本研究の目的は,経営危機に直面した企業におけるエスノグラフィーをもとに,後ろ向きの越境の実際を検討す
ることにより,これまでの研究では論じられなかった種類の越境について議論することである。創立100 年を超
える老舗の企業組織が,急成長を遂げた外資企業に買収されて傘下に入った。現在も再建中である当該企業は,
業績回復を目指し,かつて危機を救ってきた伝統的な販売強化活動を再開する。そこに業績の芳しくない事業部
から,部署や役割を越えて参加した人たちが一時的に組織化された越境チーム(BATOM)に集められた。彼ら
は未経験の活動に戸惑いながらも集中的に販売活動に参加する。彼らの実践からは,厳しい目標達成のための悲
壮感や不安だけではなく,意味を明確に問わないまま続ける儀式や暗黙の前提で進める実践がみられた。また,
彼らの周辺で活動の支援を担う推進チームや,筆者を含むその他の支援者たちとの間には, 多様な境界が生成さ
れており,そこかしこで越境的実践が創り出されていることが明らかになった。
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