise stories on how participants experienced self-disclosure to patients during their interactions with them in the psychiatric nursing practical training. There were three categories found within these stories: (1) Self-disclosure to the patients became the catalyst for building a relationship; (2) Self-disclosure or questions from patients led to self-disclosure from participants; (3) Self-disclosure was not possible for participants to do easily. There is a process that nursing students must go through to get to the point where self-disclosure is possible; students deal with various emotions while continuing to interact with patients; and that these are affected by guidance and support from teachers, coaches, and group members.

Ⅰ  はじめに

精神看護学実習に臨んだ看護学生は,実習当初に反応が少ない,話さない,感情表出が乏しいなどの精神疾患患者の特性から,患者とのコミュニケーションに難しさを感じていることが多い.関わる者として自己の関わりの結果を受け止め,振り返り,自己理解と患者理解を深めることで,自己が変化し,その結果関わり方に変化が生じる.そのため精神看護学実習ではプロセスレコードを用いて,自己を振り返り,患者の発言の意味を考え,その後の患者との関係性構築の場面に役立てている教育機関が多い.

気づきを得た学生の行動の次の段階では,自らの気持ちを自らの言葉で表現していく取り組みが見られる.

ある看護学生と患者との会話の場面の中で,患者の行動変容まで至ったケースがあった.看護学生企画のレクリエーションに担当患者の参加を促す場面で,看護学生が「私は患者さんに参加して欲しい」と,自己を開示するようなメッセージを伝えると,今まで集団療法に参加したことがなかった患者が,学生企画のレクリエーションに参加するという今までにない患者の反応の変化があった.看護学生が患者へ自己開示したことにより,患者の行動変容があったということは,自己開示という行為が患者の行動に影響した可能性もあると考えた.

精神看護学実習を体験した看護学生を対象にした研究では,対人関係技術の習得について,「患者を理解する技術」「自己洞察する技術」であり自己変容や自己開示といった学生自身の内面的な変化における技術であると述べている(木戸間・天野,2014).また高橋・戸田(2010)は感情表出が難しい患者を相手に,自分自身の感情の揺れを手掛かりに対象理解を深めるために,自己洞察や自己開示が重要な要素になるという報告をしている.金井(2010)は,自己理解・自己開示について,90%以上の学生が自己理解の必要性を,80%の学生が自己開示の必要性を感じているが,40%の学生は自分について知ること,自己開示することは怖いと思っており,安心して自己表現できる環境を形成するよう配慮しながら,アサーティブな自己開示の方法を具体的に指導することの必要性を示唆している.

看護師の自己開示についてはGail, & Michele(2005/2007)が,「看護師の自己開示は主観的真実であり,自身についての個人的見解であり,意図的に他人に述べてあきらかにするものであり,治療が成功するために,欠くことができない」と治療上の有効性を述べている.一方でDeering(1999)は「対象をケアする者の自己開示が,患者の自己開示の可能性を増加させる.しかし看護師は注意深く自己開示を行わなくてはならない」と述べ治療的な関わりにおける看護師の自己開示が患者に及ぼす影響について述べ,慎重に行う必要性を示唆している.

Deeringの見解から,自己開示の活用に向けては,十分な教育が必要であることがあきらかである.しかしそもそも看護学生がいつ,どのように自己開示を行い,それが患者にどのように影響しているかについての研究はなされていない.またこれまでの研究では調査法上断片的で,相互作用やその中での自己開示場面の流れが見えない研究が多かった.本研究では,一連のストーリーを明らかにすることによって,看護学生―患者の相互作用において,学生が自己開示を治療的に行えるように指導の示唆を得られると考えた.

Ⅱ  用語の定義

自己開示:他者に対して,言語を介して伝達される自分自身に関する情報,およびその伝達行為をいう.感情,思いを言語化して表現することも含める.

Ⅲ  目的

精神看護学実習での看護学生と患者の相互作用における,看護学生の患者に対する自己開示の体験について,看護学生がいつ,どのように自己開示を行い,それが患者にどのように影響しているのかについて明らかにし,学生が患者に治療的に働きかける自己開示について実習指導への示唆を得る.

Ⅳ  方法

1. 研究デザインと研究対象

看護学生の自己開示の体験とその日常の世界を一連のストーリーのあるデータとして取り上げ具体的に説明,理解するため,半構造化面接を用いた質的記述的研究とした.

