日本精神保健看護学会誌
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原著
医療観察法入院対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践
佐藤 和也西川 薫
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2023 年 32 巻 1 号 p. 57-66

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Abstract

本研究の目的は,医療観察法入院対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を明らかにし,その特徴を考察することである.全国の医療観察法指定入院医療機関に所属する看護師1,012名に質問紙を配布し,317名(回収率31.3%)から回答を得た.このうち,自由回答式質問に回答した250名の記述を,Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析を用いて分析した.その結果,【対象者が主体となってクライシス・プランを活用する意義や有用性を伝える】【対象者独力によるクライシス・プランの素案作成を求める】【クライシス・プランの代わりになる独自の名称決定を求める】など37カテゴリが形成された.また,考察により,37カテゴリが,8の特徴を持つことを示した.本研究の成果は,看護師が自己の実践を客観的に理解し,改善の方向性を見出すために活用できる.

Translated Abstract

This study aimed to identify the practices of nurses involved in the development of proactive crisis plans for patients hospitalized under the Medical Treatment and Supervision Act and examine the characteristics of these plans. A questionnaire was distributed to 1,012 nurses affiliated with inpatient institutions under the Medical Treatment and Supervision Act nationwide, and responses were obtained from 317 (31.3% response rate). Of them, 250 statements in response to open-ended questions were analyzed using content analysis for nursing education based on Berelson’s methodology. Consequently, 37 categories were formed, including conveying patients to significance and usefulness of utilizing the crisis plan proactively, asking patients to draft crisis plans independently, and asking patients to decide on unique names to replace “crisis plan.” The discussion showed that the 37 categories have eight characteristics. The results of this study can be used by nurses to objectively understand their own practices and find directions for improvement.

Ⅰ  はじめに

2005年,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下,医療観察法)」が施行された.この法律は,重大な他害行為を行った者に対する適切な医療の提供による再他害行為の防止と社会復帰の促進を目的としている.医療観察法では,入院対象者(以下,対象者)の再他害行為の防止と安定した社会生活を維持するために,危機的状況への計画書であるクライシス・プランを入院中に作成する(平林,2012).クライシス・プランは,対象者が主体的に作成する計画である.医療者が中心に作成したクライシス・プランは,対象者にとって活用する必要性が乏しく,危機的状況への早期対処が困難となる.そのため,医療者には,対象者による主体的なクライシス・プランの作成への支援が求められる.しかし,医療観察法に携わる医療者は,クライシス・プランの重要性の理解促進,対象者の希望を基にした作成などに困難を感じている(野村ら,2020).これらの困難は,服薬アドヒアランス不良による未受診や医療中断(平林,2012)という対象者の特性が影響している可能性が高い.クライシス・プランは,対象者の主体性を尊重しながら対象者と支援者で協働し作成される.しかし,対象者は,服薬アドヒアランス不良という特性に加え,長期間に及ぶ非自発的入院という環境下に置かれる.これらは,医療観察法病棟に所属する医療者が,対象者による主体的なクライシス・プランの作成を支援することが重要な課題であると認識しつつも,その克服が困難な状況を示す.また,看護師は,ケアコーディネーターという役割を担うことを他職種から期待されている(佐藤・山田,2012).この役割は,クライシス・プランの作成を支援する場合も同様であり,対象者への直接的な実践に加え,多職種間を調整する間接的な実践を遂行する必要性を示す.

先行研究は,一般精神科病棟の入院患者を主体としたクライシス・プランを患者と支援者が協働で作成することによる主体的な対処行動の実行(奥平・森,2019),地域生活に向けた自己効力感の向上(門元ら,2021)等の効果が患者にもたらされることを明らかにした.また,対象者を主体としたクライシス・プランの作成を支援した結果,対象者自らが病気や今後の対処を説明し,退院後の支援体制が確立されたことを報告している(大鶴・原田,2013).これらの研究は,対象者を主体としたクライシス・プランを協働で作成する効果を解明していた.しかし,事例研究が多く,対象者による主体的なクライシス・プランの作成を支援するために実践している具体的な内容は解明されていない.

