日本精神保健看護学会誌
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原著
ピアサポーターが地域移行支援で支援対象者のリカバリーのために大切にしたいこと
小川 賢一澤田 いずみ
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2023 年 32 巻 1 号 p. 48-56

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Abstract

本研究の目的は,ピアサポーターが地域移行支援において支援対象者のリカバリーのために大切にしたいことを明らかにすることである.対象は,ピアサポーター養成講座を受け,地域移行支援に携わった経験のあるA県内のピアサポーター7名で,半構造化面接を実施し質的記述的に分析した.その結果,【安心して話せる人になる】【希望を実現する意思の力を作っていく】【社会の変化まで願う】【大らかに構え長い目で支援を続ける】【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】【支え合いを常に忘れないでいる】の6カテゴリーが生成された.

ピアサポーターは,リカバリー支援のプロセスを支える安心して話せる関係性と,安心して話せる関係性を支える大らかな姿勢をもつことを大切にしていると考えられた.看護師は,リカバリーを応援する社会のあり方に関心を持ち,ピアサポーターからリカバリーの多様性やリカバリーを支える姿勢を学んでいく必要がある.同時に,ピアサポーターと支援対象者の関係性構築の支援や,両者との支え合いという協働の役割が期待される.

Translated Abstract

This study aims to elucidate what peer support workers generally place importance on for the recovery of supported persons involved in community transition support. Participants were seven peer support workers in prefecture A who had undergone peer support worker training related to mental health welfare, and have experience in involvement in community transition support. Semi-structured interviews were conducted and analyzed qualitatively and descriptively.

As a result, the following six categories were generated: [trying to become a supporter whom patients feel comfortable to talk to], [building the will power needed to realize achieving the hoped for], [wishing for changes in society], [considering things compassionately and continuing to provide support with a long-term perspective], [supporting diversity in the recovery through collaboration with nurses], [keeping a focus on the importance of mutual support].

Peer support workers generally place importance on relationships in which people can talk freely, which supports the process of recovery support, and have a compassionate and understanding attitude that supports that relationship. Nurses need to be interested in the way society supports recovery, and continue learning from the experience of peer support workers who have themselves recovered and are ready to support diversity in lifestyles. At the same time, nurses are expected to play a role in helping peer support workers build relationships with supported persons, and in collaborating with both parties to support each‍ ‍other.

Ⅰ  緒言

わが国の精神科病棟に入院する患者数は約28万人といまだ多く,近年は2004年に厚生労働省が示した「入院医療から地域生活中心へ」という精神保健福祉施策の方針に基づき,「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」などの長期入院患者の地域移行を目的とする事業が展開されてきた.

地域移行の流れの中で,精神障害をもつ人の主観的な回復の経験を意味する「リカバリー」の概念が注目されてきた.リカバリー概念の台頭により,専門家の見方からの回復のみではなく,障害をもつ人自身の世界から見た回復の多様性が語られるようになった(濱田,2014).一方で,精神科看護師にとってはセルフケアや病状の度合いが回復の主たる指標となり,当事者との間で認識するリカバリーが一致しない可能性や,当事者が自身のリカバリーを自由に語ることの困難性が指摘されている(栗原・西垣・間,2020).さらに,リカバリーのプロセスの中で,同じ障害をもつ人による対等な支え合いである「ピアサポート」の経験が,リカバリーを促進する重要な契機となることが明らかとなっている(Campbell, & Leaver, 2003).わが国の地域移行事業においても2010年度に「ピアサポートが積極的に活用されるよう努めるものとする」と打ち出された.先行研究でも,ピアサポーターは当事者と支援者が考える支援の差に気付く力を有し,専門職者が連携・協働していくべき仲間であることが示されている(栗原,2019).一方で,熟練看護師の地域移行支援における退院支援プロセスは明らかにされているものの(牧,2018),ピアサポーターが参与した地域移行支援におけるピアサポーターの考えに焦点をあてた研究は行われていない.

そこで本研究では,支援対象者のリカバリーのために大切にしたいことについて問うことにより,ピアサポーターが考えるリカバリーを明らかにできると考えた.ピアサポーターの語りから当事者視点のリカバリーを学ぶことは重要な研究課題であり,看護師とピアサポーターの協働に示唆を得られると考える.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,ピアサポーターが地域移行支援において支援対象者のリカバリーのために大切にしたいことを明らかにすることである.