研究参加者は,2020年に開校している看護系教育機関において精神看護学実習を臨地で終えた看護学生で実習評価は終了しており,面接が評価に影響しない看護専門学校3年生,看護学科の大学4年生とした.

2. データ収集時期

2021年5月から2021年8月

3. データ収集方法

COVID-19の影響で緊急事態宣言後,臨地の実習が中止になっている学校もあり,対象学生からの同意を得るのが厳しい状況にあった.そのため便宜的抽出法(大谷,2019)にて近親者の紹介によって研究の承諾が得られた学校から説明の機会を得,説明参加者に研究依頼,同意書,同意撤回書,研究倫理相談窓口の説明を行い,研究参加者の同意を得た.同意が得られた参加者に録音の許可を得た.その後面接日当日,研究の主旨と相談窓口を再確認し,面接ガイドを用い,1時間程度の対面による面接を行った.ICレコーダーに録音したものをデータとして収集した.面接ガイドは「患者とのコミュニケーションの中で自己開示を行った場面」「なぜ自己開示に至ったのか」「その時にどのような思いや考えがあったのか」「その後の患者の反応は自己開示をする前と変化はあったか」「自己開示を行ったことで患者への関わりに変化が生じたか」「体験から自己開示について感じたこと,学んだことは何か」とし,学生の価値観や考えを合わせて自己開示した場面を語ってもらうよう促した.

4. データの分析方法

本研究では,逐語録及びメモをデータとし,研究参加者が自己開示をした場面で,学生がどのような体験をしていたのか,どのように自己開示のプロセスがあったのか,どのような相互作用があったのかについての語り(ナラティブ)と相互作用がつくるストーリーに着目した.

1) ナラティブを用いることでの理解

矢崎(2016)は物語―ナラティブ―を分析することは,私達が日常生活をいかに理解し意味づけているのかをまさに「理解」することに繋がっていると言った.そしてBruner(2010)は人々の相互のコミュニケーションのあり方そして世界を経験するその方法を形作るだけでなく,私達が何を心描くのかそして何ができるのかという感覚の形式をも提供すると述べている.つまり私達の日常生活に対する認識方法や対処方法がナラティブ分析から導かれるだろうと考えられる.従って,語りとストーリーを分析することにより,本研究の目的である看護学生の自己開示がどのように患者に影響しているか理解し,治療的に働きかける自己開示についての対処を導くことが可能である.

2) ナラティブアプローチの構造からストーリーを導く際の研究者の姿勢と研究参加者への効果

東ら(2017)は,研究参加者が語りたいことである経験の物語を語る中で,過去の自分と現在の自分との関係を見出すとしている.研究参加者と研究者の対話の中で,語り手である研究参加者が自己の体験を語り,聞き手である研究者は語られるという共同作用を通し,語られた体験にどのような意味があるか明らかにすることが可能となり,研究参加者は,新しい自己を再び見出して次の原動力につなげる可能性もある.ここに看護学生の患者に対する自己開示について明らかにするという本研究の目的に加え,研究参加者自身による自己の発見という,もう一つの研究の意義がある.

5. 倫理的配慮

神奈川県立保健福祉大学倫理委員会の承認(令和3年2月25日判定結果通知番号保大第7-20-44)を得て本研究計画書を遵守して実施した.研究参加者に依頼書を渡し,研究の目的,意義,調査方法,自由意志の尊重,プライバシーの保護,同意撤回の自由等について説明を行い,書類を持って同意を得た.実習評価は終了しており,評価に全く影響しないことを所属機関の担当者と研究参加者双方に確認を得た.また面接で得た内容は所属機関には伝えないことを約束した.

Ⅴ  結果

1. 研究参加者の概要と面接時間(表1)

研究参加者は専門学校生6名,大学生3名の計9名で,男性1名,女性8名であった.年齢は20歳代7名,30歳代2名で,そのうち社会人経験者2名であった.面接時間の平均は27分であった.コロナ感染拡大状況の影響があり,研究参加者の病棟実習期間は,専門学校生が4日間,大学生が2週間であった.担当した患者の疾患は,統合失調症,うつ病,自閉症,知的障害,認知症であった.参加者全員が実習課題としてプロセスレコードを実施していた.研究参加者全員が自己開示の場面を体験していた.