対象者は,精神障害によって重大な他害行為に至ったことから,疾病自己管理能力の向上,安定した状態の維持と病状悪化の予防,再他害行為のリスクの低減を目的にクライシス・プランを作成する(野村ら,2020).しかし,病状悪化や再他害行為防止に偏ったクライシス・プランの場合,病状が悪化した際に非自発的入院などの強制的な対応を強めた計画となり,対象者の主体性や疾病自己管理につながりにくい(野村,2018).そのため,対象者の主体性を促進し,それを支援するという協働的なクライシス・プランの作成が求められる.

そこで本研究は,対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を明らかにし,その特徴を考察することを目指す.本研究の成果は,看護師が対象者による主体的なクライシス・プランの作成を支援する自己の実践を客観的に理解し,改善の方向性を見出すために活用できる.

Ⅱ  研究目的

対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を明らかにし,その特徴を考察す‍る.

Ⅲ  用語の定義

1. クライシス・プラン(crisis plan)

クライシス・プランとは,病気や生活の安定から悪化までの状態に応じた自己対処と支援者の対応を事前に当事者と支援者らで作成し,合意された計画(狩野・野村,2021)である.

Ⅳ  研究方法

1. 研究対象者

全国の医療観察法指定入院医療機関に所属している看護師を対象とした.

2. 測定用具

1) 「看護師の実践」を問う質問紙

自由回答式質問からなる.質問文は,「対象者が主体的にクライシス・プランを作成できるように,どのような支援を行いましたか」と作成した.

2) 「研究対象者の特性」を問う質問紙

選択式,実数記入式質問からなる.①年齢②性別③臨床経験年数④医療観察法病棟での臨床経験年数⑤職位である.

3. データ収集

全国の医療観察法指定入院医療機関33施設の看護管理責任者宛に質問紙等を郵送し,研究協力に承諾した看護師への配布を依頼し,合計1,012名の看護師に質問紙を配布した.看護師には,研究協力依頼状を通して,研究目的と意義,調査への協力方法,倫理的配慮などを説明した.質問紙は,返信用封筒を用いた個別投函により回収し,質問紙の返送をもって研究協力に同意が得られたものとした.データ収集期間は,2020年10月9日から2021年1月8日であった.

4. データ分析

1) 「看護師の実践」を問う質問に対する回答の分析

Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析(舟島,2018)を用いて分析した.自由回答式質問に対する回答のうち,記述全体を文脈単位,研究のための問いに対する回答1つを含む記述を記録単位とした.意味内容の類似した記録単位を集約して同一記録単位群とした.次に,個々の記録単位群を意味内容の類似性に基づいて分類し,その記述を忠実に反映したカテゴリネームに置き換え,カテゴリを形成した.最後に,記録単位の出現頻度を数量化し集計し‍た.

2) 「研究対象者の特性」を問う質問に対する回答の分析

Microsoft Excel 2019を用い,記述統計値を算出した.

5. カテゴリの信頼性

カテゴリの信頼性を確保するために,看護学研究者2名に無作為抽出した記録単位を形成したカテゴリに分類するように依頼した.また,分類した結果の一致率をScott, W. A.の式に基づき算出し,検討した.

6. 倫理的配慮

対象者の自己決定の権利と匿名性,秘密保持に関する権利や研究不正行為回避の保障を遵守した.研究対象者には,研究目的と意義,倫理的配慮などを書面にて説明した.質問紙の回収は無記名,個別投函とし,自己決定の権利と個人情報保護を保障した.本研究は,群馬パース大学研究倫理審査委員会の承認(PAZ20-10)を得た.

Ⅴ  研究結果

データ収集の結果,317名(回収率31.3%)から回答を得た.そのうち,自由回答式質問に回答した250名の回答を分析対象とした.

1. 研究対象者の特性

研究対象者の年齢は,23歳から63歳の範囲にあり,平均43.2歳(SD = 9.3)であった.性別は,男性118名(47.2%),女性131名(52.4%),不明1名(0.4%)であった.臨床経験年数は,1年から46年の範囲にあり,平均18.7年(SD = 9.9),医療観察法の臨床経験年数は,1年から14年の範囲にあり,平均4.9年(SD = 3.4)であった.職位は,看護師長5名(2.0%),副看護師長/主任49名(19.6%),スタッフ看護師195名(78.0%),不明1名(0.4%)であった.

