抄録
医学分野の一つの目標は,適切に疾病の有無を予測するための臨床検査法を探索し,最適なカットオフ値を見出すことである.このとき,有用な統計的方法の一つがROC(Receiver Operating Characteristic)曲線である.近年,ROC曲線に基づく多くの統計的推測の方法が提案されている(例えば,Pepe (1998), Wieandet al. (1989), Zou and Hall (2000), Zweig and Campbell (1993)).他方,上記の目標に対するROC曲線の視覚表現が不十分な場面も少なくない.本論文では,ROC曲線を補完するための3種類のグラフィクスとして,スキル・プロット(Briggs and Zaretzki, 2008),尤度比グラフ(Biggerstaff, 2000),そして予測性曲線(Huang et al., 2007)をとりあげた.そして,非疾患群および疾患群がベキ正規分布(Goto et al., 1974)に従うと仮定したもとで,それらの方法を拡張した.
これらのグラフィクスの性能は二つの文献事例により評価した.その結果,スキル・プロットは,任意のコストに基づく最適カットオフ値を容易に視察できた.また,尤度比グラフは,特定のカットオフ値のもとで複数の臨床検査値を陽性予測値,陰性予測値の視点から比較できた.さらに,予測性曲線は,任意の臨床検査値による疾患のリスク確率への影響をグラフィカルに視察するのに有用だった.