本研究では,人々の相互行為を分析するために収録された会話映像の微細な分析を行った。これらの分析の結果,“収録されること”は参与者たちの振る舞いを制約するだけではなく,利用可能な資源の一つとして,相互行為を展開するために使われていることが示唆された。具体的には,いくつかの断片において,参与者がカメラなどの周囲の環境に注意を向ける様子が観察された。この観察から,人々がカメラに注意を向けることで,今現在参与している活動が“収録される”ものであることを参与者間で明確にし,それまでの活動との境界を構築している可能性が示された。その他の断片では,参与者は与えられた課題の中から複数の問題を顕在化させ,同時に解決する組織をその場で協同してつくり上げる様子が観察された。以上の分析結果は,参与者たちが単に与えられた課題によって振る舞いが制約されるのではなく,参与者間でその課題を利用可能な資源として変換している可能性を示唆するものである。