表1 研究参加者の概要
学生 所属 年齢 社会人経験 性別 実習期間 面接時間 面接状況 患者の疾患
A 専門学校 20代 無し 男性 4日間 21分 対面 認知症
B 専門学校 20代 無し 女性 4日間 27分 対面 うつ病
C 大学 20代 無し 女性 2週間 21分 対面 統合失調症
D 大学 20代 無し 女性 2週間 35分 オンライン 統合失調症
E 専門学校 20代 無し 女性 4日間 25分 対面 統合失調症
F 専門学校 30代 有り 女性 4日間 20分 対面 統合失調症
G 専門学校 30代 有り 女性 4日間 42分 対面 知的障害
自閉症
H 専門学校 20代 無し 女性 4日間 18分 対面 うつ病
I 大学 20代 無し 女性 2週間 34分 対面 うつ病

2. 分析結果

9人の研究参加者(学生A~I)による自己開示の体験ストーリーは,看護学生の自己開示の動機や自己開示の内容から,(1).患者との対人場面での自己開示が関係性構築のきっかけとなったもの(4名),(2).患者からの質問や患者の自己開示に応えた自己開示(4名),(3).なかなか容易にできない自己開示(1名)の3つに分類された.分類に沿って,研究参加者が自己に関する事柄を他者に話したり,感情や思いを言語化して表現した自己開示の体験ストーリーとして時系列にまとめた.「 」は学生,患者の言葉,【 】太字は学生の自己開示,[ ]は患者の自己開示とする.斜字は学生の感情,思いとした.

1) 関係性構築のきっかけとなった自己開示

学生A,B,C,Dは,患者からの返答が得にくく,なかなか会話が成立しない場面で,コミュニケーションに悩み,教員や指導者,グループメンバーに相談しアドバイスを受けていた.その結果,患者への関わり方を変化させなければと学生自身が行動を変化させ自己開示が行われ,患者との関係性構築のきっかけとなった.

Aは60歳代認知症の患者を担当した.受け持ち患者は認知症が進んでおり,自分の意見を述べるのが難しく,コミュニケーションでは的を得た返答が得られない状態で「はい」「わからない」という発言が多く,Aはコミュニケーションが難しいと感じていた.指導者に相談し,日常生活の同行が大切とアドバイスを受けレクリエーションを一緒にするなど行動を共にした.Aは実習4日目「自分のこと知ってもらわないとだめかなって思って,患者は質問に応えたいかもしれないけど,もしかしたら質問を理解していないかもしれない.それで自分がどうだったかを言えば相手がどんな質問なのかつかみやすいと考えたんです.それで「ご飯何食べましたか?」の前に自分は朝ごはん何を食べてきたんですよみたいな【自分はどうだったか】を話すようにしました.すると話がはずみ,患者との会話に変化が表れたと語った.

Bは90歳代うつ病,アルツハイマー認知症で脱水になる可能性がある患者を担当した.受け持ち患者から初日にギョロっと睨まれ「もう来なくていい」「もう来ないで」と拒否が多く,実習2日目は患者のもとに行きたくない,また拒否されたらショックだという思いで,恐怖と不安,そして患者と関われない焦りを感じて過ごし,なかなか病室に行けない状態を過ごしていた.指導者や先生に相談し,一緒に行こうかと声をかけられ,一緒だと行けた.Bは「実習3日目,4日目になり,せっかく病院に実習来ているのに学びにならないという思いになり,拒否も患者の個性,思いが表出できるつよみと考え方を変えるようになった.グループメンバーの支えもあり,頻回に一人で訪室できるよになると,患者がほとんど飲水摂取しておらずの脱水の危険性があることに気がついた.それで【飲んで欲しいんです】って言いました.すると患者自らコップ持って飲んでくれたんです」と語った.

Cは20歳代統合失調症の患者を担当した.受け持ち患者は無為自閉の症状が強く,連合弛緩があり,言葉があまり出てこない状態だった.病室から出てくることが少なく,出てきても病棟内を忙しなく1周歩いて部屋に戻ってしまう.Cとの接点もバイタル測定時に話をする程度だった.Cは患者の感情の変化を全然読み取れず,患者が何考えているのかわからず不安に過ごしていた.

