質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
ワークシートの配布方法の相違が小グループでの問題解決過程に及ぼす影響
一柳 智紀
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2016 年 15 巻 1 号 p. 193-216

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抄録
本研究の目的は,思考の外化を促す道具としてのワークシートの配布方法の相違が,小グループでの問題解決過程に及ぼす影響を明らかにすることである。大学生4人からなるグループを対象に実験を実施し,一方をグループで1つワークシートを配布する単一配布群,もう一方を学習者各自にワークシートを配布する各自配布群とし,両者の問題解決過程を質的に検討した。結果,単一配布群ではワークシート上の外的表象について全員で共同注視や指差しを行うことで,内容を確認,共有しながら理解を形成していた。ここから単一配布群においては,ワークシートが話し合いを通したグループとしての理解形成を媒介していることが示された。ただし,全員がワークシートに自身の考えを外化するわけではなく,外化にかかわる役割分担が生じていた。一方,各自配布群では全員が各自のワークシートに自身の考えを外化していた。また,他者のワークシートを指差したり自身のワークシートをグループの中央に寄せたりすることで,他者から援助を受けたり理解を共有したりしていた。さらには,他者のワークシートから考えを持ち帰り,自分のワークシートにその理解を書き加えることで,課題に対する自身の理解を精緻にしていた。ここから各自配布群においては,ワークシートが各学習者の理解形成を媒介していることが示された。
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© 2016 日本質的心理学会
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