抄録
本研究では,発達障害児の療育支援の現場にエスノグラフィーを導入し,環境の一部となって現場を観察することによって,療育における身体的リテラシー育成のためのニーズの探索と分析を試みた。最低限必要な基本的な運動技能を身につけることによって,生涯にわたって運動を享受することを目指す身体的リテラシーの育成には, 学習課題のやりがいと楽しさが鍵となる。そこで,療育支援の現場の外部者が他者として現場に参入し,そこで 運動遊びを楽しむ子どもの自然な発露として現れた豊かな表情とその状況のうち特に印象に残った 3 場面を一人称の印象派モードのナラティブによって断片的に描写し,その記述内容を省察した。次に,療育支援の現場の内部者 2 名による記述の信用性と省察の確証性のクロスチェックが行われた。続いてエスノグラフィーとクロスチェックのデータをリアリストアプローチに基づいて分析し,療育現場などの状況と療育の機序という文脈の中で,なぜ楽しさを醸成できたかを説明するモデルを提示した。本研究の具体的な記述と洞察は,療育や運動活動の現場で学習者のニーズに応じて身体的リテラシーを達成する際の一助になると考えられる。