Ⅲ  用語の定義

リカバリー:Lloyd, Waghorn, & Williams(2008)の説明を参考にし,症状の改善や機能の回復を目指す臨床的リカバリー,当事者自身が決めた希望する人生の到達を目指すプロセスを意味するパーソナルリカバリー,住居・就労・教育・社会ネットワークなどの機会の拡大を意味する社会的リカバリーの3側面からリカバリーを捉える.

ピアサポーター:相川(2013)の説明を参考にし,精神疾患や精神障害があり保健福祉サービスの受け手(利用者)であり,かつ保健福祉サービスの送り手(職員)となっている人で,ピアサポーター養成講座を受講した人とする.

大切にしたいこと:大辞泉(2012)の説明を参照し,研究協力者が最も必要で重要と捉え,丁寧に扱って大事にしたい,あるいは大事にしている考えや行為や態度とする.

Ⅳ  方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインとした.

2. 研究対象と研究協力依頼手順

研究対象者は,精神保健福祉領域のピアサポーター養成講座を受け,地域移行支援に携わった経験のあるA県内のピアサポーターとした.選定基準は,1)年齢が20歳以上の者,2)病状が安定しており地域に相談できる相手がいる者,3)学会あるいは公益法人が主催する精神保健領域のピアサポーター養成講座を受けた者,4)ピアサポーターの活動経験が1年以上ある者,5)地域移行支援に携わった経験がある者とした.除外要件として,1)直近1年間で複数回入退院を繰り返している者,2)薬物コントロールが難しい状況にある者,3)生活上大きな変化があった,あるいはその予定がある者(結婚,離婚,引っ越し,転職,病院を変えるなど),4)ピアサポーターの活動経験が1年未満の者を除いた.

研究協力依頼手順は,地域移行支援に携わった経験のあるピアサポーターが活動する施設の長に研究目的及び方法を文書と口頭で説明し,研究協力依頼ポスターを施設内に掲示する,または施設管理者より複数の利用者に手渡してもらうといった,任意協力となる方法を施設責任者と相談の上決定した.協力を申し出た研究協力者に研究目的及び方法,研究協力の任意性と撤回の自由等について文書および口頭で説明し,書面にて同意を得た.

3. データ収集方法

1人につき1回,30~70分程度の半構造化面接を実施した.研究協力者全員から希望があり,オンライン会議システムを用いた.研究協力者の了解を得て,インタビュー内容をICレコーダーに録音し,逐語録として起こしデータとした.インタビューの主な質問項目は,1)研究協力者の基本属性,2)ピアサポーターが支援対象者のリカバリーのために大切にしたい,あるいはしていること,3)大切にしたいことを大切にすることができたケースやそれが難しかったケース,4)地域移行支援で研究協力者が看護師等の専門職者に対して希望することとした.

4. 妥当性と真実性の確保

妥当性の確保としてピアサポート活動の経験のある当事者にプレインタビューを行った.インタビューの記録,データの分析の過程は繰り返し詳細な記述を行い,記録を保管した.真実性の確保として,精神看護学の専門家によるスーパーバイズを受けて実施方法や質問内容を検討し研究の全過程におけるプロセスを記述した.カテゴリー抽出後,研究協力者からメンバーチェッキングを受けた.

5. データ分析方法

分析は,1事例ごとに逐語録を作成し繰り返し精読した後,研究協力者が語る支援対象者のリカバリーのために大切にしたいことに着目し,意味のまとまりに沿って区切り逐語録に忠実なコードをつけた.全事例のコードの類似性と相違性に留意しながら,抽象度を高めてサブカテゴリーに分類,整理する作業を繰り返し,カテゴリーを生成した.カテゴリーを生成した後,再度確認のため逐語録に戻り,分析の妥当性の確認を行った.

6. 倫理的配慮

研究協力者に研究の目的及び方法,研究協力の任意性と撤回の自由,予測される負担,個人情報の保護等について文書および口頭で説明し,同意書に署名をいただいた.なお,本研究は札幌医科大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2-1-44).

