抄録
本論文では,盲ろう者が指点字通訳を介して相互行為に参加する場面において,いかにして指点字通訳者が盲ろ
う者に対話相手の発するマルチモーダルな情報を伝えているかを報告する。指点字とは,盲ろう者が他者と対話
するために用いられるコミュニケーション方法の一つである。指点字通訳者は,視聴覚的な資源にアクセスでき
ない盲ろう者に対して,対話相手の発話内容だけでなく,対話相手やコミュニケーション状況に関するさまざま
な情報を伝えている。本論文では,対話相手の相槌,頷き,笑い,指さしといったマルチモーダルなふるまいか
ら発せられる情報が,いつどのように指点字通訳者によって盲ろう者に伝えられるのかを,盲ろう者の福島智氏
が参加した相互行為の微視的な観察によって報告する。指点字通訳者は,対話相手の発するマルチモーダルなふ
るまいを盲ろう者の手に集約して伝えることで,盲ろう者が対話相手の発話や反応を理解することに貢献してい
ることが示唆される。