上手く会話ができないことにずっともやもやして・・・患者さんは本当は怒っているんじゃないかなとか思ったり,今話したくないんじゃないかなと思い教員に相談した.教員から「それ患者さんに聞けばいいんじゃない」とアドバイを受け「質問はしたけど,自分のことは言ってなかったと気づき,自分が思ったことを伝えるようになった」と話した.

思いきって【今日お天気がいいですね】と挨拶したところ,患者が「そうですね」と返してくれた.Cはそれが「すっごく嬉しかった」と話した.さらに,カルテに患者が女性をあまり好きでないという情報があり,入院時には「この部屋に入るな」と発言していた記録が残っていたので【いきなり学生の受け持ちで私は大変だと思うんですけど】と話しかけると「いやべつにどうも思わない」とすぐ返答があったので,自分が勝手に心配していただけだと分かったと語った.

Dは20歳代統合失調症の患者を担当した.受け持ち患者はいつもデイルームに出て来ていて会話はできたが,口数が少なく話題を自ら振ることはなかった.会話が長続きせず,情報を集めたいがどこまで聞いていいのか,長く話すと患者の負担になるのではないかと不安を抱えていた.

Dはコミュニケーションの仕方を教員に相談した.教員からプロセスレコードを見ると質問の投げかけになっているので,応えを求める会話じゃない会話をしても良いのではとアドバイスされ「そういうコミュニケーションの方法があるんだと気付き,そこから自分がどう思っているか気持ちを伝えるように工夫した」と語った.

Dは家族の話を少し聞きたいと思い,「自分の家族の話をするところから始めていきました.【昨日家族とこんな会話をしたんですよ】みたいな日常の会話をしてみようと思って,家族と話していたことを少し患者に打ち明けてたり,その会話の中で自分が思った感情を患者に聞いてもらう形を取りました」と話した.するとその日は患者が[ぼくは,このやきそばが好きなんです.いつも買っちゃうんです]と話し,今まで話してくれなかった内容を話してくれて,その日は少し会話が弾んでいたような気がして,その反応は凄く嬉しかったとDは語った.

2) 患者からの質問や自己開示に学生が応えた自己開示

学生E,F,G,Hは,患者からの質問や自己開示を受け,それに応える形で自己開示を行った.患者からの自己開示を得たことにより学生は患者からの信頼を得たと感じ,逆に患者に質問しやすくなっていき,関係性構築を促進した.

Eは60歳代統合失調症の患者を担当した.受け持ち患者は時おり妄想が見られ言葉が聞き取りにくく,患者が何を言っているのか聞き取れないことがあって対応に困っていた.学生は患者に気に障ることを言ってしまうのではないか,患者の気分の変動に影響するのではないかと心配だった.

Eは対応に困っていたある日,デイルームで患者と話している時に,患者から[看護学生って大変だよね][実習も大変でしょ?]と問いかけられた.そこで【そうですね.実習も沢山やって,そこから国家試験も受けないと看護師にはなれないんです】という返答をし,自分のことを話したので,自分も質問を投げかけてみた.「退院したら何かやりたいことあるんですか?」と質問すると患者は[自分は航空会社で,空港で働きたいんだ][飛行機を運転するのが夢なんだよね]と夢を語った.患者から将来の夢を語ってもらえたので,信頼関係が築けたのではないかという思いになり,患者の質問に応えたことで,話がしやすくなったと語った.

Fは50歳代統合失調症の患者を担当した.受け持ち患者は多飲水傾向で低ナトリウム血症であり,日中は落ち着いていて,幻聴に対しても対処行動がとれていた.一時飲水チェックはなくなったがまた低ナトリウム血症になり始め,受け持ち時には飲水摂取を自制して頑張っていた.飲水を我慢するために日中寝て過ごしていることが多く,しかし日中寝てしまうと夜眠れなくなる問題を抱えていた.

Fは日中寝てしまわないための塗り絵の関わりの中で,患者が[猫飼っていたの]と言ったので【私も猫飼ってますよ】と自分の話をした.患者から[お母さんが猫が好きで拾って来て子供の頃から飼っていたの]という話になり,【うちの猫たちもそうなんですよ】と話したら,スムーズに家族の話とか,色々な話になっていったと語った.

