抄録
祭りや年中行事といった伝統の継承が困難になってきている。しかし,伝統の消失をやむを得ぬものとみなすべきではない。住民たちが活発に伝統の継承を図っている地域社会もあるからである。本稿では,地域社会における伝統の継承について検討するために,埼玉県の秩父で開催される龍勢祭りについてフィールド調査を実施した。龍勢祭りは,龍勢と呼ばれる手作りロケットを打ち上げることで知られている。本稿では,龍勢祭りの当事者に実施した参与観察とインタビューの結果から,住民の経歴や生活の多様化により伝統の継承が困難になってきていること,その一方で,龍勢の製造作業にみられる相互依存関係の特徴が,伝統への参加を促進していることを明らかにした。さらに,独自の製造技術と伝統の継承との関連を歴史の制約という観点から考察した。