抄録
障害のある子どもが楽器を演奏する場合,楽譜にとらわれることのない即興による音楽表現は,その子どもの個
性や障害特性に合った演奏スタイルを活かすことができ,主体的な活動を促すのに適していると考えられる。本
研究はある演奏家の実践と語りから,彼女が特別支援学校・特別支援学級において,障害のある子どもの集団を
対象にした即興による音楽表現活動をどのように展開しているのかを分析した。その結果,彼女の即興による音
楽表現の指導は,打楽器奏者としての音への繊細な感覚が色濃く反映されたものであり,音楽や音を聴くことの
学びを促す活動がその軸となって展開していることを見出した。子どもたちが打楽器の音色やその音の響きに気
づき傾聴し,子ども同士がお互いの音による表現を聴き合いながら即興で自由に音のやり取りをする活動の過程
に,音や音楽を聴くことの学びの意義と,音や音楽によるコミュニケーションとしての意義を見出すことができた。