Gは10歳代知的障害,自閉症の患者を学生2人で受け持った.受け持ち患者のへの訪室は学生2人一緒にし,3人で話は弾んでいると感じていた.しかし夜間の看護記録に学生2人と話してたら休めなかったと記載があった.そこで学生同士で話合い患者が疲れないよう話す時間を短縮したり,一人ずつ交互に患者と接しようと決め,対応を変化させながら関わっ‍た.

Gは患者がアイドルのファッションの話をしたのがきっかけで洋服の話をするようになった.患者が[私はスカートが好きで,スカートが履きたい]と言った時に【私もスカートが好きで長い丈の方が好きなんですよ】と返した.この時自分のことを患者に伝えるっていうのは,自分が会話の主になってしまったような気がして,あんまり自分の話をするのは居心地が良くなかったと語った.しかしこの自己開示により患者から言葉が沢山返ってきて・・中略・・患者が[ネイルをするのが好き]と言った時は【私も以前はしていたんです】【赤をしていたんですよ】と話したら患者はすごくびっくりしていた.自分の話をすることによって,患者のストレートな反応があり,患者が本当に笑顔になって話し,素直に気持ちを表してくれた印象があったと語った.

Hは80歳代うつ病の患者を担当した.受け持ち患者は最初に会った時は凄い笑顔で穏やかな方だと思っていた.しかし聞き取れないことがあって質問したところ不機嫌になってしまった.なぜ怒られたんだろうと思いながら何回もコミュニケーションを重ねた.患者は気が短かく,性格的な問題で怒った発言をすることがあるとわかって,援助をする際に最初にどういう援助をして,どのくらい時間もらいますと説明することにした.すると「患者の理解が進み,会話も弾むようになった.患者から[私は昔フランスに行ってシャンソン聞きに行ったのよ]って,患者は昔のエピソードを話し出して,ここでけっこう信頼関係築けたのかなって思ったので,私も自分のこと話そうと決めました.それで【カラオケで自分が経験しておもしろかったこと】を話しました.すると患者があっはっはっって大きな声で笑って,今楽しそうに一緒に話せているからいいなって快刺激を与えられているのかなっていうふうに感じました」と患者からの自己開示から始まり,自分も自己開示したことで信頼関係が進展していったことを実感したと語った.

3) なかなか容易にできない自己開示

学生Iは,患者との関係性構築ができ,自己開示のキャッチボールが進むと,患者から核心に触れた過去の辛い思いの自己開示をうけて,患者の寂しさの本質に応えられなかった.

Iは80歳代女性うつ病の患者を担当した.受け持ち患者とは朝挨拶に行って病室で話し,デイルームで皆さんが体操しているときは一緒に行い,一緒に歌を歌ったり,と行動を共にし,会話はスムーズに行われていた.

Iは小学生の頃に人間関係に悩んだ結果,自己開示の大切さを知り積極的に自己開示をするようになったら,色んな人と仲良くなれた経験があった.その経験から患者との会話でも自己開示を意識的に取り入れていた.

しかしIは「普段の日常的な会話で家族のことなどは自己開示できるが,会話が進んで患者から[死んじゃいたい][娘は私のことどう思っているんだろう]と踏み入った会話になると話せなくなってしまった.教員からもプロセスレコードで患者の発言は沢山あるけど,そういう踏み入った場面では極端にIからの発言が少なくなると指摘された.Iはこのことについて,「深刻な場面では自己開示というか自分の気持ちをフィードバックするのが難しくなりました」と語った.

実習終了日近くに患者は[両親が早くに亡くなって大変だった][下に妹と弟がいて,頑張って育てたんだよね][60歳ぐらいの時に離婚して,旦那とどう折り合いをつけたのか]など,過去の深い話になっていった.Iは患者と会話をすることによって患者が心の窓を開いてくれたという思いになったと語った.そのような思いに至っている時にペットの話になり,患者が[娘が昔犬を飼ってたんだけど,死んじゃったから,そういう動物とかは死んじゃうし世の中上手くいかないわよね,思うようにはならないわよね]と話した時にようやく,Iは【私も猫死んじゃったんですよね】って辛い思い出の中の一部について,共通した体験として伝える自己開示ができたと語った.Iがその話をした時に,【猫ちゃん死んじゃったんですけどずっと一緒にいられると思ったんですよ】と話したら,[私もそう思ってたんだけどね]と私の発言に患者が共感し思いを寄せてくれる場面があったと語った.