2. 対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践(表1
表1 医療観察法入院対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を表すカテゴリ
カテゴリ名 記録単位数(%)
1 他害行為の再発防止に必要な治療プログラムへの参加機会を設ける 23(  7.7%)
2 対象者が主体となってクライシス・プランを活用する意義や有用性を伝える 21(  7.0%)
3 対象者が表現した内容そのままをクライシス・プランに採用する 21(  7.0%)
4 対象者が表現した内容を基にクライシス・プランへの加筆修正を提案する 18(  6.0%)
5 病状悪化と他害行為に至った経過を基に対象者自身の精神状態や行動を内省できる機会を設ける 18(  6.0%)
6 対象者と家族並びに鑑定書からクライシス・プランの作成に関連する情報を収集する 17(  5.7%)
7 他害行為に至った経過を基に抽出可能なモニタリング項目と実施可能な対処の意向を発問する 14(  4.6%)
8 対象者独力によるクライシス・プランの素案作成を求める 13(  4.3%)
9 対象者の知的能力や関心度に適したクライシス・プランの図案を設計する 12(  4.0%)
10 対象者が自身の精神状態を客観的に理解できるように,観察した対象者の行動を提示する 12(  4.0%)
11 対象者が希望する今後の生活や支援内容に対する意向を把握する 12(  4.0%)
12 セルフモニタリングを継続的に実施できる機会を設ける 10(  3.3%)
13 クライシス・プランに記載する内容の整理と検討を可能にするために多くの情報の羅列を求める 9(  3.0%)
14 対象者が意欲的にクライシス・プランの作成に取り組むことができる内容や方法を創意工夫する 9(  3.0%)
15 クライシス・プランの内容を検討するための具体例を提示する 8(  2.6%)
16 治療プログラムの場で学習する症状と他害行為の関連性を予習・復習できる機会を設ける 8(  2.6%)
17 担当多職種チーム会議の場で対象者と共にクライシス・プランの内容を検討できる機会を設ける 8(  2.6%)
18 対象者が表現した内容を基にクライシス・プランに表記する情報を共に整理する 7(  2.3%)
19 クライシス・プランの作成に関連する対象者の具体的な情報を担当多職種チームに提供する 6(  2.0%)
20 クライシス・プランの代わりになる独自の名称決定を求める 5(  1.7%)
21 クライシス・プランの見本を基に活用可能なクライシス・プランの書式決定を求める 5(  1.7%)
22 事前にクライシス・プラン作成の参考になる見本や資料を提示する 5(  1.7%)
23 クライシス・プランに記載した内容を具体化できるように詳細に質問する 5(  1.7%)
24 クライシス・プランへの追加提案に対する同意を得る 5(  1.7%)
25 担当多職種チーム会議の場でクライシス・プランを発表できる機会を設ける 4(  1.3%)
26 症状と他害行為の関連性を理解するための知識や情報を提供する 3(  1.0%)
27 クライシス・プランに反映する再他害行為防止策を確立する必要性を説明する 3(  1.0%)
28 自身の障害を受容できるように,他害行為に至った病状に対する対象者の心情を傾聴する 3(  1.0%)
29 平静な態度でクライシス・プランの作成に取り組める時間・場所・物品を確保する 3(  1.0%)
30 対象者のこれまでの実践やその努力を認める言葉をかける 3(  1.0%)
31 作成したクライシス・プランに対する多職種からの助言獲得要請を提案する 2(  0.6%)
32 クライシス・プランを作成する理由を発問する 1(  0.3%)
33 病識を獲得できるように同様の病的体験をもつ他対象者と交流できる機会を設ける 1(  0.3%)
34 再他害行為防止策を検討するために理解しやすい治療プログラムの内容に改訂する 1(  0.3%)
35 クライシス・プランの作成支援に関する知識習得のための研修を受講する 1(  0.3%)
36 スタッフ看護師からのクライシス・プラン作成に関する相談に管理職の立場から対応する 1(  0.3%)
37 対象者が問題を自覚できるように,失敗を経験できる機会を設ける 1(  0.3%)
記録単位総数 298(100.0%)

250名の記述から形成された記録単位のうち,298記録単位を分析した結果,37カテゴリが形成された.以下,記録単位が多いものから順に論述する.なお,【 】内はカテゴリを,「 」内は各カテゴリが形成した代表的な記述を表す.

【1.他害行為の再発防止に必要な治療プログラムへの参加機会を設ける】は,「内省プログラム,対象行為別プログラムなどクライシス・プラン作成の基礎となる治療プログラムに参加できる機会を設ける」などの記録単位から形成された.

