抄録
本稿は,「精神障害」経験者が「精神障害」をめぐっての自分と周囲の人々の関わりの中で自己イメージをどのように形成しているかを分析したものである。一般的に「精神障害」とは精神医学的な概念理解を前提とするが,本稿では,「精神障害」を患うことに関する本人の経験を「病い(illness)」の視点で捉え,ナラティヴ・アプローチの観点から分析を行なった。その結果,本人の自己イメージに関係する概念が最終的に 9 個抽出され,それらの概念が本人の中に生成される背景として,質的に異なる 2 つのタイプの周囲の人との関係性が見出された。本人は文脈に依存して立ち現れるこの 2 つの人との関係性の中で,既存の障害観・回復観における社会の「ふつう」と私の「ふつう」を意識しながら自己イメージを形成している。そして,その重層的な自己イメージの中で葛藤を生じたり,葛藤を解消したりしながら,より生きやすい方向へと自己イメージを意味づけているということが示唆された。