Ⅴ  結果

1. 研究協力者の概要

研究協力者は男性5名と女性2名の合計7名で,A県内の異なる3施設から協力を得た.年齢は40代1名,50代1名,60代4名,70代1名であった.ピアサポーターの活動年数は平均9.1 ± 3.6年,ピアサポーター養成講座受講後経過年数は平均5.6 ± 1.2年であった.インタビュー時間は平均46 ± 13.8分であった.研究協力者の概要を表1に示す.

表1 研究協力者の概要
年齢 ピアサポーター
経験期間
養成講座受講後
経過期間
インタビュー
時間
所属
A 50代後半 6年 4年 38分 地域生活支援センター
B 60代後半 11年 6年 54分 地域生活支援センター
C 60代後半 6年 4年 36分 地域生活支援センター
D 60代前半 6年6ヶ月 7年6ヶ月 70分 地域生活支援センター
E 40代後半 8年 6年 50分 地域生活支援センター
F 70代後半 10年 6年 28分 地域生活支援センター
G 60代後半 16年 6年 46分 地域生活支援センター

2. 分析結果

ピアサポーターが地域移行支援で支援対象者のリカバリーのために大切にしたいこととして138のコードが抽出され,そこから14のサブカテゴリー,6カテゴリーが生成された(表2).以下にカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕,代表的な語りを「斜体」で示す.なお,語りを補足する際は( )で補っている.

表2 ピアサポーターが地域移行支援において支援対象者のリカバリーのために大切にしたいこと
カテゴリー サブカテゴリー コード(一部抜粋)
安心して話せる人になる 病院にも地域にも話せる人がいなかった境遇を思いやる 一人ぼっちの境遇を思いやる
寄り添って話を聞き気持ちを受け止める
信頼され安心して話ができる人になる 先々のことよりもまずは安心して話せる関係性をつくる
仲間として受け入れられ話ができるようになる
希望を実現する意思の力を作っていく 自分がリカバリーしてきた経験を活かし支援対象者のリカバリーを信じる 支援対象者のリカバリーを信じる
支援対象者の可能性を信じる
苦労を乗り越えて幸せをつかんだ自分の経験を活かす
見えにくくなった希望を共に見つけ出していく 長期入院で見えなくなった希望に光をあてる
支援対象者が希望を言えるように関わる
支援対象者の能力に着目し目指すところを見極める
地域生活での困難に立ち向かうための経験を踏まえた手段を示す 趣味などの没頭できるものを持つ大切さを伝える
母親や職業人などの社会的役割を担う大切さを伝える
地域生活での困難に対する工夫の仕方を示す
地域で手助けを受ける多くの手段があることを伝える 活用できる社会資源が多くあることを伝える
手助けの手段が整ってきたことを伝える
社会の変化まで願う 障害があっても希望を持てる社会の風潮への願い 障害があっても夢や希望を持てる社会の実現
地域社会からの理解や応援
地域で社会的に生きることを支える社会福祉制度の充実 空白の時間を取り戻すための地域での支援体制
社会性を養う拠点となる住居
大らかに構え長い目で支援を続ける 大らかに構え支援対象者に合わせて支援する 焦らずに大らかに構える
支援対象者の希望の変化に沿って支援する
長い目で支援を続ける 一生の付き合いだと思って長い目で見る
根気強く何度も訪問する
看護師と協働でリカバリーの多様性を支える リカバリーの多様性を知る リカバリーの形は1人1人違うことを知る
ただ希望をもって楽しく暮らせることがリカバリーになる
看護師と方針を一致できる 支援対象者の不調時に対する看護師の対応
看護師が社会資源について知る
支え合いを常に忘れないでいる 支え合いを感じられるよう支援する そばで見守り応援していることを伝える
つながりを常に感じられるよう関わる
自分も支援対象者から助けてもらっていることを忘れないでいる 支援対象者からも助けてもらう
支援対象者の存在が自分の成長につながる

1) 【安心して話せる人になる】

このカテゴリーは,支援対象者に対し〔病院にも地域にも話せる人がいなかった境遇を思いやる〕ことや,先々のことよりもまずは仲間として〔信頼され安心して話ができる人になる〕ことが大切であることを意味している.