【2.対象者が主体となってクライシス・プランを活用する意義や有用性を伝える】は,「クライシス・プランは退院後に繰り返し自分のために使うものであることを説明する」などの記録単位から形成された.

【3.対象者が表現した内容そのままをクライシス・プランに採用する】は,「病識が乏しい対象者自身が使う『幻聴』ではなく『妹からのテレパシー』という言葉をクライシス・プランに使用する」などの記録単位から形成された.

【4.対象者が表現した内容を基にクライシス・プランへの加筆修正を提案する】は,「対象者から眠れない等の訴えがあった場合は,クライシス・プランに追加してはどうかと提案する」などの記録単位から形成された.

【5.病状悪化と他害行為に至った経過を基に対象者自身の精神状態や行動を内省できる機会を設ける】は,「自分の注意サインに気づけるように,対象行為時や病状悪化時の状況を振り返る機会を作る」などの記録単位から形成された.

【6.対象者と家族並びに鑑定書からクライシス・プランの作成に関連する情報を収集する】は,「対象者の全体像を把握するために,入院生活,家族,鑑定書から情報を収集する」などの記録単位から形成された.

【7.他害行為に至った経過を基に抽出可能なモニタリング項目と実施可能な対処の意向を発問する】は,「対象行為前の状況・精神状態を聞き,どうすれば対象行為を行わないようにできたか聞く」などの記録単位から形成された.

【8.対象者独力によるクライシス・プランの素案作成を求める】は,「まずは,安定している状態,注意状態,危険な状態,対処法,相談できる人などを一覧にした用紙を渡し,自由に記入してもらう」などの記録単位から形成された.

【9.対象者の知的能力や関心度に適したクライシス・プランの図案を設計する】は,「文字・表現・色分け・マークなど対象者の理解力・能力に応じた現し方でクライシス・プランの表を作成する」などの記録単位から形成された.

【10.対象者が自身の精神状態を客観的に理解できるように,観察した対象者の行動を提示する】は,「対象者が今まで気づけなかった点を思い返せるよう,対象者の生活の中で観察した症状を指摘する」などの記録単位から形成された.

【11.対象者が希望する今後の生活や支援内容に対する意向を把握する】は,「対象者の権利を守れるように,スタッフにしてほしいことやしてほしくないことを聞く」などの記録単位から形成された.

【12.セルフモニタリングを継続的に実施できる機会を設ける】は,「病状把握の癖をつけられるように,急性期からセルフモニタリングを実施できる場をつくる」などの記録単位から形成された.

【13.クライシス・プランに記載する内容の整理と検討を可能にするために多くの情報の羅列を求める】は,「自覚症状・他覚症状を共に整理するために,できる限り多くの症状を対象者から出してもらう」などの記録単位から形成された.

【14.対象者が意欲的にクライシス・プランの作成に取り組むことができる内容や方法を創意工夫する】は,「クライシス・プランの受け入れが悪い対象者に,自分のトリセツを作りましょうと伝える」などの記録単位から形成された.

【15.クライシス・プランの内容を検討するための具体例を提示する】は,「対象者からクライシス・プランに記載する症状についての発言が出ない場合,『こういう状態になる対象者もいた』と例えを出す」などの記録単位から形成された.

【16.治療プログラムの場で学習する症状と他害行為の関連性を予習・復習できる機会を設ける】は,「他害行為に至ったきっかけや必要な対処に気づけるよう,内省プログラムを予習する場に同席する」などの記録単位から形成された.

【17.担当多職種チーム会議の場で対象者と共にクライシス・プランの内容を検討できる機会を設ける】は,「対象者が参加する多職種チーム会議で,共に話し合いクライシス・プランを修正する場を作る」などの記録単位から形成された.

【18.対象者が表現した内容を基にクライシス・プランに表記する情報を共に整理する】は,「治療プログラムで取り組んだ内容を振り返り,体調の良い時・悪い時・支援が必要な状態を共に分類しまとめる」などの記録単位から形成された.

【19.クライシス・プランの作成に関連する対象者の具体的な情報を担当多職種チームに提供する】は,「看護面接で挙がった話題や些細な情報を担当多職種チームメンバーに適宜報告する」などの記録単位から形成された.