Iはインタビュー時に,「振り返ってみると精神看護学実習では,どの実習よりも深く信頼関係が構築できたと感じている.しかし[家に行って一人でいたら寂しくて死んじゃうからここにいたい]と言ってって寂しくて退院できない患者だったので,私はその寂しさに寄り添える何かができたんだろうかっていう気持ちが強い」と語った.

Ⅵ  考察

1. 学生の自己開示に至るプロセス

1) 関係性構築のきっかけとなった自己開示

精神疾患患者へのコミュニケーションは,質問を投げかけても反応がなかったり,意思の疎通が難しいこともあり,学生にとってはコミュニケーションの困難さを感じていることが多い.返事が得られないと今話したくないんじゃないかと考えたり,自分が発した言葉で状態を悪化させてしまうのではないか,患者の負担になるのではないか,とネガティブな感情を増幅してしまう傾向にあり,それがさらに関係性構築を難しくしていた.これは,精神看護学実習に対する実習前の不安の調査で「コミュニケーションへの不安」「暴力行為への恐れ」「拒否への恐れ」「自身の発言による症状悪化の懸念」「症状への対応の戸惑い」の報告(佐藤・村上・村松,2011)や青柳・齋藤(2007)が「精神看護学実習へ不安を抱いている学生は83%で,その不安の内容は「受け持ち患者との人間関係」が95%であり,大半の学生が受け持ち患者と対人関係に不安を抱えている」という報告と附合しており,本研究においてもそのことを改めて確認する結果であった.

この場面で多くの学生が情報が得られない焦りや不安から関わり方について教員,指導者,グループメンバーに相談をしている.また学生の感情や患者との相互作用の場についての認識は,プロセスレコードの振り返りの機会において,改めて変化し進化していた.自己の傾向に気づき,自己の関わり方を修正しようという学生の意思が働いていた.

こうした過程を経て現実の患者の状態を認識し,患者の拒否の意味や応えられない姿勢の意味が自分に向けられたものではないとわかり,安心して患者に働きかけようと一歩を踏み出す時に,学生の関係性構築のための自己開示が行われたと考える.

2) 患者からの質問や自己開示に応えた自己開示

患者から質問や自己開示がありそれに学生が応える形で自己開示した場面では,まだ関係性に不安を抱えつつも患者からの質問や自己開示に応えることで,逆に患者の夢や希望を質問できたり,また患者が自己開示して抱えている問題を打ち明けてくれたのだからと,患者が学生を好評価したという感覚を持つ.それは信頼関係を築けたという学生の自信につながり,患者との関わりに喜びを感じるようになっていた.さらに双方からの自己開示の循環が生じると,学生は会話が楽しいと感じ,さらには患者ではなく一人の人間として尊重しそこにいるという感覚になっていた.田中・梅本(2013)は,信頼感が媒介になって内面的自己開示が促進されると示唆しており,患者から信頼を得たという実感が自己開示を促進したと考える.

3) 容易にできない自己開示

患者の核心に触れた心の奥底の叫びに対して,今まで楽しく自己開示できていた学生が言葉を詰まらせていた.互いの内面的自己開示が促進された結果,患者は自分史について語り出した.人生経験の浅い学生にとっては患者の思いを受ける事ができても,どう言葉を添えたら良いか思いつかなかったのは当然の結果だと言える.その中でも学生自身の経験と一致した患者の別の辛さについて共感し自己開示に至っている.学生ができうる患者への最大のケアであったと思うが,学生は患者の核となる寂しさに応えられなかったと無力感を感じていた.宮坂(2021)はヘルスケアの関心領域には,身体機能,生活機能,人生史の3つがあると述べ,患者は人生史の抱えている存在だという認識は,医療従事者に不可欠であるが,看護職が専門的なケア実践と認識していることは少ないと述べている.

患者の人生史の領域に踏み込んだ発話には,家族関係の背景を含め患者の原疾患に結びつくものもあり,患者の語りに注意深く介入することで,治療的な効果も期待できるのではないかと考える.しかしその場合の自己開示の在り方,関わり方の教育においては皆無である.