「『一人じゃないよー』って言いたかったです.『一人じゃないみんないるよー』『絶対一人にはしないよー』って.そういうグループホームも選んでくれたし,一人になるのが嫌だって言うから(E氏)」

「『この人に話しても大丈夫なんだ』っていう安心をどうやって作るかっていうところが僕は核心だと思っているんで(D氏)」

2) 【希望を実現する意思の力を作っていく】

このカテゴリーは,〔自分がリカバリーしてきた経験を活かし支援対象者のリカバリーを信じる〕ことや,支援対象者が秘める能力に着目し,長期入院で〔見えにくくなった希望を共に見つけ出していく〕こと,さらに,趣味や社会的な役割を持つなど〔地域生活での困難に立ち向かうための経験を踏まえた手段を示す〕こと,社会資源の整備が進んできており〔地域で手助けを受ける多くの手段があることを伝える〕ことが大切であることを意味している.

「人生においてね,病気をするっていうのは当たり前のことであって,その病気に負けない力があれば,もっかいリカバリーっていうか退院して社会に出れると思います(C氏)」

「(自分も)長く病院にいたもんで,病院にいるときは光はあったんだけどもその光ってものが見えないんです.病院っていう世界の中にいるんですから,その世界だけに当たってる光なの.その小さな光の中にいるから見えないの.見えても『あ,できないんだ』って思うような感じになっちゃうから,それを,その光を大きなものにしてやるのがピアサポーター(C氏)」

「(支援対象者にとってのリカバリーは)やっぱ自分で言えたってこと.しゃべれなかったことがしゃべれるようになった(A氏)」

「幻聴に振り回されないようにするには,やっぱり趣味を見つけたり没頭できるものを持つとそれに振り回されなくてできるっていうのが分かった(E氏)」

「退院の条件が揃わなくてもいろんな手助けもあるし,増えてきた施設の中で合うところが出てくるかも知れないし,一人暮らしだとしても色んな援助を受けてできる場合もあるかも知れないし,前よりは彼の受けたいろんな厳しい面よりは柔らかくなっている面もあるんじゃないかなっていうのを知ってほしい(B氏)」

3) 【社会の変化まで願う】

このカテゴリーは,〔障害があっても希望を持てる社会の風潮への願い〕や,長期入院で失われた社会性を取り戻せるように〔地域で社会的に生きることを支える社会福祉制度の充実〕が大切であることを意味している.

「障害を持ちながらもやっぱり夢とか希望とか持って,前向きに捉えていけるような世の中になればいいと思ってるし,なってほしいと思ってます(F氏)」

「地域で支援体制を整え,困難もありながら何十年の間空白だった時間を地域で取り戻してもらいたい(D氏)」

4) 【大らかに構え長い目で支援を続ける】

このカテゴリーは,支援者が焦らずに〔大らかに構え支援対象者に合わせて支援する〕ことや,一生の付き合いだと思って〔長い目で支援を続ける〕ことが大切であることを意味している.

「その人の痛みにさわるのではなく.患者さんが買い物とかするのでちょっといなくなったんですよ,でもそんなの腹立ててやるんじゃなくて,『ああどっかいってんだな』『買い物かどっかいってんだな』って言ってたら,戻ってきて一緒に帰ったっていう(C氏)」

「地域移行もそうなんだけど,ピアサポート始まったらもうその時には一生の付き合いになると思って始めてるっていうのはあります.どこまでで終わるとかそういうんじゃなくて,一生の付き合いだと思って(G氏)」

5) 【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】

このカテゴリーは,1人1人異なる〔リカバリーの多様性を知る〕ことや,ピアサポーターが〔看護師と方針を一致できる〕ことが大切であることを意味している.

「長くやっててピアサポーターたちのお手本にならなきゃいけないような気持ちもあったんですけども,やっぱりそうじゃなくて(リカバリーは)1人1人みんな違うんだなってことが,だんだん分かってきました(B氏)」

「地域移行支援を受けてる患者さんに対しての病気の症状の対処法みたいなのを(看護師が)つかんでくれていたらありがたいなと.こういう病気の症状出た時にはこういうやり方をすると,もしかしたら楽になるとか(G氏)」

6) 【支え合いを常に忘れないでいる】

このカテゴリーは,支援対象者がピアサポーターや地域で出会う人たちとの〔支え合いを感じられるよう支援する〕ことや,支援対象者の存在から〔自分も支援対象者から助けてもらっていることを忘れないでいる〕ことが大切であることを意味している.