【20.クライシス・プランの代わりになる独自の名称決定を求める】は,「『対象行為を忘れず再他害行為防止のために』などといった対象者だけのクライシス・プランの名前を付けてもらう」などの記録単位から形成された.

【21.クライシス・プランの見本を基に活用可能なクライシス・プランの書式決定を求める】は,「クライシス・プランのフォーマットの例を何枚か見てもらい,対象者にどれがよいか決めてもらう」などの記録単位から形成された.

【22.事前にクライシス・プラン作成の参考になる見本や資料を提示する】は,「具体的なイメージがつきやすいよう,個人情報の入っていないクライシス・プランのひな形をいくつか見せる」などの記録単位から形成された.

【23.クライシス・プランに記載した内容を具体化できるように詳細に質問する】は,「対象者が自由に記入したクライシス・プランを見て,もう少し聞いてみたいこと,例えば『眠れない』という主観的な表現の記載があれば,何時間くらいの睡眠時間を言うのか具体的に聞く」などの記録単位から形成された.

【24.クライシス・プランへの追加提案に対する同意を得る】は,「作成したクライシス・プランを対象者と支援者が互いに理解できるように,対象者の感覚を支援者がわかる言葉に置き換え同意を得る」などの記録単位から形成された.

【25.担当多職種チーム会議の場でクライシス・プランを発表できる機会を設ける】は,「担当多職種チームの前で心理教育の場で作成したクライシス・プランを発表してもらう」などの記録単位から形成された.

【26.症状と他害行為の関連性を理解するための知識や情報を提供する】は,「対象者が気づいていない対象行為前の体験が病気の症状であることを説明する」などの記録単位から形成された.

【27.クライシス・プランに反映する再他害行為防止策を確立する必要性を説明する】は,「必要性を感じていない対象者に,再度対象行為をしない根拠としてクライシス・プランは必要であると説明する」などの記録単位から形成された.

【28.自身の障害を受容できるように,他害行為に至った病状に対する対象者の心情を傾聴する】は,「自分の病気や症状とその特徴を理解し受け入れることができるよう,対象者の思いを傾聴する」などの記録単位から形成された.

【29.平静な態度でクライシス・プランの作成に取り組める時間・場所・物品を確保する】は,「和やかな雰囲気でクライシス・プランの作成に取り組めるように,お茶などを用意する」などの記録単位から形成された.

【30.対象者のこれまでの実践やその努力を認める言葉をかける】は,「対処行動を実践できた時,正のフィードバックを行う」などの記録単位から形成された.

【31.作成したクライシス・プランに対する多職種からの助言獲得要請を提案する】は,「対象者から他職種にクライシス・プランを見せ,各職種からコメントやアドバイスをもらうよう伝える」という記録単位から形成された.

【32.クライシス・プランを作成する理由を発問する】は,「『どうして必要だと思いますか』と,作成する理由を問いかける」という記録単位から形成された.

【33.病識を獲得できるように同様の病的体験をもつ他対象者と交流できる機会を設ける】は,「対象者が病識を持てるように,同じ病的体験のある他の対象者と話し合えるような場を作る」という記録単位から形成された.

【34.再他害行為防止策を検討するために理解しやすい治療プログラムの内容に改訂する】は,「内省プログラムを実施した後,治療プログラムを改訂し,対象者が理解しやすい内容にする」という記録単位から形成された.

【35.クライシス・プランの作成支援に関する知識習得のための研修を受講する】は,「クライシス・プランの講習会に参加し,知識を得てから対象者のクライシス・プランの作成を支援できるようにする」という記録単位から形成された.

【36.スタッフ看護師からのクライシス・プラン作成に関する相談に管理職の立場から対応する】は,「クライシス・プランを作成するに当たり,副看護師長/主任がスタッフから相談を受け指導する」という記録単位から形成された.

【37.対象者が問題を自覚できるように,失敗を経験できる機会を設ける】は,「対象者が自分の問題を感じ取れるように予測できる失敗に対するマネジメントをしないで,対象者に失敗してもらう」という記録単位から形成された.

3. カテゴリの信頼性

カテゴリへの分類の一致率は,89.3%,78.6%であり,37カテゴリが信頼性を確保していることを示した.

