質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
職業アイデンティティ・ショックと対処方略
来日インドネシア人看護師候補者の自己をめぐる意味の再編過程
浅井 亜紀子
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2018 年 17 巻 1 号 p. 185-204

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抄録

本研究は,二国間経済連携協定で来日したインドネシア人看護師候補者が,日本の職場で感じた否定的情動とそれ への対処を,自己をめぐる意味の再編に着目して検討した。計9名の候補者に半構造化面接を行い,インドネシア の病院,看護学校で調査も行った。候補者は母国では「正看護師」であったが,日本では「看護助手」を表す制服 や名札をつけ助手の職務に制限されることにショックを受けていた。その否定的情動は「看護師職への思い入 れ」が強い候補者の場合に増幅した。日本滞在を継続するためには否定的情動に対処する必要があった。対処方 略の一つは「看護助手としての私」を甘受することであった。自身の日本語の限界を認識し,看護師として機能 不全となるのを回避するため「自己評価基準の変更」をした。また収入や旅行など仕事領域以外でのメリットに 目を向ける「評価領域の変更」をして否定的情動を緩和した。さらに,来日当初の正看護師を目指す「目標」を 再設定することで「看護助手」より「国家試験受験生としての私」というポジションを意識の前面に出し合格に 向けて努力した。本研究は,文化接触に伴う職業アイデンティティ・ショックが,看護師をめぐる制度の違いに由 来すること,また前面に出てくる私の意味(Iポジション)を変化させることでショックに対処していることを描 き出した。それは自己評価や目標の変化を伴う心理過程としても説明できた。

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© 2018 日本質的心理学会
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