「その方のためにブレスレット作って,『これ見たらきっとみんなのこと思い出したり,幻聴に負けないかも知れないよ』って言ったりとか(B氏)」

「私も,反対に病気で途中でいなくなったりして,(支援対象者が)『だいじょうぶかー』って探しにきてくれて,なんか助け助けられしていました(E氏)」

Ⅵ  考察

6カテゴリーのうち,【安心して話せる人になる】【希望を実現する意思の力を作っていく】【社会の変化まで願う】の3カテゴリーは,リカバリー支援のプロセスを示しており,安心して話せる関係性がこのプロセスを支えるものと考えられた.さらに,【大らかに構え長い目で支援を続ける】【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】【支え合いを常に忘れないでいる】の3カテゴリーは,安心して話せる関係性を支える大らかな姿勢をもつことを示すものと考えられた.

1. 地域移行支援でピアサポーターが支援対象者のリカバリーのために大切にしたいこと

1) リカバリー支援のプロセスを支える安心して話せる関係性

ピアサポーターが捉えるリカバリー支援のプロセスには,【安心して話せる人になる】【希望を実現する意思の力を作っていく】【社会の変化まで願う】の3つの段階があり,ピアサポーターはリカバリーを応援する社会のあり方までを視野に入れ支援に取り組んでいるものと考えられた.

まずピアサポーターは,【安心して話せる人になる】の段階で,〔病院にも地域にも頼れる人がいなかった境遇を思いやる〕ことと,〔信頼され安心して話ができる人になる〕ことを大切にしていた.山川(2020)は,コミュニケーションをとる時間が少ないことや会話を始める接点がつかめないことを理由に,ピアサポーターと支援対象者との関係性構築における困難性があると述べており,支援対象者と同じ経験を持つピアサポーターであっても新たに関係をつくることは簡単ではないことがうかがえる.本研究でも,ピアサポーターは支援対象者が自らの希望を語ることが難しい状況を理解しており,さらに退院支援という役割を担って初めて支援対象者と出会う状況であることから,困難を伴ってもまずは安心して話せる関係性の構築が何よりも大切と捉えていたものと考える.退院支援における患者と看護師の信頼関係の重要性は先行研究(牧,2018)でも明らかにされており,信頼関係を重視する点においては,ピアサポーターも看護師と同様の視点で退院支援に臨んでいたと考えられる.

さらに,【希望を実現する意思の力を作っていく】の段階では,ピアサポーターはまず〔自身がリカバリーしてきた経験を活かし支援対象者のリカバリーを信じる〕ことを大切していた.先行研究では,最も身近な支援者である看護師がリカバリーを信じられるよう,症状に囚われず社会復帰が可能であるという経験を積むことの必要性や,(藤野ら,2019),リカバリー経験者と接することで専門職者のリカバリー指向性が高まることが報告されている(Happell, 2019).本研究でも,自らのリカバリーの経験を活かし,支援対象者のリカバリーを信じていこうとするピアサポーターの姿勢がうかがえた.次にピアサポーターは,〔見えにくくなった希望を共に見つけ出していく〕ことが大切だと捉えていた.香川ら(2013)は,熟練看護師は心の奥底にある退院への希望を引き出すことで退院の意思を育んでいたと述べている.本研究でも,ピアサポーターは長期入院で見えにくくなった支援対象者の希望の光を大きなものにし,自らの希望を言えるように関わることを大切にしていた.その上でピアサポーターは,〔地域生活での困難に立ち向かうための経験を踏まえた手段を示す〕ことを大切にしたいと考えていた.個人のリカバリーを理解するにあたり,就労していることや仲間がいることを意味する社会的リカバリーの視点が重要となるが(Lloyd, Waghorn, & Williams, 2008),ピアサポーターも,母親や職業人としての社会的役割を担うことが地域生活での困難に立ち向かうために重要であると述べており,先行研究と同様に社会的リカバリーを含めた視点でリカバリーを捉えているものと考えられる.地域生活での困難に関する話題は言いにくさや苦しさを伴うこともあるが,この困難に立ち向かうために,ピアサポーターは,〔地域で手助けを受ける多くの手段があることを伝える〕ことを大切にしており,困難さと共に解決手段を伝えることでリカバリーを支えていたと考えられる.