Ⅵ  考察

本研究の対象者は,年齢,臨床経験年数など多様な背景を持つ看護師から構成されている.これは,本研究の結果が,多様な背景を持つ看護師の知覚を反映していることを示す.次に,明らかにした37カテゴリと文献を照合し,その特徴を考察する.以下,カテゴリを【 】,その特徴を《 》により表す.

第1に着目したカテゴリは,【6.対象者と家族並びに鑑定書からクライシス・プランの作成に関連する情報を収集する】【11.対象者が希望する今後の生活や支援内容に対する意向を把握する】である.先行研究は,ソーシャルワーカーが,クライシス・プランの作成に向けて,当事者から病状や今後の意向に関する情報を収集していることを明らかにした(狩野,2021).これは,【6】【11】と類似した実践であることを示す.しかし,【6】は,情報収集の対象に鑑定書を含む.鑑定書には,病名や生活歴などが記載されており,対象者の精神障害と他害行為の関連性を理解する重要な資料となる.これらは,【6】が,鑑定書を含めた情報から対象者を精神障害と他害行為の関連性という視点から多面的に理解する実践を示す.

以上,【6】【11】は,《精神障害と他害行為の関連性を基に対象者を多面的に理解する》という特徴を持つ.

第2に着目したカテゴリは,【2.対象者が主体となってクライシス・プランを活用する意義や有用性を伝える】【27.クライシス・プランに反映する再他害行為防止策を確立する必要性を説明する】【32.クライシス・プランを作成する理由を発問する】である.各カテゴリが表す意義,必要性,理由は同義であり,対象者がクライシス・プランを活用する意義は,疾病自己管理能力を高め,再他害行為を防止することである(野村,2014).これらは,【2】【27】【32】が,再他害行為防止という側面から,疾病自己管理への動機付けを高める実践であることを示す.

これに関連して,【14.対象者が意欲的にクライシス・プランの作成に取り組むことができる内容や方法を創意工夫する】【9.対象者の知的能力や関心度に適したクライシス・プランの図案を設計する】に着目した.【14】が表す意欲には,内発的動機付けが影響を及ぼす.内発的動機付けとは,活動そのものに対する興味に基づく意欲を意味する.これは,【14】が,クライシス・プランを作成する活動を通して疾病自己管理への内発的動機付けを高める実践と換言できる.先行研究は,医療観察法病棟の73.3%に定型のクライシス・プランの書式が存在することを明らかにした(野村ら,2020).しかし,【9】は,対象者の能力や関心度に適した書式を用いる実践を表している.これらは,【14】【9】が,対象者の関心という側面から,疾病自己管理への内発的動機付けを高める実践であることを示す.

これに関連して,【20.クライシス・プランの代わりになる独自の名称決定を求める】【21.クライシス・プランの見本を基に活用可能なクライシス・プランの書式決定を求める】【24.クライシス・プランへの追加提案に対する同意を得る】に着目した.専門誌は,対象者がクライシス・プランの名称を命名することにより,自身のクライシス・プランであるとの認識につながったと報告している(金子,2017).また,内発的動機付けは,ある行為を自己決定することにより高まる(Deci, 1995/2010).これらは,【20】【21】【24】が,対象者の自己決定という側面から,疾病自己管理への内発的動機付けを高める実践であることを示す.

医療者は,クライシス・プランの重要性の理解促進,対象者の希望を基にした作成などに困難を感じており(野村ら,2020),服薬アドヒアランス不良による未受診や医療中断(平林,2012)という対象者の特性が影響している可能性が高い.この状況への対処に向けて,再他害行為防止,対象者の関心や自己決定といった多面的な疾病自己管理への内発的動機付けを高める実践の重要性を示唆する.

以上,【2】【27】【32】【14】【9】【20】【21】【24】は,《疾病自己管理に向けた内発的動機付けを高める》という特徴を持つ.

第3に着目したカテゴリは,【30.対象者のこれまでの実践やその努力を認める言葉をかける】【29.平静な態度でクライシス・プランの作成に取り組める時間・場所・物品を確保する】である.【30】が表す認めると同義である受容は,自分を見直すための感情的な余裕を相手にもたらす.先行研究は,当事者との信頼関係を重視したクライシス・プランの作成への導入方法を明らかにした(狩野,2021).また,対象者が他害行為に及んだ背景には,対象者自身のストレスによる苦悩が存在している可能性が高い(牧野・浦川,2013).これらは,【30】【29】が,他害行為を起こし苦悩を抱いている対象者が自身を見直すことができるよう,落ち着いた感情や態度といった余裕を提供する実践であることを示す.

