教授学習心理学研究
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「うさぎのさいばん」における児童の解釈の変容過程
 主題「恩」を塗り替えるもうひとつの全体解釈
梶原 郁郎
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2020 年 16 巻 1 号 p. 32-49

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抄録
本稿は児童の解釈の変容過程に着目して,「うさぎのさいばん」(作:キム=セシル)の授業の成果と課題を報告している。これは,恩という教訓的な主題に代わる,うさぎの知性という全体解釈に基づく実践である。 本作品の先行実践(香月,2011;高橋,2012;小林,2012)では,うさぎの裁判の目的はとらを懲らしめることとされて,恩知らずは懲らしめられるという解釈が作品全体の解釈となっている。これに対して筆者は,その目的は若者がとらを助けた事実の証明にあるという点を本作品に読み取り,うさぎの知性という作品全体の解釈に到達した。これに依拠した授業研究を本稿は次の手順で報告している。第一に事前質問によって,初読では全体解釈Ⅰ(恩)に偏る結果を提示して,第二に授業記録に即して,児童の全体解釈Ⅰが全体解釈Ⅱ(知性)に変容する過程を報告して,第三に事後質問によって,事前の全体解釈Ⅰはどの程度変容したのかが把握されている。小学4年生29名中26名(90%)が全体解釈Ⅰを初読の読みとしたが,本授業を通して事後には,事前の段階で全体解釈Ⅱを選択していた3名中2名を含めて,22名が(76%)が全体解釈Ⅱに基づく読みとなった。
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© 2020 日本教授学習心理学会
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