そして,【社会の変化まで願う】のカテゴリーでは,ピアサポーターは〔障害があっても希望を持てる社会の風潮への願い〕と〔地域で社会的に生きることを支える社会福祉制度の充実〕が大切だと考えていた.社会の変化を願うという視点は,香川ら(2013)が示す熟練看護師の退院支援プロセスには含まれておらず,この点は地域に軸足を置くピアサポーターと精神科病院の病棟看護師との相違点と考えられ,本研究で明らかになった新たな視点である.野中(2011)はリカバリーの定義において,個人のみではなく社会のリカバリーについて述べているが,ピアサポーターも社会のあり方までを視野に入れており,個人のみではなく社会の変化を願うというリカバリーの捉えがうかがわれ‍た.

以上よりピアサポーターは,まずは安心して話せる人になり,そして支援対象者が希望を言えるように関わり,地域生活での困難や解決手段を話し合い,さらにはリカバリーを応援する社会への変化を願いながら支援に臨んでいた.希望を聴き,地域生活での困難や社会の変化への願いを共有するためには,支援対象者が自らの考えを意識化しさらに言語化できることが不可欠であり,ここでも安心して話せる関係性が支えになるものと考えられる.出会いの段階でピアサポーターが大切にしている安心して話せる関係性は,リカバリー支援のプロセス全体を支えていくものと捉えられた.

このようにピアサポーターは,安心して話せる関係性を大切にしながら,病状の回復や自分の人生や自分らしさを取り戻す過程という意味の個人のリカバリーに加えて,リカバリーを応援する社会への変化を願いながら地域移行支援に携わっていたが,それを支えるのが大らかな姿勢をもつことであった.

2) 安心して話せる関係性を支える大らかな姿勢をもつこと

まず,【大らかに構え長い目で支援を続ける】のカテゴリーでは,〔大らかに構え支援対象者に合わせて支援する〕ことと,〔長い目で支援を続ける〕ことが大切にしたいこととして語られた.Anthony(1993/1998)が「リカバリーは直線的な過程ではない」と述べるように,ピアサポーターは,自分の病状が安定しない時期がありながらも長い目で支えられリカバリーしてきた経験から,リカバリーを信じて大らかに構え,長い目で支援を続けることの大切さを実感しているものと推測できる.大らかな姿勢の重要性は看護師についても先行研究(葛谷,2021)で指摘されていることであるが,信じることと同様に困難なことである.吉村(2013)は,統合失調症の長期入院患者が病状の緩解と増悪を何度も繰り返す様子を見てきたことから看護師が退院促進に消極的になってしまう状況について述べており,リカバリーを信じて大らかに構え,長い目で支援を続けることの困難性がうかがえる.これに対しピアサポーターは,【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】ことと,【支え合いを常に忘れないでいる】ことにより,大らかな姿勢での支援を続けていたと考えられる.

【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】のカテゴリーでは,ピアサポーターはリカバリーの形が一人ひとり違うことに気付き,〔リカバリーの多様性を知る〕ことが大切だと捉えていた.Deegan(1993)が,「人それぞれのリカバリーの旅は唯一のものである」と述べている.「リカバリーは一人ひとりみんな違うんだなってことが,だんだん分かってきました」という語りにあるように,ピアサポーターも地域で出会う当事者それぞれに異なるリカバリーに触れリカバリーを捉え直す度に,信じる気持ちを強めているのだと考える.また,ピアサポーターは,〔看護師と方針を一致できる〕ことが大切だと捉えており,「地域移行支援を受けてる患者さんに対しての病気の症状の対処法みたいなのを(看護師が)つかんでくれていたらありがたいな」と,支援対象者の不調時の対応については看護師への期待がうかがえた.