以上,【30】【29】は,《他害行為に至った苦悩に対して感情的な余裕を提供する》という特徴を持つ.

第4に着目したカテゴリは,【26.症状と他害行為の関連性を理解するための知識や情報を提供する】【1.他害行為の再発防止に必要な治療プログラムへの参加機会を設ける】である.クライシス・プランの作成過程は,対象者が病気の特徴を理解し自己対処計画を作成するという疾病自己管理能力を高める過程である(平林,2012).また,先行研究は,医療観察法病棟に所属する看護師が,対象者が自己の疾患や傾向を把握し,対処技能を獲得できるように働きかけていることを明らかにした(櫻木ら,2011).これらは,【26】【1】が,再他害行為防止に向けて対象者の疾病自己管理能力を高める実践であることを示す.

これに関連して,【16.治療プログラムの場で学習する症状と他害行為の関連性を予習・復習できる機会を設ける】に着目した.入院処遇ガイドラインには,治療プログラム後の個別フォローの実施が明記されている(厚生労働省,2005).看護師は,治療プログラムでの学習内容を般化できるよう援助する.これらは,【16】が,対象者が症状と他害行為の関連への理解深化に向けた実践を示す.

以上,【26】【1】【16】が,《再他害行為防止と疾病自己管理に必要な知識の理解を促進する》という特徴を持つ.

第5に着目したカテゴリは,【12.セルフモニタリングを継続的に実施できる機会を設ける】【5.病状悪化と他害行為に至った経過を基に対象者自身の精神状態や行動を内省できる機会を設ける】【28.自身の障害を受容できるように,他害行為に至った病状に対する対象者の心情を傾聴する】【10.対象者が自身の精神状態を客観的に理解できるように,観察した対象者の行動を提示する】【37.対象者が問題を自覚できるように,失敗を経験できる機会を設ける】である.【12】が表すセルフモニタリングとは,自己の行動や感情などの観察による客観的な気づきをもたらす手続きであり,行動変容に効果的である(坂野,2008).また,【10】【37】【28】【5】が表す精神状態や行動などは,客観的な気づきを得る必要があるモニタリング項目を意味する.これらは,病状と他害行為の関連から対象者が自身を客観視し行動変容できる機会を提供する実践を示‍す.

これに関連して,【33.病識を獲得できるように同様の病的体験をもつ他対象者と交流できる機会を設ける】に着目した.病識とは,精神障害による変化への気づきによって自身の行動を決定する指標となる精神障害に対する意識であり,病的体験の客観視が病識に影響を与える(菅原・森,2011).これは,前述したカテゴリと同様に,客観視し行動変容できる機会を提供する実践であることを示す.

以上,【12】【5】【28】【10】【37】【33】が,《病状と他害行為の関連から対象者が自身を客観視し行動変容できる機会を提供する》という特徴を持つ.

第6に着目したカテゴリは,【22.事前にクライシス・プラン作成の参考になる見本や資料を提示する】【8.対象者独力によるクライシス・プランの素案作成を求める】【15.クライシス・プランの内容を検討するための具体例を提示する】【13.クライシス・プランに記載する内容の整理と検討を可能にするために多くの情報の羅列を求める】である.これらは,対象者に即して資料を提示したり,素案作成を求めたりするなどの多様な実践を表す.これらの実践は,対象者にとって最適な課題を提示している実践である可能性が高く,これに関連する概念に発達の最近接領域がある.発達の最近接領域とは,他者からの適切な支援によって達成可能な課題の範囲であり,他者との協働活動によって複雑な課題の達成を可能にする(Sawyer, 2014/2018).これらは,【22】【8】【15】【13】が,対象者個々の状況に即した最適な課題を提示する協働的な実践を示す.

これに関連して,【3.対象者が表現した内容そのままをクライシス・プランに採用する】【7.他害行為に至った経過を基に抽出可能なモニタリング項目と実施可能な対処の意向を発問する】【4.対象者が表現した内容を基にクライシス・プランへの加筆修正を提案する】【18.対象者が表現した内容を基にクライシス・プランに表記する情報を共に整理する】【23.クライシス・プランに記載した内容を具体化できるように詳細に質問する】に着目した.これらは,対象者の言動や記述を求めた後に行われる実践という共通性を持つ.これらは,【3】【7】【4】【18】【23】も,対象者の個々の状況に即した協働的実践であることを示す.

