抄録
本論の目的は,ウガンダ共和国に暮らす南スーダン共和国からの紛争難民の実践を事例として,難民間の相互扶
助組織の動態を明らかにするとともに,これらの組織が,いかにして難民となった人々が直面する問題に対処し,
国家や民族といった既存の境界や領域性と向き合っているのかを検討することにある。本論では,ナイル系農牧民ヌエル(Nuer)によって構成される相互扶助組織をはじめとする難民らによって主体的に構成される組織に着目する。主として取り上げられるヌエルの相互扶助組織では,難民定住区で生じるさまざまな位相の問題に対処するために,伝統的リーダーシップや近代的行政システムを組織に組み込みながら,戦略的に集団内の共同性を操作・維持し,対立の中の融合を目指していることが明らかとなった。ただし,問題解決型の組織であるヌエルの相互扶助は複数の境界や領域性にうまく対処する一方で,「民族」という境界を強化し,他者を排斥する傾向を備えている。この問題点を乗り越える可能性として,本論の最後では,さまざまな境界を曖昧化しながら「問題」をパフォーマンスするという新たな共同性やコミュニティ構築の方法を提示する演劇サークルの取り組みを紹介する。以上を通して,本論では,「難民」という状態が,いかに人々が他者や境界と生きる場を形成していくのかを描きだす。