2. 自己開示後の患者への影響

関係性構築のきっかけとなった自己開示の場面では,学生Aの担当した「はい」「わからない」という発言が多かった患者は,「すっきりしました」と返答できるようになった.学生Bが担当した「もう来ないで」と拒絶をしていた患者は,学生の願いに応えコップを手にして水を飲む行動の変化が表れた.学生Cが担当した頷くだけだった患者は,学生の受け持ちで大変ではないかという質問に「そうは思わない」と言葉を発した.学生Dが担当した口数が少なく自ら話す事がなかった患者は,「ぼくこれが好きなんです」と自分の思いを伝えるようになった.

患者からの質問や自己開示に応えた自己開示の場面では,学生Eが将来の話をしたことで患者は「飛行機を運転するのが夢なんだよね」と希望を語った.学生Fが猫を飼っていた共通の話をしたことで患者は家族の事などさまざまな話に発展した.学生Gはファッションの共通の趣味を話したことで,実習当初装って良い患者を演じていたが,その後はストレートな反応を見せるようになった.学生Hが聞き取りづらい内容を聞き返すと「一度で聞き取れないならいい」と不機嫌になっていた患者は,学生の経験談にわっはっはと声に出して笑い,得意とするシャンソンを学生のために歌うようになった.

患者からの自己開示に応えられない自己開示では,お互いの自己開示が進み患者は自分史を語り出した.学生Iは患者の辛さの核心に触れ自己開示が容易にできない状態になる.しかし辛い状況に応えられなくても,共通した体験の辛さをを見出し自己開示すると,患者は同じように学生に共感し思いを寄せた言葉がかけられた.互いを尊重し合う関係性の変化が見られた.

Ⅶ  結論

研究参加者全員が自己開示の場面を体験していた.9人の研究参加者による自己開示の体験ストーリーは,看護学生の自己開示の動機や自己開示の内容から,患者との対人場面での自己開示が関係性構築のきっかけとなったもの(4名),患者からの質問や患者の自己開示に応えた自己開示(4名),なかなか容易にできない自己開示(1名)の3つに分類された.全ての学生が自己開示に至る患者との関わりの中で感情の動きを伴っていた.

3つに分類されたストーリーからは,学生が自己開示に至るにはプロセスがあり,学生は様々な感情を抱きながら患者との相互作用を続けていた.看護学生の自己開示により患者との関係性構築が進み,患者の言動に変化が見られた.さらにお互いの自己開示が発展すると患者は自分史を語り,患者の核となる抱えている辛さに直面する体験が明らかになった.

Ⅷ  研究の限界と今後の課題

本研究は,研究参加者が9名でサンプル数が多いとは言えない.またCOVID-19に関した実習中の感染予防のため,マスク着用により表情が観察しにくかった点や,予定より短期間での実習となり学生のアセスンメントのための情報収集への焦りが,自己開示のプロセスに影響したことも予測される.

今後は,研究サンプル数を多くしてデータの客観性を高め,COVID-19収束後も研究を継続することで,より広い視野からの考察を行うことが課題である.

研究者としてのインタビュー技術向上や,データの解釈の妥当性を高める専門家を含めた繰り返しの多角的検討により,深い見解を得ていくことも課題である.

謝辞

本論文の遂行にあたり,指導教官として終始多大なご指導を賜った神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科教授 榊惠子先生に深く感謝致します.並びにCOVID-19の影響で人との接触に制限がかかる中,この研究の趣旨をご理解頂き,研究にご協力を賜りました先生方に深謝の意を表します.そして貴重な体験をお話をして下さり,ご協力頂きました看護学生の皆様に心より感謝致します.

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  •  高橋 美美, 戸田 由美子(2010).精神看護学実習における技術到達度に関する研究.高知大学看護学会誌,4(1), 3–12.
  •  田中 健史朗, 梅本 貴豊(2013).類似性が自己開示へ与える影響―類似面の差異に着目して―.カウンセリング研究,46(4), 197–206.
  •  矢崎 千華(2016).ナラティブ分析を再考する―構造への着目―.関西学院大学社会学部紀要,125, 47–57.
 
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