以上,【22】【8】【15】【13】【3】【7】【4】【18】【23】が,《対象者個々の状況を反映した協働的活動を展開する》という特徴を持つ.

第7に着目したカテゴリは,【17.担当多職種チーム会議の場で対象者と共にクライシス・プランの内容を検討できる機会を設ける】【25.担当多職種チーム会議の場でクライシス・プランを発表できる機会を設ける】【31.作成したクライシス・プランに対する多職種からの助言獲得要請を提案する】である.医療観察法では,対象者ごとに 5職種6名からなる多職種チームを構成し治療を提供する.このうち,看護師は,ケアコーディネーターの役割を担うことを他職種から期待され(佐藤・山田,2012),対象者と担当多職種チームをつなぐ間接的な役割を担う.この役割には,対象者と多職種の共同意思決定に向けた調整的役割が含まれる.共同意志決定とは,対象者と支援者が情報を共有し合意に至るまでの相互作用的プロセス(Matthias et al., 2012)である.これらは,【17】【25】【31】が,共同意思決定に向けて対象者と多職種間を調整する実践を示す.

以上,【17】【25】【31】が,《共同意思決定に向けて対象者と多職種間を調整する》という特徴を持つ.

第8に着目したカテゴリは,【35.クライシス・プランの作成支援に関する知識習得のための研修を受講する】【36.スタッフ看護師からのクライシス・プラン作成に関する相談に管理職の立場から対応する】【19.クライシス・プランの作成に関連する対象者の具体的な情報を担当多職種チームに提供する】である.先行研究は,研修実施後のクライシス・プラン作成に関する知識が有意に上昇したことを明らかにした(野村ら,2022).また,管理職は,スタッフを教育する役割を担う.これらは,【35】【36】【19】が,効果的なクライシス・プランの作成を支援するための看護師自身や担当多職種チームの準備体制を整える実践を示す.

これに関連して,【34.再他害行為防止策を検討するために理解しやすい治療プログラムの内容に改訂する】に着目した.医療観察法病棟で提供されている治療プログラムは,退院後の社会生活を見据えた全人的な視点による治療プログラムの見直しが必要である.これは,【34】が,効果的な治療プログラムの提供という観点からクライシス・プランの作成を支援する体制を整える実践を示す.

以上,【35】【36】【19】【34】が,《クライシス・プランの作成を効果的に支援するための準備体制を整える》という特徴を持つ.

考察を通して,対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践の特徴8種類が明らかになった.これらの実践と特徴は,看護師が,対象者による主体的なクライシス・プランの作成に向けた実践を査定し改善するために活用可能である.しかし,実践を査定し改善するという自己評価を行うためには,客観的な評価を実施できる測定用具が必要となる.クライシス・プランの作成に携わる看護実践を自己評価するための測定用具の開発が今後の課題である.

Ⅶ  結論

1.本研究は,対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を表す37カテゴリを明らかにした.

2.カテゴリは,8の特徴を示した.それは,精神障害と他害行為の関連性を基に対象者を多面的に理解する,疾病自己管理に向けた内発的動機付けを高める,他害行為に至った苦悩に対して感情的な余裕を提供する,再他害行為防止と疾病自己管理に必要な知識の理解を促進する,病状と他害行為の関連から対象者が自身を客観視し行動変容できる機会を提供する,対象者個々の状況を反映した協働的活動を展開する,共同意思決定に向けて対象者と多職種間を調整する,クライシス・プランの作成を効果的に支援するための準備体制を整える,である.

3.本研究の成果は,看護師が自己の実践を客観的に理解し,改善の方向性を見出すために活用できる.

謝辞

本研究の結果は,全国の医療観察法病棟に所属する看護師の皆様のご協力に支えられている.本研究に関わったすべての皆様に心より感謝申し上げる.なお,本論文の内容の一部は,第17回日本司法精神医学会大会にて発表した.

著者資格

KSは研究の着想から原稿作成に至るまで研究プロセス全般を遂行した.KNは研究の着想から原稿作成に至るまでの研究プロセス全般への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2023 日本精神保健看護学会
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