さらに,【支え合いを常に忘れないでいる】のカテゴリーでは,ピアサポーターは〔支え合いを感じられるよう支援する〕ことが大切だと捉えていた.地域での人間関係に支えられたピアサポーター自身の経験から,支援対象者がピアサポーターや地域で出会う人たちとの支え合いを実感しながら生活していけることが重要だと捉えているものと考えられる.さらにピアサポーターは,〔自分も支援対象者から助けてもらっていることを忘れないでいる〕ことが大切だと捉えていた.大川(2015)は,リカバリーする当事者をみて支援者もリカバリーするという関係性が存在すると述べている.ピアサポーターも,支援対象者からも助けてもらうことや,支援を通じて自分も成長するといった支え合いが大切だと捉えており,この点は支援者と当事者の関係性に関わる先行研究と一致すると考えられる.

以上より,ピアサポーターは支援者が大らかな姿勢で支援を続けることが支援対象者のリカバリーのために大切だと捉えており,この姿勢をもつことが,安心して話せる関係性の発展と維持を支えていくものと考えられた.大らかな姿勢をもつためには,支援対象者それぞれの多様なリカバリーの姿に触れリカバリーを捉え直すことや,看護師との支援の方向性が一致すること,支援対象者との支え合いの実感が重要だと考えられた.

2. 看護への示唆

ピアサポーターに関する先行研究では,精神障害を抱える人のリカバリーを後押しする支援を構築することや,看護師がピアサポーターの経験からリカバリーを学ぶことの意義が示されている(濱田,2015栗原・西垣・間,2020).本研究では看護師とピアサポーターの協働について以下の示唆が得られた.

看護師はまず,ピアサポーターが支援対象者と出会う段階で,支援対象者の状況についての情報提供をすると共に不安に感じている点を確認することや,支援に対する支援対象者のポジティブな反応をフィードバックすることにより,支援対象者との関係性を構築できるようサポートする必要がある.一方で,看護師は支援対象者の不調時の具体的な支援をピアサポーターから期待されていた.不調により退院やリカバリーへの希望を失うのではなく,ピアサポーターとの協働のチャンスと捉え,共に対処を考え不調を支える役割が期待される.

また,ピアサポーターは,リカバリーを応援する社会への変化を願っていた.看護師も同様に,個人だけでなく地域のリカバリーに目を向け,安心して希望を話せる関係性を大切にしながら,リカバリーを応援する社会を支援対象者と共に検討していく必要がある.さらに,ピアサポーターは,リカバリーを支える大らかな姿勢をもつことを大切にしていた.大らかな姿勢を大切にするピアサポーターから学ぶこととして,看護師が一人ひとり異なるリカバリーの姿に触れリカバリーを捉え直すことや,支援対象者との支え合いの実感が,ピアサポーターとの協働の質を高めると考えられた.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究は,質的研究であり対象人数が少ないため,一般化に限界がある.また,一つの圏域内の研究対象者であるため,今後複数の圏域の調査を行う必要がある.さらに,本研究では支援対象者のリカバリーのためにピアサポーターが大切にしたいことを聞いたが,そのことが支援対象者にとってどういう体験であったのかは検証できていない.今後は,支援対象者のリカバリーのプロセスとピアサポーターの役割の関連について明らかにしていく必要がある.

Ⅶ  結論

ピアサポーターは地域移行支援において,個人と社会のリカバリーを安心して共に語っていける関係性を大切にしており,リカバリーを支える大らかな姿勢をもつことが,安心して話せる関係性を支えるものと考えられた.看護師は,リカバリーを応援する社会のあり方に関心を持ち,ピアサポーターからリカバリーの多様性やリカバリーを支える姿勢を学んでいく必要がある.同時に,ピアサポーターと支援対象者の関係性構築や,両者との支え合いという協働の役割が期待される.

謝辞

本研究の主旨をご理解いただきご協力いただきました施設責任者とピアサポーターの皆様に心より感謝を申し上げます.

付記

本論文の内容の一部は,第32回日本精神保健看護学会学術集会にて報告した.また,本研究は札幌医科大学大学院保健医療学研究科に提出した修士論文に加筆,修正を加えたものである.

著者資格

KOは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行った.ISは研究プロセス全体への助言を行った.両著者が最終原稿を読み承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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