質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
病い経験の可視化・共有化の社会的実験
地域住民参加型「生き活きカフェ」プログラムの開発実践
坂井 志織細野 知子小林 道太郎榊原 哲也福井 里美杉林 稔菊池 麻由美鷹田 佳典
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2021 年 20 巻 Special 号 p. S180-S187

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抄録

本研究の目的は,地域の中で病い経験を語り合う場をつくる社会実験的試みである『生き活きカフェ』プログラムの開発実践について報告し,病い経験の可視化・共有化の可能性とその効果について検討することである。『生き活きカフェ』プログラムは二部構成とした。第一部ではゲストスピーカーによる『私の病い経験』の語りを参加者全員で聞くこと,第二部は参加者が4 ~ 5 名のグループに分かれワールドカフェ形式で病い経験について語り合いながら,病い経験にまつわるフレーズを記載することをメインプログラムとした。これまでに計5 回実施し,各回20 名弱の参加者があった。アンケート自由記載には,意味のある話が聞けた,よい話し合いができた,楽しかったなどの感想が多く含まれていた。聞き語ることを通して病い経験の意味を自身で見出し,参加者を自ずとエンパワーしていたことがわかった。『生き活きカフェ』は他者の多様でリアルな病い経験に触れる場となっており,参加者らにとって意味があると感じられるような仕方で,病い経験の共有が起こる可能性があるイベントとなっていた。また,第二部で得た病い経験のフレーズは,類型化し31 個を厳選し日めくりカレンダーを作成した。地域住民に500 冊以上配布した結果,カレンダーを媒体とした共感が生まれ,見知らぬ人であっても病む者同士という想像上の共同体が形成されることがわかった。

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© 2021 日本質的心理学会
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